特許第6020631号(P6020631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020631
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】蛍光光源装置
(51)【国際特許分類】
   F21K 9/64 20160101AFI20161020BHJP
   F21V 9/16 20060101ALI20161020BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20161020BHJP
   F21V 29/502 20150101ALI20161020BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20161020BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20161020BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20161020BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20161020BHJP
【FI】
   F21K9/64
   F21V9/16 100
   F21S2/00 340
   F21S2/00 375
   F21V29/502 100
   !B23K35/26 310A
   !C22C13/00
   !C22C9/00
   F21Y115:10
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-57054(P2015-57054)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-177979(P2016-177979A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年6月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078754
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】北村 政治
(72)【発明者】
【氏名】井上 正樹
【審査官】 田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−50124(JP,A)
【文献】 特開2013−84960(JP,A)
【文献】 特開2014−60164(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/065051(WO,A1)
【文献】 KATSIS D.C. et al.,Void-Induced Thermal Impedance in Power Semiconductor Modules: Some Transient Temperature Effects,IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRY APPLICATIONS,2003年,Vol.39, No.5,P.1239-1246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21K 9/64
F21S 2/00
F21V 9/16
F21V 29/502
B23K 35/26
C22C 9/00
C22C 13/00
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を受けて蛍光を放射する蛍光板と、当該蛍光板に発生する熱を排熱する放熱基板とを備え、当該蛍光板と当該放熱基板とが半田層を介して接合されてなる蛍光光源装置において、
前記半田層におけるボイド率が75%以下であり、ボイド最長径が0.4mm以下であることを特徴とする蛍光光源装置。
【請求項2】
前記半田層におけるボイド率が50%以下であり、ボイド最長径が0.2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光で蛍光体を励起することにより発生させた蛍光を利用する蛍光光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、蛍光体をレーザ光で励起し当該蛍光体から発せられる蛍光を放射する蛍光光源装置が知られている。例えば特許文献1には、蛍光光源装置において、蛍光体を構成する蛍光板と放熱基板とが接合材により接合された構造とされることが記載されている。また、接合材としては、例えば有機接着剤、無機接着剤、低融点ガラス、金属ロウなどを用いることができ、これらのうちでも、高い反射率と高い伝熱特性とが得られることから、金属ロウを用いることが望ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−129354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して、蛍光板を放熱基板に対して例えば金属ロウによってロウ付けすることにより接合する場合には、高い温度で処理することが必要とされるため、蛍光板の発光効率が低下する場合がある、といった問題があった。また、接合時に放熱基板と蛍光板との間で熱膨張差が生じ、蛍光板と放熱基板との間の接合部で剥離が発生する、といった不具合もあった。
【0005】
一方、半田材として比較的低温で接合できる金属半田を用いた半田付けでは、例えば接合時に用いられるフラックスが気化すること、あるいは半田材の濡れ性が原因となって、半田層においてボイドが発生する場合がある。また、例えばリボン状(帯状、シート状)の半田材を用いた場合には、半田材の隙間等に入り込んだ空気を完全に追い出すことができないため、ボイドが発生する場合がある。形成される半田層が、例えばボイド最長径が大きいものである場合には、図3に示すように、蛍光板40におけるボイド55の直上に位置される領域から発生した熱GHは、ボイド55によって擬似的に断熱されて垂直方向への熱抵抗が大きくなる。このため、蛍光板40で生じた熱GHの排熱経路は、例えばボイド55の側方を経由して放熱基板45へ伝わるよう形成されることとなり、蛍光板40で発生した熱GHを放熱基板45側に効率よく伝熱することができない。このため、蛍光板40におけるボイド55の直上に位置される領域の温度が局所的に上昇することによって温度消光が生じ、発光効率が低下する、といった問題があった。また、半田層50におけるボイド55の存在によって、金属半田による半田層50の蛍光反射率が低下するため、蛍光板40から発せられる蛍光強度が低下する、といった問題があった。さらにまた、蛍光板40の温度が上昇することによって半田層50を構成する半田材が融解し、蛍光板40と放熱基板45との密着性が低下するという問題がある。
このような問題は、半田層50におけるボイド率が75%より大きく、また、ボイド最長径Lが0.4mmより大きい場合に顕著に生じるようになることが判明した。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、蛍光板に高い発光効率が得られると共に十分に高い蛍光強度が得られる蛍光光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光光源装置は、励起光を受けて蛍光を放射する蛍光板と、当該蛍光板に発生する熱を排熱する放熱基板とが半田層を介して接合されてなる蛍光発光部材を備えており、
前記半田層におけるボイド率が75%以下であり、ボイド最長径が0.4mm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の蛍光光源装置においては、前記半田層におけるボイド率が50%以下であり、ボイド最長径が0.2mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光光源装置によれば、半田層におけるボイド率およびボイド最長径が一定の大きさ以下であることにより、蛍光板と放熱基板との間に良好な接合状態が得られる。このため、蛍光板と放熱基板とが剥離することを回避することができると共に、蛍光板に生じた熱の排熱がボイドによって阻害される程度を小さく抑制することができる。従って、蛍光板に生じた熱を効率よく排熱することができるため、蛍光板の局所的な温度上昇を抑制することができ、蛍光板に高い発光効率が得られると共に高い蛍光強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の蛍光光源装置における蛍光発光部材の一構成例を概略的に示す説明図である。
図2】ボイド最長径と蛍光板の最高温度との関係を示すグラフである。
図3】従来の蛍光光源装置における蛍光発光部材の一構成例を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の蛍光光源装置における蛍光発光部材の一構成例を概略的に示す説明図である。
この蛍光光源装置は、励起光を受けて蛍光を放射する矩形平板状の蛍光板11と、蛍光板11に発生する熱を排熱する矩形平板状の放熱基板20とにより構成された蛍光発光部材10を備えている。この蛍光発光部材10においては、表面が励起光受光面12とされた蛍光板11の裏面が、放熱基板20の表面に対して半田層30を介して接合されている。この蛍光発光部材10においては、蛍光板11の表面から蛍光が放射される。
【0012】
励起光源としては、例えば、発振波長が455nmである青色領域のレーザ光を放射する半導体レーザ素子(LD素子)を備えたレーザ光源を用いることができる。
励起光の蛍光板11に対する照射条件としては、例えば、励起光密度が15〜200W/mm2 となる条件である。
【0013】
蛍光板11としては、例えば熱伝導率が6〜35W/(m・K)であるものを用いることが好ましい。具体的には、例えば、希土類化合物がドープ(賦活)されたYAG蛍光体よりなるものを用いることができる。希土類化合物としては、例えばセリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)およびサマリウム(Sm)などを挙げることができる。また、蛍光体に金属化合物が含まれる蛍光板であってもよい。
蛍光板11の厚みは、例えば0.05〜1mmである。
【0014】
蛍光板11の裏面には、光取り出し効率の観点から、反射率の高い金属よりなる光反射膜13が形成されていることが好ましい。
光反射膜13としては、具体的には、アルミニウム(Al)膜および銀(Ag)膜等の金属膜や前記金属膜上に誘電体多層膜を形成した増反射膜などがあげられる。
【0015】
また、蛍光板11の裏面、具体的には光反射膜13の裏面には、半田層30との接合性の観点から、例えば蒸着によって形成された、ニッケル/白金/金(Ni/Pt/Au)膜、ニッケル/金(Ni/Au)膜よりなる金属膜(図示せず)が形成されていることが好ましい。
金属膜の厚みは、例えばNi/Pt/Au=30nm/500nm/500nmである。
【0016】
放熱基板20を構成する材料としては、例えば熱伝導率が90W/(m・K)以上、具体的には例えば230〜400W/(m・K)であるものが用いられることが好ましい。このような材料としては、例えば銅、銅化合物(MoCu、CuWなど)、アルミニウムなどを用いることができる。
放熱基板20の厚みは、例えば0.5〜5mmである。
また、排熱性などの観点から、放熱基板20の表面における面積は、蛍光板11の裏面の面積よりも大きいことが好ましい。
【0017】
また、放熱基板20の表面には、半田層30との接合性の観点から、例えばめっき法によって形成された、ニッケル/金(Ni/Au)膜よりなる金属膜21が形成されていることが好ましい。この金属膜21の厚みは、例えばNi/Au=5000〜1000nm/1000〜30nmである。
【0018】
半田層30を構成する半田材料としては、例えば熱伝導率が40W/(m・K)以上、例えば40〜70W/(m・K)であるものが用いられることが好ましい。このようなハンダ材料としては、例えば、Sn、Pbなどの材料にフラックスやその他の不純物を混ぜてクリーム状(ペースト状)の形態としたクリーム半田や、例えばSn−Ag−Cu系半田、Au−Sn系半田などを用いることができる。
半田層30の厚みは、例えば20〜200μmである。
【0019】
而して、上記の蛍光光源装置においては、半田層30におけるボイド率が75%以下であり、ボイド最長径Lが0.4mm以下とされている。
ここに、「ボイド率」とは、平面視におけるボイドの投影像の面積(多数のボイドがある場合には総面積)の、半田層30の総面積に対する比率(半田層30におけるボイド35の占める面積割合である。また、「ボイド最長径」とは、平面視におけるボイド35の投影像を2本の平行線で挟んだときの当該平行線の間隔が最大となる大きさである。
半田層30におけるボイド率およびボイド最長径Lは、例えばX線透過装置により測定することができる。
また、半田層30におけるボイド率が50%以下とされ、ボイド最長径Lが0.2mm以下とされていることが好ましい。
このような半田層30であることにより、蛍光板11におけるボイド35の直上に位置される領域で発生した熱GHの排熱経路においては、ボイド35側方への伝搬距離を短くすることができるため、蛍光板11の温度上昇を確実に抑制することができる。
【0020】
半田層30におけるボイド率が75%より大きい場合には、蛍光板11で生じた熱GHを効率よく排熱することができず、蛍光板11におけるボイド35の直上に位置される領域の温度上昇を抑制することができない。
また、半田層30におけるボイド最長径Lが0.4mmより大きい場合においても同様に、蛍光板11で生じた熱GHを効率よく排熱することができず、蛍光板11におけるボイド35の直上に位置される領域の温度上昇を抑制することができない。
【0021】
放熱基板20と蛍光板11とは、次のようにして接合することができる。
例えば半田材としてクリーム半田(フラックスを含有)を用いる場合には、放熱基板20の表面上に半田材を介して蛍光板11を配置し、例えば大気雰囲気または窒素ガス雰囲気とされた減圧下において、半田材をその融点以上の温度に加熱して溶融する。その後、当該半田材を冷却して固化することにより、放熱基板20の表面上に半田層30を介して蛍光板11が接合される。
また、例えば半田材としてフラックスを用いないものを用いる場合には、例えば窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気、もしくは窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気とされた減圧下において、半田材をその融点以上の温度に加熱して溶融する。その後、当該半田材を冷却して固化することにより、放熱基板20の表面上に半田層30を介して蛍光板11が接合される。
以上の接合処理は、蛍光板11、半田材および放熱基板20を厚み方向に押圧した状態で行われる。接合処理時における蛍光板11に加えられる圧力は、例えば0〜2.4gf/cm2 であることが好ましい。これにより、形成される半田層30におけるボイド率を75%以下、ボイド最長径Lを0.4mm以下とすることができる。形成される半田層30におけるボイド率およびボイド最長径Lの大きさは、例えばこの圧力条件を調整することにより、制御することができる。
【0022】
而して、上記の蛍光光源装置によれば、蛍光発光部材10を構成する半田層30におけるボイド率およびボイド最長径Lが一定の大きさ以下であることにより、蛍光板11と放熱基板20との間に良好な接合状態が得られるので、蛍光板11に生じた熱の排熱がボイド35によって阻害される程度を小さく抑制することができる。このため、蛍光板11に生じた熱を効率よく排熱することができるため、蛍光板11の局所的な温度上昇を抑制することができる。従って、当該蛍光板11の温度上昇に伴う温度消光が生じることを回避することができて蛍光板に高い発光効率が得られると共に十分に高い発光強度が得られる。また、半田層30を構成する半田材の溶解が生じて蛍光板11と放熱基板20とが剥離することを回避することができるので、蛍光板11に生じた熱を放熱基板20に確実に伝熱することができて蛍光板11の局所的な温度上昇を確実に抑制することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
<実施例1>
30Mo70Cu合金基板よりなる寸法17mm(縦)×17mm(横)×0.47mm(厚み)の放熱基板(20)の表面上に、ニッケル/金(Ni/Au=2.5μm/30nm)膜よりなる金属膜(21)を形成した。
処理用チャンバ内において、金属膜(21)が形成された放熱基板(20)の表面上に、Sn(96.5%)Ag(3%)Cu(0.5%)半田(融点=218℃,熱伝導率=64.2W/(m・K)よりなるリボン状の半田材を介して裏面に光反射膜(13)が形成された蛍光板(11)を配置した。そして、蛍光板(11)、半田材および放熱基板(20)を、蛍光板(11)にかける圧力を0〜2.4gf/cm2 の範囲内で適宜変更しながらバネ付きのピンによって押圧した状態で、半田材をその融点以上の温度である218℃に加熱して溶融した。その後、半田材を冷却して固化することにより、放熱基板(20)の表面上に半田層(30)を介して蛍光板(11)を接合し、以って、図1に示す構成の複数個の蛍光発光部材(10)を作製した。
これらの蛍光発光部材(10)における半田層(30)の厚みは20〜30μmの範囲内であり、半田層(30)におけるボイド率およびボイド最長径(L)をX線透過装置により測定したところ、ボイド率が0〜22%の範囲内であり、ボイド最長径(L)が0〜0.62mmの範囲内であった。
【0025】
上記のようにして得られた複数個の蛍光発光部材(10)の各々について、レーザ光源から発振波長が445nmであるレーザ光を蛍光板(11)における励起光受光面(12)に照射し、蛍光板(11)の最高温度を測定した。結果を図2に示す。図2において、バツ印のプロットで示す曲線、十字印のプロットで示す曲線、丸印のプロットで示す曲線、菱形印のプロットで示す曲線、三角印のプロットで示す曲線および四角印のプロットで示す曲線は、それぞれ、半田層(30)におけるボイド率が75%、65%、50%、35%、20%および10%であった蛍光発光部材(10)の結果を示している。
【0026】
図2に示す結果から明らかなように、ボイド最長径(L)が0.2mm以下である蛍光発光部材(10)においては、蛍光板(11)の最高温度は200℃程度であるのに対し、ボイド最長径(L)が0.4mmより大きくなると、ボイド率の大きさに拘わらず、蛍光板(11)の最高温度は500℃以上にまで達することが確認された。このことは、半田層(30)におけるボイドが蛍光板(11)に生じた熱の排熱を阻害しているためであると考えられる。また、蛍光板(11)の最高温度が例えば500℃以上になると半田層(30)の最高温度は半田材の融点を超える約400℃以上にもなることから、半田材の融解が起こり、放熱基板(20)と蛍光板(11)との密着性がなくなり、脱離する不具合が起こることが確認された。
【符号の説明】
【0027】
10 蛍光発光部材
11 蛍光板
12 励起光受光面
13 光反射膜
20 放熱基板
21 金属膜
30 半田層
35 ボイド
40 蛍光板
45 放熱基板
50 半田層
55 ボイド
図1
図2
図3