(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020715
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】レーザ加工機および孔開け加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/382 20140101AFI20161020BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20161020BHJP
【FI】
B23K26/382
B23K26/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-512437(P2015-512437)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059559
(87)【国際公開番号】WO2014171325
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2015年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-88023(P2013-88023)
(32)【優先日】2013年4月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭太
【審査官】
本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−220683(JP,A)
【文献】
特開平10−80783(JP,A)
【文献】
特開平7−232289(JP,A)
【文献】
特開平8−206856(JP,A)
【文献】
特開平9−216082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/382
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象となる板材に向けて熱切断用のレーザ光を照射するレーザ加工ヘッドと、このレーザ加工ヘッドから照射するレーザ光を発振するレーザ発振器と、前記板材に対して前記レーザ加工ヘッドを相対的に移動させる移動機構と、前記レーザ発振器および移動機構を制御する制御装置とを備えたレーザ加工機において、
前記制御装置は、板材に対して閉経路の切断加工によって孔を開ける加工を行うときに、前記閉経路の内側又は外側の板材部分における任意の箇所にピアス孔を開ける過程、このピアス孔に続いて、レーザ光の中心が前記閉経路を超える所定位置まで切り込む切断加工を行う過程、前記レーザ加工ヘッドの前記板材に対する位置を、レーザ光の中心が前記所定位置まで切り込む過程の経路上で、かつ前記閉経路上にある始点位置となるまで、レーザ照射を止めた状態で戻す過程、および前記始点位置から前記閉経路に沿って切断加工を行う過程を順次行うように制御する孔開け制御部を有することを特徴とするレーザ加工機。
【請求項2】
前記孔開け制御部は、前記閉経路に沿って切断加工する過程における加工開始後の一定距離内および加工終了前の一定距離内は前記レーザ加工ヘッドの移動速度を遅くする請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項3】
加工対象となる板材に向けて熱切断用のレーザ光を照射するレーザ加工ヘッドと、このレーザ加工ヘッドから照射するレーザ光を発振するレーザ発振器と、前記板材に対して前記レーザ加工ヘッドを相対的に移動させる移動機構と、前記レーザ発振器および移動機構を制御する制御装置とを備えたレーザ加工機を用い、板材に対して閉経路の切断加工を行って孔を開ける孔開け加工方法であって、
前記閉経路の内側又は外側の板材部分における任意の箇所にピアス孔を開ける過程、このピアス孔に続いて、レーザ光の中心が前記閉経路を超える所定位置まで切り込む切断加工を行う過程、前記レーザ加工ヘッドの前記板材に対する位置を、レーザ光の中心が前記所定位置まで切り込む過程の経路上で、かつ前記閉経路上にある始点位置となるまで、レーザ照射を止めた状態で戻す過程、および前記始点位置から前記閉経路に沿って切断加工を行う過程を順次行うことを特徴とする孔開け加工方法。
【請求項4】
前記閉経路に沿って切断加工する過程における加工開始後の一定距離内および加工終了前の一定距離内は前記レーザ加工ヘッドの移動速度を遅くする請求項3記載の孔開け加工方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
この出願は、2013年4月19日出願の特願2013−088023の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
この発明は、板材に対して切断による孔開け加工を行うレーザ加工機、およびこのレーザ加工機を用いた孔開け加工方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、レーザ加工機により板材Wに対して閉じた形状の孔を開ける場合、
図8のように、目的とする孔Hの内周に沿う加工経路Kの内側の板材部分Waにピアス孔20を開け(過程A)、このピアス孔20から加工経路Kまで切断加工し(過程B)、その後、加工経路Kに沿って切断加工する(過程C)。このような孔開け加工のある種の方法では、加工経路Kを孔Hの内周位置よりも内側にオフセットして設定するため、加工開始点Psと加工終了点Peとが完全に一致しない不完全な閉経路となる。
【0004】
過程Bも破線で図示するB1よりも加工開始点が図示左側にずれる。この為、開けられた孔Hの内周における加工開始点Psと加工終了点Peの間に、
図9の拡大図に示すような内側に突出する突起部21が残る。このような突起部21が残ると、孔Hに他の部品
を嵌め合わせる場合等に支障が出るため、後で手作業により突起部21を除去する必要がある。また、加工経路Kを加工開始点Psと加工終了点Peが一致する完全な閉経路としても、板材Wの上面側には突起部21が残らなくても裏面側に突起部21が残るという現象が見られる。
【0005】
上述の突起部21が残らないように、
図10に示すように、加工開始点および加工終了点となる加工開始・終了点Pseを加工経路Kの外側に設定することが提案されている(特許文献1)。この孔開け加工方法であると、突出部21が生じることを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−220683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、
図10の上記提案の方法は、加工開始・終了点Pse付近で熱集中が生じ易く、板材Wの裏面にドロスが付着し易い。また、高速で切断加工すると、移動機構の特性上、高精度な孔開け加工が難しい。
【0008】
この発明の目的は、突起部の生じない高速且つ高精度の孔開け加工が可能で、突起部除去等の後処理が不要であり、かつ熱集中によるドロスの付着を避けることができるレーザ加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のレーザ加工機を実施形態に用いた符号を付して説明する。この発明のレーザ加工機は、加工対象となる板材(W)に向けて熱切断用のレーザ光を照射するレーザ加工ヘッド(4)と、このレーザ加工ヘッド(4)から照射するレーザ光を発振するレーザ発振器(5)と、前記板材(W)に対して前記レーザ加工ヘッド(4)を相対的に移動させる移動機構(6)と、前記レーザ発振器(5)および移動機構(6)を制御する制御装置(2)とを備える。前記制御装置(2)は、板材(W)に対して閉経路(K1)の切断加工によって孔(H)を開ける加工を行うときに、前記閉経路(K1)の内側または外側の板材部分(Wa)における任意の箇所にピアス孔(20)を開ける過程、このピアス孔(20)に続いて、レーザ光の中心が前記閉経路(K1)を超える所定位置(Q1)まで切り込む切断加工を行う過程、前記レーザ加工ヘッド(4)の前記板材(W)に対する位置を、レーザ光の中心が前記所定位置(Q1)まで切り込む過程の経路上で、かつ前記閉経路(K1)上にある始点位置(Q2)となるまで、レーザ照射を止めた状態で戻す過程、および前記始点位置(Q2)から前記閉経路(K1)に沿って切断加工を行う過程を順次行うように制御する孔開け制御部(2a)を有する。
【0010】
この構成によると、制御装置(2)の孔開け制御部(2a)の制御により、レーザ光の中心が前記閉経路(K1)を超える所定位置(Q1)まで切り込む切断加工を行うことで、後の加工で形成される孔(H)の内周下部(裏面側)まで確実に切り込みを入れる。そのため、後で閉経路(K1)に沿って切断加工を行うことにより、孔の内周下部の切り込みにより突起部(21)となる部分が切断され、突起部(21)の無い円滑な孔(H)を開けることができる。よって突起部(21)除去等の後処理が不要となる。
【0011】
また、所定位置(Q1)まで切り込む切断加工を行った後、レーザ加工ヘッド(4)を閉経路(K1)上の始点位置(Q2)まで戻す際にレーザ照射を止めることにより、熱集中を抑えることができ、ドロスの付着を防止できる。このように孔開け加工を行うことにより、突起部(21)の生じない高速且つ高精度の孔開け加工が可能で、突起部(21)除去等の後処理が不要で、かつ熱集中によるドロスの付着を避けることができる。
【0012】
この発明のレーザ加工機において、前記孔開け制御部(2a)は、前記閉経路(K1)に沿って切断加工する過程における加工開始後の一定距離内および加工終了前の一定距離内は前記レーザ加工ヘッド(4)の移動速度を遅くしてもよい。
また、例えば、板材(W)の板厚が厚い場合に、上記移動速度を遅くする。
【0013】
レーザ光による熱切断加工のドラグライン(23)は、板材(W)の下面側でレーザ光の進行方向に対して遅れる。この遅れは、板材(W)の板厚が厚く加工速度が速いほど大きい。このため、板材(W)の板厚が厚い場合、板材(W)の始点位置(Q2)付近の下面側に切断加工されずに残る突起部(21)が形成される可能性がある。レーザ加工ヘッド(4)の移動速度を遅くすることで、レーザ光の進行方向に対する
加工の遅れを無くすか、または減少させることができる。これにより、前記突起部(21)の形成を防ぐことができる。レーザ加工ヘッド(4)の移動速度を遅くするのは、加工開始後の一定距離内
および加工終了前の一定距離内だけであるため、加工時間の延長をほとんど招かずに済む。
【0014】
この発明の孔開け加工方法は、加工対象となる板材(W)に向けて熱切断用のレーザ光を照射するレーザ加工ヘッド(4)と、このレーザ加工ヘッド(4)から照射するレーザ光を発振するレーザ発振器(5)と、前記板材(W)に対して前記レーザ加工ヘッド(4)を相対的に移動させる移動機構(6)と、前記レーザ発振器(5)および移動機構(6)を制御する制御装置(2)とを備えたレーザ加工機を用い、板材(W)に対して閉経路(K1)の切断加工を行って孔(H)を開ける方法であって、前記閉経路(K1)の内側または外側の板材部分(Wa)における任意の箇所にピアス孔(20)を開ける過程、このピアス孔(20)に続いて、レーザ光の中心が前記閉経路(K1)を超える所定位置(Q1)まで切り込む切断加工を行う過程、前記レーザ加工ヘッド(4)の前記板材(W)に対する位置を、レーザ光の中心が前記所定位置(Q1)まで切り込む過程の経路上で、かつ前記閉経路(K1)上にある始点位置(Q2)となるまで、レーザ照射を止めた状態で戻す過程、および前記始点位置(Q2)から前記閉経路(K1)に沿って切断加工を行う過程を順次行う。
【0015】
この方法によっても、上述の本発明のレーザ加工機と同様の効果を得ることができる。
【0016】
この発明の穴明け加工方法において、前記閉経路(K1)に沿って切断加工する過程における加工開始後の一定距離内および加工終了前の一定距離内は前記レーザ加工ヘッド(4)の移動速度を遅くしてもよい。前記同様の理由から、レーザ加工ヘッド(4)の移動速度を遅くすることで、レーザ光の進行方向に対する遅れを無くすか、または減少させることができる。それにより、前記突起部(21)の形成を防ぐことができる。レーザ加工ヘッド(4)の移動速度を遅くするのは、加工開始後の一定距離内および加工終了前の一定距離内だけであるため、加工時間の延長をほとんど招かずに済む。
【0017】
請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成のどのような組合せも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲の各請求項の2つ以上のどのような組合せも、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【
図1】この発明の一実施形態にかかるレーザ加工機の概要を示す斜視図に制御系のブロック図を組み合わせた図である。
【
図3】同レーザ加工機を用いて板材に対して閉経路の切断加工によって孔を開ける加工を行うときの各過程を示す説明図である。
【
図6】円孔をレーザ切断加工した形状につき、従来の通常加工と実施形態のレーザ加工機を用いた加工とを比較して示す説明図である。
【
図7】円孔をレーザ切断加工した形状につき、従来の通常加工と実施形態のレーザ加工機を用いた加工とを比較して示す顕微鏡写真図である。
【
図8】同レーザ加工機を用いて板材に対して切断加工によって孔を開ける加工を行うときの各過程を示す説明図である。
【
図10】提案例の方法により板材に対して切断加工によって孔を開ける加工を行うときの各過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1に示すように、このレーザ加工機は、加工機本体1と、この加工機本体1の制御を行う制御装置2とを備える。
【0020】
加工機本体1は、レーザ加工ヘッド4と、レーザ発振器5と、ワークとなる板材Wを支持する板材支持部材7と、この板材支持部材7に対してレーザ加工ヘッド4を相対的に移動させる移動機構6とを備える。この実施形態では、板材支持部材7を固定側、レーザ加工ヘッド4を移動側としており、移動機構6によりレーザ加工ヘッド4を移動させる。板材Wは、鋼板等からなり、例えば平面形状が矩形をしている。
【0021】
移動機構6は、基台8上を前後方向(X軸方向)に移動する前後移動台9に、レーザ加工ヘッド4を左右移動体(図示せず)を介して左右方向(Y軸方向)に移動可能に設置して構成され、前後方向および左右方向の前記移動をそれぞれ行わせるモータ(図示せず)を備えている。前記板材支持部材7は、基台8に固定されている。なお、レーザ加工ヘッド4自体に、またはレーザ加工ヘッド4を支持する前記左右移動体に、駆動源(図示せず)によってレーザ加工ヘッド4を昇降させる機構(図示せず)を有している。
【0022】
レーザ加工ヘッド4には、レーザ発振器5で発振したレーザ光がレーザ光伝送路10を介して送られる。レーザ発振器5は、ファイバレーザ等の固体式レーザ発振器であっても、CO
2レーザ等の気体式レーザ発振器であっても良いが、この実施形態では固体式レーザ発振器としている。
【0023】
制御装置2は、コンピュータ式の数値制御装置およびプログラマブルコントローラ等からなり、加工プログラム(図示せず)に従って加工機本体1の制御を行う。制御装置2には、加工プログラムの一連の命令によって各種の加工をそれぞれ行う各制御部(図示せず)が構成されている。これら制御部の一つとして、板材Wに対して閉経路の切断加工によって孔を開ける加工を行う孔開け制御部2aがある。孔開け制御部2aは、レーザ発振器5および移動機構6を制御することで以下の孔開け加工を行うが、この孔開け加工時には、以下の説明では記載を省略したレーザ加工ヘッド4の制御、例えばアシストガスの噴射および停止等も行う。
【0024】
なお、孔開け制御部2aで行う一連の制御を行わせる新たなコマンドを作成し、制御装置2に加工プログラム中からそのコマンドを読み出したときに、上記一連の動作を行わせる指令をレーザ発振器5および移動機構6に出させる機能を持たせてもよい。
【0025】
図2に示すように板材Wに円孔Hを開ける場合を例にとって、孔開け制御部2aの制御による孔開け加工を具体的に説明する。この例では、開けられる孔Hが円形状であるが、孔Hの形状は、閉経路の切断加工によって開けられる形状、例えば矩形であってもよい。また、ピアス孔も加工経路の外側にあってもよい。
【0026】
図3に示すように、まず、加工経路となる閉経路K1の内側の板材部分Waにおける任意の箇所にピアス孔20を開ける(過程(0))。閉経路K1は、孔Hを切断加工するためにレーザ光を移動させる経路のことであり、目的とする孔Hの内周からレーザ光のスポット径
Dの1/2だけ離れた点を結ぶ曲線である。
【0027】
つづいて、切断加工により、前記ピアス孔20からレーザ光の中心が閉経路K1を超える所定位置Q1まで、アプローチ経路K2に沿って切り込む(過程(1))。閉経路K1から所定位置Q1までの距離は、
図4のように、レーザ光のスポット径Dの1/2以上であれば良く、任意の距離に設定可能である。つぎに、
図3に示すように、レーザ加工ヘッド4の板材Wに対する位置を、アプローチ経路K2の経路上で、かつ閉経路K1上にある始点位置Q2となるまで、レーザ照射を止めた状態で戻す(過程(2))。
【0028】
そして、レーザ加工ヘッド4を始点位置Q2から閉経路K1に沿って1周回させて、切断加工する(過程(3)〜(6))。この過程では、板材Wの板厚に応じてレーザ加工ヘッド4の移動速度を変える。すなわち、表1に示すように、板材Wが薄板である場合は、終始高速でレーザ加工ヘッド4を移動させるが、板材Wが厚板である場合は、加工開始後の一定距離(過程(3))内および加工終了前の一定距離(過程(6))内はレーザ加工ヘッド4を低速で移動させる。なお、本例で示す「厚板」、「薄板」は互いに比較して称するものである。
【0030】
この孔開け加工によると、過程(1)において、レーザ光の中心が閉経路K1を超える所定位置Q1まで切り込む切断加工を行うことで、後の加工で形成される孔Hの内周下部(裏面側)まで確実に切り込みを入れておく。すなわち、孔Hの内周下部は、内周上部に比べて熱切断加工が遅れ、切り込みが少なくなるが、上記のように閉経路K1を超える所定位置Q1まで切り込む切断加工を行うことで、
図4に太線で示した箇所22に、孔Hの内周下部まで確実に切り込みを入れておく。
【0031】
上記の箇所22は、従来の加工では突起部の一部として残った箇所であるが、上記のように確実に切り込みを入れておくと、後で閉経路K1に沿って切断加工を行うことにより、孔の内周下部の切り込みにより突起部となる部分が切断され、突起部の無い円滑な孔Hを開けることができる。よって突起部除去等の後処理が不要となる。また、所定位置Q1まで切り込む切断加工を行った後、レーザ加工ヘッド4を閉経路K1上の始点位置Q2まで戻す際にレーザ照射を止めることにより、熱集中を抑えることができ、ドロスの付着を防止できる。このように孔開け加工を行うことにより、突起部の生じない高速且つ高精度の孔開け加工が可能で、突起部除去等の後処理が不要で、かつ熱集中によるドロスの付着を避けることができる。
【0032】
図5に示すように、レーザ光による熱切断加工のドラグライン23は、板材Wの下面側でレーザ光の進行方向に対して遅れる。この遅れは、板材Wの板厚が厚く加工速度が速いほど大きい。このため、板材Wの板厚が厚い場合、板材Wにおける始点位置Q2の下面近くに切断加工されずに残る突起部が形成される可能性がある。しかし、この孔開け加工方法のように、加工開始後の一定距離内および加工終了前の一定距離内のレーザ加工ヘッド4の移動速度を遅くすることで、レーザ光の進行方向に対する遅れを無くすか、または減少させることができる。それにより、前記突起部の形成を防ぐことができる。レーザ加工ヘッド4の移動速度を遅くするのは、加工開始後の一定距離内および加工終了前の一定距離内だけであるため、加工時間の延長をほとんど招かずに済む。
【0033】
この実施形態の孔開け加工方法により加工した場合、および従来の孔開け加工方法により加工した場合の加工の結果を、
図6に示す。同図は、直径5mmの円孔を加工したときと、直径10mmの円孔を加工したときの孔の形状を示す。同図では、円周方向の長さに対する直径方向の長さの尺度を大きく表示してある。同図から分かるように、この実施形態の孔開け加工方法により加工した場合は、および従来の孔開け加工方法により加工した場合よりも、真円度が高い。
【0034】
また、この実施形態の孔開け加工方法により加工した場合、および従来の孔開け加工方法により加工した場合の孔の断面の形状の顕微鏡写真を
図7に示す。
図7の(A)が従来の孔開け加工方法により加工した場合の孔の断面の形状の顕微鏡写真で、
図7の(B)がこの実施形態の孔開け加工方法により加工した場合の孔の断面の形状の顕微鏡写真である。同図から分かるように、従来の孔開け加工方法による加工では、孔の内面に突起部が生じているのに対して、この実施形態の孔開け加工方法による加工では、このような突起部は生じていない。
【0035】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。そのような変更および修正は、添付の特許請求の範囲から定まるこの発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0036】
1 加工機本体
2 制御装置
2a 孔開け制御部
4 レーザ加工ヘッド
5 レーザ発振器
6 移動機構
20 ピアス孔
H 孔
K1 閉経路
Q1 所定位置
Q2 始点位置
W 板材
Wa 板材部分