特許第6020811号(P6020811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6020811難着氷表面構造および難着氷表面構造の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020811
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】難着氷表面構造および難着氷表面構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20161020BHJP
   H02G 7/16 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C09K3/18 104
   H02G7/16
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-223411(P2012-223411)
(22)【出願日】2012年10月5日
(65)【公開番号】特開2014-74138(P2014-74138A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】502308387
【氏名又は名称】株式会社ビスキャス
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穂積 英彬
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−040422(JP,A)
【文献】 特開平10−273617(JP,A)
【文献】 特開2002−075060(JP,A)
【文献】 特開2002−038094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D 1/00−201/10
H01G 7/00− 7/22
H01B 5/00− 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面にシラン系化合物がコーティングされ、表面粗さが1〜5μmである難着氷表面構造であって、
水に対する接触角が130度以上の撥水表面であり、
前記基材表面が耐食性を有するベーマイト層であることを特徴とする難着氷表面構造。
【請求項2】
複数本の線材からなる架空送電線の表面にシラン系化合物がコーティングされ、前記表面の表面粗さが1〜5μmである難着氷表面構造であって、
水に対する接触角が130度以上の撥水表面であり、
前記架空送電線の表面が耐食性を有するベーマイト層であることを特徴とする難着氷表面構造。
【請求項3】
撚り線状の電線を製造した後、ベーマイト処理を行って電線の表面耐食性を有する表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmで、且つ、水に対する接触角が130度以上の撥水表面に形成することを特徴とする難着氷表面構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難着氷効果を有する難着氷表面構造および難着氷表面構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
着雪や着氷は様々な構造物や建築物に対して障害をもたらしている。例えば、屋外に設置される架空送電線には、雪や霧中の過冷却水滴が着氷し成長する、いわゆる「雲中着氷」が生じる。また、雨や溶解した雪が凍結し成長する、いわゆる「降雨性着氷雪」も生じる。これらの着氷現象が生じると、架空送電線を支える鉄塔への負荷が増大し、事故や故障の原因となる。
また、着氷の問題は架空送電線以外にも生じ、他の例としては、風力発電の風車の羽根が凍結することで回転に障害が生じる場合もある。
これらの着氷や着雪に対しては、ヒーター等の熱源を使用する対策方法があるが、電力や専用の施設が必要になってしまう。
【0003】
そこで、近年着目される技術が、構造物や建築物にフッ素樹脂などを塗布して撥水表面をもたせるものである(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、上記技術により、水との濡れ性が接触角70度以上の被膜層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3894725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フッ素樹脂などの撥水塗料を塗布する場合には、優れた難着雪効果が得られるものの、落氷の効果が低く、難着氷効果が不十分であった。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、電力を用いずに落氷の効果を得ることができる難着氷表面構造および難着氷表面構造の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、基材表面にシラン系化合物がコーティングされ、表面粗さが1〜5μmである難着氷表面構造であって、水に対する接触角が130度以上の撥水表面であり、前記基材表面が耐食性を有するベーマイト層であることを特徴とする。この構成によれば、電力を用いずに落氷の効果を得ることができる難着氷表面構造を得ることができる。
【0007】
また、本発明は、複数本の線材からなる架空送電線の表面にシラン系化合物がコーティングされ、前記表面の表面粗さが1〜5μmである難着氷表面構造であって、水に対する接触角が130度以上の撥水表面であり、前記架空送電線の表面が耐食性を有するベーマイト層であることを特徴とする。この構成によれば、電力を用いずに落氷の効果を得た難着氷電線を提供することができる。
【0008】
また、本発明は、撚り線状の電線を製造した後、ベーマイト処理を行って電線の表面耐食性を有する表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmで、且つ、水に対する接触角が130度以上の撥水表面に形成することを特徴とする。この構成によれば、電力を用いずに落氷の効果を得た難着氷表面構造の電線を製造することができ、かつ、電線を構成する素線の1本1本に表面処理を施す場合に比して、処理を短時間化することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、電力を用いずに落氷の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】接触角と着氷力の関係を調べるための試験方法を示す図である。
図2図1の試験結果を示す図である。
図3図2の一部を試験用サンプルの測定結果とともに拡大して示す図である。
図4】表面粗さと着氷力の関係の試験結果を示す図である。
図5】試験用サンプルの断面構造を模式的に示す図である。
図6】実施例1の架空送電線の断面図である。
図7】実施例2の架空送電線の断面図である。
図8】着氷試験の試験結果を示す図である。
図9】着雪試験の試験結果を示す図である。
図10】スペーサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
難着雪効果を得るためには、基材表面と水との間になす接触角が大きいことが望ましい。一般に、接触角を大きくするには表面の凹凸を大きくする必要がある。
一方で、優れた難着氷効果を得るためには、接触角を大きくするだけでなく、表面粗さを小さくする必要があることを発明者は見出した。そして、試験を行った結果、難着雪効果および難着氷効果を得るためには、水に対する接触角が130度以上、且つ、表面粗さが1〜5μmの範囲とする撥水表面が必要であるとの知見を得た。
以下に上記の条件を得た試験内容を示す。
【0012】
[接触角と着氷力の関係]
まず、基材表面での接触角θと着氷力Fの関係を調べた。なお、接触角θは、固体表面上に液体(水)が接している状況で、液体の縁の表面に引いた接線と固体表面とが成す角度である。着氷力Fは、材料表面に凍着した氷の付着力である。
図1は撥水表面における着氷力の試験方法を示している。本試験では、試験温度を−10度の環境に設定した。まず、表面が撥水処理されたアルミニウム合金製の基板1を水平に支持し、この基板1の上に円筒2を置き、円筒2内部に水(図1に示すCW)を注入した。そして、この水が凍った後、円筒2を、図1に矢印で示すように水平方向に引っ張ることにより、着氷力Fを測定した。
【0013】
この試験結果を図2に示す。図2に示す曲線f1は、多数の試験用サンプルの測定結果から得た近似特性曲線を示している。また、図3は、図2の一部を試験用サンプルの測定結果とともに拡大して示した図である。
図2に示すように、水に対する接触角θの大きな基板表面ほど着氷力Fが小さくなる傾向であることが判る。より具体的には、接触角θが130度以上では、特性曲線f1の傾きが大きく変動しない傾向があることが判る。さらに、接触角θが130度を下回ると特性曲線f1の傾きが大きく変動し、着氷力が大きくなる傾向であることが判った。
【0014】
また、発明者は、試験結果を更に検討したところ、図3に符号αを付して示すように、接触角θが150度以上の超撥水表面でも、着氷力Fが比較的大きい場合があることに着目した。そして、その基材表面を解析したところ、その領域αの表面粗さに違いがあることに気づいた。
これに鑑み、発明者は、表面粗さRと着氷力Fの関係を調べる試験を行った。
【0015】
[表面粗さと着氷力の関係]
接触角θが150度以上の試験用サンプル(基板1に相当)について、表面粗さRと着氷力Fの関係を調べた。図4は試験結果を示し、図5はその試験用サンプル(基板1)の断面構造を模式的に示した図である。なお、本調査では、表面粗さRとして、十点平均粗さ(Rz)を用いた。なお、図4中、符号f2は、測定結果から得た近似特性曲線である。また、図5中、符号WDは水滴を示している。
【0016】
図4に示すように、表面粗さRが5μmを超えると、着氷力Fが大きくなることが判った。また、このときの表面粗さRが1μm以下の場合は十分な接触角θを持たせることができなかった。このことから表面粗さRを1〜5μmにすることが、着氷力Fを効率よく低くする条件であることが判った。
さらに、同図4に示すように、表面粗さRが4μm以下では、着氷力が格段に小さくなることが判った。
以上のことから、優れた難着氷効果を効率よく得る条件は、接触角が130度以上、且つ、表面粗さRが1〜5μmの範囲であり、より好ましくは、接触角が130度以上、且つ、表面粗さRが1〜4μmの範囲であることが判った。
【0017】
[シラン系化合物]
シラン系化合物は、有機ケイ素系の化合物である。本発明に用いるシラン系化合物は、その組成が特に限定されるものではないが、難着氷・難着雪の効果をより発揮する態様として、フッ素を含んだシラン系化合物であることがより好ましい。
【0018】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[実施例1]
本実施例では、難着氷表面構造を架空送電線10の表面構造に適用した。架空送電線10は、鉄塔を介して高所に配置されるため、雲中着氷や降雨性着氷が生じやすい環境にあり、鉄塔への負荷の増大を避けるなどの観点から難着氷対策が特に望まれる部材である。
【0019】
図6は、架空送電線10の断面図を示す。
この架空送電線10は、複数の鋼素線11(図6中、ハッチングを付して示す)を撚り合わせたテンションメンバの外周に、アルミニウム合金製の複数の素線(以下、アルミ素線と言う。)12を撚り合わせた電線であり、鋼心アルミ撚り線(ACSR;Aluminium Conductors Steel Reinforced)の形態を成している。
この架空送電線10は、図6に示すように撚り線状の電線を製造した後、電線全体に一括に、高温処理によるベーマイト処理を行って表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティング(本実施例では塗布)することによって、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、接触角が130度以上の撥水表面に形成されている。
【0020】
この撥水表面の製造方法では、撚り合わせ後の電線に対し、表面処理を一括で行うので、最外表面を構成する最も外側のアルミ素線12を撥水表面にするとともに、外側のアルミ素線12に隙間があれば、その隙間内のアルミ素線12も撥水表面にすることができる。したがって、外部に通じて着氷や着雪のおそれのある表面全てを効率よく撥水表面にすることができる。
【0021】
しかも、一回の処理で表面処理を済ませることができるので、電線10を構成する素線11,12の1本1本に表面処理を施す場合に比して、表面処理に要する時間を大幅に短時間化することが可能であり、また、内側の素線11,12には表面処理をしないので、その分、材料の使用量を抑えることができる。
また、シラン系化合物による撥水層の下地(表面微細構造)を得るための処理として、ベーマイト処理を行うので、アルミニウム合金の表面に耐食性を有するベーマイト層を形成し、その上に撥水層を形成することとなり、素線12の耐食性を向上させる処理を別途行わなくても、耐食性を得ることができる。なお、耐食性を更に向上させたい場合は、別途、他の表面処理や皮膜を設けるようにしても良い。
【0022】
なお、従来の架空送電線には、コロナ放電を低減するために表面に親水化処理を施すことがあり、この親水化処理にベーマイト処理を用いることがある(例えば、特開2011−146232号公報)。本実施例では、このベーマイト処理の設備を流用して上記表面処理を行うことが可能である。
また、ベーマイト処理以外に、他の化成処理方法を適用しても良く、例えば、フッ酸、酢酸、硝酸および硫酸などの混合溶液に浸し、表面のエッチングを行い、表面粗さRを1〜5μmの範囲にするようにしても良い。
【0023】
[実施例2]
図7は、実施例2の架空送電線10の断面図を示す。
この架空送電線10は、複数の鋼素線11を撚り合わせたテンションメンバの外周に、アルミニウム合金製の円形断面の素線12を撚り合わせるとともに、その外周に、アルミニウム合金からなる複数のセグメント型素線13を撚り合わせた鋼心アルミ撚り線タイプの形態を成している。
【0024】
図7に示すように、この架空送電線10は、最外周のセグメント型素線13の一部を外周側に盛り上げて一対の突起14が設けられ、これによって、低風圧効果や低風音効果を有する電線(低風圧電線)に形成されている。
この架空送電線10についても、実施例1と同様に、撚り線状の電線を製造した後、電線全体に一括に、高温処理によるベーマイト処理を行って表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティング(本実施例では塗布)することにより、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、接触角θが130度以上の撥水表面に形成されている。
【0025】
この架空送電線10においては、最外周のセグメント型素線13が断面略扇形形状を有し、幅の狭い内面を電線中心側の鋼素線11に向けて配されるので、セグメント型素線13同士が密着し易い。したがって、最外周面だけを撥水表面にすることができ、表面処理に要する材料の使用量がより少なくなる。
また、この架空送電線10のような低風圧電線は、外周に凹凸を有するため、氷や雪が付着し易いと考えられる。このため、雲中着氷や降雨性着氷が生じやすい環境で用いられる場合は、上記実施例1の架空送電線10よりも難着氷対策がより望まれる電線である。
【0026】
次に、上記の架空送電線10を評価すべく、上記の架空送電線10と同じ表面処理を、架空送電線10の表面材と同素材であるアルミニウム合金製の基板に施すことで、表面粗さRが3μmで、接触角θが130度、135度、140度、150度の撥水アルミ板を各々作成し、着氷試験および着雪試験を行った。
また、比較例として、表面粗さRが3μmで接触角θが120度の撥水アルミ板も作成し、これについても、同様の着氷試験および着雪試験を行った。
【0027】
[着氷試験]
作成した各撥水アルミ板を、氷点下温度に保たれた恒温槽内に配置し、恒温槽内で各撥水アルミ板に水蒸気をあて、着氷させた時の着氷質量W1を調べた。このときの高温槽の温度条件は、−10度と−5度の2種類とし、各撥水アルミ板は水平面(地面に相当)に対して45度傾斜させた状態とした。
【0028】
この試験結果を図8に示す。図8中、符号f3は、−5度のときの測定結果から得た特性曲線であり、符号f4は、−10度のときの測定結果から得た特性曲線である。
図8に示すように、接触角θが大きいほど着氷質量W1が小さくなった。特に接触角θが130度を超えると着氷質量W1が一気に小さくなり、−10度、−5度の両温度条件で、十分な難着氷効果を得ることができた。
これに対し、接触角θが120度では、着氷質量W1が格段に多くなり、また、温度が−10度と−5度のときで着氷質量W1に差が生じ、難着氷性能に大きな違いが見られた。特に−10度の温度条件では着氷質量W1が多く、十分な難着氷効果が得られなかった。
【0029】
[着雪試験]
作成した各撥水アルミ板を屋外に配置し、自然降雪のときの着雪質量W2を調べた。このときの各撥水アルミ板は水平面(地面に相当)に対して60度傾斜させた状態とした。
この場合の試験結果を図9に示す。図9中、符号f5は、測定結果から得た特性曲線である。
図9に示すように、接触角θが大きいほど着雪質量W2が小さくなり、接触角θが130度以上では殆ど着雪しなかった。また、接触角θが130度を下回ると、着雪質量W2が一気に大きくなった。
【0030】
以上のことから、シラン系化合物がコーティングされ、表面粗さが1〜5μmであって、水に対する接触角が130度以上の撥水表面にしたことにより、優れた難着氷効果に加え、優れた難着雪効果を得ることが確認できた。この結果、電力を用いずに落氷・落雪の効果を得ることができる難着氷表面構造が得られる。従って、架空送電線10に適用することにより、難着氷電線を得ることが可能になる。
【0031】
また、ベーマイト処理によって表面粗さRを調整し、シラン系化合物をコーティングして高性能な撥水表面を得るようにしたので、簡易に難着氷表面構造を得ることができ、特に、架空送電線10などに使用されるアルミニウム合金への処理が容易である。
また、架空送電線10を上記難着氷表面構造にすることによって、低コロナ、防食性の効果も期待することができる。
【0032】
さらに、架空送電線10に適用する場合、撚り線状の電線を製造した後、電線に表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmで、且つ、水に対する接触角θが130度以上の撥水表面に形成するようにしたので、電線10を構成する素線の1本1本に表面処理を施す場合に比して、処理を大幅に短時間化することが可能であり、短時間で難着氷表面構造の架空送電線10を製造することが可能になる。
【0033】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形および応用が可能である。
例えば、上述の実施形態では、撚り線状の電線を製造した後、電線表面にベーマイト処理をなどで表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、水に対する接触角θが130度以上の撥水表面に形成する場合を説明したが、素線単体の状態で、ベーマイト処理などで表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、水に対する接触角θが130度以上の撥水表面に形成し、この素線を、最外周の素線(図6の最外周の素線12、図7のセグメント型素線13)に用いるようにしても良い。
【0034】
この場合、上記撥水表面にする処理が、最外周の素線12,13だけで済み、電線を構成する多数の素線の1本1本に表面処理を施す場合に比して、表面処理に要する時間を大幅に短時間化することが可能であり、また、材料の使用量を抑えることができる。
また、素線数が少ない場合などは、撚り合わせる前の素線の全部又は一部に、上記の撥水表面にする処理を行うようにしても良い。
また、上述の実施形態では、アルミニウム合金の素線を難着氷表面構造にする場合を説明したが、アルミニウムやアルミニウム以外の金属材で形成された素線、或いは、金属以外の他の素材を難着氷表面構造にする場合に本発明を適用しても良い。
【0035】
さらに、上述の実施形態では、架空送電線10に本発明を適用する場合を説明したが、架空送電線10の付属品であるスペーサ20に適用しても良い。スペーサ20に適用する場合を以下に例示する。
図10は、スペーサ20を示している。このスペーサ20は、電線が上相、中相、下相の3回線で送電を行っている場合に、相と相とをそれぞれ把持することにより相間で電線が接触するのを防ぐ導体相間スペーサである。
このスペーサ20は、送電線を支持する上下一対のアルミ合金製のクランプ21を有し、このクランプ21間を、上方から、軟鋼製の連結金具22、軟鋼製の直角クレビス23、軟鋼製のアイボルト24、アルミ合金製のフランジアイ25、アルミ合金製のフランジロッド26、アルミ製のホーン27、シリコンゴム製のポリマがいし28、アルミ合金製のフランジアダプタ29、軟鋼製のアイボルト24、軟鋼製の直角クレビス23、軟鋼製の連結金具22で接続している。
【0036】
このスペーサ20において、ポリマがいし28は、もともとある程度の撥水性を有するシリコンゴム製であるため、本発明の撥水処理を不要にすることができる。一方、このシリコンゴム製のポリマがいし28とホーン27を除く金属部品、つまり、クランプ21、連結金具22、直角クレビス23、フランジアイ25、フランジロッド26、フランジアダプタ29については、ベーマイト処理などを行って表面微細構造を生成し、その後、シラン系化合物をコーティングすることによって、表面粗さRが1〜5μmの範囲で、且つ、接触角θが130度以上の撥水表面に形成される。これによって、送電線の熱などで溶けた氷雪が、スペーサ20の把持部分で再度冷却して凍結する前に落下させることができる難着氷スペーサを得ることができる。
【0037】
さらに、本発明は、難着氷が望まれる様々な製品に適用することが考えられる。以下、その一例を挙げる。
1)難着氷が望まれる様々な電線(難着氷電線)。例えば、低風圧電線、低ロス電線、低弛度電線、表面処理電線、トロリ線などの各種電線。
2)電線の付属品(難着氷電線付属品)。例えば、スパイラルロッド、アーマーロッド、LC線材、電線用スペーサ(相間スペーサとも言う)、電線用クランプ、電線用ジャンパ装置、電線用ダンパ。この場合も、低コロナ、防食性の効果を期待することができる。また、この難着氷電線付属品への処理方法として、これら付属品の表面を亜鉛めっきとし、この亜鉛めっき上に上記の撥水処理を施すことが望ましい。
3)鉄塔に用いられるアングル、鋼管などの難着氷鉄塔部材。この場合、防食効果も期待することができる。
4)建築物。例えば、建築物の屋根、建築材および構造材。この場合、防食効果も期待することができる。
5)屋外で用いられる移動体。例えば、車両、船舶、飛行機、ヘリコプターの外装や羽。この場合、防食効果も期待することができる。
6)屋外に設置される設置物。例えば、太陽電池パネル、パラボラのレドーム、風車の羽根車。風車の羽根車に適用することにおり、羽根車の凍結をふせぎ、冬期の風力発電を可能にすることができる。この場合も防食効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 基板
10 架空送電線(難着氷電線)
20 スペーサ(難着氷スペーサ)
θ 接触角
F 着氷力
R 表面粗さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10