(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020812
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】摩擦圧接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20161020BHJP
B23K 20/26 20060101ALI20161020BHJP
B23K 20/24 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B23K20/12 A
B23K20/26
B23K20/24
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-232788(P2012-232788)
(22)【出願日】2012年10月22日
(65)【公開番号】特開2014-83549(P2014-83549A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】徳良 晋
【審査官】
奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭49−000676(JP,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0072775(US,A1)
【文献】
米国特許第06637642(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00−20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の接合部材を摩擦圧接させる摩擦圧接装置であって、
前記接合部材を把持して、当該接合部材の互いに対向する接合面同士を加圧接触させつつ一対の接合部材を相対的に運動させることで摩擦熱を生じさせる把持手段と、
前記接合部材同士を相対的に運動させる以前に、前記一対の接合部材の互いに対向する接合面間に挿入されて、電磁誘導加熱により前記一対の接合部材の各接合面を予備加熱する加熱コイルを備え、
前記加熱コイルは、前記一対の接合部材の各接合面同士を結ぶ方向に沿って管体を複数巻きして形成されていると共に、一方側から他方側にかけて漸次形状を変えて形成され、
前記管体を複数巻きして成る加熱コイルは、前記一対の接合部材における各接合面の輪郭よりも大きい外郭状加熱コイルとして形成され、
前記加熱コイルの全体的な輪郭は、前記一対の接合部材における各接合面の断面形状に合わせて決定され、
前記加熱コイルの一方側から他方側にかけての形状の変化は、前記一対の接合部材の加熱条件に応じて決定されている
ことを特徴とする摩擦圧接装置。
【請求項2】
前記管体は削り出しにより形成され、矩形断面を有している請求項1に記載の摩擦圧接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦圧接装置に係り、詳しくは把持装置により把持された一対の接合部材の間に加熱コイルを挿入して電磁誘導作用により予備加熱し、把持装置を駆動して両接合部材を互いに突き合わせて摩擦圧接法により接合する摩擦圧接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦圧接法は、接合対象物である一対の接合部材を突き合わせて押圧力(アプセット圧力,フォージ圧力)を作用させながら相対運動を起こさせ、このとき発生する摩擦熱によって接合面を昇温して固相状態のまま接合する方法である。例えば特許文献1の技術では、航空機エンジンの圧縮機又はタービンのロータとして適用される一体型翼車(ブリスク,ブリング)を修理するために摩擦圧接法を用いている。この種の一体型翼車は、ディスクの外周に多数のブレードを一体的に列設して構成されている。何れかのブレードが損傷したときには、破損したブレードを基部から切除した上で、切除後の基部に補修用のブレードを接合することで修理している。
【0003】
補修用ブレードの接合には線形摩擦圧接法(LFW:Linear Friction Welding)が用いられ、ディスクの基部に対して補修用ブレードを突き合わせて押圧力を作用させながら、直線上で往復動させて基部との間に摩擦熱を発生させて接合している。このような線形摩擦圧接法は一体型翼車の修理のみならず一体型翼車を製造するときにも利用され、ディスクの外周に列設された多数の基部に対して順にブレードを線形摩擦圧接法により接合している。
【0004】
以上のような摩擦圧接法は他の溶接法に比較して、接合部材の温度上昇を抑制できるため接合部材への熱影響が少なく、また接合箇所の酸化物等が摩擦により余盛として押し出されるので欠陥が発生し難いという長所を有する。その反面、摩擦熱により接合部材の接合箇所を軟化させるには強力な押圧力が必要なため、必然的に堅牢且つ機構的に大掛かりな装置を要して製造コストが嵩むという問題がある。
【0005】
このような問題の解決策として、事前に接合部材の両方又は一方を誘導加熱により予備的に加熱し(以下、予備加熱という)、その後に摩擦圧接法を実施する手法が提案されている。例えば特許文献2には、回転摩擦圧接法を用いた技術が開示されている。当該技術では、一対の棒状をなす接合部材を突き合わせて周囲を包囲するように加熱コイルを配設し、加熱コイルの電磁誘導作用により両接合部材の接合部位を予備加熱した後に、両接合部材を相対回転させて接合している。この予備加熱により回転摩擦圧接法の際に要求される押圧力を軽減し、装置の規模の縮小を図っている。
【0006】
また、当該特許文献2では、融点の異なる接合部材を摩擦圧接するにあたり、まず高融点の接合部材を低融点の接合部材の融点近傍まで予備加熱することによって、接合時に低融点の接合材に大量に生じる余盛の発生を極力抑えることとしている。
【0007】
このような予備加熱は、線形摩擦圧接法を用いた接合、例えば前記ディスクに対するブレードの接合等にも応用できる。ディスクの基部にブレードを突き合わせた状態では、加熱コイルを配置するスペースの確保が困難である。そこで、まずディスクの基部に対してブレードを離間配置し、両部材の間に加熱コイルを挿入して接合面を予備加熱し、次いで間隙内から加熱コイルを離脱させた後に、ブレードをディスクの基部に突き合わせて線形摩擦圧接法を実施する手順を採ることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−39746号公報
【特許文献2】特開平10−202373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記のような加熱コイルによる予備加熱は、双方の接合部材の接合面を均一に目標温度まで昇温させることが重要であり、それぞれの到達温度に誤差が生じたり、接合面の温度分布が不均一になったりした場合には、その後の摩擦圧接が想定した条件の下で行われなくなって接合強度が低下する可能性が生じる。
【0010】
そこで、前記特許文献2のように、まず高融点の接合部材を低融点の接合部材の融点近傍まで予備加熱することで、異なる融点の接合部材における温度分布を均一化する方法も考えられるが、これは少なくとも2度の予備加熱を行う必要があり、工数が増加するという問題が生じ、このように合計の予備加熱時間が増える場合には、熱伝導による熱影響範囲の拡大が懸念される。
【0011】
また、予備加熱時において、それぞれの接合部材の断面形状や、接合部材の把持治具からの突き出し量や、把持治具の形状が異なると、加熱コイルと接合部材の加熱面(接合面)との間に生じる磁場分布が非対称となり、接合部材の加熱面への鎖交磁束数とその分布が一対の接合部材間で異なることとなる。鎖交磁束によって接合部材内に渦電流が発生することでジュール発熱することから、両接合部材間で鎖交磁束数や分布が非対称となれば、発熱密度分布も異なることとなり、両接合部材の温度分布は不均一になる。例えば、両接合部材の突き出し量に数十mmの差が生じただけで予備加熱による温度差が数百℃となる場合もある。
【0012】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、摩擦圧接する以前に行われる予備加熱において、一対の接合部材における各々の突き出し量や断面形状や材質等の違いにかかわらず、一回の予備加熱により両接合部材の温度分布を適切に調整することができ、その結果、理想的な条件下において摩擦圧接を行い得る摩擦圧接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係る発明は、一対の接合部材を摩擦圧接させる摩擦圧接装置であって、前記一対の接合部材を把持して、当該接合部材の互いに対向する接合面同士を加圧接触させつつ相対的に運動させることで摩擦熱を生じさせる把持手段と、前記接合部材同士を相対的に運動させる以前に、前記一対の接合部材の互いに対向する接合面間に挿入されて、電磁誘導加熱により前記一対の接合部材の各接合面を予備加熱する加熱コイルを備え、 前記加熱コイルは、前記一対の接合部材の各接合面同士を結ぶ方向に沿って管体を複数巻きして形成されていると共に、一方側から他方側にかけて漸次形状
を変
えて形成され、前記管体を複数巻きして成る加熱コイルは、前記一対の接合部材における各接合面の輪郭よりも大きい外郭状加熱コイルとして形成され、前記加熱コイルの全体的な輪郭は、前記一対の接合部材における各接合面の断面形状に合わせて決定され、前記加熱コイルの一方側から他方側にかけての形状の変化は、前記一対の接合部材の加熱条件に応じて決定されている構成としたことを特徴としており、この構成の摩擦圧接装置を前述した従来の課題を解決するための手段としてい
る。
【0014】
本発明の請求項2に係る摩擦圧接装置において
、前記管体は削り出しにより形成され、矩形断面を有している構成としている。
【0015】
本発明に係る摩擦圧接装置において、加熱コイルの位置ずれを検出して修正するためのレーザヘッドなどの位置調整機構を備えた構成としてもよい。
また、複数巻きした加熱コイルに着脱可能なスペーサを絶縁材により製作して、加熱コイルの一巻毎の間隔を保持したり、型崩れを防いだりするようにしてもよい。
【0016】
本発明の請求項1に係る摩擦圧接装置では、複数巻きした加熱コイルの巻形状を一方側から他方側にかけて漸次変えているので、加熱コイルの左右面に作られる磁束分布を意図的に非対称とすることができ、したがって、一対の接合部材における各々の突き出し量や断面形状や材質等の違いによる磁束分布の非対称状態を相殺し得ることとなって、一回の予備加熱により両接合部材の温度分布を適切に調整し得ることとなる。
【0017】
また、本発明の請求項
1に係る摩擦圧接装置では、加熱コイルを一対の接合部材の各接合面の輪郭よりも大きい外郭状加熱コイルとして形成しているので、加熱コイル直下での発熱密度分布の急激な悪化が抑制され、加熱面全体においてむらの少ない発熱密度分布を実現し得ることとなり、本発明の請求項
2に係る摩擦圧接装置では、加熱コイルの管体が、削り出しにより形成された矩形断面を有しているものとしているので、コイル自体の剛性が向上すると共に、変形がし難いものとなる。
【0018】
なお、本発明に係る摩擦圧接装置において、加熱コイルを一対の接合部材の各接合面に対して意図的に傾けることで、例えば、接合部材の上部において加熱コイルとのギャップを小さくし、一方、接合部材の下部において加熱コイルとのギャップを大きくすることで、接合部材の上下方向の温度分布(発熱密度分布)を変化させることができるほか、加熱コイルを構成する管体として敢えて形状を変化させ易い細めの低剛性管体を採用すれば、接合部材に対する加熱コイルのギャップを調整しやすくなり、温度分布補正が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る摩擦圧接装置では、上記した構成としているので、一対の接合部材における各々の突き出し量や断面形状や材質等の違いに関係なく、一回の予備加熱で両接合部材の温度分布を適切に調整することができ、その結果、理想的な条件下において摩擦圧接を行うことが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る摩擦圧接装置を示す全体正面説明図である。
【
図2】
図1における摩擦圧接装置の加熱コイルと一対の接合部材との位置関係を示す部分斜視説明図である。
【
図3】
図1における摩擦圧接装置の把持手段に把持された一対の接合部材と加熱コイルとの位置関係を示す部分平面説明図である。
【
図4】
図1に示した摩擦圧接装置における加熱コイルの拡大正面説明図である。
【
図5】
図1に示した摩擦圧接装置における加熱コイルの半割斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を線形摩擦圧接装置に具体化した一実施形態を説明する。
説明の便宜上、
図1,
図4の上下方向を上下、
図1,
図4の左右方向を前後、
図1,
図4の紙面と直交する方向奥側を右、手前側を左として規定する。
図1に示すように、全体として摩擦圧接装置は、接合対象物である一対の接合部材W1,W2(
図1では紙面と直交する方向奥側の接合部材W1のみを記載し、紙面と直交する方向手前側の接合部材W2は記載せず)を把持して線形摩擦圧接法により接合する摩擦圧接部1と、接合部材W1,W2の接合に先立って加熱コイル5により予備加熱する予備加熱部2から構成されており、装置のベース4上にそれぞれ配置されている。
【0022】
なお、本実施形態では、
図2にも示すように、当該接合部材W1,W2は、航空機等に使用されるガスタービンエンジンのディスクDの外周に複数設けられるブレードであり、当該摩擦圧接装置は、ブレード先端側の接合部材W1をディスクDから突出しているブレード根元部分(
図2では1個のブレード根元部分のみ示す)の接合部材W2に接合するものとする。
【0023】
図3に示すように、摩擦圧接部1の一対の把持部(把持手段)6a,6bは左右方向に相対向して配置され、それぞれ接合部材W1,W2が脱着可能に把持されている。両把持部6a,6bはそれぞれ駆動装置6に支持されており、駆動装置6は線形摩擦圧接法による接合部材W1,W2の接合のために両把持部6a,6bを左右方向及び上下方向に駆動するようになっている。具体的には、左右方向への駆動は、両把持部6a,6bを接近或いは離間させるように行われ、後述する予備加熱後には、両把持部6a,6bは,
図3に示す離間状態から互いに接近し、接合部材W1,W2の接合面を突き合わせて押圧力を作用させ得るようになっている。
【0024】
また、両把持部6a,6bの上下方向、すなわち、接合部材W1,W2の各接合面の長手方向(
図3では紙面と直交する方向)への駆動は、両接合部材W1,W2を直線上で相対的に往復動させるように行われ、前記接合面を突き合わせた状態で押圧力を作用させながら両接合部材W1,W2を往復動させることにより、両接合部材W1,W2の各接合面に摩擦熱を発生させて接合させ得るようになっている。
【0025】
なお、本実施形態では両把持部6a,6bをいずれも接離及び往復動させているが、これに限ることはない。例えば何れか一方の把持部6a(或いは6b)を固定し、この把持部6a(或いは6b)に対して他方の把持部6b(或いは6a)を相対的に接離及び往復動させるように構成してもよい。
【0026】
予備加熱部2は摩擦圧接部1の後方位置に配置されている。ベース4上には予備加熱部2の直動ステージ7が設置され、この直動ステージ7上に配設された制御ボックス8が直動ステージ7に沿って前後方向に移送されるようになっている。制御ボックス8からは前方に向けて水平に支持アーム9が延設され、支持アーム9の二股状に分岐した先端には加熱コイル5が接続されている。
【0027】
このように、加熱コイル5は支持アーム9の先端に支持され、加熱コイル5の上下位置は予備加熱部2の接合部材W1,W2の高さと一致している。制御ボックス8と共に加熱コイル5は直動ステージ7に沿って移送され、前側のストローク端では、
図1に仮想線で示すように、把持部6a,6bに把持されている両接合部材W1,W2の間に挿入され、後側のストローク端では、
図1に実線で示すように、両接合部材W1,W2の間から後方に離脱するようになっている。
【0028】
制御ボックス8内には高周波誘導加熱回路が収容され、この高周波誘導加熱回路は電力線12を介して高周波電源13に接続されると共に、ブスバー14を介して加熱コイル5と電気的に接続されている。高周波誘導加熱回路は高周波電源13からの電力供給によりブスバー14を通じて加熱コイル5に高周波電流を流す。その結果、加熱コイル5と接合部材W1,W2との間、及び、両接合部材W1,W2内に磁束が生起され、両接合部材W1,W2内の磁束を妨げる渦電流の発生により接合部材W1,W2の各接合面が加熱されるようになっている。
【0029】
この場合、加熱コイル5は、一対の接合部材W1,W2の各接合面同士を結ぶ左右方向に沿って巻数4ターン5a,5b,5c,5dで形成されている。これらのターン5a,5b,5c,5dは、
図2に示すように、接合部材W2側のターン5aから順に一巻毎に漸次輪郭が大きくなるように形成されており、
図4にも示すように、4ターン5a,5b,5c,5dのうちの最も小さいターン5aの輪郭が、一対の接合部材W1,W2(
図4において接合部材W2は図示せず)における各接合面の輪郭よりも大きい外郭状加熱コイルとして形成されている。
【0030】
この実施形態において、加熱コイル5は、
図5に示すように、削り出しにより形成された銅製の中空矩形断面を有する管体から構成され、4ターン5a,5b,5c,5dは、それぞれ互いに独立したリング体を成していて、パイプ5fを介して互いに接続されている。この加熱コイル5は、配管5e及び支持アーム9内に形成された水路を介して制御ボックス8内の図示しない冷却水タンクと接続されている。冷却水タンクの冷却水はポンプにより汲み出され、加熱コイル5の溶損防止のために支持アーム9の水路及び配管5eを経て加熱コイル5内に導入され、4ターン5a,5b,5c,5dを循環した後、冷却水タンク側に戻されるようになっている。
【0031】
次に、上記した線形摩擦圧接装置による接合部材W1,W2の接合作業を説明する。
まず、直動ステージ7上で制御ボックス8を後方に移送して加熱コイル5を退避位置に切り換える。
【0032】
次いで、摩擦圧接部1の両把持部6a,6bを互いに離間させて接合部材W1,W2をそれぞれ把持させたうえで、両接合部材W1,W2の各接合面が予め設定した間隔となるように両把持部6a,6bを互いに接近させる。
【0033】
この状態で直動ステージ7に沿って制御ボックス8を前方に移送して加熱コイル5を挿入位置に切り換え、加熱コイル5を両接合部材W1,W2間に挿入する。
【0034】
この後、高周波誘導加熱回路により加熱コイル5に高周波電流を流し、接合部材W1,W2の接合面を予備加熱する。予備加熱時の電流値及び予備加熱の継続時間は、予め試験により求められた値に基づき制御される。
【0035】
このとき、両把持部6a,6bからの接合部材W1,W2の各突き出し量d1,d2に違いがあるが、複数巻きした加熱コイル5の巻形状をターン5aから順に変えることで、この突き出し量d1,d2の違いによる磁束分布の非対称状態を相殺するようにしているので、両接合部材W1,W2の温度分布を適切に調整し得ることとなる。
【0036】
また、加熱コイル5の4ターン5a,5b,5c,5dのうちの最も小さいターン5aの輪郭を一対の接合部材W1,W2における各接合面の輪郭よりも大きく設定しているので、加熱コイル5直下での発熱密度分布の急激な悪化が抑制されることとなり、加熱面全体においてむらの少ない発熱密度分布が得られる。
【0037】
そして、予備加熱を完了すると、制御ボックス8を直動ステージ7に沿って後方に移送する。加熱コイル5は両接合部材W1,W2の間から離脱して退避位置に切り換えられ、これに続いて、駆動装置6により両把持部6a,6bを互いに接近方向に駆動し、それぞれの接合部材W1,W2の接合面を突き合わせたうえで押圧力を作用させ、両把持部材6a,6bを直線上で逆方向に往復動させる。
【0038】
これにより両接合部材W1,W2の各接合面の間に摩擦熱が発生し、接合面が軟化して接合可能な温度に到達すると、両接合部材W1,W2を予め設定された相対位置で停止させてアプセット圧力(フォージ圧力)を加えて接合する。以上で一連の圧接作業が完了する。
【0039】
このように本実施形態の線形摩擦圧接装置によれば、一対の接合部材1,W2における各々の突き出し量や断面形状や材質等の違いに関係なく、一回の予備加熱で両接合部材1,W2の温度分布を適切に調整することができるので、その後の線形摩擦圧接法を理想的な条件で実施して、両接合部材W1,W2を良好に接合することができる。
【0040】
また、本実施形態の線形摩擦圧接装置によれば、加熱コイル5を構成する管体が、削り出しにより形成された中空矩形断面を有しているものとしているので、加熱コイル5自体の剛性が向上すると共に、変形がし難いものとなる。
【0041】
なお、本実施形態に係る摩擦圧接装置において、加熱コイル5を一対の接合部材W1,W2の各接合面に対して意図的に傾けることで、例えば、接合部材W1,W2の上部において加熱コイル5とのギャップを小さくし、一方、接合部材W1,W2の下部において加熱コイル5とのギャップを大きくすることで、接合部材W1,W2の上下方向の温度分布(発熱密度分布)を変化させることができるほか、加熱コイル5を構成する管体を敢えて形状を変化させ易い細めの低剛性管体にすれば、接合部材W1,W2に対する加熱コイル5のギャップを調整しやすくなり、温度分布補正が可能となる。
【0042】
本発明に係る摩擦圧接装置の構成は、この実施形態の線形摩擦圧接装置に限定されるものではなく、他の構成として、例えば、加熱コイル5の位置ずれを検出して修正するためのレーザヘッドなどの位置調整機構を備えた構成としてもよい。
また、複数巻きした加熱コイル5に着脱可能なスペーサを絶縁材により製作して、加熱コイル5の4ターン5a,5b,5c,5dの各間隔を保持したり、型崩れを防いだりするようにしてもよい。
【0043】
さらに、この実施形態の線形摩擦圧接装置において、加熱コイル5が互いに独立したリング体を成す4つのターン5a,5b,5c,5dから形成されていて、互いにパイプ5fを介して接続されている構成としているが、これに限定されるものではなく、らせん状を成す加熱コイルとしてもよい。
【0044】
なお、接合部材W1,W2に対する加熱コイル5の三次元的な位置関係が同じであれば、接合部材W1,W2の形状に応じて、加熱コイル5を間にして接合部材W1,W2を例えば上下方向に相対向して配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
5 加熱コイル(管体)
5a,5b,5c,5d ターン
6a,6b 把持部(把持手段)
W1,W2 一対の接合部材