特許第6020896号(P6020896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020896
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   H01M12/06 B
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-196728(P2012-196728)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2013-77548(P2013-77548A)
(43)【公開日】2013年4月25日
【審査請求日】2015年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-201704(P2011-201704)
(32)【優先日】2011年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】長山 森
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓貴
(72)【発明者】
【氏名】塚田 佳子
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−131474(JP,A)
【文献】 特開平06−267594(JP,A)
【文献】 特開平01−320783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/00 − 16/00
H01M 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、前記正極層上に積層された電解質層と、前記電解質層上に積層された負極層と、前記正極層上に積層され、前記正極層に対して前記電解質層と逆側に位置する導電性液密通気層と、を備える空気電池を複数備え、
第一の空気電池における導電性液密通気層と前記第一の空気電池と隣り合う第二の空気電池における負極層との間に介在し、酸素含有ガスを流通させる流路が設けられ、
前記第一の空気電池が、前記導電性液密通気層を介して、前記第二の空気電池における負極層と電気的に接続していることを特徴とする組電池。
【請求項2】
前記流路が、内部に導電性多孔体を備え、
前記空気電池における層厚み方向と前記組電池における導電経路方向とが、平行に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の組電池。
【請求項3】
前記導電性液密通気層が、導電性及び水密通気性を有する導電性撥水層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組電池。
【請求項4】
前記導電性撥水層が、撥水性を有する導電材、並びに撥水材及び導電材を含むものの少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項3に記載の組電池。
【請求項5】
前記導電性撥水層が、微多孔膜、繊維集合体及び繊維構造体からなる群より選ばれる少なくとも1種のものを含有することを特徴とする請求項3又は4に記載の組電池。
【請求項6】
前記導電材が、繊維状導電材及び粒子状導電材の少なくとも一方であることを特徴とする請求項4に記載の組電池。
【請求項7】
前記導電材が、カーボン及び金属の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項4又は6に記載の組電池。
【請求項8】
前記撥水材が、オレフィン系樹脂及びフッ素系樹脂の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項4に記載の組電池。
【請求項9】
前記導電性多孔体が、粒子集合体、繊維集合体、繊維構造体及び多孔板からなる群より選ばれる少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項2に記載の組電池。
【請求項10】
前記導電性多孔体が、カーボン及び金属の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項2又は9に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、空気電池を複数備えた組電池に関する。更に詳細には、本発明は、内部抵抗を低減しうる空気電池を用いた組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は空気中の酸素を活物質として利用する電池であり、経済的であると同時に長期間無保守で使用できる電源といえる。一般的には、金属製の負極ケースと、空気孔を有する金属製の正極ケースとを、ガスケットを介して嵌め合せた構造を有するボタン型電池が知られている。このケース嵌合体の内部空間において、負極、セパレータ、空気極(正極)、撥水膜及び電解液がそれぞれ配置されている。このようなボタン型電池においては、ケース嵌合体の内部空間が電解液を含浸したセパレータにより分割されている。一方の空間には亜鉛が充填されて負極となり、他方の空間には触媒が配置されて空気極(正極)となる。更に、空気極側のセパレータと反対側にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質フィルムから構成される撥水膜が配置されている。
【0003】
特許文献1では、撥水膜の水分除去機能をより一層向上させ、ボタン型電池の長寿命化を図ることを目的として、撥水膜を構成するPTFE多孔質フィルムに特定の処理を施すことが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3034110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが空気電池を組電池とすることについて検討したところ、特許文献1に記載されている優れた撥水性を有する撥水膜を適用するだけでは、十分な性能を有する組電池を構成することができないという新たな問題点を発見した。この問題点は、撥水膜などでの内部抵抗の増大に起因するものであるから、ボタン型電池を適用対象としている特許文献1においては全く言及されていないものである。
【0006】
本発明は、このような新たな問題点を解決するためになされたものである。そして、本発明は、内部抵抗を低減しうる空気電池を複数備えた組電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の態様に係る組電池は、正極層と、正極層上に積層された電解質層と、電解質層上に積層された負極層と、正極層上に積層され、正極層に対して電解質層と逆側に位置する導電性液密通気層とを備える空気電池を複数備える。そして、第一の空気電池における導電性液密通気層と第一の空気電池と隣り合う第二の空気電池における負極層との間に介在し、酸素含有ガスを流通させる流路が設けられている。さらに、第一の空気電池が、導電性液密通気層を介して、第二の空気電池における負極層と電気的に接続している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る組電池の概略的な構成を示す断面図である。
図2図2は、本発明の第2の実施形態に係る組電池の概略的な構成を示す断面図である。
図3図3は、本発明の第3の実施形態に係る組電池の概略的な構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の組電池について、図面に基づき詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
[空気電池]
気電池10は、図1に示すように、負極層11と、電解質層13と、正極層12と、をこの順に積層した構成を有する。そして、正極層12上に積層され、正極層12に対して電解質層13と逆側に位置する導電性液密通気層14を有している。すなわち、図1の空気電池10においては、導電性液密通気層14と電解質層13との間に正極層12が介在する構成となっている。なお、「導電性液密通気層」とは、導電性及び通気性を有すると同時に、液体を遮断して移動を妨げる機能を持ち、これにより電解質層からの液体の外部への漏出を防止する性能を有する層を意味する。空気電池10は、上記構成を有することにより、導電経路を太くすることができるため、内部抵抗を低減することが可能になる。本明細書において、「導電経路」とは、空気電池を流れる電流の経路を意味する語である。すなわち、本形態の空気電池を構成する各層の積層面に対して垂直の方向を「導電経路方向」と称し、「導電経路」はこの方向に沿う経路である。
【0012】
[組電池]
また、本発明の一実施形態に係る組電池は、上述の空気電池を複数備えるものである。そして、第一の空気電池における導電性液密通気層と、第一の空気電池と隣り合う第二の空気電池における負極層と、の間に介在し、酸素含有ガスを流通させる流路が形成されている。さらに、第一の空気電池が、導電性液密通気層を介して、第二の空気電池における負極層と電気的に接続している。このような構成とすることにより、導電性液密通気層における内部抵抗を低減して、導電経路を太くすることができるため、内部抵抗を低減することが可能になる。ここで、「接続」とは、直接接続及び並列接続の両方を含む意味である。そして、直列接続とした場合は、特に導電経路を太く短くすることができ、内部抵抗をより低減できる。
【0013】
また、本形態の組電池は、流路内部に導電性多孔体を備えるものであることが好ましい。このような構成とすることにより、第一の空気電池における正極層と、隣り合う他の空気電池の負極層とが、導電性液密通気層及び流路における導電性多孔体を介して電気的に接続される。その結果、内部抵抗を低減することができる。また、空気電池における層厚み方向と組電池における導電経路方向とが、平行に構成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。加えて、第一の空気電池における正極層と、隣り合う他の空気電池の負極層と、を導電性液密通気層及び流路における導電性多孔体を介して電気的に接続することができる。これにより、導電経路を太く、短くすることができるため、内部抵抗をより低減することが可能になる。接続の態様としては、上記観点から直列接続が好ましい。
【0014】
更に、本実施形態の組電池は、導電性液密通気層が、導電性及び水密通気性を有する導電性撥水層であるものであることが好ましい。なお、水密通気性とは、通気性を有すると同時に、水溶液を遮断して外部への漏出を防止する性能を意味する。このような構成とすることにより、電解質層に含まれる液体として水溶液を用いた場合であっても、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
【0015】
また、本実施形態の組電池は、導電性撥水層が、撥水性を有する導電材、並びに撥水材及び導電材を含むものの少なくとも一方を含有するものであることが好ましい。このような構成とすることにより、導電性撥水層における導電材の形態について特に限定されることなく、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
【0016】
更に、本実施形態の組電池は、導電性撥水層が、微多孔膜、繊維集合体若しくは繊維構造体又はこれらの任意の組み合わせに係るものを含有するものであることが好ましい。このような構成とすることにより、導電性撥水層の層構造の形態について特に限定されることなく、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
【0017】
また、本実施形態の組電池は、導電材が、繊維状導電材及び粒子状導電材のいずれか一方又は双方を含有するものであることが好ましい。このような構成とすることにより、導電材の形状が繊維状、粒子状のいずれであっても、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
【0018】
更に、本実施形態の組電池は、導電材が、カーボン及び金属のいずれか一方又は双方を含有するものであることが好ましい。導電性に優れたカーボンや金属を適用する構成とすることにより、液密通気層における内部抵抗をより低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができ、内部抵抗をより低減することが可能になる。
【0019】
また、本実施形態の組電池は、撥水材が、オレフィン系樹脂及びフッ素系樹脂のいずれか一方又は双方を含有するものであることが好ましい。撥水性に優れたオレフィン系樹脂やフッ素系樹脂を適用する構成とすることにより、液密性の低減を抑制しつつ、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができるため、内部抵抗を低減することが可能になる。
【0020】
更に、本実施形態の組電池は、導電性多孔体が、粒子集合体、繊維集合体、繊維構造体若しくは多孔板又はこれらの任意の組み合わせに係るものであることが好ましい。このような構成とすることにより、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。さらに、一の空気電池の正極層と、隣り合う他の空気電池の負極層とを、当該正極層上の導電性液密通気層及び流路における導電性多孔体を介して電気的に接続することができる。これにより、導電経路を太く、短くすることができるため、内部抵抗をより低減することが可能になる。接続の態様としては、上記観点から直列接続が好ましい。
【0021】
また、本実施形態の組電池は、導電性多孔体が、カーボン及び金属のいずれか一方又は双方を含有するものであることが好ましい。導電性に優れたカーボンや金属を適用する構成とすることにより、導電性多孔体における内部抵抗をより低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができ、内部抵抗をより低減することが可能になる。
【0022】
更に、本実施形態の組電池は、撥水性を有する導電材及び撥水材のいずれか一方又は双方が、非撥水性材料を撥水処理して得られるものを含有するものであることが好ましい。なお、撥水処理としては、例えばフッ素処理を挙げることができる。このフッ素処理は、特に限定されるものではなく、非撥水性材料の種類に応じて、従来公知の各種フッ素処理を適用すればよい。このような構成とすることにより、撥水性を呈する材料について特に限定されることなく、液密通気層における内部抵抗を低減することができる。その結果、導電経路を太くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
【0023】
以下、本発明の若干の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る組電池の概略的な構成を示す断面図である。なお、図1に示す矢印は導電経路方向を示している。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の組電池1は、上述の空気電池を複数備えている。第一の空気電池10は、負極層11、電解質層13、正極層12及び導電性液密通気層の一例である導電性撥水層14がこの順で積層された構成を有する。そして、負極集電層21上に負極層11が積層された構成を有している。第一の空気電池10に隣り合う第二の空気電池10’は、勿論、第一の空気電池10と同様の構成を有するものである。なお、この例における第一の空気電池10と第二の空気電池10’とは、ばね22a及び第二の空気電池10’における負極集電層21’を介して積層されている。なお、ばね22aは正極集電部材の一例であり、負極集電層21,21’,21”は負極層外装材の一例である。また、第一の空気電池10の正極層12上に積層され、正極層12に対して電解質層13と逆側に位置する導電性撥水層14が設けられている。すなわち、導電性撥水層14を介して、第二の空気電池10’における負極集電層21’と正極層12とが電気的に接続する構成となっている。また、第一の空気電池10の正極層12上に積層された導電性撥水層14と、第二の空気電池10’における負極層と、の間に設けられたばね22a及び負極集電層21’によって、酸素含有ガスが流通する流路APが形成されている。このような構成により、空気電池の組電池としての機能を確保しつつ、導電経路を太くすることができる。その結果、内部抵抗を低減することが可能になる。なお、本実施形態においては、第一の空気電池10の正極層12上に設けられた導電性撥水層14と、第二の空気電池10’の負極層11と、の間に負極集電層21’が設けられているが、本発明の範囲に含まれるものである。ところで、本形態においては直列接続の構成を示して説明したが、これに限定されず、並列接続の態様もまた、本発明の範囲に包含される。
【0026】
以下、各構成について更に詳細に説明する。
【0027】
(負極層)
負極層11は、例えば、標準電極電位が水素より卑な金属単体又は合金から構成される負極活物質を含む。場合によっては、多孔質の材料で形成されてもよい。標準電極電位が水素より卑な金属単体としては、例えば、リチウム(Li)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)及びバナジウム(V)などを挙げることができる。また、合金を適用することもできる。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素又は非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。具体的には、上述の金属元素に1種以上の金属元素又は非金属元素を加えたものを挙げることができる。なお、合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物又は金属と非金属との化合物を形成しているものなどがある。本発明においては、上記いずれの合金組織であってもよい。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。
【0028】
(正極層)
正極層12は、例えば、触媒成分と、触媒成分を担持する導電性の触媒担体と、触媒成分を結着するバインダとを含み、多孔質構造が形成されている。なお、触媒担体及びバインダは必要に応じて含有される。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
【0029】
触媒成分としては、具体的には、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)及びアルミニウム(Al)等の金属並びにこれらの合金などから選択することができる。また、当該合金の組織に関しては上述した通りである。
【0030】
触媒成分の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、従来公知の触媒成分と同様の形状及び大きさを採用することができる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。また、触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nmであることが好ましい。触媒粒子の平均粒子径がこのような範囲内の値であると、触媒利用率と担持の簡便さとのバランスを適切に制御することができる。なお、触媒利用率は、電気化学反応が進行する電極表面の有効電極面積に関連するものである。
【0031】
なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定することができる。また、触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、及び触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。触媒担体としては、具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。
【0032】
なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、「炭素原子のみからなる」と「実質的に炭素原子からなる」との双方の意味を含む概念である。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容され得ることを意味する。
【0033】
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよく、好ましくは20〜1600m/g、より好ましくは80〜1200m/gである。触媒担体の比表面積がこのような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスを適切に制御することができる。
【0034】
触媒担体のサイズについても特に限定されるものではない。担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、触媒担体の平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とすることが好ましい。電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がこのような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御され得る。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定することができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。
【0035】
更に、バインダとしては、特に限定されるものではないが、以下のような材料を挙げることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)及びポリアミド(PA)が挙げられる。また、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体並びにスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物も挙げることができる。さらに、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)並びにポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂も挙げられる。その他、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム及びエポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらのバインダは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(電解質層)
電解質層13は、例えば、電解液、必要に応じて、多孔質のセパレータを含む。電解液は、例えば塩化カリウム、塩化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液や非水溶液を適用することができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の電解液を適用することができる。また、セパレータは、水溶液である電解液に対しては、例えば撥水処理を行っていないグラスペーパー、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜を好適に用いることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を適用することができる。
【0037】
(導電性液密通気層)
導電性液密通気層14は、例えば導電性撥水層を好適に用いることができる。当該導電性撥水層は、空気電池に含まれている電解液が漏液するのを抑制可能な撥水性を有する一方、ガスが比較的容易に流通可能な多孔質の構造を有する。さらに、当該導電性撥水層は、正極上で三相界面を形成して反応性を向上させるものであると同時に導電性を有しており、かつ、導電経路としても機能する。このような導電性液密通気層としては、撥水性を有する導電材や、撥水材及び導電材を含むものを挙げることができる。これらは、1種を単独で、2種以上を組み合わせて用いることができる。撥水性を有する導電材の代表例は、導電性高分子材料である。また、撥水材及び導電材を含むものの代表例は、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に導電材としての導電性フィラーが添加された樹脂である。
【0038】
導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル及びポリオキサジアゾールなどが挙げられる。このような導電性高分子材料は、導電材を添加しなくても十分な導電性を有する。
【0039】
また、非導電性高分子材料としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)及び低密度ポリエチレン(LDPE)などのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)並びにポリスチレン(PS)などが挙げられる。このような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性又は耐溶媒性を有する。その中でも、オレフィン系樹脂やフッ素系樹脂が好ましい。
【0040】
上記の導電性高分子材料又は非導電性高分子材料には、必要に応じて導電材を添加することができる。特に、基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電材が必須となる。導電材は、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性に優れた材料として、金属、導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、白金(Pt)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)及びカリウム(K)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属若しくはこれらの金属を含む合金又は金属酸化物を含むものを好適例として挙げることができる。
【0041】
また、導電性カーボンとしては、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、フラーレン及び気相成長炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを好適例として挙げることができる。
【0042】
導電材の形状は、特に限定されるものではなく、繊維状導電材や粒状導電材のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて適用することができる。また、例えば、上述した導電性高分子材料や導電性フィラーに適用されるような材料によって、多孔質導電性層を形成した後、フッ素処理などの撥水処理を施すことによって得られる導電性撥水層を適用することもできる。また、導電性撥水層は、上述したように多孔質であることも要求される。例えば、導電性フィラーに適用されるような材料によって形成される微多孔膜、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料によって形成される不織布などの繊維集合体を適用することができる。他にも、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料によって形成される織布などの繊維構造体を適用することができる。
【0043】
(負極集電層)
負極集電層21は、導電性を有し、電解液を空気電池外部に漏出させない材質のものであれば特に限定されるものではない。例えば、ステンレス鋼(SUS)や銅、銅合金、その他金属表面に耐食性のある金属をめっきしたものを挙げることができる。
【0044】
(ばね)
ばね22aは、正極集電材として機能するものであれば特に限定されるものではない。例えば、ステンレス鋼(SUS)や銅、ニッケルなどの金属でできたものを適用することができる。なお、本実施形態においては例示的にばね22aを用いる構成としたが、このような弾性体に限定されることはない。すなわち、上記導電性液密通気層として機能するものであればよく、ばね22aと同様の形状を有し、集電機能を有する非弾性体で代替することもできる。
【0045】
本実施形態においては、下記(1)〜(4)の構成を有するため、導電経路を太く、短くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
(1)第一の空気電池の正極層上に積層され、正極層に対して電解質層と逆側に位置する導電性液密通気層が設けられている。この導電性液密通気層は、撥水性を有する導電材を含有するものであり、撥水性を有する導電材は、微多孔カーボンにフッ素処理をしたものである。さらに、第一の空気電池の正極層は、導電性液密通気層を介して、隣り合う第二の空気電池の負極層と電気的に接続している。
(2)第一の空気電池の正極層に積層された導電性液密通気層と、隣り合う第二の空気電池の負極層と、の間において、酸素含有ガスが流通する流路が形成されている。
(3)流路が、流路内に導電性多孔体ではないが、金属製のばねを有するものである。さらに、空気電池における層厚み方向と、組電池における導電経路方向とが平行である。
(4)導電性液密通気層が、導電性及び水密通気性を有する導電性撥水層であるため、電解質層に含まれる液体として通常の水溶液を適用することができる。
【0046】
[第2の実施形態]
図2は、第2の実施形態に係る組電池の概略的な構成を示す断面図である。なお、図2に示す矢印は導電経路方向を示している。また、第1の実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図2に示すように、本実施形態の組電池1’は、正極集電部材及び導電性撥水層の構成において、上述した第1の実施形態の組電池1と相違している。すなわち、本実施形態においては、正極集電部材の一例である導電性多孔体としてステンレス鋼(SUS)のメッシュ22bが適用されている。さらに、導電性撥水層14としては、オレフィン系樹脂の不織布とカーボン繊維14aとを混合したものに対して、フッ化処理を施したものが適用されている。
【0048】
導電性多孔体22bとしては、金属粉末焼結体などの粒子集合体を適用することができる。また、金属繊維、カーボン繊維及び導電性樹脂繊維等の不織布などの繊維集合体並びに金属繊維、カーボン繊維及び導電性樹脂繊維等の織布やメッシュなどの繊維構造体も適用することができる。さらに、パンチングメタル及びエキスパンドメタルなどの多孔板も適用することができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、従来公知の集電部材を適宜適用することができる。
【0049】
本実施形態においては、下記(1)〜(4)の構成を有するため、導電経路を太く、短くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
(1)第一の空気電池の正極層上に積層され、正極層に対して電解質層と逆側に位置する導電性液密通気層が設けられている。この導電性液密通気層は、撥水材及び導電材を含有する。すなわち、オレフィン系樹脂の不織布にカーボン繊維を混合し、フッ素処理をしたものを適用する。さらに、第一の空気電池の正極層は、導電性液密通気層を介して、隣り合う第二の空気電池の負極層と電気的に接続している。
(2)第一の空気電池の正極層に積層された導電性液密通気層と、隣り合う第二の空気電池の負極層と、の間において、酸素含有ガスが流通する流路が形成されている。
(3)流路が、流路内に導電性多孔体の一例であるステンレス鋼(SUS)のメッシュを有するものである。さらに、空気電池における層厚み方向と組電池における導電経路方向とが平行である。
(4)導電性液密通気層が、導電性及び水密通気性を有する導電性撥水層であるため、電解質層に含まれる液体として通常の水溶液を適用することができる。
【0050】
[第3の実施形態]
図3は、第3の実施形態に係る組電池の概略的な構成を示す断面図である。なお、図3に示す矢印は導電経路方向を示している。また、第1の実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
図3に示すように、本実施形態の組電池1’’は、正極集電部材及び導電性撥水層の構成において、上述した第1の実施形態の組電池1と相違している。すなわち、本実施形態においては、正極集電部材としてステンレス鋼(SUS)のメッシュ22bが適用されている。さらに、導電性撥水層14としては、オレフィン系樹脂の不織布とカーボン粒子14bとを混合したものに対して、フッ化処理を施したものが適用されている。
【0052】
本実施形態においては、下記(1)〜(4)の構成を有するため、導電経路を太く、短くすることができ、内部抵抗を低減することが可能になる。
(1)第一の空気電池の正極層上に積層され、正極層に対して電解質層と逆側に位置する導電性液密通気層が設けられている。この導電性液密通気層は、撥水材及び導電材を含有する。すなわち、オレフィン系樹脂の不織布にカーボン粒子を混合し、フッ素処理をしたものを適用する。さらに、第一の空気電池の正極層は、導電性液密通気層を介して、隣り合
う第二の空気電池の負極層と電気的に接続している。
(2)第一の空気電池の正極層に積層された導電性液密通気層と、隣り合う第二の空気電池の負極層と、の間において、酸素含有ガスが流通する流路が形成されている。
(3)流路が、流路内に導電性多孔体の一例であるステンレス鋼(SUS)のメッシュを有するものである。さらに、空気電池における層厚み方向と組電池における導電経路方向とが平行である。
(4)導電性液密通気層が、導電性及び水密通気性を有する導電性撥水層であるため、電解質層に含まれる液体として通常の水溶液を適用することができる。
【0053】
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0054】
例えば、導電性撥水層や正極集電部材の構成の細部を変更することができる。他にも、各実施形態の構成を上述した各実施形態以外の組み合わせにしたりすることができる。
【0055】
日本国特許出願特願2011−201704号(出願日:2011年9月15日)の全内容は、ここに引用される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、正極層と、電解質層と、負極層と、導電性液密通気層と、を有する空気電池を複数備えた組電池において、下記(1)及び(2)の構成を有するものとした。そのため、内部抵抗を低減し得る組電池を提供することができる。(1)第一の空気電池における導電性液密通気層と第一の空気電池と隣り合う第二の空気電池における負極層との間に介在し、酸素含有ガスを流通させる流路が設けられている。(2)第一の空気電池が、導電性液密通気層を介して、第二の空気電池における負極層と電気的に接続している。
【符号の説明】
【0057】
1、1’、1’’ 組電池
10、10’ 空気電池
11 負極層
12 正極層
13 電解質層
14 導電性液密通気層(導電性撥水層)
14a カーボン繊維
14b カーボン粒子
21、21’、21’’ 負極集電層
22a ばね
22b 導電性多孔体(メッシュ)
AP 酸素含有ガス流路
図1
図2
図3