特許第6020902号(P6020902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎化成工業株式会社の特許一覧

特許6020902環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤並びに該環状ジケトン構造を有するポリマーおよびポリマーの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020902
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤並びに該環状ジケトン構造を有するポリマーおよびポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20161020BHJP
   C08F 20/02 20060101ALI20161020BHJP
   C08F 18/08 20060101ALI20161020BHJP
   C08F 12/08 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C08F2/38
   C08F20/02
   C08F18/08
   C08F12/08
【請求項の数】12
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-234403(P2012-234403)
(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公開番号】特開2014-84406(P2014-84406A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000199795
【氏名又は名称】川崎化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152928
【弁理士】
【氏名又は名称】草部 光司
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊一
(72)【発明者】
【氏名】井内 啓太
(72)【発明者】
【氏名】沼田 繁明
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−505196(JP,A)
【文献】 特開平6−299488(JP,A)
【文献】 特開平3−163072(JP,A)
【文献】 特公昭58−455(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤。
【化1】

(一般式(1)中、環Aは、炭素数6の飽和若しくは不飽和のシクロ環、炭素数7の飽和若しくは不飽和のビシクロ環、又はエポキシ環を示し、X及びYは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数、mは0乃至5の整数を示し、複数あるX及びYは、同一であっても、異なっていてもよい。但し、環Aがエポキシ環の場合は、mが0となる。)
【請求項2】
一般式(1)で示される化合物が、下記の一般式(2)又は(3)で示される化合物である、請求項1に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤。
【化2】

(一般式(2)中、Yは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【化3】

(一般式(3)中、Yは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【請求項3】
一般式(1)で示される化合物が、下記の一般式(4)又は(5)で示される化合物である、請求項1に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤。
【化4】

(一般式(4)中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【化5】

(一般式(5)中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【請求項4】
一般式(1)で示される化合物が、下記の一般式(6)で示される化合物である、請求項1に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤。
【化6】

(一般式(6)中、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤と連鎖移動助剤とを含有することを特徴とする、連鎖移動剤組成物。
【請求項6】
連鎖移動助剤がイソプロピルアルコールである、請求項5に記載の連鎖移動剤組成物。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤と、ラジカル重合性化合物とを含有するラジカル重合性組成物。
【請求項8】
請求項5又は請求項6に記載の連鎖移動剤組成物と、ラジカル重合性化合物とを含有するラジカル重合性組成物。
【請求項9】
ラジカル重合性化合物が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル又はスチレンであることを特徴とする請求項7又は8に記載のラジカル重合性組成物。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載のラジカル重合性組成物をラジカル重合して得られるポリマーであって、ポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマー。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の存在下、ラジカル重合性化合物をラジカル重合することを特徴とする、ポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーの製造方法。
【請求項12】
請求項5又は6に記載の連鎖移動剤組成物存在下、ラジカル重合性化合物をラジカル重合することを特徴とする、ポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量ポリマーを得るために、又、分子内に環状ジケトン構造を有するポリマーを得るために有用な連鎖移動剤に関する。特に、ラジカル重合性化合物に適用可能な環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤並びにそれを用いて製造したポリマーおよびポリマーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合性化合物は、合成樹脂の原料として工業的に広範に利用されている有機化合物であり、このようなラジカル重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸(以下、アクリル酸、メタクリル酸をまとめて「(メタ)アクリル酸」と記載する。)、及びそれらのエステル、スチレン系化合物等の多種の化合物が知られている。
【0003】
これらラジカル重合性化合物の重合過程において、目的とする用途に応じて生成ポリマーの分子量を調節することは有益である。特に、コーティング剤、接着剤、粘着剤、紙力増強剤、バインダー、レジストなどの用途に用いるとき、分子量調整は重要な技術となっている。
【0004】
ラジカル重合性化合物の重合反応において分子量を調整する技術としては種々あるが、重合系へ連鎖移動剤を添加する方法が良く用いられる。この連鎖移動剤としては、従来はおもに四塩化炭素に代示されるハロゲン化炭化水素、t−あるいはn−ドデシルメルカプタンに代示されるアルキルメルカプタン化合物あるいはスルフィド化合物などが使用されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0005】
例えば、塗料、接着剤やシーリング材などの用途に、低分子量のアクリルポリマーなどが多く用いられてきているが、このような低分子量のアクリルポリマーを製造する場合には、連鎖移動剤としてのメルカプタン化合物が用いられる(例えば、特許文献4〜6参照。)。
【0006】
また、スチレンの重合においては、平均分子量や分子量分布、メルトフローインデックスなどを調整するためメルカプタン系の連鎖移動剤が添加されている(例えば、特許文献7、8参照。)。
【0007】
また、複写機やプリンターに用いられる重合トナーの製造において、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーの重合の際、低分子量化とシャープな分子量分布を得るために、メルカプタン系の連鎖移動剤が用いられている(例えば、特許文献9、10参照。)。
【0008】
一方、連鎖移動剤は上記のように分子量を調整するだけでなく、一般にその反応機構から、ポリマー末端に自らの残基を付与することも知られている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。そのことを利用して、官能基を有した連鎖移動剤を用いることにより、ポリマー末端に官能基を付与する手法も提案されている(例えば特許文献11、12、非特許文献4、5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−522411号公報
【特許文献2】特開2008−519137号公報
【特許文献3】特開平9−118841号公報
【特許文献4】特公昭58−455号公報
【特許文献5】特開昭55−5950号公報
【特許文献6】特公昭46−40693号公報
【特許文献7】特開2002−241413号公報
【特許文献8】特開2009−197105号公報
【特許文献9】特開平7−330912号公報
【特許文献10】特開2004−224840号公報
【特許文献11】特公昭57−10850号公報
【特許文献12】特開2010−222285号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Gerge Odian著 PRINCIPLES OF POLYMERIZATION(FOURTH Edition)(2004)238頁
【非特許文献2】大津隆行著「高分子合成の化学」(化学同人、1979)93頁
【非特許文献3】蒲池幹治編「ラジカル重合ハンドブック」(NTS、2010)47頁
【非特許文献4】Shimon Tanaka, Haruo Nishida, and Takeshi Endo, Macromolecules 2009, 42, 293−298頁
【非特許文献5】小川哲夫、塗料の研究、No.137,Oct,2001,11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、ハロゲン化炭化水素、中でも四塩化炭素は、地球のオゾン層を破壊するなど環境上の問題があり、アルキルメルカプタンやスルフィドは臭気が強く取扱い上問題があるうえ、樹脂に臭気が残るという問題があった。また、これらの連鎖移動剤を用いた場合、当然に重合末端に硫黄やハロゲンが取り込まれることとなり、容器等を腐食させ、樹脂が吸湿性となり、さらに樹脂を廃棄処理するときに環境問題となる。一方、アルファメチルスチレンダイマーは、環境上の問題は少なく、広く使用されているが、依然として臭気を有するという問題がある。
【0012】
また、連鎖移動剤が成長ポリマー末端に付加し連鎖移動することが知られており、そのことを利用して末端に官能基を有するポリマーを製造することも提案されている(例えば特許文献11、12、非特許文献4、5参照。)。しかしながら、それらの連鎖移動剤はいずれも上記のハロゲン化炭化水素、アルキルメルカプタン、アルファメチルスチレンダイマーの誘導体であり、上述の欠点をそのまま有していると言わざるをえない。
【0013】
よって、本発明は、臭気や腐食性、吸湿性の問題がなく、環境にやさしく、連鎖移動能が大きい新しいタイプの連鎖移動剤を提供することにある。さらに、本発明の目的は、末端に官能基を有する環状ジケトン構造を付与されたポリマーおよびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するため、ラジカル重合性化合物の連鎖移動剤につき鋭意検討した結果、本願発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤が、分子内にハロゲンや硫黄原子を持たず、従来より知られている連鎖移動剤とは全く異なる構造であるにもかかわらず、優れた連鎖移動効果を有すること、また分子内に本発明の連鎖移動剤に由来する環状ジケトン構造を有するポリマーを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明における第一の発明は、下記一般式(1)で示される環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に存する。
【0016】
【化1】
【0017】
(一般式(1)中、環Aは、炭素数6の飽和若しくは不飽和のシクロ環、炭素数7の飽和若しくは不飽和のビシクロ環、又はエポキシ環を示し、X及びYは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数、mは0乃至5の整数を示し、複数あるX及びYは、同一であっても、異なっていてもよい。但し、環Aがエポキシ環の場合は、mは0となる。)
【0018】
本発明における第二の発明は、一般式(1)で示される化合物が、下記の一般式(2)又は(3)で示される化合物である、第一の発明に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に存する。
【0019】
【化2】
【0020】
(一般式(2)中、Yは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0021】
【化3】
【0022】
(一般式(3)中、Yは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0023】
本発明における第三の発明は、一般式(1)で示される化合物が、下記の一般式(4)又は(5)で示される化合物である、第一の発明に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に存する。
【0024】
【化4】
【0025】
(一般式(4)中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0026】
【化5】
【0027】
(一般式(5)中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0028】
本発明における第四の発明は、一般式(1)で示される化合物が、下記の一般式(6)で示される化合物である、第一の発明に記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に存する。
【0029】
【化6】
【0030】
(一般式(6)中、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0031】
本発明における第五の発明は、第一の発明乃至第4の発明のいずれかひとつに記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤と連鎖移動助剤とを含有することを特徴とする、連鎖移動剤組成物に存する。
【0032】
本発明における第六の発明は、連鎖移動助剤がイソプロピルアルコールである、第五の発明に記載の連鎖移動剤組成物に存する。
【0033】
本発明における第七の発明は、第一の発明乃至第四の発明のいずれかひとつに記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤と、ラジカル重合性化合物とを含有するラジカル重合性組成物に存する。
【0034】
本発明における第八の発明は、第五の発明又は第六の発明に記載の連鎖移動剤組成物と、ラジカル重合性化合物とを含有するラジカル重合性組成物に存する。
【0035】
本発明における第九の発明は、ラジカル重合性化合物が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル又はスチレンであることを特徴とする第七の発明又は第八の発明に記載のラジカル重合性組成物に存する。
【0036】
本発明における第十の発明は、第七の発明乃至第九の発明のいずれかひとつに記載のラジカル重合性組成物をラジカル重合して得られるポリマーであって、ポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーに存する。
【0037】
発明における第十一の発明は、第一の発明乃至第四の発明のいずれかひとつに記載の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の存在下、ラジカル重合性化合物をラジカル重合することを特徴とする、ポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーの製造方法に存する。
【0038】
本発明における第十二の発明は、第五の発明又は第六の発明に記載の連鎖移動剤組成物存在下、ラジカル重合性化合物をラジカル重合することを特徴とする、ポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーの製造方法に存する。
【0039】
本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを表す。
【発明の効果】
【0040】
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤は不快臭がなく、ラジカル重合性化合物に用いることにより、所望するポリマーの分子量を効果的に調整することが可能であり、生成したポリマーの不快臭の発生も抑制できる。さらに本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤を用いてラジカル重合性化合物を重合することによりその末端に環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
[連鎖移動剤]
本発明の連鎖移動剤は、下記一般式(1)で示される環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤である。
【0042】
【化7】
【0043】
(一般式(1)中、環Aは、炭素数6の飽和若しくは不飽和のシクロ環、炭素数7の飽和若しくは不飽和のビシクロ環、又はエポキシ環を示し、X及びYは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数、mは0乃至5の整数を示し、複数あるX及びYは、同一であっても、異なっていてもよい。但し、環Aがエポキシ環の場合は、mは0となる。)
【0044】
一般式(1)で示される化合物のうち、環Aが炭素数6のシクロ環の化合物としては、下記の一般式(2)又は(3)で示される化合物が挙げられる。
【0045】
【化8】
【0046】
(一般式(2)中、Yは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0047】
【化9】
【0048】
(一般式(3)中、Yは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0049】
一般式(1)で示される化合物のうち、環Aが炭素数7のビシクロ環の化合物としては、下記の一般式(4)又は(5)で示される化合物が挙げられる。
【0050】
【化10】
【0051】
(一般式(4)中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0052】
【化11】
【0053】
(一般式(5)中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0054】
一般式(1)で示される化合物のうち、環Aがエポキシ環である化合物としては、下記の一般式(6)で示される化合物が挙げられる。
【0055】
【化12】
【0056】
(一般式(6)中、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0057】
一般式(1)乃至(6)において、Xで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル基、4−メチル−3−ペンテニル基等の炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。
【0058】
一般式(1)において、Yで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル基、4−メチル−3−ペンテニル基等の炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。
【0059】
一般式(2)又は(3)において、Yで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル基、4−メチル−3−ペンテニル基等の炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。
【0060】
次に、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の具体例を示す。
【0061】
まず、一般式(2)で表される化合物の具体例としては、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、6−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、6−エチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン等が挙げられる。
【0062】
次に、一般式(3)で表される化合物の具体例としては、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロアントラキノン、2−メチル−1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロアントラキノン、6−メチル−1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロアントラキノン、6−エチル−11,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロアントラキノン等が挙げられる。
【0063】
また、一般式(4)で表される化合物の具体例としては、1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、6−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、6−エチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン等が挙げられる。
【0064】
更にまた、一般式(5)で表される化合物の具体例としては、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、1−メチル−1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、2−メチル−1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、6−メチル−1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、6−エチル−11,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン等が挙げられる。
【0065】
そしてまた、一般式(6)で表される化合物の具体例としては、2,3−エポキシ−2,3−ジヒドロ−1,4−ナフトキノン、6−メチル−2,3−エポキシ−2,3−ジヒドロ−1,4−ナフトキノン、6−エチル−2,3−エポキシ−2,3−ジヒドロ−1,4−ナフトキノン等が挙げられる。
【0066】
これら例示した化合物の中で、X及びYが水素原子である化合物である1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロアントラキノン、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、2,3−エポキシ−2,3−ジヒドロ−1,4−ナフトキノンは、連鎖移動能が高くかつ製造が容易であることから、さらに好ましい。
【0067】
本発明の化合物である一般式(2)乃至(5)の化合物においては、4a,9a位に水素原子を有しており、ジケトン構造を持つのが特徴である。この水素原子が酸化され二重結合となると、ジケトン構造はキノン構造となる。一般にキノン構造を有する化合物は、それ自身着色しているものが多く、また、それ自身着色していなくても、分離精製しにくい着色した副生物を生ずることが多い。したって実質的にキノン構造を有する連鎖移動剤を使用する際は、得られた重合物も着色が避けられない場合が多い。一方、本発明の環状ジケトン構造を有する化合物は可視領域に吸収がないため、無色であり、本発明の環状ジケトン構造を有する化合物を連鎖移動剤として用いて得られた重合物も無色である。よって光透過性、透明性、美粧性が要求される分野、光学材料、トナー、ペイント、インク、コーティング等の用途へ本発明の環状ジケトン構造を有する化合物を連鎖移動剤は好適に使用できる。
【0068】
これらの例示した化合物は、試薬として入手可能な1,4−ナフトキノン化合物より製造できる。たとえば、一般式(2)の化合物である1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンは、1,4−ナフトキノンとブタジエンのディールス・アルダー反応によって合成することができる。また、一般式(3)の化合物である1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロアントラキノンは、1,4−ナフトキノンとブタジエンのディールス・アルダー反応の生成物である1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンを接触水素還元することにより、容易に合成できる。
【0069】
また、一般式(4)の化合物である1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物は、下記にDA反応として図示したように、対応する1,4−ナフトキノン化合物とシクロペンタジエン化合物とをディールス・アルダー反応させることにより得ることができる。そして、下記に水素化反応として図示したように、当該1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物を接触水素化することにより、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物を得ることができる。
【0070】
【化13】
【0071】
(式中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0072】
【化14】
【0073】
(式中、Y、Y、Y、Y及びYは互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又はメチル基を示し、Xは炭素数1〜8のアルキル基を示し、nは0乃至4の整数を示し、複数あるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【0074】
1,4−ナフトキノン化合物と、シクロペンタジエン化合物とのディールス・アルダー反応は従来公知の方法で行うことができる。例えば、特開平6-312950号公報の工程1に記載の方法により合成できる。
【0075】
シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン等を挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することもできる。また、シクロペンタジエン化合物は、対応するジシクロペンタジエン化合物を加熱し、シクロペンタジエン化合物に分解して用いてもよい。
【0076】
例えば、ジシクロペンタジエンを150℃以上に加熱すると熱分解して、シクロペンタジエンとなる。これを冷却することにより、シクロペンタジエンを単離することができる。メチルシクロペンタジエンも同様にして、メチルジシクロペンタジエンを熱分解して得ることができる。このようにして得たシクロペンタジエンあるいはメチルシクロペンタジエンは、室温で徐々に再び二量化するため、すぐに次のディールス・アルダー反応に用いることが好ましい。シクロペンタジエンあるいはメチルシクロペンタジエンを1,4−ナフトキノン化合物と混合すると発熱を伴って、ディールス・アルダー反応を起こし、環状付加物を生成する。
【0077】
次に、接触水素化反応について説明する。1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン化合物は、接触水素化触媒の存在下、容易に2、3位の二重結合を接触水素化することができる。触媒としては炭素−炭素二重結合の接触水素化反応に一般的に使用される触媒が使用可能であり、例えば、パラジウム担持活性炭、ラネーニッケル、ラネーコバルト、酸化白金、白金担持活性炭、ニッケル珪藻土、銅クロマイトなどの不均一系触媒;又はクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、白金−スズ錯体、第三級ホスフィン−コバルトカルボニル錯体などの均一系触媒を挙げることができる。当該接触水素化反応は水素ガスの存在下に行う。使用する触媒の種類によっては常圧で行うことも可能であるが、加圧下で行うことが反応速度が大である場合が多いため望ましい。加圧下で行う場合には、30MPa以下、好ましくは20MPa以下、更に好ましくは10MPa以下であるのが、反応装置、操作性等の面で工業的に有利である。この反応は、上記、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノンを接触水素還元する場合も同様に用いることができる。
【0078】
また、上記一般式(6)で示される化合物である2,3−エポキシ−2,3−ジヒドロ−1,4−ナフトキノン化合物は、1,4−ナフトキノン化合物を次亜ハロゲン酸塩等を用いてエポキシ化により得ることができる。
【0079】
当該エポキシ化反応は、1,4−ナフトキノン化合物を有機溶媒に溶解し、相間移動触媒の存在下、次亜ハロゲン酸塩水溶液等のエポキシ化剤を滴下して行う。
【0080】
エポキシ化の反応温度は、通常10〜70℃、好ましくは20〜50℃で行い、通常は30〜40℃である。
【0081】
有機溶媒としては、n−ヘキサン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂肪族環式炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、トルエン、キシレン(例えばメタキシレン、又はオルトキシレン)、エチルベンゼン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素が挙げられるが、特に工業的には芳香族炭化水素等が好ましい。
【0082】
当該反応において、相間移動触媒を用いることが好ましい。相間移動触媒としては、用いるアルカリ性化合物の種類に応じて各種のものが使用できる。例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドなどの第四級アンモニウム塩;クラウンエーテルなどの環状エーテル;ジメチルポリエチレングリコール;クリプタンド;テトラメチルホスホニウムブロミドなどの第四級ホスホニウム塩などが挙げられる。相間移動触媒の使用量は、原料であるNQに対して一般的には0.001〜0.05重量倍であり、好ましくは0.003〜0.01重量倍が適量である。
【0083】
当該反応におけるエポキシ化剤としては、通常次亜ハロゲン酸塩水溶液が用いられる。次亜ハロゲン酸塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム又は次亜臭素酸カリウム等が挙げられ、通常は安価で入手しやすい次亜塩素酸ナトリウムが用いられる。次亜塩素酸ナトリウムは固体としても入手できるが、その取り扱い易さから、工業的に市販されている次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いてもよい。次亜ハロゲン酸塩の使用量は、通常は使用するNQに対して1.0〜1.5モル倍であり、好ましくは1.1〜1.35モル倍、さらに好ましくは1.2〜1.3モル倍が適量であるが、次亜ハロゲン酸塩と反応する様な化合物が含まれる場合には使用量を増加してもよい。通常、次亜ハロゲン酸塩水溶液の濃度は通常5〜15%が用いられる。
【0084】
[連鎖移動剤]
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤をもちいることにより、ラジカル重合性化合物の重合反応においてラジカル重合性化合物の重合度を調整することができる。
【0085】
[連鎖移動助剤]
また、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤には、連鎖移動助剤を併用することも可能である。連鎖移動助剤としては、炭素数1〜8の脂肪族アルコール化合物、炭素数2〜8の脂肪族ケトン化合物、炭素数1〜8の脂肪酸のエステル化合物、炭素数4〜10の脂肪族炭化水素化合物、炭素数6〜10の芳香族炭化水素化合物、炭素数3〜10の脂肪族エーテル化合物、テルペノイド系化合物、スチレンオリゴマー系化合物、炭素数4〜10の不飽和炭化水素化合物、炭素数4〜14のチオール化合物、炭素数2〜8の脂肪族アミン及び炭素数8〜14の芳香族アミン化合物からなる群より選ばれた一種又は二種以上の化合物が用いられる。
【0086】
脂肪族アルコール化合物としては、炭素数1〜8の脂肪族アルコール化合物が好ましく、水酸基を一分子中一個有する一価アルコールでも、二個以上有する多価アルコールでもよく、また水酸基の位置は一級、二級、三級でも差支えない。たとえば、一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等が挙げられ。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0087】
脂肪族ケトン化合物としては、炭素数2〜8の脂肪族ケトン化合物が好ましく、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0088】
脂肪酸のエステル化合物としては、炭素数1〜8の脂肪酸のエステル化合物が好ましく、たとえば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。
【0089】
脂肪族炭化水素化合物としては、炭素数4〜10の脂肪族炭化水素化合物が好ましく、脂環式化合物でもよい。たとえば、n−ブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタン、デカリン等が挙げられる。これらの化合物の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0090】
芳香族炭化水素化合物としては、炭素数6〜10の芳香族族炭化水素化合物が好ましく、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0091】
脂肪族エーテル化合物としては、炭素数3〜10の脂肪族エーテル化合物が好ましく、炭素数4〜10の脂環式エーテル化合物でもよい。たとえば、n−ブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。また、グリコールエーテル類も用いることができる。たとえば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール等を挙げることができる。
【0092】
スチレンオリゴマー系化合物としては、α-メチルスチレンダイマー、スチレンダイマー等が挙げられる。
【0093】
テルペノイド系化合物としては、リモネン、ミルセン、α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、β−ピネン、α−ピネン、ジペンテン等挙げられる。
【0094】
不飽和炭化水素化合物としては、炭素数4〜10の不飽和炭化水素化合物である1,4−シクロヘキサジエン、2−メチル−1,4−シクロヘキサジエン、1,2−ジヒドロナフタレン、9,10−ジヒドロフェナントレン、オクタヒドロフェナントレン、9,10−ジヒドロアントラセン、オクタヒドロアントラセン、テトラリン、インデン等が挙げられる。
【0095】
チオール化合物としては、メルカプト基を1個以上有する炭素数4〜14のチオール化合物であればよく、例えばn−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、メルカプトエチルアミン、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−2,5−ジメチルアミノピリジン等を挙げることができる。
【0096】
アミン化合物としては、アミノ基の1個以上がアルキル基または置換アルキル基で置換されてもよく、またアミノ基以外の箇所で、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、置換アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、置換フェノキシカルボニル基、ニトリル基等によって置換されていてもよい。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の炭素数2〜8の脂肪族アミン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソブチル、4,4−ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N−ジメチルアニリン等の炭素数8〜14の芳香族アミン等を挙げることができる。
【0097】
これらの連鎖移動助剤は、一種でもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0098】
これらの中でも、炭素数1〜8の脂肪族アルコール化合物、炭素数4〜10の脂環式エーテル化合物を含む炭素数3〜10の脂肪族エーテル化合物、テルペノイド系化合物、スチレンダイマー系化合物が好ましい。特に、二級アルコールであるイソプロピルアルコール、イソブタノール、脂環式エーテルであるテトラヒドロフラン、スチレンオリゴマー系化合物であるα-メチルスチレンダイマー、テルペノイド系化合物であるテルピノレンが好ましく、中でも、イソプロピルアルコールがさらに好ましい。
【0099】
本発明の連載移動剤組成物は、少なくとも、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤と上記の連鎖移動助剤を含有する組成物である。本発明の連鎖移動剤組成物における、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に対する連鎖移動助剤の最適な添加割合は、用いられる連鎖移動助剤により異なる。
【0100】
本発明の連鎖移動助剤は、重合反応において単独でもいくらかの連鎖移動効果を示す。用いられる重合系でのその連鎖移動定数(Cs)が0.1以下である連鎖移動助剤は、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に対して、質量比で、0.01倍以上、50倍未満添加するのが好ましく、0.1倍以上30倍未満がさらに好ましい。0.01倍未満だと添加する連鎖移動助剤の効果が小さく、50倍以上添加してもそれ以上の効果か望めない。このような連鎖移動定数(Cs)が0.1以下である連鎖移動助剤としては、脂肪族アルコール化合物、脂肪族エーテル化合物、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素など一般に溶媒として用いられる化合物である。
【0101】
また、用いられる重合系での連鎖移動定数(Cs)が0.1以上である連鎖移動助剤は、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に対して、質量比で、0.01倍以上、2倍未満添加するのが好ましい。0.01倍未満だと添加する連鎖移動助剤の効果が小さく、2倍以上添加すると分子内に本発明の連鎖移動剤に由来する環状ジケトン構造を有するポリマーを生成するという効果が十分ではなくなるので好ましくない。このような連鎖移動定数(Cs)が0.1以上である連鎖移動助剤としては、チオール化合物などが挙げられる。
【0102】
[ラジカル重合性組成物]
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤又は連鎖移動剤組成物は、ラジカル重合性化合物に添加することにより、ラジカル重合性組成物として用いることができる。
【0103】
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤を必須成分として含有する当該ラジカル重合性組成物には、ラジカル反応を開始するラジカル重合開始剤が必要により添加される。そして、重合を開始するに必要な熱や光などの開始エネルギーを与え、重合を開始することにより、分子量が調整されたポリマーを製造することができる。
【0104】
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の配合量は、十分な連鎖移動効果と経済性との観点から、通常、ラジカル重合性化合物に対して0.01〜5重量%が好ましく、0.05から3重量%が更に好ましい。
【0105】
重合体の数平均分子量は、一般に主として用いるラジカル重合性化合物の濃度、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の濃度及びラジカル重合開始剤の濃度によって調整することができる。数平均分子量は、該ラジカル重合性化合物の濃度が高い程数平均分子量は大きくなり、逆に環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤濃度が高い程小さくなる。そのことを考慮して、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の濃度の範囲内で適宜変更して数平均分子量の調整をすることができる。
【0106】
また、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤と連鎖移動助剤を含有する連鎖移動剤組成物をラジカル重合性化合物に添加することにより、ラジカル重合性組成物として用いることもできる。
【0107】
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤又は連鎖移動剤組成物をラジカル重合性化合物に添加する方法としては、一括添加、回分添加、連続添加あるいはこれらの組み合わせなど公知の添加方法が用いられる。例えば、各工程で連鎖移動剤又は連鎖移動剤組成物を回分添加する、各工程で単量体混合物と連鎖移動剤又は連鎖移動剤組成物とを連続添加する、各工程で連鎖移動剤又は連鎖移動剤組成物を回分添加と連続添加を組み合わせて添加する、等の添加方法がある。また、連鎖移動剤を固体又は粉体のまま直接添加する方法や、連鎖移動剤を適当な有機溶剤又は連鎖移動助剤に溶解して添加してもよい。
【0108】
本発明の連鎖移動剤組成物において、連鎖移動助剤は、あらかじめ環状ジケトン構造を有する連鎖移動助剤と組み合わせて用いるのが簡便であるが、ラジカル重合性化合物に対して、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤と連鎖移動助剤をそれぞれ別々添加してラジカル重合性組成物としたり、ラジカル重合性化合物の重合過程において環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤や連鎖移動助剤をそれぞれ任意の順序及び回数添加してラジカル重合操作を行っても良い。連鎖移動剤、連鎖移動助剤、ラジカル重合性化合物の濃度をin-situで観測しながら、それらの比を一定に保つよう供給する方法も分子量制御の観点からは好ましい。
【0109】
[ラジカル重合性化合物]
本発明におけるラジカル重合性化合物は、分子内に重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されない。このようなラジカル重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸等のα、β−不飽和カルボン酸化合物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のα、β−不飽和カルボン酸エステル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル化合物;アクリロニトリル、アクリルアミドのようなアクリル化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物等;塩化ビニル、塩化ビニリデンのような置換エチレン化合物;エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、ピネン等のエチレン性不飽和化合物、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどの不飽和有機シラン化合物などが挙げられる。
【0110】
前記ラジカル重合性化合物の中でも、α、β−不飽和カルボン酸化合物、α、β−不飽和カルボン酸エステル化合物、芳香族ビニル化合物、ビニルエステル化合物が好ましい。
【0111】
これらの化合物の中でも、特に、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の効果が顕著であるという点から、α、β−不飽和カルボン酸化合物である(メタ)アクリル酸、α、β−不飽和カルボン酸エステルである(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエステル化合物である酢酸ビニルが好ましい。中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0112】
上記例示したラジカル重合性化合物は、単独で重合反応に供することもできるが、複数のラジカル重合性化合物を組み合わせて、共重合させることもできる。好ましいとして挙げたラジカル重合性化合物どうしの共重合はもちろんのこと、好ましいとして挙げたラジカル重合性化合物に対して、共重合性良好なラジカル重合性化合物を共重合させることもできる。その場合も、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の効果は好適に保持される。例えば、α、β−不飽和カルボン酸化合物に対して、エチレン性不飽和化合物を共重合する場合等が挙げられる。典型的には酢酸ビニルとエチレンの共重合が挙げられる。
【0113】
前記ラジカル重合性組成物に含有されるラジカル重合性化合物は、その形態や含有量は特に限定されない。例えばラジカル重合性化合物そのものやラジカル重合性化合物の溶液等が挙げられる。
【0114】
[ラジカル重合開始剤]
ラジカル重合開始剤としては、エネルギーを与えてラジカル重合性化合物に対して活性なラジカルを発生するものであれば特に限定されない。一般には市販されているいわゆるラジカル重合開始剤を用いることができる。通常便宜的に、熱エネルギーを与えて用いるものを、熱ラジカル重合開始剤と呼び、光エネルギーを与えるものを、光ラジカル重合開始剤と呼ぶ。本発明は熱ラジカル重合開始剤及び光ラジカル重合開始剤のどちらも使用することが可能である。
【0115】
熱ラジカル重合開始剤としては特に限定されず、公知の化合物を使用することができる。例えば、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド、及びアゾ系化合物が挙げられる。具体的には、ベンゾイルペルオキシド、ジ−t−アミルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、及びジ−クミルペルオキシド等のペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、及び過酸化水素等のヒドロペルオキシド、(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル))、(2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル))、(2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル))、(2,2’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル))等のアゾ系化合物が挙げられる。
【0116】
また、熱ラジカル重合開始剤を比較的低温で使用するためにペルオキシド、ヒドロペルオキシド、アスコルビン酸等の酸化剤系開始剤に対して遷移金属やアミン等の還元剤を組み合わせるいわゆるレドックス開始剤系を用いることもできる。
【0117】
光ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知の化合物を使用することができる。例えば、ベンゾイン系化合物、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサトン類、α−アシロキシムエステル類、フェニルグリオキシレート類、ベンジル類、アゾ系化合物、ジフェニルスルフィド系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、有機色素系化合物、鉄−フタロシアニン系、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン類が含まれる。具体的に、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、2−t−ブチル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、2−クロロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン、2−アミル−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンなどの−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。有機合成化学協会誌66,458(2008)等公知文献に紹介されている光ラジカル重合開始剤も用いることができる。
【0118】
また、市場より入手可能な光ラジカル重合開始剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184、イルガキュアはチバ・スペシャリティケミカルズ社の登録商標)、(2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパノン)(イルガキュア907)、またビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−ジフェニル−ホスフィンオキサイド(イルガキュア819)等のアシルホスフィンオキサイド化合物;ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(イルガキュア784)等のチタノセン化合物;6,12−ビス(トリメチルシリルオキシ)−1,11−ナフタセンキノン等のナフタセンキノン化合物等が挙げられる。
【0119】
これらのラジカル重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。ラジカル重合開始剤の添加量は、用いるラジカル重合性化合物及び連鎖移動剤にもよるが、ラジカル重合性化合物の合計量100質量部に対して0.0001質量部以上10質量部以下の範囲内であるのが好ましい。
【0120】
[開始エネルギー]
開始エネルギーは添加したラジカル開始剤からラジカルを発生しうるエネルギーであればよい。一般には熱エネルギー、電離波エネルギーが適宜選ばれる。具体的なエネルギー源としては熱、光、電子線(EB)、マイクロ波、放射線等の電磁線が挙げられ、用いるエネルギー源に応じて、熱重合、電磁線重合(光重合、電子線重合、マイクロ波重合、放射線重合)等と呼ばれる。
【0121】
熱重合の場合、用いる重合性化合物及びその様態にもよるが、重合に用いる温度範囲は通常−20〜200℃で、好ましくは0〜150℃、より好ましくは10〜120℃である。
【0122】
さらに熱重合の一種として酸化還元(レドックス)開始剤(後述)を用いるレドックス重合が挙げられる。この際、用いられる温度範囲は通常の熱重合より低く、−40〜100℃で、好ましくは−20〜80℃、より好ましくは0〜60℃である。
【0123】
光重合において、照射する光としては紫外線、可視光線、赤外線等を用いることができる。光ラジカル重合開始剤あるいは増感剤を用いることもできる。紫外線、可視光線の場合具体的には、たとえば300〜800nmの波長範囲の光線である。光源としては、300〜800nmの範囲の波長の光線を照射できるLED(発光ダイオード)やランプを使用する。LEDとしては、UV−LED、青色LED、白色LED等が挙げられる。ランプとしては、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0124】
電子線重合は電子線照射により行われる。電子線照射には、前記の電子線重合化合物に作用し重合性物質の重合を起こすことができる方法であれば、特に制限なく使用することができる。照射する電子線量は、吸収線量として1から300kGy程度の範囲で調節するのが望ましい。1kGy未満では十分な照射効果が得られず、300kGyを超えるような照射は基材を劣化させる恐れがあるため好ましくない。電子線の照射方法としては、例えばスキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式などが用いられ、電子線を照射する際の加速電圧は、照射する側の基材の厚さによりコントロールする必要があるが、20から100kV程度が適当である。
【0125】
マイクロ波重合はStraussら(Aust. J. Chem.,48,1665〜1692(1995))の公知の手法を用いることが出来る。マイクロ波は、マイクロ波技術において既知の種々の方法のいずれかによって発生させることができる。一般に、これらの方法は、マイクロ波発生源として作用するクライストロンまたはマグネトロンに依存している。一般に、発生の周波数は約300MHz〜30GHzの範囲であり、対応する波長は約1m〜1mmである。理論的には、この範囲のいずれの周波数も、効果的に使用することができるが、約850〜950MHzまたは約2300〜2600MHzを包含する商業的に利用可能な範囲の周波数を使用するのが好ましい。
【0126】
放射線重合はγ線、X線、α線、β線を照射して重合を行う。通常、コバルト60のγ線照射が用いられることが多い。
【0127】
更に、重合開始のエネルギー源を併用することもできる。たとえば電子線と赤外線の併用等である。
【0128】
また、熱重合以外は通常、常温近傍で重合することが多いが、加熱しながら実施することも可能である。この場合重合の促進が期待できる。
【0129】
[他の成分]
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤とラジカル重合性化合物とを含有するラジカル重合性組成物をラジカル重合させるにあたり、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤、連鎖移動助剤、ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤のほかに必要があれば、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有していてもよく、着色剤、可塑剤、粘着付与剤、酸化防止剤、各種安定剤、充填剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤なども添加することが可能である。
【0130】
また、本発明の効果を損なわない範囲において、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤以外の他の連鎖移動剤等の成分を含有していてもよい。このような他の連鎖移動剤としては、特に限定されないが、連鎖移動剤として公知の化合物等が挙げられる。
【0131】
例えば、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類、テトラメチルチウラジウムジスルフィド、テトラエチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化合物、2−メチル−1−ブテン、α−メチルスチレンダイマー等のオレフィン類が挙げられる。
【0132】
これらの前記他の成分は、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に対して単独で、あるいは同時に二種類以上で用いることができる。これらの他の成分は、適用対象のラジカル重合性化合物の種類や用途等に応じて適宜選択することができる。
【0133】
<製造態様>
本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤又は連鎖移動剤組成物とラジカル重合性化合物とを含有するラジカル重合性組成物をラジカル重合することにより、或いは、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤の存在下ラジカル重合性化合物をラジカル重合することにより、生成するポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーを製造することができる。
【0134】
ポリマーの末端あるいは主鎖の一部に、環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーの製造態様として、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、またはスラリー重合などの方法を用いることができる。また、回分式に重合する場合でも、連続的に重合する場合でも用いることができる。
【0135】
重合時の雰囲気は分子状酸素を除去することが好ましく、一般的には減圧下あるいは不活性気体存在下用いられる。不活性気体としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等があげられる。
【0136】
<末端に環状ジケトン構造を有するポリマー>
本発明の連鎖移動剤を用いて、上記重合方法で製造したポリマーは前述したように末端に本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を付与することが可能である。すなわち、本発明の連鎖移動剤は、ポリマー成長末端に付加し、連鎖移動するため、該連鎖移動剤由来の末端構造を有することになる。よって末端に本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する残基を有するポリマーを合成することができ、さらに本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤がもつ官能基をポリマーに付与することができる。環状ジケトン構造および官能基に由来する、親和性、反応性、耐熱性、光学特性、化学的安定性等、環状ジケトン構造および官能基の有する化学的、物理的性質を生成ポリマーに付与し、機能性ポリマーとして供することができる。
【0137】
すなわち、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤は、反応性基を有する末端官能化ポリマーを提供することができる。
【実施例】
【0138】
(合成例1)1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン合成
和光純薬製ジシクロペンタジエン120gを300mlナス型フラスコに量り取り、フリードリッヒ冷却管を備えた蒸留装置にて185℃のオイルバスで加熱し、熱分解して溜出して来たシクロペンタジエン(溜出温度40℃)を和光純薬製塩化メチレン60gの入った200mlナスフラスコで捕集した。なお、捕集するナスフラスコはドライアイス・アセトンで冷却しながら行った。上記の方法で得られたシクロペンタジエン64g(塩化メチレン60g含む)を500ml四口フラスコに移し入れ、ドライアイス・アセトンで−60℃に冷却した。撹拌下で1,4−ナフトキノン(川崎化成工業製品)128gと塩化メチレン200gのスラリーを15分掛けて添加した。添加終了後、ドライアイス・アセトンの冷却を止め、発熱反応により内温が45℃まで上昇し、下降するまで撹拌を続けた。内温が下がり始めたらバス温35℃の温浴で30分攪拌した。反応液を1Lナス型フラスコに移し変え、和光純薬製メタノール300mlを加え、50℃で塩化メチレン250gを溜去し、晶析させた。析出した結晶を吸引濾過し、結晶をメタノール50mlで3回洗浄した。かくして1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンの白色結晶170gを得た。原料1,4−ナフトキノンに対する収率は94モル%であった。
【0139】
(合成例2)1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンの合成
合成例1と同様の方法で得られた1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン70gを300mlガラス製オートクレーブに量り取り、溶媒としてオルソキシレン150g、水添触媒としてPd/C1gを加え、0.2MpaGの条件下で水素を供給し、反応させた。反応終了後、Pd/Cを濾過し、反応液を減圧濃縮し、オルソキシレン130gを溜去させ、メタノール50gを加え晶析させた。析出した結晶を吸引濾過し、メタノール50mlで洗浄・乾燥し、1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンの白色結晶60gを得た。1,4,4a,9a−テトラヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンに対する収率は85モル%であった。
【0140】
(実施例1)
ラジカル重合性化合物として市販の酢酸ビニル(和光特級)4gを試験管に入れ、このラジカル重合性化合物に対して、開始剤として1質量%のアゾビスイソブチロニトリル(和光特級)、連鎖移動剤として5000質量ppmの1,2,3,4,4a,9a−ヘキサヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンを添加しラジカル重合性組成物とした。このラジカル重合性組成物入った試験管にセプタムで蓋をして、窒素を20分間、15mL/分の速度で組成物中に通気した。そして、窒素を通気したまま次いで、加熱したオイルバスに試験管を浸し、試験管内の溶液温度が60℃になるように30分保持した。この保持時間を重合時間とした。生成物を所定濃度でテトラヒドロフラン(和光特級)に溶解させ、検出器として、屈折率計(RI)(日本分光製RI−2031)、多波長紫外線分光計(日本分光製MD−2010)、およびGPCカラム(昭和電工製Shodex GPC KF−806L)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本分光製)を用い生成ポリマーのキャラクタリゼーションを行った。このうち検出器として屈折率計を用い、生成ポリマーの平均分子量、その分布およびそのピーク面積から重合率を測定した。さらに検出器として多波長紫外線分光計を用い、生成ポリマーの紫外線吸収スペクトルを測定し、環状ジケトン構造に由来する波長が波長300〜350nmの吸収の有無、着色の有無を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0141】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
添加する連鎖移動剤の種類、連鎖移動剤の添加量および重合時間を表1に示したように変更した他は実施例1と同様の操作を行い重合生成物を得た。当該重合生成物を実施例1と同様の方法で物性値を測定し、測定結果を表1に示した。
【0142】
【表1】
【0143】
実施例1乃至実施例4と比較例1乃至比較例3の対比から、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤が優れた連鎖移動能を持つことが分かる。
【0144】
また、生成したポリマーの紫外吸収スペクトルにおいて、波長350〜500nmにおける吸収が、比較例1乃至比較例3では観察されないのに対して、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤を用いた例では観測されることから、本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤を用いた場合は、生成したポリマー中に本発明の環状ジケトン構造を有する連鎖移動剤に由来する構造が導入されていることが分かる。