(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において濃度単位「M」は、「モル/L」を意味する。
【0016】
<化合物>
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される(以下、「化合物(1)」と略記することがある)。
化合物(1)は、後述する植物用抵抗性誘導剤の有効成分として有用な、新規化合物である。
【0017】
【化4】
(式中、X
1は下記一般式(1a)又は(1b)で表される基であり;Z
1は水素原子以外の一価の基であり;Z
2は電子求引性基であり;R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり;mは0〜4の整数であり、mが2〜4である場合、複数個のZ
1は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0018】
【化5】
(式中、R
3は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
【0019】
一般式(1)中、X
1は前記一般式(1a)又は(1b)で表される基である。一般式(1a)及び(1b)中の結合先が特定されていない二つの結合が、一般式(1)中のX
1から伸びている二つの結合に該当する。
【0020】
一般式(1a)及び(1b)中、R
3は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
R
3における前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでもよく、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が混在した基であってもよい。そして、脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよい。
【0021】
R
3における前記飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。そして、炭素数が1〜30であることが好ましく、1〜15であることがより好ましい。
直鎖状又は分岐鎖状の前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基が例示できる。
環状の前記アルキル基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等が例示できる。
【0022】
R
3における前記不飽和脂肪族炭化水素基は、前記アルキル基における炭素原子間の一つ以上の単結合(C−C)が、二重結合(C=C)及び/又は三重結合(C≡C)に置換された基が例示でき、これら不飽和結合(二重結合、三重結合)の数及び位置は特に限定されず、炭素数が2〜30であることが好ましく、2〜15であることがより好ましい。不飽和結合が一つのものとしては、エテニル基(ビニル基)、2−プロペニル基(アリル基)等のアルケニル基;エチニル基、2−プロピニル基(プロパルギル基)等のアルキニル基が例示できる。
【0023】
R
3における前記芳香族炭化水素基(アリール基)は、単環状及び多環状のいずれでもよく、炭素数が6〜30であることが好ましく、6〜15であることがより好ましい。なかでも、好ましいものとしては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が例示できる。
【0024】
R
3における前記炭化水素基は、環状である場合、例えば、環状の脂肪族炭化水素(シクロアルカン、シクロアルケン等)と芳香族炭化水素(アレーン)とが縮環した構造から、一つの水素原子が除かれた一価の基であってもよい。
【0025】
R
3における前記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。ここで「R
3が置換基を有する」とは、R
3を構成する一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基(置換基)で置換されているか、あるいはR
3を構成する一つ以上の炭素原子が、必要に応じてこれに結合している一つ以上の水素原子と共にこれとは異なる基(置換基)で置換されていることを意味する。そして、水素原子及び炭素原子が共に置換基で置換されていてもよい。
【0026】
水素原子を置換する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、アルキニル基、水酸基(−OH)、カルボキシ基(−COOH)、アミノ基(−NH
2)、ニトロ基(−NO
2)、シアノ基(−CN)、ハロゲン原子が例示できる。
【0027】
水素原子を置換するアルキル基としては、前記アルキル基と同様のものが例示でき、炭素数が1〜30であることが好ましく、1〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアルコキシ基としては、メトキシ基、シクロプロポキシ基等、前記アルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示でき、炭素数が1〜30であることが好ましく、1〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、シクロプロピルカルボニル基等、前記アルキル基がカルボニル基(−C(=O)−)の炭素原子に結合した一価の基が例示でき、炭素数が2〜31であることが好ましく、2〜16であることがより好ましい。
水素原子を置換するアルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、シクロプロポキシカルボニル基等、前記アルキル基がオキシカルボニル基(−O−C(=O)−)中のカルボニル基に結合している酸素原子に結合した一価の基が例示でき、炭素数が2〜31であることが好ましく、2〜16であることがより好ましい。
水素原子を置換するアルキルカルボニルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、シクロプロピルカルボニルオキシ基等、前記アルキル基がカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)の炭素原子に結合した一価の基が例示でき、炭素数が2〜31であることが好ましく、2〜16であることがより好ましい。
【0028】
水素原子を置換するアルケニル基としては、前記アルケニル基と同様のものが例示でき、炭素数が2〜30であることが好ましく、2〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアルケニルオキシ基としては、エテニルオキシ基、2−プロペニルオキシ基等、前記アルケニル基が酸素原子に結合した一価の基が例示でき、炭素数が2〜30であることが好ましく、2〜15であることがより好ましい。
【0029】
水素原子を置換するアリール基は、前記アリール基と同様のものが例示でき、炭素数が6〜30であることが好ましく、6〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアリールオキシ基としては、フェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基等、前記アリール基が酸素原子に結合した一価の基が例示でき、炭素数が6〜30であることが好ましく、6〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアルキルアリール基としては、前記アリール基において、芳香族環骨格を構成する炭素原子に結合している一つの水素原子が前記アルキル基で置換された一価の基が例示でき、炭素数が7〜30であることが好ましく、7〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアリールアルキル基としては、前記アルキル基において、一つの水素原子が前記アリール基で置換された一価の基が例示でき、炭素数が7〜30であることが好ましく、7〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアルキルアリールオキシ基としては、前記アリール基から、芳香族環骨格を構成する炭素原子に結合している一つの水素原子を除いたアリーレン基に、前記アルキル基と酸素原子とが結合した一価の基が例示でき、炭素数が7〜30であることが好ましく、7〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するアリールアルキルオキシ基としては、前記アルキル基から一つの水素原子を除いたアルキレン基に、前記アリール基と酸素原子とが結合した一価の基が例示でき、炭素数が7〜30であることが好ましく、7〜15であることがより好ましい。
【0030】
水素原子を置換するアルキニル基としては、前記アルキニル基と同様のものが例示でき、炭素数が2〜30であることが好ましく、2〜15であることがより好ましい。
水素原子を置換するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できる。
【0031】
R
3において、水素原子を置換する置換基の数は特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。そして、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。
また、水素原子を置換する置換基の数が二つ以上である場合、これら置換基の一部又はすべてが互いに結合して、これら置換基が結合している基を構成している原子と共に、環を形成していてもよい。
置換基で置換される水素原子の位置は特に限定されない。
【0032】
炭素原子を置換する置換基としては、カルボニル基(−C(=O)−)、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)、アミド基(−NH−C(=O)−)、ヘテロ原子が例示できる。炭素原子を置換する置換基が非対称構造の場合、その置換部位における向きは特に限定されない。
炭素原子を置換するヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ホウ素原子が例示できる。
【0033】
炭素原子を置換する置換基の数は、置換前の炭素原子数よりも少なければ特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
置換基で置換される炭素原子の位置は特に限定されない。
【0034】
R
3は、これが結合している窒素原子との結合部位として、アルキレン基を有するものが好ましく、該アルキレン基は、炭素数が1〜5であることが好ましい。
好ましいR
3としては、下記一般式(1d)で表される基が例示できる。
【0035】
【化6】
(式中、R
3aは置換基を有していてもよいアリール基又は環状のアルキル基であり;n
1は1〜5の整数である。)
【0036】
一般式(1d)中、R
3aは、置換基を有していてもよいアリール基又は環状のアルキル基である。一般式(1d)中の結合先が特定されていない一つの結合が、一般式(1a)及び(1b)中のR
3から伸びている一つの結合に該当する。
R
3aにおける前記アリール基としては、R
3におけるアリール基と同様のものが例示でき、炭素数が6〜15であることが好ましく、フェニル基、1−ナフチル基又は2−ナフチル基であることがより好ましい。
R
3aにおける前記環状のアルキル基としては、R
3における環状のアルキル基と同様のものが例示でき、炭素数が5〜15であることが好ましい。
【0037】
R
3aにおける前記アリール基及び環状のアルキル基は、置換基を有していてもよい。ここで「R
3aが置換基を有する」とは、R
3aを構成する一つ以上の水素原子が、水素原子以外の基(置換基)で置換されているか、あるいはR
3aを構成する一つ以上の炭素原子が、必要に応じてこれに結合している一つ以上の水素原子と共にこれとは異なる基(置換基)で置換されていることを意味する。そして、水素原子及び炭素原子が共に置換基で置換されていてもよい。
【0038】
R
3aにおける前記アリール基及び環状のアルキル基が有する置換基としては、R
3における前記炭化水素基が有する置換基と同様のものが例示できる。
R
3aの水素原子を置換する置換基の数は特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。そして、すべての水素原子が置換基で置換されていてもよい。
また、水素原子を置換する置換基の数が二つ以上である場合、これら置換基の一部又はすべてが互いに結合して、これら置換基が結合している基を構成している原子と共に、環を形成していてもよい。
置換基で置換される水素原子の位置は特に限定されない。
R
3aの炭素原子を置換する置換基の数は、置換前の炭素原子数よりも少なければ特に限定されず、一つでもよいし、二つ以上でもよい。二つ以上である場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
置換基で置換される炭素原子の位置は特に限定されない。
【0039】
R
3aにおける置換基を有する前記アリール基として、具体的には、芳香族環骨格を構成している炭素原子に結合している一つ以上の水素原子がアルコキシ基で置換されたもの、芳香族環骨格を構成している一つ以上の炭素原子が窒素原子で置換されたもの、がそれぞれ例示できる。
ただし、置換基を有する前記アリール基はこれらに限定されない。
【0040】
R
3aにおける置換基を有する前記環状のアルキル基として、具体的には、環骨格を構成している一つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されたものが例示できる。酸素原子による置換数は、1〜3であることが好ましい。
ただし、置換基を有する前記環状のアルキル基はこれらに限定されない。
【0041】
n
1(メチレン基の数)は1〜5の整数であり、1〜3であることが好ましい。
【0042】
一般式(1)中、Z
1は水素原子以外の一価の基であり、m(ベンゼン環骨格へのZ
1の結合数)は0〜4の整数である。すなわち、化合物(1)中の三環状骨格のうちベンゼン環骨格は、一つ以上の水素原子が置換基で置換されていてもよい。
【0043】
前記Z
1としては、R
3における水素原子を置換する置換基と同様のものが例示でき、アルキル基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、アルキニル基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子が例示できる。
これらのなかでも、Z
1は、炭素数1〜15のアルキル基若しくはアルコキシ基、炭素数6〜15のアリール基若しくはアリールオキシ基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基又はハロゲン原子であることが好ましい。
【0044】
mが2〜4である場合、複数個のZ
1は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、Z
1はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
mが1〜4である場合、ベンゼン環骨格におけるZの結合位置は特に限定されない。
mは0〜3であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。
【0045】
一般式(1)中、Z
2は電子求引性基である。
前記電子求引性基は、当該技術分野で電子求引性基として公知のものであれば、特に限定されず、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルボキシ基(−COOH)、アルキルオキシカルボニルアルキル基、アリールオキシカルボニルアルキル基、カルボキシアルキル基、ニトロ基(−NO
2)、スルホ基(−SO
3H)、シアノ基(−CN)、ホルミル基(−CHO)、ハロゲン原子が例示できる。
【0046】
Z
2における前記アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、シクロプロポキシカルボニル基等、R
3における前記置換基としてのアルキルオキシカルボニル基と同様のものが例示でき、炭素数が2〜16であることが好ましい。
【0047】
Z
2における前記アリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基、1−ナフトキシカルボニル基、2−ナフトキシカルボニル基等、R
3における前記置換基としてのアリールオキシ基が、カルボニル基(−C(=O)−)の炭素原子に結合した一価の基が例示でき、炭素数が7〜16であることが好ましい。
【0048】
Z
2における前記アルキルオキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、n−プロポキシカルボニルメチル基、シクロプロポキシカルボニルメチル基等、Z
2における前記アルキルオキシカルボニル基がアルキレン基に結合した一価の基が例示できる。そして、前記アルキレン基は、炭素数が1又は2であることが好ましく、前記アルキルオキシカルボニルアルキル基は、炭素数が3〜18であることが好ましい。
【0049】
Z
2における前記アリールオキシカルボニルアルキル基としては、フェノキシカルボニルメチル基、1−ナフトキシカルボニルメチル基、2−ナフトキシカルボニルメチル基等、Z
2における前記アリールオキシカルボニル基がアルキレン基に結合した一価の基が例示できる。そして、前記アルキレン基は、炭素数が1又は2であることが好ましく、前記アリールオキシカルボニルアルキル基は、炭素数が8〜18であることが好ましい。
【0050】
Z
2における前記カルボキシアルキル基としては、カルボキシメチル基等、カルボキシ基がアルキレン基に結合した一価の基が例示できる。そして、前記アルキレン基は、炭素数が1又は2であることが好ましく、前記カルボキシアルキル基は、炭素数が2〜17であることが好ましい。
【0051】
Z
2における前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が例示できる。
【0052】
Z
2は、炭素数2〜16のアルキルオキシカルボニル基、炭素数が7〜16のアリールオキシカルボニル基、カルボキシ基、ニトロ基、スルホ基、シアノ基、ホルミル基又はハロゲン原子であることが好ましい。
【0053】
一般式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
R
1及びR
2における置換基を有していてもよい炭化水素基としては、R
3における置換基を有していてもよい炭化水素基と同様のものが例示できる。
【0054】
R
1及びR
2における前記炭化水素基は、炭素数が1〜15であることが好ましく、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜15のアリール基であることがより好ましい。
【0055】
R
1及びR
2は、いずれか一方が水素原子で、他方が置換基を有していてもよい炭化水素基であることが好ましい。
【0056】
化合物(1)は、7−アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格又は7−アザ−8−オキサビシクロ[2.2.2]オクタン骨格を含む三環状の化合物である。すなわち、骨格の違いに応じて化合物(1)は、7−アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格を有する、下記一般式(1)−1で表される化合物(以下、「化合物(1)−1」と略記することがある)、並びに7−アザ−8−オキサビシクロ[2.2.2]オクタン骨格を有する、下記一般式(1)−2で表される化合物(以下、「化合物(1)−2」と略記することがある)、及び下記一般式(1)−3で表される化合物(以下、「化合物(1)−3」と略記することがある)に大別できる。
【0057】
【化7】
(式中、Z
1、Z
2、R
1、R
2、R
3及びmは、前記と同じである。)
【0058】
また、化合物(1)には、Z
2が直接結合している6員環骨格に対して、Z
2が、X
1(すなわち、一般式「−N(−R
3)−」又は「−O−N(−R
3)−」で表される基)と同じ側(上側)に向いて結合している(E)−exo体、及びX
1とは反対側(下側)に向いて結合している(E)−endo体、の二種類が存在し、前者は下記一般式(1)−Aで表される化合物(以下、「化合物(1)−A」と略記することがある)であり、後者は下記一般式(1)−Bで表される化合物(以下、「化合物(1)−B」と略記することがある)である。
【0059】
【化8】
(式中、X
1、Z
1、Z
2、R
1、R
2及びmは、前記と同じである。)
【0060】
化合物(1)は、例えば、以下の方法で製造できる。
化合物(1)のうち、化合物(1)−1は、下記一般式(1)−1−1で表されるイソインドール化合物(以下、「化合物(1)−1−1」と略記する)と、下記一般式(1)−1−2で表されるアレン化合物(以下、「化合物(1)−1−2」と略記する)とを反応させる工程を有する製造方法により得られる。化合物(1)−1−1と化合物(1)−1−2とは、通常のディールス・アルダー(Diels−Alder)反応と同様の条件で反応させればよい。例えば、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素の溶媒中で、好ましくは−10〜10℃で1〜60分反応させた後、さらに好ましくは18〜30℃で1〜24時間反応させる方法が挙げられるが、これに限定されない。化合物(1)−1−2の使用量は、1モルの化合物(1)−1−1に対して1〜5モルであることが好ましい。
【0061】
【化9】
(式中、Z
1、Z
2、R
1、R
2、R
3及びmは、前記と同じである。)
【0062】
一方、化合物(1)のうち、化合物(1)−2及び化合物(1)−3は、化合物(1)−1を酸化する工程を有する製造方法により得られる。
化合物(1)−1の酸化反応は、公知の方法で行えばよい。例えば、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素の溶媒中で、m−クロロ過安息香酸(mCPBA)等の過酸化物を酸化剤として使用し、好ましくは−10〜40℃で、好ましくは5〜48時間反応させる方法が挙げられるが、これに限定されない。酸化剤の使用量は、その種類にもよるが、1モルの化合物(1)−1に対して1〜3モルであることが好ましい。
酸化反応によって、7−アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格中の窒素がN−オキシド(N→O)を形成した後、転位反応が生じることで、7−アザ−8−オキサビシクロ[2.2.2]オクタン骨格が形成されると考えられる。そして、転位反応が生じる方向によって、化合物(1)−2及び化合物(1)−3のいずれが生成するのかが決定される。以下の反応式では、化合物(1)−2及び化合物(1)−3が共に生成する場合を例示しているが、酸化反応の条件を調節することで、化合物(1)−2及び化合物(1)−3のいずれかを選択的に又は優先的に生成させることが可能な場合もある。化合物(1)−2及び化合物(1)−3が共に生成した場合には、後述する精製方法でこれらを分離(精製)することができる。
【0063】
【化10】
(式中、Z
1、Z
2、R
1、R
2、R
3及びmは、前記と同じである。)
【0064】
化合物(1)は、その構造によっては上記製造方法において、必要に応じて官能基の保護及び脱保護等のその他の工程を適宜行うことによって、製造してもよい。
化合物(1)の製造時には、各工程の反応終了後、常法により必要に応じて後処理を行い、生成物を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作を、いずれか一つを単独で又は二つ以上を組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、生成物を取り出せばよい。また、取り出した生成物は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作を、いずれか一つを単独で又は二つ以上を組み合わせて一回以上行うことで、精製してもよい。
化合物(1)は、例えば、核磁気共鳴法(NMR)、赤外分光法(IR)、質量分析法(MS)等、公知の手法により、構造を確認できる。
【0065】
<植物用抵抗性誘導剤>
本発明の植物用抵抗性誘導剤(以下、「誘導剤」と略記することがある)は、化合物(1)を有効成分とし、植物の抵抗性誘導活性に優れるだけでなく、防黴及び防虫駆除活性を有しないため、環境に負荷を与え難いという点でも優れるものである。
【0066】
従来の誘導剤は、サリチル酸とその誘導体を除けば、いずれも単環状又は二環状の複素環式化合物であり、そのほとんどが複素環骨格中にヘテロ原子として窒素原子及び硫黄原子を含む。
これに対して、化合物(1)は、上記のように三環状の化合物であり、しかも環構造を構成するヘテロ原子としては、窒素原子、又は窒素原子及び酸素原子を含み、誘導剤として従来とは全く相違する新規の骨格を有する。そして、7−アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格又は7−アザ−8−オキサビシクロ[2.2.2]オクタン骨格と、ベンゼン環骨格とが縮環した三環状骨格を有することが、活性発現に有利な要素となっていることが推測される。
【0067】
本発明の誘導剤は、化合物(1)を有効成分とし、化合物(1)のみからなるものでもよいし、化合物(1)以外に、その他の成分が配合されてなるものでもよい。その他の成分は、本発明の効果を損なわないものであれば、特に限定されず、好ましいものとしては、後述する溶媒等が例示できる。
【0068】
前記誘導剤は、適用対象の植物に接触させることで、抵抗性を誘導できる。
誘導剤を植物に接触させる方法は、公知の誘導剤の場合と同様でよく、例えば、植物が生育している土壌に誘導剤を散布する方法、誘導剤を溶解させた誘導剤溶液を植物に塗布又は噴霧する方法、該誘導剤溶液中で植物を生育させる方法が例示できる。
【0069】
誘導剤を溶解させる溶媒は、誘導剤や植物の種類に応じて適宜選択すればよいが、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド化合物;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド化合物等、親水性溶媒が好ましいものとして例示できる。
【0070】
誘導剤の使用量は、公知の誘導剤の使用量と同様でよく、誘導剤や植物の種類に応じて適宜調節できる。例えば、土壌に誘導剤を散布する場合には、一回あたりの使用量を1〜1.3kg/10aとし、一回、又は必要に応じて複数回使用できる。また、前記誘導剤溶液を植物に塗布又は噴霧する場合には、例えば、濃度が10〜500μMの誘導剤溶液の一回あたりの使用量を葉一枚あたり1〜1000μLとし、一回、又は必要に応じて複数回使用できる。前記誘導剤溶液中で植物を生育させる場合には、例えば、濃度が1〜50μMの誘導剤溶液を使用できる。
【0071】
誘導剤に用いる化合物(1)は、一種でもよいし、二種以上でもよい。二種以上の場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜調節すればよい。
【0072】
誘導剤は、化合物(1)、及び必要に応じて前記その他の成分を配合することで製造できる。
配合成分は、公知の方法で添加及び混合すればよい。
【実施例】
【0073】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
<化合物(1)−1の製造>
[製造例1]
(化合物(1)−101−1の製造)
ベンジルアミン(0.5893g、5.5mmol)をアセトニトリル(8ml)に溶解させ、この溶液中に、2−クロロメチルベンズアルデヒド(0.34g、2.2mmol)をアセトニトリル(3ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、室温で1.5時間撹拌した。次いで、反応混合物を塩化メチレン(20ml)で希釈した後、水(20ml)で二回、飽和食塩水で一回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、定量的に下記式(1)−101−1で表される化合物(化合物(1)−101−1、N−ベンジルイソインドール)の粗体を得た。
【0075】
【化11】
【0076】
[製造例2]
(化合物(1)−101−2の製造)
【0077】
トリフェニルホスフィン(26.2g、100mmol)を酢酸エチル(200ml)に溶解させ、その溶媒中にブロモ酢酸エチル(17.7g、106.0mmol)を加えて、一晩還流させ、白い沈殿物をろ過した。次いで、沈殿物を塩化メチレン(200ml)に溶解させ、この溶液を分液漏斗に移し、ここに水酸化カリウム(5.6g)を水(200ml)に溶解させた水酸化カリウム水溶液を加えて、分液漏斗を激しく振ることにより、溶液を水層及び有機層の二層に分離させた。
次いで、有機層を取り出して硫酸マグネシウムで乾燥させ、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、白色固体として、下記式(1)−101−21で表される化合物(化合物(1)−101−21)を得た。化合物(1)−101−21の同定データは以下の通りである。
【0078】
1H NMR:(300MHz, CDCl
3):δ7.94-7.32(m,15H), 5.52(d, J=13.9Hz, 2H), 4.07(q, J=7.1Hz, 2H), 1.08(t, J=7.2Hz, 3H)ppm.
IR (ATR):3489, 2839, 1714, 1588, 1306, 1111, 684 cm
-1.
【0079】
【化12】
【0080】
化合物(1)−101−21(5.75mmol)を無水塩化メチレン(20ml)に溶解させ、気相部分をアルゴンで置換し、トリエチルアミン(6.3mmol)をこの溶液に加えて0℃で撹拌した後、ここに下記式(1)−101−22で表される化合物(化合物(1)−101−22)(5.75mmol)を滴下し、滴下終了後約16時間室温で攪拌した。
次いで、エバポレーターを用いて得られた溶液を蒸留し、ペンタン(30ml)を加えて2時間激しく撹拌して、ろ過して得られたろ過物を、フラッシュ・クロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/ジエチルエーテル=12:1(体積比))により精製し、黄色液体として、下記式(1)−101−2で表される化合物(化合物(1)−101−2)を得た。
【0081】
【化13】
【0082】
[実施例1]
(化合物(1)−101A及び(1)−101Bの製造)
化合物(1)−101−2(0.3764g、2.0mmol)を塩化メチレン(8ml)に溶解させ、気相部分をアルゴンで置換し、この溶液中に化合物(1)−101−1の粗体(純品に換算して2.0mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解させた溶液を0℃で滴下し、0℃で10分間撹拌し、さらに室温で14時間撹拌した。
次いで、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(移動相:酢酸エチル:ヘキサン=1:12(体積比))により精製し、化合物(1)−101A((E)−exo体)(収率34%)及び化合物(1)−101B((E)−endo体)(収率44%)を得た。化合物(1)−101A及び化合物(1)−101Bの同定データは以下の通りである。
【0083】
化合物(1)−101A((E)−exo−2−エトキシカルボニル−3−ベンジリデン−N−ベンジル−7−アザベンゾビシクロ[2.2.1]ヘプタン):
1H NMR:(300MHz, CDCl
3):δ 7.34-7.08(m, 14H), 6.69 (s, 1H), 4.71 (s, 1H), 4.53 (s, 1H),4.17-3.98 (m, 2H), 3.61 (d,J=13.2Hz,1H),3.50(s,1H),3.20 (d, J=13.2Hz,1H),1.05(t, J=7.2Hz, 3H)ppm.
13CNMR(500MHz,CDCl
3):δ170.5(CO),144.7,143.1,142.9,138.8,137.8,137.2,136.9,128.5,128.3,127.9,127.5,127.0,126.8,126.7,126.6,126.5,124.2(CH),122.8,122.2,72.5(CH),69.0(CH),60.1(CH
2),53.3(CH),51.5(CH
2),14.1(CH
3)ppm.
IR(ATR):3060, 3026, 2979, 2935, 1709, 1600, 1493, 1115, 1074cm
-1.
【0084】
化合物(1)−101B((E)−endo−2−エトキシカルボニル−3−ベンジリデン−N−ベンジル−7−アザベンゾビシクロ[2.2.1]ヘプタン):
1H NMR:(300MHz, CDCl
3): δ 7.60-7.08(m, 14H), 6.68(s, 1H),4.65 (d, J=4.5,1H), 4.59 (s, 1H),4.28-4.26 (m, 1H), 3.63-3.44 (m,4H) , 0.69(t, J=7.2Hz, 3H)ppm.
13CNMR(300MHz,CDCl
3):δ170.8(CO),143.0,141.5,138.0,137.0,137.0,136.9,128.8,128.3,128.0,127.7,127.4,127.3,127.2,127.1,126.6,126.2,126.1(CH),73.6(CH),69.1(CH),60.1(CH
2),52.3(CH
2), 48.5(CH),13.5(CH
3)ppm.
IR(ATR): 3059, 3025, 2979, 2930, 1711, 1599, 1494, 1149, 1073cm
-1.
【0085】
【化14】
【0086】
<植物の抵抗性誘導>
[実施例2〜3]
上記で得られた化合物(1)−101A、化合物(1)−101Bを用いて、植物の抵抗性を誘導した。
各化合物(1)の抵抗性誘導活性は、下記手順で評価した。すなわち、防御応答関連遺伝子プロモーター(PR−1a)に、ホタルルシフェラーゼ遺伝子(LUC)を連結したレポーター遺伝子(PR−1a−LUC)を構築し、これをシロイヌナズナに導入して形質転換した。次いで、この形質転換シロイヌナズナの種子を96穴マルチウェルプレートに播種し、1mMルシフェリン水溶液中で発芽させた。次いで、上記各化合物のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液をそれぞれ調製し、これら化合物の濃度が30μMの濃度となるように、この溶液を各ウェルに加えて、形質転換シロイヌナズナの芽生えを処理した。
次いで、フォトカウンティング装置(ARGUSシステム、浜松ホトニクス社製)及びソフトウェア(AQUACOSMOS、浜松ホトニクス社製)を使用して、各ウェル内の発光強度を測定し、レポーター遺伝子の発現量を測定することで、化合物(1)−101A(実施例2)、化合物(1)−101B(実施例3)の抵抗性誘導効果をそれぞれ評価した。
【0087】
[参考例1]
上記各化合物(1)に代えてアシベンゾラールSメチル(S−methyl benzo[1.2.3]thiadiazole−7−carbothioate)を使用し、アシベンゾラールSメチルの濃度が50μMとなるようにアシベンゾラールSメチルのDMSO溶液を加えたこと以外は、実施例2〜3と同様に、アシベンゾラールSメチルの抵抗性誘導活性を評価した。アシベンゾラールSメチルは、誘導剤として公知のものである。
【0088】
[比較例1]
上記各化合物(1)のDMSO溶液に代えてDMSOのみを加えたこと以外は、実施例2〜3と同様に、ウェル内の発光強度を測定した。
【0089】
実施例2〜3、参考例1及び比較例1における発光強度の測定結果を
図1に示す。
図1のグラフにおける縦軸は発光強度(フォトン数/分/μm
2)を示し、横軸は化合物(1)若しくはアシベンゾラールSメチルのDMSO溶液又はDMSOを各ウェルに加えてからの時間(0〜144時間)を示す。
図1から明らかなように、化合物(1)−101A、化合物(1)−101Bは、いずれも十分な抵抗性誘導活性を有していた。このように、従来の誘導剤とは全く相違する新規の骨格を有する化合物(1)が、抵抗性誘導活性を有することが確認できた。