(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020944
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】自動車の車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20161020BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20161020BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B62D25/08 F
B62D25/08 E
B62D25/20 C
B60K1/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-525120(P2015-525120)
(86)(22)【出願日】2014年6月11日
(86)【国際出願番号】JP2014065444
(87)【国際公開番号】WO2015001928
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-138722(P2013-138722)
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-138723(P2013-138723)
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】安原 重人
(72)【発明者】
【氏名】彌武 朋也
(72)【発明者】
【氏名】粟野 克行
【審査官】
田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−049895(JP,A)
【文献】
特開2005−280443(JP,A)
【文献】
特開昭64−036583(JP,A)
【文献】
特開平04−143173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 25/20
B62D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂でバスタブ状に形成された車体(11)のダッシュボードロアパネル(15)の前面(15a)に金属製のフロントサイドフレーム(16)の後端を固定した自動車の車体構造であって、
前記フロントサイドフレーム(16)は、前記ダッシュボードロアパネル(15)の前面(15a)に固定される板状の固定部(16a)と、前記固定部(16a)から前上方に延びる傾斜部(16b)と、前記傾斜部(16b)の前端から略水平方向に屈曲する屈曲部(16c)と、前記屈曲部(16c)の前端から前方に延びる水平部(16d)とを備え、
前記フロントサイドフレーム(16)にそれぞれフロントダンパーハウジング(17)を一体に形成し、内燃機関(26)、電動機(27)および変速機(28)を一体に有するパワーユニット(29)の車幅方向端部をマウント(30)を介して支持するパワーユニット支持部を前記フロントサイドフレーム(16)の上面および前記フロントダンパーハウジング(17)の車幅方向内面に形成し、前記フロントダンパーハウジング(17)の前壁(17b)および車幅方向内壁(17a)間に形成された前部稜線(m)と、前記フロントダンパーハウジング(17)の後壁(17c)および車幅方向内壁(17a)間に形成された後部稜線(n)とを、前記フロントサイドフレーム(16)に接続し、
前記フロントサイドフレーム(16)のパワーユニット支持部は該フロントサイドフレーム(16)の上面の車幅方向幅よりも幅広であることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項2】
前記フロントダンパーハウジング(17)の車幅方向内壁(17a)は車幅方向外側に向かって凸に湾曲しており、前記フロントサイドフレーム(16)側の前記パワーユニット支持部は、前記マウント(30)が嵌合するマウント嵌合孔(16f)と該マウント(30)を締結するボルト孔(o)とからなり、前記フロントダンパーハウジング(17)側の前記パワーユニット支持部は、前記マウント(30)を締結するボルト孔(p)とトルクロッド(40)を締結するボルト孔(q)とからなることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車体構造。
【請求項3】
前記フロントサイドフレーム(16)の断面形状は、水平方向に延びる上部フランジ(a)および下部フランジ(b)と、前記上部フランジ(a)および前記下部フランジ(b)を上下方向に接続するウエブ(c)とにより断面「I」字状に形成された本体部を備え、前記ウエブ(c)の少なくとも車幅方向一方の側面から水平方向に張り出す第1補強リブ(d)が、前記本体部の前端から後端に亙って形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車の車体構造。
【請求項4】
前記ウエブ(c)の少なくとも車幅方向他方の側面から水平方向に張り出す第2補強リブ(e)が、前記本体部の前端から後端に亙って形成されることを特徴とする、請求項3に記載の自動車の車体構造。
【請求項5】
押出材よりなるフロントサイドフレーム延長部(20)を、前記ウエブ(c)の前端を前方に向けて二股状に拡開した部分に溶接したことを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の自動車の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂でバスタブ状に形成された車体のダッシュボードロアパネルの前面に金属製のフロントサイドフレームの後端を固定した自動車の車体構
造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントサイドフレーム本体部の後端とダッシュボードロアパネルの前面との間に、ハニカム構造のアルミニウム押出材で構成された平面視で台形状のフロントサイドフレームリヤを介在させ、フロントサイドフレーム本体部に入力した前面衝突の衝突荷重でフロントサイドフレームリヤを圧壊して衝突エネルギーを吸収するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またフロントサイドフレームの後端とフロアフレームの前端とを前上方から後下方に傾斜する中間フレームで接続するとともに、フロントサイドフレームおよび中間フレームが接続する屈曲部をダッシュボードロアパネルよりも前方に配置することで、前面衝突の衝突荷重で前記屈曲部が折れ曲がったときに、その影響が車室に及び難くしたものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本特開2009−83756号公報
【特許文献2】日本特許第3246900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載されたものは、衝突荷重が入力してハニカム構造のフロントサイドフレームリヤが圧壊しても、フロントサイドフレームリヤとダッシュボードロアパネルとの接触面積は変化しないので、ダッシュボードロアパネルの広い領域に衝突荷重を分散させて吸収することができないという問題があった。
【0006】
また上記特許文献2に記載されたものは、一定断面で直線状に延びるフロントサイドフレームの後端がダッシュボードロアパネルに付き当てられて固定されておらず、中間フレームを介してフロアフレームに接続されているため、この構造を繊維強化樹脂で一体成形されて中間フレームやフロアフレームを持たないバスタブ状の車体に対して適用することは困難である。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、繊維強化樹脂でバスタブ状に形成された車体に接続された金属製のフロントサイドフレームの衝突エネルギーの吸収性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によれば、繊維強化樹脂でバスタブ状に形成された車体のダッシュボードロアパネルの前面に金属製のフロントサイドフレームの後端を固定した自動車の車体構造であって、前記フロントサイドフレームは、前記ダッシュボードロアパネルの前面に固定される板状の固定部と、前記固定部から前上方に延びる傾斜部と、前記傾斜部の前端から略水平方向に屈曲する屈曲部と、前記屈曲部の前端から前方に延びる水平部とを備え
、前記フロントサイドフレームにそれぞれフロントダンパーハウジングを一体に形成し、内燃機関、電動機および変速機を一体に有するパワーユニットの車幅方向端部をマウントを介して支持するパワーユニット支持部を前記フロントサイドフレームの上面および前記フロントダンパーハウジングの車幅方向内面に形成し、前記フロントダンパーハウジングの前壁および車幅方向内壁間に形成された前部稜線と、前記フロントダンパーハウジングの後壁および車幅方向内壁間に形成された後部稜線とを、前記フロントサイドフレームに接続し
、前記フロントサイドフレームのパワーユニット支持部は該フロントサイドフレームの上面の車幅方向幅よりも幅広であることを第
1の特徴とする自動車の車体構造が提案される。
【0009】
また本発明によれば、前記
第1の特徴に加えて、前記フロントダンパーハウジングの車幅方向内壁は車幅方向外側に向かって凸に湾曲しており、前記フロントサイドフレーム側の前記マウント支持部は、前記マウントが嵌合するマウント嵌合孔と該マウントを締結するボルト孔とからなり、前記フロントダンパーハウジング側の前記マウント支持部は、前記マウントを締結するボルト孔とトルクロッドを締結するボルト孔とからなることを
第2の特徴とする自動車の車体構造が提案される。
【0010】
また本発明によれば、前
記第1または第2の特徴に加えて、前記フロントサイドフレームの断面形状は、水平方向に延びる上部フランジおよび下部フランジと、前記上部フランジおよび前記下部フランジを上下方向に接続するウエブとにより断面「I」字状に形成された本体部を備え、前記ウエブの少なくとも車幅方向一方の側面から水平方向に張り出す第1補強リブが、前記本体部の前端から後端に亙って形成されることを
第3の特徴とする自動車の車体構造が提案される。
【0011】
また本発明によれば、前記
第3の特徴に加えて、前記ウエブの少なくとも車幅方向他方の側面から水平方向に張り出す第2補強リブが、前記本体部の前端から後端に亙って形成されることを
第4の特徴とする自動車の車体構造が提案される。
【0012】
また本発明によれば、前記
第3または
第4の特徴に加えて、押出材よりなるフロントサイドフレーム延長部を、前記ウエブの前端を前方に向けて二股状に拡開した部分に溶接したことを
第5の特徴とする自動車の車体構造が提案される。
【0013】
尚、実施の形態のフロア部11は本発明の車体に対応し、実施の形態のマウント嵌合孔16fは本発明のパワーユニット支持部に対応し、実施の形態の第5補強リブhは本発明の縦リブに対応する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、繊維強化樹脂でバスタブ状に形成した車体のダッシュボードロアパネルの前面に後端を固定されるフロントサイドフレームは、ダッシュボードロアパネルの前面に固定される固定部と、固定部から前上方に延びる傾斜部と、傾斜部の前端から略水平方向に屈曲する屈曲部と、屈曲部の前端から前方に延びる水平部とを備えるので、前面衝突の衝突荷重がフロントサイドフレームの前端に入力したとき、固定部および屈曲部が折れ曲がるように座屈して傾斜部の上面がダッシュボードロアパネルの前面に当接することで、フロントサイドフレーム自体の変形によって衝突エネルギーを吸収できるだけでなく、フロントサイドフレームからダッシュボードロアパネルへの荷重伝達面積を増加させて荷重を分散することが可能となり、ダッシュボードロアパネルの必要反力を低減して軽量化を図ることができる。
【0015】
ま
た、フロントサイドフレームにそれぞれフロントダンパーハウジングを一体に形成し、内燃機関、電動機および変速機を一体に有するパワーユニットの車幅方向端部をマウントを介して支持するパワーユニット支持部をフロントサイドフレームの上面およびフロントダンパーハウジングの車幅方向内面に形成したので、ハイブリッド自動車のパワーユニットを一まとめにしてダッシュボードロアパネルの近傍に配置し、その前方に補機等を配置可能なスペースを確保することができる。またフロントサイドフレームとフロントダンパーハウジングとを一体に形成したので、部品点数を削減することができるだけでなく、フロントサイドフレームおよびフロントダンパーハウジングが相互に補強し合ってパワーユニットの支持強度が高められる。
【0016】
特に、フロントダンパーハウジングの前壁および車幅方向内壁間に形成された前部稜線と、フロントダンパーハウジングの後壁および車幅方向内壁間に形成された後部稜線とをフロントサイドフレームに接続したので、フロントサイドフレームおよびフロントダンパーハウジングを強固に一体化することができ、フロントサイドフレームに入力した前面衝突の衝突荷重を、フロントサイドフレームおよびフロントダンパーハウジングの両方から車体に伝達して分散することで、衝突エネルギーの吸収効果を高めることができる。
【0017】
ま
た、フロントサイドフレームのパワーユニット支持部は該フロントサイドフレームの上面の車幅方向幅よりも幅広であるので、パワーユニットを支持するマウントを大型化することができる。
【0018】
また本発明の
第2の特徴によれば、フロントダンパーハウジングの車幅方向内壁は車幅方向外側に向かって凸に湾曲しており、フロントサイドフレーム側のマウント支持部は、マウントが嵌合するマウント嵌合孔と該マウントを締結するボルト孔とからなり、フロントダンパーハウジング側のマウント支持部は、マウントを締結するボルト孔とトルクロッドを締結するボルト孔とからなるので、パワーユニットをフロントサイドフレームおよびフロントダンパーハウジングに強固に支持することができる。
【0019】
また本発明の
第3特徴によれば、フロントサイドフレームの断面形状は、水平方向に延びる上部フランジおよび下部フランジと、上部フランジおよび下部フランジを鉛直方向に接続するウエブとを備えて断面「I」字状に形成された本体部を備え、ウエブの少なくとも車幅方向一方の側面から水平方向に張り出す第1補強リブは、本体部の前端から後端に亙って形成されるので、フロントサイドフレームの前端に入力した前面衝突の衝突荷重をフロントサイドフレームの後端からダッシュボードロアパネルに効率的に伝達して分散できるだけでなく、フロントサイドフレームを鋳造する際の型抜きが容易になって金型のコストを削減することができる。
【0020】
また本発明の
第4の特徴によれば、ウエブの少なくとも車幅方向他方の側面から水平方向に張り出す第2補強リブは、本体部の前端から後端に亙って形成されるので、第2補強リブが途切れて局部的に脆弱になった部分がトリガーとなってフロントサイドフレームの座屈を促進することができる。
【0021】
また本発明の
第5の特徴によれば、押出材よりなるフロントサイドフレーム延長部を、ウエブの前端を前方に向けて二股状に拡開した部分に溶接したので、フロントサイドフレームおよびフロントサイドフレーム延長部を一体に鋳造する場合に比べて金型のコストを削減できるだけでなく、フロントサイドフレーム延長部に入力した前面衝突の衝突荷重をフロントサイドフレームの前端に確実に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は自動車の車体フレームの前部平面図である。(第1の実施の形態)
【
図2】
図2は
図1の2方向矢視図である。(第1の実施の形態)
【
図3】
図3は
図2の3方向矢視図である。(第1の実施の形態)
【
図4】
図4は
図2の4方向矢視図である。(第1の実施の形態)
【
図5】
図5は
図3の5−5線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図6】
図6は
図3の6−6線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図7】
図7は
図3の7−7線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図8】
図8は
図3の8−8線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図9】
図9はフロントサイドフレームの座屈時の作用説明図である。(第1の実施の形態)
【
図11】
図11は第1の実施の形態の
図3に対応する図である。(第
2の実施の形態)
【符号の説明】
【0023】
11 フロア部(車体)
15 ダッシュボードロアパネル
15a 前面
16 フロントサイドフレーム
16a 固定部
16b 傾斜部
16c 屈曲部
16d 水平部
16f マウント嵌合孔(パワーユニット支持部)
17 フロントダンパーハウジング
17a 車幅方向内壁
17b 前壁
17c 後壁
20 フロントサイドフレーム延長部
26 内燃機関
27 電動機
28 変速機
29 パワーユニット
30 マウント
40 トルクロッド
a 上部フランジ
b 下部フランジ
c ウエブ
d 第1補強リブ
e 第2補強リ
ブ
m 前部稜線
n 後部稜線
o ボルト孔
p ボルト孔
q ボルト
孔
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0025】
先ず、
図1〜
図9に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。尚、本明細書において、前後方向、左右方向(車幅方向)および上下方向とは、運転席に着座した乗員を基準として定義される。
【0026】
図1および
図2に示すように、ハイブリッド自動車の車体は、カーボンファイバー強化樹脂あるいはグラスファイバー強化樹脂等の繊維強化樹脂で一体成形したバスタブ状のフロア部11を備える。フロア部11は、フロアパネル12の左右両側縁に沿って前後方向に延びる左右一対のサイドシル13,13と、サイドシル13,13の前端から斜め上前方に延びる左右一対のフロントピラーロア14,14と、サイドシル13,13の前端およびフロントピラーロア14,14の前端を接続するダッシュボードロアパネル15とを備える。
【0027】
ダッシュボードロアパネル15の前面左右に、フロントサイドフレーム16とフロントダンパーハウジング17とを一体に備える左右一対のアルミニウム合金製の鋳造部材18が配置される。フロントサイドフレーム16の後端はダッシュボードロアパネル15の前面15aに固定され、フロントダンパーハウジング17の上端はフロントピラーロア14の上端から前下方に延びるアッパーメンバ19の車幅方向内面に固定され、フロントサイドフレーム16の前端にアルミニウム合金の押出材よりなる一定閉断面のフロントサイドフレーム延長部20の後端が溶接される。
【0028】
左右のアッパーメンバ19の前端から車幅方向内側に湾曲して延びる左右一対のロアメンバ21,21の前端と、左右のフロントサイドフレーム延長部20,20の前端とに、矩形枠状のフロントバルクヘッド22が接続される。フロントバルクヘッド22から車幅方向外側に延びる左右一対のステー23,23の前面に、バンパービームエクステンション24,24を介してバンパービーム25が支持される。
【0029】
左右の鋳造部材18,18には、内燃機関26、電動機27および変速機28を一体化したパワーユニット29の車幅方向両端部がマウント30,30を介して支持される。
【0030】
次に、
図2〜
図8に基づいて鋳造部材18の構造を詳細に説明する。
【0031】
図3、
図4および
図8から明らかなように、フロントサイドフレーム16は、ダッシュボードロアパネル15の前面15aに当接し、ダッシュボードロアパネル15の内部に埋設した補強板31にボルト32…で締結される板状の固定部16aと、固定部16aの前面から前上方に延びる傾斜部16bと、傾斜部16bの前端から略水平方向に屈曲する屈曲部16cと、屈曲部16cの前端から前方に延びる水平部16dとを備える。傾斜部16bの上下方向の高さは固定部16aから屈曲部16cに向けて僅かに増加し、水平部16dにおいて略一定である(
図2および
図3参照)。また傾斜部16bの車幅方向の幅は固定部16aから屈曲部16cに向けて急激に減少し、水平部16dにおいて略一定である(
図8参照)。
【0032】
傾斜部16b、屈曲部16cおよび水平部16dの全域に亙って、その横断面は、水平方向に延びる上部フランジaおよび下部フランジbと、上部フランジaおよび下部フランジbを上下方向に接続するウエブcとを備えて「I」字状あるいは「エ」字状に形成される本体部を備える。本体部のウエブcの車幅方向内面には前後方向に延びる第1補強リブdが車幅方向内向きに突設される(
図3参照)。
図3に鎖線で示すように、フロントサイドフレーム16の断面中心を結ぶラインLは水平部16dにおいて前から後に水平方向に延びるが、屈曲部16cで屈曲して傾斜部16bにおいて後下方に延びている。第1補強リブdは、前記ラインLを下方に平行移動した位置に配置されている。
【0033】
一方、本体部のウエブcの車幅方向外面には前後方向に延びる第2補強リブeが車幅方向外向きに突設される(
図4参照)。第2補強リブeは、水平部16dおよび屈曲部16cだけに設けられており、傾斜部16bには設けられていない(
図7参照)。車幅方向に見たとき、第1補強リブdおよび第2補強リブeは同じ高さに重なっている(
図5および
図6参照)。
【0034】
フロントサイドフレーム16のウエブcの車幅方向内面には、上部フランジa、第1補強リブdおよび下部フランジbを上下方向に接続する第3〜第5補強リブf,g,hが車幅方向内向きに突設される(
図3参照)。第3補強リブfは水平部16dの前端寄りの位置に配置され、第4補強リブgは水平部16dの前後方向中間部に配置され、第5補強リブhは水平部16dの後端、つまり屈曲部16cとの境目に配置される。第1補強リブdは、第5補強リブhと交差する交差部Pで屈曲する。
【0035】
一方、フロントサイドフレーム16のウエブcの車幅方向外面には、上部フランジa、第2補強リブeおよび下部フランジbを上下方向に接続する第6〜第8補強リブi,j,kが車幅方向外向きに突設される(
図4参照)。第6補強リブiは第3補強リブfと重なる位置に配置され、第7補強リブjは第4補強リブgと重なる位置に配置され、第8補強リブkは傾斜部16bの前端、つまり屈曲部16cとの境目に配置される。第2補強リブeは第8補強リブkと交差する交差部Qで途切れている。
【0036】
本体部のウエブcは、第3補強リブfおよび第6補強リブiよりも前方で二股に拡開し、かつ傾斜部16bの後半部で二股に拡開している(
図8参照)。
【0037】
フロントサイドフレーム16の水平部16dの上部フランジaは車幅方向外側に半円状に張り出しており、その中央部に下向きに窪む円形の凹部よりなるマウント嵌合孔16fが中子による鋳抜きにより形成される(
図2および
図6参照)。
【0038】
図2〜
図6から明らかなように、フロントダンパーハウジング17は、車幅方向内壁17a、前壁17b、後壁17cおよび上壁17dを備え、フロントサイドフレーム16の上部フランジaから上方かつ車幅方向外側に起立する。車幅方向内壁17aはマウント嵌合孔16fの半周を取り囲むように車幅方向外側に凸に湾曲しており、その前部稜線mから前壁17bが車幅方向外側に連続するとともに、その後部稜線nから後壁17cが車幅方向外側に連続する。上壁17dは、車幅方向内壁17a、前壁17bおよび後壁17cの上端を接続して水平方向に延び、その車幅方向外端がアッパーメンバ19の車幅方向内面にボルト33で固定される(
図5および
図6参照)。上壁17dの下面にはフロントサスペンションのフロントダンパー34の上端を固定する3個のボルト孔17e…が形成される。
【0039】
図3から明らかなように、パワーユニット29の右側面に3本のボルト35…でマウトブラケット36が固定されており、マウトブラケット36の下端に接続されてフロントサイドフレーム16のマウント嵌合孔16fに嵌合する緩衝部材37の取付ブラケット38が、フロントサイドフレーム16の上部フランジaの2個のボルト孔o,oと、フロントダンパーハウジング17の車幅方向内壁17aのボルト孔pとに3本のボルト39…で固定される。またマウトブラケット36の上端に前端を接続されたトルクロッド40の後端が、フロントダンパーハウジング17の車幅方向内壁17aの2個のボルト孔q,qに2本のボルト41,41で固定される。
【0040】
パワーユニット29の左側面を左側のフロントサイドフレーム16およびフロントダンパーハウジング17に支持する部分の構造は、上述したパワーユニット29の右側面を右側のフロントサイドフレーム16およびフロントダンパーハウジング17に支持する部分の構造と実質的に同じである。
【0041】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0042】
自動車が前面衝突すると、衝突荷重がバンパービーム25からバンパービームエクステンション24,24およびフロントサイドフレーム延長部20,20を介してフロントサイドフレーム16,16に伝達され、更にフロントサイドフレーム16,16からダッシュボードロアパネル15の前面15aに伝達されるとともに、フロントサイドフレーム16,16からフロントダンパーハウジング17,17を介してアッパーメンバ19,19に伝達される。
【0043】
フロントサイドフレーム16は、衝突荷重が入力する水平部16dの後方に屈曲部16cおよび傾斜部16bを備えており、傾斜部16bの後端に設けた固定部16aがダッシュボードロアパネル15の前面15aにボルト32…で固定されるので、
図9に示すように、前記衝突荷重で屈曲部16cおよび固定部16aが折れ曲がるように座屈し、屈曲部16cおよび固定部16aに挟まれた傾斜部16bの上がダッシュボードロアパネル15の前面15aに当接する。その結果、フロントサイドフレーム16自体の圧壊により衝突エネルギーが吸収されるだけでなく、フロントサイドフレーム16からダッシュボードロアパネル15に衝突荷重を伝達する荷重伝達面積が増加することで、繊維強化樹脂製のダッシュボードロアパネル15の広い領域に衝突荷重を分散し、その局部的破壊を阻止して衝突エネルギーを効率的に吸収することができ、しかもダッシュボードロアパネル15の必要反力を低減して軽量化を図ることができる。
【0044】
このとき、フロントサイドフレーム16は、傾斜部16b、屈曲部16cおよび水平部16dの断面中心を結ぶラインL(
図3参照)と略平行に延びる第1補強リブdと、水平部16dにおいて前後方向に略水平に延びる第2補強リブeとを備え、第1補強リブdおよび第2補強リブeは車幅方向に見たときに交差部Pにおいて交差するので、前面衝突の衝突荷重の入力時に、第2補強リブeで一定の反力を発生させながら、交差部Pの近傍で第1補強リブdを折り曲げることでフロントサイドフレーム16の座屈を誘発し、衝突エネルギーの吸収性能を高めることができる。
【0045】
またフロントサイドフレーム16は、上部フランジaおよび下部フランジbを上下方向に接続する第3〜第8補強リブf,g,h,i,j,kを備えるので強度が高められるだけでなく、そのうちの第5補強リブhが、第1補強リブdが折れ曲がる交差部Pに交差するので(
図3参照)、交差部Pに応力を集中してフロントサイドフレーム16の折れ曲がりを促進することができる。しかも第2補強リブeの後端は、第8補強リブkと交差する交差部Qで途切れているので(
図4参照)、フロントサイドフレーム16の傾斜部16bの圧壊が促進される。
【0046】
また押出材よりなるフロントサイドフレーム延長部20を、フロントサイドフレーム16のウエブcの前端を前方に向けて二股状に拡開した部分に溶接したので(
図8参照)、フロントサイドフレーム16およびフロントサイドフレーム延長部20を一体に鋳造する場合に比べて金型のコストを削減できるだけでなく、フロントサイドフレーム延長部20に入力した前面衝突の衝突荷重をフロントサイドフレーム16の前端に確実に伝達することができる。同様に、フロントサイドフレーム16のウエブcの後端を後方に向けて二股状に拡開した部分に固定部16aを接続したので(
図8参照)、フロントサイドフレーム16に入力した衝突荷重を固定部16aに確実に伝達することができる。
【0047】
しかもフロントサイドフレーム16の断面形状は、水平方向に延びる上部フランジaおよび下部フランジbと、上部フランジaおよび下部フランジbを上下方向に接続するウエブcとにより断面「I」字状ないしは断面「エ」字に形成された本体部を備え、第1補強リブdおよび第2補強リブeはウエブcから水平方向に延びるので、フロントサイドフレーム16を鋳造する金型を車幅方向に型割りすることで、型抜きが容易になって製造コストが削減される。
【0048】
ところで、フロアパネル12のダッシュボードロアパネル15が圧壊することなく支持可能な最大荷重は予め推定可能であり、フロントサイドフレーム16からダッシュボードロアパネル15に入力する前面衝突の衝突荷重は前記最大荷重未満に抑えることが望ましい。本実施の形態によれば、フロントサイドフレーム16の第1補強リブdの屈曲位置(
図3および
図4の交差部P参照)を前後方向に調整することで、フロントサイドフレーム16の座屈強度を任意に調整することができるので、簡単な調整でダッシュボードロアパネル15に入力する荷重が前記最大荷重を超えるのを防止することができる。
【0049】
また金属製の鋳造部材18はフロントサイドフレーム16およびフロントダンパーハウジング17を一体に備えており、内燃機関26、電動機27および変速機28を一体に有するハイブリッド自動車のパワーユニット29の車幅方向端部をマウント30を介して支持するパワーユニット支持部をフロントサイドフレーム16の上面およびフロントダンパーハウジング17の車幅方向内面に形成したので、パワーユニット29をダッシュボードロアパネル15の近傍にコンパクトに配置し、その前方にABS装置やオイルポンプのような補機類を配置するスペースを確保することができる。
【0050】
しかもフロントサイドフレーム16とフロントダンパーハウジング17とを一体に形成したので、部品点数を削減することができるだけでなく、フロントサイドフレーム16およびフロントダンパーハウジング17が相互に補強し合ってパワーユニット29の支持強度が高められる。
【0051】
特に、フロントダンパーハウジング17の前壁17bおよび車幅方向内壁17a間に形成された前部稜線mと、フロントダンパーハウジング17の後壁17cおよび車幅方向内壁17a間に形成された後部稜線nとをフロントサイドフレーム16に接続したので(
図2参照)、フロントサイドフレーム16およびフロントダンパーハウジング17を強固に一体化することができ、フロントサイドフレーム16に入力した前面衝突の衝突荷重を、フロントサイドフレーム16およびフロントダンパーハウジング17の両方からダッシュボードロアパネル15やアッパーメンバ19に伝達して分散することで、衝突エネルギーの吸収効果を高めることができる。
【0052】
このとき、前部稜線mおよび後部稜線nをフロントサイドフレーム16の上面の車幅方向中央部に接続したので(
図1参照)、フロントサイドフレーム16に入力した衝突荷重をフロントダンパーハウジング17に確実に伝達することができる。
【0053】
更に、フロントダンパーハウジング17の車幅方向内壁17aをフロントサイドフレーム16から車幅方向外側に張り出したので、フロントダンパーハウジング17に上端を支持されるフロントダンパー34を正面視で鉛直に近い姿勢で配置することができ(
図6参照)、車輪から伝達される荷重をフロントダンパーハウジング17で効率的に支持することができる。
【0054】
またフロントサイドフレーム16にパワーユニット支持部を構成するマウント嵌合孔16fを一体に形成し、マウント嵌合孔16fをフロントサイドフレーム16の上面の車幅方向幅よりも幅広にしたので(
図1参照)、フロントサイドフレーム16に大型のマウント30を介してパワーユニット29を支持することができる。
【0055】
しかもフロントダンパーハウジング17の車幅方向内壁17aは車幅方向外側に向かって凸に湾曲しており、フロントサイドフレーム16側のマウント支持部は、マウント30の緩衝部材37が嵌合するマウント嵌合孔16fと、マウント30の取付ブラケット38の下部を締結する2個のボルト孔o,oとからなり、フロントダンパーハウジング17側のマウント支持部は、マウント30の取付ブラケット38の上部を締結するボルト孔pとトルクロッド40を締結するボルト孔q,qとからなるので、パワーユニット29をフロントサイドフレーム16およびフロントダンパーハウジング17に強固に支持することができる。
【0056】
次に、
図10に基づいて本発明
の実施の
参考形態を説明する。
【0057】
第1の実施の形態では、フロントサイドフレーム16のウエブcが、前端部および後端部を除いて平面視で直線状に形成されているが
、実施の
参考形態は、ウエブcが2カ所において屈曲部Rを備えている。この屈曲部Rにより、前面衝突の衝突荷重が入力したときにフロントサイドフレーム16の座屈を促進して衝突エネルギーの吸収性能を更に高めることができる。
【0058】
次に、
図11に基づいて本発明の第
2の実施の形態を説明する。
【0059】
第1の実施の形態では、フロントサイドフレーム16の水平部16dの上部フランジaにマウント嵌合孔16fが形成されているため、マウント嵌合孔16fとの干渉を回避するために第1補強リブdおよび第2補強リブeが断面中心を結ぶラインLよりも下側にずれている。第
2の実施の形態のフロントサイドフレーム16はマウント嵌合孔16fを備えていないため、第1補強リブdおよび第2補強リブeが断面中心を結ぶラインL上に形成されている。これにより、フロントサイドフレーム16の強度を第1補強リブdおよび第2補強リブeにより一層効果的に高めることができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0061】
例えば、実施の形態ではフロントサイドフレーム16のウエブcの車幅方向内面に第1補強リブdを設け、車幅方向外面に第2補強リブeを設けているが、第1補強リブdおよび第2補強リブeの位置関係を逆転したり、ウエブcの一方の側面に第1補強リブdおよび第2補強リブeの両方を設けたりすることができる。
【0062】
また本発明のパワーユニット支持部は実施の形態のマウント嵌合孔16fに限定されるものではない。