【実施例】
【0027】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げる。しかしながら、これら実施例によって、本発明は何ら制限されるものではない。
【0028】
(使用原料の準備)
重合実験には、2,5−フランジカルボン酸ジクロリド(FDCC)、ジフェニルエーテル(以下、「DPE」ということもある)、1,2−ジクロロエタン(以下、「DCE」ということもある)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(以下、「[bmim]Cl」ということもある)、塩化アルミニウムAlCl
3 を用いた。それぞれのものの入手や準備方法を以下に記載する。
【0029】
FDCCは2,5−フランジカルボン酸(FDCA)を原料として調製した。FDCAは、東京化成工業株式会社のもの(純度98.0%)を購入し、まず水を用いて再結晶して精製した。このFDCAの再結晶による精製工程は、購入したFDCA7.0gと水1000gとを100℃にて混合しFDCA水溶液を調製し、そのFDCA水溶液を100℃から25℃まで3時間かけて冷却した。冷却後のFDCA水溶液中にはFDCA固体が析出していたので、旭製作所株式会社の定量濾紙によって濾過し、濾過残として得られたFDCA固体を減圧乾燥器内にて50℃にて12時間乾燥させて精製FDCAを得た。
そして、撹拌子、還流管、温度計、滴下漏斗を取り付けた三口フラスコに精製FDCA3.00gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF:シグマアルドリッチ社製無水物、99.8%)1mlを仕込み、反応容器内を乾燥窒素で置換した。室温で滴下漏斗を用い塩化チオニル(ナカライテスク社製規格特級)20mlを反応容器中に滴下した。その後、反応容器を80℃で6時間保持した。そして全ての塩化チオニルを減圧留去して、2,5−フランジカルボン酸ジクロリド(FDCC)の粗製物を得た。粗製物を減圧下で昇華精製を行い、無色針状結晶3.02g(収率81%)を得た。FDCCの純度は、1H−NMRを用いて測定した結果によれば99.9重量%以上であった。
【0030】
ジフェニルエーテル(DPE)はナカライテスク株式会社(規格特級純度98.0%)のものを用い、フラスコにト字管(蒸留ヘッド)を経由してリービッヒ冷却器を取り付けた蒸留装置を使用して60℃、0.3Torrの減圧蒸留により精製したものを実験に供した。
【0031】
1,2−ジクロロエタン(DCE)は、東京化成工業株式会社のもの(特級、純度99.5%)を購入し、水素化カルシウムCaH
2と接触させて脱水し、その脱水したDCEを常圧蒸留によって精製した。常圧蒸留は、フラスコにト字管(蒸留ヘッド)を経由してリービッヒ冷却器を取り付けた蒸留装置を使用して82℃、大気圧下の常圧蒸留により行った。
【0032】
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド([bmim]Cl)は、東京化成工業株式会社のもの(一級、純度98.0%)を購入し、減圧下にて脱水し用いた。
【0033】
塩化アルミニウムAlCl
3は、東京化成工業株式会社のもの(純度98.0%)を購入して用いた。
【0034】
参考のため、以上のようにして準備したFDCA、FDCC、DPE、DCE、[bmim]Clそれぞれの化学式を
図1にまとめて示す。
【0035】
([bmim]Cl使用重合)
図2は、[bmim]Clを溶媒として使用した重合操作を示す概略である。
図2を参照して、[bmim]Clを使用した重合操作について説明する。
nbモル(具体的には11.5mmol、2.00g)の[bmim]Clと、naモル(具体的には30mmol、4.00g)の塩化アルミニウムAlCl
3 と、をナスフラスコ21に装入する。ナスフラスコ21中に窒素ガスを注入しナスフラスコ21中を窒素ガス雰囲気とした状態(窒素ガスを注入したゴム風船41を用いる)において室温下で撹拌装置31(ナスフラスコ21中の撹拌子31aとそれを駆動する撹拌本体部31bとを含む)により24時間撹拌し、[bmim]Cl−AlCl
3混合溶媒を調製した。
一方、mモルのFDCCと、mモルのDPEと、を三口フラスコ51に装入し(FDCCとDPEとはいずれもmモルの等モルで混合した)、その後、ナスフラスコ21中の[bmim]Cl−AlCl
3混合溶媒2mlを三口フラスコ51に注入した。その後、三口フラスコ51を60℃に昇温し、窒素雰囲気下にて撹拌しつつ60℃でtp(時間)保持し重合(重合ステップ)させた。
60℃でtp(時間)保持し重合させた三口フラスコ51の内容物は、後に詳述する回収ステップに供された。
【0036】
([bmim]Cl不使用重合)
図3は、[bmim]Clを使用しない重合操作を示す概略である。
図3を参照して、[bmim]Clを使用しない重合操作について説明する。
mモルのFDCCと、mモルのDPEと、yリットルのDCEと、を三口フラスコ51に装入し(FDCCとDPEとはいずれもmモルの等モルで混合した)、その後、三口フラスコ51を窒素雰囲気下(三口フラスコ51の内部を窒素置換しつつ)にて−10℃まで冷却した。−10℃に冷却された三口フラスコ51の内部にnaモルの塩化アルミニウムAlCl
3 を加えた。そして、三口フラスコ51を窒素置換下、−10℃にて30分間撹拌した。その後、三口フラスコ51の温度を−10℃から室温まで2時間かけて昇温し、三口フラスコ51を窒素置換下、室温にて20時間撹拌し重合(重合ステップ)させた。
室温で20時間保持し重合させた三口フラスコ51の内容物は、後に詳述する回収ステップに供された。
【0037】
図4は、回収ステップ操作を示す概略である。
図4を参照して、回収ステップの操作について説明する。
[bmim]Cl使用重合(
図2)及び[bmim]Cl不使用重合(
図3)のいずれも、重合終了後、三口フラスコ51中に約0℃のメタノールを約30ml注入した。メタノールの注入により三口フラスコ51中には析出物61が生じたので、ソックスレー抽出装置に使用される円筒濾紙73(具体的には、ADVANTEC社製の円筒濾紙No.84セルロース繊維)により濾過し、円筒濾紙73中の濾過残をソックスレー抽出装置(溶媒:メタノール、常圧)にかけ熱メタノールを還流して20時間抽出洗浄した。
得られた生成物(固体)は、後述する各種分析に供された。
【0038】
生成物の分析は、次のように行われた。
(赤外分光分析:赤外分光法(IR)吸収スペクトル)
得られた生成物を赤外分光計(日本分光社製の型番FT/IRー410を用いた。)にて分光分析した。得られたチャートにおいては、横軸に波数(Wavenumber)(単位:cm
ー1:(カイザー))をとり、縦軸に透過率(Transmittance)(単位:a.u.)(上方向に透過率が大きくなるよう描いている。なお、かっこ内の「a.u.」は任意強度(arbitrary unit)を意味している。)をとっている。
なお、この赤外分光分析の測定条件は、測定領域4000cm
ー1〜500cm
ー1、透過モード、KBr錠剤法であった。
【0039】
(窒素雰囲気中加熱による10%重量減少温度測定)
得られた生成物を、まずJIS K 7100(プラスチックの状態調節及び試験場所の標準状態)の標準温度状態2級及び標準湿度状態2級(温度 23±2℃及び相対湿度 50±5%)において24時間以上状態調節して試験片を作成し、その作成した試験片をJIS K7120‐1987に規定される試験方法にて試験し得られた温度とした。JIS K7120‐1987に規定される試験方法において用いた熱重量分析装置(TGA)はPerkin−Elmer社製の型番TGA7を用い(昇温速度20℃/分、窒素気流下)、室温(25℃)における重量から10%重量が減少(即ち、室温での重量の90%になる)する温度(単位:℃)を測定した。
【0040】
(融点測定)
得られた生成物の融点Tmを融点測定器を用い、次のように測定した。
融点測定器はヤナコ機器開発研究所株式会社製の型番MP−500Dを用い、その測定条件は空気中で5℃/分にて昇温した。
【0041】
(広角X線回折)
得られた生成物を用いて広角X線回折を行った。ここに広角X線回折分析はいずれもリガク社製の型番「MiniFlex」(線源:CuKα)を用い、その測定条件は5〜50°まで検出速度1°/分とした。グラフには、横軸に2θ(単位:度)をとり、縦軸に強度(任意強度(arbitrary unit)、なお、上方向が強度大である。)をとって示している。
【0042】
(還元粘度)
得られた生成物の還元粘度を測定した。還元粘度測定は、10mlの97%硫酸中に0.01gのポリマー生成物を溶解させ、その溶液をオストワルド型毛細管粘度計を用いて25℃で測定を行った。
【0043】
(収率)
得られた生成物収率(ポリマー収率)は、(生成物質量:g)/((化合物A(FDCC)と化合物B(ここではDPE)との仕込み質量:g)−2×(100%の反応率の場合に生じるHClの質量:g))として計算した。
【0044】
[bmim]Cl使用重合によって得られた結果を
図5にまとめた。
図5中の「Run No.」は実験番号を示し、「Monomer」は重合開始時のモノマー量(mmol。上の重合操作の説明におけるmモル(FDCC及びDPEの仕込みモル数)に該当する。)を示し、「Polymerization time」は重合時間(単位:時間。上の重合操作の説明におけるtp(時間)に該当する。)を示し、「Polymer yield」は上述の生成物収率(%)を示し、「T10」は上述の窒素雰囲気中加熱による10%重量減少温度(℃)を示し、「Tm」は上述の融点(℃)を示し、そして「η
sp/c」は上述の還元粘度(dl/g)を示している。
また、実験番号「Run No.」が13、14及び15のものの赤外分光チャートを
図6に示した。
さらに、実験番号「Run No.」が13、14及び15のものの広角X線回折チャートを
図7に示した。
【0045】
図5に示す通り、平均分子量の増加に伴って増加する還元粘度「η
sp/c」を分子量の指標とすると、「Monomer」(モノマーの仕込量)が1.0mmol〜2.0mmolの時、最も分子量が高いポリマーが得られた(高い分子量のものが得られる反応開始時のモノマー濃度は、化合物Aのモル数MA(単位mmol)と化合物Bのモル数MB(単位mmol)との合計モル数(単位mmol)が、用いる溶媒の体積V(ml)になす割合((MA+MB)/V)(単位mmol/ml)として、0.5〜1.0の範囲が好ましい。)。また、重合時間を延ばすことで分子量を増加させることができることを確認した。
また、
図6に示す赤外分光チャートから、ケトンのカルボニル基の特性吸収(1644cm
−1。
図6中、「Ketone C=O」として示した。)が重合時間の増加に伴って減少すると共に、ポリマーの末端に位置するメチルエステル(重合反応後にメタノールを混合すると、カルボン酸クロリドが存在すると、それとメタノールが反応しメチルエステルが生成する)のカルボニル基の特性吸収1733cm
−1(
図6中、「Ester C=O」として示した。)が重合時間の増加に伴って消失していることから、重合時間を伸ばすことで高分子量体のポリエーテルケトンを調製することができることを確認した。
得られたポリエーテルケトンは汎用の有機溶媒に不溶で、高い耐熱性を有することが分かった。
また、
図7の粉末広角X線回折から、得られたポリエーテルケトンは結晶性を有することが分かった。
従って、イオン液体(ここでは[bmim]Cl)を溶媒に用いることで高分子量体の結晶性熱可塑性のポリエーテルケトンを調製できることが明らかになった。また、重合で使用したイオン液体は回収して再利用可能であることから、本重合方法は、ポリマー製造の観点からも有利である。
【0046】
[bmim]Cl不使用重合によって得られた結果を
図8にまとめた。
図8中の「Run No.」は実験番号を示し、「[AlCl
3 ]/[Chloride]」はAlCl
3 のモル数naをFDCCのモル数mで除した値(na/m)を示し、「Conc.」は重合開始時の[100%反応が進行したと仮定して生成するポリマーの重量(g)/DCEの使用容積量(l)]×100。単位%)を示し、「Polymer yield」は上述の生成物収率(%)を示し、「T10」は上述の窒素雰囲気中加熱による10%重量減少温度(℃)を示し、「Tm」は上述の融点(℃)を示し、そして「η
sp/c」は上述の還元粘度(dl/g)を示している(
図8中、「−」は測定していないことを示している。)。
また、実験番号「Run No.」が7のものの赤外分光チャートを
図9に示した。
【0047】
図9の赤外分光チャートにおいて、ケトンのカルボニル基の特性吸収(1644cm
−1。
図9中、「Ketone C=O」として示した。)が確認できたことから重合反応の進行を確認した。しかし、ポリマーの末端に位置するメチルエステルのカルボニル基の特性吸収1733cm
−1(
図9中、「Ester C=O」として示した。)が観察されること、そして
図8における「Polymer yield」及び「η
sp/c」の値を[bmim]Cl使用重合のもの(
図5)と比較すると、[bmim]Cl使用重合に比し生成物の分子量があまり増加していないことが明らかになった。
【0048】
なお、従来のポリエーテルケトンの調製によく用いられるテレフタル酸ジクロリドやイソフタル酸ジクロリド等のモノマーを使用する重合反応においては、重合時の溶媒にDCEを用いると高分子量体が得られることが知られている。この理由として、重合の進行に伴い析出するポリマーとAlCl
3の複合ゲルがDCE中では良く膨潤し、ゲル中でさらなる重合が進行するためであると考えられている。しかし、上のようにFDCCについては、AlCl
3 の添加量及び重合濃度を変化させてDCE中で重合を試みたが十分な高分子量を有するポリエーテルケトンを得ることが出来なかった。この理由は明らかではないが、本願発明者らは、DCEに対するオリゴマーの溶解性が低いため、膨潤性が非常に低い結晶性のオリゴマーが析出し、重合が進行しなかったためと推測する。
以上の通り、イオン液体(ここでは[bmim]Cl)中で重合反応(重合ステップ)を行うことで、高分子量体のポリエーテルケトンをうまく調製できることが明らかになった。
【0049】
以上の通り、「Run No.」が1〜17は、(式1)で示される化合物A(FDCC)と、(式2)で示される化合物B(ここではDPE。式2中、n=0である。)を重合させ、(式3)で示される繰り返し単位を有するポリエーテルケトン(ここでは、式3中、n=0である。)を生成させる重合ステップを含んでなる、製造方法である。
「Run No.」が12〜17は、重合ステップが、イオン液体(ここでは[bmim]Cl)中で行われるものである。そして、前記イオン液体(ここでは[bmim]Cl)を構成するカチオンがイミダゾリウムカチオンである。
「Run No.」が1〜17は、重合ステップが、塩化アルミニウムの存在下で行われるものである。
「Run No.」が1〜17においては、nが0である。
また、n=1においてArがp−フェニレン基のみについて同様に実験を行ったところ、「Run No.」が12〜17により得られたものと同程度のポリエーテルケトンが得られた。
【0050】
「Run No.」が1〜17によって得られたポリエーテルケトンは、(式3)中、n=0である。
「Run No.」が3、11、12〜17によって得られたポリエーテルケトンは、窒素雰囲気中加熱による10%重量減少温度が390℃以上である。
「Run No.」が15によって得られたポリエーテルケトンは、還元粘度が0.2dl/g以上である。