(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された密封装置の場合、前記突合せ接合部は接着剤により接着して一体とされる。そのため、密封装置を組み立てる際、接着剤を塗布するという作業が必要とされる。特に、前記のような風力発電装置のように高所での組立作業の場合には、このような接着剤を塗布して一体とする作業は、煩雑であり、非常に難しい作業となる。また、特許文献2に開示された密封装置の場合、分割体同士の突合せ面は、磁気吸着手段によって互いに吸着されるよう構成されている。この吸着磁気手段としては、一方の突合せ面に組み込まれた金属カップと、他方の突合せ面に埋め込まれた着磁されたスタッドとからなる例が記載されている。しかし、このような吸着磁気手段を両突合せ面に設けることは、製造上煩雑であり、また、コストも嵩む原因となる。
【0005】
ところで、前記のような密封装置の場合、内径側回転部材に対して弾性的に摺接するテーパ形状、あるいは円筒形状の摺接部を有するリップ部を備えていることがシール機能を維持する上で望ましい。この摺接部は、内径側回転部材に対して弾性変形した状態で摺接するよう、径方向への弾性変形分を見越したいわゆる締め代を含むよう設計される。そのため、内径側回転部材に組み付けた際、摺接部は締め代に相当する分だけ拡径することになる。ところが、前記のように分割体で構成される場合、分割体同士を単に突き合せて接合するだけでは、前記摺接部の拡径に伴い、隣接する分割体の摺接部間で隙間を生じ、この隙間によってシール性が維持できなくなることも懸念される。
【0006】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、簡単な構造でありながら、複数の分割体によって、シール性能の低下を来すことなく組み立てられる密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密封装置は、外径側部材と該外径側部材に対して相対的に同軸回転する内径側部材との間を密封する環状体からなる密封装置において、前記環状体が周方向に複数に分割される分割体からなり、前記各分割体は、前記外径側部材に固定されるシール部材を含み、該シール部材は前記内径側部材に摺接する摺接部を
先側部に有する弾性材製のリップ部を備え、前記分割体同士の隣接部に、前記分割体同士の隣接部に、少なくとも一方の分割体の前記摺接部が他方の分割体の前記摺接部に外径側より重なるように接合される接合部を備え
、前記摺接部は、前記内径側部材に対し締め代の存在により弾性変形を伴い摺接するテーパ部を構成するテーパ構成部からなり、隣接関係の前記分割体における他方の分割体の前記テーパ構成部は、その先端側の周方向端部に、一方の分割体側に突出する舌片部を有し、前記接合部は、一方の分割体の前記テーパ構成部における先端側の周方向端部が前記舌片部に外径側から重なるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
これによれば、前記環状体が複数の分割体からなるから、密封装置が大型の場合でも、外径側部材と内径側部材との間に、分割体毎に取付け、あるいは取外しができ、このような取付/取外作業が容易になし得る。また、保管性、搬送性にも優れる。そして、隣接する分割体同士が、前記接合部において、少なくとも一方の分割体の前記摺接部が他方の分割体の前記摺接部に外径側より互いに重なり合うように接合されて密封装置が構成されるから、隣接する摺接部間のシール機能が確保される。特に、摺接部は、内径側部材に取付けられる際、締め代分だけ拡径するが、前記重なりによって、拡径による隙間等が生じず、摺接部におけるシール機能が確保される。
さらに、テーパ部を構成するテーパ構成部からなる摺接部が内径側部材に弾性変形を伴い摺接するから、内径側部材とシール部材との間がシールされる。また、舌片部に対して一方の摺接部が外径側から重なるように構成されるから、安定した接合状態が得られる。そして、前記拡径変形により対応し易く、摺接部におけるシール機能がより確実に確保される。
【0009】
本発明の密封装置において、他方の分割体における接合部の外径側の面が、一方の分割体に向け漸次径小化する傾斜面を含んでいるものであっても良い。
これによれば、他方の分割体の接合部に傾斜面を含んでいるから、内径側部材に取付ける際の、隣接する分割体における双方の接合部の拡径が、この傾斜部に沿って周方向に擦れ合うようになされ、両分割体の接合部は、馴染み性の良い重なり状態とされる。
【0010】
本発明の密封装置において、前記接合部が、隣接する分割体同士の噛み合い構造からなるものとしても良い。
これによれば、噛み合い構造によって、接合部における分割体同士の接合が確実になされ、内径側部材に取付ける際に、隣接する分割体における双方の接合部が拡径しても、この部分のシール性が低下する懸念がない。
【0011】
本発明の密封装置において
、前記舌片部は、その外径側の面が、一方の分割体に向け漸次径小化する傾斜面とされていても良い。これによれば、接合部における重なり部の馴染み性が良く、シール機能がより確実に確保される。
【0013】
本発明の密封装置において、前記シール部材における前記リップ部を除く部分に、補強用芯金が一体とされているものとしても良い。
これによれば、シール部材が補強用芯金によって補強されるから、摺接部の内径側回転部材に対する摺接が安定化される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の密封装置は、複数の分割体によって構成されるから、風力発電装置の主軸の支持部のように大型のものが求められる場合でも、保管、搬送がし易く、また、高所での組立てにも適する。しかも、シール性能も良好に維持される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1〜
図4は本発明の第1の実施形態に係る密封装置を示している。本実施形態の密封装置1は、
図2に示すような軸受装置2に組み付けられる。この軸受装置2は、例えば、風力発電装置の主軸3をその軸心L回りに回転自在に支持するもので、不図示の風力発電装置機体に固定された外輪4と、前記主軸3に外嵌一体とされた内輪5と、外輪4と内輪5との間に介在された複数の転動体(ボール)6とを備えている。この例では、外輪4が外径側部材とされ、また、内輪5及び主軸3が内径側部材とされ、内輪5及び主軸3が、外輪4に対して同軸(軸心L回りに)回転する。そして、本実施形態の密封装置1は、外輪4と内輪5との間、具体的には、前記転動体6が介在する外輪4と内輪5との間の軸受空間Sを密封するよう装着される。前記転動体6は、複数が不図示のリテーナに保持された状態で周方向に配列され、外輪4及び内輪5のそれぞれの軌道輪(単列又は複列)4a、5aを転動するよう構成される。軸受空間Sには、転動体6の転動が円滑になし得るよう潤滑剤(例えば、グリース)が充填される。軸受空間Sの両端部(
図2では、片側のみ図示)の外輪4と内輪5との間には、前記潤滑剤の軸受空間Sからの漏出と、塵埃や雨水等の軸受空間S内への侵入を防止するために、図示のような密封装置1が装着される。
【0017】
本実施形態の密封装置1は、4個の弧状の分割体11…からなり、これら4個の分割体11…をその端面同士を突合せ接合することにより環状体10をなすように構成される。各分割体11は、弧状の補強用芯金12にゴム材料等からなる弾性材製のシール部材13が一体とされてなり、補強用芯金12は一部12cが露出するが、ほぼ全体がシール部材13に埋入された状態で一体化されている。補強用芯金12の周方向端部12a,12bは、シール部材13で覆われている(
図1(c)及び
図3(a)参照)。これにより、分割体11…を突合せ接合して形成される環状体10においては、補強用芯金12,12同士が直接突合わされず、シール部材13,13同士が弾性的に突合せ接合されることになる。シール部材13は、所定形状のキャビティを備えた金型(不図示)内に前記芯金12を配置し、未加硫のゴム材をキャビティ内に注入して、加硫することにより芯金12と一体に成型される。この成型の際、芯金12は金型に前記一部12cが支持されるため、この被支持部がシール部材13によって覆われず、露出部として残存する。
【0018】
図3(a)(b)(c)は、前記の突合せ部におけるシール部材13,13の突合せ端部13a、13b同士の接合構造の種々の例を示している。(a)は、突合せ端部13a、13bが平面同士の突合せによって接合される接合構造の例を示し、(b)は、突合せ端部13a、13bが傾斜面同士の突合せによって接合される接合構造の例を示し、さらに(c)は突合せ端部13a、13bが鉤型面同士の突合せによって接合される接合構造の例を示している。これらの接合構造は、求められるシール性や、前記軸受空間Sの内圧に対する耐性等を考慮して、例示以外の接合構造も含めて適宜選択的に採用される。各シール部材13の外径部には、前記外輪4の内径面に形成された周溝4bに弾性的に没入して、分割体11を外輪4に固定させる弧状の突部14が形成されている。また、前記シール部材13は、前記補強用芯金12の内周縁部より内径側に延びるように形成されたリップ部130を備えている。即ち、前記補強用芯金12は、前記リップ部130を除く部分に一体とされており、これによって、突部14及びリップ部130の弾性変形が可能とされる。そして、このリップ部130の先側部には、前記内輪5の外径面に弾性的に摺接する弧状の摺接部15が形成されている。
【0019】
本実施形態において、前記シール部材13の摺接部15はテーパ構成部15Aからなり、該テーパ構成部15Aは、前記補強用芯金12の内周部から内径側に斜めに延出されている。前記4個の分割体11を突合せ接合して環状体10を組み立てた時に、4個の前記テーパ構成部15Aは、
図2に示す軸受装置2に組み付けた際に、前記軸心Lに沿って軸受空間Sとは反対側に漸次径小化するテーパ部150をなすように構成される。そして、該テーパ構成部15Aにより構成されるテーパ部150の先端内周縁部の直径は、前記内輪5の外径より小となるように形成される。これによって、テーパ部150の内輪5に対する締め代が確保される。前記各テーパ構成部15Aにおける先端側の周方向端部には、周方向(隣接する分割体11側)に突出する舌片部16が形成されている。該舌片部16は、その外径側の面がその突出端側(隣接する分割体11側)に向け漸次径小化する傾斜面16aを含んでいる。図例の舌片部16においては、
図4に示すように、外径側の面が、途中に段状部を含むが、全体として隣接する分割体11側に向け漸次径小化する傾斜面16aとされている。
【0020】
前記のように構成される4個の分割体11…を突合せ接合し、環状体10を形成して密封装置1を組立て、これを前記軸受装置2に組み付ける過程について説明する。
図1(a)に示すように、4個の分割体11を順次突き合せてゆく。この時、
図4(a)(b)に示すように、他方の分割体11における前記摺接部15(テーパ構成部15A)の一部としての前記舌片部16に、隣接する一方の分割体11の摺接部15(テーパ構成部15A)の一部を外径側より位置付け、その内径側の面17を重ね合わせる。この重ね合わせ部分を含んで、隣接する分割体11,11間に接合部18が構成される(
図1(a)及び
図4(b)参照)。このようにして、組立てられた密封装置1を
図2に示すように外輪4と内輪5との間の環状空間に、前記芯金12の露出部12cが軸受空間S側に向くように、即ち、テーパ部150の先端部が軸受空間Sとは反対側に向くようにして圧入する。この圧入は、環状体10における環状の外周部を構成する4個の突部14…を縮径するように、また、環状体10における内周側のテーパ部150を構成する4個のテーパ構成部15Aの先側部が拡径するような弾性変形を伴ってなされる。そして、前記突部14…は、前記外輪4の周溝4bに復元弾力を伴って没入し、一方、テーパ構成部15A…は、その先側部が拡径した状態で内輪5の外径面に弾接する。
【0021】
前記のように、前記突部14…は、前記外輪4の周溝4bに復元弾力を伴った没入状態とされ、また、テーパ構成部15A…により構成されるテーパ部150は、その先側部が前記締め代の存在により拡径した状態で内輪5の外径面に弾接する。これによって、突部14…及びテーパ構成部15A…の突っ張り合うような反力と周溝4bの突部14…に対する拘束作用とによって、環状体10は、外輪4に固定状態とされ、この状態で前記テーパ部150の先側部は、拡径した状態で内輪5の外径面に弾接する。前記接合部18では、拡径によって、隣接するリップ部15A,15Aの先側部同士が互いに離反する方向にずれる。しかし、他方の分割体11における舌片部16に一方の分割体11におけるリップ部15Aが外径側から重なっているから、この重なり部分に隙間が生じるようなことがない(
図4(c)参照)。しかも、舌片部16の外径側の面が、一方の分割体11に向け、漸次径小化する傾斜面16aとされているから、この双方のずれがスムースになされ、両者が馴染み良く重なった状態とされる。このような重なり状態によって、この接合部18のシール性が確保される。
【0022】
そして、前記シール部材13の外径側に位置する突部14…が、周溝4bに復元弾力を伴った没入状態とされるから、外輪4との間のシール性も確保される。また、シール部材13の前記リップ部130の先側部を除く部分は、拡径することがないから、隣接する分割体11、11間の突合せ部がシール部材13,13同士の弾性的な接合状態となり、この突合せ部分のシール性も確保される。したがって、本実施形態の密封装置1の
図2に示すような装着状態においては、前記主軸3及び内輪5が軸回転しても、前記テーパ構成部15A(テーパ部150)が内輪5の外径面に弾性的に摺接するから、本実施形態の密封装置1によって、前記軸受空間Sがシールされる。また、本実施形態の密封装置1は4個の分割体11…によって構成されるから、保管性及び輸送性に優れ、図例のような大型の軸受装置2に対する組付けや、取外しが容易になされる。
【0023】
図5(a)〜(d)は、隣接する分割体同士における前記舌片部を介した前記接合部の種々の変形例を示している。各図において、白抜矢印の基部側の図(a−1)〜(d−1)は、隣接する分割体11,11を突合せてリップ部15A,15Aを
図4(b)のように重ね合わせた状態を示す。また、白抜矢印の先側の図(a−2)〜(d−2)は、この状態で
図4(c)のようにテーパ構成部15A,15Aを内輪5の外径面に弾接させた状態を示している。
図5(a)では、前記舌片部16の外径側の面が、段差形状部16bを経て突出端側に傾斜する傾斜面16aを有し、一方の分割体11のテーパ構成部15Aにおける当該舌片部16と重なる内径側の面17は、この舌片部16の外径側の面16a,16bと整合する形状とされている。したがって、両面の重ね合わせにより構成される接合部18は、(a−1)に示すような噛み合い形状とされる。このような接合状態のテーパ構成部15A,15Aを内輪5の外径面に弾接させると、その先側部が拡径し、これに伴い、(a−2)に示すように、重ね合わせ面が互いに開くようにずれる。しかし、舌片部16の傾斜面16aの存在により、両合わせ面間に、内径側から外径側に通じる隙間が生じず、この部分でのシール性が維持される。
【0024】
図5(b)では、前記舌片部16の外径側の面は、前記傾斜面16aのみからなり、他方の分割体11における前記内径側の面17は、当該傾斜面16aと整合する傾斜面とされている。この例では、(b−1)に示すように、接合部18は両面16a,17が面接触状態で重なり合って構成される。このような接合状態で、前記と同様にテーパ構成部15A,15Aを内輪5の外径面に弾接させると、その先側部が拡径し、これに伴い、(b−2)に示すように、両傾斜面16a,17が互いに開くようにずれる。しかし、両傾斜面16a,17の面接触により、両合わせ面間に内径側から外径側に通じる隙間が生じず、この部分でのシール性が維持される。
【0025】
図5(c)では、舌片部16の外径側の面は
図5(b)の例と同様に傾斜面16aのみからなるが、一方の分割体11における前記内径側の面17は、
図4に示す例と同様に他の内径側の面と連続する面とされている。この例では、(c−1)に示すように、接合部18は、一方の分割体11におけるテーパ構成部15Aが弾性変形して、前記内径側の面17が舌片部16の傾斜面16aに面接触状態で重なり合って構成される。このような接合状態で、前記と同様にテーパ構成部15A,15Aを内輪5の外径面に弾接させると、その先側部が拡径し、これに伴い、(c−2)に示すように、前記内径側の面17が傾斜面16aに沿って後退するようにずれる。しかし、前記面接触状態は保たれるから、両合わせ面間に内径側から外径側に通じる隙間が生じず、この部分でのシール性が維持される。
【0026】
図5(d)では、舌片部16の外径側の面が
図4に示す例と同様の傾斜面16aからなるが、一方の分割体11における前記内径側の面17は、この傾斜面16aと整合するような形状の面とされている。この例では、(d−1)に示すように、傾斜面16aと前記内径側の面17とが整合した接触状態で重なり合って接合部18が構成される。このような接合状態で、前記と同様にテーパ構成部15A,15Aを内輪5の外径面に弾接させると、その先側部が拡径し、これに伴い、(d−2)に示すように、前記内径側の面17が傾斜面16aに沿って後退するようにずれる。しかし、前記接触状態の大半は保たれるから、両合わせ面間に内径側から外径側に通じる隙間が生じず、この部分でのシール性が維持される。
【0027】
図6〜
図8は、前記第1の実施形態における密封装置の変形例を示す。この例の密封装置1は、各分割体が前記例のような芯金12を有さず、ゴム材のみによるブロック状のシール部材13により構成されている。該シール部材13は、前記と同様のリップ部130を有し、該リップ部130の先側部には、前記内輪5の外径面に弾性的に摺接する弧状の摺接部15が形成されている。この摺接部15はテーパ構成部(本例では、以下、第1のテーパ構成部と言う)15Aからなり、該第1のテーパ構成部15Aは、前記ブロック状のシール部材13から内径側に斜めに延出されている。該第1のテーパ構成部15Aはその先側部が断面V字状に形成され、そのV字形状部の谷部に、ガータースプリング25を嵌装し得る凹溝24が形成されている。また、前記リップ部130には、前記第1のテーパ構成部15Aとは反対側に斜めに延出された第2のテーパ構成部15Aaを有している。
【0028】
この例における分割体11を複数個、周方向に突合せ接合して環状体10を組み立てた時に、各分割体の第1のテーパ構成部15Aは、漸次径小化するテーパ部(本例では、以下第1のテーパ部と言う)150をなすように構成される。そして、本環状体10は、
図6に示すように、当該第1のテーパ部150の内径側が前記軸心Lに沿って軸受空間Sとは反対側に向くように、軸受装置2に組み付けられる。また、この組み付けの際、前記ブロック状のシール部材13の外径部が、前記外輪4の内周部に圧入される。この第1のテーパ部150における、前記V字形状部の山部の頂点が連なる環状の稜線部150aが最小径部とされ、この稜線部150aの内径は、前記内輪5の外径より小となるように形成され、これによって、第1のテーパ部150の内輪5に対する締め代が確保される。そして、後記するように前記凹溝24により形成される周溝にはガータースプリング25が嵌装され、このガータースプリング25の求心方向への弾力によって、前記稜線部150aが内輪5に圧縮された状態で弾接される。また、前記第2のテーパ構成部15Aaは、前記軸受空間S側に漸次径小化する第2のテーパ部152をなすように構成される。第2のテーパ部152の先端部は、前記内輪5の周面に非接触ではあるが、軸受空間Sの内圧が高くなると、第2のテーパ部152は反軸受空間S側に弾性変形し、その先端部が内輪5の周面に近接乃至弾接し得るよう設計される。
【0029】
図7(a)(b)は、
図6に示す例の分割体同士の接合部の構造の一例を要部の斜視図で示している。この例では、隣接する分割体11,11の一方の分割体11の接合端部13aには、前記第1のテーパ構成部15Aの内径側部分と第2のテーパ構成部15Aaの全部が切除された形状の凹段部26が形成されている。他方の分割体11の接合端部13bには、前記凹段部26の形成部位に対応し、且つ該凹段部26の形状に整合する形状の凸部27が周方向に沿って突設されている。即ち、各分割体の11の両端の接合端部13a,13bには、凹段部26及び凸部27がそれぞれ形成されており、これら凹段部26及び凸部27を含んで接合部18が構成される。このように構成された複数の分割体11において、隣接関係の一方の分割体11の前記凸部27を他方の分割体11の凹段部26に外径側より重ね合わせて、凹段部26及び凸部27を順次噛み合せるように突合せ接合して環状体10が構成される。そして、この環状体10においては、前記各分割体11の凹溝24が周方向に連なって周溝が形成され、この周溝に前記ガータースプリング25が求心方向に弾力を有した状態で嵌装される。
【0030】
図6は、前記凹段部26及び凸部27による接合部18を介して形成された環状体10によって構成された密封装置1を示しており、各接合部18においては、凹段部26が外径側から凸部27に重なり合うように接合される。この環状体10を、
図6に示すように内輪5の外周部に嵌装する際に、前記第1のテーパ部150の前記稜線部150aが前記締め代分だけ拡径する。しかし、凹段部26と凸部27との重なりによって、この拡径によっても、接合部18に隙間が生じず、この部分でのシール性が維持される。しかも、第1のテーパ部150には、ガータースプリング25によって求心方向への弾力が付与されるから、この重なり状態が安定的に維持される。また、第1のテーパ部150に軸受空間Sの内圧が付加されるとその先端部が拡径しようとするが、前記重なりとガータースプリング25による求心方向への弾力とにより、第1のテーパ部150の内輪5の外径面に対する全周に亘る弾接によるシール機能が維持される。前記凹段部26と凸部27との重なりは、実質的に隣接する分割体11,11における第1のテーパ構成部15A,15A同士の重なりにより、第2のテーパ構成部15Aa,15Aa同士は重ね合わされない。第2のテーパ構成部15Aaは、前記軸受空間Sの内圧によって、その先端部が縮径して、内輪5の外径面に弾接するから、この部分では拡径に伴うずれを補うための重ね合わせは必要ないからである。
【0031】
図8は、
図6に示す例の分割体同士の接合部の構造の別例を要部の斜視図で示している。この例では、隣接する分割体11,11の一方の分割体11における接合端部13aの端面は、外径側が当該接合端部13aより周方向に延びる傾斜面28とされている。また、他方の分割体11における接合端部13bの端面は、内径側が当該接合端部13bより周方向に延びる傾斜面29とされ、両傾斜面28,29は、環状体10が構成される際、互いに径方向に密接的に重なり合う形状とされている。これによって、接合部18が構成される。この例の分割体11も複数が周方向に突合せ接合され環状体10を構成する。そして、前記凹溝24による周溝には、前記と同様のガータースプリング25が嵌装され、この状態で、
図6に示すように、外輪4と内輪5との間に組み付けられる。この時、第1のテーパ部150の先側がその締め代分だけ拡径するが、前記接合部18は、傾斜面28,29の重ね合わせによって構成されるから、傾斜面28,29同士が面接触状態で相互にずれても、両者間に隙間を生じることがない。また、ガータースプリング25の求心方向への弾性力によって、前記稜線部150aの内輪5の外径面に対する弾接状態、及び両傾斜面28,29の重ね合わせ状態が安定化され、良好なシール機能が維持される。
なお、
図6に示す密封装置1は、複数の分割体11によって構成されるとしたが、
図1の例に示すように4個であっても良い。また、シール部材13が芯金を有さない例を示しているが、
図1及び
図2に示す例のように芯金12を有しているものであっても良い。この場合、前記テーパ構成部15A,15Aaは、芯金12の内周部から内径側に互いに離反するよう斜めに延出される。
【0032】
図9は、第1の実施形態の密封装置の外輪に対する固定構造の変形例を示している。
図1及び
図2に示す例では、シール部材13の外径部に形成された突部14が外輪4の内径面に形成された周溝4bに弾性的に没入することにより、密封装置1が外輪4に固定されるが、この例では、ボルト・ナット等の止具19によって固定されている。即ち、環状体10の外径部には、外輪4の内径面に嵌合される円筒部10aを有し、該円筒部10aは、シール部材13と芯金12とが積層された状態で形成され、この積層部分を径方向に貫くボルト孔10bが形成されている。また、外輪4にも径方向に貫くボルト孔4cが形成されており、両ボルト孔4c,10bにボルト19aが外輪4の外径側から挿通され、前記円筒部10aの内径側からナット19bをボルト19aに螺合させることによって、環状体10(密封装置1)が外輪4に固定される。このような固定構造においては、前記例より密封装置1の固定状態が安定し、軸受空間Sの内圧が高くなる場合でも、それに対する耐性が向上する。
その他の構成は、
図1及び
図2に示す例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0033】
図10は、第1の実施形態の密封装置における分割体同士の突合せ部に連結手段を適用した例を示す分解平面図である。
図1及び
図2に示す例では、各分割体11は単に突き合わされるだけで、特別な連結手段を用いていないが、この例では、隣接する分割体11,11同士が、金属製の連結部片20で連結されている。即ち、各分割体11における隣接する分割体11との突合せ部の近傍に、表裏に貫くボルト孔10cが形成され、該ボルト孔10cに対応する位置に透孔20aを有する連結部片20が別途作製されている。そして、該連結部片20を、隣接する分割体11,11に跨るように配置し、ボルト21を
図7の紙面表面側より前記透孔20a及びボルト孔10cに挿通させ、同裏面側よりナット(不図示)を締結させることによって、隣接する分割体11,11同士が周方向に連結された環状体10(密封装置1)が構成される。このような連結部片20を介して構成される密封装置1においては、隣接する分割体11,11間が強固に接合されるから、前記のように軸受空間S(
図2、
図6及び
図9参照)の内圧が高くなる場合でも、接合状態の耐性が向上する。
その他の構成は、
図1及び
図2に示す例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を省略する。
【0035】
図11〜
図13は、本発明
の密封装置の参考例を示す。この実施形態の密封装置1Aも、前記第1の実施形態の密封装置1と同様に、芯金12にゴム材料等からなる弾性材製のシール部材13が一体とされてなる。この補強用芯金12は、
図1及び
図2に示す例と同様に、一部が露出するが、ほぼ全体がシール部材13に埋入された状態で一体化されている。また、補強用芯金12の周方向端部は、第1の実施形態における
図1(c)及び
図3(a)(b)(c)に示す例と同様にシール部材13で覆われており、分割体11…を突合せ接合して形成される環状体10においては、補強用芯金12同士が直接突合わされず、シール部材13同士が弾性的に突合せ接合されることになる。また、シール部材13の突合せ端部の形状も、
図3(a)(b)(c)に示すような形状が採用される。
【0036】
前記シール部材13の外径部には、
図12に示すように外輪4の内径面に形成された周溝4bに弾性的に没入して、分割体11を外輪4に固定させる弧状の突部14が形成されている。本実施形態の密封装置1Aにおいても、前記シール部材13は、前記補強用芯金12の内周縁部より内径側に延びるように形成されたリップ部130を備えている。即ち、前記補強用芯金12は、前記リップ部130を除く部分に一体とされており、これによって、突部14及びリップ部130の弾性変形が可能とされる。そして、このリップ部130の先側部には、摺接部15が形成され、該摺接部15は、前記内輪5の外径面に面接触状態で摺接する円筒構成部15Bからなる。各円筒構成部15Bの周方向端部には噛み合い形状部15a,15bが形成され、隣接する分割体11,11同士を後記するように突合せ接合すると、前記噛み合い形状部15a,15bの噛み合い構造による接合部18が構成される。
図13(a)(b)(c)は、前記噛み合い構造による接合部18の種々の例を示している。(a)の例は、噛み合い形状部15a,15bが相じゃくり状の噛み合い構造であることを示し、(b)の例は相じゃくり形状の当接面が傾斜した噛み合い構造であることを示し、さらに、(c)の例は本実状の噛み合い構造であることを示している。これらの、噛み合い構造は、図例のものに限定されず、設計的事項として他の構造のものも適宜選択的に採用される。
【0037】
そして、前記接合部18を介して4個の分割体11…が突合せ接合されて環状体10が構成され、また、前記4個の円筒構成部15Bが周方向に接合されて円筒部151が構成される。この円筒部151の内径は、内輪5の外径より若干小さく設定され、これによって、内輪5に対する嵌合時に締め代が確保される。円筒構成部15Bの外径側の周面には、周方向に沿って凹溝22が形成され、円筒構成部15Bによる前記円筒部151においては、この凹溝22が周方向に連なる周溝を構成する。この凹溝22による周溝には、前記ガータースプリング23が求心方向に弾性力を有した状態で嵌装される。
【0038】
前記のように4個の分割体11…を突合せ接合し、環状体10を形成して構成される本実施形態の密封装置1Aは、
図12に示すような軸受装置2に組み付けられる。即ち、
図12に示すように、隣接する分割体11,11間の前記噛み合い形状部15a,15b同士を噛み合せながら、4個の分割体11を、順次突き合せ接合してゆく。これによって、隣接する分割体11,11間に接合部18が構成されて、環状体10が形成される。そして、前記凹溝22による周溝に前記ガータースプリング23を前記のように求心方向に弾性力を有した状態で嵌装させ、戦記環状体10を
図12に示すように、円筒部151の先側が軸受空間Sとは反対側に向くように、外輪4と内輪5との間の環状空間に圧入する。この圧入は、環状体10における4個の突部14…を縮径するように、また、環状体10における前記円筒部151が前記ガータースプリング23による求心側への弾力が付勢された状態で内輪5の外径面に弾性的に嵌合するようになされる。この圧入操作の際、前記突部14…は、前記外輪4の周溝4bに復元弾力を伴って没入し、一方、円筒構成部15Bによる円筒部151の内周面が、前記ガータースプリング23の求心方向への弾性力を受けて内輪5の外径面に弾接する。
【0039】
前記のように、前記軸受装置2に組み付けられた本実施形態の密封装置1Aにおいては、前記突部14…が前記周溝4bに復元弾力を伴って没入する。また、各分割体11におけるシール部材13の突合せ端部が弾性的に突き合せられる。そして、前記円筒構成部15Bによる円筒部151の内周面が前記ガータースプリング23によって求心側へ弾力付勢されて内輪5の外径面に弾接する。また、このガータースプリング23の求心側への弾性力によって、前記締め代による拡径が抑制されるとともに、前記噛み合い形状部15a,15bによる噛み合いが隙間を生じることなく弾性的に強固になされる。したがって、本実施形態の密封装置1Aによって、軸受空間Sが確実に密封され、軸受空間S内に充填される潤滑剤の外部への漏出や、外部から軸受空間S内への塵埃や雨水に侵入が防止される。そして、本実施形態の密封装置1Aも、4個の分割体11…によって構成されるから、保管性及び輸送性に優れ、図例のような大型の軸受装置2に対する組付けや、取外しが容易になされる。
この第2の実施形態においても、
図9に示すような固定構造、あるいは、
図10に示すような連結構造を採用することは可能である。その他の構成は、前記例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0040】
なお、例示した実施形態の密封装置1,1Aは、4個(但し、
図6〜8の例では複数とした)の分割体11…によって構成されるが、3分割、5分割、6分割、あるいは8分割等の分割体によって構成されるものであっても良く、分割個数は特に限定されるものではなく、適用部位の大きさや、取扱い性等を勘案して適宜設定される。また、分割体11の断面形状等も図例のものに限定されず、他の形状のものも採用可能である。さらに、外輪4と内輪5とにより構成される軸受装置2に適用する例について述べたが、内輪5を介さずシャフトを回転自在に直接支持する軸受装置であっても良い。この場合は、内径側回転部材はシャフトである。加えて、本発明に係る密封装置1,1Aの
図2、
図9及び
図12に示すような軸受装置2に対する装着方向は、図例とは逆向きであっても良い。