特許第6021118号(P6021118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021118
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】光デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20161020BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20161020BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20161020BHJP
   G02F 1/017 20060101ALI20161020BHJP
   H01S 5/20 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G02B6/12 371
   G02B6/122
   G02B6/13
   G02B6/12 301
   G02F1/017 503
   H01S5/20 610
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-66547(P2014-66547)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-191031(P2015-191031A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年1月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108501
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】武田 征士
(72)【発明者】
【氏名】中川 茂
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0322811(US,A1)
【文献】 特開2004−145261(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0223722(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0274418(US,A1)
【文献】 特表2014−506000(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0149148(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0300796(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0020556(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/14
G02B 6/42
H01S 5/00−5/50
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設される絶縁層の厚さが200nm以下であるSOI基板と、
前記SOI基板上にIII−V族化合物半導体材料により形成される光導波路と、
前記光導波路の下側で前記SOI基板内に形成され、前記光導波路内から前記SOI基板への光の漏洩を防止するための光漏洩防止層とを含み、
前記光漏洩防止層は、前記SOI基板の表面から前記絶縁層を貫通するように設けられた溝内に、光の屈折率が前記III−V族化合物半導体材料より小さい材料により形成され、前記光漏洩防止層の幅は、前記光導波路の幅より広く形成される、光デバイス。
【請求項2】
前記光漏洩防止層は、空気層であり、
前記光デバイスは、前記空気層上に前記光導波路を支持するための光導波路支持層をさらに含む、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記光導波路支持層は、前記光導波路と同一の前記III−V族化合物半導体材料により形成される、請求項に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記光導波路は、少なくとも1つの量子井戸層を含む、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記少なくとも1つの量子井戸層が設けられた前記光導波路の部分に光素子が設けられる、請求項に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記光素子は、光変調器もしくはレーザ素子または光検波器である、請求項に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記SOI基板は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスで使用され、CMOS素子が設けられる、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項8】
光デバイスの製造方法であって、
埋設される絶縁層の厚さが200nm以下であるSOI基板をエッチングし、前記SOI基板の表面から前記絶縁層を貫通する溝を形成する工程と、
III−V族化合物半導体層を形成する工程と、
前記溝が形成された前記SOI基板と、前記III−V族化合物半導体層とを、前記溝の開口部が前記III−V族化合物半導体層に向くようにして貼り合わせる工程と、
前記III−V族化合物半導体層をエッチングして光導波路を形成する工程とを含む、光デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記光導波路を形成する工程では、前記溝の幅より狭い幅の該光導波路を形成する、請求項10に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記貼り合わせる工程では、前記III−V族化合物半導体層により覆われた前記溝により空気層を形成し、
前記光導波路を形成する工程では、該光導波路と同時に、前記空気層上に該光導波路を支持するための光導波路支持層を形成する、請求項10に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記光導波路上を覆う樹脂膜を形成する工程をさらに含む、請求項10に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記III−V族化合物半導体層を形成する工程では、少なくとも1つの量子井戸層を含むように該III−V族化合物半導体層を形成する、請求項10に記載の光デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信に用いられる光デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毎秒1018回の演算を行うことが可能なエクサ・スケールのコンピュータの実現に向けて、チップ間等の短い距離を伝送させる光インターコネクトの高速化、高密度化、低消費電力化が要求されている。シリコン・フォトニクスは、シリコンを材料として微細な光導波路を作製し、この光導波路により構成した回路をプラット・フォームとして用いる技術で、上記の要求を満たす必須の技術として知られている。
【0003】
このシリコン・フォトニクスで作製される光導波路は、光が伝送される光路となるコアと、そのコアを覆う部分であるクラッドとから構成される。クラッドは、光を全反射させ、コア内に光を閉じ込め、光をロスなく伝送できるように設計される。このため、光導波路では、導波路内を伝送される光が、シリコン基板へ漏洩するのを防止する構造が必要となっている。
【0004】
このような構造として、埋め込み酸化膜と呼ばれるSiO層を、導波路の下部クラッドとして用いた構造が一般的となっている(例えば、非特許文献1参照)。この構造を、図1に例示する。図1に示す構造は、Si基板10と、Si基板10上の、下部クラッドとしてのSiO層11と、SiO層上に形成されるSi導波路12とを含む。SiO層11は、Si導波路12内を伝搬する光がSi基板10へ漏洩しないように、例えば2μmといった十分な厚さで形成される。
【0005】
その他の構造として、SiO層をエッチングにより除去し、Si導波路をエア・ブリッジ型とし、光閉じ込め効果を改善した構造も知られている(例えば、特許文献1、2、非特許文献2参照)。この構造を、図2に例示する。図2に示す構造は、Si基板10と、Si基板10上のSiO層11と、SiO層11内に形成される空気層13と、SiO層の表面により支持され、空気層13上に形成されるSi導波路12とを含む。空気層13の厚さは、上記と同様、Si導波路12内を伝搬する光がSi基板10へ漏洩しないように、2μm程度の十分な厚さで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−215519号公報
【特許文献2】特開2004−341147号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yasuhiko Arakawa, et al、”Silicon Photonics for Next Generation System Integration Platform”, IEEE Communications Magazine, pp.72-77, March 2013
【非特許文献2】Solomon Assefa, et al,“A 90nm CMOS Integrated Nano-Photonics Technology for 25Gbps WDM Optical Communications Applications”, IEEE International Electron Devices Meeting, postdeadline session 33.8, December 10-12, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のいずれの技術も、SiO層11もしくは空気層13を下部クラッドとして用いる場合、それら各層が波長に対して2μm程度の十分な厚さを持つことが要求される。
【0009】
ところで、一般的なCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)プロセスで用いられるデジタル論理回路用のSOI(Silicon On Insulator)基板は、Si基板上に形成されるSiO層の厚さが100〜200nm程度、もしくはそれ以下である。
【0010】
シリコン・フォトニクス・プロセスでは、CMOSプロセスで用いられるデジタル回路と光回路(光素子)との集積は可能であるが、上述したように、デジタル回路と光回路とでは、必要とされるSiO層の厚さが異なる。このため、両者を集積しようとすると、従来の技術では、異なるSOI基板に別々に集積する手法か、デジタル回路の性能を犠牲にし、両者をSiO層の厚さ2μm程度とした同一基板に集積する手法を採用しなければならなかった。
【0011】
シリコン・フォトニクスの潜在的な利点は、既存のCMOSプロセスと完全な整合性が得られる可能性がある点であるが、従来の手法では、完全な整合を得ることができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、埋設される絶縁層の厚さが200nm以下であるSOI基板と、SOI基板上にIII−V族化合物半導体材料により形成される光導波路と、光導波路の下側でSOI基板内に形成され、光導波路内からSOI基板への光の漏洩を防止するための光漏洩防止層とを含む、光デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一般的なCMOSプロセスで用いられるものと同一の厚さの絶縁層を有するSOI基板上に光回路を集積することが可能となり、シリコン・フォトニクスとCMOSプロセスの完全な整合を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一般的なシリコン・フォトニクス光導波路の構造の一例を示した図。
図2】シリコン・フォトニクス光導波路の別の例を示した図。
図3】本発明の光デバイスの構造の一例を示した図。
図4】本発明の光デバイスの構造の別の例を示した図。
図5】本発明の光デバイスの構造のさらに別の例を示した図。
図6図3に示した光デバイスの構造断面の屈折率の分布を示した図。
図7】エア・ブリッジの有無による光強度プロファイルの違いを示した図。
図8】光の伝搬距離と伝搬損失との関係を示した図。
図9】エア・ブリッジ構造のモデルを示した図。
図10】III−V族化合物半導体層の厚さおよび光導波路の高さを変えた場合の光の伝搬距離と伝搬速度との関係を示した図。
図11図10に示すw=1μmのときの光デバイスの構造断面の屈折率の分布と光強度プロファイルを示した図。
図12図10に示すw=1.75μmのときの光デバイスの構造断面の屈折率の分布と光強度プロファイルを示した図。
図13】各工程で製造されたデバイスの構造を示した図。
図14】各工程で製造されたデバイスの構造を示した図。
図15】追加の工程で製造されたデバイスの構造を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図面に示した具体的な実施の形態に沿って説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。図3は、本発明の光デバイスの構造の一例を示した図である。この光デバイスは、一般的なCMOSプロセスで用いられるものと同一の、埋設された絶縁層が200nm以下であるSOI基板上に、光導波路、光変調器、光源となるレーザ素子、光検波器等の各種の光素子を、デジタル回路といったCMOS素子とともに集積することが可能なデバイスである。このため、この光デバイスを提供することで、シリコン・フォトニクスとCMOSプロセスの完全な整合を実現することができる。
【0016】
ここで、CMOSは、ゲートに正電圧をかけるとオンになるnチャンネルのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)と、ゲートに負電圧をかけるとオンになるpチャンネルのMOSFETとを相補形に配置したゲート構造で、フリップ・フロップ、カウンタ、シフト・レジスタ、加算器、乗算器等のCMOS素子としてのデジタル回路に用いられるものである。SOI基板は、シリコン(Si)基板と表面のSi層との間に絶縁層が挟まれた構造の基板である。光導波路は、光を用いて通信を行う場合のその光の伝送路である。光変調器は、信号を送信する送信機において、信号を光に乗せる(光変調を行う)回路で、光検波器は、信号を乗せた光から信号を取り出す(復調処理を行う)回路である。
【0017】
図3に示す光デバイス100は、SOI基板101と、SOI基板101上の光導波路102とを含む。SOI基板101は、Si基板103と、Si基板103上の薄い絶縁層としてのSiO層104と、そのSiO層104上の薄いSi層105とから構成される。光導波路102は、SOI基板101上に、所定の幅および高さで、奥行き方向に延びるように形成される。
【0018】
Si基板103は、これに限られるものではないが、0.5〜1mm程度の厚さとされ、 SiO層104は、CMOSプロセスで一般的に使用される200nm以下、具体的には50〜200nm程度の厚さとされ、その上のSi層105も、200nm以下、具体的には50〜200nm程度の厚さとされる。
【0019】
光デバイス100は、さらに、光導波路102の下側でSOI基板101内に形成される光漏洩防止層106を含む。光漏洩防止層106の幅は、その光導波路102の幅より広くても、狭くてもよいが、光の漏洩を、簡単かつ効果的に防止できる点で広いほうが好ましい。光漏洩防止層106は、光導波路102内を伝搬する光が、その光導波路102内からSOI基板101、より具体的にはSi基板103へ漏洩するのを防止する機能をもつ層である。
【0020】
光導波路102は、基本的に、その境界面で光が反射しながら内部を伝搬するが、その境界面で反射しきれない光がエバネッセント光として外部へにじみ出る。このエバネッセント光は、光導波路102から光漏洩したもので、伝搬損失となるため、このエバネッセント光を減少させるべく、光導波路102の幅より広い光漏洩防止層106が設けられる。
【0021】
屈折率が高い材料からなる層から屈折率が低い材料からなる層へ光が進むとき、その低い材料からなる層はその光にとって障壁となることから、光漏洩防止層106を構成する材料としては、光導波路102を構成する材料より屈折率が低い材料が選択される。
【0022】
光導波路102は、III−V族化合物半導体材料により形成される。III−V族化合物半導体は、光導波路102に必要とされる光を伝搬させる機能を有し、金属や電極等を取り付け、光素子となるアクティブ・デバイスにそのまま転用することができるためである。
【0023】
III−V族化合物半導体は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)といったIII族と、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)といったV族の材料が化合した半導体特性を有する化合物であり、例えば、ガリウムヒ素(GaAs)、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、ヒ化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)、アンチモン化ガリウム(GaSb)等を挙げることができる。ここでは、2つの材料が化合した化合物のみを例示したが、InGaAs、GaInNAs、GaAsP等の3つ以上が化合した化合物であってもよい。なお、この半導体は、その組成を変化させることにより、自由にバンドギャップや屈折率等を変えることができる特徴を有している。
【0024】
光導波路102の幅w、高さhは、光に乗せた信号を、送信先に適切に送信することができる幅、高さとされ、その信号を送信できれば、いかなる幅、高さであってもよい。一例では、幅500〜750nm程度、高さ500〜750nm程度とすることができる。
【0025】
光導波路102に用いられるIII−V族化合物半導体は、屈折率が、GaAsで約3.9、InPで約3.5、GaNで約2.4、AlNで約2.2、InNで約4、InSbで約4.3、GaSbで約5.2である。光漏洩防止層106に用いられる材料は、光導波路102に用いられる材料より低いものであればいかなる材料であってもよい。このような材料の一例としては、屈折率が約1である空気、約1.5〜2であるポリエチレン、ポリエステル、アクリル樹脂等の樹脂(ポリマー)等を挙げることができる。
【0026】
光漏洩防止層106の幅は、光導波路102の幅より広く、エバネッセント光がSi基板へ漏洩するのを防止することができれば、いかなる幅であってもよい。また、その高さは、エバネッセント光がSi基板103へ漏洩するのを防止することができれば、いかなる高さであってもよい。なお、光漏洩防止層106は、SOI基板101表面にあるSi層105、その下のSiO層104の厚さが薄いことから、これらを貫通するように溝を設け、その溝内に形成することができる。エバネッセント光の漏洩を確実に防止するためには、このようにSiO層104を貫通するように光漏洩防止層106が設けられるほうが望ましい。
【0027】
光漏洩防止層106が空気層である場合、光導波路102を支持するために、光導波路支持層107が設けられる。光導波路支持層107は、Si層105上に橋を架けるように設けられ、その略中央で光導波路102を支える。このような構造は、エア・ブリッジ構造と呼ばれ、このエア・ブリッジ構造を形成した光導波路は、エア・ブリッジ型光導波路と呼ばれる。光導波路支持層107は、光導波路102と異なる材料により形成されていてもよいが、同じ材料により形成することで、光導波路102と同時に形成することができる。
【0028】
光デバイス100は、図3に例示した構造に限定されるものではなく、図4に示したように、光導波路102の高さ方向の中央部分に、量子井戸層108を設けることもできる。量子井戸層108を設けることにより、光変調器やレーザ素子等のアクティブ・デバイスとしての性能を付与することができる。
【0029】
量子井戸層108は、光導波路102を構成するIII-V族化合物半導体材料とはバンドギャップが異なる半導体材料が用いられ、その厚さは約1〜10nmとされる。そのIII−V族化合物半導体材料をInPとした場合、量子井戸層108に用いる材料としては、それよりバンドギャップが小さい、例えばInAsやInGaAs等を用いることができる。ここでは、量子井戸層108が一層のみ設けられているが、よりアクティブ・デバイスとしての性能を向上させるためには、二層以上設けられた多重量子井戸構造が望ましい。
【0030】
このような量子井戸層108を設けることにより、図5に示すように、部分的に電極109を設けて光変調器やレーザ素子等のアクティブ・デバイスとしての機能を付与することができる。
【0031】
ここで、本発明の光デバイスに対して、三次元ビーム伝搬法による光伝搬特性の数値解析を行った結果を以下に示す。光伝搬特性は、光導波路102としての機能であり、例えば光の伝搬損失等である。数値解析は、光漏洩防止層106を空気層とし、その空気層の幅を図6に示すようにw、その高さをhとし、水平方向に電界成分をもつTE(Transverse Electric field)偏光の光を入射した場合について行った。
【0032】
図6は、光デバイスの構造断面の屈折率分布を示した図である。図6の横軸は、幅を示し、縦軸は、高さあるいは厚さを示している。また、図6は、1.0から3.5まで濃淡で色分けした屈折率の指標も示している。
【0033】
この光デバイスは、SOI基板101を構成するSiO層104の厚さが150nm、Si層105の厚さが80nmとされている。光導波路102の幅は、750nm、その高さは、750nm、光導波路支持層107の厚さは、100nmとされている。屈折率は、その指標から、Si基板103およびSi層105は、約3.5で、光導波路102および光導波路支持層107は、約3で、SiO層104は、約1.5で、空気層は、約1となっている。
【0034】
図7は、エア・ブリッジの有無による光強度プロファイルの違いを示した図である。図7も、横軸は、幅を示し、縦軸は、高さあるいは厚さを示している。また、図7は、0.0から1.0まで濃淡で色分けした光強度の指標も示している。
【0035】
図7(a)は、エア・ブリッジなしの場合を示し、図7(b)は、エア・ブリッジありの場合を示す。図7(a)に示すエア・ブリッジなしの場合は、SiO層104を超えてSi基板103へ光がにじみ出している。なお、図7(a)は、光の伝搬距離が5μmの箇所での光強度プロファイルを示しており、入射した光がすぐに漏洩している。
【0036】
これに対し、図7(b)に示すエア・ブリッジありの場合は、光漏洩防止層106としての空気層により、その下方にあるSi基板103への光の漏洩が完全に抑止されている。図7(b)は、光の伝搬距離が、図7(a)の100倍の500μmの箇所での光強度プロファイルを示すもので、これだけ長い距離伝送されても、光が漏洩していない。また、光が光導波路102内に完全に閉じ込められ、光の強度も高いことを示した。このことから、エア・ブリッジの形成により、高効率に伝搬可能であることが見出された。
【0037】
図8は、エア・ブリッジなし、空気層の幅および高さを変えた場合の伝搬距離と伝搬損失との関係を示した図である。横軸は、伝搬距離(μm)で、縦軸は、伝搬損失(dB)である。図8は、幅wを1.0μmと2.5μm、高さhを250nmと500nmと750nmに変えた場合の結果を示している。
【0038】
図8に示すように、エア・ブリッジなしの場合、短い伝搬距離で急激に伝搬損失が大きくなり、Si基板103へ光が漏洩している。高さhが500nm以上では、幅wが1.0μmでも、2.5μmでも、光の伝搬損失が500μmの伝搬距離で0.3dB以下の伝搬損失であることから、非常に良好な光伝搬特性が得られた。
【0039】
この数値解析を行ったモデルは、光導波路102の幅および高さがいずれも750nmで、光導波路支持層107の厚さが100nmである。光導波路支持層107の厚さが100nmと薄いが、この厚さは、機械的強度を十分に保証できる厚さである。十分な厚さであることを、以下に証明する。
【0040】
このブリッジ構造のモデルは、光導波路102の荷重が光導波路支持層107の中央部に集中したモデルと仮定することができる。そこで、機械的強度を見積もるため、図9(a)に示すような3点荷重モデルと仮定した。そして、実際の構造よりも脆弱なパラメータを設定した。この3点荷重モデルは、実際より脆い状況であるため、このモデルで機械的耐性を示すことができれば、実際の構造での機械的耐性は十分に保証されるものである。III−V族化合物半導体としては、InPを用いるものと仮定した。各パラメータは、図9(b)に示す通りである。
【0041】
III−V族化合物半導体層の全荷重M、すなわち光導波路102と光導波路支持層107の重量は、InPの密度が4.78g/cmであることから、4.78g/cm×(1μm×1μm+100nm×5μm)×100μm=約7.2×10−13kgとなる。このブリッジ構造のモデルの断面係数Zと最大応力σは、奥行きをD、高さをH、梁の長さLとすると、以下の式1、2により算出することができる。
【0042】
【数1】
【0043】
【数2】
【0044】
上記式1により梁(III−V族化合物半導体層)の断面係数Zは、1.7×10−19となる。算出したZと上記式2を用いて計算すると、最大応力σは、55Paとなる。温度が600℃の場合におけるIII−V族化合物半導体の降伏応力は、約20MPaである。自重によりエア・ブリッジ構造にかかる応力(55Pa)は、降伏応力(約20MPa)より十分に小さいことから、十分に機械的強度があることが示された。
【0045】
このように光導波路支持層107の厚さが100nmでも十分に機械的強度を保証できるが、製造中に過度な圧力が加わる等、機械的強度が危ぶまれるケースを想定し、より強固な構造パラメータで計算した例を、以下に示す。
【0046】
より強固な構造パラメータとして、光導波路支持層107の厚さを増して200nmとし、かつ光導波路102の高さhを低くして500nmとした。このとき、空気層の幅を変えて数値解析を行った場合の伝搬距離と伝搬損失との関係は、図10に示すようなものとなった。図11(a)に示すように、空気層の幅wが1.0μmと最も狭い場合であっても、伝搬距離が500μmに対して伝搬損失が5dB以下と、光導波路102の機能として耐え得る特性が得られた。このときのSi基板103への光の漏洩は、図11(b)に示すように、ほとんどないことが示された。
【0047】
図12(a)に示すように、空気層の幅wがより広い1.75μmの場合は、伝搬距離が500μmに対して0.1dB以下と、光導波路102の機能として十分であることが示された。このため、図12(b)に示すようにSi基板103への光の漏洩は全くなく、その光の強度も、図11(a)に示すwが1.0μmのときより高いことが示された。したがって、空気層の幅が広いほど、光導波路102がより良好な機能を有することが見出された。
【0048】
光デバイス100は、光導波路102に加えて、レーザ素子、光変調器、光検波器等の光素子を設けることができるが、これら光素子の伝搬距離の総和は、500μm以下を想定しているため、上記の空気層の幅が最も狭い1.0μmの場合でも、伝搬損失が、伝搬距離500μm当たり4.25dBであることから、最大許容可能な伝搬損失5dB以下という要求を満たしている。
【0049】
図4に示した光デバイス100の構造を作製するための方法について、図13図15を参照して説明する。この構造は、これまでに知られた方法により作製することができる。まず、SOI基板101を用意する。SOI基板101は、これまでに知られた方法により作製することができる。例えば、Si基板103を用意し、そのSi基板103のSi結晶表面に酸素分子をイオン注入により埋め込み、アニールして酸化させることによりシリコン結晶中にSiO層104を形成し、これにより、絶縁層が埋設されたSOI基板101を作製することができる。SOI基板101のSiO層104およびその上のSi層105は、CMOSプロセスで用いられる200nm以下のものとされる。
【0050】
図13(a)に示すように、SOI基板101上にフォトレジスト110を、スピン・コート等により塗布し、光および現像液を用いてパターンを形成する。フォトレジスト110をマスクとして用い、SF、CCl、CF等のエッチング・ガスを用い、マスクで覆われていない露出した部分のSi層105をエッチングし、そのSi層105を除去する。エッチングは、例えば、毎分60〜100nmの速度で実施することができる。
【0051】
次に、図13(b)に示すように、CHF、C等のエッチング・ガスを用い、マスクで覆われていない露出した部分のSiO層104をエッチングし、そのSiO層104を除去する。エッチングは、例えば、毎分20〜50nmの速度で実施することができる。
【0052】
そして、図13(c)に示すように、上記のSi層105に使用したものと同様のエッチング・ガスを用い、マスクで覆われていない部分のSi基板103の一部をエッチングし、そのSi基板103の一部を除去する。ここでは、Si基板103を所定深さまでエッチングして除去する。エッチングは、例えば、毎分60〜100nmの速度で実施することができる。所定の深さは、光導波路102内からこのSi基板103へ光が漏洩するのを防止できる空気層の高さに応じて決定される。
【0053】
量子井戸層108が挟まれた構造のIII−V族化合物半導体層111を予め形成しておき、図13(c)に示すエッチングにより溝が形成されたSOI基板101上のフォトレジスト110を除去する。この構造は、分子線エピタキシャル成長法(MBE)や有機金属気相成長法(MOCVD)等を用い、その厚さがnmオーダの薄膜をバンドギャップが大きいバリア層で挟み込むように形成することにより作製することができる。フォトレジスト110の除去は、オゾンやプラズマにより灰化(アッシング)して除去する方法や、有機溶剤により溶解させて除去するウェット・プロセスを採用することができる。
【0054】
図14(a)に示すように、分子ボンディング法(例えば、UCSB, Laser & Photonics Reviews,1-29(2010)参照)により、量子井戸層108が挟まれた構造のIII−V族化合物半導体層111と、溝が形成されたSOI基板101とを貼り付けて一体化する。このとき、溝の開口部がIII−V族化合物半導体層111に向くようにして貼り付けられる。これにより、溝の上部は完全に覆われ、光漏洩防止層106である空気層112が形成される。
【0055】
分子ボンディング法では、SOI基板101の表面の酸化物を、HFやNHOH等を使用して表面洗浄することにより除去する。そして、表面洗浄された疎水性の表面を、Oプラズマ表面処理により親水性の表面に変換する。続いて、水をベースとした溶液に接触させ、その表面上に高密度の水酸基を発生させる。2つの基板を、例えば300℃という温度でアニールし、強い共有結合を形成させることにより2つの基板を結合させる。
【0056】
図14(b)に示すように、反応性イオン・エッチングにより、光導波路102の部分を残し、それ以外の部分を所定の深さまでエッチングして除去する。反応性イオン・エッチングでは、フッ素系やその他のハロゲン系のエッチング・ガスを用いることができる。また、反応性イオン・エッチングに限られるものではなく、硫酸、塩酸、HF等のエッチング液を用い、ウェット・エッチングを行うことも可能である。これにより、図4に示すような、光導波路102を光導波路支持層107により空気層上に支持したエア・ブリッジ構造の光デバイス100を形成する。機械的強度が不十分である場合、図15に示すように、光導波路102および光導波路支持層107上にポリイミドやPMMA等の樹脂113により覆い、樹脂膜により補強することができる。
【0057】
空気層以外に、樹脂層を光漏洩防止層106として形成することができる。樹脂層は、図13(c)に示した溝内に樹脂層を埋め込むことにより形成することもできるし、図14(a)に示すように貼り合わせた後、光導波路102あるいは光導波路支持層107に小さい穴を開け、ガス状の樹脂成分を吹き込む、あるいは流し込む等して、その溝内に充填し、樹脂層を形成することもできる。これらは一例であり、これ以外の方法を採用することも可能である。
【0058】
したがって、本発明の光デバイスは、一般的なCMOSプロセスで用いられる、絶縁層の厚さが200nm以下のSOI基板上に光回路を集積することが可能となり、シリコン・フォトニクスとCMOSプロセスの完全な整合を実現することができる。
【0059】
これまで、本発明の光デバイスおよびその製造方法について、図面を参照して詳細に説明してきたが、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
10…Si基板、11…SiO層、12…Si導波路、13…空気層、100…光デバイス、101…SOI基板、102…光導波路、103…Si基板、104…SiO層、105…Si層、106…光漏洩防止層、107…光導波路支持層、108…量子井戸層、109…電極、110…フォトレジスト、111…III−V族化合物半導体層、112…空気層、113…樹脂
図1
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