【文献】
Satomi Tajima et al.,"Room-Temperature Si Etching in NO/F2 Gases and the Investigation of Surface Reaction Mechanisms",The Journal of Physical Chemistry C,米国,ACS Publications,2013年 2月25日,NO.117,pp.5118-5125
【文献】
Y.B.Yun et al.,"Large Etch Rate Enhancement by NO-Induced SurfaceChemical Reaction during Chemical Dry Etching of S,Journal of The Electrochemical Society,米国,The Electrochemical Society,2007年 2月20日,Vol.154(4),D267-D272
【文献】
Y.B.Yun et al.,"Very High-Rate Chemical Dry Etching of Si in F2 RemotePlasmas with Nitrogen-Containing Additive Gas,Journal of The Electrochemical Society,米国,The Electrochemical Society,2007年 7月31日,Vol.154(10),D489-D493
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、具体的な実施形態について、Si結晶等にケミカルドライエッチングを行うことのできるエッチング方法およびエッチング装置を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0036】
(第1の実施形態)
本実施形態では、F
2 +NO
2 →F+FNO
2 の反応により生じるF原子をSi部材に反応させることにより、Si部材をエッチングすることに特徴がある。ここで、Si部材とは、Si単結晶と、Si多結晶と、アモルファスシリコンと、シリコン窒化膜と、シリコン炭化膜と、を含む材質から成るものである。そして、Si部材は、MOSや太陽電池等の半導体、電子素子として、もしくは、MEMS等の機械部品に用いられる。
【0037】
1.エッチング装置
図1は、本実施形態のエッチング装置100の全体の概略を示す概略構成図である。エッチング装置100は、第1のガス供給部111と、第2のガス供給部112と、第3のガス供給部113と、マスフローコントローラー121、122、123と、圧力調整バルブ131、132と、ガス混合室140と、反応室150と、を有している。また、その他に、ガスを排出するガス排出部や、種々の弁を有している。なお、エッチング装置100は、プラズマ発生装置を有していない。
【0038】
第1のガス供給部111は、F
2 ガスを含む第1のガスを反応室150に供給するためのものである。第1のガスは、F
2 ガスとArガスとの混合気体である。この混合気体におけるF
2 ガスの混合比は、体積比で5%である。第1のガスは、低圧ガス管で供給される。
【0039】
第2のガス供給部112は、NO
2 ガスを含む第2のガスを反応室150に供給するためのものである。第2のガスは、NO
2 ガスである。第2のガスは、低圧ガス管で供給される。
【0040】
第3のガス供給部113は、Arガスを第2のガスに混合させるためのものである。そのため、この混合の後には、第2のガスは、NO
2 ガスとArガスとの混合気体になっている。これらのガスは、低圧ガス管で供給される。
【0041】
マスフローコントローラー121は、第1のガス供給部111から供給されるF
2 ガスを含む第1のガスの流量を制御するためのものである。マスフローコントローラー122は、第2のガス供給部112から供給されるNO
2 ガスを含む第2のガスの流量を制御するためのものである。マスフローコントローラー123は、第3のガス供給部113から供給されるArガスの流量を制御するためのものである。
【0042】
圧力調整バルブ131は、ガス混合室140に送出するガスの圧力を調整するためのものである。圧力調整バルブ132は、ガス排出部に送出するガスの圧力を調整するためのものである。
【0043】
ガス混合室140は、F
2 ガスを含む第1のガスと、NO
2 ガスを含む第2のガスとを、混合させるためのものである。そのため、ガス混合室140は、反応室150よりガスの流れの上流側の位置に配置されている。ガス混合室140の材質として、耐熱ガラスや石英管、ステンレス管が挙げられる。このガス混合室140の内部の温度および圧力は、反応室150のものとほぼ同じである。ガス混合室140の内部では、後述する反応式により、F原子が生成される。
【0044】
反応室150は、ガス混合室140で生成された混合気体によりSi部材をエッチングするためのものである。反応室150の材質として、耐熱ガラスや石英管、ステンレス管が挙げられる。反応室150の詳細については後述する。
【0045】
2.反応室
図2に示すように、反応室150は、載置台151と、ヒーター152と、を有している。載置台151は、エッチングの対象であるSi部材S1を載置するための台である。また、載置台151には、温度計が取り付けられている。これにより、Si部材S1の温度を測定することができるようになっている。ヒーター152は、Si部材S1を加熱するためのものである。Si部材S1の温度をフィードバックすることにより、ヒーター152は、Si部材S1の温度をほぼ一定に保持することができる。
【0046】
また、エッチング装置100は、
図2に示すように、電圧印加部160を有している。電圧印加部160は、ヒーター152に電力を供給するためのものである。そして、反応室150には、圧力計170が設けられている。圧力計170は、反応室150の内圧を測定するためのものである。また、反応室150には、ドライポンプ180が設けられている。
【0047】
3.ガス混合室および反応室で生じる化学反応
3−1.ガス混合室での反応
ここで、ガス混合室140で生じる化学反応について説明する。ガス混合室140では、次に示す式(1)および式(2)の化学反応が生じる。
F
2 + NO
2 → F + FNO
2 ………(1)
F + NO
2 → FNO
2 ………(2)
式(1)の反応速度定数: k1
式(2)の反応速度定数: k2
【0048】
このように、F
2 ガスとNO
2 ガスとが混合することにより、式(1)に示すように、F原子が生成される。そして、式(2)に示すように、生成されたF原子はNO
2 と再結合し、F原子は減少する。そのため、これらの反応のいずれが支配的であるかによって、F原子の濃度は異なる値をとる。
【0049】
なお、従来においては、k2がk1に比べて十分に大きいとの認識が強かった。すなわち、F原子はほとんど生成されないと考えられていた(D. D. Ebbing and S. D. Gammon, General Chemistry, Brooks/Cole Pub. Co; 9th Enhanced ed. P555. )。したがって、F
2 ガスとNO
2 ガスとを混合することにより、エッチングを実施できるとは到底考えられなかった。
【0050】
本実施形態では、後述するように、低圧下でF
2 ガスとNO
2 ガスとを混合する。低圧下での各粒子の平均自由行程は、高圧下での各粒子の平均自由行程に比べて長い。また、本実施形態では、F
2 とNO
2 とを少なくとも含む混合気体をガス混合室140に継続して供給し続けることとしている。そのため、式(1)の反応によって生じるF原子がガス混合室140の内部に一定数存在し得るであろうと考えられる。
【0051】
3−2.反応室での反応
反応室150の内部においても、上記の式(1)および式(2)の反応は生じている。そして、反応室150の内部に一定数存在し得るであろうF原子を用いてSi部材S1にエッチングを実施する。このときSi部材S1のSi原子との反応に寄与する粒子は、F原子のみとは限らない。ただし、F原子が主にエッチングに寄与すると考えられる。
【0052】
4.エッチング方法
4−1.パターン形成工程
まず、Si部材S1にマスクパターンを形成する。例えば、パワーデバイスを製造する場合には、トレンチを形成しない箇所にマスクを配置する。マスクの材質として、例えばSiO
2 が挙げられる。
【0053】
4−2.ガス供給工程
本実施形態のエッチング方法について説明する。まず、反応室150の載置台151の上にSi部材S1を載置する。次に、反応室150を真空引きして反応室150の内圧を下げる。それとともに、ヒーター152を設定値まで加熱する。そして、第1のガス供給部111から第1のガスを供給するとともに、第2のガス供給部112から第2のガスを供給するとともに、第3のガス供給部113からArガスを供給する。
【0054】
4−3.エッチング粒子生成工程
そして、前述の式(1)に示した反応により、F原子を発生させる。また、その他の粒子も生成される。これらの反応は、主にガス混合室140で生じる。このときガス混合室140の混合気体中には、F
2 と、NO
2 と、Fと、FNO
2 と、Arと、が存在し得る。また、反応室150においても、同様の反応が継続し、同様の粒子が存在し得る。
【0055】
4−4.エッチング工程
次に、反応室150の内部で、この混合気体をSi部材S1に導く。そして、F原子がSi部材S1と反応する。これにより、Si部材S1のエッチングが進行する。これにより、Si部材S1のマスクで覆われていない部分を除去する。ここで、反応室150の内部の圧力は、10Pa以上10000Pa以下の範囲内である。また、反応室150の内部の圧力は、100Pa以上1000Pa以下の範囲内であるとなおよい。なお、反応室150の内部の圧力とは、反応室150の内部に占める混合気体の全圧のことである。そのため、Arガスを供給していれば、その圧力をも含む。そして、Si部材S1の温度は、−20℃以上500℃以下の範囲内とする。この圧力および温度の範囲内では、混合気体は気体のままである。混合気体をプラズマ状態にすることはない。
【0056】
4−5.その他の工程
また、その他の工程を実施してもよい。
【0057】
5.実験A(F
2 +NO
2 のエッチング可能性)
5−1.Si部材
本実験では、Si部材S1として、シリコン基板を用いた。このシリコン基板のサイズは、幅6mm長さ15mmであった。また、シリコン基板はp型半導体である。そして、その電気抵抗率は10Ωcmであった。
【0058】
5−2.実験条件
ArガスにF
2 ガスを体積比で5%の割合で混合した混合気体を109.1sccm供給した。これにより、F
2 ガスを反応室に5.4sccm供給することとなる。一方、NO
2 を10sccmだけ反応室に供給した。反応室の内部の圧力を600Paとした。シリコン基板の温度を300℃とした。エッチングを実施した時間は5分間であった。なお、マスクにより設定した開口幅を8μmとした。また、ガス混合室と反応室との間の距離は20mmであった。
【0059】
5−3.実験結果
図3は、そのシリコン基板の電子顕微鏡による顕微鏡写真である。エッチングにより削られた凹部の深さは0.75μmであった。エッチングレートは、0.15μm/minであった。
図3に示すように、Si部材の微細な加工が可能である。
【0060】
6.実験B(F
2 +NO
2 の温度依存性)
また、シリコン基板の温度以外の実験条件を、前述の実験Aと同じとして実験を行った。
図4(a)は、前述の
図3の一部を拡大した拡大図である。
図4(b)は、シリコン基板の温度を180℃とした場合を示す図である。
図4(b)におけるシリコン基板の温度以外の条件は、
図4(a)と同じである。シリコン基板の温度を180℃とした場合であっても、エッチングを実施することができる。シリコン基板の温度を180℃とした場合には、エッチングレートは、20nm/min程度であった。
【0061】
7.F
2 とNO
2 の反応性
7−1.分子軌道法計算
ここで、F
2 とNO
2 との反応性について調べるために、分子軌道法を用いて計算を行った。そのために、Gaussianプログラム(B3LYP/6−311+G(d))を用いた。
図5は、その結果を示すグラフである。
図5の横軸は、反応段階(Reaction Steps)である。
図5の縦軸は、エネルギーである。
【0062】
図5では、
図5中の左側から右側にいくにしたがって、F
2 とNO
2 とが反応して、FとFNO
2 とが生成される化学反応(式(1)参照)が徐々に進行している様子を示している。つまり、
図5は、F
2 分子のうちの一方のF原子(f1)がNO
2 に取り込まれ、他方のF原子(f2)が放出される描像をエネルギー計算により示したものである。
【0063】
図5には、
図5中の左側の領域R1と、
図5中の右側の領域R2とがある。領域R1は、
図5中の横軸(Reaction Steps)が0以上17以下の範囲内の領域である。領域R2は、
図5中の横軸(Reaction Steps)が17以上の領域である。領域R1は、F
2 分子のうちの一方のF原子(f1)がNO
2 に取り込まれる過程のエネルギー変化を示している。領域R2は、F
2 分子のうちの一方のF原子(f1)がNO
2 に取り込まれた後に、他方のF原子(f2)がFNO
2 から放出される過程のエネルギー変化を示している。したがって、領域R1と領域R2とでは、異なる計算を行っている。
【0064】
まず、領域R1での計算について説明する。領域R1では、NO
2 分子の座標を固定する。そして、N原子の位置を原点として、F
2 分子のうちの1個のF原子(f1)とN原子(原点)との間の距離を変分パラメータにとる。そして、このF原子(f1)とN原子との距離を3Å(
図5の横軸(Reaction Steps)が0の場合)から0.1Åきざみで変えて、系全体(NO
2 +F
2 )のエネルギーを計算する。各場合の計算において、NO
2 +F
2 の分子構造を変化させて、その系でのエネルギーの最小値を、
図5の縦軸の値としてプロットした。
【0065】
系全体のエネルギーが最小値をとるときに、F
2 分子のうちのF原子(f1)がNO
2 分子のうちのN原子と結合したことを示唆している。
【0066】
次に、領域R2での計算について説明する。領域R2では、F原子(f1)がN原子と結合しているものと仮定する。そのため、この領域R2では、N原子とF原子(f1)との間の距離は、一定のままである。そして、この結合状態の下で、残りのF原子(f2)の座標を動かすのである。したがって、領域R2では、F原子(f2)とF原子(f1)との間の距離が変分パラメータである。そして、領域R1の場合と同様に、分子構造を変化させて、その系でのエネルギーの最小値を、
図5の縦軸の値としてプロットした。
【0067】
このように、
図5の領域R1では、横軸(Reaction Steps)の値が大きくなるほど、N原子とF原子(f1)との間の距離を0.1Åずつ近づけている。一方、
図5の領域R2では、横軸(Reaction Steps)の値が大きくなるほど、F原子(f1)とF原子(f2)との間の距離を0.1Åずつ遠ざけている。
【0068】
図5に示すように、F
2 とNO
2 とが反応することにより、F原子とFNO
2 とが生成されるとともに、0.95eVのエネルギーが発生する。つまり、式(1)の反応は、発熱反応である。そして、領域R2でのエネルギー変化がほとんどみられないことから、FNO
2 からのF原子の離脱は、F
2 がNO
2 に結合した際に生じた0.95eV程度の余剰エネルギーのごく一部を消費しているにすぎず、容易に行われていると考えられる。
【0069】
7−2.NO
2 とNOとの相違点
ここで、比較のために、NOについて説明する。F
2 とNOとは、次式に示す反応を起こす。
F
2 + NO → F + FNO ………(3)
式(3)の反応速度定数: k3
【0070】
そして、
図5で示したような計算を、NOに対しても行った。その結果、F−Fの結合エネルギーは1.8eVであった。F−NOの結合エネルギーは2.3eVであった。F−NO
2 の結合エネルギーは2.4eVであった。このように、F−NO
2 の結合エネルギーはF−NOの結合エネルギーとほぼ同じである。また、F原子を放出しやすいという傾向も似通っている。しかし、実際にF
2 とNO
2 とを反応させた場合には、F
2 とNOとを反応させた場合に比べて、F原子の濃度が小さい。
【0071】
従来においては、次のような解釈がなされていた。すなわち、式(2)の反応速度定数k2が大きいためであると考えられていたのである。つまり、式(2)の再結合反応により、F原子のほとんどがFNO
2 となり、その結果F原子の濃度は小さくなる。そのため、F2とNO
2 とをチャンバーに供給することにより、エッチングを実施することは非常に困難であると考えられていたのである。
【0072】
しかし、本発明者らは、次に示すように、NOとNO
2 との立体的構造の違いにより、反応速度定数k1が小さいのであると考えた。
【0073】
図6にNO
2 の立体的構造を示す。
図6に示すように、NO
2 では、2つのO原子がN原子に対してやや角度をもって結合している。この結合角は、134.3°である。そして、
図6の矢印J1に示す方向からF
2 分子が衝突した場合に、式(1)の反応を起こす。
図6の矢印J2、J3に示す方向からF
2 分子が衝突した場合には、式(1)の反応は起こらない。
図7にNO
2 とF
2 との反応を模式的示した図を示す。
【0074】
図8にNOの立体的構造とF
2 との反応を模式的に示した図を示す。
図8に示すように、NOではN原子とO原子とが直線状に配置されている。そして、
図8の矢印に示す方向からF
2 分子が衝突した場合に、式(3)の反応を起こす。
図8に示すように、NOのほうが、NO
2 に比べて、反応を起こす立体角が大きい。そのため、N原子の波動関数とF原子の波動関数とは、NOの場合に、より重なりやすい。
【0075】
このように、NO
2 とNOとで、F
2 との反応性は大きく異なっている。その相違点の原因は、従来考えられていたような式(2)によるF原子の再結合反応のせいではなく、NO
2 の立体的形状に起因すると、発明者らは考えたのである。言い換えると、式(2)の反応速度定数k2は、定常状態では大きいものの、ガス流を流し続けるとともに、常に新たなF
2 およびNO
2 の供給がなされる本実施形態のような非平衡状態では、それほど大きいわけではないと推測される。このことから、プラズマを用いないでも、F
2 とNO
2 とを反応させてF原子を発生させることができると推測できる。
【0076】
7−3.エッチング性
以上説明したように、再結合反応(式(2))の反応速度定数k2は、常に新たなF
2 およびNO
2 を供給している場合には、必ずしも大きくはない。そして、低圧下では、高圧下に比べて、平均自由行程が長い。これら2つの理由により、本実施形態のエッチング装置100を用いたエッチング方法では、F
2 とNO
2 とを反応させてエッチング可能な程度にF原子が発生する。これは、従来では考えられなかったことである。
【0077】
8.変形例
8−1.ガス混合室
本実施形態では、エッチング装置100にガス混合室140を設けることとした。しかし、ガス混合室140はなくても構わない。Si部材のエッチング対象箇所に供給する前に、第1のガスと第2のガスとが混合する空間があれば、エッチングを実施することができる。
【0078】
8−2.第3のガス供給部無し
第3のガス供給部113は無くてもよい。第2のガス供給部112に、NO
2 ガスとArガスとの混合気体を入れておけばよい。その場合であっても、ガス混合室140に供給されるガスは、同じである。第1のガスの圧力と、第2のガスの圧力とが、同じであれば、Arガスはなくてもよい。
【0079】
8−3.冷却装置
本実施形態では、反応室150にヒーター152を設けることとした。しかし、ヒーター152を設ける代わりに、もしくはヒーター152とともに、冷却装置を設けてもよい。これにより、Si部材を低い温度にした条件下でエッチングを施すことができるからである。
【0080】
8−4.マスクのパターン
本実施形態では、SiO
2 のマスクを作製することとした。しかし、太陽電池の表面の粗面化処理を行う際には、このようなマスクを形成する必要がない。このように、マスクを必要としない場合がある。
【0081】
8−5.エッチングレート
本実施形態では、反応室150の内部の圧力を、10Pa以上10000Pa以下の範囲内とするとともに、Si部材S1の温度を、−20℃以上500℃以下の範囲内とした。ここで、反応室150の内部の圧力を1000Pa以下、Si部材S1の温度を、300℃以下とした場合には、エッチングレートは本実施形態に比べて遅い。例えば、数nm/min程度である。そのため、例えば、反応室150の内部の圧力を100Pa以上1000Pa以下の範囲内とするとともに、Si部材S1の温度を180℃以上500℃以下の範囲内とするとよい。特に、Si部材S1の温度を180℃以上300℃以下の範囲内であるとなおよい。
【0082】
8−6.F
2 の生成
本実施形態では、F
2 を含む第1のガスを供給することとした。しかし、少なくともIF
3 やIF
5 、IF
7 、XeF
2 を含むソースを加熱して、F
2 ガスを発生させてもよい。また、HFを含む液体から電気分解によりF
2 を発生させてもよい。すなわち、その場合には、第1のガス供給部111は、F
2 発生部を有することとなる。
【0083】
9.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態に係るエッチング方法は、F
2 を含む第1のガスとNO
2 を含む第2ガスとを混合させた混合気体として、Si部材の表面に導く方法である。また、エッチングの際の雰囲気の圧力は、10Pa以上10000Pa以下の範囲内であり、大気圧に比べて十分に小さい。そのため、エッチングに用いられるF原子の寿命および濃度が、十分であると考えられる。したがって、プラズマを用いることなく、比較的入手しやすい安価なガスを用いて、Si部材に高精度な低速エッチングを実施することのできるエッチング方法およびエッチング装置が実現されている。
【0084】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、F
2 等に混合させる不活性ガスは、Arガスに限らない。例えば、He、Ne、Xe、Krを用いることができる。また、N
2 であってもよい。また、これらの不活性ガスを2種類以上用いてもよい。
【0085】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態とエッチング装置の構成のみが異なっている。したがって、その異なっている点を中心に説明する。つまり、第1の実施形態のエッチング装置100と共通する事項については、記載を省略する。
【0086】
1.エッチング装置
図9は、本実施形態のエッチング装置200の概略構成を示す図である。
図9に示すように、エッチング装置200は、第1のガス供給部111と、第2のガス供給部112と、マスフローコントローラー121、122と、ガス供給ユニット230と、ガス混合室240と、反応室250と、を有している。
【0087】
ガス供給ユニット230は、F
2 を含む第1のガスとNO
2 を含む第2のガスとをガス混合室240に供給するためのものである。ガス供給ユニット230は、2段構成となっている。
図10に第1段目231を、
図11に第2段目232を示す。
図10の第1段目231は、第1のガスをガス混合室240に供給する。
図11の第2段目232は、第2のガスをガス混合室240に供給する。
【0088】
図10に示すように、第1段目231は、ガス導入口233と、複数のガス噴出口235と、を有している。複数のガス噴出口235は、リング状に離散的に並んで配置されている。それぞれのガス噴出口235は、ガス混合室240の中心に向かって開口している。ガス混合室240の内側に向かって開口していれば、必ずしも中心に向かっていなくともよい。
【0089】
図11に示すように、第2段目232は、ガス導入口234と、複数のガス噴出口236と、を有している。複数のガス噴出口236は、リング状に離散的に並んで配置されている。それぞれのガス噴出口236は、ガス混合室240の中心に向かって開口している。ガス混合室240の内側に向かって開口していれば、必ずしも中心に向かっていなくともよい。
【0090】
ガス混合室240は、ガス供給ユニット230から第1のガスおよび第2のガスを供給されることにより、F原子を生成するためのものである。また、ガス混合室240にも、ガス混合室240の内部のガスを排出するための排気口245が設けられている。
【0091】
ガス混合室250と反応室250との間には、隔壁254が設けられている。隔壁254は、
図12に示すように、多数の貫通孔254aを設けられた多孔板である。貫通孔254aには、テーパ形状が設けられている。つまり、貫通孔254aでは、ガス混合室240から反応室250に向かうにつれて穴径が大きくなっている。この貫通孔254aから、F原子等がSi部材に吹き付けられることとなる。このように、隔壁254は、F原子等の流れを整流する整流板である。
【0092】
反応室250は、載置台251と、排気口255と、を有している。そして、整流板の役割を果たす隔壁254は、載置台251よりガスの流れの上流側の位置に配置されている。また、反応室250は、
図2に示したヒーター152と、圧力計170と、を有している。排気口255は、反応室250からガスを排出するためのものである。
【0093】
2.変形例
2−1.ガス供給ユニット
本実施形態では、ガス供給ユニット230は、第1のガス噴出部233と、第2のガス噴出部234と、を有する、2段構造となっていた。しかし、これらをさらに複数回繰り返し設けた構成としてもよい。例えば、4段構成のガス供給ユニットである。もちろん、6段以上の構成であってもよい。
【0094】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。本実施形態は、第2の実施形態とエッチング装置の構成のみが異なっている。したがって、その異なっている点を中心に説明する。つまり、第2の実施形態のエッチング装置200と共通する事項については、記載を省略する。
【0095】
1.エッチング装置
図13は、本実施形態のエッチング装置300の概略構成を示す図である。
図13に示すように、エッチング装置300は、第1のガス供給部111と、第2のガス供給部112と、マスフローコントローラー121、122と、ガス供給ユニット330と、ガス混合室340と、反応室350と、を有している。
【0096】
ガス供給ユニット330は、F
2 を含む第1のガスとNO
2 を含む第2のガスとをガス混合室340に供給するためのものである。ガス供給ユニット330は、
図14に示すように、ガス導入口331、332と、第1室333と、第2室334と、噴出口335、336と、を有している。
【0097】
第1室333は、導入口331から供給される第1のガスが供給される領域である。第2室334は、導入口332から供給される第2のガスが供給される領域である。そして、第1室333は、テーパ形状の噴出口335によりガス混合室340と連通している。第2室334は、噴出口336によりガス混合室340と連通している。このため、第1のガスおよび第2のガスは、
図13および
図14の下向きに吹き付けられつつ、互いに混合することとなる。
【0098】
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。本実施形態は、第3の実施形態とエッチング装置の構成のみが異なっている。したがって、その異なっている点を中心に説明する。つまり、第3の実施形態のエッチング装置300と共通する事項については、記載を省略する。
【0099】
1.エッチング装置
図15は、本実施形態のエッチング装置400の概略構成を示す図である。
図15に示すように、エッチング装置400は、第1のガス供給部111と、第2のガス供給部112と、マスフローコントローラー121、122と、ガス供給ユニット430と、ガス混合室440と、反応室450と、隔壁460と、を有している。
【0100】
ガス供給ユニット430は、F
2 を含む第1のガスをガス混合室340に供給するためのものである。ガス供給ユニット430は、
図16に示すように、ガス導入口431と、ガス室432と、噴出口433と、を有している。ガス室432は、噴出口433を介してガス混合室440と連通している。噴出口433は、テーパ形状になっている。
【0101】
図17に示すように、隔壁460は、ガス混合室440と、反応室450との間の位置に配置されている。隔壁460には、流路461と、導入口462と、ガス室463と、噴出口464と、を有している。流路461は、第1のガスをガス混合室440に供給するためのものである。ガス室463は、第2のガスをガス混合室440に供給するためのものである。
【0102】
(第5の実施形態)
第5の実施形態について説明する。本実施形態は、第4の実施形態とエッチング装置の構成のみが異なっている。したがって、その異なっている点を中心に説明する。つまり、第4の実施形態のエッチング装置400と共通する事項については、記載を省略する。
【0103】
1.エッチング装置
図18は、本実施形態のエッチング装置500の概略構成を示す図である。
図18に示すように、エッチング装置500は、第1のガス供給部111と、第2のガス供給部112と、マスフローコントローラー121、122と、ガス供給ユニット570と、反応室550と、を有している。
【0104】
ガス供給ユニット570は、第1のガスおよび第2のガスを別々に反応室550に供給するためのものである。ガス供給ユニット570は、トーチ型の形状をしている。ガス供給ユニット570は、第1のガス室571と、第2のガス室572と、を有している。第1のガス室571は、第1のガスを反応室550に向けて噴射するためのものである。第1のガス室571の開口部571aの形状は、円形である。第2のガス室572は、第2のガスを反応室550に向けて噴射するためのものである。第2のガス室572の開口部572aの形状は、リング形状である。そして、開口部572aは、開口部571aを囲むように配置されている。
【0105】
このため、第2のガスは、第1のガスを囲むように噴射される。そして、反応室550で第1のガスと第2のガスとは混合する。そして、式(1)等に示した化学反応が生じる。開口部571a、572aの開口幅は、ある程度狭い。そのため、反応室550の内部における局所的な部分に向けて混合気体を照射することとなる。
【0106】
2.利用分野
本実施形態のエッチング装置500は、Si部材の局所的なエッチングに用いることができる。そのために、載置台551は、並進や回転等の移動ができるようになっているとよい。
【0107】
(第6の実施形態)
第6の実施形態に係る洗浄装置について説明する。本実施形態の洗浄装置は、第5の実施形態のエッチング装置500を洗浄装置として用いるものである。そのため、装置の構成は、エッチング装置500と同様である。
【0108】
ここで、化学気相成長法によるSi多結晶等の成膜をする際には、ウェハの裏面にガスが廻り込みウェハ周辺に付着して後工程に大きな支障をきたす場合が有る。このウェハの裏面のSi多結晶を除去するため、ウェットエッチングが実施されることが多い。しかし、この場合には、多くの洗浄工程、廃液処理が必要である。
【0109】
そのため、本実施形態では、エッチング装置500を用いて、ウェハの裏面をケミカルドライエッチングする。
【0110】
また、その他、Si部材を作製する装置の部品等に形成されるSi部材の被膜を除去することもできる。
【0111】
また、シリコン基板の洗浄に用いることができる。さらに、開口部571aをリング状にして、開口部571a、572aの口径を大きいものとすることにより、シリコン基板を裏返すことなく、シリコン基板の裏面のクリーニングを実施することができる。
【0112】
(第7の実施形態)
第7の実施形態について説明する。第1の実施形態では、エッチングガスとして、F
2 とNO
2 との混合ガスを用いた。本実施形態では、エッチングガスとして、F
2 とNOとの混合ガスを用いる。したがって、第1の実施形態と異なる点について説明する。なお、本実施形態のエッチングを実施するにあたって、第1の実施形態から第5の実施形態までで説明したエッチング装置100、200、300、400、500を用いればよい。そして、NO
2 ガスを供給する代わりに、NOガスを供給すればよい。
【0113】
1.ガス混合室および反応室で生じる化学反応
1−1.ガス混合室での反応
ここで、ガス混合室140で生じる化学反応について説明する。ガス混合室140では、次に示す式(3)および式(4)の化学反応が生じる。
F
2 + NO → F + FNO ………(3)
F + NO → FNO ………(4)
式(3)の反応速度定数: k3(cm
3 /molecules −s)
式(4)の反応速度定数: k4(cm
3 /molecules −s)
【0114】
このように、F
2 ガスとNOガスとが混合することにより、式(3)に示すように、F原子が生成される。そして、式(4)に示すように、生成されたF原子はNOと再結合し、F原子は減少する。そのため、これらの反応のいずれが支配的であるかによって、F原子の濃度は異なる値をとる。すなわち、F原子の濃度が、どのような値であるかは、必ずしも明らかではない。
【0115】
なお、従来においては、k3とk4とは、次に示すように、ほぼ同程度であると考えられていた(Kolb, C. E.; J. Chem. Phys. 1976, 64, 3087-3090.)。
k3 ≒ k4
= 7.04×10
-13 exp(−1150/T) ………(5)
T:温度(K)
したがって、F
2 ガスとNOガスとを混合することにより、F原子は生じるものの、NOと再結合してしまうため、F原子の濃度はそれほど高くないと考えられていた。すなわち、エッチングを実施するにはそれほど適していないと考えられていた。
【0116】
本実施形態では、後述するように、低圧下でF
2 ガスとNOガスとを混合する。低圧下での各粒子の平均自由行程は、高圧下での各粒子の平均自由行程に比べて長い。また、本実施形態では、F
2 とNOとを少なくとも含む混合気体をガス混合室140に継続して供給し続けることとしている。そのため、式(3)の反応によって生じるF原子がガス混合室140の内部に一定数存在し得るであろうと考えられる。
【0117】
1−2.反応室での反応
反応室150の内部においても、上記の式(3)および式(4)の反応は生じている。そして、反応室150の内部に一定数存在し得るであろうF原子を用いてSi部材S1にエッチングを実施する。このときSi部材S1のSi原子との反応に寄与する粒子は、F原子のみとは限らない。ただし、F原子が主にエッチングに寄与すると考えられる。
【0118】
2.エッチング方法
2−1.パターン形成工程
まず、Si部材S1にマスクパターンを形成する。例えば、半導体デバイスを製造する場合には、トレンチを形成しない箇所にマスクを配置する。マスクの材質として、例えばSiO
2 が挙げられる。
【0119】
2−2.ガス供給工程
本実施形態のエッチング方法について説明する。まず、反応室150の載置台151の上にSi部材S1を載置する。次に、反応室150を真空引きして反応室150の内圧を下げる。それとともに、ヒーター152を設定値まで加熱する。そして、第1のガス供給部111から第1のガスを供給するとともに、第2のガス供給部112から第2のガスを供給するとともに、第3のガス供給部113からArガスを供給する。
【0120】
2−3.エッチング粒子生成工程
そして、前述の式(3)に示した反応により、F原子を発生させる。また、その他の粒子も生成される。これらの反応は、主にガス混合室140で生じる。このときガス混合室140の混合気体中には、F
2 と、NOと、Fと、FNOと、Arと、これらのイオンと、電子、その他の粒子が存在し得る。また、反応室150においても、同様の反応が生じ、同様の粒子が存在し得る。
【0121】
2−4.エッチング工程
次に、反応室150の内部で、この混合気体をSi部材S1に導く。そして、F原子がSi部材S1と反応する。これにより、Si部材S1のエッチングが進行する。これにより、Si部材S1のマスクで覆われていない部分を除去する。ここで、反応室150の内部の圧力は、10Pa以上10000Pa以下の範囲内である。また、反応室150の内部の圧力は、100Pa以上1000Pa以下の範囲内であるとなおよい。なお、反応室150の内部の圧力とは、反応室150の内部に占める混合気体の全圧のことである。そのため、Arガスを供給していれば、その圧力をも含む。そして、Si部材S1の温度は、−20℃以上500℃以下の範囲内とする。この圧力および温度の範囲内では、混合気体は気体のままである。混合気体をプラズマ状態にすることはない。
【0122】
2−5.その他の工程
また、その他の工程を実施してもよい。
【0123】
3.実験C(F
2 +NOの温度依存)
3−1.Si部材
本実験では、Si部材S1として、シリコン基板を用いた。このシリコン基板のサイズは、幅6mm長さ15mmであった。また、シリコン基板はp型半導体である。そして、その電気抵抗率は10Ωcmであった。
【0124】
3−2.実験条件
本実験では、表1に示す実験条件により、エッチングを実施した。ArガスにF
2 ガスを体積比で5%の割合で混合した混合気体を109.1sccm供給した。これにより、F
2 ガスを反応室に2.7sccm供給することとなる。一方、NOを5sccmだけ反応室に供給した。反応室の内部の圧力を600Paとした。エッチングを実施した時間は5分間であった。なお、SiO
2 から成るマスクにより設定した開口幅を8μm角とした。また、ガス混合室と反応室との間の距離は20mmであった。本実験では、上記のような条件で、シリコン基板の温度を変えてエッチングを実施した。
【0125】
[表1]
F
2 ガス 2.7sccm
NOガス 5sccm
反応室の内圧(全圧) 600Pa
エッチング時間 5分間
マスクの開口幅 8μm角
基板温度 27℃〜300℃
【0126】
3−3.実験結果
3−3−1.エッチングの形状
図19から
図22は、本実験におけるエッチングを施したシリコン基板の断面を示す顕微鏡写真である。顕微鏡として、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。
【0127】
図19は、基板温度が27℃の場合における断面を示す走査型顕微鏡写真である。
図19に示すように、この場合には、比較的深くて粗い形状の凹部が形成された。このときのエッチングレートは、5μm/min程度である。そして、アスペクト比は、3程度であった。
【0128】
図20は、基板温度が110℃の場合における断面を示す走査型顕微鏡写真である。
図20に示すように、この場合には、平坦な形状の凹部が形成された。エッチングレートは、0.7μm/min程度である。そして、アスペクト比は、ほぼ1であった。
【0129】
図21は、基板温度が300℃の場合における断面を示す走査型顕微鏡写真である。
図21に示すように、この場合には、なだらかな凹面を有する凹部が形成された。また、結晶面方位性が観察された。
【0130】
図22に示すように、基板温度が27℃から300℃の範囲内で、シリコン基板にエッチングを施すことができた。また、基板温度により、エッチングの断面形状は異なっている。
図22に示すように、基板温度が27℃、40℃、50℃、60℃の場合には、比較的深くて粗い形状の凹部が形成された。このように、基板温度が20℃以上60℃以下の範囲内では、粗い形状の凹部が形成される。そのため、広範囲を粗面化するのに適している。
【0131】
図22に示すように、基板温度が65℃、85℃、110℃、180℃の場合には、平坦な形状の凹部が形成された。基板温度が60℃より高く180℃以下の範囲内では、平坦な形状の凹部が形成される。
【0132】
図22に示すように、基板温度が230℃、300℃の場合には、なだらかな凹面を有する凹部が形成された。基板温度が180℃より高く500℃以下の範囲内では、なだらかな凹面を有する凹部が形成される。
【0133】
3−3−2.エッチングレート
図23にエッチングレートを示す。
図23の横軸は、温度の逆数の1000倍である。なお、
図23中の情報に、その横軸の値に対応する温度を示す。
図23の縦軸は、エッチングレートである。
図23に示すように、室温近傍の粗いエッチングを行う温度領域T1では、エッチングレートは速い。そして、基板温度が上昇するにしたがって、エッチングレートは減少し、基板温度が60℃程度で極小値をとる。そして、さらに基板温度が60℃より高い領域では、基板温度が高いほど、エッチングレートは速い傾向となっている。
【0134】
このような傾向は、反応室150の内部で、F原子の濃度が温度に依存することを示唆している。なお、反応室150の内部の温度は、シリコン基板の温度とほぼ等しい。また、反応室150の内部では、F原子の他に、FNO等その他の粒子がエッチャントとして機能するためであると考えられる。
【0135】
温度領域T1では、粗い形状の凹部が形成される。そのため、広範囲を粗面化するのに適している。例えば、太陽電池の表面の粗面化に適用することができる。温度領域T2では、平坦な形状の凹部を形成することができる。また、エッチングレートは十分に遅い。そのため、比較的高精度なエッチングを実施することができる。例えば、半導体素子のトレンチを形成する際に適用することができる。また、MOSFETのゲート近傍に生ずるダメージ層を除去するために適用することもできる。温度領域T2では、なだらかな凹面を有する凹部を形成することができる。例えば、MEMSを形成する際に適用することができる。
【0136】
なお、表2に、温度と、
図23の横軸に示す1000/Tの値と、エッチングレートとをまとめた表を示す。ここでエッチングレートは、シリコン基板の板面に対して垂直な方向の値である。
【0137】
[表2]
温度 1000/T エッチングレート(垂直方向)
(℃) (K
-1) (μm/min)
27 3.3 4.37
40 3.2 2.60
51 3.1 1.21
60 3.0 0.72
85 2.8 0.50
110 2.6 0.68
180 2.2 1.34
230 2.0 1.88
300 1.7 2.77
【0138】
なお、基板温度を27℃とした場合と、基板温度を230℃とした場合におけるシリコン基板の表面状態を
図24に示す。
【0139】
3−3−3.比較例
表1の条件で、F
2 ガスのみを供給した場合(比較例1)、NOガスのみを供給した場合(比較例2)のいずれの場合であっても、シリコン基板にエッチングは施されなかった。なお、これらの場合の基板温度は、室温であった。
【0140】
4.実験D(F
2 +NOの流量依存)
4−1.Si部材
実験Cと同様のシリコン基板を用いた。
【0141】
4−2.実験条件
表3に示す実験条件で実験を行った。基板温度を27℃とした。そして、NOガスの供給量を0sccmから8sccmまで変化させることにより、F
2 ガスの供給量と、NOガスの供給量との比を変化させた。これら以外の条件については、表1に示した実験Cと同様である。
【0142】
[表3]
F
2 ガス 2.7sccm
NOガス 0〜8sccm
反応室の内圧(全圧) 600Pa
エッチング時間 5分間
マスクの開口幅 15μm角
基板温度 27℃
【0143】
4−3.実験結果
実験結果を
図25に示す。
図25の横軸は、F
2 ガスの流量に対するNOガスの流量の比である。
図25の縦軸は、エッチングレートである。
図25のグラフに示すように、F
2 ガスの流量に対するNOガスの流量の比を1.0以上2.0以下の範囲内とした場合に、エッチングレートが速かった。この範囲内でのエッチングレートの値は、5μm/min程度であった。つまり、この範囲内の場合に、好適なエッチングを実施することができる。なお、NOガスを供給しない場合(0sccm)には、シリコン基板をエッチングすることはできなかった。
【0144】
図26は、F
2 とNOとの流量比と、エッチングされた面の粗さとの関係を示すグラフである。
図26の横軸は、F
2 ガスの流量に対するNOガスの流量の比である。
図26の縦軸は、エッチング箇所の平均自乗粗さ(nm)である。
図26に示すように、NOの供給量を増加させるにつれて、エッチング箇所の粗さは粗い傾向となる。そして、F
2 ガスの流量に対するNOガスの流量の比が1.5のときに最大値をとる。そのときの平均自乗粗さは、12nm程度である。さらにNOの供給量を増加させると、エッチング箇所の粗さの値は小さくなる。なお、
図26中の破線は、F原子の計算値を示している。
【0145】
図27は、エッチングを実施したシリコン基板の断面を示す走査型顕微鏡写真である。NOの流量を1sccmとした場合(C1)と、NOの流量を4sccmとした場合(C2)とを示す。NOの流量を4sccmとした場合には、表4に示す3種類の異なるエッチピットH1、H2、H3を観測することができた。複数種類のエッチピットが形成されている様子を
図28に示す。
図28は、エッチングを実施したシリコン基板の底面を示す走査型顕微鏡写真(C3)である。NOの流量は4sccmである。
【0146】
図29は、NOの流量を1sccmとした場合におけるシリコン基板の底面を示す走査型顕微鏡写真(C4)である。この場合には、エッチピットH1と、H3とが主に発生している。
図30は、NOの流量を3sccmとした場合におけるシリコン基板の底面を示す走査型顕微鏡写真(C5)である。この場合には、エッチピットH1、H3に加えて、多数のエッチピットH2が形成されている。
図31は、NOの流量を8sccmとした場合におけるシリコン基板の底面を示す走査型顕微鏡写真(C6)である。この場合には、エッチピットH1は発現しているが、エッチピットH2、H3については消失している。
【0147】
[表4]
エッチピットの種類 ピット径
H1 50nm以上 100nm以下
H2 300nm以上 600nm以下
H3 2μm以上 5μm以下
【0148】
5.実験E(F
2 +NOの圧力依存)
5−1.Si部材
実験Cと同様のシリコン基板を用いた。
【0149】
5−2.実験条件
表5に示す実験条件で実験を行った。また、ArガスにF
2 ガスを体積比で10%の割合で混合した混合気体を供給した。表5に示すように、基板温度を27℃とした。エッチング時間を5分間とした。マスクの開口幅を8μm角とした。この条件の下、反応室の内圧を、200Paと、400Paと、600Paと、800Paと、してエッチングを行った。
【0150】
[表5]
F
2 ガス 5.4sccm
NOガス 16sccm
反応室の内圧(全圧) 100Pa−1000Pa
エッチング時間 5分間
マスクの開口幅 8μm角
基板温度 27℃
【0151】
5−3.実験結果
図32にその結果を示す。
図32(a)は、200Paのときの走査型顕微鏡写真である。
図32(b)は、400Paのときの走査型顕微鏡写真である。
図32(c)は、600Paのときの走査型顕微鏡写真である。
図32(d)は、800Paのときの走査型顕微鏡写真である。
図32(e)は、
図32(a)を拡大した走査型顕微鏡写真である。
図32(f)は、
図32(b)を拡大した走査型顕微鏡写真である。
図32(g)は、
図32(c)を拡大した走査型顕微鏡写真である。
【0152】
図32に示すように、エッチングにより、半球形の凹部が形成された。また、反応室の圧力が高くなるほど、エッチングにより生じた凹部の大きさは大きい。すなわち、圧力が高いほどエッチングレートは高い。また、圧力が高いほど、エッチングされた凹部の内側面の表面粗さは細かい。
【0153】
6.実験F(MEMSの犠牲層のエッチング)
図33(a)は、MEMSの犠牲層をエッチングしたときの走査型顕微鏡写真である。
図33(b)は、
図33(a)の拡大写真である。
図33(a)に示すように、微細構造を有するMEMSの犠牲層を好適にエッチングすることができた。
【0154】
図34(a)は、MEMSの犠牲層をエッチングしたときの走査型顕微鏡写真である。
図34(b)は、
図34(a)の拡大写真である。このときのMEMSの温度を27℃とした。このように、ほぼ常温であっても、好適にエッチングすることができる。
【0155】
7.実験G(F
2 +NOにおける衝突回数)
図35は、ガス粒子の衝突回数とエッチングレートとの関係を示すグラフである。ここで、反応室の内圧と、ガスの混合箇所からシリコン基板までの距離(d)と、から、平均自由行程と、衝突回数(n)と、を計算した。そして、その衝突回数となる距離(d)および圧力のときのエッチングレートをプロットした。
【0156】
7−1.衝突回数とエッチングレート
図35に示すように、領域(I )では、エッチングレートは、衝突回数nに比例して増大する。領域(II)では、エッチングレートは、1/d
2 で減少する。領域(III )では、エッチングレートは、著しく減少する。
【0157】
図35の結果について、本発明者らは、次のように考察している。領域(I )では、式(3)の反応により、F原子が増加していると考えられる。領域(II)では、衝突を重ねて増加したF原子が、式(4)の反応により、減少していると考えられる。領域(III )では、Siの表面にNOおよびFNOが吸着したために、F原子によるSiのエッチングが抑制されていると考えられる。
【0158】
7−2.反応室の内圧とエッチングレート
反応室の内圧と衝突回数とは比例関係にある。したがって、
図35の上部に、ガスの混合箇所からの距離が30mmのときの反応室の内圧を表示してある。
図35に示すように、反応室の内圧が100Pa以上1000Pa以下の範囲内では、ある程度のエッチングを実施することができる。
【0159】
7−3.ガスの混合箇所からの距離とエッチングレート
ガスの混合箇所からの距離と衝突回数とは比例関係にある。したがって、
図35の上部に、反応室の内圧を600Paとしたときのガスの混合箇所からシリコン基板までの距離を表示している。
図35に示すように、ガスの混合箇所からの距離が5mm以上70mm以下の範囲内では、ある程度のエッチングを実施することができる。また、ガスの混合箇所からの距離が5mm以上50mm以下の範囲内であるとなおよい。
【0160】
8.NOとNO
2 との比較
ここで、第2のガスとしてNOを用いた実験とNO
2 を用いた実験とを比較する。
図36は、NOを用いたエッチング箇所とNO
2 を用いたエッチング箇所とを同一縮尺で比較した顕微鏡写真である。
図36(a)、(b)のいずれの場合も、基板温度は300℃であり、反応室の内圧は600Paであった。このように、第2のガスとしてNOを用いた場合とNO
2 を用いた場合とで、エッチングレートは大きく異なっている。
【0161】
図37に、基板温度とエッチングレートとの関係を示す。第2のガスとしてNOを用いた場合には、基板温度が20℃以上300℃以下の広い範囲でエッチングを実施することができた。
【0162】
一方、第2のガスとしてNO
2 を用いた場合には、基板温度が180℃以上300℃以下の範囲でエッチングを実施することができた。このように、第2のガスとしてNOを用いた場合のエッチングレートは、NO
2 を用いた場合のエッチングレートの30倍程度である。
【0163】
9.応用分野
以上説明したように、
図23の温度領域T1では、粗いエッチングを実施することができるため、太陽電池の表面の粗面化に適用することが好ましい。例えば、
図38に示すように、本実施形態の粗面化により、太陽電池の反射率は非常に小さくなる。そのため、
図39に示すように、粗面化された表面から反射された光のうちの一部は、他の粗面化された表面に再度入射することができる。これにより、より多くの光が太陽電池の内部に吸収される。このように総合してみると、平坦なSi表面に比べて粗面化したSi表面では、太陽電池の外部から照射される光は、太陽電池の内部により多く吸収される。
【0164】
図23の温度領域T2では、平坦で低速なエッチングを実施することができるため、半導体デバイスのゲート近傍に発生するダメージ層をエッチングにより除去するために適用することが好ましい。
図23の温度領域T3では、ゆるやかな凹面を形成することができるため、MEMSの製造に用いることが好ましい。
【0165】
10.変形例
第1の実施形態で説明した変形例について同様に適用することができる。
【0166】
11.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態に係るエッチング方法は、F
2 を含む第1のガスとNOを含む第2ガスとを混合させた混合気体として、Si部材の表面に導く方法である。また、エッチングの際の雰囲気の圧力は、10Pa以上10000Pa以下の範囲内であり、大気圧に比べて十分に小さい。そのため、エッチングに用いられるF原子の寿命および濃度が、十分であると考えられる。したがって、プラズマを用いることなく、比較的入手しやすい安価なガスを用いて、Si部材に種々のエッチングを実施することのできるエッチング方法およびエッチング装置が実現されている。
【0167】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。例えば、F
2 等に混合させる不活性ガスは、Arガスに限らない。例えば、He、Ne、Xe、Krを用いることができる。また、N
2 であってもよい。また、これらの不活性ガスを2種類以上用いてもよい。