特許第6021135号(P6021135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021135
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】X線検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20161027BHJP
   G01T 1/202 20060101ALI20161027BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20161027BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   G01T1/20 B
   G01T1/202
   C09K11/61CPF
   C09K11/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-9683(P2016-9683)
(22)【出願日】2016年1月21日
(62)【分割の表示】特願2012-104955(P2012-104955)の分割
【原出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2016-85229(P2016-85229A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】島村 清史
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ビジョラ エンカルナシオン アントニア
【審査官】 後藤 孝平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/085442(WO,A1)
【文献】 C.L. Woody, P.W.Levy and J.A. Kierstead,Slow Component Suppression and Radiation Damage in Doped BaF2 Crystals,Transactions on Nuclear Science,1989年 2月,Vol.36, No.1,p. 536-542
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G01T 1/202
C09K 11/00
C09K 11/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンチレータ材料とフォトダイオードとを有するX線検出器であって、
前記シンチレータ材料は、化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物単結晶からなり、前記化学式で、前記MはBaであり、前記REはEuであり、0.05<x≦0.3であり、0≦w≦0.5であり、X線によって励起され、赤色の発光をし、
前記フォトダイオードは、前記赤色の発光を吸収するフォトダイオードである、X線検出器。
【請求項2】
シンチレータ材料とフォトダイオードとを有するX線検出器であって、
前記シンチレータ材料は、化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物単結晶からなり、前記化学式で、前記Mは、Baと、第3族金属元素、第4族金属元素、第5族金属元素、第13族金属元素、第14族金属元素の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素とからなり、前記REはEuであり、0.05<x≦0.3であり、0≦w≦0.5であり、X線によって励起され、赤色の発光をし、
前記フォトダイオードは、前記赤色の発光を吸収するフォトダイオードである、X線検出器。
【請求項3】
前記フォトダイオードは、Siフォトダイオードである、請求項1または2のいずれかに記載のX線検出器。
【請求項4】
前記xは、0.125≦x≦0.3を満たす、請求項1〜3のいずれか1項に記載のX線検出器。
【請求項5】
前記赤色の発光は、595nmの第1の発光ピーク波長、702nmの第2の発光ピーク波長、624nmの第3の発光ピーク波長、694nmの第4の発光ピーク波長および655nmの第5の発光ピーク波長からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のX線検出器。
【請求項6】
前記シンチレータ材料の形状は、板状、立方体状、線状又は円柱状のいずれかである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のX線検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、X線検出器は、様々な業種において利用されている。X線検出器とは、測定物にX線を照射して、測定物内を透視したり、測定物の断層写真を撮影する機器のことであり、具体的には、X線透過検査システムやX線異物検出機、非破壊検査、X線CT(CT:Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)装置等として応用されている。
【0003】
X線異物検出機は、測定物にX線を照射し、測定物内の金属片、ガラス片、石片等の異物を検出する機器である。また、X線CTは物体を様々な角度からX線で撮影し、コンピュータ上で再構成処理を行うことで、物体の内部構造を可視化する装置である。X線異物検出機やX線CTでは、X線などの放射線を光に換える機能を持つ材料からなるシンチレータが配置されており、測定物を透過させた放射線をシンチレータで光に変えてから、その光強度等をフォトダイオードで検出することにより、透過放射線量等を算出している。
【0004】
X線検出器のシンチレータ材料として、CdWO(CWO)が使用されている。この材料は、X線励起により青緑色光を発光し、発光量が高く、化学的に安定であり、加工性に優れ、残光が少ないためである。しかし、有害なCdが含まれている。そのため、安全な代替物質の開発が望まれていた。
【0005】
ポジトロン断層法(Positron emission tomography:PET)用のシンチレータ材料には、BiGe12(BGO)、Ce:LuSiO(LSO)、Ce:(Lu1−xSiO(LYSO)、Ce:(Lu1−xGdSiO(LGSO)が知られている(例えば、特許文献1〜3を参照、非特許文献1〜5を参照)。BGOは古くから使われてきたシンチレータである。しかし、発光量が少ないため、現在、市場はLSO、LYSO、LGSOがこれにとってかわっている。しかし、これらの材料は放射性同位元素を含むLuを含有しているため、残光特性がよくなく、CWOの代替としては利用できていない。
【0006】
このように、シンチレータ材料として、CWOの安全な代替物質となりうる材料として適当なものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−16197号公報
【特許文献2】特表2004−532997号公報
【特許文献3】米国特許公報US2006/0124854A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.D.Birowosutoら、J.Of App.Phys.Vol.99,123520(2006)
【非特許文献2】BGOに関して:Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 404(1998)413−417.
【非特許文献3】LSOに関して:Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 546(2005)33−36.
【非特許文献4】LYSOに関して:Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 564(2006)506−514.
【非特許文献5】LGSOに関して:Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 597(2008)238−241.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、CWOの安全な代替物質となりえる量子効率の高いシンチレータ材料を用いたX線検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記事情を鑑み、試行錯誤して、希土類元素及び第2族元素を含有するフッ化物単結晶を作製することに成功し、本研究を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0011】
本発明によるX線検出器は、シンチレータ材料とフォトダイオードとを有し、前記シンチレータ材料が、化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物単結晶からなり、前記化学式で、前記MはBaであり、前記REはEuであり、0.05<x≦0.3であり、0≦w≦0.5であり、X線によって励起され、赤色の発光をし、前記フォトダイオードが、前記赤色の発光を吸収するフォトダイオードであり、これにより上記課題を解決する。
本発明によるX線検出器は、シンチレータ材料とフォトダイオードとを有し、シンチレータ材料が、化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物単結晶からなり、前記化学式で、前記Mは、Baと、第3族金属元素、第4族金属元素、第5族金属元素、第13族金属元素、第14族金属元素の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素とからなり、前記REはEuであり、0.05<x≦0.3であり、0≦w≦0.5であり、X線によって励起され、赤色の発光をし、前記フォトダイオードが、前記赤色の発光を吸収するフォトダイオードであり、これにより上記課題を解決する。
【0012】
前記フォトダイオードは、Siフォトダイオードであってもよい。
前記xは、0.125≦x≦0.3を満たしてもよい。
【0013】
前記赤色の発光は、595nmの第1の発光ピーク波長、702nmの第2の発光ピーク波長、624nmの第3の発光ピーク波長、694nmの第4の発光ピーク波長および655nmの第5の発光ピーク波長からなってもよい。
【0014】
前記シンチレータ材料の形状は、板状、立方体状、線状又は円柱状のいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシンチレータ材料は、化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物単結晶からなり、前記化学式でMがBe、Mg、Ca、Sr、Baの群から選択される1又は2以上の第2族金属元素であり、REが希土類元素であり、0<x≦0.4であり、0≦w≦0.5である構成なので、高い発光量をもち、放射性同位体を含まず、かつ残光を小さくできる。これにより、CWOの安全な代替物質となりえるX線検出器のシンチレータ材料として用いることができる。
【0016】
また、本発明のX線検出器は、本発明のシンチレータ材料と、フォトダイオードと、を有する構成なので、赤色光の吸光度が高いフォトダイオードで、X線励起によりシンチレータを高輝度で発光させた赤色光を効率よく受光させることができ、X線検出効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1サンプルを示す写真である。
図2】実施例1サンプルの透過スペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1サンプル及び比較例3サンプルのUV光励起の発光スペクトルを示すグラフである。
図4】実施例1サンプルのX線励起の発光スペクトルを示すグラフである。
図5】Siフォトダイオードの量子効率及び反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態であるシンチレータ材料及びX線検出器について説明する。
【0019】
<シンチレータ材料>
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物単結晶であって、MがBe、Mg、Ca、Sr、Baの群から選択される一又は二以上の第2族金属元素であり、REが希土類元素であり、0<x≦0.4であり、0≦w≦0.5である
【0020】
MがBaであり、REがEuであることが好ましい。これにより、X線励起により効率よく赤色発光し、シンチレーション特性を示す材料とすることができる。
【0021】
Mの一部が第3族金属元素、第4族金属元素、第5族金属元素、第13族金属元素、第14族金属元素の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素で置換されていてもよい。
また、REの一部がSc、Y及び希土類元素の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素であってもよい。
更にまた、Fの一部がCl、Br、Iの郡から選択されるいずれか1又は2以上の元素であってもよい。
これらの構成としても、高量子効率で赤色発光させることができ、また、大径化した単結晶を生成できる。
【0022】
シンチレータ材料は、板状、立方体状、線状又は円柱状のいずれかの形状とすることが好ましい。これにより、様々な機器への搭載を容易にできる。
【0023】
<シンチレータ材料の製造方法>
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、溶融凝固法により、例えば、次にようにして、成長させることができる。
まず、所定の材料を所定のモル比で量りとる。
次に、秤量した材料を、るつぼの中で混合し、真空ポンプで真空にした後CF(>99.99%)雰囲気とし、徐々に溶解させた後、徐々に冷却する。
以上の工程により、本発明の実施形態である化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物の単結晶体からなるシンチレータ材料を製造することができる。
【0024】
また、チョクラルスキー(以下、Cz)法により、例えば、次にようにして、成長させることができる。
まず、所定の材料を所定のモル比で量りとり、るつぼの中で混合し、真空ポンプで真空にした後、CF(>99.99%)雰囲気とし、徐々に溶解させた後、徐々に冷却して、略円板状の単結晶を形成する。
次に、前記単結晶から棒状の種結晶を切り出す。
【0025】
次に、前記同様に所定材料を所定モル比で量りとり、るつぼの中で混合した後、るつぼをチャンバ内に配置してから、真空ポンプで高真空にすることでチャンバ内の酸素を効率的に除去した後、CF(>99.99%)雰囲気とする。
次に、高周波発振器(30kW)に接続された高周波コイルにより、るつぼを加熱して、るつぼ内で混合材料をゆっくり溶融する。
【0026】
次に、るつぼ中の溶液に前記棒状の種結晶を一端側から接触させてから、棒の中心軸周りに回転させながら、棒の他端側方向に引き上げることにより、棒状の種結晶の溶液側に単結晶を成長させる。例えば、回転速度は1〜50rpmとし、引上げ速度は0.1〜10mm/hとする。
これにより、棒の一端側から棒の周りに単結晶を形成することができる。
【0027】
次に、前記単結晶から所定の形状に切り出す。例えば、略円柱状とする。
次に、略円柱状とした単結晶の所定の面を所定の方法により研磨する。
以上の工程により、本発明の実施形態である化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物の単結晶体からなるシンチレータ材料を製造することができる。
【0028】
前記単結晶は、ブリッジマン(Bridgman)法を用いての製造も可能である。
ブリッジマン法による結晶育成は例えば以下のようである。
るつぼ内に所定の材料を所定のモル比で量りとり、るつぼの中で撹拌した後、チャンバ内にるつぼを設置する。
その後真空ポンプにより高真空にすることで効率的に水分を除去し、その高真空を保ったまま、るつぼ周囲に配置された抵抗加熱型の加熱源に通電し、るつぼ内の材料を溶解する。なお、前記加熱源は上方が材料の融点より温度が高く下方が材料の融点より温度が低い温度勾配を有している。
材料が溶解した後、融点より温度が高い上方から融点より温度の低い下方に向かいるつぼを移動させる。この際、融点、あるいはそれよりも温度が低い所に来た溶液が単結晶化し、これを連続的に行うことで単結晶を連続的に育成することができる。
【0029】
これら溶融凝固法、Cz法又はブリッジマン法により、本発明の実施形態であるシンチレータ材料を製造することが好ましい。容易にかつ安定した特性を有する単結晶が得られるためである。
また、これらの製造方法で成長させる単結晶体は安定性が高く相転移もないので、単結晶体の切り出し時におけるクラックを十分に抑制でき、第2相の発生も抑制できるため大型単結晶化が可能である。また、前記単結晶は、比較的低温で結晶成長させることが可能であるとともに、その製造コストも低くすることができる。
【0030】
しかし、製造方法はこれらの方法に限られるものではなく、浮遊帯域法(FZ:floating zone法)、マイクロ引き下げ法(μ−PD法:μ−Pulling Down法)、帯溶融法(Zone melting法)等の方法を用いても良い。
【0031】
<X線検出器>
本発明の実施形態であるX線検出器は、本発明の実施形態であるシンチレータ材料と、フォトダイオードと、を有する。これにより、X線励起により、高輝度赤色発光させることができるシンチレータ材料と、赤色波長領域を効率よく吸収するフォトダイオードと、を有し、高感度なX線検出器とすることができる。
【0032】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、化学式M1−xRE2+x−wで表されるフッ化物単結晶からなり、前記化学式でMがBe、Mg、Ca、Sr、Baの群から選択される1又は2以上の第2族金属元素であり、REが希土類元素であり、0<x≦0.4であり、0≦w≦0.5である構成なので、前記単結晶体はX線励起により赤色光〜近赤外光の波長領域で、高量子効率で発光するX線検出器のシンチレータ材料として用いることができ、X線の高感度の検出が可能となる。更に、前記単結晶体は安定性が高く相転移もないので、単結晶体の切り出し時におけるクラックを十分に抑制でき、第2相の発生も抑制できるため大型単結晶化が可能である。高い発光量をもち、放射性同位体を含まず、かつ残光を小さくできる。これにより、CWOの安全な代替物質となりえるX線検出器のシンチレータ材料として用いることができる。
【0033】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、MがBaであり、REがEuである構成なので、X線励起により赤色光〜近赤外光の波長領域で、高量子効率で発光させることができる。
【0034】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、0.05≦x≦0.3である構成なので、X線励起により赤色光〜近赤外光の波長領域で、高量子効率で発光させることができる。
【0035】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、Mの一部が第3族金属元素、第4族金属元素、第5族金属元素、第13族金属元素、第14族金属元素の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素で置換されている構成なので、クラックを十分に抑制でき、第2相の発生も抑制できるため大型単結晶化が可能である。
【0036】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、REの一部がSc、Y及び希土類元素の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素である構成なので、クラックを十分に抑制でき、第2相の発生も抑制できるため大型単結晶化が可能である。
【0037】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、Fの一部がCl、Br、Iの郡から選択されるいずれか1又は2以上の元素である構成なので、クラックを十分に抑制でき、第2相の発生も抑制できるため大型単結晶化が可能である。
【0038】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料は、板状、立方体状、線状又は円柱状のいずれかの形状とされている構成なので、X線検出器に容易に搭載できる。
【0039】
本発明の実施形態であるX線検出器は、先に記載のシンチレータ材料と、フォトダイオードと、を有する構成なので、赤色光〜近赤外光の波長領域で発光するシンチレータ材料と、赤〜近赤外の光感度の高いSiフォトダイオードを組み合わせることにより、検出効率の高いX線検出器とすることができる。
【0040】
本発明の実施形態であるシンチレータ材料及びX線検出器は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
<実施例1、比較例1〜3サンプル作製>
(実施例1)
まず、BaF(形状:粉末、純度:99.99%以上)と、EuF(形状:粉末、純度:99.99%以上)とを原料として準備した。
【0042】
次に、BaFおよびEuFを秤量した。この際、BaF:EuF(モル比)を、87.5:12.5とした。
次に、秤量したBaFおよびEuFを、るつぼの中で混合し、真空ポンプで真空にした後CF(>99.99%)雰囲気とし、徐々に溶解させた後、徐々に冷却して、溶融凝固法により円板状の単結晶(実施例1サンプル)を作製した。
図1は、実施例1サンプルを示す写真である。
図1に示すように、実施例1サンプルの単結晶の直径は4cmであった。また、厚さは0.5cmであった。
【0043】
実施例1サンプルの粉末X線回折測定をしたところ、単相であり、Ba0.875Eu0.1252.125(仕込み組成)で表されると同定された。なお、以下、これを単にBaEuFと記載する場合がある。また、残留するBaFおよびEuFがないことも確認された。
【0044】
次に、得られた単結晶から1.5×1.5×4.5mmの大きさの試料を切り出した。
次に、切り出した試料の全面を鏡面研磨して、特性評価用の実施例1サンプルとした。
【0045】
(比較例1〜3)
従来のシンチレータ材料であるBGO(比較例1サンプル)、PET用シンチレータ材料であるLGSO(比較例2サンプル)、LYSO(比較例3サンプル)を準備し、実施例1と同様に、1.5×1.5×4.5mmの大きさの試料を切り出してから、切り出した試料の全面を鏡面研磨して、それぞれ特性評価用の比較例1〜3サンプルとした。
【0046】
<実施例1、比較例1〜3サンプルの特性評価>
次に、実施例1サンプルの透過スペクトルを測定した。
図2は、実施例1サンプルの透過スペクトルを示すグラフである。
400〜1800nmの波長領域で約90%の透過率(transmittance)であった。可視光から近赤外の領域の光の透過率が高かった。
【0047】
次に、実施例1、比較例3サンプルのUV光励起の発光スペクトル(励起波長は実施例1:391nm、比較例3:358nm)を測定した。
図3は、実施例1、比較例3サンプルの発光スペクトルである。
LYSO(比較例3サンプル)が410nmの発光ピーク波長を有する青〜紫色の発光を示したのに対し、実施例1サンプルは、700nm付近の第1の発光ピーク波長、590nm付近の第2の発光ピーク波長、690nm付近の第3の発光ピーク波長、620nm付近の第4の発光ピーク波長及び645nm付近の第5の発光ピーク波長を有する赤色の発光を示した。
【0048】
次に、実施例1サンプルのX線励起の発光スペクトルを測定した。ターゲットとしてCuを用い、100mAの条件とした。
図4は、実施例1サンプルのX線励起の発光スペクトルを示すグラフである。
Ba0.875Eu0.1252.125(実施例1サンプル)は、595nm付近の第1の発光ピーク波長、702nm付近の第2の発光ピーク波長、624nm付近の第3の発光ピーク波長、694nm付近の第4の発光ピーク波長及び655nm付近の第5の発光ピーク波長を有する赤色の発光を示した。
【0049】
次に、実施例1、比較例1〜3サンプルにそれぞれ表3に示す所定の励起波長を照射し、得られた発光の光強度と、照射した励起光の光強度の比から、各サンプルの量子効率を算出した。
実施例1、比較例1〜3サンプルの量子効率は、表1に示す結果となった。実施例1サンプル(BaEuF)の量子効率が0.943と最も良かった。
【0050】
【表1】
【0051】
図5は、Siフォトダイオードの量子効率(Quantum Efficiency)及び反射率(Reflectance)の一例を示すグラフである。
波長350nmで約42%の反射率は、長波長化するに従い、減少し、610nmでほぼ0%の反射率となった。さらに長波長化すると、増加し、1100nmで約18%の反射率となった。
量子効率は、波長350nmで約50%であり、長波長化するに従い、増加し、640nmで約95%となった。さらに長波長化すると、減少し、1100nmで約5%となった。
【0052】
よって、図3、4に示したように、実施例1サンプル(BaEuF)は、Siフォトダイオードの反射率がほぼ0%で、量子効率が90%以上である580nm〜710nmの波長領域で発光するので、実施例1サンプル(BaEuF)とSiフォトダイオードを組み合わせることにより、実施例1サンプル(BaEuF)で発光した光をSiフォトダイオードで高効率に電気に変換させることができ、高感度のX線検出器とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のシンチレータ材料は、X線検出器のシンチレータであるCWOの安全な代替物質となり、X線異物検出機及びX線CT等のX線検出器に応用でき、放射線技術産業等において利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5