特許第6021148号(P6021148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6021148LST−1及び/又はLST−2によって輸送される化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021148
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】LST−1及び/又はLST−2によって輸送される化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/20 20060101AFI20161027BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20161027BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20161027BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161027BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20161027BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   A61K47/20
   A61K47/22
   A61K49/00
   A61P35/00
   A61K45/00
   A61P1/16
【請求項の数】10
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2012-197554(P2012-197554)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-51463(P2014-51463A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(72)【発明者】
【氏名】阿部 高明
(72)【発明者】
【氏名】水井 佳治
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−067563(JP,A)
【文献】 特開2005−287353(JP,A)
【文献】 Br. J. Cancer,1986年,Vol.54,p.257-263
【文献】 Gastroenterology,2001年,Vol.120,p.1689-1699
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(3)のいずれかに示される、LST−1及び/又はLST−2を介して輸送される化合物を含む癌細胞又は肝細胞検出用プローブ
(1)LST−2を介して輸送される、以下の一般式で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸を含む癌細胞検出用プローブ;
【化1】

(2)LST−1を介して輸送される、以下の一般式で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドを含む肝細胞検出用プローブ;
【化2】

(3)LST−1及びLST−2を介して輸送される、以下の一般式で表される3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸を含む癌細胞又は肝細胞検出用プローブ;
【化3】
【請求項2】
化合物が、検出可能なマーカーで標識されている、請求項1記載の癌細胞又は肝細胞検出用プローブ。
【請求項3】
癌が、乳癌、胆管癌、肝癌、脳腫瘍、胃癌、大腸癌、又は膵臓癌である、請求項1又は2記載の癌細胞又は肝細胞検出用プローブ。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の癌細胞又は肝細胞検出用プローブを備える、癌細胞又は肝細胞検出用キット。
【請求項5】
以下の(1’)〜(3’)のいずれかに示される、LST−1及び/又はLST−2を介して輸送される化合物を含む、癌細胞又は肝細胞に薬物を送達するための薬物担体
(1’)LST−2を介して輸送される、以下の一般式で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸を含む癌細胞に薬物を送達するための薬物担体;
【化4】

(2’)LST−1を介して輸送される、以下の一般式で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドを含む肝細胞に薬物を送達するための薬物担体;
【化5】

(3’)LST−1及びLST−2を介して輸送される、以下の一般式で表される3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸を含む癌細胞又は肝細胞に薬物を送達するための薬物担体;
【化6】
【請求項6】
癌細胞に送達するための薬物が、抗癌剤である、請求項記載の薬物担体。
【請求項7】
癌が、乳癌、胆管癌、肝癌、脳腫瘍、胃癌、大腸癌、又は膵臓癌である、請求項5又は6記載の薬物担体。
【請求項8】
肝細胞に送達するための薬物が、肝臓疾患治療用薬物である、請求項記載の薬物担体。
【請求項9】
肝臓疾患が、ウィルス性急性肝炎、ウィルス性劇症肝炎、ウィルス性慢性肝炎、ウィルス性肝硬変、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、又はアルコール性肝硬変である、請求項記載の薬物担体。
【請求項10】
請求項5、8及び9のいずれかに記載の薬物担体と、肝臓疾患治療用薬物とを含む、肝臓疾患治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LST−1やLST−2を介して輸送される化合物を含む癌細胞検出用又は肝細胞検出用プローブや、かかる化合物を含む癌細胞又は肝細胞に薬物を送達するための薬物担体等に関する。
【背景技術】
【0002】
LST(liver-specific organic anion transporter)−1、及びLST−2は、有機アニオントランスポーターファミリーに含まれるタンパク質であり、内因性や外因性の様々な有機アニオンの輸送に関与することが知られている。LST−1とLST−2は、ともに正常な生体内においては肝臓に特異的に発現しているが、LST−2の発現量は、LST−1と比較してわずかであり、LST−1の数十分の1程度であることが明らかにされている。また、LST−2は、大腸癌、肝癌、胆管、胆のう癌、膵癌、胃癌などの様々な消化器癌組織において、高発現していることが知られている(特許文献1及び2、非特許文献1)。
【0003】
LST−1とLST−2の共通の輸送基質としては、胆汁酸等が知られている。また、LST−2は、抗がん剤であるメトトレキサート(MTX)の輸送に深く関与することが明らかにされており、LST−2発現細胞ではMOCK細胞に比べて有意にMTXの取り込みが増加し、さらに、MTXに対する感受性も有意に増加することが報告されている(特許文献1及び2、非特許文献1)。
【0004】
上述のように、LST−1は正常な肝臓に局在しており、また、LST−2は癌細胞に局在していることから、LST−1やLST−2の輸送基質は、肝細胞又は癌細胞を検出するためのプローブや、様々な薬物を肝細胞又は癌細胞に送達するための薬物担体などに有効に利用できると考えられる。しかし、LST−1やLST−2の基質については不明な点が多く残されており、プローブや薬物担体として使用可能なLST−1やLST−2の輸送基質はこれまでに明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−67563
【特許文献2】特開2005−287353
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takaaki, Abe, et al., Gastroenterology, (2001), 120, 1689-1699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の課題は、LST−1やLST−2によって輸送される化合物を同定し、該化合物を利用した癌細胞検出用又は肝細胞検出用プローブや、該化合物を含む癌細胞又は肝細胞に薬物を送達するための薬物担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、LST−1やLST−2によって輸送される化合物を同定するために、約30000種のアニオン性化合物を含む化合物ライブラリーを用いてスクリーニングを行った。具体的には、本発明者はまず、化合物ライブラリーの中から化合物の構造に基づいて5097種の化合物を選択し、さらに、LST−1又はLST−2発現細胞を用いた胆汁酸取込み阻害試験を行うことによって、5097種の化合物の中からLST−1やLST−2によって輸送される化合物の候補となる16種の化合物を同定した。この16種の化合物による胆汁酸取込み阻害作用についてさらに詳細な実験を行い、最終的に、LST−02(2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸;CID6612358)、LST−04(7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミド;CID4415069)、LST−01(3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミド;CID3877179)、LST−03(3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸;CID53555)の4種の化合物が、LST−1やLST−2によって輸送されることを明らかにした。
続いて、本発明者は、上記4種の化合物について、細胞毒性試験、細胞取り込み試験等を行い、これらの化合物がいずれも細胞毒性の低い化合物であることを確認し、さらに、LST−02がLST−2に特異的な輸送基質であること、LST−01がLST−1に特異的な輸送基質であること、LST−03がLST−1及びLST−2の両方の輸送基質であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)LST−1及び/又はLST−2を介して輸送される化合物を含む癌細胞検出用プローブであって、前記化合物が、以下の一般式(I)〜(IV)で表される化合物からなる群より選択される1種又は2種以上である、癌細胞検出用プローブや、
一般式(I);
【0010】
【化1】
【0011】
[式中、R、Rは、同一又は相異なってもよく、水酸基、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されたフェニル基、若しくはナフチル基を表し、Wは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルカリ金属原子、若しくは4級アンモニウムカチオンを表す。]
一般式(II);
【0012】
【化2】
【0013】
[式中、Rは、前記と同じ意味を表し、R、Rは、同一又は相異なってもよく、炭素数1〜3のアルキル基を表し、若しくは、R及びRは、窒素原子と一緒になって形成された5〜7員環の含窒素複素環を形成していてもよい。]
一般式(III);
【0014】
【化3】
【0015】
[式中、R、R、Rは、前記と同じ意味を表す。]
一般式(IV);
【0016】
【化4】
【0017】
[式中、W、Rは、前記と同じ意味を表し、Rは、窒素原子が結合手を持つ5員環の含窒素芳香族環を表す。]
(2)化合物が、以下の一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸である、上記(1)記載の癌細胞検出用プローブや、
一般式(I’);
【0018】
【化5】
【0019】
(3)化合物が、以下の一般式(II’)で表される7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミドである、上記(1)記載の癌細胞検出用プローブや、
一般式(II’);
【0020】
【化6】
【0021】
(4)化合物が、以下の一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドである、上記(1)記載の癌細胞検出用プローブや、
一般式(III’);
【0022】
【化7】

【0023】
(5)化合物が、以下の一般式(IV’)で表され3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸である、上記(1)記載の癌細胞検出用プローブや、
一般式(IV’);
【0024】
【化8】
【0025】
(6)化合物が、検出可能なマーカーで標識されている、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の癌細胞検出用プローブや、(7)癌が、乳癌、胆管癌、肝癌、脳腫瘍、胃癌、大腸癌、又は膵臓癌である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の癌細胞検出用プローブや、(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の癌細胞検出用プローブを備える、癌細胞検出用キットに関する。
【0026】
また本発明は、(9)LST−1及び/又はLST−2を介して輸送される化合物を含む、癌細胞に薬物を送達するための薬物担体であって、前記化合物が、以下の一般式(I)〜(IV)で表される化合物からなる群より選択される1種又は2種以上である、薬物担体や、
一般式(I);
【0027】
【化9】
【0028】
[式中、R、Rは、同一又は相異なってもよく、水酸基、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されたフェニル基、若しくはナフチル基を表し、Wは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルカリ金属原子、若しくは4級アンモニウムカチオンを表す。]
一般式(II);
【0029】
【化10】
【0030】
[式中、Rは、前記と同じ意味を表し、R、Rは、同一又は相異なってもよく、炭素数1〜3のアルキル基を表し、若しくは、R及びRは、窒素原子と一緒になって形成された5〜7員環の含窒素複素環を形成していてもよい。]
一般式(III);
【0031】
【化11】
【0032】
[式中、R、R、Rは、前記と同じ意味を表す。]
一般式(IV);
【0033】
【化12】
【0034】
[式中、W、Rは、前記と同じ意味を表し、Rは、窒素原子が結合手を持つ5員環の含窒素芳香族環を表す。]
(10)化合物が、以下の一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸である、上記(9)記載の薬物担体や、
一般式(I’);
【0035】
【化13】
【0036】
(11)化合物が、以下の一般式(II’)で表される7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミドである、上記(9)記載の薬物担体や、
一般式(II’);
【0037】
【化14】
【0038】
(12)化合物が、以下の一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドである、上記(9)記載の薬物担体や、
一般式(III’);
【0039】
【化15】
【0040】
(13)化合物が、以下の一般式(IV’)で表され3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸である、上記(9)記載の薬物担体や、
一般式(IV’);
【0041】
【化16】
【0042】
(14)薬物が、抗癌剤である、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の薬物担体や、(15)癌が、乳癌、胆管癌、肝癌、脳腫瘍、胃癌、大腸癌、又は膵臓癌である、上記(9)〜(14)のいずれかに記載の薬物担体や、(16)上記(9)〜(15)のいずれかに記載の薬物担体と抗癌剤とを含む、癌治療剤に関する。
【0043】
さらに本発明は、(17)LST−1及び/又はLST−2を介して輸送される化合物を含む肝細胞検出用プローブであって、前記化合物が、以下の一般式(I)〜(IV)で表される化合物からなる群より選択される1種又は2種以上である、肝細胞検出用プローブや、
一般式(I);
【0044】
【化17】
【0045】
[式中、R、Rは、同一又は相異なってもよく、水酸基、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されたフェニル基、若しくはナフチル基を表し、Wは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルカリ金属原子、若しくは4級アンモニウムカチオンを表す。]
一般式(II);
【0046】
【化18】
【0047】
[式中、Rは、前記と同じ意味を表し、R、Rは、同一又は相異なってもよく、炭素数1〜3のアルキル基を表し、若しくは、R及びRは、窒素原子と一緒になって形成された5〜7員環の含窒素複素環を形成していてもよい。]
一般式(III);
【0048】
【化19】
【0049】
[式中、R、R、Rは、前記と同じ意味を表す。]
一般式(IV);
【0050】
【化20】
【0051】
[式中、W、Rは、前記と同じ意味を表し、Rは、窒素原子が結合手を持つ5員環の含窒素芳香族環を表す。]
(18)化合物が、以下の一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸である、上記(17)記載の肝細胞検出用プローブや、
一般式(I’);
【0052】
【化21】
【0053】
(19)化合物が、以下の一般式(II’)で表される7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミドである、上記(17)記載の肝細胞検出用プローブや、
一般式(II’);
【0054】
【化22】
【0055】
(20)化合物が、以下の一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドである、上記(17)記載の肝細胞検出用プローブや、
一般式(III’);
【0056】
【化23】

【0057】
(21)化合物が、以下の一般式(IV’)で表され3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸である、上記(17)記載の肝細胞検出用プローブや、
一般式(IV’);
【0058】
【化24】
【0059】
(22)化合物が、検出可能なマーカーで標識されている、上記(17)〜(21)のいずれかに記載の肝細胞検出用プローブや、(23)上記(17)〜(22)のいずれかに記載の肝細胞検出用プローブを備える、肝細胞検出用キットに関する。
【0060】
また本発明は、(24)LST−1及び/又はLST−2を介して輸送される化合物を含む、肝細胞に薬物を送達するための薬物担体であって、前記化合物が、以下の一般式(I)〜(IV)で表される化合物からなる群より選択される1種又は2種以上である、薬物担体や、
一般式(I);
【0061】
【化25】
【0062】
[式中、R、Rは、同一又は相異なってもよく、水酸基、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されたフェニル基、若しくはナフチル基を表し、Wは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルカリ金属原子、若しくは4級アンモニウムカチオンを表す。]
一般式(II);
【0063】
【化26】
【0064】
[式中、Rは、前記と同じ意味を表し、R、Rは、同一又は相異なってもよく、炭素数1〜3のアルキル基を表し、若しくは、R及びRは、窒素原子と一緒になって形成された5〜7員環の含窒素複素環を形成していてもよい。]
一般式(III);
【0065】
【化27】
【0066】
[式中、R、R、Rは、前記と同じ意味を表す。]
一般式(IV);
【0067】
【化28】
【0068】
[式中、W、Rは、前記と同じ意味を表し、Rは、窒素原子が結合手を持つ5員環の含窒素芳香族環を表す。]
(25)化合物が、以下の一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸である、上記(24)記載の薬物担体や、
一般式(I’);
【0069】
【化29】
【0070】
(26)化合物が、以下の一般式(II’)で表される7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミドである、上記(24)記載の薬物担体や、
一般式(II’);
【0071】
【化30】
【0072】
(27)化合物が、以下の一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドである、上記(24)記載の薬物担体や、
一般式(III’);
【0073】
【化31】

【0074】
(28)化合物が、以下の一般式(IV’)で表され3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸である、上記(24)記載の薬物担体や、
一般式(IV’);
【0075】
【化32】
【0076】
(29)薬物が、肝臓疾患治療用薬物である、上記(24)〜(28)のいずれかに記載の薬物担体や、(30)肝臓疾患が、ウィルス性急性肝炎、ウィルス性劇症肝炎、ウィルス性慢性肝炎、ウィルス性肝硬変、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、又はアルコール性肝硬変である、上記(24)〜(29)のいずれかに記載の薬物担体や、(31)上記(24)〜(30)のいずれかに記載の薬物担体と、肝臓疾患治療用薬物とを含む、肝臓疾患治療剤に関する。
【発明の効果】
【0077】
LST−2に特異的な輸送基質であるLST−02は、癌検出用のプローブや、癌治療用の薬物担体として利用することができ、また、LST−1に特異的な輸送基質であるLST−01は、肝細胞検出用のプローブや、肝臓病治療用の薬物担体として利用することができる。本発明によれば、安全且つ効率的な癌又は肝臓疾患の診断・治療等が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】LST−1又はLST−2発現細胞における、ER−068934、ER−215710−90、ER−046003(LST−02)、ER−021157、ER−196967−90、及びER−150300−90(LST−01)の胆汁酸輸送阻害率を調べた結果を示す図である。
図2】LST−1又はLST−2発現細胞における、ER−806666−00、ER−251388−90、ER−276967−90、ER−212177−90(LST−04)、ER−304662−90、及びER−305664−90の胆汁酸輸送阻害率を調べた結果を示す図である。
図3】LST−1又はLST−2発現細胞における、ER−224756−90、ER−070358(LST−03)、ER−186382−90、及びER−250218−90の胆汁酸輸送阻害率を調べた結果を示す図である。
図4】LST−1又はLST−2発現細胞における、LST−03及びLST−01の胆汁酸輸送阻害率を調べた結果を示す図である。図中、「ER−070358」は、LST−03(3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸;CID53555)を示し、「ER−150300−90」はLST−01(3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミド;CID3877179)を示す。
図5】LST−1又はLST−2発現細胞における、LST−02及びLST−04の胆汁酸輸送阻害率を調べた結果を示す図である。図中、「ER−046003」は、LST−02(2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸;CID6612358)を示し、「ER−212177−90」は、LST−04(7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミド;CID4415069)を示す。
図6】LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03の細胞毒性について調べた結果を示す図である。図中、「MTX」はメトトレキセートを、「E1」はLST−02(2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸;CID6612358)を、「E2」はLST−04(7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミド;CID4415069)を、「E3」はLST−01(3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミド;CID3877179)を、「E4」はLST−03(3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸;CID53555)をそれぞれ示す。また、図の縦軸は、各化合物の0.00003μM添加区における生細胞数を100としたときの、0.0001〜100μM添加区における生細胞数を示し、図の横軸は、それぞれの化合物の添加濃度を示す。
図7】LST−1又はLST−2発現細胞による、LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03の取込みついて調べた結果を示す図である。図中、「ER−046003」はLST−02を、「ER−212177−90」はLST−04を、「ER−150300−90」はLST−01を、「ER−070358」はLST−03をそれぞれ示し、また、「OATP1B1」はLST−1発現細胞を、「OATP1B3」はLST−2発現細胞をそれぞれ示す。
図8】LST−1(OATP1B1)発現細胞における、LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03の胆汁酸取込み阻害作用について調べた結果を示す図である。図中、「ER−046003」はLST−02を、「ER−212177−90」はLST−04を、「ER−150300−90」はLST−01を、「ER−070358」はLST−03をそれぞれ示し、また、「OATP1B1−5」及び「2naiOATP1B3」は、同一のLST−1遺伝子を導入した異なる細胞株をそれぞれ示す。図の縦軸は、Mock細胞におけるCDCA−NBDの蛍光強度を100としたときの、OATP1B1−5細胞又は2naiOATP1B3細胞におけるCDCA−NBDの蛍光強度を示し、図の横軸は、化合物による処理時間(分)を示す。
図9】LST−2(OATP1B3)発現細胞における、LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03の胆汁酸取込み阻害作用について調べた結果を示す図である。図中、「ER−046003」はLST−02を、「ER−212177−90」はLST−04を、「ER−150300−90」はLST−01を、「ER−070358」はLST−03をそれぞれ示す。図の縦軸は、Mock細胞におけるCDCA−NBDの蛍光強度を100としたときの、LST−2(OATP1B3)細胞におけるCDCA−NBDの蛍光強度を示し、図の横軸は、化合物による処理時間(分)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明の癌細胞検出用プローブ(以下、かかるプローブを「癌用プローブ」と記載する場合がある)としては、以下の一般式(I)〜(IV)で表される化合物からなる群より選択される1種又は2種以上の、LST−1及び/又はLST−2を介して輸送される化合物(以下、これらの化合物を「本化合物」と総称する場合がある)を含むものであれば特に制限されず、また、本発明の癌細胞に薬物を送達するための薬物担体(以下、かかる薬物担体を「癌用薬物担体」と記載する場合がある)としては、本化合物を含むものであれば特に制限されないが、上記本発明の癌用プローブ又は癌用薬物担体は、「LST−2を介して輸送される化合物」を含むものであることが特に好ましく、上記「LST−2を介して輸送される化合物」としては、具体的には、以下の一般式(I)で表されるLST−2を介して輸送される化合物を好適に例示することができる。
【0080】
さらに、本発明の肝細胞検出用プローブ(以下、かかるプローブを「肝用プローブ」と記載する場合がある)としては、本化合物を含むものであれば特に制限されず、また、本発明の肝細胞に薬物を送達するための薬物担体(以下、かかる薬物担体を「肝用薬物担体」と記載する場合がある)としては、本化合物を含むものであれば特に制限されないが、上記本発明の肝用プローブ又は肝用薬物担体は、「LST−1を介して輸送される化合物」を含むものであることが特に好ましく、上記「LST−1を介して輸送される化合物」としては、具体的には、以下の一般式(III)で表されるLST−1を介して輸送される化合物を好適に例示することができる。
一般式(I);
【0081】
【化33】
【0082】
[式中、R、Rは、同一又は相異なってもよく、水酸基、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基で置換されたフェニル基、若しくはナフチル基を表し、Wは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アルカリ金属原子、若しくは4級アンモニウムカチオンを表す。]
一般式(II);
【0083】
【化34】
【0084】
[式中、Rは、前記と同じ意味を表し、R、Rは、同一又は相異なってもよく、炭素数1〜3のアルキル基を表し、若しくは、R及びRは、窒素原子と一緒になって形成された5〜7員環の含窒素複素環を形成していてもよい。]
一般式(III);
【0085】
【化35】
【0086】
[式中、R、R、Rは、前記と同じ意味を表す。]
一般式(IV);
【0087】
【化36】
【0088】
[式中、W、Rは、前記と同じ意味を表し、Rは、窒素原子が結合手を持つ5員環の含窒素芳香族環を表す。]
【0089】
上記「一般式(I)で表される化合物」としては、特に制限されないが、例えば、以下の一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸を好適に例示することができる。
一般式(I’);
【0090】
【化37】
【0091】
また、上記「一般式(II)で表される化合物」としては、特に制限されないが、例えば、以下の一般式(II’)で表される7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミドを好適に例示することができる。
一般式(II’);
【0092】
【化38】
【0093】
さらに、上記「一般式(III)で表される化合物」としては、特に制限されないが、例えば、以下の一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドを好適に例示することができる。
一般式(III’);
【0094】
【化39】
【0095】
また、上記「一般式(IV)で表される化合物」としては、特に制限されないが、例えば、以下の一般式(IV’)で表され3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸を特に好適に例示することができる。
一般式(IV’);
【0096】
【化40】
【0097】
これらの化合物の合成法としては、以下の例に挙げることができるが、これらの方法に限られず、一般的に知られている合成法を用いることができる。また、以下に挙げた化合物は、シグマ−アルドリッチ社、東京化成、和光純薬、関東化学などで入手可能である。また、反応溶媒、反応温度に関して特に記載のない場合は、通常その反応に利用される溶媒、温度で反応が行われる。また、反応は、アルゴン若しくは乾燥させた窒素雰囲気下で行われる。
【0098】
上記一般式(I’)で表される、2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸は、以下の方法により合成することができる。
2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸は、4−メチルチオフェン−2−カルボン酸を出発物質として合成することができる。まず、4−メチルチオフェン−2−カルボン酸を対応するメチルエステル1へと誘導化する。このエステル化は、メタノール中の4−メチルチオフェン−2−カルボン酸に酸触媒を作用させることで行う。この反応では酸触媒として、硫酸、トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸等の、硫酸及びその誘導体を用いることができる。メチルエステル1をN−ブロモスクシンイミド(以下NBS)を作用させることで、チオフェン骨格が臭素化された2を得る。得られた2に対して、パラジウム触媒を用いたカップリング反応より、カップリング体3を得る。カップリング反応としては、Heck反応、鈴木カップリング、Stilleカップリング反応等を利用できる。再度、3に対してNBSを作用させることで、4位のメチル基を臭素化した4を得る。4の臭素原子とニトリル基との求核置換反応を行うことで、ニトリル置換体5を得る。このとき用いることのできる求核剤としては、シアン化リチウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等を用いることができる。反応性を増すために、溶媒は非プロトン性の極性溶媒を用いることが好ましいが、これに限られない。このニトリル置換体5のメチルエステル部分を塩基条件で加水分解し、カルボン酸部位をもつ6を得る。ここで塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどを用いることができる。カルボン酸6とフェニルアミンとをアミド化することで、アミド7を得る。アミド化剤としては、カルボジイミド系の脱水剤やヒドロキシトリアゾール系の脱水剤を用いると良い。7のニトリル部位を無水メタノール中、塩化水素を作用させることでメチルエステルへと変換し、得られたメチルエステル体8を加水分解することで、目的の2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸の合成を達成する。ここで用いられる加水分解反応としては、上記に示した塩基条件での加水分解反応を用いることができる。
【0099】
【化41】
【0100】
上記一般式(II’)で表される、7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミドは、以下の方法により合成することができる。
7−ニトロ−1H−インドール−2−カルボン酸と2−モルホリノエチルアミンとをアミド化することで9を得る。9のニトロ基をアミノ基へと還元した10と4−メトキシベンゼンスルホニルクロリドと反応させ、スルホンアミドとすることで7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミドを合成することができる。
ニトロ基の還元条件としては、水素雰囲気下、パラジウム/炭素を用いることで還元を行うことができる。アミド化の条件としては上述の条件を用いることができる。また、スルホンアミドは対応するスルホニルクロリドとアミンとを塩基条件下で混合することで容易に合成でき、このとき塩基としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(ヒューニッヒ塩基)等のトリアルキルアミンを用いることができる。
【0101】
【化42】
【0102】
上記一般式(III’)で表される、3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドは、以下の方法により合成することができる。
4−アミノ−3-メチル安息香酸メチルをジアゾニウム塩11に変換し、このジアゾニウム塩に二酸化硫黄を作用させることで対応するスルホン酸塩化物12を得る。ジアゾニウム塩への変換方法としてはGriess法を用いることができ、ジアゾニウム塩からスルホン酸塩化物を得るにはSandmeyer反応を用いることができる。スルホン酸塩化物12とフェニルアミンとを硫酸アミド化とすることで13を得る。アミド化の条件としては、塩基条件下12とフェニルアミンとを反応させればよく、ここで用いられる塩基としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(ヒューニッヒ塩基)等のトリアルキルアミン及びピリジン及びその誘導体等を用いることが出来る。硫酸アミド13のメチルエステル部位を加水分解することで、カルボン酸14を得ることができ、これをアミド化することで3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドを合成することができる。加水分解、アミド化の条件としては上述の条件を用いることができる。
【0103】
【化43】
【0104】
上記一般式(IV’)で表される、3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸は、以下の方法により合成することができる。
2−メチルインドール−3−カルボン酸エチルエステルを還元することで、アルコール体15を得る。このとき還元剤と溶媒の組み合わせとしては、リチウムアルミニウムヒドリド/THF、ジイソブチルアルミニウムヒドリド/ジクロロメタン等が用いられる。15に対して、トリフェニルホスフィン存在下でNBSを作用させることで、水酸基を臭素へ置換し16を合成する。16に対して、塩基存在下、塩化t−ブトキシカルボニルを反応させることで、インドールの窒素を保護した後に、保護体17の臭素とイミダゾールを置換することで、18を得る。求核置換反応は、THF若しくはN,N−ジメチルホルムアミド中でイミダゾールの窒素上の水素原子を水素化ナトリウムを用いてナトリウムと置換した後に、17と反応させることで目的の置換体18を得る。続いて、インドール骨格の窒素上の保護基を塩酸ジオキサン溶液(無水)を用いて除去し19とする。3−ブロモプロピオン酸から合成した3−ブロモプロピオン酸t−ブチルエステルと19との置換反応を、先の17とイミダゾールとの置換反応と同様に行い20を合成した後に、エステル部分のt−ブチル基を塩酸ジオキサン溶液(無水)を用いて除去することで、目的の3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸を合成することができる。
【0105】
【化44】

【0106】
上記本化合物の中でも、上記一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸は、「LST−2を介して輸送される化合物」として、本発明の癌用プローブ又は癌用薬物担体に特に好適に使用することができる。後述の実施例に記載の実験結果により、上記一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸は、LST−2により輸送され、且つ、LST−1により輸送されない化合物であること、また、その細胞毒性は極めて低いことが示されている。このような結果は、上記一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸が、細胞毒性の少ない、LST−2に特異的な輸送基質として利用できることを明確に示唆するものである。また、乳癌においては、LST−2がエストロン硫酸を輸送して癌の発育に関与していることが知られていることから、上記一般式(I’)で表される2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸は、それ自体を抗癌剤として利用できる可能性がある。
【0107】
また、上記本化合物の中でも、上記一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドは、「LST−1を介して輸送される化合物」として、本発明の肝用プローブ又は肝用薬物担体に特に好適に使用することができる。後述の実施例に記載の実験結果により、上記一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドは、LST−1により輸送され、且つ、LST−2により輸送されない化合物であること、また、その細胞毒性は極めて低いことが示されている。このような結果は、上記一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドは、細胞毒性の少ない、LST−1に特異的な輸送基質として利用できることを明確に示唆するものである。また、上記一般式(III’)で表される3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミドは、肝臓の残存機能を測るプローブとしても利用できる可能性がある。
【0108】
上記本発明の癌用プローブ又は肝用プローブは、検出可能なマーカーで標識された本化合物を含むものであってもよく、上記検出可能なマーカーとしては、従来知られている化合物標識用のマーカーであれば特に制限されるものではないが、例えば、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、82Rb、H、14C、125I等の放射性同位体や、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質や、ビオチン、ジゴキシゲニンのような生物学的に関連する結合構造や、生物発光化合物や、化学発光化合物や、金属キレート等を具体的に挙げることができる。中でも、11C、13N、15O、18F、62Cu、68Ga、82Rb等の放射性同位体で標識された本化合物は、陽電子放射断層撮影(PET)用の癌用プローブ又は肝用プローブとして特に好適に使用することができる。また、上記本発明の癌用プローブ又は肝用プローブは、インビボ及びインビトロのどちらにおいても使用することができる。
【0109】
上記本発明の癌用プローブは、LST−1又はLST−2を発現する癌細胞であればどのような癌細胞の検出においても使用することができるが、中でも、乳癌、胆管癌、肝癌、脳腫瘍、胃癌、大腸癌、膵臓癌等のLST−2を高発現する癌細胞の検出に使用することが特に好ましい。
【0110】
本発明の癌細胞検出用キット(以下、かかるキットを「癌用キット」と記載する場合がある)は、上記本発明の癌用プローブを備えたものであれば特に制限されないが、上記検出可能なマーカーで標識された本化合物を含む癌用プローブを備えたものであることが好ましく、また、本発明の肝細胞検出用キット(以下、かかるキットを「肝用キット」と記載する場合がある)は、上記本発明の肝用プローブを備えるものであれば特に制限されないが、上記検出可能なマーカーで標識された本化合物を含む肝用プローブを備えたものであることが好ましい。また、本発明の癌用キット又は肝用キットは、試料を調製するための緩衝液等や、上記検出可能なマーカーを検出するための、基質、発色剤、蛍光剤、発光剤等をさらに含むものであってもよい。
【0111】
上記本発明の癌用薬物担体によって送達される薬物は抗癌剤であることが好ましく、上記抗癌剤としては特に制限されないが、具体的には、例えば、メトトレキサート、ミトキサントロン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビスアントレン、エトポシド、ゲフィチニブ、イマチニブ、イリノテカン、トポテカン、SN−38、フラボピリドール、CI1033、タモキシフェン等を好適に挙げることができる。また、本発明の癌用薬物担体は、LST−1又はLST−2を発現する癌細胞であればどのような癌細胞であっても薬物を送達することができるが、中でも、乳癌、胆管癌、肝癌、脳腫瘍、胃癌、大腸癌、膵臓癌等のLST−2を高発現する癌細胞に薬物を送達するために使用することが特に好ましい。
【0112】
本発明の癌治療剤は、上記本発明の癌用薬物担体と、上記抗癌剤とを含むものであれば特に制限されないが、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等をさらに添加することができ、具体的には、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。
【0113】
上記本発明の肝用薬物担体によって送達される薬物は、肝臓疾患治療用薬物であれば特に制限されないが、具体的には、例えば、ラミブジン、アデフォビル、エンテカビル等の抗ウィルス薬や、プレドニゾロン等の副腎皮質ステロイドホルモンや、インターフェロン等を好適に挙げることができ、また、上記肝臓疾患としては、特に制限されないが、ウィルス性急性肝炎、ウィルス性劇症肝炎、ウィルス性慢性肝炎、ウィルス性肝硬変、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変等を好適に例示することができる。
【0114】
本発明の肝臓疾患治療剤は、上記本発明の肝用薬物担体と、上記肝臓疾患治療用薬物とを含むものであれば特に制限されるものではなく、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等をさらに添加することができ、具体的には、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。
【0115】
また、本発明の他の態様としては、上記本発明の癌治療剤を、癌の治療を必要とする患者に投与することにより、癌を治療する方法や、上記本発明の肝臓疾患治療剤を、肝臓疾患の治療を必要とする患者に投与することにより、肝臓疾患を治療する方法や、癌治療剤として使用のための本化合物や、肝臓疾患治療剤として使用のための本化合物や、癌治療剤を製造するための本化合物及び抗癌剤の使用や、肝臓疾患治療剤を製造のための本化合物及び肝臓疾患治療用薬物の使用を挙げることができる。
【0116】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0117】
[一次スクリーニング]
約30000種のアニオン性化合物を含む化合物ライブラリー(エーザイ社製)から、化合物の構造に基づいて5097種の化合物を選択し、これらの化合物のうち、LST−1及び/又はLST−2により基質として認識される化合物をスクリーニングした。具体的には、ヒト肝癌由来細胞株HepG2を4x10細胞/ウェル(90μL)で、polyD−lysineコートプレート(96ウェル)に播種して24時間培養し、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるLST−1(NCBIタンパク質アクセッション番号:NP_006437.3)を強制発現させるためのアデノウイルスベクター(以下、「LST−1発現ベクター」と記載する場合がある)、又は、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるLST−2(NCBIタンパク質アクセッション番号:NP_062818.1)を強制発現させるためのアデノウイルスベクター(以下、「LST−2発現ベクター」と記載する場合がある)を10μL(LST−1発現ベクター:250moi、LST−2発現ベクター:40moi)を添加した。さらに24時間培養した後に、培地を除去してKHバッファーで1回洗浄し、80μLのKHバッファーを添加して37℃で15分間インキュベートした。このようにして作製したLST−1又はLST−2過剰発現細胞に、上記5097種の化合物(50倍希釈化合物)と、30μMフルオレセイン標識胆汁酸とを10μLずつ添加し、37℃で20分間インキュベートした。氷冷KBバッファー(BSA入り)で反応を止めて、さらに氷冷KHバッファーで洗浄した後に、100μLのLysisバッファーで培養細胞を処理し、蛍光強度を測定した。
【0118】
化合物とフルオレセイン標識胆汁酸とを添加したときのLST−1過剰発現細胞の蛍光強度が、フルオレセイン標識胆汁酸のみを添加したときのLST−1過剰発現細胞による蛍光強度と比較して50%以上である場合、該化合物はLST−1による胆汁酸輸送を50%以上阻害しない化合物であると考えられる。また、化合物とフルオレセイン標識胆汁酸とを添加したときのLST−2過剰発現細胞の蛍光強度が、フルオレセイン標識胆汁酸のみを添加したときのLST−2過剰発現細胞による蛍光強度と比較して50%以下のである場合、該化合物はLST−2による胆汁酸輸送を50%以上阻害する化合物であると考えられる。一次スクリーニングの結果、実験に用いた5097種の化合物のうち、261種の化合物が、LST−1による胆汁酸輸送を50%以上阻害しない化合物であって、且つ、LST−2による胆汁酸輸送を50%以上阻害する化合物であることが明らかとなった。これらの261種の化合物は、LST−2の特異的に認識・輸送される基質の候補物質であると考えられた。表1に一次スクリーニングの結果を示す。
【0119】
【表1】
【実施例2】
【0120】
[二次スクリーニング]
一次スクリーニングにより、LST−2の特異的な輸送基質の候補物質として抽出された261種の化合物を、その構造に基づいてクラスタリングし、51のクラスターに分類した。各クラスターにおける代表的化合物を50種選択し(構造的に可能性の低いものはこの時点で選択しなかった)、二次スクリーニングに用いた。50種の化合物を様々な濃度に希釈して(2倍刻みで、4種類の濃度)、実施例1と同様の方法で胆汁酸輸送阻害率を測定し、候補物質をさらに16種の化合物に絞り込んだ。
【0121】
選択した16種の化合物の胆汁酸輸送阻害率を再度測定した。測定は、実施例1と同様の方法で行ったが、96ウェルプレートではなく、24ウェルェルプレートに播種した細胞を用いた。図1〜3に結果を示すように、16種の化合物のうち、LST−02(2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(フェニルカルバモイル)チオフェン−3−イル]酢酸;CID6612358)、LST−04(7−[(4−メトキシフェニル)スルホニルアミノ]−N−(2−モルホリン−4−イルエチル)−1H−インドール−2−カルボキシアミド;CID4415069)、LST−01(3−メチル−N−(2−メチルフェニル)−4−(フェニルスルファモイル)ベンズアミド;CID3877179)、LST−03(3−[3−(イミダゾール−1−イルメチル)−2−メチルインドール−1−イル]プロパン酸;CID53555)の4つの化合物が、特にLST−2に対して特異的な胆汁酸輸送阻害作用を示すことが明らかとなった。
【0122】
以上のようにして選択された4種の化合物(LST−02、LST−04、LST−01、LST−03)について、さらに再現実験を行った。実施例2と同様の実験を行った結果(n=2)、上記4種の化合物はいずれもLST−2に対して胆汁酸輸送阻害作用を示すことが確認された(図4及び5)。特に、LST−02は、LST−1に対しては胆汁酸輸送阻害作用を示さず、LST−2に対してのみ胆汁酸輸送阻害作用を示したことから、LST−02はLST−2に特異的な輸送基質である可能性が示唆された。一方、LST−01は、LST−1に対しても濃度依存的な胆汁酸輸送阻害作用が認められたことから、LST−01はLST−1に特異的な輸送基質である可能性が示唆された。また、LST−04及びLST−03は、LST−1及びLST−2の両方に対して、弱い胆汁酸輸送阻害作用を示したことから、これらの化合物はLST−1又はLST−2のどちらかに特異的な輸送基質ではないことが示唆された。
【実施例3】
【0123】
[細胞毒性試験]
実施例2により選択された4種の化合物(LST−02、LST−04、LST−01、LST−03)の細胞毒性を、生細胞数測定試薬(Cell Count Reagent SF;ナカライテスク株式会社製)を用いて測定した。
具体的には、対数増殖期にあるヒト大腸癌由来OATP1B3(LST−2)発現細胞株(ATCCより購入)を、5000細胞/ウェルの濃度になるように計数し、96ウェルマイクロタイタープレートに100μL/ウェルずつ播種し、炭酸ガスインキュベーター内で24時間前培養した。LST−02、LST−04、LST−01、LST−03、メトトレキセート(MTX)、及びDMSOを、最終濃度が0.00003μM〜100μMとなるように各ウェルに添加し、さらに、炭酸ガスインキュベーター内で48時培養した。培養後、Cell count regent SFを各ウェルに10μLずつ添加し、炭酸ガスインキュベーター内で1〜4時間呈色反応を行った。その後、マイクロプレートリーダーmodel550(Bio−Rad社製)を用いて、450nm(参照波長600nm以上)の吸光度を測定した。
【0124】
細胞毒性試験の結果を図6に示す。MTXはLST−2発現細胞に取り込まれ、0.01μMという低い濃度でも殺細胞効果を示したが、LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03はいずれも1μMの濃度でも殺細胞効果を示さなかった。これらの結果から、LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03は細胞毒性が少ない化合物であることが示唆された。特に、LST−02、LST−01、及びLST−03は、1μMでも殺細胞効果が認められなかったことから、極めて細胞毒性の少ない化合物であることが示唆された。
【実施例4】
【0125】
[細胞への取り込み実験]
上記4種の化合物(LST−02、LST−04、LST−01、LST−03)が、LST−1(以下、LST−1を「OATP1B1」と記載する場合がある)又はLST−2(以下、LST−2を「OATP1B3」と記載する場合がある)を発現する細胞に取り込まれるかどうかを確認した。
LST−1安定発現細胞、LST−2安定発現細胞、及びmock細胞に、LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03をそれぞれ10μM添加して、10分後に細胞を回収した。回収後の細胞を、氷冷した緩衝液で3回洗浄し、1mLの水に懸濁した。さらに、遠心分離して上清100μLを回収し、上清中に含まれるLST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03を、オンラインカラムスイッチングLC/MS/MS法を用いて定量した。
【0126】
前処理カラムとして、MAYI−ODS(G)カラム(10mm x 4.6mmi.d.,;島津製作所製)を使用し、前処理移動相として20mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH7.0)を5分間送液した。次いで、バルブを切り替えてカラムの先端に濃縮した化合物を分析カラム(YMC−Pack proC18、150×2.0mmi.d.)に通導した。LST−02、LST−04、及びLST−01の測定では、20mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH.7)/メタノール(7:3,v/v)を移動相として用いて分離し、LST−03の測定では、20mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH.7)/メタノール(1:1,v/v)移動相として用いて分離した。また、HPLCは、Nanospace SI−2(資生堂製)を、質量分析計は、API5000(アプライドバイオシステムズ社製)を使用した。LST−02、LST−04、及びLST−01は、正イオンモードにて、LST−03は負イオンモードにて測定を行った。LST−02、LST−04、LST−01、及びLST−03はそれぞれ、m/z368.4>m/z275.1、m/z459.5>m/z201、m/z381.5>m/z92.8、m/z282.3>m/z66.5をモニターする選択反応モニタリングにて定量を行った。
【0127】
質量分析の結果を図7に示す。LST−02の取込みは、LST−2発現細胞においてのみ認められ、LST−1発現細胞においては認められなかった。これに対し、LST−01の取込みは、LST−1発現細胞においてのみ認められ、LST−2発現細胞においては認められなかった。また、LST−03の取込みは、LST−1発現細胞及びLST−2発現細胞の両方においても認められた。さらに、LST−04の取込みは、LST−1発現細胞及びLST−2発現細胞のいずれにおいても認められなかった。これらの結果から、LST−02及びLST−01はそれぞれ、LST−2及びLST−1の特異的な輸送基質であること、また、LST−03はLST−2及びLST−1の両方の輸送基質であることが示唆された。
【実施例5】
【0128】
[胆汁酸輸送阻害試験]
LST−1(OATP1B1)安定発現細胞、LST−2(OATP1B3)安定発現細胞、及びmock細胞を用いて、上記4種の化合物(LST−02、LST−04、LST−01、LST−03)の胆汁酸輸送阻害作用を経時的に調べた。LST−1安定発現細胞、LST−2安定発現細胞、及びmock細胞を、96ウェルプレートに8x10細胞/ウェルとなるように播種して24時間培養した、その後、Hoechst33258によって核染色を行い、次いで、蛍光ラベルした0.1μM胆汁酸(CDCA−NBD)と、LST−02、LST−04、LST−01、又はLST−03を組み合わせて添加し、0、10、及び20分後の胆汁酸取込み量を測定した。測定は、IN CellAnalyzer 1000 Object Intensity Module(GEヘルスケア社製)を使用して行った。また、CDCA−NBDの測定は、励起波長460nm、蛍光波長535nmで行い、Hoechst33258の測定は、励起波長360nm、蛍光波長475nmで行った。
【0129】
図8及び9に、LST−1(OATP1B1)発現細胞、及びLST−2(OATP1B3)発現細胞を用いた胆汁酸輸送阻害試験の結果をそれぞれ示す。LST−1発現細胞における胆汁酸の取り込みは、LST−01により阻害されることが明らかとなった。一方、図9に示すように、LST−2発現細胞における胆汁酸の取り込みは、LST−02、LST−04、及びLST−03により阻害されることが明らかとなった。これらの化合物による胆汁酸取り込み阻害作用は、化合物の添加と同時に認められた。
【0130】
以上の結果から、LST−02はLST−2の特異的な輸送基質であり、また、LST−01はLST−1の特異的な輸送基質であることが示された。従って、LST−02及びLST−01は、特定の細胞を検出するためのプローブや、特定の細胞に薬物を送達するための薬物担体として利用することが可能である。
【実施例6】
【0131】
[化合物の合成]
LST−02及びLST−01をそれぞれ合成した。また、PET用プローブとして使用するために、LST−02のデスメチル体を合成した。具体的な合成方法は、以下に示す通りである。
【0132】
測定機器
H NMRはテトラメチルシラン(TMS)を内部標準(0.00ppm)として用い、Bruker Avance III 400MHz、Bruker Fourier 300MHz及び Varian III plus 300MHzを用いて測定した。
LCMSはAgilent LC/MSD 1200 Series
カラム:ODS2000(50×4.6mm,5μm)
イオン化モード:ES(+)または(−)
T=30℃; 流速=1.5mL/min
検出波長:214nm
又は、
カラム:Welchrom XB−C18(50×4.6mm,5μm)
イオン化モード:ES(+)または(−)
T=30℃; 流速=1.5mL/min
検出波長:214nm及び254nm
で測定した。
【0133】
[LST−02及びそのデスメチル体の合成]
1.4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチルの合成
【0134】
【化45】
【0135】
100mLのメタノールに4−メチルチオフェン−2−カルボン酸(5g,35.2mmol)と硫酸(6.9g,70.4mmol)とを混ぜ、80℃で4時間攪拌した。デカンテーションにより不溶物を取り除き、減圧下で溶液を濃縮した。濃縮後の残渣を酢酸エチルで抽出し、濃縮することで、4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチル(5.3g)を得た。
【0136】
2.5−臭化−4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチルの合成
【0137】
【化46】
【0138】
100mLのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に4−メチルチオフェン−2−カルボン酸(1g,6.41mmol)とN−ブロモスクシンイミド(NBS;1.36g,7.6mmol)とを混ぜ、65℃で4時間攪拌した。反応を、水を添加することで終結させ、混合溶液を酢酸エチルを用いて抽出した。有機層を硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、ろ過後、濃縮して5−臭化−4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチル(8.8g)を得た。
【0139】
3.5−(4−メトキシフェニル)−4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチルの合成
【0140】
【化47】
【0141】
80mLのジオキサンに5−臭化−4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチル(8.8g,37.44mmol),4−メトキシフェニルボロン酸(8.53g,56.17mmol),炭酸セシウム(24.4g,74.88mmol),及び二塩化パラジウム 1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン錯体(0.4g)とを混ぜ、60℃で2時間攪拌した。反応液をろ過した後に、減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、5−(4−メトキシフェニル)−4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチル(7.5g)を得た。
【0142】
4.4−ブロモメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸メチルの合成
【0143】
【化48】
【0144】
75mLの四塩化炭素に5−(4−メトキシフェニル)−4−メチルチオフェン−2−カルボン酸メチル(7.5g,28.6mmol),NBS(5.09g,28.6mmol),及びアゾビスイソブチロニトリル(1.5g)とを混ぜ、加熱還流下で2時間攪拌した。反応液をろ過した後に、減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、4−ブロモメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸メチル(11g)を得た。
【0145】
5.4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸メチルの合成
【0146】
【化49】
【0147】
100mLのDMFに4−ブロモメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸メチル(11g,32.2mmol)とシアン化ナトリウム(1.58g,32.0mmol)とを混ぜ、室温で一晩攪拌した。 反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後に、ろ過し、濃縮することで、4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸メチル(5.3g)を得た。
【0148】
6.4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸の合成
【0149】
【化50】
【0150】
100mLのTHF/水の混合溶媒に4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸メチル(5.3g,18.46mmol)と水酸化リチウム1水和物(1.55g,36.9mmol)とを混ぜ、50℃で2時間で攪拌した。反応混合物を濃縮し、1M塩酸を用いてpHを3〜5に調整した後に濾取することで、4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸(4.4g)を得た。
【0151】
7.[4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)(2−チエニル)]−N−ベンズアミドの合成
【0152】
【化51】
【0153】
50mLのDMFに4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)−チオフェン−2−カルボン酸(4.4g,16.11mmol),フェニルアミン(1.579g,16.92mmol),2−(1H−7−アザベンゾトリアゾール−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート(HATU:6.4g,16.92mmol),及びトリエチルアミン(3.25g,32.22mmol)を混ぜ、室温で1時間攪拌した。水で反応を停止した後、混合物を酢酸エチルで抽出した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、[4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)(2−チエニル)]−N−ベンズアミド(4.7g)を得た。
【0154】
8.2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸メチル
【0155】
【化52】
【0156】
100mLのメタノールに[4−シアノメチル−5−(4−メトキシフェニル)(2−チエニル)]−N−ベンズアミド(5.0g,13.12mmol)を混ぜ、室温で一晩攪拌した。この混合溶液を濃縮することで2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸メチル(4.4g)を得た。
【0157】
9.2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸(LST−02)
【0158】
【化53】
【0159】
50mLのTHF/水の混合溶媒に2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸メチル(2g,5.24mmol)と水酸化リチウム1水和物(0.44g,10.49mmol)とを混ぜ、50℃で2時間で攪拌した。反応混合物を濃縮し、1M塩酸を用いてpHを3〜5に調整した後に濾取することで、2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸(1.5g)を得た。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ12.62(s,1H),10.25(s,1H),8.01(s,1H),7.76−7.73(d,2H),7.49−7.44(d,2H),7.38−7.33(t,2H),7.13−7.05(m,3H),3.82(s,3H),3.57(s,2H).
LCMS(溶離液:80%水/20%アセトニトリル〜5%水/95%アセトニトリル、6分間かけてリニアでグラジエントし、最後に30秒間維持した)
純度>95%, Rt=3.238分
MS Calcd.:367;MS Found:368([M+H]).
【0160】
10.2−[2−(4−ヒドロキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸メチル(LST−02のデスメチル体)
【0161】
【化54】
【0162】
50mLのTHF/水の混合溶媒に2−[2−(4−メトキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸メチル(2g,5.24mmol)と三臭化ホウ素(3.95g,15.72mmol)とを混ぜ、室温で一晩攪拌した。反応を、メタノールを添加することで終結させ、濃縮し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィーに供することで精製し、2−[2−(4−ヒドロキシフェニル)−5−(N−フェニルカルバモイル)−3−チエニル]酢酸メチル(1g)を得た。
H−NMR(300MHz,DMSO−d6):δ10.24(s,1H),10.25(s,1H),9.84(s,1H),7.96(s,1H),7.75−7.72(d,2H),7.38−7.31(m,4H),7.13−7.10(m,1H),6.89−6.87(m,2H),3.70(s,2H),3.66(s,3H).
LCMS(溶離液:80%水/20%アセトニトリル〜5%水/95%アセトニトリル、6分間かけてリニアでグラジエントし、最後に30秒間維持した)
純度>95%, Rt=3.238分
MS Calcd.:367;MS Found:368([M+H]).
【0163】
[LST−01の合成]
1.4−(クロロスルホニル)−3−メチル安息香酸メチル
【0164】
【化55】
【0165】
−10℃に冷やした4−アミノ−3−メチル安息香酸メチル(30g,0.18mol)の濃塩酸(120mL)と氷酢酸(40mL)との溶液に、亜硝酸ナトリウム(21g,0.27mol)水溶液(40mL)を溶液温度が0℃を越えない割合で添加した。添加後、混合物を−10度でさらに45分間攪拌し、ジアゾニウム塩を形成させた。三つ首フラスコに氷酢酸(100ml)を充填し、二酸化硫黄ガスを30分間吹き込んだ。その後、二塩化銅(25g,0.14mol)を前記の無色の溶液に加え、二酸化硫黄ガスを30分間、溶液が薄い黄色になるまで吹き込んだ。先に調製したジアゾニウム塩を溶液温度が30℃を越えない割合で添加し、 その後1時間室温で攪拌した。反応混合物を氷浴に注ぐことで沈殿を生じ、これをジクロロメタンで抽出した。有機層を水とブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濃縮して、4−(クロロスルホニル)−3−メチル安息香酸メチル(20g,44%)を得た。
H NMR(CDCl,400MHz):δ2.83(s,3H),3.97(s,3H),8.03(d,J=8.4Hz,1H),8.07(s,1H),8.13(d,J=8.4Hz,1H).
【0166】
2.3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸メチル
【0167】
【化56】
【0168】
4−(クロロスルホニル)−3−メチル安息香酸メチル(20g,81mmol),フェニルアミン(7.5g,81mmol),及びピリジン(80ml)のジクロロメタン溶液(200ml)を室温で一晩攪拌した。これを濃縮して得た残渣を6N−塩酸を用いてpH<1に調整し、ろ過により薄桃色の固体を得た。この固体を水洗し、水に懸濁した後に、炭酸ナトリウム水溶液を加えた。これを、酢酸エチル(2×250ml)で抽出し、有機層をブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮することで、3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸メチル(20g,81%)を得た。
H NMR(CDCl,400MHz):δ2.68(s,3H),3.92(s,3H),7.02−7.08(m,3H),7.20(t,J=8.0Hz,2H),7.88(d,J=8.4Hz,1H),7.93(s,1H),8.02(d,J=8.4Hz,1H).
【0169】
3.3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸
【0170】
【化57】
【0171】
3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸(10g,33mmolをTHF(50ml)に溶解し、8Nの水酸化リチウム水溶液(50ml)を加え、室温で30分間攪拌した。これを濃縮後、酢酸エチルで洗浄し、水層をpH<4に調整した後に、ろ過を行い、乾燥させることで3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸(8.5g,90%)を得た。
H NMR(DMSO−d,300MHz):δ2.62(s,3H),6.98(t,J=7.2Hz,1H),7.05(d,J=8.7Hz,2H),7.20(t,J=7.8Hz,2H),7.81−7.86(m,2H),7.94(d,J=8.1Hz,2H).
【0172】
4.N−2−メチルフェニル 3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸アミド(化合物2)
【0173】
【化58】
【0174】
3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸(2.0g,6.6mmol)のDMF溶液(20mL)に、HATU(5.0g,13mmol)とジイソプロピルエチルアミン(2.6g、20mL)を加え、室温で30分間攪拌した。反応混合液に、2−メチルフェニルアミン(0.86g,8.0mmol)を添加し、反応液を室温で一晩攪拌した。反応液を、氷水に注いだ後に、酢酸エチルで抽出し、有機層を水とブラインで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後に、ろ過し、減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィー(溶出液:石油エーテル/酢酸エチル6:1)に供することで、1.5gのN−2−メチルフェニル 3−メチル−4−(フェニルアミノスルホニル)安息香酸アミド(収率57%)で得た。
H NMR(DMSO−d,400MHz):δ10.60(s,1H),10.02(s,1H),8.01(d,J=8.0Hz,1H),7.91−7.87(m,2H),7.31−7.17(m,6H),7.09(d,J=8.0Hz,2H),7.02−6.99(m,1H),2.67(s,3H),2.21(s,3H).
LCMS:(溶離液:(酢酸アンモニウム0.02%含有)70%水/30%アセトニトリル〜(酢酸アンモニウム0.02%含有)5%水/95%アセトニトリル、6分間かけてリニアでグラジエントし、最後に30秒間維持した)
純度>95%, Rt=3.087分
MS Calcd.:380;MS Found:379([M−1]).
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]