【実施例】
【0062】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、各例において、部は質量部を意味する。
〔合成例1、芳香族ポリアミド樹脂の調製[n/(m+n)=0.02]〕
温度計、冷却管、分留管及び撹拌機を取り付けたフラスコに、窒素パージを施しながら、5−ヒドロキシイソフタル酸3.64部(0.02モル)、イソフタル酸162.81部(0.98モル)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル204.24部(1.02モル)、塩化リチウム10.68部、N−メチルピロリドン1105部及びピリジン236.28部を加えて撹拌溶解させた。これに亜リン酸トリフェニル512.07部を加えて95℃で4時間縮合反応をさせることにより、フェノール性水酸基含有芳香族ポリアミド樹脂〔成分(A)〕を含む反応液を得た。この反応液に撹拌を施しながら、90℃で水670部を3時間かけて滴下し、さらに90℃で1時間撹拌した。
【0063】
その後、60℃まで冷却して30分間静置したところ、上層が水槽、下層が油層(樹脂層)に分離したため、上層をデカンテーションによって除去した。除去した上層の量は1200部であった。油層(樹脂層)にN,N−ジメチルホルムアミド530部を加え、希釈液とした。該希釈液に、水670部を添加し、静置した。層分離後、デカンテーションにより、水層を除去した。この水洗工程を4回繰り返して成分(A)の洗浄を行った。
【0064】
洗浄終了後、得られた成分(A)の希釈液を、撹拌された水8000部中に2流体ノズルを用いて噴霧し、析出した平均粒子径5〜50μmの成分(A)の微粉を濾別した。得られた析出物のウェットケーキを、メタノール2700部に分散させて撹拌下で2時間還流した。次いで、メタノールを濾別し、濾取した析出物を水3300部で洗浄後、乾燥することにより、下記式(2)で表される繰り返し単位を構造中に有する成分(A)332部を得た。
【0065】
【化4】
得られた成分(A)の固有粘度は0.52dl/g(ジメチルアセトアミド溶液、30℃)であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)でのポリスチレン換算の数平均分子量44000、重量平均分子量106000であった。仕込み比率より、n/(m+n)=0.02、フェノール性水酸基当量16735g/eq、活性水素当量は5578g/eqであった。
〔合成例2、芳香族ポリアミド樹脂の調製[n/(m+n)=0.005]〕
合成例1において、5−ヒドロキシイソフタル酸0.911部(0.005モル)、及びイソフタル酸165.3部(0.995モル)とした以外は同じ操作で、式(2)で表される繰り返し単位を構造中に有する成分(E)329部を得た。得られた成分(E)の固有粘度は0.49dl/g(ジメチルアセトアミド溶液、30℃)であり、GPCでのポリスチレン換算の数平均分子量41000、重量平均分子量98000であった。仕込み比率より、n/(m+n)=0.005、フェノール性水酸基当量66890g/eq、活性水素当量は7432g/eqであった。
〔合成例3、芳香族ポリアミド樹脂の調製[n/(m+n)=0.95]〕
合成例1において、5−ヒドロキシイソフタル酸173.02部(0.95モル)、及びイソフタル酸8.307部(0.05モル)とした以外は同じ操作で、式(2)で表される繰り返し単位を構造中に有する成分(F)336部を得た。得られた成分(F)の固有粘度は0.58dl/g(ジメチルアセトアミド溶液、30℃)であり、GPCでのポリスチレン換算の数平均分子量56000、重量平均分子量138000であった。仕込み比率より、n/(m+n)=0.95、フェノール性水酸基当量368g/eq、活性水素当量は353g/eqであった。
(実施例1〜4及び比較例1〜3、接着強度の測定)
実施例1では、前記合成例1の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(A)〕に無機フィラーとして窒化ホウ素(BN、平均粒子径40μm)を34体積%(50質量%)加えて耐低温性樹脂組成物を調製した〔成分(A)66体積%〕。この場合、無機フィラーを芳香族ポリアミド樹脂に分散させるため、3本ロールでロール間のギャップを30〜10μmに設定し、ロール間を2回通し、混練しながら撹拌を行った。このとき、窒化ホウ素は板状に形成された。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、17.6Pa・sであった。
【0066】
実施例2では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、酸化マグネシウム(MgO、平均粒子径50μm)を25体積%(50質量%)加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、10.9Pa・sであった。実施例3では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、窒化アルミニウム(AlN、平均粒子径50μm)を27体積%(50質量%)加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、10.2Pa・sであった。実施例4では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、炭酸カルシウム(CaCO
3、平均粒子径60μm)を31体積%(50質量%)加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、12.5Pa・sであった。
【0067】
一方、比較例1では、前記合成例1の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(A)〕のみで耐低温性樹脂組成物を調製した。その耐低温性樹脂組成物の粘度は、5.0Pa・sであった。比較例2では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、粒状のシリカ(SiO
2)を32体積%(50質量%)加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、17.8Pa・sであった。比較例3では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、粒状のアルミナ(Al
2O
3)を24体積%(50質量%)加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、8.3Pa・sであった。
【0068】
被着体として、厚さ18μmの銅箔(表面は平均表面粗さが30〜80μmの鏡面Aと平均表面粗さが50〜100μmの鏡面B)を用意した。そして、各例の耐低温性樹脂組成物をアプリケータで乾燥後の厚さが25μmになるように銅箔表面に塗布した。そして、100℃で10分間乾燥させて溶剤を除去した後、さらに前記と同じ銅箔を重ね180℃で1時間硬化反応を行って銅箔間を接着した。銅箔間の接着強度として90度剥離強度(N/mm)を、JIS K 6854−1に準拠して測定した。すなわち、接着した一方の銅箔を固定し、他方の銅箔の一端を直角にゆっくりと引っ張り、剥離の度合いを測定した。その結果を表1に示した。
【0069】
【表1】
表1に示したように、実施例1〜4の耐低温性樹脂組成物においては、無機フィラーが含まれない比較例1及び本発明の範囲外の無機フィラーが含まれる比較例2、3の耐低温性樹脂組成物に比べて明らかに高い90度剥離強度が得られ、接着性に優れていることが明らかになった。
(実施例5〜8及び比較例4〜6、無機フィラーの配合量の変化)
実施例5〜8では、前記実施例1〜4において、それぞれ無機フィラーの含有量を2体積%、5体積%、10体積%、30体積%、50体積%、70体積%及び75体積%に変化させ、90℃剥離強度に及ぼす無機フィラーの含有量の影響について分析した。一方、比較例4〜6では、前記比較例1〜3において、それぞれ無機フィラーの含有量を2体積%、5体積%、10体積%、30体積%、50体積%、70体積%及び75体積%に変化させ、90度剥離強度を測定した。
【0070】
そして、前記実施例1〜4と同様にして90度剥離強度(N/mm)を測定し、それらの結果を表2に示した。
【0071】
【表2】
表2に示したように、実施例5〜8の耐低温性樹脂組成物においては、比較例4〜6の耐低温性樹脂組成物に比べて、無機フィラーの含有量に拘らず、高い90度剥離強度を示した。特に、無機フィラーの含有量が5〜70体積%の範囲では、90度剥離強度が一層良好であった。
(応用例1及び2、冷却サイクル試験)
図1に示すように、超電導線材11は長さ2mのテープ形状をなし、ハステロイ製の基板12上に中間層13を介してイットリウム系の超電導層14が形成され、その超電導層14上に銀製の第1安定化層15及び銅箔による第2安定化層16が被覆され、それらの各層を覆うように絶縁被覆層17が被覆されて構成されている。この絶縁被覆層17は、前記合成例1の芳香族ポリアミド樹脂に無機フィラーとして窒化ホウ素を30体積%含有する耐低温性樹脂組成物を第2安定化層16上にコーティングした後、150℃に加熱して耐低温性樹脂組成物を硬化することにより形成した。絶縁被覆層17の厚さが40μmの場合を応用例1とし、絶縁被覆層17の厚さが80μmの場合を応用例2とした。
【0072】
この2mの超電導線材11を最小曲率半径が100mmとなるように巻回して超電導コイルにした状態で液体窒素中に浸漬し、室温に戻すという冷却サイクルを10回繰返し、その前後における電流(A)と電圧(μV)との関係を示す通電特性を測定した。応用例1及び2の測定結果について、
図3及び
図4に示した。なお、
図3及び
図4において、実線は冷却サイクル1回実施後の測定結果を表し、破線は冷却サイクル10回実施後の測定結果を表す。
【0073】
図3及び
図4に示すように、絶縁被覆層17の厚さが40μm及び80μmのいずれの場合にも、冷却サイクルの1回実施後と10回実施後で電流−電圧特性に変化がなく、かつ臨界電流を超えた後の電圧変化も指数関数的に変化していることから、超電導線材11のコイルについて冷却サイクルの特性には変動がないことが示された。
(実施例9〜12及び比較例7〜9、接着強度の測定)
実施例9では、前記合成例2の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(A)〕に無機フィラーとして窒化ホウ素を34体積%加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。この場合、無機フィラーを芳香族ポリアミド樹脂に分散させるため、3本ロールでロール間のギャップを300〜100μmに設定し、ロール間を2回通し、混練しながら撹拌を行った。このとき、窒化ホウ素は板状に形成された。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、16.8Pa・sであった。
【0074】
実施例10では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、酸化マグネシウムを25体積%加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、9.7Pa・sであった。実施例11では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、窒化アルミニウムを27体積%加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、9.5Pa・sであった。実施例12では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、炭酸カルシウムを31体積%加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、12.0Pa・sであった。
【0075】
一方、比較例7では、前記合成例2の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(A)〕のみで耐低温性樹脂組成物を調製した。その耐低温性樹脂組成物の粘度は、4.8Pa・sであった。比較例8では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、シリカを32体積%加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、16.2Pa・sであった。比較例9では、実施例1の窒化ホウ素に代えて、アルミナを24体積%加えて耐低温性樹脂組成物を調製した。ロール後の耐低温性樹脂組成物の粘度は、7.9Pa・sであった。
【0076】
そして、実施例1〜4と同様に各例の耐低温性樹脂組成物を銅箔表面に接着した後、90度剥離強度(N/mm)を測定した。それらの結果を表3に示した。
【0077】
【表3】
表3に示したように、実施例9〜12の耐低温性樹脂組成物においては、無機フィラーが含まれない比較例7及び本発明の範囲外の無機フィラーが含まれる比較例8、9の耐低温性樹脂組成物に比べて、明らかに高い90度剥離強度が得られた。
(実施例13〜16及び比較例10〜12、無機フィラーの配合量の変化)
実施例13〜16及び比較例10〜12では、前記実施例5〜8及び比較例4〜6において、芳香族ポリアミド樹脂として合成例2で得られた芳香族ポリアミド樹脂〔成分(E)〕を用いた以外は、それぞれ実施例5〜8及び比較例4〜6と同様にして、接着強度を測定した。それらの結果を表4に示した。
【0078】
【表4】
表4に示したように、実施例13〜16の耐低温性樹脂組成物においては、比較例10〜12の耐低温性樹脂組成物に比べて、無機フィラーの含有量に拘らず、高い90度剥離強度を示した。特に、無機フィラーの含有量が5〜70体積%の範囲では、90度剥離強度が一層良好であった。
(応用例3及び4、冷却サイクル試験)
前記応用例1及び2において、絶縁被覆層17は、合成例2の芳香族ポリアミド樹脂に無機フィラーとして窒化ホウ素を30体積%含有する耐低温性樹脂組成物を第2安定化層16上にコーティングした後、150℃に加熱して耐低温性樹脂組成物を硬化することにより形成した。絶縁被覆層17の厚さが30μmの場合を応用例3とし、絶縁被覆層17の厚さが60μmの場合を応用例4とした。そして、応用例1及び2と同様にして、電流(A)と電圧(μV)との関係を示す通電特性を測定した。それらの測定結果について、
図5及び
図6に示した。
【0079】
図5及び
図6に示すように、絶縁被覆層17の厚さが30μm及び60μmのいずれの場合にも、冷却サイクルの1回実施後と10回実施後で電流−電圧特性に変化がなく、かつ臨界電流を超えた後の電圧変化も指数関数的に変化していることから、超電導線材11のコイルについて冷却サイクルの特性には変動がないことが示された。
(実施例17〜20及び比較例13〜15、接着強度の測定)
実施例17〜20及び比較例13〜15では、前記実施例1〜4及び比較例1〜3において、合成例3の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(F)〕を用いた以外は、それぞれ実施例1〜4及び比較例1〜3と同様にして、接着強度を測定した。それらの結果を表5に示した。
【0080】
【表5】
表5に示したように、実施例17〜20の耐低温性樹脂組成物においては、無機フィラーが含まれない比較例13及び本発明の範囲外の無機フィラーが含まれる比較例14、15の耐低温性樹脂組成物に比べて十分に高い90度剥離強度が得られた。
(実施例21〜24及び比較例16〜18、無機フィラーの配合量の変化)
実施例21〜24及び比較例16〜18では、前記実施例5〜8及び比較例4〜6において、芳香族ポリアミド樹脂として合成例3で得られた樹脂を用いた以外は、それぞれ実施例5〜8及び比較例4〜6と同様にして、接着強度を測定した。それらの結果を表6に示した。
【0081】
【表6】
表6に示したように、実施例21〜24の耐低温性樹脂組成物においては、比較例16〜18の耐低温性樹脂組成物に比べ、無機フィラーの含有量に拘らず、高い90度剥離強度を示した。特に、無機フィラーの含有量が5〜70体積%の範囲では、90度剥離強度が一層良好であった。
(応用例5及び6、冷却サイクル試験)
応用例5及び6では、前記合成例3の芳香族ポリアミド樹脂に無機フィラーとして窒化ホウ素を30体積%含有する芳香族ポリアミド樹脂組成物について、前記応用例1及び2と同様にして冷却サイクルを実施した。絶縁被覆層17の厚さが55μmの場合を応用例5とし、85μmの場合を応用例6として、冷却サイクルの結果をそれぞれ
図7及び
図8に示した。
【0082】
図7及び
図8に示すように、絶縁被覆層17の厚さが55μm及び85μmのいずれの場合にも、冷却サイクルの1回実施後と10回実施後で電流−電圧特性に変化がなく、かつ臨界電流を超えた後の電圧変化も指数関数的に変化していることから、超電導線材11のコイルについて冷却サイクルの特性には変動がないことが示された。
【0083】
次に、合成例1〜3の成分(A)、成分(E)又は成分(F)に、エポキシ樹脂、その硬化剤等を加えて、下記の配合例1〜3に示す混合溶液を調製した。
(配合例1)
合成例1で得られた成分(A)100部に対し、成分(B)としてビフェニル骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂NC−3000〔(日本化薬(株)製、エポキシ当量275g/eq〕を10部、成分(A)以外のエポキシ樹脂硬化剤としてGPH−65〔日本化薬(株)製、水酸基当量203g/eq〕を2.5部、成分(D)として2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ)を1部、溶剤としてN−メチルピロリドン210.4部をそれぞれ加え、30℃で2時間撹拌することにより、混合溶液(G)(固形分濃度35質量%)を得た。
(配合例2)
配合例1における成分(A)の代わりに合成例2で得られた成分(E)を用いた以外は、配合例1と同様の操作で混合溶液(H)(固形分濃度35質量%)を得た。
(配合例3)
配合例1における成分(A)の代わりに合成例3で得られた成分(F)を用いた以外は、配合例1と同様な操作で混合溶液(I)(固形分濃度35質量%)を得た。
(実施例25〜28及び比較例19〜21、接着強度の測定)
実施例25〜28及び比較例19〜21では、前記実施例1〜4及び比較例1〜3において、合成例1の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(A)〕に代えて配合例1の混合溶液(G)を用いた以外は、実施例1〜4及び比較例1〜3と同様にして耐低温性樹脂組成物を調製した。そして、それらの耐低温性樹脂組成物を用い、銅箔間の90度剥離強度を測定した。その結果を表7に示した。
【0084】
【表7】
表7に示したように、実施例25〜28の耐低温性樹脂組成物においては、無機フィラーが含まれない比較例19及び本発明の範囲外の無機フィラーが含まれる比較例20、21の耐低温性樹脂組成物に比べて十分に高い90度剥離強度が得られた。
【0085】
ここで、上記配合例1の混合溶液(G)を用いた耐低温性樹脂組成物を、絶縁被覆層17に使用した超電導線材11の超電導コイルについて冷却サイクル試験を実施した。すなわち、絶縁被覆層17の厚さが40μmの場合と80μmの場合について、前記応用例1及び2と同様にして冷却サイクル試験を行った。その結果、冷却サイクルの1回実施後と10回実施後で電流−電圧特性にほとんど変化がなく、かつ臨界電流を超えた後の電圧変化も指数関数的に変化し、超電導線材11のコイルについて冷却サイクルの特性が維持された。
(実施例29〜32及び比較例22〜24、接着強度の測定)
実施例29〜32及び比較例22〜24では、前記実施例9〜12及び比較例7〜9において、合成例2の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(E)〕に代えて配合例2の混合溶液(H)を用いた以外は、実施例9〜12及び比較例7〜9と同様にして耐低温性樹脂組成物を調製した。そして、それらの耐低温性樹脂組成物を用い、銅箔間の90度剥離強度を測定した。その結果を表8に示した。
【0086】
【表8】
表8に示したように、実施例29〜32の耐低温性樹脂組成物においては、無機フィラーが含まれない比較例22及び本発明の範囲外の無機フィラーが含まれる比較例23、24の耐低温性樹脂組成物に比べて十分に高い90度剥離強度が得られた。
(実施例33〜36及び比較例25〜27、無機フィラーの配合量の変化)
これらの実施例33〜36及び比較例25〜27では、前記実施例13〜16及び比較例10〜12において、合成例2の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(E)〕に代えて配合例2の混合溶液(H)を用いた以外は、それぞれ実施例13〜16及び比較例10〜12と同様にして、接着強度を測定した。それらの結果を表9に示した。
【0087】
【表9】
表9に示したように、実施例33〜36の耐低温性樹脂組成物においては、比較例25〜27の耐低温性樹脂組成物に比べて、無機フィラーの含有量に拘らず、高い90度剥離強度を示した。特に、無機フィラーの含有量が5〜70体積%の範囲では、90度剥離強度が一層良好であった。
【0088】
ここで、上記配合例2の混合溶液(H)を用いた耐低温性樹脂組成物を、絶縁被覆層17に使用した超電導線材11の超電導コイルについて冷却サイクル試験を実施した。すなわち、絶縁被覆層17の厚さが30μmの場合と60μmの場合について、前記応用例3及び4と同様にして冷却サイクル試験を行った。その結果、冷却サイクルの1回実施後と10回実施後で電流−電圧特性にほとんど変化がなく、かつ臨界電流を超えた後の電圧変化も指数関数的に変化し、超電導コイルについて冷却サイクルの特性が維持された。
(実施例37〜40及び比較例28〜30、接着強度の測定)
この実施例37〜40及び比較例28〜30では、前記実施例17〜20及び比較例13〜15において、合成例3の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(F)〕に代えて配合例3の混合溶液(I)を用いた以外は、実施例17〜20及び比較例13〜15と同様にして耐低温性樹脂組成物を調製した。そして、それらの耐低温性樹脂組成物を用い、銅箔間の90度剥離強度を測定した。その結果を表10に示した。
【0089】
【表10】
表10に示したように、実施例37〜40の耐低温性樹脂組成物においては、無機フィラーが含まれない比較例28及び本発明の範囲外の無機フィラーが含まれる比較例29、30の耐低温性樹脂組成物に比べて十分に高い90度剥離強度が得られた。
(実施例41〜44及び比較例31〜33、無機フィラーの配合量の変化)
これらの実施例41〜44及び比較例31〜33では、前記実施例21〜24及び比較例16〜18において、合成例3の芳香族ポリアミド樹脂〔成分(F)〕に代えて配合例3の混合溶液(I)を用いた以外は、それぞれ実施例21〜24及び比較例16〜18と同様にして、接着強度を測定した。それらの結果を表11に示した。
【0090】
【表11】
表11に示したように、実施例41〜44の耐低温性樹脂組成物においては、比較例31〜33の耐低温性樹脂組成物に比べて、無機フィラーの含有量に拘らず、高い90度剥離強度を示した。特に、無機フィラーの含有量が5〜70体積%の範囲では、90度剥離強度が一層良好であった。
【0091】
ここで、上記配合例3の混合溶液(I)を用いた耐低温性樹脂組成物を、絶縁被覆層17に使用した超電導線材11の超電導コイルについて冷却サイクル試験を実施した。すなわち、絶縁被覆層17の厚さが55μmの場合と85μmの場合について、前記応用例5及び6と同様にして冷却サイクル試験を行った。その結果、冷却サイクルの1回実施後と10回実施後で電流−電圧特性にほとんど変化がなく、かつ臨界電流を超えた後の電圧変化も指数関数的に変化し、超電導コイルについて冷却サイクルの特性が維持された。
【0092】
なお、前記各実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記無機フィラーとして、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム及び炭酸カルシウムのうちの2種以上を適宜選択し、耐低温性樹脂組成物を調製してもよい。例えば、無機フィラーとして、接着性の高い窒化ホウ素と酸化マグネシウムとを併用してもよい。
【0093】
・ 前記芳香族ポリアミド樹脂がエポキシ樹脂の硬化剤となるため、耐低温性樹脂組成物にエポキシ樹脂を配合する場合、エポキシ樹脂用硬化剤の配合を省略してもよい。
・ 前記超電導線材11の第2安定化層16として、銅箔に代えて、銅めっき層を用いてもよい。
【0094】
・ 前記絶縁被覆層17として、耐低温性樹脂組成物を銅箔の外周に電着法で被覆形成してもよい。電着法では、耐低温性樹脂組成物に電荷を与え、逆の電荷を有する銅箔の外周面を被覆する。