(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021159
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】内部構造を有する3次元物体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 67/00 20060101AFI20161027BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20161027BHJP
【FI】
B29C67/00
B33Y10/00
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-526505(P2013-526505)
(86)(22)【出願日】2011年9月5日
(65)【公表番号】特表2013-536774(P2013-536774A)
(43)【公表日】2013年9月26日
(86)【国際出願番号】EP2011065334
(87)【国際公開番号】WO2012028747
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2013年3月4日
(31)【優先権主張番号】61/393,659
(32)【優先日】2010年10月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】102010040261.3
(32)【優先日】2010年9月3日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506306916
【氏名又は名称】エーオーエス ゲーエムベーハー エレクトロ オプティカル システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ゲスラー,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ガルバ,ミヒャエル ヤン
(72)【発明者】
【氏名】オベルホーファー,ヨハン
【審査官】
大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−042713(JP,A)
【文献】
特開2009−029064(JP,A)
【文献】
米国特許第06630093(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 67/00
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の3次元物体(1)を造形材料からアディティブ積層造形法によって製造する方法において、
前記造形材料の材料パラメータと前記被製造物体の所定の性質とに基づいて、格子構造を含む前記物体(1)の内部構造(11、12、13)が計算され、かつ、
この内部構造(11、12、13)を有する前記3次元物体(1)が、前記所定の性質を備えるように前記アディティブ積層造形法によって製造される、方法において、
前記内部構造(11、12、13)が次のように計算される、すなわち、弾性率E2の可撓性の物体(1)が、あるいは、異なる弾性率E2〜Enを有するn個の可撓性の部分を含む物体(1)が、弾性率E1の造形材料から作り出されるように(但しE1>E2、Enである)計算され、
前記格子構造が、部分的に外被によって閉じられた外側輪郭を有し、前記格子構造の外側輪郭には残留した造形材料を除去するための開口が存在し、
機械的性質が異なるいくつかの領域を有する1つの物体(1)が作り出され、
前記領域が徐々に相互に融合し合うことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記造形材料の材料パラメータとして、弾性率および/または引張強さおよび/または硬度および/または密度および/または破断ひずみおよび/またはPoisson比およびさらに別の材料パラメータが用いられ、前記物体の性質として、剛性および/または引張強さおよび/または引張負荷における破断ひずみおよび/またはPoisson比および/または捩り挙動および/または疲労挙動および/または所定の力が作用する場合の前記物体の別の性質が用いられる、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記被製造物体の少なくとも1つの機械的性質が、格子のタイプおよび/または単位セルの寸法および/または格子バーの厚さおよび/または固形化の程度を変えることによって調整される、ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、前記物体内部の構造が、方向および/または負荷に従って異なる性質が作り出されるように変えられることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法において、異なる機械的性質を有するいくつかの物体(1)が1つの同じ原材料によって製造されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法において、前記内部構造によって線形の可撓性を有する物体(1)が作り出されること、あるいは、前記内部構造(11、12、13)がストッパを含み、それによって、非線形の可撓性を有する物体が得られることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法において、前記造形材料として、粉体の造形材料が使用されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記アディティブ積層造形法がレーザ焼結法であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、前記アディティブ積層造形法がマスク焼結法であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の所定の性質を作り出すための内部構造を有する3次元物体の製造方法に関する。特に、本発明は、粉体材料から、レーザ焼結法、マスク焼結法または他の積層造形法によって、少なくとも一部分において可撓性を有する3次元物体を製造する方法に関する。
【0002】
レーザ焼結用のエラストマー粉体があり、それによってゴム状の性質を有する可撓性の部品を製造できる。しかし、このような焼結粉体の適用分野は限られている。
【0003】
さらに、独国特許出願公開第102005023473号明細書から、ラピッドプロトタイピング法を用いて、例えばレーザ焼結法によって、部分的な弾性部分を有する靴底を製造することが知られる。
【0004】
A.BonkeおよびC.Fruthは、文献「Additive Fertigung−vom Prototyp zur Serie」,Fachtagung,Hrsg.D.Drummer,Erlangen 2009, pp.151−161内の論文「Automatisierte Strukturgenerierung durch innovative Softwarekonzepte」おいて、アディティブマニュファクチャリング法を用いて、物体を造形する際に構造を利用することを記述している。重要な焦点は、本体の全容積を塊状の材料から形成する必要はないという事実から、格子構造を利用して低重量の物体を得ることにある。
【0005】
本発明の目的は、3次元物体の製造方法であって、それによって異なる構成要素の性質を有する3次元物体を所定の造形材料から生成し得る製造方法を提供することにある。
【0006】
この目的は請求項1による方法によって実現される。本発明のさらなる発展形態が従属請求項に規定される。
【0007】
本発明によれば、造形材料の所与の材料特性は、物体の所望の特性が実現される格子構造を計算する際に考慮される。この理由から、物体を「人工の」または「架空の」材料から生成することが可能である。
【0008】
好ましい特性(例えば抵抗能力もしくは耐久性)を有する造形材料から、物体を塊状の物体として構成するときには得られないような、機械的特性(例えば弾性)を有する物体を製造することができる。従って、生成された本体が有する特性は、前記本体が、望ましい特性の組合せ(例えば抵抗能力および弾性)を有する架空の材料から塊状に形成された場合に得られたような特性である。
【0009】
特にこの方法は、可撓性の物体を、内部構造に基づく造形様式のみによって、比較的高い弾性率を有する原材料を用いて製造できるという利点を有する。これによって、エラストマー粉体を使用する場合に比べて、材料に対する選択肢が大幅に拡充される。
【0010】
さらに、この方法は、1つの造形プロセスの範囲内において、異なる機械的性質、例えば異なる剛性を有する物体を同一の材料を用いて製造できるという利点を有する。さらにまた、局所的に異なる性質、例えば局所的に異なる剛性を有する物体を、1つの造形プロセスの範囲内において、同一の材料によって作り出すことが可能である。
【0011】
これによって、多数の物体の製造が可能になり、特に、所定の性質を有する所望材料の物体を「オンデマンド」で製造できるようになる。従って、全く新しい特性の組合せを示す物体を製造することができる。
【0012】
本発明の進歩性のさらなる特徴および狙いは、図面に基づく実施態様に関する以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2a】
図2aは、表面に力が作用しない場合の、格子構造を有する直方体の模式的な2次元図である。
【
図2b】
図2bは、表面に力Fが作用する場合の、格子構造を有する直方体の模式的な2次元図である。
【
図3a】
図3aは、
図2aおよび2bに比べて狭い格子構造を有する
図2aおよび2bと同様の直方体の、表面に力が作用しない場合の模式的な2次元図である。
【
図3b】
図3bは、
図2aおよび2bに比べて狭い格子構造を有する
図2aおよび2bと同様の直方体の、表面に力Fが作用する場合の模式的な2次元図である。
【
図4a】
図4aは、本体内部に異なる格子構造を有する直方体の模式的な2次元図である。
【
図4b】
図4bは、力Fの作用を受けた場合の
図4aの直方体の模式的な2次元図である。
【
図5】
図5は、仕切りプレートによって分離された異なる内部格子構造を有する2つのレーザ焼結体の、力が作用しない場合の図である。
【
図6】
図6は、仕切りプレートによって分離された異なる格子構造を有する
図5のレーザ焼結体の図であり、力の作用による異なる強さの変形を示す。
【0014】
以下においては、本発明による方法を、レーザ焼結法と、
図1によるレーザ焼結装置の例とを参照して説明する。
【0015】
この装置は造形容器1を含み、その容器1の中に、被造形物体3を支持する支持体2が設けられる。支持体2は、造形容器内部において、高さ調節手段4によって垂直方向に動かすことができる。装入された粉体の造形材料は平面において固形化されるが、その平面が作用平面5を規定する。粉体材料を作用平面5において固形化するために、レーザ6が設けられ、このレーザ6は、偏向手段8によって、さらに必要な場合には照準ユニット9によって作用表面5上に照準されるレーザビーム7を発生する。レーザビーム7を作用表面5におけるいかなる任意の点にも偏向し得るように偏向手段8を制御し、さらに必要な場合には照準ユニット9を制御する制御装置10が設けられる。制御装置10は、被製造物体の構造を含むデータによって制御される。この、データは、固形化されるべき各層における物体のデータを含む。
【0016】
さらに供給装置11が設けられる。この供給装置11によって、粉体の造形材料を、引き続く次の層用として供給することができる。装入器(applicator)12によって、造形材料が作用平面5に装入され、平準化される。
【0017】
運転の間、支持体2を層ごとに低下させ、新しい粉体層を装入して、作用平面5においてそれぞれの層における当該物体に合致する位置でレーザビーム7によって固形化する。
【0018】
粉体の造形材料としては、レーザ焼結法に適したすべての粉体または粉体混合物を使用できる。このような粉体の例として、例えば、ポリアミドまたはポリスチレン(PAEK、ポリアリールエーテルアミド)などの合成粉体、PEBA(ポリエーテルブロックアミド)などのエラストマー、粉体ステンレス鋼などの金属粉体または当該目的に適合した他の金属粉体、特に合金、合成被膜処理砂、またはセラミック粉体が含まれる。
【0019】
本発明の方法によれば、物体の内部構造が、使用される造形材料の材料パラメータと、被製造物体の所定の性質とに基づいて計算され、この内部構造を有する3次元物体が層ごとに製造され、従って、その物体は、製造後に所定の性質を備えている。その結果、その造形材料から生成された本体は、例えば、異なる材料から生成された同一の形状および容積の本体の所望の特性に合致する特性を有する。しかし、この場合、これらの所望の特性は、実際に使用された造形材料の他の有利な特性と組み合わされる。造形材料の材料パラメータとしては、少なくとも弾性率を取り上げることができるが、さらに別の材料パラメータ、例えば、引張強さ、硬度、密度、破断ひずみ、Poisson比(Poisson数)なども計算における値として用いることができる。この実施態様においては、約50MPaの比較的高い弾性率を有する粉体が造形材料として用いられている。
【0020】
次に、被製造物体の機械的性質、この実施態様においては、所定の方向における所定の圧力の作用の下での被製造物体の剛性、が決定される。さらに別の機械的性質、例えば、異なる方向における剛性、引張強さ、引張負荷による破断ひずみ、Poisson比、捩り挙動、疲労挙動なども決定できる。
【0021】
造形材料の弾性率と、被製造物体の少なくとも1つの所定の性質とに基づいて、3次元の格子構造が計算される。この3次元の格子構造は、粉体の造形材料がレーザビームの作用によって固形化される位置を提供する。その間の空所においては、粉体は固形化されないまま残る。その後、3次元物体が、計算された格子構造に従って層ごとに造形される。格子は、製造された物体がいかなる完全に閉じられた表面をも含まないような格子構造から完全に構成されるように、各層の周囲領域に広がることが望ましい。これによって、製造プロセス完了後に、固形化されなかった粉体材料を容易に取り除くことが可能になる。代わりの方式として、各層の外側輪郭(outline)の全輪郭またはその一部分を固形化することが可能である。この場合は、結果的に得られる物体の外側輪郭は完全に閉じられているか、あるいは部分的に閉じられている。外被を形成する外側輪郭を、変形を吸収するように構成することが可能である。例えば、外側輪郭を、ベロー状の構造として、あるいは、相互に係合しかつ相互に可動な部分として形成できる。必要であれば、非固定化粉体材料を取り出すための開口を、焼結の間またはその後に設けることができる。
【0022】
図2aは、第1の格子構造を有する直方体1の模式的な2次元図を示す。
図2bは、全表面に作用する力Fによって所定の量に圧縮された
図2aの直方体の模式的な2次元図を示す。
図3aは、
図2aと同じ寸法を有するが、その格子構造がより小さい格子ピッチを有する第2格子構造である直方体2の模式的な2次元図を示す。
図3bは、
図2bにおけるものと同じ大きさの力Fであって、全表面に同様に作用し、従って本体を圧縮する力Fの作用を受けた場合の
図3aの直方体の模式的な2次元図を示す。格子構造が狭い
図3bによる直方体の剛性は
図2bの剛性より大きい。
【0023】
例えば、格子構造は菱形格子とすることができるが、他の任意の格子を用いることも可能である。格子の単位セルの寸法は可変であるが、それは、通常、単位セルの横方向長さに対して数ミリメートルの範囲内である。格子バーの厚さは0.1〜2mmの範囲内である。特別な場合、例えば、非常に大きな部品の場合、あるいは、1つの方向における寸法がもう1つの方向における寸法より遥かに大きい長方形または類似の格子断面の場合は、格子バーの厚さをセンチメートルの範囲にすることもできる。単位セルの寸法および単一の格子バーの厚さを変えることによって、被製造物体の所望の剛性を無段階に変化させることができる。
【0024】
この方法のさらなる発展形態においては、方向および負荷に応じて、被製造物体の異なる性質を作ることができるように、格子を、被製造物体の内部において変化させることができる。例えば、
図4aおよび4bから分かり得るように、本体10は、中心部分13とは異なる格子構造を有する部分11、12を含むことができる。この格子構造の違いは、
図4bに示すように、圧力fの作用に対して、中心部分13の方が部分11、12よりも弾力性に富んでいるという点にある。格子構造11、13,12は、
図4aおよび4bに示すように、相互に連続的に融合し合っている。
【0025】
図5および6は、異なる内部格子構造を有するPEBA(ポリエーテルブロックアミド)の2つのレーザ焼結体を示す。ここで本体は、仕切りプレートによって分離されている。
図5は力の作用がない本体を示し、
図6は力が作用した場合の本体を示す。内部の格子構造が異なっているため、異なる強さの変形が生じている。下部の本体が上部の本体より強く変形している。
【0026】
さらに別の発展形態においては、被製造物体を、その剛性に関しても、線形の挙動を呈するだけでなく、非線形に形成することも可能である。これは、例えばストッパ(stop)を設けることによって実現できる。この場合、ストッパは物体中の剛体部分によって形成される。例えば、剛体部分を、面において部分的にまたは完全に焼結された領域によって作り出すことができる。
【0027】
さらに別の発展形態においては、格子構造の固形化の程度を付加的に変えることができる。
【0028】
さらに別の発展形態においては、所定の破断位置を、本体内部の格子構造を変えることによって作り出すことができる。
【0029】
この方法によって、あらゆるタイプの可撓性の物体、例えば、緩衝材、挿入靴底、保護クッションなどを製造できる。
【0030】
本発明はレーザ焼結法に限定されない。本発明は、本体が造形材料から積層製造されるあらゆる生成法、例えば、粉体材料の代わりに液体の光硬化樹脂を用いるステレオリソグラフィー、粉体の造形材料が、例えば液滴の形状で粉体層の上に塗布できる結合剤によって固形化される3次元印刷法、あるいはまた、レーザビームの代わりにマスクおよび拡大光源が用いられる選択的マスク焼結法、に用いることができる。