【実施例】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0026】
図1及び
図2は、本発明の実施例に係る振動水柱型波力発電システムの全体構成を示す概略側面図及び概略平面図である。
【0027】
図1及び
図2には、海岸部又は沿岸部に一般に観られる地形及び環境として、海水Wの波打ち帯に建設された防波堤Jが示されている。防波堤Jは海岸線に沿って延びる。防波堤Jの海洋側(水域側)には、捨石マウンドKが敷設される。捨石マウンドKは、海洋側に向かって下方に傾斜する傾斜面Qを有する。捨石マウンドK上には、打ち寄せる波のエネルギーを低減するための消波工Rが配設される。消波工Rは、一群のコンクリート製消波ブロックTにより形成される。
【0028】
本実施例の振動水柱型波力発電システム1(以下、「発電システム1」という。)は、傾斜面Q上に配置された波浪エネルギー吸収装置10と、陸地Lの地盤面又は岩盤面に配置されたバッファタンク20及び発電室30と、波浪エネルギー吸収装置10とバッファタンク20とを接続する送気管40とから構成される。好ましくは、発電システム1は、発電室30内の発電装置31が発電した電気を蓄電する蓄電装置60を更に有する。蓄電装置60は、給電線35を介して発電装置31に接続されるとともに、電力を系外に送電するため送電線61に接続される。
【0029】
波浪エネルギー吸収装置10(以下、「吸収装置10」という。)は、全体的に中空円筒体に成形された鉄筋コンクリート製の中空構造体11からなり、中空構造体11の中心軸線X−Xと同心の円柱状中空域12と、海洋に向かって中空域12を開放する開口13と、中空構造体11の外周面に突設された複数の突起18とを備える。中空構造体11の中心軸線X−Xは、傾斜面Qの勾配に相応して傾斜しており、水平面に対して角度θ(
図4)をなして傾斜する。
【0030】
図3は、傾斜面Q上に配置された吸収装置10の状態を示す概略斜視図であり、
図4は、吸収装置10の縦断面図である。なお、
図3では、消波ブロックTの図示は、省略されており、
図4では、消波ブロックTは破線で示されている。
【0031】
図3及び
図4に示すように、突起18は、中空構造体11の外周面から径方向外方に一体的に延びる截頭円錐形の鉄筋コンクリート部材であり、周囲の消波ブロックTに係合(又は係止)するとともに、捨石マウンドKを構成する捨石群(又は捨石マウンドK上の被覆石等(図示せず))に係合(又は係止)し又は接地する。中空構造体11は、消波工Rの中に渾然と埋没し、消波工Rに同化しており、その自重と、周囲の消波ブロックTの自重及び相互拘束力と、捨石マウンドKの支持力(荷重支持力、摩擦保持力、係合保持力等)とによって初期の姿勢及び位置を維持する。但し、中空構造体11は、捨石マウンドK、防波堤J及び海底B等に固定又は係留されていない。なお、
図1及び
図4において、下側の突起18は、捨石マウンドK内に延入しているかのように概念的に図示されているが、下側の突起18は、
図3に示すように、その先端部が捨石マウンドKに接地し又は捨石マウンドKの凹凸に係合し、或いは、捨石マウンドK上の被覆石等(図示せず)に接地、係合又は係止するにすぎない。
【0032】
開口13は、傾斜した円筒状中空体を鉛直面によって切断した形態の先端面19に形成される。鉄筋コンクリート構造の支持台50が、先端面19の下端部から傾斜面Qに沿って海洋側に延びる。支持台50は、先端面19から平面視扇状に拡開するとともに、傾斜面Qの傾斜角よりも小さい傾斜角の斜面51を形成する。支持台50の上端部52は、先端面19の下端部に当接して中空構造体11の自重の一部を支承する支点として機能し、中空構造体11の姿勢及び位置を保持するように機能する。中空構造体11は、傾斜面Qの傾斜によって海洋側に移動し又は変位しようとするが、このような中空構造体11の移動又は変位は、消波ブロックT又は捨石マウンドKに対する突起18の係合及び接地と、支持台50による支承とによって確実に阻止することができる。
【0033】
中空構造体11は、海水Wの水面WLが開口13の上方且つ基端部16の下方に位置するように配置される。水柱14が中空域12の下部に形成され、空気室15が中空域12の上部に形成される。開口13を介して海水Wが中空域12に流入しており、矢印αで示す海洋波浪の入波エネルギーにより、水柱14が上下方向に振動する。水柱14の水面が矢印β方向に上下動するので、空気室15内の空気柱の空気圧が変動する。基端部16は全体的に閉塞しており、給排ポート16aが中心部に形成される。
【0034】
支持台50の領域は他の部分よりも相対的に水深が浅く、しかも、支持台50は、海洋に向かって平面視扇状に拡開しているので、消波工Rに接近する波は開口13に向かって収斂し、開口13内に進入する波の波高は増大する。この結果、水柱14の上下方向の振幅が増大し、空気室15内の空気柱の空気圧が比較的大きく変動する(従って、吸収装置10のエネルギー吸収量が増大する)。
【0035】
消波工Rを構成する各消波ブロックTは、その自重と、周囲の消波ブロックTとの相互係合又は相互接触とにより、基本的にはその初期位置を維持するが、消波ブロックTに作用する波浪、津波、地震力、潮位変化、劣化因子等の影響により各消波ブロックTが若干移動し又は変位するとともに、一群の消波ブロックT全体の位置が全体的に僅かに移動し又は変位する傾向がある。消波工Rの中に埋没した中空構造体11は、捨石マウンドK、防波堤J及び海底B等に固定又は係留されていないので、周囲の消波ブロックTと一緒に移動又は変位するとともに、堅固な位置拘束に起因した過大な内部応力が移動過程又は変位過程の中空構造体11に作用しない。
【0036】
このような中空構造体11の移動又は変位を考慮し、変形可能なフレキシブル管からなる送気管40が、フレキシブルジョイントからなる継手41を介して中空構造体11の給排ポート16aに接続される。中空構造体11の移動又は変位は、送気管40及び継手41の変形によって吸収される。
【0037】
送気管40は、防波堤Jの頂部を乗り越えて陸地側に延び、陸地L上のバッファタンク20に接続さ
れる。
図2に示すように、複数の吸収装置10が消波工R内に並列に配置され、各吸収装置10に接続された各送気管40は、フレキシブルジョイントからなる継手21を介してバッファタンク20に接続される。バッファタンク20は、両端を閉塞した円形断面の金属製管体又は鉄筋コンクリート製管体からなる。各送気管40の往復気流γが、空気室15の空気圧変動に相応して、バッファタンク20に供給される。バッファタンク20は、各送気管40を介して流入又は流出する空気の微細な圧力変化、或いは、不規則な圧力変動を緩和して発電装置31の回転運動を安定化させる圧力緩衝手段として機能する。バッファタンク20は又、異常波浪時の波高上昇等により、吸収装置10内の海水が発電装置31に到達するのを防止する発電装置保護手段として機能する。好ましくは、バッファタンク20は、バッファタンク20内に進入した海水を排水するための排水口、排水溝、排水管等の排水設備又は排水手段を備える。
【0038】
発電室30は、バッファタンク20に隣接して陸地Lの地盤面又は岩盤面に構築された鉄筋コンクリート構造又は鋼構造のシェルター34からなる。空気タービン型の発電装置31が、発電室30内に配設される。発電室30の室内空間を外気と連通せしめる吸廃気口36を備える。発電装置31の給排気口32が空気搬送ダクト33を介してバッファタンク20の給排気口22に接続され、空気搬送ダクト33の往復気流λは発電装置31に作用する。発電装置31は、往復気流λの作用により常に一定方向に回転するウェルズタービン又は衝動型タービンを備えており、発電装置31のタービン部は、往復気流λにより回転駆動し、発電装置31の発電機は発電する。発電装置31が発電した電気は蓄電装置60に蓄電され、送電線61を介して系外に適宜送電される。往復気流λに相応した吸気流又は廃気流が、矢印ηで示すように発電室30の吸廃気口36を流通する。
【0039】
図5(A)は、空気室15の空気圧変動を示す線図であり、
図5(B)は、バッファタンク20内の空気圧変動を示す線図である。
【0040】
図5(A)には、空気室15内に生じる空気圧変動の状態が概略的に示されている。空気室15の空気圧は海水面の上下動に応答して変動するが、微細な圧力変動を伴う不規則な圧力変化が空気室15に発生する。
図5(B)には、バッファタンク20内に生じる空気圧変動の状態が概略的に示されている。
図5(B)に示されるように、空気室15に観られる微細な圧力変化は、バッファタンク20内に発生しない。従って、バッファタンク20を空気室15と発電装置31との間に介装することにより、小刻み且つ急峻に空気圧が変化する微細な圧力変動が平準化され、発電装置31に供給される空気流が安定するので、発電装置31の回転運動は安定する。
【0041】
図6は、吸収装置10内の水面の水位変化を示す線図である。
【0042】
吸収装置10内の水柱14は、海洋波浪の入波エネルギーαの作用で上下方向に振動し、
図6(B)及び
図6(C)に示すように矢印β方向に上下動し、この結果、空気室15の空気圧が変動する。空気室15の空気圧変動に相応して、矢印γで示すように往復気流が各送気管40を介してバッファタンク20(
図1及び
図2)に供給される。
図1及び
図2に示されるように、バッファタンク20は、圧力緩衝後の往復気流λを空気搬送ダクト33によって発電装置31に供給する。
【0043】
図6に示すとおり、中空構造体11は、先端面19が基端部16よりも下側に位置するように全体的に傾斜しているので、水柱14の水面14aは、楕円又は長円形に拡大しており、従って、水面14aの面積は、中空構造体11の中心軸線X−Xを鉛直方向に配向した状態に比べて、かなり増大する。しかも、先端面19の開口13を海洋に向けて開放した傾斜円筒形の中空構造体11は、海洋波浪の入波エネルギーαを効率的に水柱14の上下振動に変換する。即ち、中空構造体11は、海洋波の運動を空気室15の空気圧に効果的に変換するので、吸収装置10の波浪エネルギー吸収能力は向上する。このような傾斜円筒体の優位性は、本出願人の出願に係る特願2011-172439号の
図12〜
図14に実験条件及び実験結果として示され、特願2011-172439号の明細書、段落[0046]〜[0048]に実験結果として記載されているので、更なる詳細な説明については、省略する。
【0044】
かくして、上記構成の発電システム1によれば、海洋波浪の入波エネルギーαによって吸収装置10内の水柱14が上下方向に振動すると、水柱14の水面が矢印β方向に上下動するので、空気室15の空気圧が変動し、往復気流γがバッファタンク20内に流入し又はバッファタンク20から流出する。バッファタンク20内の空気圧変動に応答して、往復気流λが、発電装置31のタービン部に作用してタービン部を回転駆動し、発電装置31の発電機が発電し、発電装置31が発電した電気は蓄電装置60に蓄電され、系外に適宜送電される。
【0045】
図7は、吸収装置10の変形例を示す断面図である。
【0046】
前述の実施例においては、中空構造体11は、消波工Rの中に渾然と配置され、中空構造体11自身の重量と、周囲の消波ブロックTの拘束力又は保持力とにより、その位置を維持するが、
図7に示す如く、アンカー手段70によって中空構造体11をマウンドK又は海底Bに位置固定しても良い。
図7に示すアンカー手段70は、PC鋼より線(撚り線)、PC鋼線、PC棒鋼等の線形PC鋼材72をマウンドK及び海底Bの削孔71内に挿入してグラウト材(セメントミルク等)を削孔71内に注入・充填してなるグラウンドアンカー工又はアースアンカー工からなる。アンカー手段70は、軸線X−X方向に間隔を隔てて中空構造体11の周壁下部に配設され、PC鋼材72の頂部は、補剛材73及び補剛部74を介して中空構造体11の周壁下部に一体的に連結される。補剛材73は、PC鋼材72の張力を中空構造体11に伝達可能な金属部材等からなり、補剛部74は、PC鋼材72及び中空構造体11に一体化したコンクリート部材からなる。なお、所定の荷重で圧潰、圧壊又は変形するように構成された部材により補剛部74を設計し、中空構造体11の変位時又は挙動時に中空構造体11に過負荷が働くのを防止するように吸収装置10を構成しても良く、或いは、中空構造体11の変位又は挙動に追随して変形し得るように補剛材73又は補剛部74を設計しても良い。また、変形例として、鋼製杭、鋼管杭、既製コンクリート杭等によって中空構造体11をマウンドK又は海底Bに堅固に固定することも可能である。
【0047】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0048】
例えば、上記実施例においては、円形断面を有する鉄筋コンクリート構造の中空構造体によって波浪エネルギー吸収装置を形成しているが、方形又は矩形断面、多角形断面等の中空構造体によって波浪エネルギー吸収装置を形成し、或いは、鋼製又は金属製の中空構造体によって波浪エネルギー吸収装置を形成することも可能である。
【0049】
また、上記実施例においては、等断面の内部中空域を有する中空構造体によって波浪エネルギー吸収装置を形成しているが、断面寸法が徐々に変化し又は段階的に変化する内部中空域を有する中空構造体によって波浪エネルギー吸収装置を形成しても良い。
【0050】
更に、上記実施例では、発電装置は、往復気流の作用により常に一定方向に回転するウェルズタービン又は衝動型タービンを備えているが、往復気流を単一方向の気流に調整する弁装置等を気流変換手段としてバッファタンクと発電装置との間に介装するとともに、汎用のラジアルタービン、軸流タービン等を備えた構成の発電装置を採用しても良い。なお、このような気流変換手段については、例えば、本出願人の出願に係る特願2011-172439号に記載されている。
【0051】
また、バッファタンク、発電装置等の構成や、バッファタンク、発電装置等の支持構造などは、地形、地盤の条件等に応じて、適宜変更し得るものである。