特許第6021176号(P6021176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6021176電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021176
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/26 20060101AFI20161027BHJP
   C23C 18/36 20060101ALI20161027BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   C25D5/26 C
   C23C18/36
   C23C28/02
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-194618(P2012-194618)
(22)【出願日】2012年9月4日
(65)【公開番号】特開2014-51686(P2014-51686A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511001909
【氏名又は名称】株式会社大商
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(72)【発明者】
【氏名】山口 武彦
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩司
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−066237(JP,A)
【文献】 特開平03−064595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
C23C24/00−30/00
C25D 5/00− 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理方法であって、
前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化する第一のステップと、
前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる第二のステップと、
前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成された鋼材を、亜鉛の金属塩水溶液が満たされた電解めっきの浴槽に浸漬させて、前記鋼材を陰極とし、前記浴槽を陽極として電解めっきを施すことで、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、前記亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる第三のステップと
を備えることを特徴とする電気亜鉛めっき処理方法。
【請求項2】
鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理装置であって、
前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化するブラスト処理部と、
前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる無電解めっき処理部と、
前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成された鋼材を、亜鉛の金属塩水溶液が満たされた電解めっきの浴槽に浸漬させて、前記鋼材を陰極とし、前記浴槽を陽極として電解めっきを施すことで、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、前記亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる電解めっき処理部と
を備えることを特徴とする電気亜鉛めっき処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置に関し、詳しくは、電気亜鉛めっき処理に起因する水素脆化(遅れ破壊)の発生可能性をゼロとするとともに、コストパフォーマンス、環境負荷軽減、安全に優れる電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材、更に強度が強い高張力鋼や超高張力鋼は、航空機用部品や航空機搭載用電子機器の部品等の様々な分野の部品に用いられているとともに、近年では、軽量化、小型化のために自動車の部品等にも用いられている。
【0003】
前記鋼材は、耐食性や装飾性を維持するために、通常、めっき処理を施すが、当該めっき処理には、酸洗、電気めっきなどの鋼材の表面に水素原子が発生する処理が含まれている。そのため、前記発生した水素原子は、前記鋼材の表面から内部に拡散して吸収される。
【0004】
ここで、前記鋼材の中に侵入した水素原子は、通常、鉄の体心立方格子(結晶格子)の1個当たりに1個入ることが出来、更に、自由に移動して拡散することが出来るが、2個の水素原子は、一度に、前記鉄の体心立方格子の中へ侵入することは出来ないと言われている。そのため、前記鋼材に侵入した水素原子は、常に原子の状態で前記鋼材に存在すると言われている。
【0005】
しかしながら、一度、前記鋼材に侵入した水素原子は、当該鋼材中の引っ張り、曲げ又は圧縮の応力の集中する箇所に移動する性質があり、例えば、当該鋼材に格子欠陥(微細な傷)等の応力集中箇所が生じると、その箇所に水素原子が集中し、互いに結合して水素分子となる。
【0006】
ここで、1個の水素分子の容積は、2個の水素原子の容積と比較して3倍程度であるため、2個の水素原子により1個の水素分子が形成されれば、当該水素分子が前記応力集中箇所に過剰な応力を効かせ、それにより、鋼材(鉄)の組織を破壊して、クラックを生じさせ、膨張して破壊に至る。このような現象を脆性破壊、水素脆化、水素脆性、遅れ破壊とも称する。
【0007】
上述した水素脆化は、一般的に、前記めっき処理の直後の鋼材では見られないものの、時間の経過とともに発生するため、前記めっき処理を施した鋼材を提供する企業にとって、当該鋼材がいつ頃、水素脆化が発生するかを予測することが出来ないという問題がある。
【0008】
又、前記水素脆化は、特に、炭素成分の多い炭素工具鋼や機械構造用炭素鋼等の高張力鋼に生じ易いという傾向があり、航空分野や自動車分野に使用される鋼材については、安全面、品質面を確保するために、前記水素脆化の防止は必須である。
【0009】
そこで、前記水素脆化を防止するために、従来より、めっき処理、例えば、電気亜鉛めっき処理後の鋼材に対して高温で、長時間、ベーキング処理(加熱処理)を行い、当該鋼材の内部に侵入した水素原子を外部へ放出する方法が採用されていた。
【0010】
従来技術の典型的な電気亜鉛めっき処理方法について具体的に説明すると、図7に示すように、先ず、めっき処理を施したい鋼材にアルカリ脱脂処理を施して(図7:S201)、当該鋼材の表面を脱脂した後、水洗して、表面調整化のための酸洗処理を施す(図7:S202)。次に前記調整化された鋼材に電解めっきを施して、当該鋼材の表面に亜鉛のめっき層を形成させる(図7:S203)。
【0011】
ここで、上述したように、前記酸洗処理、前記電解めっき処理により水素原子が発生しているため、前記鋼材から水素原子を除去するために、前記電解めっき後の鋼材に、190度から210度の範囲内で、3時間から4時間の範囲内、前記ベーキング処理を施す(図7:S204)。これにより、所定のめっき処理は一応完了する。
【0012】
通常であれば、前記ベーキング処理後の鋼材に、更に、二次加工としてのクロメート処理を施して(図7:S205)、所定の乾燥機で乾燥し(図7:S206)、検査して(図7:S207)、最終製品としての鋼材を出荷することになる。
【0013】
しかしながら、前記ベーキング処理では、ある程度まで前記鋼材の内部の水素原子を除去出来るものの、完全に除去することは出来ないという問題がある。この問題は、後に鋼材の水素脆化の引き金になる可能性に繋がり、安全面、品質面で確実な水素脆化の防止方法として機能していないという二次的な問題となる。又、前記ベーキング処理に要する時間は、ある程度長時間に設定されるため、その長時間のベーキング処理により、前記鋼材に施されためっき層の亜鉛が酸化し、耐食性や装飾性が悪化するという問題がある。
【0014】
上述した問題を解決するために、例えば、特開2003−239100号公報(特許文献1)には、抗張力鋼などのメッキ処理法において、前処理の電解処理としてPR電解(正逆交流電解)を用いた水素脆性防止のメッキ処理法が開示されている。前処理の電解処理として、例えば、50度から60度でPR電解での+−切替時間を1分以内にすると、水素脆性が生じなくなるため、この効果を利用して、水素脆性の起こらない前処理を行うことができる結果、安定した良好なメッキをすることが出来るとしている。
【0015】
又、特開平5−33806号公報(特許文献2)、特開平5−126122号公報(特許文献3)には、高張力鋼製の基材と、該基材の表面に形成された電気AIめっき層とを備えていることを特徴とする耐久性及び耐遅れ破壊性に優れた締結具が開示されている。前記電気AIめっき層は、非水系のめっき液を使用した電気めっきによって形成される。これにより、前記電気AIめっき層は、鋼基材に対する水素侵入のバリアーとして働き遅れ破壊の原因である水素脆化を抑制し、又、めっき層形成時に鋼材が水素吸収することも防止するとしている。
【0016】
又、特開平7−54194号公報(特許文献4)には、100kgf/mm2以上の引張強さを有する鋼板の少なくとも片面に、Ni又はNi基合金めっきを50から3000mg/m2施し、かつその上層にZn又はZn基合金めっきを1〜50g/m2施したことを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高張力冷延鋼板が開示されている。前記Ni又はNi基合金めっきと、Zn又はZn基合金めっきは、電気めっき法、無電解めっき法などのめっき法が採用されている。これにより、耐遅れ破壊性に優れたZn又はZn基合金めっき高強度鋼板を安定して得ることができ、その工業的価値は極めて大きいとしている。
【0017】
又、特開平9−228099号公報(特許文献5)には、高張力鋼のめっき処理に伴って発生する水素脆性を低減させるためのめっき処理方法において、前処理工程の最後に、アルカリ陽極電解処理を行うことを特徴とする高張力鋼のめっき処理方法が開示されている。これにより、めっき前処理工程の最後にアルカリ陽極電解処理を行うから、素材表面に付いた水素を除去して高張力鋼の水素脆性化率を低減させることが出来るとしている。
【0018】
又、特開2000−282296号公報(特許文献6)には、鋼材と、この鋼材の表面に形成された陽極酸化皮膜を有することを特徴する耐水素脆性及び耐食性が優れた塗装用鋼板が開示されている。これにより、鋼材の表面に陽極酸化皮膜を形成して、鋼材に水素が侵入することを防止することができるため、水素吸蔵による鋼材の機械的特性の劣化を防止することが出来ると共に、優れた耐食性を得ることが出来るとしている。
【0019】
一方、上述した水素脆化とは直接的に関係無いものの、特開平7−48681号公報(特許文献7)には、板状、円筒状、波型形状等の各種形状の被加工素材をメッキするに際し、被加工素材の表面状態を整える前処理を施した後、電気エネルギーを使用せず金属塩水溶液中の金属イオンを置換反応により上記被加工素材の表・裏全面に均一に析出させて金属皮膜を形成させる無電解メッキを施した後、必要に応じて活性化処理し、次に通常の電気メッキを施してから、最終仕上げ処理することを特徴とする無電解メッキと電気メッキを併用したメッキ方法が開示されている。これにより、円筒状や屈曲部を有する波形状等の特殊形状の被加工素材の全面にわたって、通常の平板状素材と同様に光沢があって、外観も美しく、耐食性に優れ、密着性も良好な均一な金属皮膜を形成することが出来るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2003−239100号公報
【特許文献2】特開平5−33806号公報
【特許文献3】特開平5−126122号公報
【特許文献4】特開平7−54194号公報
【特許文献5】特開平9−228099号公報
【特許文献6】特開2000−282296号公報
【特許文献7】特開平7−48681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上述した特許文献1−7に記載の発明では、めっき処理のうち、前記鋼材の表面に水素原子が発生する処理が含まれているため、当該鋼材の内部に水素原子が侵入する余地を残しており、安全面、品質面で確実に水素脆化を防止するめっき処理方法であるか否か不明であるという問題がある。
【0022】
又、従来技術では、めっき処理にベーキング処理が含まれているものの、当該ベーキング処理は、設備等にコストが掛かる上、プロパンガス等の燃料ガスを燃焼させて多量の熱量を発生させていることから、多量の二酸化炭素を放出し、環境負荷が掛かるという問題がある。
【0023】
更に、上述したベーキング処理を行っても完全に脆性除去をすることが出来ず、遅れ破壊が生じるという問題がある。
【0024】
そこで、本発明は、前記問題を解決するためになされたものであり、電気亜鉛めっき処理に起因する水素脆化(遅れ破壊)の発生可能性をゼロとするとともに、コストパフォーマンス、環境負荷軽減、安全に優れる電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は、鋭い研究を重ねた結果、本発明に係る新規な電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置を完成させた。
【0026】
本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法は、鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理方法であって、以下の構成を採用する。
【0027】
即ち、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法は、前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化する第一のステップと、前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる第二のステップと、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成された鋼材を、亜鉛の金属塩水溶液が満たされた電解めっきの浴槽に浸漬させて、前記鋼材を陰極とし、前記浴槽を陽極として電解めっきを施すことで、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、前記亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる第三のステップとを備えることを特徴とする。
【0028】
又、前記第三のステップは、前記電解めっきの完了後、ベーキング処理を行わないよう構成することが出来る。
【0029】
又、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の厚さは、3μm以上であるよう構成することが出来る。
【0030】
又、本発明は、鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理装置としても提供することが可能である。
【0031】
即ち、本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置は、前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化するブラスト処理部と、前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる無電解めっき処理部と、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成された鋼材を、亜鉛の金属塩水溶液が満たされた電解めっきの浴槽に浸漬させて、前記鋼材を陰極とし、前記浴槽を陽極として電解めっきを施すことで、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、前記亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる電解めっき処理部とを備えることを特徴とする。前記ブラスト処理部と前記無電解めっき処理部と前記電解めっき処理部とは一連の処理装置である。
【0032】
又、本発明は、前記電気亜鉛めっき処理方法又は電気亜鉛めっき処理装置で製造された鋼材である。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置によれば、電気亜鉛めっき処理に起因する水素脆化(遅れ破壊)の発生可能性をゼロとするとともに、コストパフォーマンス、環境負荷軽減、安全に優れるため、安全面、品質面、コスト面、環境面の問題を総合的に解決することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法の手順の一例を示す図である。
図2】本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置の構成の一例を示す図である。
図3】本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置のブラスト処理部の一例を示す図である。
図4】本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置の無電解めっき処理部の一例を示す図である。
図5】本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置の電解めっき処理部の一例を示す図である。
図6】実施例、参考例、比較例における水素脆化度の結果の一例を示す図である。
図7】従来技術に係る電気亜鉛めっき処理方法の手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0036】
<電気亜鉛めっき処理方法>
本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法は、鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理方法であって、図1に示すように、先ず、前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化する第一のステップ(図1:S101)を備える。次に、前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる第二のステップ(図1:S102)を備える。最後に、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる第三のステップ(図1:S103)を備える。本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法は、上述した3つのステップで基本的に構成され、主とするめっき処理は、当該3つのステップである。
【0037】
これにより、従来から鋼材の表面の粗面化でなされていた酸洗処理をブラスト処理に変更することで、当該酸洗処理により発生する水素原子が前記鋼材の内部に侵入する可能性をゼロとする。更に、無電解めっき処理で当該水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を前記鋼材の表面に形成させる。
【0038】
ここで、前記無電解めっき処理では、水素原子が発生するものの、当該無電解めっき処理で発生する水素原子は、前記電解めっき処理で発生する水素原子と異なり、瞬時に別の物質(例えば、酸素原子と結合して水)に変換される。そのため、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成される過程では、水素原子が前記鋼材の表面に侵入する可能性を更にゼロとする。
【0039】
例えば、前記無電解めっき処理において、金属イオンを含む電解質水溶液が、硫酸ニッケル(NiSO4)と次亜リン酸(H2PO3)を溶解した水溶液である場合に、前記無電解めっきの処理時に次亜リン酸(H2PO3)が分解されて、リン(P)がニッケル(Ni)被膜に付着し、残った2つの水素原子(H)が1つの酸素原子(O)と結合して水(H2O)に瞬時に変換される。又、残った2つの酸素原子(O)は相互に結合して酸素分子(O2)に瞬時に変換される。このように、前記無電解めっき処理では、前記鋼材の表面に水素原子(H)が侵入する余地が無いため、そのような工程を利用して、水素原子(H)の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を前記鋼材の表面に形成させ、当該鋼材の表面に水素原子が侵入する可能性をゼロにするのである。
【0040】
そして、前記鋼材の表面に前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層を形成させておけば、後続の水素原子が発生する電解めっき処理を行ったとしても、当該ニッケル又はニッケル合金のめっき層が、当該水素原子の鋼材の内部への侵入を阻害して、当該鋼材の内部に水素原子が侵入する可能性を完全にゼロとする。
【0041】
そのため、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の表面に、亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させたとしても、当該鋼材の内部に水素原子は侵入しないため、当該鋼材の水素脆化の発生可能性を限りなくゼロとすることが可能となる。その結果、前記鋼材を長期間使用したとしても、強度が低下する水素脆化の発生を気にする必要が無くなるため、安全面、品質面で非常に優れた鋼材を提供することが可能となる。
【0042】
又、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法では、従来から行われていた、水素原子の除去(追い出し)目的のベーキング処理を行う必要が無く、当該ベーキング処理自体を省略することが可能である。そのため、前記ベーキング処理に要するコストや処理時間を削減出来るとともに、当該ベーキング処理に伴う二酸化炭素の排出等も削減することが可能となる。その結果、コスト面、環境面の問題も解決することが可能となる。
【0043】
ここで、前記第一のステップにおいて、前記ブラスト処理は、前記鋼材の表面を物理的に粗面化するブラスト処理であれば、特に限定はないが、前記ブラスト処理として、例えば、ショットブラスト処理、サンドブラスト処理が挙げられる。又、前記ブラスト処理のうち、作業性の観点から、ショットブラスト処理が好ましい。前記ブラストとは、砂や鉄などの金属を圧縮空気やモーターの力を使って高速で対象物(鋼材)に飛ばして、当該対象物を粗面化することを意味する。
【0044】
又、前記ブラスト処理で使用されるブラスト材は、例えば、アルミナ質研削材、炭化ケイ素質研削材、ガラスビーズなど種々の材質のものを使用することが出来る。又、前記ブラスト材の形状は、球状でも鋭角形状でも良く、その粒度は、前記鋼材の種類や大きさ等に応じて適宜設計変更することが出来る。
【0045】
又、前記第二のステップは、前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させるステップであれば、特に限定はないが、前記第二のステップとして、例えば、前記粗面化された鋼材を、前記ニッケル又はニッケル合金の金属塩水溶液が満たされた無電解めっきの浴槽に浸漬させるステップが挙げられる。又、前記第二のステップにおける無電解めっき処理については、公知の技術が適用されても構わない。尚、前記金属塩水溶液とは、金属イオン(金属陽イオン)を含む電解質水溶液を意味する。前記第三のステップでも同様である。
【0046】
又は、前記ニッケル又はニッケル合金(例えば、リンを含むニッケル合金)は、めっき層となった場合に水素原子の侵入を防止する性質の非鉄金属に代えても構わない。当該金属として、例えば、アルミニウム、銅、金、銀、パラジウム、鉛、クロム、カドミウム、ビスマス、の群より選択された1種類もしくは2種類以上の非鉄、或いは2種類以上を含む非鉄の合金が挙げられる。尚、リンを含むニッケル合金を採用すると、加工容易性と低コスト性の観点から、好ましい。
【0047】
ここで、前記ニッケル又はニッケル合金で無電解めっきする場合、前記無電解めっきにおける金属塩水溶液は、例えば、硫酸ニッケルと公知の還元剤の次亜リン酸を水に溶解した水溶液が採用される。又、銅又はその合金で無電解めっきする場合、前記無電解めっきにおける金属塩水溶液は、例えば、硫酸銅と公知の還元剤を水に溶解した水溶液が採用される。
【0048】
又、前記ニッケル又はニッケル合金の金属塩水溶液における金属塩の濃度は、当該ニッケル又はニッケル合金の種別や浴槽の温度、浸漬時間に応じて適宜設計変更されるものの、例えば、ニッケル塩が0.5重量%〜5重量%の範囲内が好ましく、次亜リン酸塩が0.5重量%〜10重量%の範囲内が好ましい。
【0049】
又、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の厚さは、水素原子の侵入を防止する機能を有する厚みであれば、特に限定はないが、前記厚さとして、例えば、前記水素原子の侵入防止の観点から、3μm以上が好ましく、コストパフォーマンスの観点から、3μm〜5μmの範囲内が好ましい。このような構成とすると、前記無電解めっき処理に要する時間、コストを削減することが可能となる。
【0050】
又、前記無電解めっきの浴槽の温度は、前記ニッケル又はニッケル合金の種別や、金属塩水溶液の種類に応じて適宜設計変更されるものの、前記ニッケル又はニッケル合金の無電解めっきの場合は、処理時間やコストパフォーマンスの観点から、80度〜85度の範囲内が好ましい。又、前記無電解めっきの浸漬時間(処理時間)は、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の厚さに応じて適宜設計変更されるものの、10分以上が好ましい。
【0051】
尚、前記無電解めっきの浴槽の温度と浸漬時間との関係は、おおむね反比例の関係であり、当該浴槽の温度が高い場合は、当該浸漬時間を短くして、品質のよいニッケル又はニッケル合金のめっき層を前記鋼材の表面に形成させる。
【0052】
更に、前記無電解めっきの浴槽には、前記非鉄の金属塩水溶液の他に、安定剤、光沢剤等の添加剤が含まれていても構わない。
【0053】
又、前記第三のステップは、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる第三のステップであれば、特に限定はないが、前記第三のステップとして、例えば、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成された鋼材を、前記亜鉛の金属塩水溶液が満たされた電解めっきの浴槽に浸漬させて、前記鋼材を陰極とし、前記浴槽を陽極として電解めっきを施すステップが挙げられる。又、前記第三のステップにおける電解めっき処理については、公知の技術が適用されても構わない。
【0054】
又、前記亜鉛は、電解めっき可能な金属に代えても構わない。当該金属として、例えば、ニッケル、マグネシウム、マンガン、クロム、コバルト、アルミニウム、銅の群より選択された1種類もしくは2種類以上の金属、或いは2種類以上を含む金属の合金、例えば、鉄―亜鉛合金、鉄―ニッケル合金等が挙げられる。尚、前記亜鉛を採用すると、防食性と装飾性とコストの観点から、好ましい。
【0055】
ここで、前記亜鉛で電解めっきする場合、前記電解めっきにおける金属塩水溶液は、例えば、水酸化亜鉛を水に溶解した水溶液が採用される。
【0056】
又、前記亜鉛の金属塩水溶液における金属塩の濃度は、当該亜鉛の種別や浴槽の温度、浸漬時間に応じて適宜設計変更されるものの、例えば、亜鉛塩が0.5重量%〜2.0重量%の範囲内が好ましい。
【0057】
ここで、前記無電解めっき処理で、ニッケル又はその合金のめっき層を形成し、前記電解めっき処理で、亜鉛のめっき層を形成すると、特に好ましい。これは、前記ニッケル又はその合金と、前記亜鉛とはめっき処理において相性が良いため、当該亜鉛の電解めっき層を前記ニッケル又はその合金の無電解めっき層の表面にムラ無く均一に形成させることが可能となる。
【0058】
又、前記亜鉛のめっき層の厚さは、特に限定はないが、例えば、5μm以上が好ましく、コストパフォーマンスの観点から、5μm〜10μmの範囲内が好ましい。更に前記電解めっきの浴槽の温度は、前記亜鉛の種別や、金属塩水溶液の種類に応じて適宜設計変更されるものの、常温、例えば、20度〜35度の範囲内が好ましく、前記電解めっきの浸漬時間(処理時間)は、20分〜60分の範囲内が好ましい。
【0059】
尚、前記電解めっきの浴槽の温度と浸漬時間との関係は、前記無電解めっきと同様に、おおむね反比例の関係である。
【0060】
そして、前記電解めっきの浴槽には、上述した無電解めっきの浴槽と同様に、前記亜鉛の金属塩水溶液の他に、安定剤、光沢剤等の添加剤が含まれていても構わない。
【0061】
又、前記第一のステップから第三のステップまでの各ステップ間に、処理後の鋼材を洗浄する水洗(ステップ)を適宜設けられる。
【0062】
さて、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法では、基本的に第一のステップから第三のステップまででめっき処理を一応完了するが、当該めっき処理後の鋼材に更に付加価値を付けるために、公知の二次加工処理(ステップ)を適宜追加しても構わない。
【0063】
例えば、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法では、前記第三のステップが完了した後に、前記鋼材の金属のめっき層の上面に、クロム層をクロメート処理法(化成処理)で形成させる第四のステップ(図1:S104)を備えることが好ましい。
【0064】
前記第四のステップでは、例えば、前記亜鉛のめっき層が形成された鋼材を、クロム酸の金属塩水溶液が満たされたクロメート槽に浸漬させて、化成処理を施すことでなされる。このように構成すると、前記亜鉛のめっき層の腐食(酸化)を遅くさせることが可能となり、当該鋼材全体の防食性を著しく向上させることが可能となる。尚、前記第四のステップにおけるクロメート処理法については、公知の技術が適用されても構わない。
【0065】
又、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法では、更に、前記第四のステップが完了すると、所定の乾燥機により前記クロム層が形成された鋼材を乾燥する第五のステップ(図1:S105)と、当該鋼材に欠点が無いか否かを検査する第六のステップ(図1:S106)とを備えるよう構成してもよい。これにより、前記検査完了後の鋼材は、最終製品となる。
【0066】
又、本発明に係るめっき電気亜鉛処理方法の対象物である鋼材は、水素脆性が生じる鋼材であれば、特に限定はないが、前記鋼材として、例えば、炭素が含まれる炭素鋼材、高張力鋼、超高張力鋼が挙げられる。又、前記鋼材の形状にも特に限定はない。更に、前記鋼材の用途は、特に限定はなく、例えば、航空機用部品、自動車用部品、貯蔵部材、ボルトやナット等の締結部材等の用途が挙げられる。
【0067】
<電気亜鉛めっき処理装置>
本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置は、上述した電気亜鉛めっき処理方法を具現化出来る構成であれば、特に限定はないが、最も簡単な構成としては、下記の電気亜鉛めっき処理装置が挙げられる。
【0068】
即ち、本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置100は、鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理装置であって、図2に示すように、前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化するブラスト処理部101と、前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる無電解めっき処理部102と前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる電解めっき処理部103とを備える。前記ブラスト処理部101と前記無電解めっき処理部102と前記電解めっき処理部103とは一連の処理装置である。
【0069】
本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置100は、上述したブラスト処理部101、無電解めっき処理部102、電解めっき処理部103をこの順番で直列にライン上に配置することで構成され、主とするめっき処理は、当該ブラスト処理部101、無電解めっき処理部102と、電解めっき処理部103で行われる。
【0070】
具体的な手順について説明すると、先ず、めっき処理の対象となる鋼材は、ホイスト等の図示しない第一の搬送部によって、前記電気亜鉛めっき処理装置100のブラスト処理部101へ搬送される。ここで、前記ブラスト処理部101は、図3に示すように、一般的なショットブラスト装置が採用される。
【0071】
次に、前記鋼材が前記ショットブラスト装置により表面を粗面化されると、図示しない第二の搬送部により、前記ブラスト処理部101と前記無電解めっき処理部102との間に設けられた電解脱脂処理槽に浸漬され表面調整された後、第一の水洗槽に浸漬されて、水洗される。前記水洗の回数は制限が無いが、1回〜3回の範囲内、例えば、2回である。又、前記水洗処理は、後述のように、各種のめっき処理の間に適宜挿入される。
【0072】
ここで、前記ショットブラスト装置の直後に公知の処理ロット計算部を配置し、前記粗面化された鋼材の重量、表面積、密度等を鋼材毎に計算するよう構成しても良い。
【0073】
そして、前記水洗された鋼材は、前記第二の搬送部により、前記無電解めっき処理部102へ搬送される。ここで、前記無電解めっき処理部102は、図4に示すように、前記ニッケル又はニッケル合金の金属塩水溶液が満たされた無電解めっき槽が採用される。前記鋼材が前記無電解めっき槽に所定時間だけ浸漬されて、当該鋼材の表面に前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成され、前記無電解めっき処理が完了すると、図示しない第三の搬送部により、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層が形成された鋼材が、前記無電解めっき処理部102と前記電解めっき処理部103との間に設けられた第二の水洗槽に浸漬されて、水洗される。又、前記水洗の回数は制限が無いが1回〜3回の範囲内、例えば、2回である。
【0074】
そして、前記水洗された鋼材は、前記第三の搬送部により、前記電解めっき処理部103へ搬送される。ここで、前記電解めっき処理部103は、図5に示すように、前記亜鉛の金属塩水溶液が満たされた電解めっき槽が採用される。前記電解めっき槽の側面103aは陽極として機能し、当該電解めっき槽の上面に懸けられた長尺の金属棒103bは陰極として機能する。当然に、前記電解めっき槽の側面103aと金属棒103bとは電気的に絶縁されている。前記第三の搬送部は、図示しない金属製の保持部で前記鋼材を保持し、当該保持部を前記電解めっき槽の金属棒103bに掛けることで、当該保持部が保持する鋼材が陰極となり、前記陽極と陰極の間に所定の電流が所定時間だけ印加され、電解めっきが実行される。尚、前記電解めっき処理部103では、上述の電解めっき槽による方法に限られず、例えば、回転容器中で行うバレルめっき法や品物を陰極に取り付けて行う静止めっき法でも構わない。
【0075】
ここで、前記印加電流は、例えば、前記鋼材の電流密度が0.5A/dm2〜3.0A/dm2の範囲内となるように調整されると、品質の良い電解めっきの亜鉛のめっき層を前記鋼材の表面に形成させることが可能となる。
【0076】
前記電解めっきにより、前記鋼材の表面に前記亜鉛のめっき層が形成されると、当該鋼材は、図示しない第四の搬送部により外部へ搬送される。このような一連の処理により、前記鋼材にめっき処理が一応完了する。
【0077】
ここで、一般的な処理ではあるが、例えば、前記電解めっき処理部103の直後に第三の水洗槽が設けられ、前記電解めっき処理後の鋼材が当該第三の水洗槽に浸漬されて、水洗される。又、前記水洗の回数は制限が無いが、1回〜3回の範囲内、例えば、2回である。
【0078】
このように、本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置100では、ブラスト処理部101、無電解めっき処理部102、電解めっき処理部103、を基本的構成とし、従来から必要とされるベーキング処理部を不要とする。これにより、前記ベーキング処理に要するコストや処理時間を削減出来ることはもちろん、当該ベーキング処理部に要する管理費等も削減出来る。又、従来において、前記ベーキング処理を行っても、水素脆性の除去は、不完全であり、遅れ破壊に繋がる問題がある。
【0079】
更に、本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置100のブラスト処理部101、無電解めっき処理部102、電解めっき処理部103を直列のライン上に構成することで、めっき処理の管理を容易にし、管理者(操作者)を少なく出来て、コストパフォーマンスを向上することが出来る。
【0080】
又、図2に示す電気亜鉛めっき処理装置100の電解めっき処理部103の直後に、例えば、二次加工のためのめっき処理部(例えば、クロメート処理部)、乾燥部、検査部を追加することが好ましい。
【0081】
ここで、前記めっき処理部を追加する場合は、当該めっき処理部の直前、言い換えると、前記電解めっき処理部103の直後に公知の活性化処理部を設け、当該活性化処理部の浴槽に、前記電解めっき処理後の鋼材を浸漬させて、当該鋼材における亜鉛のめっき層を活性化させるよう構成しても良い。前記亜鉛のめっき層を活性化させることで、後続のめっき処理部による二次加工(クロメート処理)を均一に品質良く実施することが可能となる。
【0082】
尚、前記活性化処理部は、通常、クロメート処理に関係するめっき処理部に対応して設置されることは公知であり、当該活性化処理部の水溶液は、前記金属の種別に応じて適宜設計変更されるものの、前記活性化処理部の水溶液は、例えば、5.0重量%の硝酸水溶液である。
【0083】
又、上述に則って、新規に本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置を構成する場合、例えば、下記の構成が考えられる。即ち、前記ブラスト処理部101、前記処理ロット計算部、前記電解脱脂部、2つの水洗槽、無電解めっき処理部102、2つの水洗槽、電解めっき部103、2つの水洗槽、前記活性化処理部、2つの水洗槽、前記クロメート処理のためのクロメート処理部、2つの水洗槽、前記乾燥部、前記検査部を備える電気亜鉛めっき処理装置である。
【0084】
〈実施例、比較例等〉
以下、実施例、比較例等によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0085】
(1)鋼材
鋼材として、炭素が0.87重量%、珪素が0.19重量%、マンガンが0.41重量%、リンが0.11重量%、硫黄が0.009重量%、銅が0.01重量%、ニッケルが0.02重量%、クロムが0.13重量%、残部は鉄及び不純物の組成を持つ炭素鋼(SK85)を使用した。ここで、前記鋼材にめっき処理を施す場合は、当該鋼材から厚さ0.5mm×縦70.0mmの試験片を切り出して使用した。又、前記鋼材の硬さ(HV)は、436HV、481HV,508HV,575HV、675HVの6種類を用意した。
【0086】
(2)実施例、比較例等
本発明に係る実施例1の鋼材は、以下の手順により製造した。図1に示すように、先ず、前記鋼材に、図3に示すショットブラスト装置によりショットブラスト処理を施して(図:S101),当該鋼材の表面を粗面化した後、電解脱脂及び水洗した。
【0087】
次に、前記粗面化された鋼材を、図4に示す無電解めっきの浴槽に浸漬させたことで、当該鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させた(図1:S102)。
【0088】
ここで、前記無電解めっきの浴槽の浴組成は、ニッケル、塩が0.5重量%、次亜リン酸塩が8重量%〜9重量%である電解質水溶液であり、前記無電解めっきの浴槽の温度は、80度〜85度であった。又、前記鋼材を無電解めっきの浴槽に10分間、浸漬させることで、厚さが3μmであるニッケル合金のめっき層を前記鋼材の全表面にわたって形成させた。前記めっき層は、ニッケルを主とするニッケルリンのめっき層である。
【0089】
次に、前記無電解めっき後の鋼材を水洗し、当該鋼材を、亜鉛の金属塩水溶液が満たされた図5に示す電解めっきの浴槽に浸漬させて、当該鋼材を陰極、当該浴槽を陽極として通電し、前記ニッケル合金のめっき層の上面に前記亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させた(図1:S103)。
【0090】
ここで、前記電解めっきの浴槽の浴組成は、亜鉛塩(水酸化亜鉛)が1.5重量%である電解質水溶液であり、前記電解めっきの浴槽の温度は、25度であった。又、前記鋼材を電解めっきの浴槽に浸漬させたままで、当該鋼材への電流密度を1.3A/dmとして、48分、電解めっきを施して、厚さが8μmである亜鉛のめっき層を前記ニッケル合金のめっき層の全表面にわたって形成させた。前記亜鉛のめっき層を形成させた鋼材を実施例1の鋼材とした。
【0091】
尚、同様の処理を、硬さ(HV)が、436HV、481HV、508HV、575HV、675HV、の6種類の鋼材で行った。
【0092】
又、実施例2の鋼材は、実施例1における鋼材の無電解めっきの浴槽への浸漬時間を調整することで、当該鋼材に形成される非鉄のめっき層の厚さを3μmから1μmに変更したこと以外は、実施例1と同様の処理により製造した。
【0093】
又、実施例3の鋼材は、実施例1における鋼材の無電解めっきの浴槽への浸漬時間を調整することで、当該鋼材に形成される非鉄のめっき層の厚さを3μmから5μmに変更したこと以外は、実施例1と同様の処理により製造した。
【0094】
又、本発明に係る比較例1の鋼材は、以下の手順により製造した。図7に示すように、先ず、前記鋼材を電解脱脂の浴槽に浸漬させることで、当該鋼材にアルカリ脱脂処理を施した(図7:S202)。
【0095】
ここで、前記電解脱脂の浴槽の浴組成は、ケイ酸ナトリウム塩が7重量%〜10重量%である水溶液であり、前記電解脱脂の浴槽の温度は、60度であり、前記鋼材は、前記アルカリ脱脂の浴槽に30分間、浸漬させた。
【0096】
次に、前記電解脱脂処理後の鋼材を水洗して、当該鋼材を酸洗の浴槽に浸漬させて酸洗処理を施した(図7:S202)。
【0097】
ここで、前記酸洗の浴槽の浴組成は、塩酸が18重量%である水溶液であり、当該酸洗の浴槽の温度は、常温であり、前記鋼材は、前記酸洗の浴槽に15分間、浸漬させた。
【0098】
そして、前記酸洗処理後の粗面化された鋼材を水洗して、当該鋼材を、亜鉛の金属塩水溶液を満たした電解めっきの浴槽に浸漬させて、当該鋼材を陰極、当該浴槽を陽極として通電し、前記鋼材の粗面の表面に前記亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させた(図7:S203)。
【0099】
ここで、前記電解めっきの浴槽の各条件は、実施例1と同様であり、厚さが8μmである亜鉛のめっき層を前記鋼材の粗面の全表面にわたって形成させた。
【0100】
更に、前記電解めっき後の鋼材を、乾燥機に投入して、210度、4時間、ベーキング処理を施した(図7:S204)。前記ベーキング処理後の鋼材を比較例1の鋼材とした。尚、同様の処理を、硬さ(HV)が、436HV、481HV、508HV、575HV、675HVの6種類の鋼材で行った。
【0101】
又、本発明に係る参考例1の鋼材は、実施例1における無電解めっき処理を施した後に、電解めっき処理を省略した(無くした)こと以外は、実施例1と同様の処理により製造した。この場合、参考例1の鋼材は、表面にニッケルリン(ニッケル合金)のめっき層のみが形成されていることになる。
【0102】
又、参考例2の鋼材は、実施例2における無電解めっき処理を施した後に、電解めっき処理を省略したこと以外は、実施例2と同様の処理により製造した。
【0103】
又、参考例3の鋼材は、実施例3における無電解めっき処理を施した後に、電解めっき処理を省略したこと以外は、実施例3と同様の処理により製造した。
【0104】
又、参考例4の鋼材は、実施例1におけるブラスト処理を施した後に、無電解めっき処理を省略して(無くして)、電解めっき処理を施したこと以外は、実施例1と同様の処理により製造した。この場合、参考例4の鋼材は、表面に亜鉛のめっき層のみが形成されていることになる。
【0105】
(3)水素脆化度(%)の測定方法
所定のめっき処理を施した鋼材の水素脆化度(%)は、JIS Z 2247 B法に規定されている方法に準拠して万能深絞り試験機を用いて測定した。先ず、前記鋼材を万能深絞り試験機に固定して、当該鋼材に半円形状の鋼材押し込みボールを押し付け、当該鋼材を湾曲させる。そして、前記湾曲された鋼材が割れる(破断する)まで前記鋼材押し込みボールを押し付け、前記鋼材押し込みボールの押し込みを開始してから前記鋼材が割れるまでの当該鋼材押し込みボールの移動の高さ(距離)をエリクセン高さH(mm)とした。
【0106】
そして、前記水素脆化度X(%)は、めっき処理前の鋼材のエリクセン高さH0(mm)と、めっき処理後の鋼材のエリクセン高さH(mm)とをそれぞれ測定し、下記の式に代入することで算出した。
X(%)=(H0−H)/H0×100
【0107】
尚、前記水素脆化度X(%)は、上述の式から明らかなように、めっき処理後の鋼材のエリクセン高さH(mm)が、めっき処理前の鋼材のエリクセン高さH0(mm)に近づくと、ゼロに近いことが理解される。つまり、めっき処理後の鋼材の内部に水素原子が侵入した場合に、当該めっき処理後の鋼材は水素脆化により脆くなり、そのエリクセン高さH(mm)は、めっき処理前の鋼材のエリクセン高さH0(mm)よりも当然に低くなる。その脆化が水素脆化度X(%)に対応するのである。
【0108】
(4)水素脆化度の測定結果
図6は、実施例、参考例、比較例、における水素脆化度の結果の一例を示す図である。図6に示すように、実施例1〜3の水素脆化度X(%)は、ベーキング処理を行っていないにも関わらず、0%であり、全く水素脆化が発生していないことが理解される。
【0109】
これは、実施例1〜3では、酸洗処理をブラスト処理に代えるとともに、電解めっき処理の前に、水素原子が侵入しない無電解めっき処理で水素原子の侵入を防止するニッケル合金(ニッケル―リン合金)のめっき層を前記鋼材の全表面に設けたため、後から水素原子が発生する亜鉛の電解めっき処理を施しても、当該ニッケル合金のめっき層が水素原子の侵入を防止したと推察される。
【0110】
一方、比較例1の水素脆化度X(%)は、前記ベーキング処理を行っているにも関わらず、前記電解めっき処理により水素原子が侵入して水素脆化を起こしていることが理解される。
【0111】
これは、前記ベーキング処理は、通常、前記鋼材の内部に侵入した水素原子を外部に拡散させる目的でなされるが、当該鋼材の表面には、既に前記電解めっきによる亜鉛のめっき層が存在するため、当該金属のめっき層が、内部の水素原子の外部拡散を阻害していると推察される。更に、前記ベーキング処理による水素脆化防止の効果は、確実でないことも理解される。これが、遅れ破壊に繋がると推定される。
【0112】
尚、参考例1〜3の水素脆化度X(%)は、前記ブラスト処理、無電解めっき処理を行い、電解めっき処理を行っていない場合でも、0%であり、全く水素脆化が発生していないことが理解される。これにより、前記鋼材の表面に、前記ニッケル合金のめっき層を一度形成させれば、当該ニッケル合金のめっき層の上面に、どのような種類の金属のめっき層を電解めっきで形成させても、当該鋼材の水素脆化度X(%)は0%になると推察される。
【0113】
又、参考例4の水素脆化度X(%)は、前記ニッケル合金のめっき層が存在しないと、比較例1と同様に、前記電解めっき処理により水素原子が侵入して水素脆化を起こしていることが理解される。
【0114】
(5)費用比較
前記鋼材1kg当たりの実施例1の費用と比較例1の費用とを算出して、両者を比較した。ここで、費用を算出する場合、実施例1でも比較例1でも電解めっき処理は共通しているため、両者の異なる処理について費用を算出して比較した。
【0115】
先ず、実施例1におけるショットブラスト処理に要する費用は、ショット粒消耗費が0.42円/kgであり、ショット機償却費が0.83円/kgであり、ショット機維持管理費が1.17円/kgであるため、それらの合計の2.42円/kgである。又、実施例1における無電解めっき処理に要する費用は、無電解めっき液薬品代が5.15円/kgであり、無電解めっき槽償却費が0.42円/kgであり、無電解めっき槽維持管理費が0.83円/kgであるため、それらの合計の6.40円/kgである。よって、実施例1におけるショットブラスト処理と無電解めっき処理とに要する費用は、8.82円/kgである。
【0116】
一方、比較例1における酸洗処理に要する費用は、酸洗液薬品代が0.17円/kgであり、酸洗槽償却費が0.14円/kgであり、酸洗処理槽維持管理費が0.15円/kgであるため、それらの合計の0.46円/kgである。又、比較例1におけるベーキング処理に要する費用は、熱源(プロパンガス)費が10.67円/kgであり、ベーキング炉償却費が1.38円/kgであり、ベーキング炉維持管理費が2.50円/kgである。よって、比較例1における酸洗処理とベーキング処理とに要する費用は、15.01円/kgである。
【0117】
実施例1の費用と比較例1の費用とを比較すると、実施例1の費用が、比較例1の費用と比較して6.19円/kgだけ安価であることが理解される。そのため、実施例1の電気亜鉛めっき処理方法が、従来技術である比較例1の電気亜鉛めっき処理方法と比較してコストパフォーマンスに優れることが理解される。
【0118】
又、比較例1では、前記ベーキング処理により、多量の熱量(プロパンガス)を必要とし、その熱量のために多量の二酸化炭素を放出することになる。一方、実施例1では、前記ベーキング処理を省略しているため、前記二酸化炭素の放出は有り得ない。そのため、実施例1の電気亜鉛めっき処理方法が、比較例1の電気亜鉛めっき処理方法と比較して環境負荷物質の二酸化炭素の削減に大きく寄与することが理解される。
【0119】
尚、比較例1に対応する従来技術のベーキング処理では、例えば、2時間処理する場合、前記ベーキング処理装置を、温度上昇と下降を含めて、少なくとも4時間稼働させる必要がある。又、例えば、4時間処理する場合、前記ベーキング処理装置を、少なくとも7時間稼働させる必要がある。このように、前記ベーキング処理では、温度の調整に要するコストと処理時間、それに伴う二酸化炭素の排出が著しいため、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置は、それらのコスト等を総合的に削減することが出来るため、画期的な作用効果を有する。
【0120】
このように、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法では、鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理方法であって、前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化する第一のステップと、前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる第二のステップと、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる第三のステップと備えることを特徴とする。
【0121】
これにより、電気亜鉛めっき処理に起因するめっき処理後の鋼材における水素脆化(遅れ破壊)の発生可能性をゼロとするとともに、コストパフォーマンスを向上させ、環境負荷軽減に寄与することが可能となる。
【0122】
又、本発明に係る電気亜鉛めっき処理装置100は、鋼材にめっきを施す電気亜鉛めっき処理装置であって、前記鋼材の表面にブラスト処理を施して粗面化するブラスト処理部101と、前記鋼材の粗面の上面に、水素原子の侵入を防止するニッケル又はニッケル合金のめっき層を無電解めっきで形成させる無電解めっき処理部102と、前記ニッケル又はニッケル合金のめっき層の上面に、亜鉛のめっき層を電解めっきで形成させる電解めっき処理部103とを備えることを特徴とする。これにより、上述した電気亜鉛めっき処理方法と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【0123】
又、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法又は電気亜鉛めっき処理装置100で製造された鋼材は、上述のように水素脆化度X(%)が0%であるため、長期使用しても水素脆化(遅れ破壊)が発生せず、安全面、品質面に優れた鋼材として提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上のように、本発明に係る電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置は、航空分野、自動車分野、燃料電池分野、水素エネルギー分野等の様々な分野で使用される鋼材の電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置として有用である。又、電気亜鉛めっき処理に起因する水素脆化(遅れ破壊)の発生可能性をゼロとするとともに、コストパフォーマンス及び環境負荷軽減に優れる電気亜鉛めっき処理方法及び電気亜鉛めっき処理装置として有効である。
【符号の説明】
【0125】
100 電気亜鉛めっき処理装置
101 ブラスト処理部
102 無電解めっき処理部
103 電解めっき処理部















図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7