(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1、特許文献2では、マトリックス樹脂に主に熱硬化性材料を使用するため、加熱炉や加圧装置の金型の温度の上限が高く設定する必要があり、成形装置のコストとランニングコストの両方のコストが高額になりすぎるという問題があった。またマトリックス樹脂に主に熱硬化性材料を使用したものは、成形品1個あたりの成形時間が長く必要であるという問題があった。更にはまたマトリックス樹脂に主に熱硬化性材料を使用した場合、1次成形品に2次加工を行いにくいという問題があった。
【0007】
特許文献3は、熱可塑性樹脂を使用したものであるが、プレス装置以外に加熱装置を別途に設ける必要があった。更に特許文献3は、前記成形を常圧下で行うため、気泡が完全に抜けていない炭素繊維複合成形品となる恐れが十分にあった。特許文献4については、熱可塑性樹脂を使用して真空吸引も行うものであるが、
図11に示されるように真空吸引のみが別個の工程として行われ、その間は成形品の両面に対して両方の金型から同時に加熱が行われないので、加熱時に熱可塑性樹脂から発生するガスが良好に吸引できない可能性があった。また特許文献4の成形型体はシール部材により両側が保持され、気密状態にされた際にはシール部材が押しつぶされるので空間が維持できずに、真空度が上がるにつれて成形型体内部の吸引が難しくなるという問題があった。更には金型とは別個に成形型体が必要となるので構造が複雑化するものであった。
【0008】
そこで本発明では、加圧工程の前に、一方と他方の金型または加圧板の間が真空吸引された状態で前記金型または加圧板により前記熱可塑性樹脂と繊維材料を所定時間加熱する加熱工程を設けることにより、熱可塑性樹脂の加熱溶融時に発生するガス等が真空吸引されるとともに繊維材料に含まれる空気も除去することができ、ボイド等がなく密度が高い繊維複合成形品を成形可能な繊維複合成形品のプレス成形方法、繊維複合成形品のプレス成形装置、および繊維複合成形品の金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載の繊維複合成形品のプレス成形方法は、一方と他方の金型間または加圧板間で熱可塑性樹脂と繊維
マットを加熱および加圧して熱可塑性樹脂が含浸された繊維複合成形品を成形する繊維複合成形品のプレス成形方法において、加熱された一方と他方の金型間または加圧板間において
熱可塑性樹脂または繊維マットに対する一方の金型または一方の加圧板の距離が10mm以内に近接させるか或いは熱可塑性樹脂または繊維マットに対して一方の金型または一方の加圧板を当接させて前記一方の金型または前記一方の加圧板を停止させ、熱可塑性樹脂と繊維
マットの間に空間が維持された状態または
該繊維マットの繊維の間に空隙が残され空間が維持された状態で所定時間真空吸引しつつ両面側から加熱を行う加熱工程と、加熱された一方と他方の金型または加圧板の間
で前記熱可塑性樹脂と繊維
マットの加圧
および繊維への熱可塑性樹脂の含浸の促進を行う加圧工程を順次行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に記載の繊維複合成形品のプレス成形方法は、請求項1において、一方の金型または加圧板に熱可塑性樹脂と繊維
マットを載置した状態で、一方または他方の金型または加圧板を移動させて、他方の金型と熱可塑性樹脂と繊維
マットのいずれかが当接または近接した状態で停止させ、加熱工程を開始
し、前記加熱工程において一方の金型または一方の加圧板を昇降させることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に記載の繊維複合成形品のプレス成形方法は、請求項1または請求項2において、前記加熱工程では、金型または加圧板の温度を前記熱可塑性樹脂の融点温度以上に昇温し、前記加圧工程の後半には、金型または加圧板の温度を前記熱可塑性樹脂の熱変形温度以下に冷却し、その後に型開を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に記載の繊維複合成形品のプレス成形方法は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記加熱工程では、プレス装置を位置制御することにより一方または他方の金型または加圧板の位置を制御し、前記加圧工程では、少なくとも過半の時間においてプレス装置を圧力制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5に記載の繊維複合成形品のプレス成形装置は、一方と他方の金型間または加圧板間で熱可塑性樹脂と繊維
マットを加熱および加圧して熱可塑性樹脂が含浸された繊維複合成形品を成形する繊維複合成形品のプレス成形装置において、加熱された一方と他方の金型間または加圧板間において
熱可塑性樹脂または繊維マットに対する一方の金型または一方の加圧板の距離が10mm以内に近接させるかまたは熱可塑性樹脂または繊維マットに対して一方の金型または一方の加圧板を当接させて前記一方の金型または前記一方の加圧板を停止させ、熱可塑性樹脂と繊維
マットの間に空間が維持された状態または
該繊維マットの繊維の間に空隙が残され空間が維持された状態で所定時間真空吸引しつつ両面側から加熱を行う加熱工程と、加熱された一方と他方の金型または加圧板の間
で前記熱可塑性樹脂と繊維
マットの加圧
および繊維への熱可塑性樹脂の含浸の促進を行う加圧工程を順次行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭素繊維複合成形品のプレス成形方法およびプレス成形装置は、一方と他方の金型間または加圧板間で熱可塑性樹脂と繊維
マットを加熱および加圧して熱可塑性樹脂が含浸された繊維複合成形品を成形する繊維複合成形品のプレス成形方法において、加熱された一方と他方の金型間または加圧板間において
熱可塑性樹脂または繊維マットに対する一方の金型または一方の加圧板の距離が10mm以内に近接させるか或いは熱可塑性樹脂または繊維マットに対して一方の金型または一方の加圧板を当接させて前記一方の金型または前記一方の加圧板を停止させ、熱可塑性樹脂と繊維
マットの間に空間が維持された状態または
該繊維マットの繊維の間に空隙が残され空間が維持された状態で所定時間真空吸引しつつ両面側から加熱を行う加熱工程と、加熱された一方と他方の金型または加圧板の間
で前記熱可塑性樹脂と繊維
マットの加圧
および繊維への熱可塑性樹脂の含浸の促進を行う加圧工程を順次行うので、熱可塑性樹脂の加熱溶融時に発生するガス等が真空吸引されるとともに繊維材料に含まれる空気も良好に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1により本実施形態の繊維複合成形品のプレス成形装置11(以下単にプレス成形装置11と略す)について説明する。プレス成形装置11は、下側に設けられた固定盤12の四隅の近傍にはそれぞれタイバ13が立設され、タイバ13の上部には受圧盤に相当する上盤14が固定されている。上側の上盤14と下側の固定盤12の間には可動盤15が設けられている。可動盤15の四隅の近傍のガイド穴にタイバ13が挿通され、可動盤15はタイバ13に沿って昇降自在となっている。上盤14には加圧機構である油圧シリンダ16が設けられ、油圧シリンダ16のラム17が可動盤15の背面(上面側)に固定されている。本実施形態では油圧シリンダ16は所定のストロークを有しており、可動盤15の昇降移動機能(型開閉移動機能)と、加圧機能を兼ねている。プレス成形装置11の油圧シリンダ16は図示しない油圧回路を経て油圧源に接続されている。油圧シリンダ16または油圧シリンダ16に接続される油圧回路には作動油の圧力を検出する図示しない圧力センサが取付けられている。また固定盤12と可動盤15とを接続して、固定盤12に対する可動盤15の位置を検出するMTSセンサ等の位置センサ18が取付けられている。位置センサ18は接触式、非接触式を問わず、金型の間の距離を測定するように取付けられるものでもよい。プレス成形装置11は後述するように種々のタイプが想定される。
【0017】
そしてプレス成形装置11の固定盤12の上面には一方の金型である固定金型19(下型)が取付けられている。また可動盤15の下面には他方の金型である可動金型20(上型)が取付けられている。固定金型19と可動金型20からなる金型21は、凹部23を備えた固定金型19に対して、凸部26を備えた可動金型20が嵌合されて容積が変更可能なキャビティ22が形成されるインロウ構造の金型21である。固定盤12に対してボルト、冶具、磁石等によって取付けられる固定金型19は、凹部23の底面と側面がそれぞれ繊維複合成形品Wを形成する際のキャビティ形成面24,25となっている。また可動盤15に対してボルト、冶具、磁石等により取付けられる可動金型20の凸部26の前面が前記繊維複合成形品Wを形成する際のキャビティ形成面27となっている。そして固定金型19の凹部23の側面24と可動金型20の凸部26の側面28は嵌合された際に、キャビティ22内の真空吸引は可能だが溶融樹脂が入り込まないようよう極めて僅かな間隔を介して対向状態か摺動状態に形成されている。
【0018】
また金型21の固定金型19と可動金型20の内部にはそれぞれ熱媒が流通される図示しない管路が形成されている。本実施形態では熱媒は熱媒油が用いられ、図示しない熱媒油供給装置から温度制御された熱媒油が循環供給されるよう送出側の管路と排出側の管路が接続されている。また固定金型19においては固定盤12への取付面の側、可動金型20においては可動盤15への取付面の側には、それぞれ図示しない断熱板が設けられている。
【0019】
金型21のキャビティ形成面24,25,27については、繊維材料複合成形品Wが最終成形品である場合は、その最終成形品の形状に応じた凹凸が形成されている。また繊維材料複合成形品Wが最終成形品でなく、1次成形品を含む中間成形品である場合は、キャビティ形成面24,25,27は、コスト、加工容易性、離型性、含浸性などを重視した形状となっている。また
図1では繊維材料複合成形品Wを取出すためのエジェクタ装置は記載されていないが、エジェクタ装置を設けるようにしてもよい。なお上記では、固定金型19が一方の金型であり可動金型20が他方の金型の場合を記載しているが、その逆であって、固定金型が他方の金型であり可動金型が一方の金型であってもよい。
【0020】
そしてプレス成形装置11と金型21は、外界とは隔絶される真空チャンバ29を形成するための壁部30により側面、上面、下面が覆われている。そして側面の壁部30には開閉扉31が設けられている。壁部30と開閉扉31の間にはシール部材32が設けられ、開閉扉31を閉鎖した際に、壁部30と開閉扉31の間が完全にシールされるようになっている。また真空チャンバ29の壁部30の開口33には管路34が接続され、管路34は真空ポンプ35に接続されている。なお管路34には開閉弁や切換弁等も設けられるが図示は省略する。
【0021】
なお本実施形態では、プレス成形装置11と金型21が真空チャンバ29内に格納されているが、固定盤12と可動盤15の間の部分だけがベローズや側板等により外部とは隔絶され真空状態となるようにしたものでもよい。また金型21が嵌合されるにつれて、固定金型19と可動金型20がいずれかの金型に設けたシール部材によりシールされ、金型21のキャビティ22を含む空間のみが外界と隔絶されて、真空空間を構成するようにしたものでもよい。
【0022】
そしてプレス成形装置11には成形開始から成形完了までの金型21の温度、可動金型20の位置、加圧力、真空チャンバ29の真空度などを制御する図示しない制御装置が配置されている。またプレス成形装置11の近傍には、プレス成形装置11に繊維材料と熱可塑性樹脂をセットにしてか、またはそれぞれを別個に搬入することのできる図示しない搬入装置が配設されている。繊維材料と熱可塑性樹脂シートは、予め乾燥や予熱を行ってからプレス成形装置11へ搬入されるようにしてもよく、その場合は乾燥装置や予熱装置(または両者を兼ねた装置)を配設してもよい。そしてまたプレス成形装置11の近傍には、成形の終了した繊維材料複合成形品Wを搬出する図示しない搬出装置が配設されている。繊維材料複合成形品Wが1次成形品を含む中間成形品である場合は、搬出装置の後工程に中間成形品の貯蔵設備や2次プレス成形装置が配設される。
【0023】
次に本実施形態のプレス成形装置11を用いた繊維複合成形品のプレス成形方法について説明する。本実施形態において使用される繊維材料は炭素繊維が用いられる。ここでは炭素繊維は、厚みが1〜5mm、一辺の長さが40cm四方の正方形の炭素繊維マットFの形態で用いられる。炭素繊維マットFは、方向性を持って織られたものでもよく、不織状態のものでもよい。または塊状のものを複数配置して層状にしたものでもよい。また炭素繊維マットFは炭素繊維に加えて、別の繊維層(一例としてガラス繊維、金属繊維、アラミド繊維など)を加えたものでもよい。
【0024】
また本実施形態で使用されるマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂は、ポリアミド(PA6)樹脂からなり、厚みが0.5〜5mm、一辺の長さが40cm四方の正方形の熱可塑性樹脂シートRである。ポリアミドは溶融時の流動性に優れており、炭素繊維マットFへの含浸に優れている。そして熱可塑性樹脂(ポリアミド)は、熱可塑性樹脂シートRの形態で用いられる。熱可塑性樹脂シートRは取扱いが容易であるので好ましいが、もっと薄い樹脂フィルムや、シートよりももっと硬さがあって厚みもある樹脂板であってもよい。また更には熱可塑性樹脂の形態は、粉状や粒状のものであって、キャビティ22全体に行渡るように供給されるものでもよい。
【0025】
キャビティ形成面25に載置される熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFの枚数は、熱可塑性樹脂シートRや炭素繊維マットFの厚みや種類により相違し特に限定はされない。しかし一例としてそれぞれ1〜10枚程度が重ねて用いられ、全体(熱可塑性樹脂と炭素繊維の総重量)に占める炭素繊維の重量パーセント比が、25〜70%、更に望ましくは35〜60%にとなるようにすることが望ましい。また熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFの重ね方は限定されないが、ここでは金型21のキャビティ形成面25,27と当接される外側を炭素繊維マットFとし、内部に熱可塑性樹脂シートRが挟まれる形に配置される。本実施形態では固定金型19の凹部23のキャビティ面25と熱可塑性樹脂シートRとの間の真空吸引が妨げられないように、熱可塑性樹脂シートRの大きさがキャビティ面25の大きさよりも僅かに小さいものが使用される。しかし熱可塑性樹脂シートRに1〜複数個の穴が形成されたものでもでもよい。
【0026】
これらの熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFは、事前に図示しない乾燥装置で所定時間以上、乾燥したものが望ましい。熱可塑性樹脂シートRまたは炭素繊維Cに水分が含まれていると、炭素繊維の繊維複合成形品Wを成形する際に、前記水分が水蒸気となりボイドが発生し、炭素繊維に対する熱可塑性樹脂の含浸を阻害する。熱可塑性樹脂が粉状や粒状などの場合も乾燥することが望ましい点は同じである。そして載置・型閉工程Aにおいて、熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFは、プレス成形装置11の近傍の図示しない搬入装置により、壁部30に対して開閉扉31が開放された搬入・搬出口から投入され、可動金型20が型開されることにより開放されている固定金型19のキャビティ形成面25の上に載置される。この際に
図3に示されるように、一方の金型である固定金型19と他方の金型である可動金型20は、熱媒油により加熱された状態にある。
【0027】
次に搬入装置が後退すると、開閉扉31が閉鎖される。そして次に真空ポンプ35が作動されるかまたは作動されていた真空ポンプ35と真空チャンバ29の間の管路34の開閉弁等が開放され、真空ポンプ35により真空チャンバ29内の真空吸引が行われる。真空チャンバ29の真空度については限定されるものではないが、一例として10hPa〜100hPaに真空化される。真空チャンバ29内が所定の真空度まで減圧されると熱可塑性樹脂シートR間の炭素繊維マットFは、真空吸引により容積が減少する。従って熱可塑性樹脂シートR間の炭素繊維マットFの高さは当初の載置時よりも低くなる。
【0028】
次に真空チャンバ29内が所定の真空度まで減圧されると、プレス成形装置11の加圧機構である油圧シリンダ16の型閉側の油室16aに作動油を供給し、ラム17が下降するとともに可動盤15および可動金型20が固定盤12および固定金型19に向けて下降される。この際に可動盤15および可動金型20の作動は、位置センサ18により位置が検出され、油圧シリンダ16により位置制御または速度制御される。
【0029】
そして可動金型20のキャビティ形成面27が炭素繊維マットFに当接すると可動金型20の下降は位置制御により停止される。熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFを重ねた際の高さは予め判明しているので、可動金型20が熱可塑性樹脂シートRまたは炭素繊維マットFのいずれかの表面に当接する停止位置を予め作業員がプレス成形装置11に設定しておき、その位置で可動金型20が停止されるように制御する。なお可動金型20の停止位置は、熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFのいずれかの表面に当接しなくても表面の近傍の可動金型20から熱が伝わる位置であってもよい。金型19,20の温度、熱可塑性樹脂の種類等にもよるが、近傍とは熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFのいずれかから10mm以内、更に望ましくは5mm以内であれば熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFの集合体の両面側からの伝熱が良好にできる。また可動金型20が、熱可塑性樹脂シートRまたは炭素繊維マットFに当接して更に押圧した際、油圧シリンダ16の油圧の上昇変化(電動モータによる加圧機構の場合は電流値やトルクの上昇変化)により、可動金型20が停止されるように制御してもよい。従って当接また近接させた位置で可動金型20を停止されるとは、僅かな圧力を熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFのいずれかの表面に加えた状態であっても炭素繊維の間に空隙が残された状態で空間が確保され可動金型20が停止された状態であればよい。
【0030】
そしてこの状態において所定時間真空吸引しつつ前記熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFの両面側から加熱する加熱工程Bを行う。加熱工程Bでは、熱媒油によって加熱されている固定金型19と可動金型20から熱可塑性樹脂シートRに熱が付与され、熱可塑性樹脂シートRは溶融状態となる。本実施形態では熱可塑性樹脂は、ポリアミド(PA6)であり、それぞれの金型21はPA6の融点である225℃を超えた温度となるように熱媒油の温度が温度制御される。金型温度は、PA6の場合は、200〜330℃が望ましく、一例として使用される熱可塑性樹脂の融点−25℃〜融点+100℃の範囲、更に望ましくは融点と同じ温度〜融点+60℃の範囲とする。
【0031】
また加熱工程Bにおいて可動金型20は位置制御により保持される、しかし本発明では、熱可塑性樹脂の溶融状態の進行と真空吸引の進行ともに可動金型20をキャビティ22内における空間を維持しつつ僅かづつ下降させるものでもよい。また炭素繊維マットFからの空気を追い出す目的や溶融の進行した熱可塑性樹脂からのガスを追い出す目的のために、可動金型20を昇降させて、圧力を断続的に加えるなどしてもよい。いずれにしても加熱工程Bの特徴は、継続して熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFに加圧を行わないことにより、キャビティ22内に熱可塑性樹脂シートRおよび炭素繊維マットF以外の空間が形成された状態で、加熱と並行して真空吸引を良好に行うことである。
【0032】
この加熱工程Bの時間としては、重ねられる熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFの枚数や厚みにもよるが、10〜300秒程度が望ましい。本発明では、加熱工程Bにおいて真空を併用することにより、炭素繊維と熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)内の空気や水分が奪われ、炭素繊維複合成形品Wの中の熱可塑性樹脂の部分に空洞などが無くなり、熱可塑性樹脂と炭素繊維の密着性が非常に良好な含浸が行える。または真空により炭素繊維に対する熱可塑性樹脂の含浸が促進されて成形時間が短時間でよくなる。
【0033】
そして所定時間が経過すると加熱工程Bは終了して次に加圧工程C(含浸工程)へ移行する。加圧工程Cでは、加圧機構である油圧シリンダ16の型閉側の油室16aに作動油が再度供給されるか型開側の油室16bの作動油の油圧を僅かづつ低下させて可動金型20を更に下降させる。この際に可動金型20が急速に下降して固定金型19等に衝撃が加わらないように制御がなされる。そしてキャビティ22内が炭素繊維と熱可塑性樹脂のみとなるとその後は油圧シリンダ16の型閉側の油室16aへ供給する作動油を昇圧させて加圧を行う。そして可動金型20の位置が予め設定した位置に到達するか、油圧シリンダ16の型閉側の油室16aが昇圧され、型閉側の油室16aの圧力を検出する圧力センサが予め設定した圧力を検出したらそれまでの位置制御(または速度制御)から圧力制御に切り替える。加圧工程Cのうちの少なくとも過半の時間は圧力制御により制御される。
【0034】
そして圧力制御により熱可塑性樹脂と炭素繊維を圧縮して炭素繊維への熱可塑性樹脂の含浸を促進させる。この際のキャビティ形成面27から炭素繊維と熱可塑性樹脂に加えられる面圧は、一例として1.0〜15.0MPa、更に望ましくは2.0〜10.0MPaとなっている。また加圧工程Cの時間は、1〜120分程度が望ましい。またこの際にも可動金型20を昇降させてマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂のガス抜きや炭素繊維への含浸の促進を行うものでもよい。
【0035】
加圧工程Cのうちの過半の時間は、炭素繊維への熱可塑性樹脂(PA6)の含浸を促進させるため、固定金型19と可動金型20は、加熱工程Bと同じ温度(または上記の許容範囲の温度帯の範囲内で昇温または降温してもよい)に維持されている。しかし加圧工程Cの後半には、金型21の熱媒の通路に冷却された熱媒油(または水)を供給して金型21を冷却する。この際の金型21の温度は、50〜150℃になるように温度コントロールされ、繊維材料複合成形品Wの温度を熱変形温度以下に下降させる。
【0036】
また加圧工程Cの間も管路34を介して真空ポンプ35から真空チャンバ29内およびキャビティ22内の真空吸引は継続されている。そのためキャビティ22内で溶融状態の熱可塑性樹脂からガスが発生しても良好に吸引することができる。なお加圧工程Cにおける真空吸引が成形品のバリを助長する等で不具合がある場合、加圧工程Cの最初から最後まで、または一部の時間(特に後半の冷却時間)、真空吸引を中止してもよい。真空吸引を後半まで行っている場合には、加圧工程Cの終了間際には、真空ポンプ35と真空チャンバ29内との接続状態を断絶するか、真空ポンプ35を停止させて、真空チャンバ29内に大気を導入して真空破壊を行う。
【0037】
そして型開・取出工程Dでは、プレス成形装置11の加圧機構である油圧シリンダ16を作動させて可動金型20の型開を行う。可動金型20の型開とともに含浸および成形の完了した繊維材料複合成形品Wと可動金型20の離型が行われ、繊維材料複合成形品Wは固定金型19に残置される。またそれと前後して壁部30の開閉扉31の開放が行われる。そして図示じないエジェクタ装置や搬出装置を用いて繊維材料複合成形品は取り出される。そして繊維材料複合成形品が1次成形品を含む中間成形品である場合は、後工程へ搬出される。
【0038】
次に別の実施形態の繊維複合成形品のプレス成形装置51について説明する。
図4に概略が示されるようにプレス成形装置51は、上盤52と下盤53の間にタイバ54にガイドされて昇降可能な可動盤55が設けられている。そして可動盤55の上面には一方の加圧板56が配設され、上盤52の下面には他方の加圧板
57が配設されている。
【0039】
そして可動盤55の下方には加圧用の油圧シリンダ58のラム59が固定されている。油圧シリンダ58は、図示しない油圧ポンプとその油圧回路により駆動制御される。そして可動盤55と前記可動盤55に固定された加圧板56は、加圧用の油圧シリンダ58の駆動により上盤52に固定される加圧板57に向けて押し上げられる。そして一方の加圧板56と他方の加圧板57の間で、熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFの加圧が行われる。
【0040】
一方と他方の加圧板56,57は、表面が平坦面からなる均等な板厚の金属板(一般的には鉄板)である。そして内部には熱媒油が流通可能な通路がそれぞれ形成されている。加圧板56,57の前記通路は、供給側、排出側ともに、図示しない管路を介して、熱媒油の加熱と冷却を制御する熱媒供給装置に接続されている。なお加圧板56、57の加熱は、加圧板56,57内に設けられた電気ヒータや、加圧板57内の通路に蒸気を供給して行うようにしてもよく、加圧板57,57の冷却についても通路に水を供給して行うようにしてもよい。
【0041】
また前記上盤52と下盤53の間の可動盤55および加圧板56,57等が配設される成形空間60は、密閉可能なチャンバ61により外界と隔絶可能となっている。チャンバ61は管路と図示しないバルブやフィルタ等を介して真空ポンプ61に連通されている。そしてプレス成形装置51には成形開始から成形完了までの加圧板56の位置、加圧板56、57の温度、加圧力、チャンバ61内の真空度などを制御する制御装置が配置されている。
【0042】
図4においてプレス成形装置51は、加圧板56,57(熱板)が2枚で構成された例が記載されているが、加圧板56、57の枚数は少なくとも2枚以上であれば限定されない。加圧板が3枚以上の場合は、平行に加圧板が配置され、圧縮用の油圧シリンダ58の駆動により同時に各加圧板の間で、熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFFの加熱・加圧が行われ大量生産に適する。なお加熱工程Bでは、加圧板が3枚以上の場合にも各加圧板の間を所定の間隔に保持する必要があるので、各加圧板の間に別途に油圧シリンダやバネによる間隔調整機構を設ける必要がある。
【0043】
次に
図4の別の実施形態の繊維複合成形品のプレス成形装置51を用いた繊維複合成形品のプレス成形方法について説明する。最初の載置・型閉工程Aにおいて、下方の可動盤55に固定された加熱された一方の加圧板56の上に、熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マットFを載置する。次にチャンバ60の扉を閉鎖し、チャンバ61内の内部空間60を真空吸引する。従って別の実施形態では、加熱工程Bの開始前から内部空間60は真空状態にあり、加圧工程Cの完了まで継続される。そして圧縮用の油圧シリンダ58の作動によりラム59が伸長され、下方の可動盤55に固定された一方の加圧板56が上昇移動され、熱可塑性樹脂シートRと炭素繊維マット
Fのうちのいずれか上面側のものが、上方の他方の加圧板57に当接されると下方の加圧板56の上昇は位置制御により停止され加熱工程Bが開始される。なおこの際に
図1に示される本実施形態で記載したように別の方法で一方の加圧板56を停止してもよい。また加圧板57,57の加熱開始やチャンバ60内の真空吸引開始は、加熱工程Bの開始と同時または僅かに前後して開始してもよい。
【0044】
そしてこの状態において真空吸引は継続したまま加熱された一方の加圧板56と加熱された他方の加圧板57の間において、前記熱可塑性樹脂と炭素繊維に空間が維持された状態で所定時間加熱する加熱工程Bを行う。加熱工程Bでは、熱媒油によって加熱されている下方の加圧板と57上方の加圧板57から熱可塑性樹脂に熱が付与され、溶融状態となる。加熱工程Bの時間や加熱工程Bにおける加圧板57,57の温度等は、
図1に示される本実施形態と同様である。そして所定時間が経過すると、加熱工程Bを終了して加圧工程Cへ移行する。
【0045】
加圧工程Cでは、真空吸引は継続したまま再び圧縮用の油圧シリンダ58を作動させて可動盤55と加圧板56を上昇させる。そして上盤52の加圧板57と可動盤55の加圧板56の間で、溶融状態となった熱可塑性樹脂と炭素繊維を加圧し、炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて炭素繊維の繊維複合成形品Wを成形する。この際の加圧時間、面圧、加圧板の温度等は、
図1に示される本実施形態と同様である。そして加圧工程Cの後半では、加圧板57,57に冷却油等を流通させ、加圧板57,57の冷却を行う。そしてマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の温度が熱変形温度またはガラス転移温度を下回るとともに所定時間が経過したら加圧工程Cを終了する。そして型開取出工程Dでは油圧シリンダ58を下降させて繊維複合成形品Wの成形が終了する。そしてチャンバ60内の真空が解除され、繊維複合成形品の取出しが行われる。
【0046】
次に更に別の実施形態について、図示は省略して相違点を中心に説明する。更に別の実施形態のプレス成形装置は、
図1や
図4の例において、電動モータまたは油圧シリンダによる型開閉機構と、油圧シリンダによる加圧機構(型締機構)が別に設けられている。更に別の実施形態のプレス成形装置を用いたプレス成形方法では、加熱工程Bの開始位置まで型開閉機構によって他方の金型である可動金型が移動され、位置制御により停止される。型開閉機構の電動モータがサーボモータ、ボールネジ、ボールネジナットの組合せの場合は、高精度な位置制御が可能である。そしてその位置でハーフナットがタイバ等の係合溝に係合され、加圧機構による力が可動金型に伝達可能となる。
【0047】
そして加熱された一方と他方の金型間において熱可塑性樹脂と繊維材料に空間が維持された状態で所定時間真空吸引を行う加熱工程Bが終了すると、次に真空吸引は継続したまま加圧機構の油圧シリンダ等を作動させて加圧工程Cを行う。その際に各タイバごとにそれぞれ油圧シリンダが設けられた加圧機構を有するプレス成形装置の場合は、各油圧シリンダをサーボバルブ等で制御することにより各タイバと各タイバに係合される可動盤の四隅近傍に設けられたハーフナットを介して可動盤の傾きを制御することができる。より具体的には、固定盤に対する可動盤の位置(距離)、または固定金型に対する可動金型の位置(距離)は、タイバに対応した4箇所の位置センサで測定されるようになっている。そして各位置センサの位置を検出して、各油圧シリンダがそれぞれフィードバック制御されることにより、固定盤(固定金型)に対する可動盤(可動金型)の平行制御(位置制御または速度制御)が可能となる。
【0048】
平行制御の制御方法としては、それぞれの位置センサにより検出される可動盤の検出位置の平均値を演算し、前記平均値と検出位置との差分を演算して、前記差分に応じて各油圧シリンダを制御させる。その場合には可動盤を移動させる際には、前記の平行制御の制御に加えて、各油圧シリンダに対して前進方向に移動させるための指令信号が等しく加えられる。または別の平行制御の制御方法としては、1つのマスター油圧シリンダに対応の位置センサによって検出される検出位置を目標位置として前記マスターシリンダを作動させるとともに、他の油圧シリンダもマスターシリンダに合わせるように制御させてもよく、更に他の平行制御の制御方法でもよい。
【0049】
位置制御(または速度制御)による平行制御は、加熱工程Bにおける可動金型の保持の際、加圧工程Cにおいて可動金型が所定の位置まで前進される(熱可塑性樹脂と炭素繊維が圧縮される)まで行われるか、または油圧シリンダの圧力が所定の圧力に昇圧するまで行われる。そして加圧工程Cにおいて位置制御(または速度制御)が完了すると、次に油圧シリンダによる圧力制御に移行する。圧力制御の段階においても各油圧シリンダに設けられた圧力センサにより各油圧シリンダの圧力を検出して、それぞれの油圧シリンダの圧力が最適になるように制御する。またはいずれかの油圧シリンダの圧力が一定以上乖離した際に、異常と判断して停止するなどの制御を行う。固定金型と可動金型の間の平行制御を行うことにより、厚みの均一な繊維材料複合成形品や精度の高い繊維材料複合成形品を成形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明については、一々列挙はしないが、上記した本実施形態のものに限定されず、当業者が本発明の趣旨を踏まえて変更を加えたものについても、適用されることは言うまでもないことである。まずプレス成形装置については次のようなものでもよい。またプレス成形装置の駆動源としては、油圧シリンダの他、サーボモータ等の電動機を用いたものでもよい。電動機を駆動源とする場合、トグルプレスやクランクプレスといったリンクやクランクによる倍力機構を用いたものも好適に使用される。またプレス成形装置は、下側の可動盤が上側の固定盤に向けて昇降移動するものでもよい。更には横方向に可動盤が移動するものでもよい。
【0051】
金型については、いわゆるインロウ構造の金型21について説明したが、キャビティを形成するブロックの周囲の枠体が、キャビティを形成するブロックに対してバネや油圧シリンダやエアシリンダ等の作用により進退移動可能な平当構造の金型でもよい。その場合、枠体の前面が当接面となり、他方の金型の当接面と当接することによりキャビティが形成される。そして枠体がキャビティ形成ブロックに対して後退することによりキャビティの厚みが薄くなり、キャビティ内の熱可塑性樹脂と繊維材料が圧縮成形される。またインロウ構造の金型21の場合も平当構造の金型の場合も、嵌合して加熱工程を実施する際の真空吸引を良好にするために、キャビティ22に連通する通路を形成したものや、金型の一部を多孔質物質としてキャビティ22内の真空吸引を行うようにしてもよい。その場合、加熱工程Bでは、キャビティ22と真空チャンバ29は通路を介して連通された状態とし、加圧工程Cではベント孔のみを介して連通されるようにしてもよい。またキャビティが形成される金型の場合、繊維材料を含む成形品は1次成形品であってもよく、初めから最終成形品を成形するものでもよい。またキャビティ形成面は、真空吸引を良好にするためと離型を良好に行うために微細な凹凸を設けてもよく、Tinなどのコーティングを行ったものでもよい。また上記の実施形態では金型の加熱は熱媒油または水または蒸気で行われるが電気ヒータ、赤外線ヒータ、誘導加熱等により加熱するものでもよく、冷却も水により行うものでもよい。また金型や加圧板以外に加熱専用部材を設けて加熱工程Bを実施し、加圧工程Cには加熱専用部材を使用しないものでもよい。更に金型は繊維材料に対する溶融樹脂の含浸を良好にする目的でバイブレータなどの振動付与手段を設けたものでもよい。
【0052】
また使用される繊維材料は、炭素繊維の他、ガラス繊維、ケプラー繊維、アルミ等の金属繊維、天然繊維等の他の種類の繊維材料であってもよい。更に熱可塑性樹脂Rについても限定はされず、熱硬化性樹脂との混合材料でもよい。本発明に用いられるマトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂であって、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑ポリウレタン等が代表的なものとして挙げられ、他の種類の熱可塑性樹脂でもよい。