(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
流動性補修材供給源と接続される接続口が基端に形成されており、補修対象と対向して取り付けられ、当該補修対象へ流動性補修材を注入する注入口が先端に形成された注入機構と、
前記注入機構において前記接続口及び前記注入口の間から分岐しており、流動性補修材の注入時に流動性補修材の一部が流入して内部の気体が圧縮される蓄圧機構とを備え、
前記蓄圧機構が、基端が前記注入機構に設けられ、先端が開口した中空容器と、前記中空容器内においてその基端及び先端の間をがたなく摺動可能に設けられた仕切り部材と、前記中空容器の先端を気密に封止する蓋体とを具備し、
前記蓋体が、前記中空容器の内部において先端から基端側へ突出した状態で取り付けられることを特徴とする流動性補修材注入器。
前記蓋体が、前記中空容器に先端から基端側へ挿入され、その挿入方向に貫通する貫通穴が形成されたキャップと、貫通穴に挿入された空圧調整弁とからなる請求項1乃至3いずれかに記載の流動性補修材注入器。
前記注入機構が、前記注入口が形成されており、前記補修対象に取り付けられる座金と、先端が前記座金に取り付けられ、側面に前記中空容器が接続された筒状本体と、前記筒状本体の基端側に挿入されており、前記接続口を形成する逆止弁とから構成されている請求項1乃至5いずれかに記載の流動性補修材注入器。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物等において内部まで進展したクラックを補修する場合、接着剤等の流動性補修材を外表面のクラック開口から内部まで行き渡らせるには、流動性補修材に所定の圧力をかけて注入する必要がある。
【0003】
このような接着剤の注入作業には特許文献1で示されるような注入器100Aが用いられる。具体的にこの注入器100Aは、
図10に示すように先端が補修対象であるクラックAOの開口を塞ぐように取り付けられ、基端が接着剤Lの供給源であるグリスガン等に接続される筒状の注入機構INと、前記注入機構INから分岐し設けられる蓄圧機構TNとを備えたものである。そして、前記蓄圧機構TNは、密閉された概略中空円筒形状の密閉されたシリンダ4Aと、前記シリンダ4A内を基端から先端までの間をがたなく摺動可能に設けられた円板状のピストン5Aと、前記シリンダ4Aの先端とピストン5Aとの間に設けられたスプリングBNとから構成されている。
【0004】
このような注入器100Aにグリスガンを接続して接着剤Lを注入すると接着剤Lの一部が前記シリンダ4A内に流入し、ピストン5Aがシリンダ4Aの基端側から先端側へと移動し、前記ピストン5Aと前記シリンダ4Aの先端との間の空間にある気体Gと前記スプリングBNが圧縮された状態となる。
【0005】
前記注入機構INからグリスガンがはずされて接着剤LをクラックAO側に押圧する力がなくなると、クラックAO内部で高圧となった接着剤Lが逆流して外部へ出ようとするが、前記蓄圧機構TNにおいて圧縮された気体GとスプリングBNが元に戻ろうとする復元力により接着剤LはクラックAO内部へと押圧されることになる。
【0006】
このように前記蓄圧機構TNの働きにより、グリスガンを外した時におけるクラックAOからの接着剤Lの逆流を防ぎ、クラックAO内のすみずみまで接着剤Lを十分に行き渡らせることができると考えられている。
【0007】
しかしながら、上述したようなものでは前記蓄圧機構TNから接着剤Lにかかる圧力が弱すぎるためクラックAO内に十分に接着剤Lが行き渡らないといった問題が生じることがある。
【0008】
より具体的には、クラックAOの内部の大きさや、接着剤Lの種類による粘性の違い等によって、前記蓄圧機構TNから接着剤Lへかかるべき圧力が異なっているが、特許文献1の注入器100Aでは、前記シリンダ4Aの容積やスプリングBNの弾性が固定されているため、前記蓄圧容器TNが接着剤Lを押圧する圧力が接着剤Lの注入に適した圧力から大きくずれてしまい、接着剤Lの注入がうまくできない場合がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の前記蓄圧機構TNは
図10に示すように密閉された前記注入機構INからは分割不可能な構成であるため、補修の状況や使用する接着剤Lに応じてスプリングBNを交換する等して前記蓄圧機構TNからの復元力が大きくなるように調整し、接着剤Lの注入に適したものにすることも難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、簡単な構成であり、かつ、前記蓄圧機構から接着剤等の流動性補修材にかかる復元力を注入に適したものに容易に調整することができ、補修対象内のすみずみまで流動性補修材を行き渡らせることができる流動性補修材注入器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の流動性補修材注入器は、請求項1に記載の発明のように流動性補修材供給源と接続される接続口が基端に形成されており、補修対象と対向して取り付けられ、当該補修対象へ流動性補修材を注入する注入口が先端に形成された注入機構と、前記注入機構において前記接続口及び前記注入口の間から分岐しており、流動性補修材の注入時に流動性補修材の一部が流入して内部の気体が圧縮される蓄圧機構とを備え、前記蓄圧機構が、基端が前記注入機構に設けられ、先端が開口した中空容器と、前記中空容器内においてその基端及び先端の間をがたなく摺動可能に設けられた仕切り部材と、前記中空容器の先端を気密に封止する蓋体とを具備し、前記蓋体が、前記中空容器の内部において先端から基端側へ突出した状態で取り付けられることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、前記蓋体が、少なくとも前記中空容器と前記蓋体とに分割されており、前記蓋体が前記中空容器の内部において先端から基端側へ突出した状態で取り付けられるので、前記中空容器内において前記仕切り部材と前記蓋体との間にある気体を予め圧縮した状態にすることができる。
【0014】
したがって、注入時に流動性補修材が前記中空容器内に流入し、前記仕切り部材が前記中空容器の先端側に移動して当該中空容器内の気体が圧縮されることにより蓄えられる復元力だけでなく、予め気体を圧縮した分の復元力も流動性補修材に加わることになる。このため、前記蓄圧機構から流動性補修材を補修対象へと進行させる圧力を従来よりも大きくすることができ、前記流動性補修材供給源が前記注入機構から外された際にも補修対象から流動性補修材の逆流を防ぎつつ、すみずみまで流動性補修材を行き渡らせることができる。
【0015】
また、前記中空容器内における前記蓋体の先端からの突出量を調節することで、前記中空容器内の気体を予め圧縮する量も調節できるので、例えば補修対象の大きさや接着剤の種類等に応じた圧力で前記蓄圧機構が流動性補修材を補修対象へ押圧するようにもできる。
【0016】
前記蓄圧機構から流動性補修材を押圧する圧力が強すぎる場合には、前記中空容器内の気体の圧力を低下させて、前記注入機構が補修対象から外れてしまう等といった不具合が生じるのを防げるようにするには、請求項2に記載の発明のように前記蓄圧機構が、前記中空容器内における前記仕切り部材及び前記蓋体の間の気体を外部へ放出可能に構成されていればよい。
【0017】
前記蓄圧機構から流動性補修材を押圧する圧力が弱すぎる場合には、前記中空容器内の気体の圧力を上昇させて、補修対象へ十分な量の流動性補修材が注入できるようにするには、請求項3に記載の発明のように前記蓄圧機構が、前記中空容器内における前記仕切り部材及び前記蓋体の間に外部から気体を注入可能に構成されていればよい。
【0018】
前記中空容器内の気体の圧力を適宜調節できるようにし、常に流動性補修材を注入するのに適した圧力にできるようにするための具体的な構成としては、請求項4に記載の発明のように前記蓋体が、前記中空容器に先端から基端側へ挿入され、その挿入方向に貫通する貫通穴が形成されたキャップと、貫通穴に挿入された空圧調整弁とからなるものが挙げられる。
【0019】
前記流動性補修材注入器を一度使用した後、前記中空容器内に残っている流動性補修材を取り除いて再利用される場合があるが、不完全な流動性補修材の除去により再使用時の仕上がりに問題が生じることがある。このように補修対象への不完全な流動性補修材の注入を防ぐために、流動性補修材注入器の再利用を防ぐことができるようにするには、請求項5に記載の発明のように前記蓋体及び前記中空容器との間に、嵌め殺し構造が形成されていればよい。このようなものであれば、再利用のために前記中空容器内に残っている流動性補修材を取り除くには、前記蓋体又は前記中空容器を壊すしかない。つまり、前記蓄圧機構の機能が無くなりそもそも再利用できなくなるので、古い流動性補修材が使用されることによる補修対象への不完全な注入が行われることを防げる。
【0020】
前記流動性補修材供給源を前記注入機構から外した際に、補修対象からの逆流により前記接続口から流動性補修材が漏れてしまい、周囲を汚すことが無いようにするには、請求項6に記載の発明のように前記注入機構が、前記注入口が形成されており、前記補修対象に取り付けられる座金と、先端が前記座金に取り付けられ、側面に前記中空容器が接続された筒状本体と、前記筒状本体の基端側に挿入されており、前記接続口を形成する逆止弁とから構成されていればよい。
【0021】
前記流動性補修材供給源から加えられる圧力が前記補修対象内へと進行していく流動性補修材に無駄なく伝達され、効率よく注入作業を進められるようにするには、請求項7に記載の発明のように前記接続口、前記筒状本体、及び、前記注入口の中心軸が一直線上にならぶように配置されていればよい。
【0022】
前記注入機構から流動性補修材が補修対象へと効率よく注入されつつ、その一部が前記蓄圧機構内へと適度に流入し、前記中空容器内の気体が十分に圧縮されるようにするには、請求項8に記載の発明のように前記筒状本体と前記中空容器との間を連通する連通孔が、前記接続口の近傍に設けられていればよい。
【0023】
前記補修対象に前記流動性補修材注入器が取り付けられた状態で、補修対象からの突出量を小さくし、コンパクトで注入作業のしやすいものとするには、請求項9に記載の発明のように前記中空容器が、前記筒状本体に対して直交するように設けられており、前記補修対象から見て、前記筒状本体の基端と前記中空容器の反補修対象側の側面が略同じ高さにあればよい。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明の流動性補修材注入器によれば、前記蓄圧機構を構成する前記中空容器及び前記蓋体が分離して構成されており、さらに、前記蓋体が前記中空容器の内部において先端から基端側へと突出させて取り付けられるようにしてあるので、注入作業開始前に前記中空容器内の気体を予め圧縮しておくことができる。したがって、注入時に前記仕切り部材の移動により前記中空容器内の気体が圧縮されることによる復元力に加えて、さらに予め圧縮してある分の復元力を流動性補修材に加えることができるので、補修対象内のすみずみまで流動性補修材を行き渡らせることができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る流動性補修材注入器について各図を参照しながら説明する。
【0027】
本実施形態の流動性補修材注入器は、土木工事等においてコンクリート構造物C等に生じた補修対象であるクラックAOに流動性補修材として接着剤Lを注入する補修作業に用いられる接着剤注入器100である。より具体的には
図1の斜視図に示すようにこの接着剤注入器100は、コンクリート構造物CにおいてクラックAOが外表面に開口している部分に固定されて、接着剤Lの供給源であるグリスガンSP等の仲介をする。そして、この接着剤注入器100を構成する部品は金属を使用せずに樹脂により形成されており、使用後は分別等を行うことなくそのまま全体を廃棄できるようにしてある。
【0028】
この接着剤注入器100は、補修対象のあるコンクリート構造物C等に対して垂直に取り付けられる部分であり、グリスガンSPからクラックAOへと接着剤Lが流通する注入機構INと、前記注入機構INに対して直交するように分岐させて設けてあり、グリスガンSPにより接着剤Lが注入されている時に接着剤Lの一部が内部へ流入して内部の気体Gが圧縮されるように構成してある蓄圧機構TNとからなるものである。
【0029】
図1の斜視図に示すように前記注入機構INは、この接着剤注入器100において細円筒状の部分であり、基端に接着剤供給源であるグリスガンSPに接続される接続口CPが形成してあり、先端にクラックAOと対向して取り付けられ、当該クラックAOへ接着剤Lを注入する注入口IPが形成してある。
【0030】
より具体的には、
図2の分解図に示すように前記注入機構INは、前記注入口IPが形成されており、クラックAOのあるコンクリート構造物Cに取り付けられる座金1と、先端が前記座金1に取り付けられ、側面に前記中空容器4が接続された筒状本体2と、前記筒状本体2の基端側に挿入されており、前記接続口CPを形成する逆止弁3とから構成してある。
【0031】
前記座金1は、中央部に前記注入口IPが開口する薄円板部11と、その注入口IPを囲い前記薄円板部11の上面に対して垂直に突出した円筒部12とからなる。前記薄板円板部11の下面外周部は、クラックAOの開口している周囲の壁面に固定材Fにより粘着されて固定される。この固定材Fは圧縮又は引っ張り方向には強い粘性を示すが、せん断方向には弱い粘性を示すためクラックAO内に接着剤Lを注入した後で前記接着剤注入器100を取り外す際には、壁の表面に沿った方向に移動させることで容易に取り外すことができる。前記円筒部12は中空であって、内部に前記筒状本体2と螺合するめねじ12Aが切ってある。なお、この座金1は従来品と共通の構成にしてある。
【0032】
前記筒状本体2は、
図2に示すように前記円筒部12よりも細い中空円筒状のものであり、基端に前記逆止弁3が隙間なく収容され、その先端の外側周面に前記円筒部12と螺合するおねじ21が切ってある。さらに、前記筒状本体2は
図2(b)の断面図に示すようにその側面中央部であり、前記逆止弁3が収容された状態での先端近傍に前記蓄圧機構TN内と連通する連通孔22が形成してある。
【0033】
前記逆止弁3はグリスガンSPが差し込まれた状態では先端が開き、前記筒状本体2内へ接着剤Lが流通するが、グリスガンSPが外された状態では先端部の切込みが閉止されて、筒状本体2内の接着剤Lが接続口CPから外部へと流出しないように構成してある。この逆止弁3はエラストマー等の柔軟性を有した樹脂で形成して、グリスガンSPを前記筒状本体2の軸方向と完全に合致しておらず、多少斜めに傾いた状態でも接続でき、その接続のしやすさを向上させてある。
【0034】
また、前記注入機構INを構成する、前記座金1、前記筒状本体2、及び、前記逆止弁3はそれぞれの中心軸が一直線上で合致するように構成してあるので、前記接続口CPに接続されたグリスガンSPからクラックAOに向かって接着剤Lが押し出された際に、その力をほとんどロスすることなく伝達させることができる。したがって、クラックAO内に埃や砂粒等で閉塞されている箇所があったとしても、接着剤Lの圧力により飛ばしながらクラックAO内のすみずみまで接着剤Lを行きわたらせることができる。
【0035】
次に前記蓄圧機構TNについて説明する。
【0036】
前記蓄圧機構TNは、
図1に示すように前記接着剤注入器100において太円筒部分に相当するものであり、基端が前記注入機構INに取り付けられ、先端が開口した中空容器4と、前記中空容器4内においてその基端及び先端の間をがたなく摺動可能に設けられた仕切り部材5と、前記中空容器4の先端部を気密に封止する蓋体6とを具備するものである。すなわち、この蓄圧機構TNは前記中空容器4と前記蓋体6の2つの分割されたパーツで構成してある。また、前記中空容器4は、前記筒状本体2と組み合わされた状態で、1つのパーツとして一体成型してある。さらに、前記中空容器4は、前記筒状本体2に対して直交するように設けてあり、クラックAOから見て前記筒状本体2の基端と前記中空容器4の反クラック側の側面が略同じ高さにあるようにしてある。
【0037】
前記中空容器4は概略中空円筒形状をなす透明樹脂によりその内部が透けて見えるように構成したシリンダである。
図2に示すようにこの中空容器4の外側周面には基端側から先端側へと目盛が付してあり、前記注入機構INから当該中空容器4内に流入した接着剤Lの量がわかるようにしてある。
【0038】
前記仕切り部材5は、前記中空容器4の内側周面と気密に篏合するものであり、当該中空容器4の内径と略同じ直径を有した概略扁平中実円筒状のピストンである。この仕切り部材5は注入開始時に前記中空容器4の基端に略密着した状態となるように取り付けてあり、前記注入機構INに接続されたグリスガンSPにより接着剤Lの注入が開始されて、前記中空容器4内にも接着剤Lが入ってくると中空容器4の先端側へと移動していくようにしてある。また、この仕切り部材5の厚みについては、前記連通孔22から接着剤Lが前記中空容器4内に流入して押された際に当該仕切り部材5が倒れず、その平板部分が前記中空容器4の半径方向断面と平行となった姿勢のままで摺動するように設定してある。
【0039】
前記蓋体6は、前記中空容器4の内部において先端から基端側へ所定長さだけ突出した状態で取り付けられるものである。この蓋体6は、逆止弁機能を有したものであり、この蓋体6を介して前記中空容器4内の気体Gを外部へ排出して解圧する、あるいは、当該中空容器4内へ気体Gを注入し加圧できるようにしてある。
【0040】
より具体的には、
図2の分解図に示すように前記蓋体6は、前記中空容器4に先端から基端側へ挿入され、その挿入方向に貫通する貫通穴61Hが形成されたキャップ61と、貫通穴61Hに挿入された空圧調整弁62とからなる。
【0041】
前記キャップ61は、基端部が前記中空容器4の先端と係合するように当該中空容器4の外径とほぼ同じ寸法を有した薄板円環状に形成されており、前記中空容器4の内部へと挿入される先端側は前記中空容器4の内径よりも少し外径を小さく形成した概略円筒状に形成してある。そして、このキャップ61の先端部には前記空圧調整弁62の一部が覆われることにより前記中空容器4の内側周面と隙間なく気密に篏合するようにしてある。さらに、このキャップ61の外側周面と前記中空容器4との間には嵌め殺し構造7が形成してある。
【0042】
前記空圧調整弁62は、エラストマー等の柔軟性を有した樹脂で形成してあり、前記キャップ61の先端部と同じ形状を有し、前記キャップ61に取り付けられた状態で前記中空容器4の内径と略同じ外径となる気密部62Aと、前記キャップ61の中央に形成されている貫通穴61Hに挿入される円筒状の弁部62Bとから構成してある。
【0043】
次に、このような各パーツから構成された本実施形態の接着剤注入器100の組み立て手順について
図3を参照しながら説明する。組み立て手順は以下のようなものである。
【0044】
1)エラストマーにより前記逆止弁3及び前記空圧調整弁62の形状に成型した後に、前記逆止弁3の先端及び前記空圧調整弁62の弁部62Bの先端に切り込みを入れて逆止弁としての機能が発揮されるようにする。2)前記筒状本体2の基端に前記逆止弁3を挿入する。3)前記キャップ61の先端部及び貫通穴61Hに前記空圧調整弁62を嵌め合わせて前記蓋体6を形成する。4)前記中空容器4内において前記筒状本体2側となる基端に前記仕切り部材5を嵌合させる。5)前記中空容器4の先端に前記蓋体6を嵌め合わせていく。この際前記中空容器4内の空気が前記蓋体6から外側へ出ていかないよう前記空圧調整弁62の前記気密部62Aが前記中空容器4の内側周面からはずれないようにしつつ気密を保ちながら内部へと押しこんでいく。6)最後にコンクリート構造物Cに取り付けられている前記座金1に対して前記筒状本体2の先端を螺合させていき、接着剤L注入器100として完成させる。
【0045】
ここで、前記中空容器4に対して前記蓋体6を取り付けることによる前記中空容器4内の気体Gの予圧効果について
図4を参照しながら説明する。
【0046】
前述した4)5)の手順に示したように前記中空容器4の内部において基端には仕切り部材5が気密を保った状態で配置されており、この状態で前記中空容器4の先端から前記蓋体6が基端側へと押し込まれていく。前記蓋体6は前記中空容器4の内側周面と気密を保ちながら基端側へと押し込まれていくので、前記中空容器4の内部において前記仕切り部材5と前記蓋体6との間にある気体Gは前記蓋体6の先端部分が押し込まれた距離分だけ圧縮されることになる。すなわち、この接着剤L注入器100では注入を開始する前の状態であり、前記中空容器4内に接着剤Lが入っていない状態でも前記仕切り部材5は前記中空容器4の基端側へと進む方向に力が加わった状態にできる。したがって、この予圧効果により前記蓄圧機構TNから接着剤LをクラックAO内に押し込む力をさらに高めることができる。
【0047】
次に本実施形態の接着剤注入器100の接着剤Lを注入する時の動作について
図5乃至7を参照しながら説明する。
【0048】
図5に示すように前記接着剤注入器100がクラックAOのあるコンクリート構造物Cの壁面に取り付けられると、前記逆止弁3にグリスガンSPのノズルが差し込まれ、グリスガンSPの動力によって接着剤Lが前記注入機構INを介してクラックAO内へと注入が開始される。
【0049】
図6に示すようにクラックAO内にある程度接着剤Lが注入され、抵抗が大きくなってくると接着剤Lの一部は前記蓄圧機構TN内に流入する。この際、前記中空容器4内は前記仕切り部材5により仕切られているので、中空容器4内の先端側には気体Gのみが存在し、中空容器4内の基端側にのみ接着剤Lがある状態になる。つまり、前記中空容器4内に封入されていた気体Gは前記仕切り部材5があるために前記注入機構IN側にある接着剤L内へは漏れ出ない。したがって、接着剤L内に気泡が発生することもなくクラックAO内で「す」が入った状態で接着剤Lが固まり、不十分な補修結果となることを防げる。
【0050】
また、
図6に示すように前記中空容器4内に流入した接着剤Lの圧力により前記仕切り部材5が先端側へと移動していくことにより、当該仕切り部材5と前記蓋体6との間にあった気体Gは圧縮されることになる。この状態は前記グリスガンSPにより接着剤LがクラックAO側へと進むように力が加えられている限り保たれる。
【0051】
図7に示すようにクラックAO内からの抵抗が大きくなり、前記中空容器4内に十分な量の接着剤Lが流入した状態になった時点で前記逆止弁3からグリスガンSPを取り外す。グリスガンSPから接着剤Lへの加圧がなくなると、前記仕切り部材5における力のつり合いが崩れ、前記中空容器4内の圧縮された気体Gが前記仕切り部材5を介して接着剤Lを押す力のほうが大きくなるので、前記仕切り部材5は中空容器4内において先端側から基端側へと移動し、前記中空容器4内にある接着剤LはクラックAO内へと注入されることになる。この仕切り部材5の移動はクラックAO内からの抵抗による圧力と気体Gの圧力が釣り合う地点まで継続される。ここで、本実施形態では前記中空容器4内の気体Gは前記蓋体6を取り付ける際において予圧しているので、中空容器4内に全く接着剤Lがなく、気体Gの体積が当初の状態と同じでも仕切り部材5は前記中空容器4の基端側へと押圧されることになる。したがって、
図7に示すように最終的には仕切り部材5は前記中空容器4の基端まで移動し、中空容器4内にあったほぼすべての接着剤LをクラックAO内に注入することもできる。
【0052】
次に前記空圧調整弁62による前記中空容器4内の気体Gの解圧又は加圧について
図8を参照しながら説明する。
【0053】
図8(a)に示すように前記空圧調整弁62の弁部62Bは逆止弁構造を有しているので、
図8(b)に示すように弁部62Bに筒等を差し込むことにより前記中空容器4内の気体Gを外部に排出して解圧することができる。このような解圧動作によって、前記中空容器4内に接着剤Lが流入し、中空容器4内の気体Gが圧縮された途中状態でも接着剤Lが固まる前に接着剤注入器100をコンクリート構造物Cの壁から取り外すこともできる。なお、前記蓄圧機構TNから接着剤Lへの圧力が強すぎる場合には解圧によって注入に適した圧力にすることもできる。また、本実施形態では、前記中空容器4において基端側にある連通孔22と先端側にある空圧調整弁62との間には摺動可能に設けられた仕切り部材5があるので、前記空圧調整弁62により解圧した場合でも、接着剤Lは中空容器4内において前記仕切り部材5により遮られ、前記空圧調整弁62まで到達することはない。したがって、解圧時に前記空圧調整弁62を介して接着剤Lが外部へと出てしまうことはなく、工事現場等に接着剤Lが飛び散って汚してしまうのを防ぐことができ、工事現場等をきれいに保つことができる。
【0054】
また、前記中空容器4内に残っている固まる前の接着剤Lを別のクラックAOに注入したい場合には、
図8(c)に示すように取り外された接着剤L注入容器を別のクラックAOに取り付けて、前記空圧調整弁62を介して前記中空容器4内の気体Gを加圧し、接着剤LをクラックAO内に注入することもできる。なお、前記蓄圧機構TNから接着剤Lへの圧力が弱すぎる場合には加圧によって注入に適した圧力にすることもできる。
【0055】
このように本実施形態の接着剤注入器100によれば、前記蓋体6を前記中空容器4に取り付けることにより前記中空容器4内の気体Gを予め圧縮した状態にして常に仕切り部材5が前記中空容器4内の基端側へと進む方向に復元力を発生させることができる。
【0056】
したがって、注入時に接着剤Lが前記中空容器4内に入り、前記仕切り部材5が移動することで中空容器4内の気体Gが圧縮されることにより発生する復元力だけでなく、気体Gの予圧により発生する復元力によってもグリスガンSPを外した時に中空容器4内の接着剤LをクラックAO内へと押圧することができる。このため、前記蓄圧機構TNは接着剤Lに対して従来よりも強い圧力をかけることができ、クラックAO内のすみずみまで接着剤Lを行き渡らせることができる。
【0057】
さらに、使用開始前において前記中空容器4の基端に前記仕切り部材5が予圧された状態で前記連通孔22を塞ぐように設けられているので、前記グリスガンSPから注入される接着剤Lの圧力は前記中空容器4側へと逃げることがない。したがって、グリスガンSPから接着剤Lにかけられる圧力はクラックAO内へのみほとんどかかることになるので、クラック内に詰まっている小石等を吹き飛ばし、すみずみまで接着剤Lを行き渡らせる効果をさらに高めることができている。
【0058】
また、前記空圧調整弁62を介して前記中空容器4内の気体Gの解圧、加圧を自由に行うことができるので、注入作業の途中段階で接着剤注入器100を取り外したり、中空容器4内に残っている接着剤Lを別のクラックAOに注入したりすることができる。加えて、解圧、加圧操作によって前記蓄圧機構TNによる接着剤Lへの圧力を常に注入に適した圧力に調整することができる。
【0059】
さらに、本実施形態の接着剤注入器100は、前記中空容器4内に前記仕切り部材5が設けてあるので、前記中空容器4内の気体Gが接着剤Lに混入して気泡となることがない。したがって、従来であれば前記蓄圧機構TNは鉛直上向きになるように前記座金1に対して取り付けなくてはならなかったところを、本実施形態の接着剤注入器100は
図9(a)に示すように前記蓄圧機構TNを鉛直下向き等の自由な方向に向けて取り付けることができる。このため、補修現場における取り回しが非常によくなり、使いやすい。
【0060】
本発明のその他の実施形態について説明する。
【0061】
前記実施形態では、前記空圧調整弁62はキャップ61に設けられていたが、例えば前記中空容器4の側面に設けても構わない。このようなものであっても解圧、加圧の操作を行うことができる。また、前記実施形態では、前記蓋体6は前記空圧調整弁62を備えたものであったが、この機能を省略してもよい。少なくとも前記蓋体6を前記中空容器4の先端に取り付けた際に前記中空容器4内の気体Gが圧縮されるように内部側へ突出した形状であればよい。その際、前記蓋体6と前記中空容器4との間は気密が保たれるようにしてあればよい。さらに、蓋体6を中空容器4内部へと突出させる長さは予圧量に応じて決定すればよい。例えば、粘度の高い接着剤LをクラックAO内に注入した場合には予圧量を大きくして、接着剤LがクラックAOの奥まで注入されるようにしてもよい。
【0062】
前記空圧調整弁62を設けるのではなく、解圧のみを目的とした解圧構造を前記蓋体6に形成してもよい。例えば、前記解圧構造が、前記蓋体6に形成された解圧口と、前記解圧口を気密に封止する封止体とからなり、前記解圧口と前記封止体との間の接合が所定方向に力を加えた場合に剥離するように構成されたものを用いてもよい。より具体的には、前記解圧構造を缶等に形成されたプルトップのように形成してもよい。このようなものであれば、加圧はできないものの簡便な構造で蓄圧機構TN内の圧力を解圧する事が可能となる。
【0063】
前記蓄圧機構TNは、前記注入機構INに対して直交して設けられたものでなく、斜めに取り付けられるものであってもよい。要するに、前記注入機構INから分岐して前記蓄圧機構TNが設けられるものであればよい。また、前記蓄圧機構TNを構成する前記中空容器4の形状は円筒管形状のみに限られるものではない。例えば、前記中空容器4を基端側が先端側よりも細い二段円筒形状にしてもよい。このようなものにすれば、前記注入機構INに対して前記中空容器4が突出している長さ寸法を短くして接着剤注入器100自体をコンパクトに構成することができる。しかも、前記蓋体6が取り付けられる際に中空容器4内に押し込む空気の体積も大きくできるので、前記実施形態と同等又はそれ以上に前記中空容器4内の空気を予圧しておくこともできる。また、前記中空容器4と前記蓋体5との間にねじを形成し、前記蓋体5を前記中空容器に対して螺合させていくことにより、前記中空容器4内の空気が予圧されるようにしてもよい。
【0064】
前記実施形態では補修対象はクラックAOであったが、その他の補修対象に本発明を用いても構わない。また、流動性補修材の一例として接着剤Lを挙げたが、例えば、コーキング材等のその他のものにも本発明の流動性補修材注入器100は用いることができる。また、流動性補修材供給源はグリスガンSPに限られるものではなく、例えばシリンジ等により人力で補修対象内に流動性補修材を注入するようにしてもよい。
【0065】
前記実施形態では、前記中空容器4と前記蓋体6は嵌め殺し構造7により一度取り付けると取り外すことができないように構成したが、取り外せるように構成しても構わない。
【0066】
前記実施形態では、筒状本体2において中空容器4が取り付けられている外側周面と、当該外側周面と対向する仕切り部材5の面は平坦面として形成してあったが、接着剤Lが前記中空容器4内に流入した際に前記仕切り部材5が初期状態の姿勢を保ったまま中空容器4内を移動しやすくするには、
図9(b)に示すように各面に凹凸構造を形成してもよい。
【0067】
より具体的には、前記凹凸構造として前記筒状本体2の外側周面に前記連通孔の開口を含むようにリング状の凹溝23を形成するとともに、この凹溝23と係合するリング状の突条51を前記仕切り部材5の対向面に形成してもよい。このようにすれば、前記筒状本体2から連通孔22を通って前記中空容器4内に流入した接着剤Lはまず前記凹溝23の底面と前記突条51の隙間を満たすように流れるので、前記中空容器内側面だけに接着剤Lが集中して、仕切り部材5の一部のみが押圧されるのを防ぐことができる。すなわち、リング状となった接着剤Lが前記仕切り部材5の対向面を軸方向に均一に押圧するので前記仕切り部材5に倒れが発生しにくく、スムーズに前記中空容器4内を摺動させることができる。
【0068】
また、
図9(b)に示すように筒状本体2の逆止弁3が挿入される開口部について一部外側へと膨張して段部が形成された係合段部23とし、前記逆止弁の基端側をこの係合段部23と係合させたうえで、当該筒状本体2の軸方向にこの開口部を熱しながら押圧することで逆止弁3が外れないように取り付けてもよい。前記中空容器4の先端側開口41についても係合段部23と同様に形成し、前記蓋体6を取り付けてもよい。このようにすれば、簡単な構造でありながらも嵌め殺し構造7等を形成することなく、気密に取り外し不能に前記逆止弁3及び前記蓋体6を取り付けることができる。
【0069】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。