(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周面に中心方向に向かって突出する複数の歯が形成された中空円筒形状の金属部材の内部空間に、この金属部材の中心軸方向と平行に延在するように、赤外線を放射する第1ヒーターを配設し、
前記第1ヒーターによって前記金属部材を前記内部空間から焼鈍が可能な目標温度まで加熱し、
加熱後の前記金属部材を徐冷する
ことを特徴とする金属部材の焼鈍方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁鋼板により形成される積層コアの焼鈍方法の例として、たとえば、加熱炉を用いて750℃以上に加熱し、さらに均熱化のために2時間程度にわたって加熱を継続し、その後徐冷するという方法が用いられる。このように、積層コアの焼鈍においては、積層コアを長時間にわたって加熱する必要がある。このため、積層コアの焼鈍は生産性が低いという問題点があった。そこで、生産性の向上を図るために、加熱時間を短縮したいという要請がある。加熱時間を短縮するため、たとえば特許文献3には、積層コアを誘導加熱する構成が開示されている。しかしながら、特許文献3には、具体的な加熱方法は開示されていない。また、短時間で加熱する方法としては、積層コアに通電してジュール熱によって加熱する方法が考えられる。しかしながら、通電によって加熱する方法では、積層コアの寸法が大きいと、電極を均一に接触させることが困難である。このため、積層コアを短時間で均一に加熱することが困難である。
【0005】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、中空円筒形状の金属部材、例えば電磁鋼板が積層されて構成される積層コアの焼鈍において、加熱時間を短縮して生産性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の概要は下記の通りである。
(1)本発明の一態様は、内周面に中心方向に向かって突出する複数の歯が形成された中空円筒形状の金属部材の内部空間に、この金属部材の中心軸方向と平行に延在するように、赤外線を放射する第1ヒーターを配設し、前記第1ヒーターによって前記金属部材を前記内部空間から
焼鈍が可能な目標温度まで加熱し、加熱後の前記金属部材を徐冷する、金属部材の焼鈍方法である。
(2)上記(1)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記第1ヒーターを、円周方向に均等な間隔で複数配設してもよい。
(3)上記(2)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記金属部材の前記中心軸に沿って、前記複数の第1ヒーター間を遮る第1隔壁部材を配設してもよい。
(4)上記(3)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記第1隔壁部材が、白色セラミック及びアルミニウムの少なくとも1種により形成されてもよい。
(5)上記(2)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記複数の第1ヒーターのそれぞれを、前記複数の歯の間に配設してもよい。
(6)上記(5)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記金属部材の前記内部空間に、前記金属部材の前記中心軸方向に沿って延在する第2隔壁部材を配設してもよい。
(7)上記(6)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記第2隔壁部材が、白色セラミック及びアルミニウムの少なくとも1種により形成されてもよい。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記金属部材を前記中心軸方向に複数重ねて配設するとともに、前記第1ヒーターを複数の前記金属部材の前記内部空間に挿入し、複数の前記金属部材を同時に加熱してもよい。
(9)上記(8)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記第1ヒーターは、ハロゲンヒーターであってもよい。
(10)上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記金属部材の外周側に、前記金属部材の前記中心軸方向と平行に延在するように第2ヒーターを更に配設し、前記第2ヒーターによって前記金属部材を前記外周側からも加熱してもよい。
(11)上記(10)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記第2ヒーターは、赤外線を放射するヒーターであってもよい。
(12)上記(11)に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記第2ヒーターは、ハロゲンヒーターであってもよい。
(13)上記(1)〜(12)のいずれか一項に記載の金属部材の焼鈍方法では、前記金属部材が、複数の電磁鋼板が積層されて形成される積層コアであってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属部材の中心軸方向と平行に延在するように配設された第1ヒーターから放射される赤外線によって金属部材を内部空間から加熱できる。さらに、第1ヒーターを、金属部材の内周面に形成される複数の歯の中心軸方向の全長にわたって、均一な距離に接近させることができる。このため、加熱炉によって金属部材を加熱する構成と比較すると、加熱時間の短縮を図ることができる。したがって、金属部材の焼鈍における生産性の向上を図ることができる。さらに、金属部材の内周面に形成される複数の歯を加熱できるため、歯に生じるひずみを除去する効果の維持や向上を図り、鉄損の減少を図ることができる。このように、本発明によれば、焼鈍による鉄損の減少の効果が低下することを防止しつつ、加熱時間の短縮を図って生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本発明の第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
【
図1B】本発明の第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
【
図2A】本発明の第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
【
図2B】本発明の第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す断面図である。
【
図4A】本発明の第二実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
【
図4B】本発明の第二実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
【
図5A】本発明の第三実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
【
図5B】本発明の第三実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
【
図6A】本発明の第四実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
【
図6B】本発明の第四実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
【
図7A】本発明の第五実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
【
図7B】本発明の第五実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
【
図8】本発明の実施例において使用した積層コアの構成と、温度の測定点を模式的に示す斜視図である。
【
図9】本発明の実施例における積層コアの温度の時間変化を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施例における積層コアの各測定点の最高温度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の各実施形態および実施例について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、金属部材の一例として積層コアを用いて説明するが、本発明の金属部材は積層コアに限定されるものではない。
【0010】
(第一実施形態)
図1A、
図2Aは、第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
図1B、
図2Bは、第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法は、従来一般の構成の積層コア9を焼鈍できる。積層コア9の構成について簡単に説明すると、次のとおりである。積層コア9は、所定の形状に打ち抜き加工された複数の電磁鋼板90が積層されており、全体として中空円筒状の構成を有する。積層コア9の内周面9aには、複数の歯91が形成される。複数の歯91は、半径方向の中心側に向かって突出する構成を有し、円周方向に互いに所定の距離をおいて離れて並ぶように形成される。
図1A、
図1B、
図2A、
図2Bに示すように、第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法においては、積層コア9の加熱のために、赤外線を発する単数または複数の第1ヒーター1を用いる。第1ヒーター1は、積層コア9の中心軸方向と平行に延在するように配設される。第1ヒーター1は、具体的には、たとえば、近赤外線(0.78〜2.0μmの波長帯域の赤外線)または近赤外の波長帯域を含む赤外線を発する棒状のハロゲンヒーター(ハロゲンランプヒーターとも称する)が適用される。ハロゲンヒーターは、たとえば、筒状の石英ガラス管の内部にタングステンフィラメントが配設されるとともに、不活性ガスおよびハロゲン物質が封入されるという構成を有する。そして、タングステンフィラメントが通電によって赤外線を放射する。なお、第一実施形態の第1ヒーター1には、公知の各種ハロゲンヒーターが適用できる。したがって詳細な説明は省略する。
単数または複数の第1ヒーター1が積層コア9の内部空間に挿入され、歯91の表面に直接に赤外線を照射できるように配設される。たとえば、
図1A、
図1Bに示すように、単数の第1ヒーター1が用いられる構成においては、円周の全方向に赤外線を照射できる第1ヒーター1が、積層コア9の内部空間の中心に配設される。また、
図2A、
図2Bに示すように、複数の第1ヒーター1が用いられる構成においては、第1ヒーター1が積層コア9の内周面9aに形成される複数の歯91に近接した位置(すなわち、積層コア9の内部空間の中心から半径方向外側に偏倚した位置)に配設される。
さらに、歯91の中心軸方向の全長にわたって均一に加熱できるように、棒状の第1ヒーター1の軸線が積層コア9の中心軸方向と平行であることが好ましい。このような構成によれば、歯91の全長にわたって、第1ヒーター1を均一な距離に接近させて配設することができる。したがって、第1ヒーター1は、歯91の中心軸方向の全長にわたって、均一な強度の赤外線を直接的に照射できる。さらに、それぞれの第1ヒーター1と積層コア9の内周面9aまたは歯91の表面までの距離は、均一に設定される。また、複数の第1ヒーター1は、円周方向に均等な間隔で配列される。
そして、第1ヒーター1によって、積層コア9を目標温度に到達するまで加熱する。第1ヒーター1は積層コア9の内部空間に配設されるので、積層コア9は内部空間(すなわち、歯91が形成される内周面9a)から加熱される。なお、目標温度は、700℃以上であることが好ましい。また、目標温度は、従来の積層コアの焼鈍方法における加熱温度と同じ750℃であってもよい。
積層コア9が目標温度に到達した後、第1ヒーター1による加熱を停止する。その後、積層コア9を徐冷する。徐冷の条件(たとえば方法や温度履歴)は、従来の積層コアの焼鈍方法と同じでよい。たとえば、従来一般の炉冷や空冷などが適用できる。このため、説明は省略する。
第一実施形態においては、積層コア9が目標温度に到達した後、直ちに徐冷を開始する。すなわち、加熱炉を用いて加熱する従来の積層コアの焼鈍方法においては、積層コア9が目標温度に到達した後においても、均熱化のために所定の時間にわたって(たとえば2時間程度)加熱を継続していた。このため従来の積層コアの焼鈍方法においては、加熱時間として、「積層コア9が目標温度に到達するまでの時間」と「均熱化のための時間」が必要であった。これに対して、第一実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法においては、加熱時間として「積層コア9が目標温度に到達するまでの時間」のみが必要となり、「均熱化のための時間」は必要ではない。
【0011】
積層コア9の加熱および徐冷は、積層コア9を構成する電磁鋼板90の酸化を防止するため、非酸化性の雰囲気中で実施されることが好ましい。たとえば、
図3に示すように、チャンバー3に非酸化性のガスを充填し、その内部で積層コア9の加熱および徐冷を実施する構成が適用できる。なお、チャンバー3の構成は特に限定されるものではなく、従来公知の各種チャンバーが適用できる。要は、内部を非酸化性の雰囲気に保持できる構成であればよい。また、第一実施形態においては、第1ヒーター1を用いて積層コア9を加熱するため、チャンバー3はヒーターを備えなくてよい。
【0012】
第一実施形態によれば、第1ヒーター1が放射する赤外線によって、積層コア9を内部空間から加熱する。筒状の積層コア9の内部空間に第1ヒーター1が配設される構成であるため、積層コア9の内周面9aに形成される歯91の表面の全体にわたって、赤外線をほぼ均一に照射できる。また、従来の加熱炉を用いる積層コアの焼鈍方法と比較すると、本第1実施形態では、熱源(赤外線源)を歯91の表面に近接させることができるため、短時間で均一に積層コア9を加熱することができる。これにより、「積層コア9が目標温度に到達するまでの時間」を短縮することができる。特に、近赤外線を放射する第1ヒーター1が適用される構成であると、昇温の応答性を高めることができる。このため、積層コア9を短時間で昇温させることができる。
さらに、第一実施形態によれば、積層コア9が目標温度に到達した後、均熱化のために加熱を継続することなく直ちに徐冷を開始できる。したがって、「均熱化のための時間」を省略することができ、加熱時間の短縮を図ることができる。
以上のとおりであるから、第一実施形態によれば、焼鈍において加熱時間の短縮を図ることができ、積層コア9の生産性の向上を図ることができる。
【0013】
そして、第一実施形態によれば、積層コア9の加熱時間を短縮しつつ、鉄損を減少させることができる。すなわち、打ち抜き加工された電磁鋼板90は、外周面9bがほぼ単純な円形であるのに対して、内周面9aは歯91が形成されているため凹凸を有する。このため、積層コア9の内周面9aは外周面9bに比較して切口が長く、ひずみが大きい。したがって、鉄損を減少させるためには、特に内周面9aについて焼鈍の効果を高くしてひずみを除去する必要がある。第一実施形態においては、第1ヒーター1が積層コア9の内部空間に配設される。そして、積層コア9の内周面9aに形成される歯91の表面に赤外線を直接照射することによって、積層コア9を内部空間から加熱する。このため、積層コア9の内周面9aを確実に目標温度に到達させることができる。さらに、内周面9aは外周面9bよりも早く目標温度に到達するから、内周面9aが目標温度に維持される時間を外周面9bに比較して長くできる。したがって、内周面9aの焼鈍の効果を高めることができ、鉄損を減少させることができる。このように、第一実施形態によれば、加熱時間を短縮しつつ、鉄損を減少させることができる。
【0014】
複数の積層コア9を焼鈍する場合には、複数の積層コア9を中心軸方向に重ねて(または並べて)配設し、単数または複数の第1ヒーター1を、重ねられた複数の積層コア9の内部空間をまとめて貫通するように配設する。このような構成によれば、複数の積層コア9を同時に加熱することができるため、積層コア9の生産性の向上を図ることができる。なお、
図1A、
図1B、
図2A、
図2Bにおいては、2個の積層コア9が重ねられる構成を示すが、重ねられる積層コア9の数は限定されない。
【0015】
また、
図1A、
図1B、
図2A、
図2Bにおいては、第1ヒーター1が直線状に形成される構成を示すが、第1ヒーター1の形状は限定されない。たとえば、第1ヒーター1はU字状であってもよい。さらに、
図2A、
図2Bにおいては、4本の第1ヒーター1が用いられる構成を示すが、第1ヒーター1の数は限定されない。
【0016】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と共通の構成については説明を省略する。
図4Aは、第二実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
図4Bは、第二実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
図4A、
図4Bに示すように、複数の第1ヒーター1が積層コア9の内部空間に挿入され、歯91に近接するように配設される。さらに、複数の第1ヒーター1どうしの間には第1隔壁部材2aが配設される。第1隔壁部材2aは、複数の第1ヒーター1が相互に直接的に赤外線を照射しないように、隣接する第1ヒーター1からの赤外線を遮断する機能を有する。さらに、第1隔壁部材2aは、それぞれの第1ヒーター1が放射する赤外線を、歯91の表面に向けて反射する機能も有する。このため、第1隔壁部材2aは、赤外線を遮断および反射する材料により形成される。たとえば、第1隔壁部材2aは白色セラミック、アルミニウムなどにより形成される。
第1隔壁部材2aは、複数の第1ヒーター1どうしの間に介在する部分を有する。たとえば、
図4A、
図4Bに示すように、半径方向外側に延出する複数の板状の部分を有し、これらの複数の板状の部分のそれぞれが、複数の第1ヒーター1どうしの間に介在する。別の表現をすると、第1隔壁部材2aは、その外周に積層コア9の中心軸方向に沿って延伸する複数の凹部が形成される構成を有する。そして、複数の凹部のそれぞれに、複数の第1ヒーター1のそれぞれが収容される。
このほか、複数の別個独立した第1隔壁部材2aが、互いに隣接する第1ヒーター1どうしの間に配設される構成であってもよい。要は、第1隔壁部材2aは、複数の第1ヒーター1どうしの間に介在する部分を有し、複数の第1ヒーター1が相互に直接的に赤外線を照射することを防止できる構成であればよい。
【0017】
第二実施形態によれば、第一実施形態と同様の作用効果が得られる。さらに第二実施形態によれば、第1隔壁部材2aによって、複数の第1ヒーター1どうしで相互に直接的に赤外線を照射することを防止できる。このため、第1ヒーター1どうしで相互に直接的に加熱することを防止して第1ヒーター1の保護を図ることができる。
また、第1隔壁部材2aは、第1ヒーター1が放射する赤外線を、歯91に向けて反射する。したがって、第2実施形態によれば、熱効率の向上を図ることができ、積層コア9の加熱時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0018】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態について説明する。なお、第一実施形態と共通する構成については説明を省略する。
図5Aは、第三実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
図5Bは、第三実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
図5A、
図5Bに示すように、第三実施形態においては、複数の第1ヒーター1が積層コア9の内部空間に挿入され、積層コア9の内周面9aに形成される複数の歯91どうしの間に配設される。そして、歯91どうしの間に配設される複数の第1ヒーター1によって、積層コア9を内部空間から加熱する。
【0019】
第三実施形態によれば、複数の第1ヒーター1を、積層コア9の内周面9aに形成される複数の歯91の表面に接近させることができる。特に、複数の第1ヒーター1が歯91よりも半径方向内側(すなわち、積層コア9の中心寄り)に配設される構成と比較すると、歯91の円周方向の端面(すなわち、隣接する歯91に対向する面)に対して、より強い赤外線を照射できる。このため、熱効率のさらなる向上を図ることができ、加熱時間のさらなる短縮を図ることができる。
さらに第三実施形態によれば、積層コア9の内周面9aに形成される複数の歯91によって、複数の第1ヒーター1が相互に直接的に赤外線を照射することを防止できる。すなわち、積層コア9の内周面9aに形成される複数の歯91を、第二実施形態における第1隔壁部材2aとして機能させることができる。したがって、第1ヒーター1の保護を図ることができる。
【0020】
(第四実施形態)
次に、本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態は、第三実施形態に隔壁部材を適用する形態である。このため、第三実施形態と共通する構成については説明を省略する。
図6Aは、第三実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
図6Bは、第三実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
図6A、
図6Bに示すように、第四実施形態においては、複数の第1ヒーター1が積層コア9の内部空間に挿入され、積層コア9の内周面9aに形成される複数の歯91どうしの間に配設される。さらに、歯91よりも半径方向の中心側(すなわち、内部空間)には、第2隔壁部材2bが積層コア9の中心軸方向に沿って延在するように配設される。第2隔壁部材2bは、それぞれの第1ヒーター1から半径方向の中心側に向かって照射される赤外線を、半径方向外側に向かって反射する機能を有する。第2隔壁部材2bには、たとえば積層コア9の内部空間に挿入可能な円筒状または円柱状の構成が適用できる。
また、第2隔壁部材2bは、赤外線を遮断および反射する材料により形成される。たとえば、第2隔壁部材2bは白色セラミック、アルミニウムなどにより形成される。
【0021】
第四実施形態によれば、第三実施形態と同様の作用効果が得られる。さらに第四実施形態においては、それぞれの第1ヒーター1から半径方向の中心側に向かって放射された赤外線が、第2隔壁部材2bによって、半径方向外側に向かって(すなわち、歯91の内周面9aに向かって)反射する。したがって、熱効率のさらなる向上を図ることができ、加熱時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0022】
(第五実施形態)
次に、第五実施形態について説明する。
図7Aは、第五実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図である。
図7Bは、第五実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す平面図である。
図7A、
図7Bに示すように、第五実施形態においては、積層コア9の内部空間に第1ヒーター1を挿入して加熱するとともに、積層コア9の外周側にも積層コア9の中心軸方向に沿って延在する第2ヒーター11を配設して加熱する。なお、
図7A、
図7Bにおいては、積層コア9の内部空間に挿入される第1ヒーター1に第一実施形態が適用される構成を示すが、第二〜第四実施形態のいずれが適用される構成であってもよい。
【0023】
第五実施形態によれば、前記各実施形態と同様の作用効果が得られる。さらに、第五実施形態によれば、積層コア9を外周側からも加熱するため、積層コア9に与える単位時間当たりの熱量を大きくすることができる。また、積層コア9を外周側からも加熱する構成を採用することで、内周側面9aから与えられた熱が外周面9bに移動して外周面9bから外部に放散されることを防止できる。したがって、積層コア9の加熱時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0024】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明する。本発明者は、第1ヒーター1を用いて加熱してその後冷却する方法によって、積層コア9を焼鈍した。そして、加熱中における積層コア9の温度を測定するとともに、焼鈍による鉄損の減少の効果を測定した。
図8は、実施例において使用した積層コア9の構成と、温度の測定点の位置を模式的に示す斜視図である。
図8に示すように、積層コア9は全体として円筒状の構成を有する。そしてその内周面9aには、半径方法中心側に向かって突出する複数の歯91が形成される。積層コア9の外径(最大)D
Oは約180mmであり、内径(最小)D
Iは約115mmであり、中心軸方向長さLは約55mmである。温度の測定点はA〜Hの8カ所とした。測定点A,Eは、歯91の内周面9aにおける中心軸方向の一端に位置する。測定点B,Fは、歯91の内周面9aにおける中心軸方向の中心に位置する。測定点C,Gは、外周面における中心軸方向の一端に位置する。測定点D,Hは、外周面における中心軸方向の中心に位置する。なお、測定点A,B,C,Dは、円周方向の位置が同一である。同様に、測定点E,F,G,Hは、円周方向の位置が同一である。そして、測定点A,B,C,Dと測定点E,F,G,Hとは、円周方向に互いに90°ずれた位置にある。
図8に示すように、4本の棒状のハロゲンヒーターを、積層コア9の内部空間に挿入して、円周方向に均等な間隔になるように配設した。積層コア9の歯部91の内周面9aからそれぞれの第1ヒーター1までの距離は、25mmとした。
【0025】
以上の条件で、積層コア9を870秒間にわたって加熱し、その後直ちに徐冷(空冷)した。加熱において第1ヒーター1に供給される電力は、約2,550Wとした。供給電力のうち、赤外線に変換されるのは約86%であり、発光長は150mmとしたので、第1ヒーター1から放出される熱量は約15W/mmとなる。
図9は、各測定点の温度変化を示すグラフである。
図10は、各測定点における最高温度を示す表である。
図9と
図10に示すように、870秒間の加熱で、全ての測定点が目標温度である700℃以上に到達した。そして、このようにして焼鈍した積層コア9は、焼鈍を施さない場合と比較すると、鉄損が約15%低減するという結果が得られた。
以上のように、本実施例によれば、870秒間の加熱によって、焼鈍による鉄損の減少の効果が得られることが確認された。加熱炉を用いる従来の積層コアの焼鈍方法においては数時間の加熱時間が必要であったことに比較すると、本発明の実施例によれば、加熱時間の大幅な短縮が可能であることが確認された。また、本発明の実施例によれば、積層コア9が目標温度に到達した後、均熱化のために加熱を継続しなくても、焼鈍による鉄損の減少の効果が得られることが確認された。以上のとおり、本発明の実施例によれば、加熱時間の短縮によって、積層コア9の生産性の向上を図ることが可能であることが確認された。
【0026】
以上、本発明の各実施形態を、図面を参照して詳細に説明したが、前記各実施形態および実施例は、本発明の実施にあたっての具体例を示したに過ぎない。本発明の技術的範囲は、前記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0027】
たとえば、積層コア9の加熱に用いられる第1ヒーター1や第2ヒーター11の数は限定されるものではない。第1ヒーター1や第2ヒーター11の数は、加熱対象である積層コア9の寸法や形状などに応じて適宜設定される。また、第1ヒーター1や第2ヒーター11は、直線状に形成される構成に限定されない。たとえば、U字形状に形成される構成であってもよい。このほか、前記各実施形態においては、2個の積層コア9を中心軸方向に重ねて同時に加熱する構成を示したが、同時に加熱する積層コア9の数は限定されるものではない。1個の積層コア9のみを加熱する構成であってもよく、3個以上の積層コア9を重ねて同時に加熱する構成であってもよい。
また、上述の説明においては複数の電磁鋼板が積層されて形成される積層コア9を金属部材として用いているが、本発明において金属部材は積層コアに限定されるものではなく、中空円筒形状を有する金属部材であればよい。