特許第6021283号(P6021283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021283
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】医療用部品のための方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/00 20060101AFI20161027BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20161027BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20161027BHJP
   A61F 2/07 20130101ALI20161027BHJP
【FI】
   A61L31/00 C
   A61L27/00 S
   A61F2/06
   A61F2/07
【請求項の数】20
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-546555(P2014-546555)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公表番号】特表2015-505699(P2015-505699A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2012075656
(87)【国際公開番号】WO2013087898
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年7月16日
(31)【優先権主張番号】11193513.6
(32)【優先日】2011年12月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】マリセン, ルロフ
(72)【発明者】
【氏名】クリスポ ビール, オルガ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンチェンス, アルマンド
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−241448(JP,A)
【文献】 特開2004−130100(JP,A)
【文献】 特開2010−000221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00
A61F 2/06
A61F 2/07
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用部品Cの製造方法であって、
a)i)UHMWPE繊維を含む布帛アセンブリを含む物品Aであって、前記物品Aの内側表面へのアクセスを可能にする少なくとも1つの開口部を有する、中空である物品Aと、
ii)ステップc)で記載される温度および時間における加熱にさらされたときにその形状を保持する成形部材Bと
を提供するステップと、
b)前記成形部材Bの外側表面の少なくとも一部が前記物品Aの内側表面の少なくとも一部によって包囲されるように前記物品Aおよび前記成形部材Bを極めて接近して位置決めするステップと、
c)前記成形部材Bの一部分と極めて接近している前記物品Aの少なくとも一部分を、前記物品Aの前記一部分を収縮させて前記成形部材Bの前記一部分の形状に一致させるのに十分な時間、少なくとも80℃および最高155℃の温度で加熱することによって、前記物品Aを熱収縮させ、従って熱収縮物品Aが得られるステップと、
d)前記熱収縮物品Aを前記成形部材Bから取り外して、前記熱収縮物品Aを含む医療用部品Cを得るステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記物品Aの熱収縮の間、大気圧および/または減圧がかけられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記布帛アセンブリがUHMWPE繊維からなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記UHMWPE繊維を含む前記布帛アセンブリが織布、不織布、編物、編組またはこれらの組み合わせである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記布帛アセンブリが織布である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記物品Aおよび前記成形部材Bの位置決めが「メス−オス」タイプであり、前記物品Aが「メス」であり、前記成形部材Bが「オス」である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記物品Aが管状である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記物品Aが、その長手軸の各端部に少なくとも1つの開口部を有する管である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記物品Aが医療用移植片である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記物品Aがグラフトまたはステント−グラフトである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記医療用部品Cが医療用移植片である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記医療用部品Cがグラフトまたはステント−グラフトである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップd)後に得られる前記医療用部品Cが、ISO7198セクション8.3.1に従って測定される少なくとも25N/mmの円周方向強度を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記部品Cの内側表面(内側表面は、物品Aの熱収縮の間に成形部材Bと接触させた)におけるRa表面粗度が、前記部品Cの外側表面(外側表面は、熱収縮の間に成形部材Bと接触させなかった)と比較して少なくとも10%低い、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記部品Cの前記内側表面のRa表面粗度が前記外側表面のRa表面粗度よりも少なくとも25%低い、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップd)後に得られる前記医療用部品Cが直径を有し、前記医療用部品Cが前記医療用部品Cの直径の少なくとも4倍の高さまで自立する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記医療用部品Cが前記医療用部品Cの直径の少なくとも6倍の高さまで自立する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記医療用部品が無支持の医療用グラフトまたは無支持の人工静脈である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法
【請求項19】
物品Aが請求項1および7〜10において定義される場合に前記物品Aを再成形するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項20】
医療用部品Cの製織欠陥のサイズもしくは数を除去または低減するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維を含む医療用部品の製造方法と、前記方法によって得ることができる医療用部品と、前記方法および医療用部品の使用とに関する。本発明は特に、グラフトまたはステント−グラフトなどの医療用移植片の製造方法と、前記方法によって得ることができるグラフトまたはステント−グラフトと、前記方法、グラフトまたはステント−グラフトの使用とに関する。
【0002】
ステント、グラフト、ステント−グラフト、および人工静脈などの管状またはホース型の医療用部品は、生体内の中空空間または空洞の機能障害の治療のための内部人工器官として使用される。グラフト、ステント−グラフトは医療用移植片であると考えられる。
【0003】
ステントは通常ワイヤケージを含み、ヒトまたは動物内の中空体のガイドレール型補強または支持となることが意図される。典型的なステントはそれ自体には被覆がなく、従って通常ただの金属メッシュである。通常ステントは、血管、消化器および泌尿器のインターベンションにおいて適用される。
【0004】
グラフトは特別な繊維で構成されたテキスタイルの医療用物品であり、通常、大動脈、大腿動脈のために、あるいは前腕において使用することができる。あるいは、冠動脈バイパスグラフトは冠動脈が閉塞した人々のために使用され、多くの場合、伏在静脈または左内胸動脈がこの手順で使用される。
【0005】
ステント−グラフトは、剛性構造、通常は金属で支持された特別な布帛で構成される。剛性構造はステントと呼ばれる。ステント−グラフトは、主に、血管内手術において使用される。ステント−グラフトは、一般に動脈瘤として知られている部分などの動脈の弱い部分を支持するために使用される。ステント−グラフトは、腹部大動脈瘤の修復において最も一般的に使用される。またステント−グラフトは一般的に、透析のために使用されるグラフトおよびフィステル内にも置かれる。これらのアクセスは時間と共に妨害されることがある、あるいは体内の他の血管と同様の動脈瘤を発生することがある。ステントグラフトは、開放された管腔を形成する状況および血液の流出を防止する状況のいずれにおいても使用することができる。
【0006】
米国特許出願公開第2010/0324667A1号明細書には、生物活性剤を組み込んだ複合血管グラフトが開示される。米国特許出願公開第2010/0324667A1号明細書のグラフトは、ePTFEの管腔層と、生物活性剤(例えば、抗菌剤)を含む生分解性ポリマー層とを含む。生分解性ポリマー層は、管腔ePTFE層の外側表面に位置する。グラフトは、生分解性層の外側表面に位置する布帛層も含む。グラフトは、血液透析手順のための動脈−静脈グラフトとして特に有用である。
【0007】
国際公開第2010/139340A1号パンフレットには、形状記憶材料で作られた糸およびポリマー糸を含む医療デバイスが開示されており、前記形状記憶材料で作られた糸は、ポリマー鞘を有する。さらに、国際公開第2010/139340A1号パンフレットは、デバイスの製造方法、デバイスの使用方法、およびデバイスを含む送達系を開示する。
【0008】
米国特許第4,897,902A1号明細書には、100〜150℃の範囲の温度で高靱性およびモジュラス収縮(modulus shrink)の超高分子量ポリエチレン繊維が開示される。これらの繊維の布帛およびマルチフィラメント撚糸は、これらの条件下で熱収縮またはヒートセットされる。
【0009】
欧州特許出願公開第1522277A2号明細書、欧州特許出願公開第0855170A2号明細書、欧州特許出願公開第1258229A1号明細書、米国特許第6,984,243B2号明細書にはステント−グラフトが開示されており、グラフト材料は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維を含む。
【0010】
通常、グラフトまたはステント−グラフトの製造方法は、布帛構造で構成されるテキスタイル管の構築を含む。前記布帛構造はいくつかのプロセスステップの結果であり、繊維または糸の作製から始まり、次に繊維または糸を織って布帛を形成し、そして布帛がテキスタイル物品(例えば、管)に形成されてグラフトが作られる。ステント−グラフトの場合、後者は、本明細書で議論されるグラフトとステントを別々に作製してから、グラフトをステントに取り付けることによって作製される。上記の製造ステップのどのステップにおいても、これらのステップのそれぞれで繊維にかけられる機械的応力のために、繊維の機械特性は妥協される。
【0011】
また、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維は高い機械的強度および生体適合性を有するため、グラフトまたはステント−グラフトにおいてこのタイプの繊維を使用することが望ましい。しかしながら、UHMWPE繊維を含む布帛で構成されるグラフトの場合、グラフトはかなり柔軟性であり、その長さおよび周囲に沿ってしわおよび捲縮が形成され、例えば血管インターベンションにおけるその使用を困難にするだけでなく、前記しわおよび捲縮の存在のために、後者は血液成分が癒着する可能性のある部位にもなり、従って、血栓の形成およびその後の再狭窄のリスクが高まる。さらに、通常、グラフトまたはステント−グラフトの内側表面は所望されるほど滑らかではなく、従って、血栓症およびその後の再狭窄の可能性の増大にさらに寄与する。加えて、通常小さい織物構造に関連するグラフトおよび/またはステントグラフトの製造は高い寸法精度を要求すると同時に欠陥があってはならないので、他のタイプの繊維(例えば、ポリエステル、ポリエチレン繊維)をUHMWPE繊維で代替することは簡単ではない。グラフトおよび/またはステントグラフトのUHMWPE布帛からの製造は、UHMWPE繊維の高い強度および硬さのために非常に困難である。その理由は、その高い硬さを考慮すれば、製織装置と意図されるグラフトおよび/またはステントグラフトとの間の既存の小さい幾何学的な「不適合」を、UHMWPE繊維が歪む能力の低下によって容易に補償することができないことである。さらに、前記幾何学的な不適合の存在のために、製織装置による製織プロセスの間に高い応力が発生すると同時に、UHMWPE繊維が前記応力を緩和する能力が低下され、製織装置の部品の破砕または妨害を容易に引き起こし得る。上記の理由による製織装置の部品の破砕または妨害は、特に、グラフトおよび/またはステントグラフトなどの比較的小さい織物構造を製造する場合に可能性がより高くなる。従って通常、グラフトおよび/またはステントグラフトを製造しようとする当業者にとって当然の選択は、例えばUHMWPE繊維などの高モジュラスおよび強度の繊維を用いることよりも、比較的低モジュラスの繊維、例えばポリエステル繊維を使用することであろう。
【0012】
加えて伝統的に、織布グラフトまたはステントグラフトは、望ましくないことに体液、特に血液によって浸透され得る。
【0013】
従って、外科的介入、例えば血管インターベンション中に容易に使用することができるように増強された剛性を有し得る、実質的な機械的強度、低減された浸透性、その内側表面の改善された滑らかさを有し得る、そして/あるいは、一度形成されたらその形状が所望の最終形状に関して向上された精度を特徴とし得る、所定の形状の医療用部品、例えば、グラフトまたはステント−グラフトを得ることは有利であろう。従って、このようなグラフトまたはステント−グラフトは、最終的に、多数の外科的介入の分野において患者の利益のために多くの新たな機会を生み出すであろう。
【0014】
本発明の目的は、本明細書で確認される問題または不都合の1つまたは複数に対処することである。より具体的には、本発明の目的は、確認される問題または不都合の一部または全てに対処し得る、医療用移植片(例えば、グラフトまたはステント−グラフト)などの医療用部品の製造方法を提供することである。
【0015】
従って、本発明に広く従って、医療用部品Cの製造方法が提供されており、前記方法は、
・ i)UHMWPE繊維を含む布帛アセンブリを含む物品Aであって、物品Aの内側表面へのアクセスを可能にする少なくとも1つの開口部を有する中空である物品Aと、
ii)前記方法で記載される温度および時間における加熱にさらされたときにその形状を保持する成形部材Bと
を提供するステップと、
・ 成形部材Bの外側表面の少なくとも一部が物品Aの内側表面の少なくとも一部によって包囲されるように物品Aおよび成形部材Bを極めて接近して位置決めするステップと、
・ 成形部材Bの一部分と極めて接近している物品Aの少なくとも一部分を、物品Aの前記一部分を収縮させて成形部材Bの前記一部分の形状に一致させるのに十分な時間、少なくとも80℃および最高155℃の温度で加熱することによって、物品Aを熱収縮させ、従って熱収縮物品Aが得られるステップと、
・ 前記熱収縮物品Aを成形部材Bから取り外して、前記熱収縮物品Aを含む医療用部品Cを得るステップと
を含む。
【0016】
本発明に従う方法は、外科的介入、例えば血管インターベンション中に容易に使用することができるように増強された剛性を有する、所定の形状の医療用部品を製造する。前記医療用部品は、さらに、所望の最終形状に関して向上された精度を有し得る。また前記医療用部品は、実質的な機械的強度および/または低減された浸透性および/またはその内側表面の改善された滑らかさも有し得る。
【0017】
引用された従来技術の文書はどれも、少なくとも、UHMWPE繊維を含む布帛アセンブリを含む物品から始まり、この物品がその内側表面へのアクセスを可能にする少なくとも1つの開口部を有する中空であり、そして、成形部材の一部分と極めて接近している前記物品の少なくとも一部分を、物品の前記一部分を収縮させて成形部材の前記一部分の形状に一致させるのに十分な時間、少なくとも80℃および最高155℃の温度で加熱することによって前記物品を熱収縮させ、従って医療用部品である熱収縮物品が得られるなどの特徴を含む医療用部品の製造方法を開示していない。
【0018】
[定義]
「物品」とは、本明細書では、目的を果たす、あるいは特別な機能を実施するように設計され、単独で立つことができる類の個々の物体または品目または要素を意味する。
【0019】
「成形部材」とは、本明細書では、別の物品を成形するために使用される、本明細書中で定義される物品を意味する。
【0020】
「医療用部品」とは、本明細書では、その機能が、医療機器、他の部品と一緒に結合されて医療用移植片の一部を形成する部品、または例えばグラフト、ステント−グラフトのような医療用移植片などの医療分野の範囲内である、本明細書中で定義される物品を意味する。
【0021】
布帛とは、本明細書では、その厚さに関して実質的な表面(平面)領域と、凝集構造を与えるための適切な機械的強度とを有する、繊維、フィラメント、および/または糸の交絡で製造されたアセンブリを意味する。布帛は編物でも織物でもよいが、編組、フェルト化、および撚りなどの不織プロセスによって製造することもできる。また布帛は、レース、メッシュ、およびネットも含む。布帛は織物または編物であることが好ましい。「布帛アセンブリ」とは、本明細書では、物品を形成するために組み立てられる布帛などのいくつかの部分またはサブアセンブリを含む部品または最終品目を意味する。
【0022】
「UHMWPE繊維」とは、本明細書では、熱可塑性ポリエチレンの部分集合であり、本明細書において詳細に説明される超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を意味する。
【0023】
「熱収縮」とは、本明細書では、加熱手段の適用によって誘発される収縮を意味する。
【0024】
「医療用移植片」とは、本明細書では、身体の器官または構造内に挿入またはグラフトされる材料を意味する。
【0025】
「グラフト」および「ステント−グラフト」は、本明細書において詳述される。
【0026】
静脈とは、本明細書では、血管を意味する。
【0027】
医療用部品Cの「実質的な機械的強度」とは、本明細書では、ISO7198セクション8.3.1に従って測定されるその円周方向強度が少なくとも25N/mmであることを意味する。
【0028】
「物品Aの円周方向強度を実質的に低下させることなく」とは、本明細書では、ISO7198セクション8.3.1に従って測定される熱収縮物品Aの円周方向強度値が物品Aの円周方向強度値と比較して低下される場合に、熱収縮物品Aの円周方向強度値が、物品Aの円周方向強度値の+/−15%、より好ましくは+/−12%、最も好ましくは+/−10%、特に+/−8%の範囲内であることを意味する。
【0029】
文脈がそうでないことを明確に示さない限り、本明細書で使用される場合、本明細書中の用語の複数形(例えば、繊維(fibers)など)は単数形も含み、逆もまた同様であると解釈されるべきである。
【0030】
本明細書において与えられる任意のパラメータの全ての上限境界および下限境界について、各パラメータの境界値はそれぞれの範囲に含まれる。本明細書に記載されるパラメータの最小値および最大値の全ての組み合わせを、本発明の種々の実施形態および選択のためのパラメータ範囲を定義するために使用することができる。
【0031】
[物品A]
物品Aは布帛アセンブリを含み、前記布帛アセンブリはUHMWPE繊維を含む。物品Aは、物品Aの内側表面へのアクセスを可能にする少なくとも1つの開口部を有する中空である。物品Aは、加熱の適用の結果として前記物品Aを収縮させるのに十分な期間、少なくとも80℃および最高155℃の温度における加熱にさらされたときに分解しない。
【0032】
物品Aは、種々の形状、例えば、球形、円筒形、矩形、楕円形、円錐形、多角形、立方体、規則的な形状または不規則形状をとり得る。好ましくは、物品Aは円筒形である。さらにより好ましくは、物品Aは管状であり、最も好ましくは、物品Aはその長手軸の各端部に少なくとも1つの開口部を有する管である。
【0033】
好ましくは、物品Aは医療用物品である。好ましくは、物品Aは医療用移植片、例えば、グラフト、ステント−グラフトであり、さらにより好ましくは、物品Aはグラフトである。
【0034】
物品Aは、形状記憶金属、形状記憶合金、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される形状記憶材料を含むことができる。形状記憶金属合金の一例はニチノール(NiTi)である。形状記憶材料は、国際公開第2010/139340号パンフレットの6頁の2番目の段落においてさらに詳述されるようなものであり得る。しかしさらにより好ましくは、本発明の方法によると、一度だけの熱収縮および結果として生じる再成形は十分であり、その上このようにして得られた再成形では、形状記憶合金で通常生じるような可逆性は必要とされず所望もされないので、物品Aは形状記憶材料を含まない。
【0035】
好ましくは、布帛アセンブリはUHMWPE繊維からなる。本発明との関連では、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、熱可塑性ポリエチレンの部分集合である。UHMWPEはエチレンのモノマーから合成され、エチレンモノマーは互いに結合されて、典型的な高密度ポリエチレン(HDPE)よりも桁違いに長いポリエチレンの分子を形成する。UHMWPEは、例えば、以下の方法:圧縮成形、ラム押出、ゲル紡糸、焼結、および混練を用いて加工される。一般に、HDPE分子は、1分子あたり700〜1,800の間のモノマー単位を有するが、UHMWPE分子は、35,000〜350,000のモノマーを有する傾向がある。UHMWPEの分子量は通常百万よりも高く、普通は百万〜10百万g/molの間の範囲である。UHMWPEは非常に強靱な材料であり、実際には、全ての既知の熱可塑性樹脂の中で最も強靱である。UHMWPEは無臭、無味、および無毒である。ゲル紡糸は、高強度UHMWPE繊維の製造のために非常に好ましい。ゲル紡糸において、正確に加熱されたUHMWPEおよび紡糸(spinning)溶媒(紡糸(spin)溶媒としても知られている)のゲルは、押出機によって紡糸口金を通して加工される。押出物は空気を通して延伸されてから、冷却される。次に、押出物は、紡糸溶媒の除去前、除去中、または除去後に伸長される。最終結果は、高度の分子配向、高結晶度、そして従って非常に優れた引張強度を有する糸である。ゲル紡糸は、分子間の絡み合いが最小限になるように溶媒中の個々の鎖分子を単離することを目的とする。分子間の絡み合いが最小限に保たれないと、これらは、UHMWPEなどの材料を加工不能にする主な原因となる。加えて、分子間の絡み合いが鎖の配向をより困難にし、最終製品の機械的強度が低下し得る。UHMWPEが繊維に形成されると、ポリマー鎖は、広範な平行配向および高レベルの結晶度、例えば85%までの結晶度を獲得することができる。エチレンのUHMWPEへの重合は、1950年代にRuhrchemie AG(長年にわたって名称が変更された)によって商品化された。今日、UHMWPE粉末材料は、Ticona、Braskem、およびMitsuiによって製造されている。UHMWPEは、シートまたはロッドなどの強固な形態として、そして繊維としてのいずれでも市販されている。またUHMWPE粉末は、製品の最終形状に直接成形されてもよい。
【0036】
本発明との関連では、UHMWPEは、本明細書では、5dl/g(デシリットル/グラム)よりも大きい固有粘度(ηintrinsic)を有するポリエチレンであると定義される。固有粘度は分子量の尺度である。ηintrinsicは、デカリン中135℃において方法PTC−179(Hercules Inc.Rev.Apr.29,1982)に従って決定され、溶解時間は16時間であり、2g/l(グラム/リットル)溶液の量の酸化防止剤としてDBPCを用い、異なる濃度における粘度がゼロ濃度まで外挿される。その長い分子鎖のために、5dl/gよりも大きいηintrinsicを有する伸長ポリオレフィン繊維は、非常に良好な機械特性(高い引張強度、モジュラス、および破断時のエネルギー吸収など)を有する。より好ましくは、10dl/gよりも大きいηintrinsicを有するポリエチレンが選択される。これは、このようなゲル紡糸UHMWPE糸が高い強度、低い相対密度、良好な耐加水分解性、および優れた摩耗特性の組み合わせを提供し、それにより、移植片を含む種々の生物医学的用途における使用に特に適するからである。最大固有粘度は分かっていないが、固有粘度は、繊維のより容易な製造が可能になるので、40dl/g未満、より好ましくは30dl/g未満であることが好ましい。
【0037】
好ましくは、本発明のUHMWPEは線状ポリエチレン、すなわち100個の炭素原子につき1個未満の側鎖または分枝、好ましくは300個の炭素原子につき1個未満の側鎖を有するポリエチレンであり、分枝は通常少なくとも1個の炭素原子を含有する。好ましくはポリエチレンだけが存在するが、代替的に、ポリエチレンはさらに、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテンなどの、ポリエチレンと共重合してもしなくてもよい5mol%までのアルケンを含有し得る。ポリエチレンはさらに、ポリエチレンと添加剤を合わせた全重量の15%w/wまで、好ましくはポリエチレンと添加剤を合わせた全重量の1〜10%w/wの、このような繊維にとって習慣的な酸化防止剤、熱安定剤、着色剤など特定の添加剤を含有していてもよい。UHMWPEはさらに、より低分子量のポリエチレンが添加されてもよい。好ましくは、前記低分子量ポリエチレンは、UHMWPEとより低分子量のポリエチレンを合わせた全重量の10%w/wまでを構成する。
【0038】
市販の超高分子量ポリエチレン繊維の例は、SPECTRA(登録商標)およびDyneema(登録商標)である。好ましくは、Dyneema Putity(登録商標)などの医療グレードUHMWPE繊維が使用されるべきである。
【0039】
UHMWPE繊維は、好ましくは、織物、不織布、編物、網組またはこれらの組み合わせである。より好ましくは、UHMWPE繊維は織物である。
【0040】
物品A中の布帛の密度は、カバーファクターDにより定量化することができる。このカバーファクターは:
【数1】


であると定義される。
【0041】
ここで、tはtex(gram/km)単位の鞘糸のタイターであり、mは全ての糸の方向における糸の平均数/mmである。カバーファクターが低過ぎる織物は高すぎる浸透性を示すであろう。カバーファクターが高過ぎる織物は妥協された強度を有し、製造が非常に困難である。驚くことに、10〜25dtexの間の線密度に対して、少なくとも8および最大で40のカバーファクターが非常に好ましく、少なくとも10および最大で20のカバーファクターがより好ましいことが分かった。
【0042】
[成形部材B]
成形部材Bは、本発明に従う方法に記載される温度および時間における加熱にさらされたときにその形状を保持する。成形部材Bは、加熱の適用の結果として物品Aを収縮させるのに十分な期間、少なくとも80℃および最高155℃の温度における加熱にさらされたときに分解しない。既知のそして通常生じる熱膨張または熱収縮などの現象による、物品Aの熱収縮の間の成形部材Bの合理的な寸法変動(その程度は、成形部材Bを作る材料の相対係数に関連する)は、本発明においてその形状を保持する範囲内であると考えるべきである。
【0043】
好ましくは、成形部材Bは金属、金属合金または複合材料で作られる。
【0044】
成形部材Bは、種々の形状、例えば、球形、円筒形、矩形、楕円形、円錐形、多角形、立方体、規則的な形状または不規則形状をとり得る。好ましくは、成形部材Bは、円筒形、例えばロッドまたは管である。さらにより好ましくは、成形部材Bはマンドレルである。
【0045】
好ましくは、成形部材Bは滑らかな表面を有し、その表面で、熱収縮プロセスの間に物品Aと接触するであろう。驚くことに、成形部材Bが滑らかな表面を有する場合、物品Aの熱収縮の間に物品Aの内側表面はより滑らかになり、従って、本発明の医療用部品Cが例えば医療用移植片(例えば、グラフト、ステント−グラフト)として医療介入において使用されれば、血栓症およびその後の再狭窄のリスクが低減されることが分かった。
【0046】
成形部材Bは医療用部品を製造するプロセスで使用されるので、成形部材Bは、好ましくは、医療用途に適している。例えば、成形部材Bはステントを含むことができ、例えば、特に物品Aがグラフトである場合には、成形部材Bはステントである。特に、成形部材Bがステントを含む場合、あるいは成形部材Bがステントである場合、熱収縮の間に生じる応力は物品Aを成形部材Bに適合させるために既に十分であり得るが、場合により、この適合は、ステントの外側の突起部によって、あるいは生体適合性の接着剤によって向上され得る。
【0047】
一実施形態では、成形部材Bは少なくとも2つの要素を含み、これらの要素は一緒に成形部材Bを形成する。要素は好ましくは、物品Aの熱処理の前に物品Aの内部で組み立てられ、物品Aの熱処理の後に取り外される。このようにして、本発明に従う方法によってY形状の物品などの複雑な構造の物品を処理することが可能である。成形部材Bを一緒に形成する要素は、物品Aの熱収縮後に熱収縮物品Aの成形部材Bからの除去を容易にするような形にすることもできる。一実施形態では、好ましくは、要素の少なくとも1つは、要素が熱収縮物品Aから除去される方向において、単調に増大または減少するサイズを有する。このことの例として、成形部材Bは円筒形のバーであり、要素は、円筒形バーを通る平面によって定義される円筒形バーのスタブ(stub)であり、この平面はバーの長さに平行ではなく、バーの長さに直交でもない。最も好ましくは、平面はバーの端面を通り、これにより、成形部材Bを形成する要素のわずかなシフトでも成形部材Bと熱収縮物品Aとの間の張力の緩和が可能になり、従って、物品Aの熱収縮の後に成形部材の除去が実質的に容易になる。
【0048】
[本発明の医療用部品C]
医療用部品Cは熱収縮物品Aを含み、好ましくは、医療用部品Cは熱収縮物品Aである。また、物品Aは布帛アセンブリを含み、前記布帛アセンブリはUHMWPE繊維を含むので、明らかに医療用部品Cも、UHMWPE繊維を含む布帛アセンブリを含むことも理解されるはずである。本発明とのより広い関連では、物品Aは医療用部品Cの前駆体である。
【0049】
好ましくは、医療用部品Cは医療用物品であり、より好ましくは、医療用部品Cは医療用移植片、例えば、グラフト、ステント−グラフトであり、さらにより好ましくは、医療用部品Cはグラフトである。
【0050】
好ましい実施形態では、本発明は本発明に従う方法によって得ることができる医療用部品Cを提供する。
【0051】
特別な実施形態では、本発明は本発明に従う方法によって得ることができる医療用部品Cを提供しており、例えばZwick z010引張メータにおいてISO7198セクション8.3.1に従って測定される円周方向強度は、少なくとも25N/mmである。
【0052】
特別な実施形態では、本発明は本発明に従う方法によって得ることができる医療用部品Cを提供しており、例えばZwick z010引張メータにおいて、付加的な滑り防止(slipping prevention)、例えばゴムシートを用いて、ISO7198セクション8.3.2に従って測定される長手方向強度は、少なくとも25N/mmである。
【0053】
特に好ましい実施形態では、本発明は本発明に従う方法によって得ることができる医療用部品Cを提供しており、i)例えばZwick z010引張メータにおいてISO7198セクション8.3.1に従って測定される円周方向強度は少なくとも25N/mmであり、そしてii)例えばZwick z010引張メータにおいてISO7198セクション8.3.2に従って測定される長手方向強度は少なくとも25N/mmである。
【0054】
本発明に従う医療用部品Cの特別な特徴は、物品Aと比べて増大された硬さ(剛性とも呼ばれる)である。特に、増大された剛性は、場合によって、部品Cがかなりの高さまで自重を支持する驚くべき能力を示すことを可能にすることが分かった。これは、自立とも呼ばれる。従って本発明の一実施形態は医療用部品Cに関し、この医療用部品は医療用部品Cの直径の少なくとも4倍の高さまで自立し、好ましくは、医療用部品は医療用部品の直径の少なくとも5倍の高さまで自立し、より好ましくは、医療用部品は医療用部品の直径の少なくとも6倍の高さまで自立する。医療用部品は、好ましくは、医療用部品の直径の少なくとも10倍の高さまで自立する。医療用部品の最大限に好ましい自立高さは医療用部品の直径の20倍であり、通常、自立高さは医療用部品の直径の15倍未満である。本発明のこの態様の特に有利な実施形態では、医療用部品はグラフトまたは人工静脈であり、好ましくは無支持のグラフトまたは無支持の人工静脈である。無支持とは、本明細書では、グラフトおよび静脈がステントを含有しないことを意味する。
【0055】
[本発明の方法]
本発明は医療用部品Cの製造方法を提供しており、前記方法は、
・ i)UHMWPE繊維を含む布帛アセンブリを含む物品Aであって、物品Aの内側表面へのアクセスを可能にする少なくとも1つの開口部を有する中空である物品Aと、
ii)前記方法で記載される温度および時間における加熱にさらされたときにその形状を保持する成形部材Bと
を提供するステップと、
・ 成形部材Bの外側表面の少なくとも一部が物品Aの内側表面の少なくとも一部によって包囲されるように物品Aおよび成形部材Bを極めて接近して位置決めするステップと、
・ 成形部材Bの一部分と極めて接近している物品Aの少なくとも一部分を、物品Aの前記一部分を収縮させて成形部材Bの前記一部分の形状に一致させるのに十分な時間、少なくとも80℃および最高155℃の温度で加熱することによって、物品Aを熱収縮させ、従って熱収縮物品Aが得られるステップと、
・ 前記熱収縮物品Aを成形部材Bから取り外して、前記熱収縮物品Aを含む医療用部品Cを得るステップと
を含む。
【0056】
物品Aと成形部材Bとの間の適合は緩くても堅固であってもよく、堅固さは、成形部材Bの周りに物品Aを位置決めできる可能性によって制限される。適合はその後の加熱中の収縮の量に影響を与える。堅固な適合の場合、収縮は少なく、さらにゼロに至ることもあり、そして熱収縮はかなりヒートセットプロセスであり得る。いずれにしても、ヒートセットで示すことができる状況を含む全ての場合に、物品Aと成形部材Bとの間に収縮応力が生じる。収縮応力が生じる場合は全て本発明の一部であると考えられる。収縮は熱収縮部品の強度の低下に関連するので、熱収縮が小さいと有利であることが分かった。特に、熱収縮の間の物品Aの線収縮は5%未満であることが好ましい。
【0057】
本発明に従う方法の主な利点は、編組プロセスからの緩んだループまたはしわなどのグラフトの欠陥が熱収縮プロセスの間に減少され得ることである。毛羽(fluff)の存在などの他のタイプの欠陥も低減されるか、熱収縮部品の表面に統合されるであろう。従って、本発明の一実施形態は、医療用部品Cの製織欠陥のサイズまたは数を除去または低減するための本発明の方法の使用に関する。
【0058】
さらに、滑らかな表面を有する成形部材Bが用いられる場合、部品Cは、部品Cの内側表面(この内側表面は、物品Aの熱収縮の間に成形部材Bと接触させた)において低減された表面粗度を有するであろう。従って、部品Cの内側表面の表面粗度は、部品Cの外側表面の表面粗度よりも低い。部品Cの滑らかな内側表面は、細菌または血液が滑らかな表面に定着する可能性が低いので有利であり得る。本発明の1つの態様は、従って、本発明の別の態様に従う方法によって得ることができる医療用部品Cに関し、Ra表面粗度は、部品Cの外側表面(この外側表面は、熱収縮の間に成形部材Bと接触させなかった)と比較して、部品Cの内側表面(この内側表面は、物品Aの熱収縮の間に成形部材Bと接触させた)において少なくとも10%低い。好ましくは、Ra表面粗度は部品Cの外側よりも内側において少なくとも25%低く、より好ましくは、Ra表面粗度は部品Cの外側よりも内側において少なくとも50%低い。Ra表面粗度は、ISO4287において定義される算術平均粗度値である。Ra表面粗度は、部品Cを切り開き、市販のエポキシ接着剤を用いて部品Cをガラス板に結合させることによって測定される。測定が意図されない面を基質に結合させ、測定すべき面をガラス板から離れた方向に向ける。部品Cの内側表面を部品Cの外側表面と比較するために、従って、2つのサンプルが必要とされる。次に、エポキシ接着剤を硬化させ、Ra表面粗度は、MahrからのMarSurf PS1のような市販の粗度測定装置を用いてRaの3回の測定の平均値として確立した。
【0059】
好ましくは、物品Aの熱収縮は、少なくとも80℃、より好ましくは少なくとも90℃、さらにより好ましくは少なくとも100℃、最も好ましくは少なくとも110℃、特に、少なくとも120℃、例えば少なくとも130℃の温度で行われる。好ましくは、物品Aの熱収縮は、最高で155℃、より好ましくは最高で150℃、さらにより好ましくは最高で145℃、最も好ましくは最高で140℃、特に、最高で130℃、より特別には最高で120℃、最も特別には最高で115℃、例えば最高で110℃の温度で行われる。
【0060】
好ましくは、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高150℃の温度で行われ、より好ましくは、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高145℃の温度で行われ、さらにより好ましくは、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高140℃の温度で行われ、最も好ましくは、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高135℃の温度で行われ、特に、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高130℃の温度で行われ、より特別には、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高125℃の温度で行われ、最も特別には、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高120℃の温度で行われ、例えば、物品Aの熱収縮は少なくとも80℃および最高115℃の温度で行われる。
【0061】
本発明の方法で使用される温度の上限の温度で物品Aを熱収縮させることが有利である。何故なら、これにより、医療用部品Cの内側表面の改善された滑らかさおよびより短いプロセス時間が可能になるからである。また、少なくとも80℃および最高145℃の温度、特に、少なくとも110℃および最高140℃の温度で物品Aを熱収縮させることも有利である。何故なら、これにより、医療用部品Cの特性の良好なバランスが可能になり、そして同時に、物品Aを熱収縮させるために本明細書に記載されるような加熱液体を使用することができ、従って、これらの目的のための特殊化された(通常、高価でもある)相補的な設備を必要とすることなく、物品Aの熱収縮の間に良好な熱伝達および制御された温度が可能になるからである。
【0062】
好ましくは、物品Aの熱収縮は、1分〜60分間行われる。
【0063】
好ましくは、物品Aの熱収縮の間、大気圧および/または減圧、例えば真空が適用され、より好ましくは減圧が適用され、最も好ましくは真空が適用される。
【0064】
好ましくは、物品Aの熱収縮は、不活性雰囲気中、例えば希ガス、窒素、水または水蒸気中で行われる。より好ましくは、物品Aの熱収縮は、不活性雰囲気中、大気圧および/または減圧下で行われる。
【0065】
別の実施形態では、物品Aの熱収縮は加熱液体中で行われ、前記液体は好ましくは水または水溶性塩の水溶液である。加熱液体の使用は、気体と比べて液体の熱容量が高いことが有利である。これにより、収縮の温度および時間の非常に微細な調整が容易になる。さらに、気体と物品Aの間よりも液体と物品Aの間の熱伝達率が高いために物品Aの熱収縮温度をより速く実現することができるので、加熱液体の使用は通常反応時間を短くする。加熱液体を利用する一実施形態において、物品Aは成形部材B上に配置され、その後加熱液体が適用されて、物品Aおよび成形部材Bを結合させる。別の実施形態では、結合された物品Aおよび成形部材Bは、例えば所望の温度の加熱液体の入った容器に必要な時間浸けることによって、加熱液体中に導入される。
【0066】
好ましくは、物品Aおよび成形部材Bの位置決めは「メス−オス(female−to−male)」タイプであり、物品Aは「メス」であり、成形部材Bは「オス」である。
【0067】
好ましくは、前記熱収縮物品Aを成形部材Bから除去して医療用部品Cを得る前に冷却が適用される。より好ましくは、前記熱収縮物品Aを成形部材Bから除去して医療用部品Cを得る前に、80℃よりも低い温度、より好ましくは60℃よりも低い、さらにより好ましくは40℃よりも低い温度における冷却、最も好ましくは、室温(23℃±1℃)における冷却が適用される。好ましくは、驚くことに熱収縮物品Aが成形部材Bからより容易に解放されることが分かったので、冷却は冷却浴中で行われる。
【0068】
[本発明のその他の態様]
別の態様では、本発明は、物品A(本明細書において定義される)を再成形するための本発明の方法の使用を提供する。
【0069】
別の実施形態では、本発明は、円周方向強度がISO7198セクション8.3.1に従って測定される場合に、物品Aの円周方向強度を改善するか、あるいは物品Aの円周方向強度を少なくとも実質的に低下させないように物品A(本明細書において定義される)を熱収縮させるための、本発明の方法の使用を提供する。
【0070】
本発明の別の態様は、医療用途のための医療用部品を製造するための本発明の方法の使用に関する。本方法によって作製され得る医療用部品の例は、人工血管、関節形成、整形外科用および脊椎移植片、例えば半月板移植片、外科用縫合糸、メッシュ、例えばヘルニアメッシュ、布帛、織布または不織布シート、テープ、リボン、バンド、人工関節、外傷固定(trauma fixation)ケーブル、胸骨閉鎖(sternum closure)ケーブル、予防的または人工装具用(per prosthetic)ケーブル、長骨骨折固定ケーブル、小骨骨折固定ケーブルなどのケーブル、例えば靱帯置換のための管様製品、エンドレスループ製品、バッグ様、バルーン様製品)、例えば靱帯置換のための管様製品、エンドレスループ製品、バッグ様製品、バルーン様製品、ステント、ステントグラフト、人工静脈、Y形状の中空構造、心臓弁および末梢弁(periphery valve)などの弁構造のためのスカート、ならびに中空構造を有する他の医療用部品である。
【0071】
さらに別の実施形態では、本発明は、医療用移植片を製造するための本発明の方法の使用を提供する。
【0072】
好ましい実施形態では、本発明は医療用移植片を製造するための本発明の方法の使用を提供しており、医療用移植片はグラフトまたはステント−グラフトである。
【0073】
さらに、本発明の別の態様は、実施例1〜14に従うグラフト(医療用部品C)である。
【0074】
本発明の多数の他の種々の実施形態は当業者には明らかになり、このようなバリエーションは本発明の広い範囲内であると考えられる。
【0075】
本明細書に開示される全ての実施形態は、互いに、そして/あるいは本発明の好ましい要素と組み合わせられてもよい。本明細書に記載される本発明の実施形態からの個々の特徴または特徴の組み合わせ、ならびにその明白なバリエーションは、得られる実施形態が物理的に実現不可能であると当業者がすぐに理解できない限り、本明細書に記載される他の実施形態の特徴と組み合わせるあるいは交換することができる。
【0076】
本発明のさらなる態様およびその好ましい特徴は特許請求の範囲において示される。
【0077】
本発明は、説明のためだけを目的とする以下の非限定的な実施例を参照してこれから詳細に説明されるであろう。
【0078】
[実施例]
[本発明に従う実施例:実施例1〜14]
実施例1〜14(表1aおよび1b)においてDyneema Purity(登録商標)25dTex繊維で作られた管形態の14本のグラフト(それぞれ、直径は8mmを少し上回り、長さは2cmである)を物品Aとして使用して、円周方向および長手方向強度を測定した。
【0079】
本発明に従う2つのタイプのグラフトを作製した。
【0080】
[実施例1〜7、物品A:]
一方のタイプのグラフトは1mmあたり8本の糸を有する平織であり、糸の方向は90°の角度であった(実施例1〜7、表1a)。管(物品A)において糸の数を測定した。このタイプのグラフトのカバーファクターは12.6であった。
【0081】
[実施例8〜14、物品A:]
他方のタイプのグラフトは長手軸方向に1mmあたり12本の糸、および円周方向に1mmあたり11本の糸を有する4−4斜文織であり、糸の方向は90°の角度であった(実施例8〜14、表1b)。グラフト(物品A)において糸の数を測定した。このタイプのグラフトのカバーファクターは18であった。
【0082】
[実施例1〜14、成形部材B:]
鋼の円筒形ロッド(それぞれ、直径8mmおよび長さ10cmまたは50cmであり、滑らかな表面を有する)を、実施例1〜14のグラフトのそれぞれに対して成形部材(本発明の言葉では成形部材B)として使用した。
【0083】
実施例1〜14の各グラフトを、各鋼円筒形ロッドの少なくとも一部が前記グラフトの内側表面全体によって包囲されるように、鋼円筒形ロッドに極めて接近して位置決めした。
【0084】
実施例1〜14のグラフトの熱収縮は、表1aおよび1bに示される温度の空気循環オーブン内で5分間行われた。各グラフトを指示される一定の温度に5分間さらしてから、オーブンから取り出し、空気中室温で冷却した。グラフトをその金属の円筒形ロッドから取り外して得られた熱収縮グラフトは、本明細書で定義される医療用部品Cであった。
【0085】
実施例1〜14のグラフトの剛性を触覚検査により評価した。
【0086】
実施例1〜14のグラフトの内側表面の滑らかさを触覚検査により評価し、1〜5のスケールで報告した。グラフトの内側表面の滑らかさの採点は1〜5であり、1は最も粗い内側表面を表し、5は最も滑らかな内側表面を表す。少なくとも2、好ましくは少なくとも3の滑らかさが望ましい。
【0087】
実施例1〜14のグラフトの円周方向強度は、未処理のグラフトおよび熱収縮グラフトについて、Zwick z010引張メータにおいてISO7198セクション8.3.1に従って測定した。
【0088】
円周方向強度はN/mmで表され、
[破断時の最大負荷/長さの2倍]=Tmax/2L(N/mm) (1)
として定義される。式中、Lは、サンプルの初期長さである。負荷はグラフトの2つの側壁によって支持され、従って、線強度は2倍の長さを用いて定義されなければならない。
【0089】
実施例1〜14のグラフトの長手方向強度は、本明細書で説明される変更を用いて、未処理のグラフトおよび熱収縮グラフトについて、Zwick z010引張メータにおいてISO7198、セクション8.3.2に従って測定した。Dyneema(登録商標)繊維の極めて低い摩擦係数および改善された滑りのために、サンプルを引張メータに適切に固定するのは不可能であった。従って、ISO7198、セクション8.3.2に記載される方法を次のように変更した:厚さ1mmのゴムパッドをクランプとサンプルの間に置いて把持を改善した。
【0090】
長手方向強度もN/mm(ニュートン/mm)で表され、
破断時の最大負荷/円周方向長さ=Tmax/(π・D)(N/mm) (2)
として定義される。式中、Dはグラフトの直径である。
【0091】
[実施例1〜14:浸透性試験:]
浸透性測定の場合、Dyneema Purity(登録商標)25dTexで作られた管形態の14本のグラフト(それぞれ、直径8mmおよび長さ40cm)を使用した。円周方向および長手方向強度試験のために使用したグラフトと同様に、平織のグラフトおよび4−4斜文織のグラフトを用いた。グラフト片を直径8mmの鋼ロッドの上に置き、表1aおよび1bに示される温度で5分間熱収縮させた。グラフトの浸透性を評価するための測定は、未処理のグラフトおよび熱収縮グラフトにおいて以下のように行った:試験の前にグラフト(長さ40cmおよび直径8mm)を水中で超音波洗浄した。続いて、グラフトの一端を閉鎖し、閉鎖端部が下側に位置し、グラフトの開放端部が上に位置するように側壁位置で吊り下げた。この後、シリンジを用いて蒸留水をその開放端部からグラフト内に注入した。水によるグラフトの充填は、グラフトの閉鎖(下側)端部で最初の水滴が観察されるまで継続した。最初の水滴が観察された時点のグラフトの水柱の高さを、浸透性の尺度(10cmの水柱は1kPaの圧力に等しい)として記録した。水柱の高さが高いほど、材料が漏れ始めるために適用される必要のある圧力が高く、続いて、前記材料の浸透性が低い。
【0092】
実施例1〜14について本明細書で報告される全ての測定は室温で行った。
【0093】
[比較例:比較例1〜4]
円周方向および長手方向強度を測定するための比較例1〜4において、Dyneema Purity(登録商標)25dTexで作られた管形態の4本のグラフト(それぞれ、直径8mmおよび長さ2cm)を物品Aとして使用する。
【0094】
2つのタイプのグラフトを製造する。
【0095】
[比較例1〜2、物品A:]
一方のタイプのグラフトは1mmあたり8本の糸を有する平織であり、糸の方向は90°の角度である(比較例1〜2、表1a)。管(物品A)において糸の数を測定する。このタイプのグラフトのカバーファクターは12.6である。従って、比較例1〜2の物品Aは、実施例1〜7の物品Aと同様である。
【0096】
[比較例3〜4、物品A:]
他方のタイプのグラフトは長手軸方向に1mmあたり12本の糸、および円周方向に1mmあたり11本の糸を有する4−4斜文織であり、糸の方向は90°の角度である(比較例3〜4、表1b)。グラフト(物品A)において糸の数を測定する。このタイプのグラフトのカバーファクターは18である。比較例3〜4の物品Aは、実施例8〜14の物品Aと同様である。
【0097】
[比較例1〜4、成形部材B:]
鋼の円筒形ロッド(それぞれ、直径8mmおよび長さ10cmまたは50cmであり、滑らかな表面を有する)を、比較例1〜4のグラフトのそれぞれに対して成形部材(本発明の言葉では成形部材B)として使用する。
【0098】
比較例1〜4の各グラフトを、各鋼円筒形ロッドの少なくとも一部が前記グラフトの内側表面全体によって包囲されるように、鋼円筒形ロッドに極めて接近して位置決めする。
【0099】
比較例1〜4のグラフトの熱収縮は、表1aおよび1bに示される温度の空気循環オーブン内で5分間行われる。各グラフトを指示される一定の温度に5分間さらしてから、オーブンから取り出し、空気中室温で冷却する。グラフトをその金属の円筒形ロッドから取り外して得られた熱収縮グラフトは、本明細書で定義される医療用部品Cである。ここで、グラフトの熱収縮が160℃で行われる比較例2および比較例4の場合、160℃での加熱中の物品Aの部分/完全溶融のために医療用部品Cは得られないことを強調する必要がある。従って、これらのグラフト(医療用部品C)において測定は実施されない。
【0100】
比較例1〜4のグラフトの内側表面の剛性および滑らかさは、実施例1〜14の場合に適用された方法に従って評価される。
【0101】
比較例1〜4の熱収縮グラフトの円周方向強度は、Zwick z010引張メータにおいてISO7198セクション8.3.1に従って測定される。
【0102】
比較例1〜4の熱収縮グラフトの長手方向強度は、本明細書で説明される変更を用いて、Zwick z010引張メータにおいてISO7198、セクション8.3.2に従って測定される。
【0103】
浸透性測定の場合、Dyneema Purity(登録商標)25dTexで作られた管形態の4本のグラフト(それぞれ、直径8mmおよび長さ40cm)を使用する。円周方向および長手方向強度試験のために使用したグラフトと同様に、平織のグラフトおよび4−4斜文織のグラフトを用いた。グラフト片を直径8mmの鋼ロッドの上に置き、表1aおよび1bに示される温度で5分間熱収縮させた。比較例1〜4の熱収縮グラフトの浸透性を評価するための測定は、実施例1〜14の場合に本明細書で記載される方法に従って実行される。
【0104】
比較例1〜4について本明細書で報告される全ての測定は室温で行われる。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】
【0107】
表1aおよび1bに示される実施例から分かるように、
・ i)UHMWPE繊維を含む布帛アセンブリを含む物品Aであって、物品Aの内側表面へのアクセスを可能にする少なくとも1つの開口部を有する中空である物品Aと、
ii)本方法で記載される温度および時間における加熱にさらされたときにその形状を保持する成形部材Bと
を提供するステップと、
・ 成形部材Bの外側表面の少なくとも一部が物品Aの内側表面の少なくとも一部によって包囲されるように物品Aおよび成形部材Bを極めて接近して位置決めするステップと、
・ 成形部材Bの一部分と極めて接近している物品Aの少なくとも一部分を、物品Aの前記一部分を収縮させて成形部材Bの前記一部分の形状に一致させるのに十分な時間、少なくとも80℃および最高155℃の温度で加熱することによって、物品Aを熱収縮させ、従って熱収縮物品Aが得られるステップと、
・ 前記熱収縮物品Aを成形部材Bから取り外して、前記熱収縮物品Aを含む医療用部品Cを得るステップと
を含む方法によって作製された医療用部品C(実施例の場合はグラフト)は、著しくより高い剛性、より低い浸透性、滑らかさが改善された内側表面を有し、実質的な機械的強度を有すると同時に、グラフトの円周方向強度および長手方向強度は本方法によって妥協されなかった。
【0108】
さらに、目視検査において、一度形成されたら、各グラフト(医療用部品C)の形状は、所望の最終形状に関して向上された精度を特徴とした。
【0109】
[実施例15:グラフトの自立高さの測定]
実験3および実験10からの自立する物品Aならびに実験3および10からの部品Cを、以下の方法に従って測定した。
【0110】
グラフトの自立する高さは、円筒形の柔らかいプラスチック管を繊維管に挿入することによって測定される。管の壁厚は、管の直径の約25%でなければならない。挿入された管の外径はグラフトの直径の約90%でなければならない。グラフトおよび挿入された管のアセンブリは、次に、200℃〜300℃の温度を有する鋭利なホットナイフによりグラフトの長手軸に垂直に切断され、直径の4倍以上の長さを有するグラフトの部分品が得られる。その後、挿入されたプラスチック管が除去される。その後ピンセットを用いて、平らな水平表面上に長手軸を鉛直方向にし、切り口を水平表面と接触させてグラフトの部分品を配置し、10秒後にグラフトが立っているか倒れるかを観察する。
【0111】
本実験について、7.5mmおよび壁厚さ1.8mmの管を使用した。ホットナイフは約250℃の温度を有し、切断速度は約2秒/切断であった。各グラフトを、グラフトの直径の4、5、および6倍の部分品に切断した。その後、グラフトの部分品が自立しているかどうかを確認した。
【0112】
【表3】

【0113】
実験結果は表2に示される。本発明の方法にさらされないグラフトは通常グラフトの直径の4倍未満の長さで限界を超えることが分かった。しかしながら、本発明に従うグラフトは、通常、グラフトの直径の少なくとも4倍の長さの場合に自立しており、最も好ましい条件下で方法が実施されれば、さらに直径の10倍の長さまで自立し得る。
【0114】
本発明に従うグラフトは自立する高さが大きいことにより、平坦化せずに長い剛性管においてパックされる場合の配送が可能になり、従って、折り目またはしわがなく成形部材Bの形状を示したまま、ステントと結合される場所へ、あるいは(ステントがグラフトに接続されない場合は)直接手術室への到着が可能になる。