特許第6021501号(P6021501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6021501-積層体の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021501
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20161027BHJP
   B32B 38/18 20060101ALI20161027BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20161027BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20161027BHJP
   B65H 18/00 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   B32B27/00 B
   B32B38/18 B
   B32B27/30 D
   B32B27/36
   B65H18/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-172081(P2012-172081)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-30941(P2014-30941A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100081765
【弁理士】
【氏名又は名称】東平 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100118050
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】綾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】二宮 直哉
(72)【発明者】
【氏名】工藤 寛文
(72)【発明者】
【氏名】満倉 由美
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−215268(JP,A)
【文献】 特開2010−208789(JP,A)
【文献】 特開平07−043856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65H 18/00−18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みt1の樹脂フィルム(1)と、厚みt2の樹脂フィルム(2)とを、接着層を介してラミネートする積層体の製造方法であって、
樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)とを接着層を介してラミネートした積層体をシート状に切り出し、当該シート状の積層体を、12時間任意の温度に晒した後の、樹脂フィルム(1)のカール曲率半径をR1sheet、樹脂フィルム(2)のカール曲率半径をR2sheetとして、
樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)とを接着層を介してラミネートした積層体をロール状に巻き取った際の、当該ロール状態での、樹脂フィルム(1)のカール曲率半径をR1roll、樹脂フィルム(2)のカール曲率半径をR2rollとした際に、
R1roll/t1及びR2roll/t2を、いずれも1000以上として、
かつ下記(i)又は(ii)の条件を満たすように積層体をロール状に巻き取る、積層体の製造方法。
(i)25℃以上Ta以下の温度範囲で、常にR1sheet≦R2sheetの関係である場合、R1roll>R2rollとなるように積層体をロール状に巻き取る。
(ii)25℃においてR1sheet≦R2sheetの関係であるが、25℃を超えてTa以下の温度範囲で、R1sheetとR2sheetとの大小関係が逆転する場合、R1roll>R2rollとなるように積層体をロール状に巻き取り、かつR1roll/R2rollを、1.0を超えて1.2以下とする。
【請求項2】
積層体をロール状に巻き取った後、ロール状態の積層体を温度Taでエージングを行う、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂フィルム(1)又は前記樹脂フィルム(2)が耐候性フィルムである、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記耐候性フィルムがフッ素樹脂を含む樹脂フィルムである、請求項3に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルム(1)又は(2)が防湿フィルムである、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記防湿フィルムが、ポリエステルフィルム上に無機層を有してなる、請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂フィルム(1)及び前記樹脂フィルム(2)の、何れか一方が耐候性フィルムであり、他方が防湿フィルムである、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネートによる積層体の製造方法、積層体及び該積層体を有する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な樹脂フィルムが開発されている。そして、複数の機能を兼ね備えた積層体を得たい場合などに、別々の機能を備えた複数の樹脂フィルムを接着剤等でラミネートし、積層体とする工程が行われている。
例えば、太陽電池等の電子デバイスの保護シートは、耐候性フィルムと防湿フィルムとをラミネートし、耐候性と防湿性とを兼ね備えた積層体としている(特許文献1)。このような積層体は、連続生産されるため、ロール状の樹脂フィルムどうしがラミネートされ、ラミネート後は巻き取られることが通常である。
また、特許文献2には、積層フィルムの試験片の伸びと張力との相関データを取得し、積層フィルムの基準伸びを設定した後、相関データから基準伸び時の張力を算出し、基準伸び時の張力を基にして積層フィルムを巻き取る張力を算出、設定する積層フィルムの巻き取り方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−107235号公報
【特許文献2】特開2010−208789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように複数の樹脂フィルムを接着剤等でラミネートした後に単純に巻き取った積層体は、製造直後は問題なくても、製造後、経時的にシワが発生したり、積層体の層間で剥離が生じる場合があった。
特許文献2は、巻きシワを防止できるとの記載があるが、各種のデータを算出するための装置が必要となり、製造装置の大型化、製造工程の複雑化を招くという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、製造後のシワの発生や層間剥離を防止する積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、積層体をロール状に巻き取った際の、当該ロール状態での各樹脂フィルムのカール曲率半径が、シワや層間剥離の原因になっていることを見出した。そしてさらに検討した結果、シート状態でのカール曲率半径を考慮した上で、ロール状態での各樹脂フィルムのカール曲率半径を特定の条件とすることにより、製造後のシワや層間剥離を防止できることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、
[1]厚みt1の樹脂フィルム(1)と、厚みt2の樹脂フィルム(2)とを、接着層を介してラミネートする積層体の製造方法であって、
樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)とを接着層を介してラミネートした積層体をシート状に切り出し、当該シート状の積層体を、12時間任意の温度に晒した後の、樹脂フィルム(1)のカール曲率半径をR1sheet、樹脂フィルム(2)のカール曲率半径をR2sheetとして、
樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)とを接着層を介してラミネートした積層体をロール状に巻き取った際の、当該ロール状態での、樹脂フィルム(1)のカール曲率半径をR1roll、樹脂フィルム(2)のカール曲率半径をR2rollとした際に、
R1roll/t1及びR2roll/t2を、いずれも1000以上として、
かつ下記(i)又は(ii)の条件を満たすように積層体をロール状に巻き取る、積層体の製造方法。
(i)25℃以上エージング温度Ta以下の温度範囲で、常にR1sheet≦R2sheetの関係である場合、R1roll≧R2rollとなるように積層体をロール状に巻き取る。
(ii)25℃においてR1sheet≦R2sheetの関係であるが、25℃を超えてエージング温度Ta以下の温度範囲で、R1sheetとR2sheetとの大小関係が逆転する場合、R1roll≧R2rollとなるように積層体をロール状に巻き取り、かつR1roll/R2rollを、1.0を超えて1.2以下とする。
また、本発明は、
[2]上記[1]記載の製造方法により得られた積層体、に関する。
また、本発明は、
[3]上記[1]に記載の製造方法により得られた積層体を有してなる、電子デバイス、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層体の製造方法によれば、製造後にシワや層間剥離が発生することを防止できる。また、本発明の積層体の製造方法により得られた積層体は、シワや層間剥離が発生することを防止できる。また、本発明の積層体の製造方法により得られた積層体を有する電子デバイスは、電子デバイス中で積層体にシワや層間剥離が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ロール状態の曲率半径を説明する図
図2】シート状態でのカールの状態を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
<積層体の製造方法>
[巻き取り前確認工程]
本発明の積層体の製造方法では、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)とを接着層を介してラミネートした積層体をシート状に切り出し、当該シート状の積層体を、12時間任意の温度に晒した後の、樹脂フィルム(1)のカール曲率半径R1sheetと、樹脂フィルム(2)のカール曲率半径R2sheetとを考慮する必要がある。
したがって、積層体の製造を行う前段階で、任意の温度のR1sheetとR2sheetとを確認しておくことが好ましい。なお、任意の温度とは、25℃から後述するエージング工程のエージング温度までの間の任意の温度であり、少なくとも下限である25℃と、上限であるエージング温度(Ta)における、R1sheetとR2sheetとを確認しておくことが好ましい。
なお、任意の温度に晒す時間は、少なくとも12時間であればよく、通常12〜72時間である。
【0011】
[巻き取り前提条件]
本発明の積層体の製造方法の巻き取り条件としては、まず、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)とを接着層を介してラミネートした積層体をロール状に巻き取った際の、当該ロール状態での、樹脂フィルム(1)のカール曲率半径をR1roll、樹脂フィルム(2)のカール曲率半径をR2rollとした際に、R1roll/t1及びR2roll/t2を、いずれも1000以上とすることが必要である。R1roll/t1及びR2roll/t2はいずれも2000以上とすることが好ましい。
図1は、積層体を巻き取った状態の部分断面図である。図1に示すように、ロールの中心から樹脂フィルム(1)までの距離がR1roll、ロールの中心から樹脂フィルム(2)までの距離がR2rollである。すなわち、R1roll/t1及びR2roll/t2を、いずれも1000以上とするとは、基材厚みが厚くなるほど曲率半径が大きくなるように巻き取ることを意味している。
なお、R1roll/t1及びR2roll/t2がいずれも1000以上となる条件は、ロールの任意の位置で満たしていてもよいが、歩留まり向上の観点から、ロールの最内位置(言い換えると全ての位置)で満たしていることが好ましい。
【0012】
[巻き取り条件(i)及び(ii)]
本発明の積層体の製造方法は、上述した巻き取り前提条件を満たした上で、さらに巻き取り条件(i)又は(ii)を満たす必要がある。
巻き取り条件(i)は、25℃以上Ta以下の温度範囲で、常にR1sheet≦R2sheetの関係である場合、R1roll>R2rollとなるように積層体をロール状に巻き取るものである。
つまり、巻き取り条件(i)は、シート状態の積層体を、25℃以上エージング温度(Ta)以下の温度範囲に晒した際に、シート状の積層体が常に樹脂フィルム(2)側が凸となるようにカールする場合に、樹脂フィルム(1)側が凸となるように積層体をロール状に巻き取ることを意味している。
このような条件で積層体を巻き取ることにより、後述するエージングを行っても、積層体の製造後に、積層体にシワが発生したり、層間剥離が生じることを防止できる。
【0013】
巻き取り条件(ii)は、25℃においてR1sheet≦R2sheetの関係であるが、25℃を超えてTa以下の温度範囲で、R1sheetとR2sheetとの大小関係が逆転する場合、R1roll>R2rollとなるように積層体をロール状に巻き取り、かつR1roll/R2rollを、1.0を超えて1.2以下とするものである。R1roll/R2rollは1.0を超えて1.1以下とすることがより好ましい。
つまり、巻き取り条件(ii)は、シート状の積層体を25℃に晒した際は、シート状の積層体が樹脂フィルム(2)側が凸となるようにカールしているが、25℃を超えてエージング温度(Ta)に至るまでの温度範囲に晒した際に、シート状の積層体のカールの向きが逆転する場合において、樹脂フィルム(1)側が凸となるように積層体をロール状に巻き取るとともに、ロール状態での樹脂フィルム(1)と(2)との曲率半径の差を少なくすることを意味している。
このような条件で積層体を巻き取ることにより、後述するエージングを行っても、積層体の製造後に、積層体にシワが発生したり、層間剥離が生じることを防止できる。
なお、R1roll>R2rollとして、かつR1roll/R2rollを1.0を超えて1.2以下となるように積層体をロール状に巻き取る条件は、ロールの任意の位置で満たしていてもよいが、歩留まり向上の観点から、ロールの全ての位置で満たしていることが好ましい。
【0014】
巻き取り条件(ii)では、R1sheetとR2sheetとの大小関係が逆転している。一概にはいえないが、R1sheet及びR2sheetは、樹脂フィルム(1)及び(2)の熱収縮による影響が大きい。例えば、25℃においてR1sheet≦R2sheetの関係となる場合、当該温度では、樹脂フィルム(1)の熱収縮が樹脂フィルム(2)の熱収縮より大きいことが多い。一方、TaにおいてR1sheet≧R2sheetの関係となる場合、当該温度では、樹脂フィルム(2)の熱収縮が樹脂フィルム(1)の熱収縮より大きいことが多い。
したがって、巻き取り条件(ii)のR1sheetとR2sheetとの大小関係が逆転する場合とは、原則として、25℃を超えてTa以下の温度範囲で、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)との熱収縮が逆転する場合である。なお、フィルムはガラス転移温度を超えてゴム状態になると、収縮力が小さくなる。したがって、巻き取り条件(ii)のR1sheetとR2sheetとの大小関係が逆転する場合とは、25℃を超えてTa以下の温度範囲に、樹脂シート(1)のガラス転移温度が存在する場合が多いといえる。
【0015】
巻き取り条件(i)及び(ii)において、積層体を巻き取るコア(芯)は、歩留まりの観点から、直径が50mm以上のものが好ましく、75mm以上のものがより好ましい。また、あまりに大きくなると、無駄な空間(コア内部の空間)が拡大して作業上の不都合を引き起こすことがあるため、コア(芯)の直径は300mm以下であることが好ましい。
【0016】
[エージング]
本発明の積層体の製造方法は、巻き取り条件(i)又は(ii)で積層体をロール状に巻き取った後、ロール状のままでエージングを行う。
エージングは、室温以上の温度環境に積層体をさらし、積層体の接着層の架橋を進行させ、接着層の被膜性を向上させるための処理である。エージング温度(Ta)は、樹脂フィルムや接着層の組成にもよるが、通常25℃以上であり、好ましくは30〜60℃程度である。
エージングの時間は、樹脂フィルムや接着層の組成にもよるが、通常24〜144時間である。
本発明の積層体の製造方法は、このエージングを考慮した上で、上述した巻き取り条件を制御しているため、積層体の製造後に、積層体にシワが発生したり、層間剥離が生じることを防止できる。
【0017】
[ラミネート工程]
本発明の積層体の製造方法においては、樹脂フィルム(1)と(2)とを接着層を介してラミネートする際に、樹脂フィルム(1)の張力S1及び樹脂フィルム(2)の張力S2との関係を、下記(iii)又は(iv)の条件として、かつ樹脂フィルム(1)のひずみε1及び樹脂フィルム(2)のひずみε2を何れも0.1未満とすることが好ましい。
(iii)25℃以上Tp以下の温度範囲で、常にE1×t1×w1≦E2×t2×w2の関係である場合、S2/S1を、0.6以上1.5以下とする。
(iv)25℃において、E1×t1×w1≦E2×t2×w2の関係であるが、25℃を超えてTp以下の温度範囲で、E1×t1×w1とE2×t2×w2との大小関係が逆転する場合、S2/S1を、0.8以上1.3以下とする。
なお、E1は樹脂フィルム(1)のヤング率、t1は樹脂フィルム(1)の厚み、w1は樹脂フィルム(1)の幅を示し、E2は樹脂フィルム(2)のヤング率、t2は樹脂フィルム(2)の厚み、w2は樹脂フィルム(2)の幅を示す。Tpはラミネート温度を示す。
上記(iii)又は(iv)の条件でラミネートすることにより、積層体の製造後に、積層体にシワが発生したり、層間剥離が生じることを、よりいっそう防止できる。
また、ε1及びε2を0.1未満とすることにより、張力により樹脂フィルム(1)及び(2)が変形することを防止し、正常なラミネートを行うことができる。
【0018】
ラミネート工程時の温度は、ラミネート後の収縮を抑える観点から、50℃以下とすることが好ましい。
ラミネート工程における樹脂フィルム(1)及び(2)の張力(S1、S2)の制御は、例えば、パウダークラッチによる方式が広く用いられている。これは、入力軸と出力軸を有し、両軸の接合面の間にパウダー(通常は鉄粉)が充填されている。接合部の外周には電磁石が装置されており、電磁石の磁力を電気的に調整することにより、パウダーの位置を制御して、両軸の接合度合いを変化させることができ、入力軸から出力軸に与える動力を調整することができるもので、張力を検出しながら定められた値になるように制御する方式である。このほか、ダンサーロールを用いて、ウエイトを調整することで一定の張力となるように制御する方法もあり、多数の手段の中から適切なものを選択することが可能である。
【0019】
[樹脂フィルム(1)及び(2)]
樹脂フィルム(1)及び(2)は、積層体の用途に応じて適宜選択することができる。樹脂フィルム(1)及び(2)は、同一のものであってもよいし、別のものであっても良い。
樹脂フィルム(1)及び(2)の厚み(t1、t2)は、通常5〜500μm程度であり、好ましくは10〜250μmである。樹脂フィルム(1)及び(2)の厚みは、同一であっても良いし、異なっていてもよいが、ラミネート加工適性の観点から、両フィルムの厚み比[樹脂フィルム(1)の厚み/樹脂フィルム(2)の厚み]が、0.05〜20であることが好ましく、0.2〜5であることがより好ましい。
樹脂フィルムの幅(w1、w2)は、通常300〜2500mm程度であり、好ましくは800〜1600mmである。樹脂フィルム(1)及び(2)の幅は、同一であっても良いし、異なっていてもよいが、ラミネート加工適正の観点から、両フィルムの幅比[樹脂フィルム(1)の幅/樹脂フィルム(2)の幅]が、0.5〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.2であることがより好ましい。
樹脂フィルム(1)及び(2)のヤング率(E1、E2)は、樹脂フィルムの材質により異なる。通常、樹脂フィルムのヤング率は500〜10000MPa程度である。
【0020】
樹脂フィルム(1)及び(2)を構成する樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体又は共重合体等のポリオレフィン;環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド;エチレン−酢酸ビニル共重合体部分加水分解物(EVOH)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、フッ素樹脂、アクリル樹脂、生分解性樹脂等が挙げられる。
【0021】
樹脂フィルム(1)及び(2)は、任意の機能を有するものであってもよい。例えば、耐候性フィルム、防湿フィルム、耐擦傷フィルム、防眩フィルム、帯電防止フィルム、難燃フィルム、光拡散フィルム、セルフクリーニングフィルム等があげられる。積層体を電子デバイス保護用の部材として用いる場合、樹脂フィルム(1)及び(2)は、耐候性フィルムと防湿フィルムとの組み合わせであることが好ましい。
【0022】
耐候性フィルムとしては、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の耐候性に優れた樹脂を含むフィルムが挙げられる。これらの中でも、フッ素樹脂を含むフィルムが好ましい。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体(PFA)、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体(FEP)、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ3−フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びポリフッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
耐候性フィルムとする場合、フッ素樹脂等の耐候性に優れた樹脂を、フィルムを構成する全樹脂中の80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましい。
【0023】
防湿フィルムとしては、塩化ビニリデン樹脂等の防湿性に優れた樹脂から形成したシートや、ポリエステルフィルム等の汎用プラスチックフィルム上に無機層を形成したものが挙げられる。
無機層を構成する物質としては、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン等、あるいはこれらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、酸化炭化窒化物、ダイヤモンドライクカーボン又はこれらの混合物が挙げられるが、特に、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及びこれらの混合物は、高い防湿性が安定に維持できる点で好ましい。
無機層はコーティングまたは蒸着法により形成することができるが、ガスバリア性の高い均一な薄膜が得られるという点で蒸着法が好ましい。この蒸着法には、物理気相蒸着(PVD)、あるいは化学気相蒸着(CVD)等の方法が含まれる。物理気相蒸着法としては、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられ、化学気相蒸着法としては、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。
無機層の厚さは、安定な防湿性能の発現と透明性の点から、10〜1000nmであることが好ましく、40〜800nmがより好ましく、50〜600nmが更に好ましい。
防湿フィルムの40℃90%における水蒸気透過率は、0.1[g/(m2・日)]未満であることが好ましく、0.05[g/(m2・日)]以下であることがより好ましく、0.03[g/(m2・日)]以下であることがさらに好ましい。
水蒸気透過率の測定方法は、JIS Z 0222「防湿包装容器の透湿度試験方法」、JIS Z 0208「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」の諸条件に準じ測定される。
【0024】
樹脂フィルム(1)及び(2)は、何れか一方又は双方が、積層フィルムの状態であってもよく、その場合で本発明の条件を満たしていればよい。
【0025】
[接着層]
接着層は、樹脂フィルム(1)と樹脂フィルム(2)とを接着する役割を有するものである。接着層を構成する材料としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤などの粘着剤、ホットメルト接着剤、電離放射線硬化型接着剤などの接着剤の他、熱圧着可能な熱可塑性樹脂フィルム(いわゆるシーラントフィルム)等が挙げられる。これらの中でも粘着剤が好ましい。接着層の厚みは2〜25μm程度である。
なお、粘着剤若しくは接着剤を用いる場合、ラミネート工程前に、樹脂フィルム(1)又は(2)の何れかに接着層を形成しておくことが好ましい。
【0026】
粘着剤は、常温で短時間、わずかな圧力を加えるだけで接着し、被着体に濡れていくための液体の性質(流動性)と剥離に抵抗する固体の性質(凝集力)を同時に有するものをいい、感圧接着剤とも呼ばれ、通常の接着剤とは区別されるものである。
粘着剤の100℃、周波数10Hz、歪0.1%における引っ張り貯蔵弾性率は5.0×104〜5.0×105Paであることが好ましい。
引っ張り貯蔵弾性率を5.0×104以上とすることにより、ラミネート工程時に接着層が流動して保護材から大きくはみ出すことを防止することができ、5.0×105Pa以下とすることにより、フィルムの収縮等により発生する応力を接着層で吸収することができるため、上述した張力比の調整との相乗効果で、積層体の外観が損なわれることをより一層防止できる。
【0027】
粘着剤の100℃、周波数10Hz、歪0.1%における引っ張り貯蔵弾性率は5.0×104〜5.0×105Paの範囲とするため、粘着剤は、アクリル系粘着剤を含むことが好ましい。アクリル系粘着剤は、接着層の全固形分中の50質量%以上含むことが好ましく、65質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0028】
アクリル系粘着剤としては、低ガラス転移点(低Tg)の主モノマー成分、高ガラス転移点(高Tg)のコモノマー成分、及び官能基含有モノマー成分を主とする重合体又は共重合体(以下、「アクリル系(共)重合体」という。)よりなるものが好ましい。
低Tgの主モノマー成分としては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
高Tgのコモノマー成分としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
官能基含有モノマー成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマーや、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド等のヒドロキシル基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
アクリル系粘着剤のモノマー成分の重合に使用する開始剤の例としては、アゾビスイソブチルニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、アクリル系粘着剤の主成分となるアクリル系(共)重合体の共重合形態については特に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
また、アクリル系粘着剤が上述のアクリル系(共)重合体である場合の分子量としては、重量平均分子量で30万〜150万であるものが好ましく、40万〜100万であることがさらに好ましい。重量平均分子量を上記範囲にすることによって被着体に対する密着性や接着耐久性を確保できるため、積層体の層間剥離をより防止することができる。
【0030】
アクリル系(共)重合体において、官能基含有モノマー成分単位の含有量は、1〜25質量%の範囲が好ましい。官能基含有モノマー成分の含有量を当該範囲内にすることにより、被着体との密着性及び架橋度を確保し、接着層の引っ張り貯蔵弾性率を、100℃において5.0×104〜5.0×105Paの値にすることができる。
【0031】
<積層体及び電子デバイス>
本発明の積層体は、上述した製造方法により得ることができる。本発明の積層体は、電子デバイスの表面及び/又は背面の保護用の積層体等として用いることができる。なお、本発明の積層体を電子デバイスの表面及び/又は背面の保護用の積層体として用いる場合、樹脂フィルム(1)及び(2)の、何れか一方が耐候性フィルムであり、他方が防湿フィルムであることが好ましい。
電子デバイスとしては、EL素子、液晶表示素子等のディスプレイ素子、太陽電池、タッチパネル等が挙げられる。
本発明の積層体の製造方法により得られた積層体を有する電子デバイスは、電子デバイスの製造過程や、電子デバイスの製造後に積層体にシワや層間剥離が発生することを防止できる。本発明の積層体を有する太陽電池は、例えば、本発明の積層体、封止樹脂層、太陽電池素子、封止樹脂層、本発明の積層体の順に積層する工程と、それらを真空吸引し加熱圧着する工程により製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例及び比較例により本発明は制限を受けるものではない。なお、積層体の物性の測定及び評価は次のようにして行った。
【0033】
[カール曲率半径の測定(シート状)]
積層体を100mm×100mmのシート状に切り出し、温度25℃、湿度50%RHの恒温恒湿チャンバーにて24時間当室の環境に曝した後、当該シートを平坦な台上に静置して、ハイトゲージで測定した4つの角の高さの平均をdとし(図2参照)、次の二式から求めた。
(式1) Risheet=disheet/(1−cos(θisheet/2))
(式2) Risheet=π×(100/θisheet
なお、iは1又は2を示す(例えば、Risheetは、R1sheet又はR2sheetを示す)。
【0034】
[層間剥離の評価]
積層後にエージング(25℃で1昼夜行った後40℃で1週間行った)を行った後、防湿フィルムのポリエチレンテレフタレートフィルム側より、目視にて剥離の有無を確認した。
○:剥離がないもの
×:層間剥離しているもの
【0035】
[シワの評価]
積層後にエージング(25℃で1昼夜行った後40℃で1週間行った)を行った後、その外観を観察し、以下の評価基準に従って評価した。なお、シワは数ではなく大きさで判定した。
○:シワなし
△:大きさ数mmまでの小さなシワが部分的に発生した状態
×:大きさ数cmの大きなシワが発生した状態
【0036】
[構成フィルム]
<耐候性フィルム>
耐候性を有するフッ素系樹脂フィルム(PVDF、アルケマ社製、商品名:Kynar 302−PGM−TR、厚み25μm、幅1070mm、ヤング率800MPa)を準備した。
<防湿性フィルム>
ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み12μm、幅1050mm、ヤング率4100MPa)上に、酸化ケイ素を蒸着してなる無機層(厚み1μm未満)を有する防湿性フィルム(三菱樹脂社製、商品名:テックバリアLX)を準備した。
<接着層塗液>
三井化学ポリウレタン社製の商品名A1102と、三井化学ポリウレタン社製の商品名A3070とを、質量比で16:1となるように混合し、固形分濃度が30質量%となるように酢酸エチルで希釈して接着層塗液を調製した。
【0037】
実施例1、2
樹脂フィルム(1)として耐候性フィルムを用い、樹脂フィルム(2)として防湿性フィルムを用いた。耐候性フィルム上に、接着層塗液を乾燥後の厚みが7μmとなるよう塗布乾燥して接着層を形成した。
次いで、耐候性フィルムの接着層と、防湿性フィルムの無機層面とをラミネートして積層体を得た。このときカール曲率半径を測定したところ、R1sheetとR2sheetとは有効数字の範囲で同じ数値となったが、樹脂フィルム(1)を上にして樹脂フィルム(2)を下にして平坦な台上に静置したところ、凹状になり、樹脂フィルム(1)の方が大きく収縮していることが確認された。以下の比較例では同じ結果であった。
次いで、得られた積層体を連続的に直径174mmのコアにロール状物の直径が272mmとなるまで、樹脂フィルム(1)側が凸となるように巻き取り、ロール状に巻き取られた積層体を得た。
得られた積層体について、層間剥離及びシワの評価を行った。また、コアの一番内側部分におけるR1roll及びR2roll、R1roll/t1及びR2roll/t2を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例3
樹脂フィルム(1)及び(2)として防湿性フィルムを用いた。一方の防湿性フィルムの無機層とは反対側の面に、接着層塗液を乾燥後の厚みが7μmとなるよう塗布乾燥して接着層を形成した。次いで、一方の防湿性フィルムの接着層と、他方の防湿性フィルムの無機層面とをラミネートして、積層体を得た。次いで、得られた積層体を連続的に直径174mmのコアにロール状物の直径が272mmとなるまで、樹脂フィルム(1)側が凸となるように巻き取り、ロール状に巻き取られた積層体を得た。
得られた積層体について、層間剥離及びシワの評価を行った。また、コアの一番内側部分におけるR1roll及びR2roll、R1roll/t1及びR2roll/t2を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例4
直径96mmのコアを用いた以外は実施例1と同様にして、同じ長さの積層体をロール状に巻き取った。
比較例1
樹脂フィルム(2)側が凸となるように巻き取った以外は、実施例1と同様にして、ロール状に巻き取られた積層体を得た。
比較例2
樹脂フィルム(2)側が凸となるように巻き取った以外は、実施例2と同様にして、ロール状に巻き取られた積層体を得た。
比較例3
樹脂フィルム(2)側が凸となるように巻き取った以外は、実施例3と同様にして、ロール状に巻き取られた積層体を得た。
比較例4
直径37mmのコアを用いた以外は実施例1と同様にして、同じ長さの積層体をロール状に巻き取った。
【0040】
なお、実施例1〜3及び比較例1〜3は、25℃を超えてTa以下の温度範囲で、R1sheetとR2sheetとの大小関係が逆転しないものであった。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜4の製造方法により得られた積層体は、層間剥離やシワが発生することがないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の積層体の製造方法によれば、製造後に層間剥離やシワの発生のない積層体を得ることができる。このような積層体は、長期的に性能を安定できるため、特に電子デバイス保護用の積層体として好適に使用することができる。
図1
図2