特許第6021535号(P6021535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6021535塗布具用ペン芯及びそれを用いたマーキングペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021535
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】塗布具用ペン芯及びそれを用いたマーキングペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 1/12 20060101AFI20161027BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   B43K1/12 B
   B43K8/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-195101(P2012-195101)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-50977(P2014-50977A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】川北 美裕
(72)【発明者】
【氏名】澤 幸儀
(72)【発明者】
【氏名】川端 慎大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 厚志
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 久人
【審査官】 藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−020575(JP,A)
【文献】 特公昭49−032969(JP,B1)
【文献】 実公昭42−017625(JP,Y1)
【文献】 特開2004−098518(JP,A)
【文献】 特開昭60−112497(JP,A)
【文献】 実公昭42−017627(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00− 1/12
B43K 5/00− 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の積層構造からなるペン芯であって、先端部が熱可塑性樹脂の粉体の焼結体からなり、軸部がその内部に長手方向にインク誘導孔を形成したものであると共に、先端部と軸部が共に焼結体からなり、軸部が先端部よりも高い耐荷重を有することを特徴とする塗布具用ペン芯。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンビニルアセテート、アクリロニトリル-スチレン樹脂の何れかが含まれることを特徴とする請求項1に記載の塗布具用ペン芯。
【請求項3】
外径が3mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具用ペン芯。
【請求項4】
前記請求項1〜のうちのいずれか1項に記載の塗布具用ペン芯を先端に装着したことを特徴とするマーキングペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布具(筆記具も含む)用ペン芯に関するものであり、より詳細には、耐磨耗性や靱性や強度を改良することにより、筆記又は塗布時の線幅保持性及び芯の耐久性を向上させると共に、筆感に優れている塗布具用ペン芯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記又は塗布具に用いられるペン芯としては、たとえば合成繊維を束ねた状態で合成樹脂系接着剤を含浸させることで棒状に成形したものが多用されている。この場合、前記ペン芯の周側面を被覆部材などで覆った構成とすることで、使用によるペン芯の「つぶれ」や「へたり」を抑制させる機能を持たせたペン芯(特許文献1参照)が提案されている。
【0003】
一方で、熱可塑性樹脂粉体の焼結体を用いることでペン芯の「つぶれ」や「へたり」を抑制したペン芯も使われている。
【0004】
しかし、焼結体の場合には単独では充分な強度が無いため、強度を補ったもの(特許文献2、3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−251980号公報
【特許文献2】特開2004−098518号公報
【特許文献3】特開平11−129668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1のペン芯は、被覆樹脂によってペン芯の周側面を覆っているだけであって、持久性がなく使用回数によってペン芯の「つぶれ」や「へたり」が発生してしまうものである。
【0007】
また、特許文献2のペン芯では、外皮を焼結体にしたため「へたり」の問題は解決するが、筆記時に筆圧が強い場合等に外皮が破れる場合がある。また、破れ防止のため焼結体を密にして強度を高めるとインクが追従しない問題が生じる。さらに、インク粘度が高い場合、ペン芯に供給するのが難しくなる問題がある。
【0008】
また、特許文献3の筆記体では、外殻部内の中心部にインク誘導芯を配置しているものであるが、特許文献2と同様の問題が生じる。
【0009】
本発明は、上記の実情に鑑み、ペン芯全体の強度とインク追従性を実現できる塗布具用ペン芯及びそれを用いたマーキングペンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は塗布具用ペン芯に係り、2種類以上の積層構造からなるペン芯であって、先端部が熱可塑性樹脂の粉体の焼結体からなり、軸部がその内部に長手方向にインク誘導孔を形成したものであると共に、先端部と軸部が共に焼結体からなり、軸部が先端部よりも高い耐荷重を有することを特徴とする塗布具用ペン芯である。
【0011】
本発明において、上記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンビニルアセテート、アクリロニトリル-スチレン樹脂の何れかが含まれることが好適である。
【0012】
また、本発明において、2種類以上の積層構造は、先端部と軸部が共に焼結体からなり、軸部が先端部よりも高い耐荷重を有すことが好適である。
【0013】
本発明の塗布具用ペン芯において、外径が3mm以下であることが好適である。
本発明はマーキングペンに係り、前記のうちのいずれかに記載の塗布具用ペン芯を先端に装着したことを特徴とするマーキングペンである
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗布具用ペン芯によれば、2種類以上の積層構造からなるペン芯であって、先端部が熱可塑性樹脂粉体の焼結体からなり、軸部がその内部に長手方向にインク誘導孔を形成したことで、ペン芯全体の強度と優れたインク追従性を実現できる。
【0015】
特に外径が3mm以下の細字のペン先でも筆記圧に負けることなくペン芯が曲がらずに使用することができる等の優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るペン芯の説明図であって(a)が先端からの視図、(b)が側面図、(c)が縦断面図、(d)後端から視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0018】
実施形態に係る塗布具用ペン芯は、2種類以上の積層構造からなるペン芯10であって、先端部12が熱可塑性樹脂粉体の焼結体からなり、軸部14がその内部に長手方向にインク誘導孔14aを形成したものである。
先端部12は半球状のドーム形状を呈し、軸部14は中空の筒形状を呈して、互いに強固に一体化している。インク誘導孔14aは前記先端部12の裏面側に達して、インクを軸部14を通して、前記先端部12に行き渡らせる得る構造になっている。
【0019】
上記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンビニルアセテート、アクリロニトリル-スチレン樹脂の群より選んだ少なくとも1種類以上の樹脂である。
【0020】
上記ポリオレフィンは、超高分子ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンの群より選んだ少なくとも1種以上の樹脂であることが好適である。
【0021】
また、前記先端部12はインク吐出に適した気孔率及び細孔径の焼結体からなり、軸部14は軸部強度を保つのに適した気孔率及び細孔径の焼結体からなるものである。
【0022】
すなわち、先端部12と軸部14は強度で区別でき、先端部12は5N以上、軸部14は10N以上の耐荷重とすることが望ましい。また、軸部14は先端部12よりも大きな耐荷重であるものとする。尚、耐荷重とは、先端部12が鉛直下向きとなるようにペン芯10を凡そ垂直にし、所定の荷重をかけ、徐重した後でも先端部12或いは軸部14に、塑性変形が残った最低荷重を示すものである。
【0023】
また、ペン芯10は、外径が3mm以下としている。
【0024】
実施形態の塗布具用ペン芯の製造方法にあっては、所望するペン芯10外径と同等又は若干大きな相似形の金型に対し、先端部12に対応する空間内に低密度の焼結体熱可塑性の樹脂粉末を配置し、軸部14に対応する空間内に低密度の焼結体熱可塑性の樹脂粉末を配置し、熱可塑性樹脂を金型内で焼結させることにより焼結体のペン芯10を製造する。
【0025】
この場合、先端部12の樹脂粉末を焼結し、その後、軸部14の樹脂粉末を焼結してもよい。
【0026】
上記のペン芯10はインク収容部を有する軸体(図示省略)の先端部等に装着して、インク誘導孔14aを介して、インクを先端部12に供給することによって、当該先端部12からインクが出て筆記又は塗布することができ、筆記または塗布の際に筆記圧かかっても曲がりにくく寝ることがなくなる。
【0027】
実施形態に係る塗布具用ペン芯によれば、2種類の積層構造からなるペン芯10であって、先端部12が熱可塑性樹脂粉体の焼結体からなり、軸部14がその内部に長手方向にインク誘導孔14aを形成したので、軸部14が高密度で強度が高く使用時に折れにくく、また先端部12が軸部14に比較して低密度で強度が低いので、十分にインクを行き渡らせて筆記時に途切れ無く塗布したり筆記・描画したりできるので、ペン芯10全体の強度と優れたインク追従性を実現できる。
【0028】
ペン芯10は、特に外径が3mm以下の細字のペン先でも筆記圧に負けることなくペン芯が曲がらずに使用することができる。
【0029】
なお、前記実施形態では、2種類以上の積層構造として、先端部と軸部で耐荷重の異なる焼結体とした2種類の積層構造にしたが、例えば先端部または軸部を多層構造にする等3種類以上の多層構造にする等することも本発明の範囲内である。
【0030】
また、各部の材質は前記のように耐荷重は異なるが同じ焼結体にするばかりでなく、軸部を樹脂材とするなど他の材質で形成することも本発明の範囲内である。
【実施例】
【0031】
次に、実施例及び比較例により、本発明を更に詳述するが、本発明は下記実施例等により制限されるものではない。
【0032】
(実施例1)
ペン芯の先端部12:ポリエチレン製焼結芯
ペン芯の軸部14:ポリエチレンとポリプロピレンのブレンドによる焼結芯
ペン芯の先端部12とペン芯の軸部14とは接着剤による接着とし、ペン芯の先端部12の先端半球状の曲率R1.5mm、インク誘導孔14aの内径1mm、直径φ3mmのペン芯10を作製した。
また、得られたペン芯10は、先端部12の耐荷重は10Nで、軸部14の耐荷重は15Nとした。
【0033】
(実施例2)
ペン芯の先端部12:ポリエチレン製焼結芯
ペン芯の軸部14:ポリエチレンとポリプロピレンのブレンドによる焼結芯
ペン芯の先端部12とペン芯の軸部14とは接着剤による接着とし、ペン芯の先端部12の先端半球状の曲率R1.5mm、インク誘導孔14aの内径1.5mm、直径φ3mmのペン芯10を作製した。
また、得られたペン芯10は、先端部12の耐荷重は7Nで、軸部14の耐荷重は13Nとした。
【0034】
(実施例3)
ペン芯の先端部12:ポリエチレン製焼結芯
ペン芯の軸部14:ポリエチレンとポリプロピレンのブレンドによる焼結芯
ペン芯の先端部12とペン芯の軸部14とは接着剤による接着とし、ペン芯の先端部12の先端半球状の曲率R1.25mm、インク誘導孔14aの内径1mm、直径φ2.5mmのペン芯10を作製した。
また、得られたペン芯10は、先端部12の耐荷重は6Nで、軸部14の耐荷重は12Nとした。
【0035】
(実施例4)
ペン芯の先端部12:ポリフッ化ビニリデン製焼結芯
ペン芯の軸部14:ポリフッ化ビニリデンとポリプロピレンのブレンドによる焼結芯
ペン芯の先端部12とペン芯の軸部14とは接着剤による接着とし、ペン芯の先端部12の先端半球状の曲率R1.25mm、インク誘導孔14aの内径1mm、直径φ2.5mmのペン芯10を作製した。
また、得られたペン芯10は、先端部12の耐荷重は9Nで、軸部14の耐荷重は25Nとした。
【0036】
(実施例5)
ペン芯の先端部12:ポリフッ化ビニリデン製焼結芯
ペン芯の軸部14:ポリフッ化ビニリデンとポリプロピレンのブレンドによる焼結芯
ペン芯の先端部12とペン芯の軸部14とは接着剤による接着とし、ペン芯の先端部12の先端半球状の曲率R1.0mm、インク誘導孔14aの内径1mm、直径φ2mmのペン芯10を作製した。
また、得られたペン芯10は、先端部12の耐荷重は7Nで、軸部14の耐荷重は13Nとした。
【0037】
(比較例1)
ペン芯の先端部12:ポリエチレン製焼結芯
ペン芯の軸部14:ポリエチレンとポリプロピレンのブレンドによる焼結芯
ペン芯の先端部12とペン芯の軸部14とは接着剤による接着とし、ペン芯の先端部12の先端半球状の曲率R1.0mm、インク誘導孔14aの内径1.5mm、直径φ2mmのペン芯10を作製した。
また、得られたペン芯10は、先端部12の耐荷重は1Nで、軸部14の耐荷重は4Nとした。
【0038】
上記で得られた上記、実施例1〜5及び比較例1で作成した塗布具用ペン芯を、マーキングペン(PC−3M、三菱鉛筆社製)に装着し、下記配合のインク組成物を充填した。
酸化チタン 10.0質量%
中空樹脂粒子 10.0質量%
フタロシアニンブルー 3.0質量%
スチレンマレイン酸樹脂 2.0質量%
スチレンアクリル樹脂 10.0質量%
キサンタンガム 0.4質量%
水(精製水) 64.6質量%
上記の各成分を適宜投入後、撹拌し、ろ過を行い黄色の蛍光インク組成物を得た。このインク組成物の粘度は、ELD型粘度計(TOKIMEC社製、VISCOMETER TV−20、標準コーンプレート)の25℃における20rpmの測定で35mPa・sであった。
この筆記具を用い、下記方法で耐久性試験を行った。
【0039】
(耐久性試験)
得られた各マーキングペンを用いて、筆記角度70°で、筆記荷重1.96N、筆記速度4.0m/分で機械による直線筆記で耐久性試験を行った。
実施例1〜5で得られた塗布具用ペン先を用いた各マーキングペンは、100m筆記後も、ペン先に偏った磨耗や軟化が起こらず、また、焼結芯内でのインクフローも良好であり、更に、ペン先でのバラケもなく、耐久性、使用感に優れ、均一な描線を引くことができることが判った。
これに対して、比較例1の塗布具用ペン先を用いたマーキングペンは、筆記距離50m以降で、ペン先が曲がってしまい筆記具としての機能を十分に満たせないものとなってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の塗布具用ペン芯は、各種塗布具及び筆記具として用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
10 ペン芯
12 ペン芯の先端部
14 ペン芯の軸部
14a インク誘導孔
図1