特許第6021702号(P6021702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021702
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】漏洩防止シール、原子炉冷却材ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20161027BHJP
   F04D 7/08 20060101ALI20161027BHJP
   F04D 29/10 20060101ALI20161027BHJP
   F04D 29/14 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   F16J15/18 C
   F04D7/08 A
   F04D29/10 B
   F04D29/14
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-56847(P2013-56847)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181752(P2014-181752A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】加福 秀考
(72)【発明者】
【氏名】上原 秀和
(72)【発明者】
【氏名】阪口 幸浩
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−22397(JP,U)
【文献】 特開2012−145224(JP,A)
【文献】 特開2009−85391(JP,A)
【文献】 特開2000−27995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/18
F04D 7/08
F04D 29/10
F04D 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転する回転軸と該回転軸を径方向外側から囲うハウジングとの間の空間をシールして、該空間における高温加圧水の前記軸線方向に沿っての上流側から下流側への流通を規制する漏洩防止シールであって、
前記漏洩防止シールは、
前記回転軸を囲んで、前記ハウジングにおける上流側を向く面に周方向にわたって当接する第一シールリングと、
該第一シールリングの上流側で前記回転軸を囲んで、前記第一シールリングに周方向にわたって当接する第二シールリングと、
前記高温加圧水の到達時に前記第一シールリング及び前記第二シールリングを縮径させてこれら第一シールリング及び第二シールリングの内周面を前記回転軸に当接させる熱駆動部と、を備え、
前記第一シールリングは、縮径時に前記回転軸との間で周方向の第一範囲にわたって延びる第一間隙を形成する閉ループ状をなし、
前記第二シールリングは、縮径時に前記高温加圧水を下流側にリークさせる第二間隙を周方向の第二範囲にわたって形成し、
前記第一範囲と前記第二範囲との周方向位置が互いに異なることを特徴とする漏洩防止シール。
【請求項2】
前記第一シールリングに対して径方向に力を与えることで、前記第一間隙が形成される前記第一範囲の周方向位置を定める第一間隙位置決め部を備えることを特徴とする請求項1に記載の漏洩防止シール。
【請求項3】
前記第二シールリングを前記第一シールリングに向かって押圧する押圧部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の漏洩防止シール。
【請求項4】
前記第一シールリングは、
前記回転軸の周方向に延在するリング本体と、
該リング本体の両端にそれぞれ設けられて、前記リング本体よりも軟質の材料からなり前記縮径時に互いに当接する一対の軟質部材と、
を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の漏洩防止シール。
【請求項5】
前記熱駆動部は、
前記第一シールリングを第一温度で縮径させるとともに第二シールリングを第二温度で縮径させ、
前記第一温度が前記第二温度よりも低いことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の漏洩防止シール。
【請求項6】
前記第二シールリングは、縮径時に閉ループ状をなし、
前記第二間隙は、前記第二シールリングと前記回転軸との間で前記第二範囲にわたって延びることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の漏洩防止シール。
【請求項7】
前記第二シールリングに対して径方向に力を与えることで、前記第二間隙が形成される前記第二範囲の周方向位置を定める第二間隙位置決め部を備えることを特徴とする請求項6に記載の漏洩防止シール。
【請求項8】
前記第二シールリングは、縮径時に周方向両端が互いに周方向に対向するC字状をなし
前記第二間隙は、前記第二シールリングの両端同士の間に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の漏洩防止シール。
【請求項9】
軸線回りに回転する回転軸と、
該回転軸を径方向外側から囲むハウジングと、
これら回転軸とハウジングとの間の空間をシールして、該空間における高温加圧水の前記軸線方向に沿っての上流側から下流側への流通を規制する請求項1から8のいずれか一項に記載の漏洩防止シールと、を備えることを特徴とする原子炉冷却材ポンプ。
【請求項10】
前記ハウジングの内周面に径方向外側に凹んで周方向にわたって延びる環状溝が形成され、
前記第一シールリング及び前記第二シールリングは、前記環状溝内に収容されるように配置され、
前記環状溝における上流側を向く面が前記当接面とされていることを特徴とする請求項9に記載の原子炉冷却材ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常時における高温加圧水の漏洩を回避することが可能な漏洩防止シール、及び、該漏洩防止シールを備えた原子炉冷却材ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉一次冷却材ポンプは、上下方向に延びる軸線回りに回転する回転軸と、該回転軸を取り囲むハウジングとを備えている。この回転軸とハウジングとの間の空間には、上下方向に離間して配置された複数段の軸シールを備えている。そして、これら複数段のシールにより、下方側の高圧の加圧水が上方側においては大気圧となるように減圧が行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−22397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、原子炉一次冷却材ポンプにおいては、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)等の異常時に、通常運転時では例えば70℃の加圧水が300℃まで上昇することが予想される。この際、高温高圧の加圧水(以下、高温加圧水と称する。)が、複数の軸シールのうち最下方に位置する軸シールを突破し、最下方から2番目の軸シールに到達することも考えられる。
【0005】
ここで、最下方から2番目の軸漏洩防止シールは、上記高温加圧水に耐え得るように設計することはできるものの、当該軸漏洩防止シールの周囲に配置された耐熱Oリングが高温加圧水により損傷を受けた場合、一次冷却材が外部に漏洩してしまうおそれがある。
したがって、全交流電源喪失時における最下方から2番目の軸漏洩防止シールへの高温加圧水の到達を回避すべく、各漏洩防止シールの間における回転軸とハウジングとの間隙に、異常時の高温加圧水の流通を規制することができる構成を備えることが好ましい。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、異常時における高温高圧の加圧水の流通を規制することができる漏洩防止シール、及び、該漏洩防止シールを備えた原子炉冷却材ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供している。
即ち、本発明に係る漏洩防止シールは、軸線回りに回転する回転軸と該回転軸を径方向外側から囲うハウジングとの間の空間をシールして、該空間における高温加圧水の前記軸線方向に沿っての上流側から下流側への流通を規制する漏洩防止シールであって、前記漏洩防止シールは、前記回転軸を囲んで、前記ハウジングにおける上流側を向く面に周方向にわたって当接する第一シールリングと、該第一シールリングの上流側で前記回転軸を囲んで、前記第一シールリングに周方向にわたって当接する第二シールリングと、前記高温加圧水の到達時に前記第一シールリング及び前記第二シールリングを縮径させてこれら第一シールリング及び第二シールリングの内周面を前記回転軸に当接させる熱駆動部と、を備え、前記第一シールリングは、縮径時に前記回転軸との間で周方向の第一範囲にわたって延びる第一間隙を形成する閉ループ状をなし、前記第二シールリングは、縮径時に前記高温加圧水を下流側にリークさせる第二間隙を周方向の第二範囲にわたって形成し、前記第一範囲と前記第二範囲との周方向位置が互いに異なることを特徴とする。
【0008】
このような特徴の漏洩防止シールによれば、高温加圧水が上流側から漏洩防止シールに到達した際に該高温加圧水によって第一シールリング及び第二シールリングが下流側に向かって押圧され、その結果、第一シールリングがハウジングの当接面と密着する。さらに、該高温加圧水の到達により熱駆動部が第一シールリング及び第二シールリングを縮径させることで、これら第一シールリング及び第二シールリングと回転軸との間の間隙が小さくなる。これによって、高温加圧水が漏洩防止シールの下流側に流通してしまうことを抑制できる。
ここで、第一シールリング及び第二シールリングのような単一のシールリングを回転軸外周面に全周にわたって密着させることができれば、該シールリングと回転軸との間隙を完全に消失させることができるため、シール性を担保することができる。しかしながら、熱伸び差や製作交差等の影響により、現実的には縮径時のシールリングの内径を回転軸の外径に一致させることは困難である。そのため、シールリングと回転軸との間には間隙が生じ、漏洩を許容してしまう。
これに対して発明では、第一シールリングと回転軸との間に生じる第一間隙及び第二シールリングと回転軸との間に生じる第二間隙がそれぞれ形成される第一範囲及び第二範囲が周方向の異なる位置にあるため、高温加圧水のリークパスとなる第一間隙及び第二間隙を不連続なものとすることができる。即ち、二つのシールリングを用いてそれらと回転軸との間に生じる間隙を不連続とすることで漏洩防止効果を得ることができる。
【0009】
また、本発明に係る漏洩防止シールは、前記第一シールリングに対して径方向に力を与えることで、前記第一間隙が形成される前記第一範囲の周方向位置を定める第一間隙位置決め部を備えることが好ましい。
【0010】
これによって、第一シールリングと回転軸との間に形成される三日月状をなす第一間隙を所望の位置に位置決めすることができる。即ち、第一シールリングに対して径方向に力を付与すれば、第一シールリングの周方向部分のうち回転軸に密着する部分と回転軸から離間した部分を意図的に形成することができる。
【0011】
さらに、本発明に係る漏洩防止シールは、前記第二シールリングを前記第一シールリングに向かって押圧する押圧部を備えることが好ましい。
【0012】
これによって、第一シールリングをハウジングの当接面に対してより密着させることができる。また、第二シールリングと第一シールリングとを軸線方向に密着させることができる。
【0013】
また、本発明に係る漏洩防止シールの前記第一シールリングは、前記回転軸の周方向に延在するリング本体と、該リング本体の両端にそれぞれ設けられて、前記リング本体よりも軟質の材料からなり前記縮径時に互いに当接する一対の軟質部材と、を有することが好ましい。
【0014】
第一シールリングが縮径した際に、リング本体の両端の軟質部材同士が密着することで、該第一シールリングが確実に閉ループ状をなすようにすることができる。
【0015】
さらに、本発明に係る漏洩防止シールの前記熱駆動部は、前記第一シールリングを第一温度で縮径させるとともに第二シールリングを第二温度で縮径させ、前記第一温度が前記第二温度よりも低いことが好ましい。
【0016】
これにより、高温加圧水の到達時には、第一シールリングが縮径した後に第二シールリングが縮径することになる。したがって、高温加圧水のリークをより確実に抑制することができる。
【0017】
また、本発明に係る漏洩防止シールの前記第二シールリングは、縮径時に閉ループ状をなし、前記第二間隙は、前記第二シールリングと前記回転軸との間で前記周方向第一範囲にわたって延びることが好ましい。
【0018】
第二間隙がこのように延びている場合でも、該第一間隙と第二間隙との形成範囲を異ならせることにより、高温加圧水のリークを抑制できる。
【0019】
さらに、本発明に係る漏洩防止シールは、前記第二シールリングに対して径方向に力を与えることで、前記第二間隙が形成される前記第二範囲の周方向位置を定める第二間隙位置決め部を備えることが好ましい。
【0020】
これによっても、第一シールリングと同様、第二間隙の形成範囲を位置決めすることができる。
【0021】
また、本発明に係る漏洩防止シールは、前記第二シールリングは、縮径時に周方向両端が互いに周方向に対向するC字状をなし、前記第二間隙は、前記第二シールリングの両端同士の間に形成されていることが好ましい。
【0022】
第二間隙がこのように形成される場合でも、該第一間隙と第二間隙との形成範囲を異ならせることにより、高温加圧水のリークを抑制できる。
【0023】
さらに、本発明に係る原子炉冷却材ポンプは、軸線回りに回転する回転軸と、該回転軸を径方向外側から囲むハウジングと、これら回転軸とハウジングとの間の空間をシールして、該空間における高温加圧水の前記軸線方向の流通を規制する上記いずれかの漏洩防止シールと、を備えることを特徴とする。
また、この原子炉冷却材ポンプは、前記ハウジングの内周面に径方向外側に凹んで周方向にわたって延びる環状溝が形成され、前記第一シールリング及び前記第二シールリングは、前記環状溝内に収容されるように配置され、前記環状溝における上流側を向く面が前記当接面とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の漏洩防止シール及び原子炉冷却材ポンプによれば、高温加圧水のリークパスとなる第一間隙及び第二間隙を不連続なものとすることができるため、異常時における高温高圧の加圧水の流通を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第一実施形態に係る原子炉冷却材ポンプの縦断面図及びその系統図を示す図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールの縦断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールを回転軸の軸線方向から見た図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールの縮径時の縦断面図である。
図5】本発明の第一実施形態に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールにおいて、(a)は縮径時の第一シールを軸線方向から見た模式図、(b)は縮径時の第二シールを軸線方向から見た模式図である。
図6】本発明の第一実施形態に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールの縮径時の斜視図である。
図7】本発明の第一実施形態の変形例に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールにおいて、(a)は縮径時の第一シールを軸線方向から見た模式図、(b)は縮径時の第二シールを軸線方向から見た模式図である。
図8】本発明の第二実施形態に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールの縦断面図である。
図9】本発明の第三実施形態に係る原子炉冷却材ポンプにおける漏洩防止シールの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の第一実施形態について、図1から図6を参照して詳細に説明する。
まず、第一実施形態に係る原子炉冷却材ポンプ100の全体構成について説明する。図1に示すように、原子炉冷却材ポンプ100は、上下方向に延びる軸線O回りに回転可能に配置された回転軸1と、該回転軸1を取り囲むように配置されたハウジング2とを備えている。そして、回転軸1とハウジング2との間の空間に、軸線O方向に離間して配置された複数の軸シール10が設けられている。
【0027】
本実施形態においては、3組の軸シール10が設けられており、これら軸シール10は、下方から上方に向かって第一軸シール10A、第二軸シール10B、第三軸シール10Cとされている。なお、第一軸シール10Aは漏洩制限型シールとされており、第二軸シール10B及び第三軸シール10Cはメカニカルシールとされている。
【0028】
第一軸シール10Aは、回転軸1の外周面1aに一体に固定されて径方向外側に張り出す円盤状をなす第一ランナ11Aと、ハウジング2に固定されたリング状をなして第一ランナ11Aとの間で僅かな間隙を形成する第一リング12Aとを備えている。第一リング12Aとハウジング2との間には、図示しない第一セカンダリシールが設けられている。
【0029】
また、第二軸シール10Bは、第一軸シール10Aよりも上方に設けられており、回転軸1の外周面1aに一体に固定されて、径方向外側に張り出す円盤状をなす第二ランナ11Bと、ハウジング2に固定されたリング状をなして第二ランナ11Bと摺接する第二リング12Bとを備えている。第二リング12Bとハウジング2との間には、図示しない第二セカンダリシールが設けられている。
【0030】
さらに、第三軸シール10Cは、第二軸シール10Bよりも上方に設けられており、回転軸1の外周面1aに一体に固定されて、径方向外側に張り出す円盤状をなす第三ランナ11Cと、ハウジング2に固定されたリング状をなして第三ランナ11Cと摺接する間隙を形成する第二リング12Bとを備えている。第三リング12Cとハウジング2との間には、図示しない第三セカンダリシールが設けられている。
【0031】
原子炉一次冷却材は、200〜300℃の高温水であり、この高温水がハウジング2内を上昇しないように、第一軸シール10Aの下部には充填材ポンプ15により高圧の加圧水(シール水)が供給されている。この加圧水は、体積制御タンク16より供給される。なお、第一軸シール10Aを漏洩して第二軸シール10Bの下方に至った加圧水は、遮蔽弁17及び流量計18を経て体積制御タンク16に戻されるようになっている。
【0032】
第三軸シール10Cの下方の空間、即ち、第三軸シール10Cと第二軸シール10Bとの間の空間には、パージ水と称される純水が供給されている。このパージ水は高所に設けられたパージ水ヘッドタンク19から図示しない絞り及び流量計20を経て供給される。なお、パージ水ヘッドタンク19へは、純水メークアップタンク21で準備された純水が純水ポンプ22及び補給弁23を経て供給される。この補給弁23は、パージ水ヘッドタンク19中の純水の水頭高さを検出するレベルコントロール装置24によって制御されており、これによりパージ水ヘッドタンク19の水頭高さは所定の値に維持されている。
また、上記パージ水は、第二軸シール10B及び第三軸シール10Cの潤滑と冷却をし、流量計25及びスタンドパイプ26を経てドレンタンク27に回収される。
【0033】
なお、第一軸シール10Aの下方の加圧水の温度は70℃でその圧力は約15.5MPaとされている。第一軸シール10Aでは、この加圧水が約0.3MPaまで減圧され、即ち、第二軸シール10Bの下方の空間の加圧水の圧力は約0.3MPaとなる。そして、第二軸シール10Bでは、この約0.3MPaの圧力が約0.03MPaまで減圧され、さらに第三軸シール10Cでは、大気圧まで減圧されるようになっている。
【0034】
ここで、全交流電源喪失時には、第一軸シール10Aの下方における通常運転時70℃の加圧水が、原子炉一次冷却材により加熱されることで300℃程度まで上昇することが想定される。このような高温の加圧水(以下、高温加圧水と称する。)によって第一軸シール10Aが突破された場合、該高温加圧水が第二軸シール10Bに至り、高温加圧水の漏出を招くおそれがある。これに対して本実施形態では、例えば温度が300℃、圧力が約19MPaの高温加圧水の第二軸シール10Bへの到達を回避すべく、漏洩防止シール30が設けられている。
【0035】
この漏洩防止シール30は、第一軸シール10Aと第二軸シール10Bとの間におけるハウジング2と回転軸1との空間に設けられており、本実施形態では、図2に示すように、ハウジング2に設けられた環状溝3に収容されるように設けられている。
【0036】
この環状溝3は、ハウジング2の内周面2aから回転軸1の径方向(以下、単に径方向と称する)外側に凹むように形成されており、軸線Oを中心として回転軸1の周方向(以下、単に周方向と称する)全域に延在する円環状をなしている。また、環状溝3は、下方(軸線O方向一方側)を向く上側内壁面4(当接面)と、該上側内壁面4に対向して上方(軸線O方向他方側)を向く下側内壁面5と、径方向内側を向く上側内壁面4及び下側内壁面5に接続された底壁面6とを有している。これら上側内壁面4及び下側内壁面5は、軸線Oに直交する平面に沿って延びる平坦状をなしている。
【0037】
次に漏洩防止シール30について説明する。本実施形態の漏洩防止シール30は、図2及び図3に示すように、第一シールリング40と、該第一シールリング40に下方から当接するように配置された第二シールリング50と、これら第一シールリング40及び第二シールリング50を縮径させる熱駆動部60(図3のみに記載)とを備えている。
【0038】
第一シールリング40及び第二シールリング50は、図3に示すように、それぞれ回転軸1を周囲から取り囲むように該回転軸1の周方向に延在するリング本体44,54と、該リング本体44,54の両端にそれぞれ設けられて、リング本体44,54よりも軟質の材料からなる軟質部材45,55とを有している。
リング本体44,54は、その延在方向(周方向)の両端にそれぞれ独立した一対の端部を有しており、これら端部同士が互いに対向するC字状をなしている。即ち、第一シールリング40及び第二シールリング50は、は、その全周にわたって一体に延在する円環状をなしているのではなく、互いに非接合とされた第一端部及び第二端部を有している。
そして、軟質部材45,55は、このようなリング本体44,54の両端にそれぞれ互いに周方向に対向するように一体に設けられている。この一対の軟質部材45,55は、第一シールリング40の縮径時に互いに当接する。
なお、第二シールリング50には、軟質部材45,55は設けられていなくともよい。
【0039】
このような軟質部材45,55の材料としては、例えば金属属であれば金や銀、高分子材料であればEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・モノマー)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を用いることができる。
なお、リング本体44,54の内周面、即ち、第一シールリング40の内周面41、第二シールリング50の内周面51に軟質部材45,55を設けてもよい。この場合、第一シールリング40及び第二シールリング50が縮径した際におけるこれら第一シールリング40及び第二シールリング50と回転軸1との密着性を向上させることができる。
【0040】
本実施形態では、このような第一シールリング40及び第二シールリング50には、図3に示すように、一対の端部の一方(図3における右側の端部)に、径方向外側に突出する突出部46,56が一体に形成されている。本実施形態では、このような突出部46,56を熱駆動部60が他の端部(図3における左側の端部)側に向かって押圧することで、第一シールリング40及び第二シールリング50のそれぞれ端部同士が互いに近接し、その結果これら第一シールリング40及び第二シールリング50が縮径する。
【0041】
図2に示すように、上記構成の第一シールリング40は、その上面がハウジング2の環状溝3における上側内壁面4に対して周方向にわたって当接している。
また、第二シールリング50は、第一シールリング40の下方側に該第一シールリング40と隣接するように配置されており、該第二シールリング50の上面52は第一シールリング40の下面43に対して周方向にわたって当接している。
【0042】
なお、このように第一シールリング40と第二シールリング50とが配置された状態では、第一シールリング40及び第二シールリング50と環状溝3の底壁面6との間には空間が形成されている。また、第二シールリング50の下面53と下側内壁面5との間にも空間が形成されている。これら空間は、それぞれ漏洩防止シール30の下方における回転軸1とハウジング2との間の空間に連通している。したがって、これら空間には、異常時に高温加圧水が到達する。
なお、第一シールリング40の上面42及び下面43、第二シールリング50の上面52及び下面53は、それぞれ軸線Oに直交する平面に沿って延びる平坦状をなしている。
【0043】
ここで、通常時、即ち、漏洩防止シール30に高温加圧水が到達してない状態(以下、初期状態と称する。)では、図2に示すように、第一シールリング40及び第二シールリング50の内周面51はそれぞれ回転軸1の外周面1aから離間している。これによって、初期状態では、第一シールリング40及び第二シールリング50と回転軸1との間には間隙が形成されている。
【0044】
さらに、本実施形態では、第一シールリング40における一対の端部の周方向の配置位置は、第二シールリング50における一対の端部の周方向の配置位置と異なる位置に配置されており、本実施形態では、約180°異なる位置に配置されている。
【0045】
ここで、第一シールリング40の内周面41の周方向の長さは、回転軸1の外周面1aの円周の長さよりも大きく設定されている。また、第二シールリング50の内周面51の周方向の長さは、回転軸1の外周面1aの円周の長さよりも小さく設定されている。
【0046】
次に熱駆動部60について説明する。この熱駆動部60は、異常時に高温加圧水が到達した際に、第一シールリング40及び第二シールリング50を縮径させてこれら第一シールリング40及び第二シールリング50の内周面51を回転軸1に当接させる。本実施形態では、図3に示すように、熱駆動部60として第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bを採用している。これら第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bは、高温加圧水を熱源として駆動可能に構成されたアクチュエータであって、第一サーモアクチュエータ60Aが第一シールリング40に対応するように、第二サーモアクチュエータ60Bが第二シールリング50に対応するように設けられている。なお、図3では2つのサーモアクチュエータをまとめて記載している。
【0047】
第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bは、シリンダ61と、ロッド62とを備えている。
シリンダ61は、外形円筒形状をなす部材であって、その内部には設定温度に達することで膨張するワックスが封止されている。このようなシリンダ61は、第一シールリング40及び第二シールリング50の円周における一対の端部の配置箇所を通る接線に沿って延びるように、ハウジング2に形成された収容部(図示省略)内に収容されている。
【0048】
ロッド62は、シリンダ61の内部のワックスが膨張した際に、これに伴ってシリンダ61の延在方向の端面から突出するように構成されている。このロッド62の突出方向は、第一シールリング40及び第二シールリング50の円周における一対の端部の配置箇所を通る接線に沿う方向とされている。ロッド62の先端は、第一シールリング40、第二シールリング50における突出部46,56に接続されており、該ロッド62が突出することで突出部46,56が押圧され、その結果、第一シールリング40及び第二シールリング50は一対の端部が近接するように変形して縮径する。
【0049】
ここで、第一サーモアクチュエータ60A内のワックスの膨張温度は、第二サーモアクチュエータ60B内のワックスの膨張温度に比べて小さく設定されている。これにより、第一サーモアクチュエータ60Aの駆動温度は第二サーモアクチュエータ60Bの駆動温度よりも小さくなる。即ち、高温加圧水の到達時には、第一シールリング40が第二シールリング50よりも先に縮径する。
【0050】
次に以上のような構成の原子炉冷却材ポンプ100における漏洩防止シール30の作用について説明する。
第一軸シール10Aの下方の加圧水が加熱されて高温加圧水となった際に、該高温加圧水が第一軸シール10Aを突破して漏洩防止シール30に到達すると、該高温加圧水の流体圧力によって第一シールリング40及び第二シールリング50は下流側である上方に向かって押圧される。この結果、図4に示すように、第一シールリング40の上面42がハウジング2の溝部における上側内壁面4に周方向にわたって密着し、第二シールリング50の上面52は第一シールリング40の下面43に周方向にわたって密着する。
【0051】
一方、高温加圧水が下方から漏洩防止シール30に到達すると、該漏洩防止シール30の熱駆動部60が高温加圧水によって加熱される。
これにより、高温加圧水を熱源として第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bの内部のワックスがそれぞれ膨張温度に到達すると、該ワックスが膨張することにより、図3に示す第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bのロッド62がシリンダ61から突出する。
このロッド62の突出によって第一シールリング40、第二シールリング50の突出部46,56が押圧されると、これら第一シールリング40及び第二シールリング50は、一対の端部がそれぞれ近接しながら第一シールリング40及び第二シールリング50全体が縮径する。
【0052】
ここで、第一シールリング40及び第二シールリング50は縮径時に周方向全域にわたって回転軸1に密着可能となるように、縮径時におけるこれら第一シールリング40及び第二シールリング50の内周面51の円周の長さは、回転軸1の外周面1aの円周の長さと一致することが好ましい。この場合、第一シールリング40及び第二シールリング50が、縮径時に回転軸1外周面1aに全周にわたって密着することでこれら第一シールリング40及び第二シールリング50と回転軸1との間の間隙を完全に消失させることができる。しかしながら、熱伸び差や製作交差等の影響により、現実的には縮径時の第一シールリング40及び第二シールリング50の内径を回転軸1の外径に一致させることは困難である。
【0053】
ここで、本実施形態のように、第一シールリング40の内周面41の周方向の長さが回転軸1の円周の長さよりも大きい場合には、第一シールリング40が縮径すると該第一シールリング40の両端同士が接触する結果、第一シールリング40は閉ループ状をなすことになる。この際、第一シールリング40の内周面41はその周方向の一部範囲のみが回転軸1の外周面1aに接触し、該回転軸1に接触しない部分が生じ得る。
【0054】
即ち、図5(a)に示すように、第一シールリング40の内周面41と回転軸1の外周面1aとの間には、周方向の一部領域(以下、第一範囲θ1と称する)に、周方向に延びる三日月状の間隙(以下、第一間隙S1と称する)が形成される。このような第一間隙S1が存在する周方向の第一範囲θ1は、第一シールリング40の端部同士の接触箇所を中心として周方向の所定の範囲に広がっている。
【0055】
また、本実施形態のように、第二シールリング50の内周面51の周方向の長さが回転軸1の円周の長さよりも小さい場合には、第二シールリング50が縮径しても該第二シールリング50の両端同士が接触することはなく、C字状を維持する。この際、第二シールリング50の内周面51はその周方向全域にわたって回転軸1の外周面1aに接触し、該第二シールリング50における互いに対向する端部同士の間に間隙(以下、第二間隙S2と称する)が形成される。
【0056】
即ち、図5(b)に示すように、周方向の一部領域(以下、第二範囲θ2と称する)に端部同士の間の隙間である第二間隙S2が形成される。このような第二間隙S2は、第二サーモアクチュエータ60Bによって第二シールリング50が押圧される以前に第二シールリング50の端部同士が存在した周方向位置付近に形成される。
【0057】
この結果、図6に示すように、第一シールリング40と回転軸1との間の間隙である第一間隙S1、及び、第二シールリング50の端部同士の間の第二間隙S2は、互いに周方向の異なる位置に配置されることになる。
これによって、図4に示すように、漏洩防止シール30を境界とした上流側と下流側との空間が分断され、高温加圧水の上方(下流側)への流通が規制される。以下、この詳細について説明する。
【0058】
まず閉ループ状をなす第一シールリング40とハウジング2の環状溝3の上側内壁面4が周方向全域にわたって密着する。これによって、第一シールリング40の上面42とハウジング2の環状溝3の上側内壁面4との間では間隙が消失し、シール性が担保される。また、第一シールリング40の下面43と第二シールリング50の上面52とが周方向全域にわたって密着する。これによって、第一シールリング40の下面43と第二シールリング50の上面52との間でのシール性が担保される。
【0059】
この状態で、第二シールリング50の内周面51は第二範囲θ2以外の部分でのみ回転軸1の外周面1aに密着するため、第二シールリング50は第二間隙S2が存在する第二範囲θ2でのみ高温高圧水を上方にリークさせてしまう。しかしながら、第二間隙S2の存在する周方向位置では、第一シールリング40では第一間隙S1が存在しないため、第二間隙S2をリークした高温高圧水が第一シールリング40を突破して上方にリークすることはない。
一方、第一シールリング40における第一間隙S1が存在する周方向位置では、第二シールリング50は回転軸1の外周面1aに密着しているため、第一間隙S1まで高温加圧水が到達することはない。
【0060】
このように本実施形態では、第一間隙S1及び第二間隙S2が形成される第一範囲θ1及び第二範囲θ2が周方向の異なる位置にあるため、高温加圧水のリークパスとなり得る第一間隙S1及び第二間隙S2を不連続なものとすることができる。したがって、高温加圧水が漏洩シールを突破して下方から上方に流通してしまうことを防止できる。
【0061】
さらに、本実施形態では、第一シールリング40が縮径した際に、リング本体44の両端に設けられた軟質部材45同士が密着することで、該第一シールリング40が確実に閉ループ状をなすようにすることができる。これによって、第一シールリング40の端部同士の間に間隙が生じてしまうことを防止できるため、これら端部同士の間をリークパスとして高温加圧水が流通してしまうことを回避できる。
【0062】
また、本実施形態では、第一サーモアクチュエータ60Aが第二サーモアクチュエータ60Bよりも低い温度で駆動する構成のため、高温加圧水の到達時には、第二サーモアクチュエータ60Bに先駆けて第一サーモアクチュエータ60Aが駆動する。これによって、第一シールリング40が第二シールリング50よりも早く縮径する。
ここで、仮に第二シールリング50が第一シールリング40よりも早く縮径する場合、第二シールリング50に高温加圧水による過大な作用する結果、C字状をなす第二シールリング50の縮径が妨げられてしまう。これに対して、本実施形態では、第一シールリング40が第二シールリング50よりも先に縮径される結果、第二シールリング50に作用する差圧を抑えることができ、上記不都合を是正できる。
【0063】
なお、第一実施形態の変形例として、例えば図7に示すように、第一シールリング40の内周面41と回転軸1の外周面1aとの間に三日月状の間隙が形成されるとともに第二シールリング50の内周面51と回転軸1の外周面1aとの間にも三日月状の間隙が形成される構成であってもよい。
このような第一間隙S1及び第二間隙S2は、第一シールリング40の内周面41及び第二シールリング50の内周面51の周方向の長さが、ともに回転軸1の外周面1aの円周の長さよりも大きい場合に形成される。
【0064】
この場合、縮径前の第一シールリング40及び第二シールリング50の端部の配置箇所を周方向に異なる位置とすることによって、縮径時に形成される第一間隙S1及び第二間隙S2の形成領域である第一範囲θ1及び第二範囲θ2の周方向の位置を互いに異なるものとすることができる。これにより、第一実施形態と同様、第一間隙S1と第二間隙S2とを不連続なものとすることができるため、高温加圧水のリークパスが形成されてしまうことを回避できる。したがって、高温加圧水が漏洩シールを突破して下方から上方に流通してしまうことを防止できる。
なお、本変形例では第二シールリング50の両端が当接するため、該両端に軟質部材55が設けられていることが好ましい。これによって、第一シールリング40と同様、第二シールリングが確実に閉ループ状をなすようにすることができる。
【0065】
次に第二実施形態に係る漏洩防止シール30について、図8を参照して説明する。本実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0066】
第二実施形態の漏洩防止シール30は、第一実施形態の構成要素に加えて、第一間隙位置決め部70を備えている点で第一実施形態と相違する。
第一間隙位置決め部70は、第一シールリング40に対して径方向に力を与えることで、第一間隙S1が形成される第一範囲θ1の周方向位置を定める役割を有している。
【0067】
第一間隙位置決め部70としては、図8に示すように、第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bと同様の構成のものを採用することができる。即ち、第一間隙位置決め部70は、シリンダ61及びロッド62を備えており、高温加圧水の到達時にロッド62が突出する構成とされている。
【0068】
このような第一間隙位置決め部70は、第一シールリング40の径方向外側に配置されており、ロッド62が突出することで該ロッド62の先端が第一シールリング40に対して径方向外側から当接する。これによって第一シールリング40が径方向内側に向かって押圧されることで、該第一シールリング40の周方向位置におけるロッド62が当接する箇所においては、第一シールリング40の内周面41が回転軸1の外周面1aに密着する。この際、第一シールリング40の周方向位置におけるロッド62が当接する箇所の逆側においては、第一シールリング40の内周面41が回転軸1の外周面1aから離間することで、該第一シールリング40の内周面41と回転軸1の外周面1aとの間に第一間隙S1が形成される。
【0069】
以上のように本実施形態では、第一シールリング40に対して径方向に力を与えることで、該第一シールリング40の内周面41と回転軸1の外周面1aとの間に形成される第一間隙S1の位置、即ち、第一範囲θ1の位置を所望の周方向位置に位置決めすることができる。
このように第一間隙S1の位置を定めることによって、該第一間隙S1と第二間隙S2との周方向位置を確実に異ならせることができる。したがって、高温加圧水のリークパスとなる第一間隙S1及び第二間隙S2を不連続なものとすることができ高温加圧水が漏洩シールを突破して下方から上方に流通してしまうことを防止できる。
【0070】
なお、本実施形態では、第一間隙位置決め部70として、第一シールリング40を径方向外側から押圧する構成としたが、第一シールリング40を径方向外側に向かって引っ張る構成であってもよい。これによっても、本実施形態同様、第一間隙S1の位置を定めることができる。
また、実施形態では、第一間隙位置決め部70として第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bと同様の構成としたが、これに限定されることはなく、高温加圧水の到達時に、第一シールリング40に対して径方向に力を与えられるならば他の構成であってもよい。
【0071】
また、第一実施形態の変形例のように、第二シールリング50の内周面51と回転軸1の外周面1aとの間にも三日月状の第二間隙S2が形成される場合には、この第二シールリング50に対して径方向に力を与える第二間隙位置決め部を設けてもよい。これによって、第二間隙S2の位置を任意に定めることができるため、より確実に第一間隙S1と第二間隙S2の位置を異なるものとすることができる。
【0072】
次に本発明の第三実施形態に係る漏洩防止シール30について、図9を参照して説明する。第三実施形態について第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
第三実施形態の漏洩防止シール30は、第一実施形態の構成要素に加えて、押圧部80を備えている点で第一実施形態と相違する。
【0073】
押圧部80は、第二シールリング50を第一シールリング40に向かって、高温加圧水の下流側に向かって押圧する役割を有している。本実施形態では、押圧部80として皿バネを採用している。この皿バネは、ハウジング2の環状溝3における該環状溝3の下側内壁面5と第二シールリング50の下面53との間に周方向にわたって設けられている。この皿バネは、下側内壁面5と第二シールリング50との間に圧縮状態で配置されていることによって、これら下側内壁面5と第二シールリング50とを離間させる方向に力を与えている。これによって、第二シールリング50の下面53には、下型内壁面から該第二シールリング50の下面53に向かっての力、即ち、上方に向かっての力が付与される。
【0074】
その結果、押圧部80の押圧力(皿バネの弾性力)によって第二シールリング50の上面52が第一シールリング40の下面43に周方向にわたって密着するとともに、第一シールリング40の上面42がハウジング2の環状溝3における上側内壁面4に周方向にわたって密着する。
【0075】
これによって、第一シールリング40と第二シールリング50との間におけるシール性、及び第一シールリング40と上側内壁面4との間におけるシール性をそれぞれ向上させることができる。したがって、上側内壁面4、第一シールリング40及び第二シールリング50間の隙間から高温加圧水がリークしてしまうことをより確実に防止できる。
また、高温加圧水による差圧が第二シールリング50に作用した際であっても、該第二シールリング50の縮径が妨げられることを抑制できる。
【0076】
なお、押圧部80としては、上記構成の他、第二シールリング50を第一シールリング40に向かって、即ち、上方に向かって押圧できるならば、他の構成を採用してもよい。
例えば押圧部80としては、皿バネに限らず、コイルスプリング等の他の弾性部材を採用してもよい。
また、押圧部80として、第一サーモアクチュエータ60Aや第二サーモアクチュエータ60Bと同様のシリンダ61及びロッド62からなるシリンダロッド機構を採用してもよい。このシリンダロッド機構を採用した場合、シリンダ61から突出するロッド62が第二シールリング50を上方に向かって、即ち、第一シールリング40に向かって押圧する。
さらに、例えばロッド62が径方向内側に向かって突出し、当該ロッド62の先端に設けられたくさび型の部材がハウジング2の下側内壁面5に形成された傾斜面に従って上方にスライドすることで第二シールリング50を上方に向かって押圧する構成であってもよい。
【0077】
また例えば押圧部80として、第二サーモアクチュエータ60Bや第二間隙位置決め部から第二シールリング50に付与される力によって、第二シールリング50が第一シールリング40を上方に押圧する構成を採用してもよい。即ち、第二サーモアクチュエータ60Bや第二間隙位置決め部から第二シールリング50に力が及んだ際に、該第二シールリング50を上方に案内する案内面を押圧部80として採用してもよい。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
実施形態では、熱駆動部60として第一サーモアクチュエータ60A及び第二サーモアクチュエータ60Bとしたが、例えば第一シールリング40及び第二シールリング50自身を異なる線膨張係数の2つの金属を張り合わせて形成されたバイメタルから構成してもよい。この場合、高温加圧水の到達時に、熱駆動部60としてのバイメタルの2つの金属の膨張差によって第一シールリング40及び第二シールリング50が縮径する。これによって実施形態同様、第一シールリング40及び第二シールリング50による高温加圧水の漏洩防止を図ることができる。
また、熱駆動部60は、高温加圧水の到達時に第一シールリング40及び第二シールリング50を縮径させることができるのならば、他のいかなる構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 回転軸
1a 外周面
2 ハウジング
2a 内周面
3 環状溝
4 上側内壁面(当接面)
5 下側内壁面
6 底壁面
10 軸シール
10A 第一軸シール
11A 第一ランナ
12A 第一リング
10B 第二軸シール
11B 第二ランナ
12B 第二リング
10C 第三軸シール
11C 第三ランナ
12C 第三リング
15 充填材ポンプ
16 体積制御タンク
17 遮蔽弁
18 流量計
19 パージ水ヘッドタンク
20 流量計
21 純水メークアップタンク
22 純水ポンプ
23 補給弁
24 レベルコントロール装置
25 流量計
26 スタンドパイプ
27 ドレンタンク
30 漏洩防止シール
40 第一シールリング
41 内周面
42 上面
43 下面
44 リング本体
45 軟質部材
46 突出部
50 第二シールリング
51 内周面
52 上面
53 下面
54 リング本体
55 軟質部材
56 突出部
60 熱駆動部
60A 第一サーモアクチュエータ
60B 第二サーモアクチュエータ
61 シリンダ
62 ロッド
70 第一間隙位置決め部
80 押圧部
100 原子炉冷却材ポンプ
O 軸線
S1 第一間隙
S2 第二間隙
θ1 第一範囲
θ2 第二範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9