(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021710
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】扉装置
(51)【国際特許分類】
E05F 3/22 20060101AFI20161027BHJP
E05B 65/10 20060101ALI20161027BHJP
E05C 17/44 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
E05F3/22 D
E05B65/10 E
E05C17/44
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-66123(P2013-66123)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-190032(P2014-190032A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 真理
【審査官】
藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−227453(JP,A)
【文献】
特開2005−054398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 1/00 − 13/04,17/00
E05C 1/00 − 21/02
E05B 5/00 − 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出入口に開閉可能に設けられ、常時閉方向への力を受けている扉体と、
この扉体を前記出入口が開いた状態に保持する開状態保持機構と、
この開状態保持機構近くに設けられ、吸水により体積が変化する吸水部材とを備え、
前記開状態保持機構は、前記吸水部材の体積変化により前記保持を解除するように構成されている
ことを特徴とする扉装置。
【請求項2】
前記吸水部材は、吸水により膨張又は収縮するポリマー或いはスポンジ体を用いたことを特徴とする請求項1に記載の扉装置。
【請求項3】
前記開状態保持機構は、前記扉体又は前記出入口周辺の壁面のいずれか一方に一端が回動可能に枢支され、前記吸水部材の体積変化により回動する係合鍵と、前記扉体又は前記出入口周辺の壁面のいずれか他方にもうけられ、前記係合鍵の回動によりこの係合鍵の他端部と係合可能な係止部材とを備えた構成であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の扉装置。
【請求項4】
前記開状態保持機構は、前記扉体に設けられて、この扉体の開放端近くの床面に圧接されることで、この床面上に吸着される中空状の吸着体を有し、前記吸水部材は、この吸着体内に設けられ周囲の水を吸収して膨大し、前記吸着体を押し上げて前記床面上から分離させる構成であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の扉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、例えば、電気室の出入口を開閉する扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海や河川の近くに設置された各種工場や、水処理設備、或いは発電所などの諸設備には、これらの主要機器に電力を供給制御するための電気室が設けられている。このような諸設備において、突然の集中豪雨や地震による津波の影響で建屋が浸水することがある。浸水が生じた場合、各種の設備機器は大きなダメージを受ける。とりわけ電気室内が浸水すると、完全に水没しなくとも、あるレベル以上に浸水すると、通電状態の端子部が浸水により損傷することから、受けるダメージは大きく、復旧に時間がかかってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−3587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような浸水の発生状況を検証してみると、浸水による被害を受ける原因で最も多いのは、出入口の扉が開状態のままであったため、この開状態の扉から多くの水が浸入してしまったことによる。通常、電気室などでは、作業員が保守点検作業等のために、各種機具を携行した状態で頻繁に出入りするので、開け放し状態にしておくことが多い。このため、集中豪雨や津波等の影響で建屋が浸水すると、電気室内にも開け放し状態の出入口から水が浸入してしまう。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、浸水時は直ちに閉動作して水の侵入を防止できる扉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施の形態に係る扉装置は、出入
口に開閉可能に設けられ、常時閉方向への力を受けている扉体と、 この扉体を前記出入口が開いた状態に保持する開状態保持機構と、 この開状態保持機構近くに設けられ、吸水により体積が変化する吸水部材とを備え、 前記開状態保持機構は、前記吸水部材の体積変化により前記保持を解除するように構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る扉装置の斜視図である。
【
図2】上記第1の実施の形態に用いる開状態保持機構を拡大して示す平面図である。
【
図3】上記第1の実施の形態に用いる開状態保持機構を拡大して示す側面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に用いる開状態保持機構を拡大して示す平面図である。
【
図5】
図4で示した開状態保持機構の側面図である。
【
図6】本発明の第3の実施の形態に係る扉装置の斜視図である。
【
図7】上記第3実施の形態に用いる開状態保持機構の吸着体及び吸水部材の関係を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1は第1の実施形態を示しており、海や河川の近くに設置された各種工場や、水処理設備、或いは発電所などの建屋内部を示している。この建屋内には、各種設備の主要機器に電力を供給制御するための電気室が設けられており、この電気室を形成する壁面11には、作業員等が出入りするための出入口12が設けられ、その一側辺に設けられた蝶番13により扉体14を開閉可能に取り付けている。この扉体14は、図示しないダンパー機構などにより常時閉方向への力を受けている。また、この扉体14と壁面11との間には、この扉体14を、出入口12を開いた状態で保持する開状態保持機構15が設けられている。
【0010】
この開状態保持機構15は、
図2及び
図3で拡大して示すように、壁面11側に設けられた鍵状の係止部材17と、扉体14側に設けられたレバー状の係合鍵18とを有する。係止部材17はその一端(図示左端)が壁面11内に一体的に埋め込まれて固定されている。また、他端(図示右端)部分はL字形に形成されており、係合鍵18との係止部17aとなる。
【0011】
係合鍵18は、その一端(図示右端)部が枢支軸19により回動可能に支持されており、
図3で示す左端部を上下動させるべく回動する。また、その他端(図示左端)部は、図示下向きに形成された係合部18aとなる。
【0012】
ここで、係合鍵18は、扉体14が開放端位置にまで回動すると、その係合部18aの図示左斜辺が、壁面11側に固定された係止部材17と当接する。この当接により、係合鍵18は、その係合部18aが押し上げられ、係止部材17の係止部17aを乗り越える。そして、最終的に
図3で示すように、係合鍵18と係止部材17とは互いに係合する。すなわち、扉体14を開放端位置まで開くと、開放状態保持機構15の係合鍵18が係止部材17と自動的に係合する。扉体14には、前述したように、ダンパー機構などにより常時閉方向の力が加わっているが、係合鍵18が係止部材17と係合したことにより、扉体14は出入口を開放した状態に保持される。
【0013】
この係合鍵18の下部には、吸水により体積が変化する吸水部材21を設け、係合鍵18に対する解除部材として機能させる。すなわち、吸水部材21としては、ポリマー或いはスポンジ体のように、吸水に伴い体積が大きく膨張したり、或いは、反対に吸水に伴って体積が収縮する公知の素材を用いる。この実施の形態では、吸水部材21として、吸水により体積が膨張する素材を用いている。
【0014】
上記構成において、電気室の出入口12に設けられた扉体14は、通常の作業員の出入りなどに当っては、図示しないダンパー機構などにより常時閉方向の力を受けており、自動的に閉じるので特に問題はない。しかし、保守点検や、その他の作業のため、作業員が各種の器具を携行して出入りするような場合、出入りのたびに扉体14が閉じることは、作業員にとって煩わしく、著しく作業性を損なうことになる。
【0015】
このような場合、作業員は、扉体14を開放端位置まで大きく開き、扉体14を保持機構15により開放状態に保持させている。このように出入口12を開放状態に維持すると、作業員が各種の器具を携行して出入りするような場合であっても、扉体14が閉じることによる煩わしさがなくなり、作業性が向上する。また、いちいち扉を開操作する必要がないため、通常時の出入りであっても便利であり、出入口12を開放状態に係止したまま放置することが常態化している。
【0016】
このように、出入口12の扉体14を開状態に保持しているときに、集中豪雨や津波等の影響で建屋が浸水すると、電気室内の出入口12を開け放し状態であるため、ここから大量の水が浸入してしまい、浸水による機器損傷などが生じる。しかし、この実施の形態によれば、建屋が浸水し、水が電気室の出入口12に達すると、この出入口12の近傍に配置された吸水部材21に接触するため、この吸水部材21はその体積を急激に膨張させる。このとき、吸水部材21の周囲に筒状の保持材を嵌め付けておけば、吸水部材21の体積膨張は上下方向に集中する。このため、
図3で示した係合鍵18は、吸水部材21により押し上げられ、枢支軸19を支点として図示右回りに回動する。この回動により係合鍵18の係合部18aは、係止部材17の係止部17aから外れる。すなわち、開状態保持機構15による保持状態が解除されるので、扉体14はダンパー機構などによる常時閉方向の力により閉動作する。
【0017】
このように扉体14が出入口12を閉じると、これ以降は電気室内に水が浸入することを有効に防止でき、浸水による機器の損傷を防止することができる。
【0018】
上記実施の形態では、吸水部材21により係合鍵18を直接解除方向に駆動しているが、ばね体などを用いた公知の倍力機構を用い、吸水部材21は、その体積変化を、この倍力機構を動作させるトリガーとして用い、実際の係合鍵18の解除駆動は、この倍力機構により作動させるように構成してもよい。
【0019】
勿論、電気室以外の出入口についても、扉体14を開状態に係止させるものに対しては、同様にして浸水防止機能を実現することができる。
【0020】
次に、
図4、
図5で示す第2の実施形態を説明する。この第2の実施の形態では、保持機構15を構成する係合鍵18としてアーム状のものを用いており、その一端(図示左端部)は壁面11に設けられた支え部材27により、枢支軸19を介して回動可能に支持される。この係合鍵18には、その長さ方向に沿って長孔形状の係合孔18aが形成されている。
【0021】
扉体14側には、係止部材17として、係合鍵18の径合孔18aと係合する円柱状の部材が一体的に立設されている。また、この円柱状の係止部材17を囲むように、吸水部材21が設けられている。この吸水部材21の上面は、係合鍵18の自由端側(図示右側)の下面と対向しており、浸水などに伴う吸水時、縦方向に膨張して係合鍵18の図示右側を押し上げ、係止部材17との係合を解除する。
【0022】
上記構成において、前述の実施形態と同様に、電気室の出入口12に設けられた扉体14は、出入口12を開放状態のまま放置することが常態化している。
【0023】
出入口12の扉体14が開状態のときに、集中豪雨や津波等の影響で建屋が浸水すると、浸水してきた水は、この出入口12の近傍に配置された吸水部材21に接触するので、吸水部材21はその体積を急激に膨張させる。このため、
図5で示した係合鍵18は、吸水部材21により押し上げられ、枢支軸19を支点として図示矢印のように左回りに回動する。この回動により係合鍵18の係合孔18aは、係止部材17の上端部から外れ、開状態保持機構15による保持状態が解除され、扉体14はダンパー機構などによる常時閉方向の力により閉動作する。
【0024】
このように扉体14が出入口12を閉じると、これ以降は電気室内に水が浸入することを有効に防止でき、浸水による機器の損傷を防止することができる。
【0025】
次に、
図6及び
図7で示す第3の実施形態を説明する。この実施の形態でも、電気室を形成する壁面11に設けられた出入口部12に、蝶番13により扉体14が開閉可能に取り付けられており、図示しないダンパー機構などにより常時閉方向への力を受けている。この扉体14には、この扉体14を、出入口12を開いた状態に保持する開状態保持機構15として、アーム部材31及び吸着体32が設けられている。
【0026】
アーム部材31は、その上端部を支点として、扉体の下部に起伏可能に取り付けられている。また、吸着体32は、
図7で示すように中空な円柱状をなし、その下面を床面に圧接させることにより、床面上に吸着され、アーム部材31を介して扉体14を
図6で示す開状態に保持する。この中空状の吸着体32内の軸中心部には、
図7で示すように円柱状の吸水部材21が縦向きに設けられている。この吸水部材21は、吸水することにより体積が膨張し、
図7(b)で示すように吸着体32の下面から縦方向に膨出する。
【0027】
上記構成において、電気室の出入口12に設けられた扉体14は、前述のように、図示しないダンパー機構などにより常時閉方向の力を受けている。保守点検や、その他の作業のため、作業員が各種の器具を携行して出入りするような場合、作業員は、扉体14を開放端位置まで大きく開き、扉体14を保持機構15により開放状態に保持する。この保持操作は、開放端位置まで大きく開いた扉体14から、保持機構15を構成するアーム部材31を図示のように扉面から傾斜状態に操作し、その先端部に設けた吸着体32を床面上に押し付ける。この操作により、吸着体32はその内部に設けた吸水部材21とともに圧縮変形し、床面上に吸着する。このため、扉体14は開状態に保持される。
【0028】
このように、出入口12の扉体14が開状態に保持されているときに、集中豪雨や津波等の影響で建屋が浸水すると、浸水してきた水は、この出入口12の近傍に配置された吸着体32及びこれと同軸状に組み合わされた吸水部材21に接触する。このため、吸水部材21は
図7(b)で示すようにその体積を急激に膨張させる。すなわち、吸水部材21はその周囲が吸着体32によって包囲され、その上部はアーム部材31の先端部により閉塞されているため、図示下方に向って縦方向に膨張する。この吸水部材21の膨張動作により、床面上に吸着していた吸着体32は、床面上から押し上げられて、床面上から分離する。この動作により開状態保持機構15による保持状態が解除され、扉体14はダンパー機構などによる常時閉方向の力により閉動作する。
【0029】
このように扉体14が出入口12を閉じると、これ以降は電気室内に水が浸入することを有効に防止でき、浸水による機器の損傷を防止することができる。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
11…壁面
12…出入口
14…扉体
15…開状態保持機構
17・・・係止部材
18・・・係合鍵
21…吸水部材
31…アーム部材
32・・・吸着体