特許第6021711号(P6021711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021711
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】受信装置および受信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/10 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
   H04B7/10 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-68359(P2013-68359)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-192807(P2014-192807A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年10月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)研究領域「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」研究課題「ディペンダブルワイヤレスシステム・デバイスの開発(オールSi CMOS 受信器 RF ICの開発)」委託研究、産業技術力強化法 第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100094695
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 憲七
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】タ トァン タン
(72)【発明者】
【氏名】亀田 卓
(72)【発明者】
【氏名】末松 憲治
(72)【発明者】
【氏名】高木 直
(72)【発明者】
【氏名】坪内 和夫
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 隆二
(72)【発明者】
【氏名】津留 正臣
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英司
【審査官】 野元 久道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−244738(JP,A)
【文献】 特開2002−359513(JP,A)
【文献】 特表2012−531159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子から構成され、伝送データで変調された信号を受信信号として受信するアレーアンテナと、
前記アレーアンテナに接続され、前記受信信号から、前記複数のアンテナ素子毎に、アナログベースバンド信号にダウンコンバートされ、かつ位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号を生成するアナログ移相部と、
前記アナログ移相部から出力された前記Iチャネル信号およびQチャネル信号に対応して設けられ、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる複数のローパスフィルタと、
前記複数のローパスフィルタのそれぞれに接続され、前記低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する複数の第1ADコンバータと、
前記複数の第1ADコンバータの出力から、前記複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、前記アナログ移相部から出力される前記Iチャネル信号およびQチャネル信号の位相がそろうように前記アナログ移相部を制御するデジタル信号処理部と、
前記アナログ移相部から出力された前記Iチャネル信号およびQチャネル信号を、チャネル毎に合成する2個の同相合成器と、
前記2個の同相合成器のそれぞれに接続され、前記第1ADコンバータの動作速度よりも速い速度で動作し、前記2個の同相合成器でそれぞれ合成されたIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する2個の第2ADコンバータと、
を備えた受信装置。
【請求項2】
前記アナログ移相部は、
前記複数のアンテナ素子のそれぞれに接続され、前記受信信号をアナログベースバンド信号にダウンコンバートして、Iチャネル信号およびQチャネル信号を生成する複数のダウンコンバータと、
前記複数のダウンコンバータのそれぞれに接続され、前記Iチャネル信号およびQチャネル信号の位相を調整する複数のベースバンド移相器と、
を有する請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記アナログ移相部は、
前記複数のアンテナ素子のそれぞれに接続され、前記受信信号の位相を調整する複数の高周波移相器と、
前記高周波移相器のそれぞれに接続され、位相が調整された前記受信信号をアナログベースバンド信号にダウンコンバートして、Iチャネル信号およびQチャネル信号を生成する複数のダウンコンバータと、
を有する請求項1に記載の受信装置。
【請求項4】
複数のアンテナ素子から構成されたアレーアンテナにより、伝送データで変調された信号を受信信号として受信する受信ステップと、
前記受信信号から、前記複数のアンテナ素子毎に、アナログベースバンド信号にダウンコンバートされ、かつ位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号を生成する移相ステップと、
位相が調整された前記Iチャネル信号およびQチャネル信号のうち、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる低域通過ステップと、
前記低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する第1変換ステップと、
デジタル信号に変換された前記Iチャネル信号およびQチャネル信号から、前記複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、前記移相ステップにおいて、前記Iチャネル信号およびQチャネル信号の位相がそろうように、位相の調整量を制御する制御ステップと、
前記移相ステップで位相が調整された前記Iチャネル信号およびQチャネル信号を、チャネル毎に合成する合成ステップと、
前記合成ステップで合成されたIチャネル信号およびQチャネル信号を、前記第1変換ステップにおける動作速度よりも速い動作速度でデジタル信号に変換する第2変換ステップと、
を有する受信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アレーアンテナを用いたデジタルビームフォーミング(DBF:Digital Beam Forming)により、自律ビームを形成する受信装置および受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナ素子から構成されるアレーアンテナにおいて、各アンテナ素子から同時に信号を送信すると、アンテナ面と垂直な方向に位相がそろい、この方向に電波(ビーム)が集中して伝搬する。これに対して、アンテナ素子毎に位相をずらして信号を送信すると、電波は、アンテナ面と垂直な方向から傾きをもって伝搬する。
【0003】
また、電波を送信する場合に限定されず、電波を受信する場合には、受信した信号のアンテナ素子間における位相差に基づいて、電波の伝搬してきた方向を知ることができる。この技術は、アレーアンテナを用いたビームフォーミング(BF:Beam Forming)と呼ばれている。
【0004】
このようなBFでは、複数のアンテナ素子のそれぞれに接続された移相器において、信号の位相を調整することにより、アンテナ素子毎に位相をずらして、ビームの方向を切り替えている。これにより、例えば通信において、子機端末が親機端末の方向にビームを向けることができ、干渉を低減するとともに、強い電波を送受信することができる。
【0005】
ここで、移相器によって位相の調整する方法として、ルックアップテーブルによるビーム切り替えと、DBFによる自律ビームの形成とが知られている。以下、ルックアップテーブルによるビーム切り替え、およびDBFによる自律ビームの形成についてそれぞれ説明する。
【0006】
まず、ルックアップテーブルによるビーム切り替えでは、複数のアンテナ素子のそれぞれに接続された(アナログ)移相器に、ビーム情報があらかじめデータベース化されたルックアップテーブルが接続される。また、移相器において、ルックアップテーブルに保存された値に基づいて位相が調整され、位相調整後の信号からデータが復調される。
【0007】
具体的には、ルックアップテーブルには、ビームを傾けたい方向(角度)と、その角度における各移相器の調整量とが、データベースとして保存されている。ルックアップテーブルによるビーム切り替えによれば、簡単な構成および制御で、ビームの方向を切り替えることができる。
【0008】
しかしながら、ルックアップテーブルによるビーム切り替えでは、あらかじめデータベースを作成しておく必要がある。また、例えば端末の移動等によって、通信中にビームが変動した場合には、あらゆるビームの方向を見てビームを追従する必要があるので、ビームの追従と通信とを同時に実行することができないことがある。
【0009】
そこで、DBFによる自律ビームの形成が必要になる。DBFによる自律ビームの形成では、すべてのアンテナ素子で受信した信号がデジタル化され、受信した信号について、SNR(Signal Noise Ratio)が最も高くなる位相の調整量が算出される。また、この調整量に基づいて(デジタル)移相器が制御されることによって、最適ビームが形成され、データが復調される(例えば、非特許文献1参照)。
【0010】
具体的には、複数のアンテナ素子のそれぞれに、受信した信号をベースバンド(BB:Base Band)信号にダウンコンバートして、Iチャネル(同相成分)信号およびQチャネル(直交成分)信号を出力するダウンコンバータが接続され、ダウンコンバータの各出力が、高速ADコンバータ(ADC:Analog Digital Converter)でデジタル信号に変換される。
【0011】
また、制御部において、高速ADCから出力された全周波数帯域(フル帯域)のIチャネル信号およびQチャネル信号について、SNRが最も高くなる各移相器の調整量が算出される。また、復調部において、算出された調整量に基づいて各移相器が制御され、位相調整後の信号がチャネル毎に合成されて、データが復調される。
【0012】
DBFによる自律ビームの形成によれば、デジタル領域において、アナログ移相器を用いることなく、最適なビームを形成することができる。また、受信した信号から移相器の調整量が算出されるので、ビームの追従と通信とを同時に実行することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Navid Lashkarian,et al.,“Performance Bound on Ergodic Capacity of MIMO Beam−Forming in Indoor Multi−Path Channel”,IEEE TRANSACTIONS ON COMMUNICATIONS,VOL.58,NO.11,NOVEMBER 2010,pp.3254−3264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
非特許文献1の受信装置では、各移相器の調整量を算出する制御部が、データを復調する復調部と同様に、全周波数帯域のIチャネル信号およびQチャネル信号について処理を実行している。
【0015】
そのため、高精度で高速に動作するADC(高速ADC)が、アンテナ素子数の2倍(アンテナ素子数×2チャネル分)必要になる。これにより、受信装置のコストが増大するとともに、消費電力が大きくなるという問題があり、小型の端末を実現することは困難である。
【0016】
さらに、近年、通信のブロードバンド化によって、受信する信号が非常に広帯域(たとえば、ミリ波帯のような超広帯域)になっている。そこで、高速無線通信(ブロードバンド通信)を行う場合には、信号処理量が多くなるので、制御部において、高速ADCで変換されたデジタル信号に対して、高速な信号処理が必要になるという問題もある。
【0017】
すなわち、制御部は、デジタル領域において、Iチャネル信号およびQチャネル信号から位相を抽出し、適切な位相のずれ(各移相器の調整量)を算出して復調部に出力する。このとき、パラレル数が、アンテナ素子数分のセットだけ必要になる。
【0018】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、低コストで、かつ消費電力および信号処理量を低減することができる受信装置および受信方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明に係る受信装置は、複数のアンテナ素子から構成され、伝送データで変調された信号を受信信号として受信するアレーアンテナと、アレーアンテナに接続され、受信信号から、複数のアンテナ素子毎に、アナログベースバンド信号にダウンコンバートされ、かつ位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号を生成するアナログ移相部と、アナログ移相部から出力されたIチャネル信号およびQチャネル信号に対応して設けられ、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる複数のローパスフィルタと、複数のローパスフィルタのそれぞれに接続され、低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する複数の第1ADコンバータと、複数の第1ADコンバータの出力から、複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、アナログ移相部から出力されるIチャネル信号およびQチャネル信号の位相がそろうようにアナログ移相部を制御するデジタル信号処理部と、アナログ移相部から出力されたIチャネル信号およびQチャネル信号を、チャネル毎に合成する2個の同相合成器と、2個の同相合成器のそれぞれに接続され、第1ADコンバータの動作速度よりも速い速度で動作し、2個の同相合成器でそれぞれ合成されたIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する2個の第2ADコンバータとを備えたものである。
【0020】
また、この発明に係る受信方法は、複数のアンテナ素子から構成されたアレーアンテナにより、伝送データで変調された信号を受信信号として受信する受信ステップと、受信信号から、複数のアンテナ素子毎に、アナログベースバンド信号にダウンコンバートされ、かつ位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号を生成する移相ステップと、位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号のうち、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる低域通過ステップと、低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する第1変換ステップと、デジタル信号に変換されたIチャネル信号およびQチャネル信号から、複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、移相ステップにおいて、Iチャネル信号およびQチャネル信号の位相がそろうように、位相の調整量を制御する制御ステップと、移相ステップで位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号を、チャネル毎に合成する合成ステップと、合成ステップで合成されたIチャネル信号およびQチャネル信号を、第1変換ステップにおける動作速度よりも速い動作速度でデジタル信号に変換する第2変換ステップとを有するものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係る受信装置によれば、アナログ移相部から出力されたIチャネル信号およびQチャネル信号に対応して設けられ、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる複数のローパスフィルタと、複数のローパスフィルタのそれぞれに接続され、低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する複数の第1ADコンバータと、複数の第1ADコンバータの出力から、複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、アナログ移相部から出力されるIチャネル信号およびQチャネル信号の位相がそろうようにアナログ移相部を制御するデジタル信号処理部とを備えている。
また、この発明に係る受信方法によれば、移相ステップで位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号のうち、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる低域通過ステップと、低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する第1変換ステップと、デジタル信号に変換されたIチャネル信号およびQチャネル信号から、複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、移相ステップにおいて、Iチャネル信号およびQチャネル信号の位相がそろうように、位相の調整量を制御する制御ステップとを有している。
これにより、アナログ移相部における位相の調整量が、低速な信号処理によって制御されることになる。
そのため、低コストで、かつ消費電力および信号処理量を低減することができる受信装置および受信方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の実施の形態1に係る受信装置を示す構成図である。
図2】この発明の実施の形態1に係る受信装置のシミュレーション結果を示す説明図である。
図3】この発明の実施の形態1に係る受信装置における消費電力およびDSP処理ビットレートを、従来の受信装置と比較して示す説明図である。
図4】この発明の実施の形態1に係る受信装置の別のアンテナ部を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明に係る受信装置および受信方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0024】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る受信装置100を示す構成図である。図1において、受信装置100は、アンテナ部10、制御部20および復調部30を備えている。アンテナ部10は、アレーアンテナ11、複数のダウンコンバータ12および複数のBB移相器13を有している。
【0025】
制御部20は、複数のローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)21、複数の低速ADC(第1ADコンバータ)22および低速DSP(Digital Signal Processor、デジタル信号処理部)23を有している。復調部30は、2個の同相合成器31および2個の高速ADC(第2ADコンバータ)32を有している。
【0026】
アレーアンテナ11は、複数のアンテナ素子から構成され、伝送データで変調された信号を受信信号として受信する。複数のダウンコンバータ12は、複数のアンテナ素子のそれぞれに接続され、アレーアンテナ11で受信された受信信号をアナログベースバンド信号にダウンコンバートして、Iチャネル信号およびQチャネル信号(I10,Q10,I20,Q20,・・・,In0,Qn0)を生成する。
【0027】
複数のBB移相器13は、複数のダウンコンバータ12のそれぞれに接続され、複数のダウンコンバータ12で生成されたIチャネル信号およびQチャネル信号(I10,Q10,I20,Q20,・・・,In0,Qn0)の位相を、デジタル信号処理部23の制御下で調整し、移相調整後のIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)を出力する。
【0028】
複数のLPF21は、複数のBB移相器13から出力されたIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)に対応して設けられ、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる。複数の低速ADC22は、複数のLPF21のそれぞれに接続され、低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する。
【0029】
低速DSP23は、複数の低速ADC22の出力から、複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、複数のBB移相器13から出力されるIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)の位相がそろう(同位相になる)ように、複数のBB移相器13での位相の調整量を制御する。
【0030】
2個の同相合成器31は、アナログ領域において、複数のBB移相器13から出力されたIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)を、チャネル毎に合成し、合成後のIチャネル信号およびQチャネル信号(ITotal,QTotal)を出力する。
【0031】
2個の高速ADC32は、2個の同相合成器31のそれぞれに接続され、複数の低速ADC22の動作速度よりも速い速度で動作し、2個の同相合成器31でそれぞれ合成されたIチャネル信号およびQチャネル信号(ITotal,QTotal)をデジタル信号に変換して、データを復調する。この結果、全体的にSNRが改善されたデータが復調される。
【0032】
このように、制御部20は、入力された広帯域なIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)から、低域の周波数成分のみを取り出す。また、制御部20は、取り出した低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号を、低速ADC22でサンプリングし、デジタル領域において、低周波成分の信号のみを用いて位相差を抽出する。
【0033】
また、制御部20は、抽出した位相差に基づいて、複数のBB移相器13から出力されるIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)の位相がそろうように、複数のBB移相器13での位相の調整量を、フィードバック制御する(以下、この制御を「低域ループ制御」と称する)。
【0034】
これにより、制御部20が、全周波数帯域のIチャネル信号およびQチャネル信号について処理を実行しなくなるので、従来の受信装置では、アンテナ素子数の2倍(アンテナ素子数×2チャネル分)必要であった高速ADC32を、復調部30における2個にすることができる。
【0035】
すなわち、制御部20と復調部30とを分離し、制御部20において低域ループ制御を実行することにより、高速ADC32を2個に削減することができ、受信装置100の消費電力を大幅に低減しつつ、自律ビームを形成することができる。また、リアルタイムでフィードバックしているので、絶えずBB移相器13で位相を調整しながら信号を受信するので、ビームの追従と通信とを同時に実行することができる。さらに、低域ループ制御により、信号処理量が低減されるので、低速DSP23で複数のアンテナ素子間における位相差を抽出することができ、回路規模を縮小することができる。
【0036】
ここで、この発明の実施の形態1に係る受信装置100について、実際の変調信号を用いて、リアルタイムに制御を実行し、自律ビームを形成することができることを、シミュレーションによって確認した。シミュレーション条件は、以下の通りである。
【0037】
シミュレータ:ADS Ptolemy
変調信号:2Gbps QPSK(帯域幅1GHz)
LPF3dB通過帯域:10MHz(変調信号の帯域幅の1/100)
ハードウェア:理想
アンテナ素子間位相差:ランダムに付加
移相器初期設定:0度移相
【0038】
上記の条件でシミュレーションを行った結果を図2に示す。図2より、アンテナ素子を2本にすれば、SNRが3dB悪くても、同じBER(Bit Error Rate)を得ることができる。同様に、アンテナ素子を4本にすればSNRが6dB、8本にすれば9dB悪くても、同じBERを得ることができる。すなわち、アンテナ素子の数に比例して、BERが改善されている。
【0039】
また、アンテナ素子が、最初にビームを向けなければいけない方向にロックするまでの時間、具体的には、初期位相が0度である場合に、ランダムな相手に対してトラッキングするまでの時間である制御ループ時間(トラッキング速度)は、17.5μsecとなった。このことから、十分に早い時間でフィードバックがかかっており、ビームを追従することができているといえる。
【0040】
したがって、このシミュレーションの結果、実際の変調信号を用いて、リアルタイムに制御を実行し、自律ビームを形成することができることが分かる。
【0041】
なお、変調信号の変調方式は、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)に限定されず、IチャネルおよびQチャネルを用いて復調するものであれば、どのような変調方式であってもよい。
【0042】
続いて、この発明の実施の形態1に係る受信装置100における消費電力、およびDSPでの信号処理量に対応するDSP処理ビットレートを、従来の受信装置と比較した比較結果を図3に示す。なお、前提条件として、変調信号:QPSK信号、BB帯域幅:1GHz、アンテナ素子数:8素子、移相制御精度:5ビットとする。
【0043】
ここで、高速ADCおよび低速ADCの消費電力は、市販のものの値や、学会発表で挙げられた値とする。また、従来の受信装置におけるDSPの信号処理量は、2Gspsの信号をDSPで処理するにあたって、見積もった値である。
【0044】
図3より、低速ADCの消費電力がほぼ0であることから、この発明の実施の形態1に係る受信装置100の全消費電力は、高速ADCの消費電力と見なすことができ、従来の受信装置の全消費電力の1/8になっていることが分かる。
【0045】
また、この発明の実施の形態1に係る受信装置100では、低域ループ制御を実行する制御部20の信号帯域(低域ループ帯域)を、BB帯域幅の1/100に絞ったことにより、DSP処理ビットレートが、従来の受信装置の1/100になっていることが分かる。
【0046】
したがって、この比較の結果、アンテナ素子数がnである場合には、全消費電力が1/nに低減され、低域ループ帯域を信号帯域の1/mに絞った場合には、DSP処理量が1/mに低減されることが分かる。
【0047】
以上のように、実施の形態1によれば、アナログ移相部から出力されたIチャネル信号およびQチャネル信号に対応して設けられ、所定の周波数以下の低周波成分のみを通過させる複数のローパスフィルタと、複数のローパスフィルタのそれぞれに接続され、低周波成分のIチャネル信号およびQチャネル信号をデジタル信号に変換する複数の第1ADコンバータと、複数の第1ADコンバータの出力から、複数のアンテナ素子間における位相差を抽出するとともに、アナログ移相部から出力されるIチャネル信号およびQチャネル信号の位相がそろうようにアナログ移相部を制御するデジタル信号処理部とを備えている。これにより、アナログ移相部における位相の調整量が、低速な信号処理によって制御されることになる。
そのため、低コストで、かつ消費電力および信号処理量を低減することができる受信装置および受信方法を得ることができる。
【0048】
なお、上記実施の形態1では、受信装置を例に挙げて説明したが、これに限定されず、送信装置に適用することもできる。この場合には、図1に示した復調部と切り替えられるようにデータ、高速DACおよび同相分配器を有する変調部が設けられ、受信信号に対する低域ループ制御によりBB移相器における位相の調整量が制御されて、同相で出力された信号が、所望の方向に送信される。
【0049】
また、上記実施の形態1では、アンテナ部10が複数のBB移相器13を有している場合について説明したが、これに限定されない。図4は、この発明の実施の形態1に係る受信装置の別のアンテナ部10Aを示す構成図である。
【0050】
図4において、アンテナ部10Aは、アレーアンテナ11、複数のLNA(Low Noise Amplifier)14、複数のRF(Radio Frequency)移相器(高周波移相器)15および複数のダウンコンバータ12を有している。
【0051】
この場合であっても、上記実施の形態1と同様に、アレーアンテナ11で受信された受信信号から、複数のアンテナ素子毎に、アナログベースバンド信号にダウンコンバートされ、かつ位相が調整されたIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)を生成することができる。ここで、RF移相器15を用いた場合には、BB移相器13では2本必要だったパスを1本にすることができる。
【0052】
なお、BB移相器およびRF移相器に限定されず週間周波数(IF:Intermediate Frequency)の移相器を用いた場合であっても、同様にIチャネル信号およびQチャネル信号(I,Q,I,Q,・・・,I,Q)を生成することができる。
【0053】
なお、上記実施の形態1では、通信用の受信装置100を例に挙げて説明したが、これに限定されず、レーダ装置に適用される受信装置であっても、同様の効果を得ることができる。また、このとき、変調信号として、チャープ信号を用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 アンテナ部、11 アレーアンテナ、12 ダウンコンバータ、13 BB移相器、20 制御部、21 LPF、22 低速ADC(第1ADコンバータ)、23 低速DSP(デジタル信号処理部)、30 復調部、31 同相合成器、32 高速ADC(第2ADコンバータ)、100 受信装置。
図1
図2
図3
図4