特許第6021714号(P6021714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021714
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】製鉄用焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/16 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
   C22B1/16 C
   C22B1/16 K
【請求項の数】4
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-73432(P2013-73432)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196548(P2014-196548A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】笠井 昭人
(72)【発明者】
【氏名】森岡 耕一
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 貴博
(72)【発明者】
【氏名】阿野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】野澤 健太郎
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−277838(JP,A)
【文献】 特開2003−293043(JP,A)
【文献】 特開2002−105542(JP,A)
【文献】 特開2004−225147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe・nHOのnが1.0を超え4.0以下の水酸化鉄と、CaO源とをCaO/Feのモル比が0.5を超え2.0未満となるように混合して第1混合物を生成し、前記第1混合物に粒度が1000μm以下の粉コークスを混合して第2混合物を生成しており、
前記第2混合物に対する前記粉コークスの質量比率を2〜20%とし、前記第1混合物を他の焼結原料に対して2質量%以上30質量%未満とし、前記第2混合物と前記他の焼結原料とを焼結することにより、焼結鉱を製造することを特徴とする製鉄用焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記第2混合物を造粒して造粒物としたうえで前記造粒物と他の焼結原料とを装入することとしており、前記造粒物の粒度に関し、1mm以下は10質量%以下、10mm以上は10質量%以下とすることを特徴とする請求項に記載の製鉄用焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記第2混合物を造粒して造粒物にする際には、前記CaO源を生石灰とし、「造粒水の質量÷生石灰の質量」で表されるSWRを0.3以上0.8以下にすることを特徴とする請求項に記載の製鉄用焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記第2混合物を造粒して造粒物にする際に、高速攪拌ミキサーを用いることを特徴とする請求項に記載の製鉄用焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄用焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高炉原料として、採掘された鉄鉱石だけでなく、粉鉱を焼成して得られる焼結鉱が用いられている。このような焼結鉱を製造する技術としては、以下の特許文献に示すように様々のものが開発されている。
特許文献1では、多種の鉱石と副原料を配合した焼結原料を焼結して焼結鉱を製造する方法において、焼結原料に配合する鉱石の50%以上をピソライト鉱石とし、他の鉱石をSiOを2%以上5%未満、かつ結合水を3%以上6%未満含有した鉱石、及び、ペレットフィードまたはSiOを2%未満含有した鉱石としている。
【0003】
特許文献2では、鉄鉱石原料の30〜50%をピソライト鉱石とする焼結鉱製造方法において、ピソライト鉱石全体の70〜80%と、ピソライト鉱石を除く鉄鉱石原料,石灰石,蛇紋岩及びコークスとを造粒した後に、残りの20〜30%のピソライト鉱石を混合し、焼結機に装入して焼結している。
特許文献1は、ゲーサイトとしての組成(Fe・2HO)が開示されているが、ゲーサイトの組成はFe・HOであり誤記であると思われる。
【0004】
特許文献1や特許文献2の他に焼結鉱を製造する方法として特許文献3〜7に示すものがある。鉄鋼分野ではないが、水酸化鉄を原料として化粧品や塗料に用いられる着色顔料を製造する技術を開示するものとして特許文献8及び9に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−245638号公報
【特許文献2】特開平08−176688号公報
【特許文献3】特開平05−098359号公報
【特許文献4】特開平05−105969号公報
【特許文献5】特開平04−080327号公報
【特許文献6】特開2007−169707号公報
【特許文献7】特開平08−027525号公報
【特許文献8】特開2005−255500号公報
【特許文献9】特開平10−204318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2は、水酸化鉄をFe・nHOで表したとき、その価数nが1.0以下である原料を用いて焼結鉱を製造する技術である。即ち、特許文献1及び2の技術で示されているように、焼結鉱を製造する分野では、価数nが1.0を超える水酸化鉄を用いて焼結鉱を製造するという考えは全くなかった。なお、その他の特許文献3〜7をみたとしても、同様に価数nが1.0を超える水酸化鉄を用いて焼結鉱を製造する技術は無い。なお、価数nが1.0を超える水酸化鉄を使用するという技術が特許文献8及び9に示されているものの、これらの技術は、製鉄用焼結鉱を製造する技術とは全く異なるものである。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、従来、使用することができなかった劣質の鉄鉱石(価数nが1.0を超える水酸化鉄、言い換えれば超高結晶水含有鉱石)を高炉などの製鉄原料として使用することができるようにする製鉄用焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。 本発明の製鉄用焼結鉱の製造方法は、Fe・nHOのnが1.0を超え4.0以下の水酸化鉄と、CaO源とをCaO/Feのモル比が0.5を超え2.0未満となるように混合して第1混合物を生成し、前記第1混合物に粒度が1000μm以下の粉コークスを混合して第2混合物を生成しており、前記第2混合物に対する前記粉コークスの質量比率を2〜20%とし、前記第1混合物を他の焼結原料に対して2質量%以上30質量%未満とし、前記第2混合物と前記他の焼結原料とを焼結することにより、焼結鉱を製造することを特徴とする。
【0009】
ましくは、前記第2混合物を造粒して造粒物としたうえで前記造粒物と他の焼結原料とを装入することとしており、前記造粒物の粒度に関し、1mm以下は10質量%以下、10mm以上は10質量%以下とするとよい。
【0010】
好ましくは、前記第2混合物を造粒して造粒物にする際には、前記CaO源を生石灰とし、「造粒水の質量÷生石灰の質量」で表されるSWRを0.3以上0.8以下にするとよい。
好ましくは、前記第2混合物を造粒して造粒物にする際に、高速攪拌ミキサーを用いるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来、使用することができなかった劣質の鉄鉱石(価数nが1.0を超える水酸化鉄、言い換えれば超高結晶水含有鉱石)を高炉などの製鉄原料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】焼結を行ったときのヒートパターンを示す図である。
図2】混合物を示す図である。
図3】生産率が2.3〜2.5(t/m/h)であるときの水酸化鉄のnと歩留との関係図である。
図4】生産率が1.7〜1.9(t/m/h)であるときの水酸化鉄のnと歩留との関係図である。
図5】CaO−Fe二元系状態図である。
図6】焼結前後(焼成前後)の混合物と、焼結原料との結合状態を示した図である。
図7】生産率が2.3〜2.5(t/m/h)であるときの第1混合物の配合量と歩留との関係図である。
図8】生産率が1.7〜1.9(t/m/h)であるときの第1混合物の配合量と歩留との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製鉄用焼結鉱の製造方法について説明する。
従来より、高炉では、その炉体の上部から製鉄用焼結鉱(単に焼結鉱ということがある)を含む装入物を装入し、下部から熱風を吹込んで、鉄鉱石(鉱石)の還元、溶解等の一連の反応を行わせることにより、銑鉄を製造している。この高炉は、装入物が炉内を上昇してくるガスと熱交換・還元反応を連続的に行う向流型反応装置である。そのため、高炉に装入する装入物、特に焼結鉱は、炉内におけるガスの通気を阻害しない耐粉化性(強度)と良好な被還元性を有していることが重要である。
【0014】
そこで、焼結鉱の製造過程において、カルシウムフェライト(以下、CF)を出来るだけ多量に合成し、焼結原料の粒子間にCF系の融液に起因する結合組織を形成することにより、強度と被還元性に優れた焼結鉱を製造することが可能となる。
高炉よりも上流の工程(製銑プロセスにおける焼結事前処理工程)では、例えば、パレットを無端ベルト状で構成したドワイトロイド式焼結機を用いて焼結鉱を製造している。
【0015】
このドロワイト式焼結機において、焼結鉱を製造するにあたっては、まず、焼結原料の供給側から成品(焼結鉱)排出側へ移動するパレットに、鉱石、固体燃料(コークス粉など)、副原料、その他からなる焼結原料を順次供給・充填して焼結原料層を形成する。そして、焼結原料層の上部に着火し、下向きに空気を通過させることにより、焼結原料層の
下部に向けて燃焼を進め、成品排出側に至るまでに、焼結原料の焼成を完了させることによって行う。
【0016】
ここで、焼結過程を見てみると、パレット上に装入された焼結原料には、凝結材と称せられる固体燃料(コークス粉)が含まれており、固体燃料に着火して、下部よりブロワーによって燃焼ガスを吸引することで、固体燃料の燃焼にともなうフレームは焼結原料層内を降下し、フレームの周囲及び下部では焼結原料は加熱昇温することになる。既にフレームが通過した部位は、上部より供給されるガスによって連続的に冷却される。焼結原料層において、パレット上に装入されてから排鉱されるまでの間でのある定点におけるヒートパターンは、図1に示すようになる。
【0017】
さて、焼結原料中にCaO源が含まれていると、焼結中に加熱昇温され、ある温度以上になると鉄鉱石とCaO源との固相反応によってCFの合成が開始される。CFの融点に達すると合成されたCFの一部が焼結原料の粒子間に融液として溶出する。その後の冷却過程ではこれが固化することにより、焼結原料を強固に結合する結合組織を形成する。
結合組織は融液として溶出したものが固化することで形成されるので、ヒートパターンが同じであれば、結合組織の形成が可能な時間は、既に固相反応で合成が開始されているCFが溶融し固化するまでの時間と考えられる。従来から、このヒートパターンを改良し、好適な結合組織の形成時間の延長を図る取組み、技術が報告されている。しかしながら、これらの先行技術は大掛かりな設備・プロセスの改造を伴うものである。
【0018】
本発明では、Fe・nHOの構造を有する水酸化鉄を焼結原料の一部として使用し、図2に示すように、水酸化鉄と、CaO源と、粉コークスとを混合することによってCFの合成(生成)を促進している。
水酸化鉄を用いて焼結を行った場合、図1に示したような焼結原料層による温度上昇に伴って、加熱昇温されていき、300℃付近で熱分解を開始する。このとき、水酸化鉄は、比表面積が拡大し、非常に活性に富んだ表面性状となる。このような表面性状の水酸化鉄の近傍にCaO源があると場合、従来よりも低温で固相反応によるCFの合成が開始される。
【0019】
即ち、従来と同じようなヒートパターンで焼結を行ったとしても、本発明のように水酸化鉄の鉱石とCaO源とを混合して焼結を進めることにより、早い段階から固相反応によってCFを合成することができ、固相反応によるCFの時間を長くすることができる。即ち、図1に示すように、従来では、例えば、図1の矢印BでCFの合成が開始されていたものを、本発明では、矢印Cの早い段階でCFの合成を開始することができる。
【0020】
その結果、CFの溶解開始温度に達した時点(図1の区間Aに入る時点)で、従来よりも多量のCF系融液が溶出し、冷却時には従来よりも多量のCF系の結合組織を形成することができる。なお、区間Aは、結合組織の形成区間(CF系融液の溶出〜固化までの時間)を例示したものである。
上述したように、Fe・nHOの水酸化鉄と、CaO源と、粉コークスとを混合することにより、CFの合成を早めて多量のCFを生成できると考えられるが、CFの合成を促進するためには、反応界面積が大きく表面の反応性が高い粒子であることが有利であると考え、どのような水酸化鉄が適しているか検証を行った。
【0021】
Fe・HO(n=1)である水酸化鉄は、ゲーサイト(geothite)というものであるが、このゲーサイトを用いた場合は、図3及び図4に示すように、装入物の歩留が向上せず、実質的にn=1であるゲーサイトを用いることはできない。また、n=0〜1である水酸化鉄は、n=1のゲーサイトと結合水を含まないFe(ヘマタイト)とから構成されていると考えられるが、この水酸化鉄を用いたとしても、ゲーサイトと同様に、装入物の歩留が向上しない。
【0022】
一方、nが1を超える(n>1)の水酸化物を焼結に用いた場合、焼成する過程で結合水の分解に大きな熱量が必要であって焼成エネルギーが余分に必要であるため、水酸化鉄を焼結に用いることは好ましくないと考えられてきた。即ち、水酸化鉄を焼結原料粒子を構成する原料の一部に使用した場合、結合水の分解反応に伴う吸熱反応による熱不足及び分解時の水蒸気放出にともなう焼結鉱原料の粒子に発生する亀裂によって、粒子間の接触
が不足し、更に、CFを形成するためのCaO源が必ずしも当該の水酸化鉄に近接して存在し難くなり、焼結原料の粒子内での固相状態でのCF合成が効率的に進まず、焼結鉱の結合組織の強度が低下し、歩留も低下すると考えられてきた。そのため、当然のことながら、nが1.0を超えるより結合水影響が強くなる水酸化鉄を、焼結原料を結合するための手段として使用することなど、従来では到底考えられなかった。
【0023】
しかしながら、発明者らは、従来の考えに捕らわれずに、nが1.0を超えてしまう水酸化鉄についても検証を続けた。その結果、nが1を超える(n>1)の水酸化物を焼結に用いた場合、図3及び図4に示すように、装入物の歩留を向上させるこができることを見出した。
なお、水酸化鉄(水酸化鉄乃至は水酸化鉱)がFe・nHOと表記されることは、技術文献:「鉄鋼製造法、3−1原料、表3・1鉄鉱石の産状別性状一覧表、p163、日本鉄鋼協会著書、1972年4月10日発行、丸善株式会社」に示されているように当業者間では広く知られた事項である。また、水酸化鉄において、例えば、「講座・現代の金属学製錬編第1巻 鉄鋼製錬、社団法人日本金属学会編・発行 昭和54年第1刷 p98〜99」に示されているように、nの値は鉱物学的に4を超えることがないことが知られている。水酸化鉄のnは、化合水の量を表現する係数で、熱分析および化学分析により決定することができる。具体的には、価数は、化学分析による全鉄数tFe(JIS M8212 全鉄定量方法)、2価鉄(JIS M 8213 2価鉄定量方法)、FeO及び化合水(JIS M 8211 化合水定量方法)、CWの量により求める。価数nは、n=W/Hm×2で求める(ただし、Hm=tFe/55.85−FeO/71.85、W=CW/18である。)。
【0024】
即ち、本発明では、水酸化鉄と、CaO源と、粉コークスとを混合するにあたって、Fe・nHOのnが1.0を超え4.0以下の水酸化鉄を用いることとしている。以下、説明の便宜上、水酸化鉄とCaO源とを合わせた混合物を「第1混合物」、水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを合わせた混合物を「第2混合物」という。
さて、混合に用いるCaO源は、生石灰CaO、消石灰Ca(OH)、石灰石CaCOである。水酸化鉄とCaO源との混合をするにあたっては、生石灰、消石灰、石灰石のいずれか1種類以上用いればよい。石灰石と消石灰は、加熱時に分解しCaOを生じる。また、生石灰、消石灰、石灰石を混合使用してもよい。なお、焼結鉱を製造するにあたって、特開2004−315277号公報に、石膏を使用する例が開示されているが、この方法では、不純物である硫黄を除いてCaOとする必要があり、脱硫プロセスが必要となるため、工業的に用いることが困難である。
【0025】
上述したように、CFは、加熱昇熱時に水酸化鉄とCaO源との固相反応によって合成されるが、このCFを過不足無く十分に合成するためには、図5のCaO−Fe二元系状態図で示すように、液相線の下限温度を含む範囲Dにするとよい。即ち、水酸化鉄とCaO源とを混合する(第1混合物)にあたっては、CaOとFeとのモル比(CaO/Fe)を、0.5を超え2.0よりも小さくなるようにすれば良い。
【0026】
また、本発明では、水酸化鉄とCaO源とを混合した第1混合物に、粉コークスを混合することにより、第2混合物を生成することにしている。ここで、混合に用いる粉コークスの粒度は、1000μm以下としている。言い換えれば、第2混合物中に粒度が1000μm以下となる粉コークスを内装させている。粉コークスは、熱供給源になると共に還元雰囲気を作り易いため、CFが生成し易くなる。粉コークスの粒度が1000μm超えてしまうと反応性や分散性が低下するため、粉コークスにおける熱供給や還元雰囲気化の効果が十分に得ることができない。
【0027】
また、第2混合物において、第2混合物に対する粉コークスの質量比率は2〜20%としている。粉コークスの質量比率は、[混合する粉コークス÷第2混合物×100」で求める値である。即ち、図2に示すように、粉コークスの質量比率は、第2混合物に対する粉コークスの割合である。粉コークスの質量比率が2質量%未満である場合、粉コークスにおける熱供給や還元雰囲気化の効果が十分に得ることができない。一方、粉コークスの質量比率が20質量%を超えてしまうと、粉コークスが水酸化鉄とCaO源との近接化を
阻害してしまう虞がある。
【0028】
このように、水酸化鉄とCaO源との混合に加え、粉コークスも混合することにより、CFの生成を促進することができる。
図6は、焼結前後(焼成前後)の第2混合物(水酸化鉄、CaO源、粉コークス)と、焼結原料との結合状態を示したものである。図6(a)に示すように、焼結前は、第2混合物1と、この第2混合物1と異なる他の焼結原料(他原料という)2とは、互いに別々の状態で存在している。図6(a)に示すように、第2混合物1が他原料2、2の間(焼結原料の粒子間)に入った状態で焼結が進むと、加熱昇熱時に混合物1から多量のCF(CF溶液)が溶出し、溶出したCF溶液は他原料2と同化して、焼結後には、図6(b)に示すように、強固な結合組織3によって他原料2同士を結合させる。
【0029】
このように、混合物から溶出されるCF溶液によって他原料同士を強固に結合するために、第1混合物を他の焼結原料に対して、2質量%以上30質量%未満を装入(混合)することとしている。
図7及び8に示すように、他原料に対する第1混合物の配合量が2質量%未満である場合、十分な量の結合組織を焼結原料層内で形成することができず、歩留は改善しない。即ち、他原料に対する第1混合物の混合が少ないと、他原料の粒子間に入った第1混合物の割合が全体の焼結原料層全体に比べて少量であるため、焼結原料槽全体の強度改善を得るには至らず、十分に歩留を向上させることができなかった。
【0030】
他原料に対する第1混合物の配合量が2質量%以上にした場合、急激に歩留が向上する。第1混合物の装入量を2質量%から次第に増加させていくと、この第1混合物から溶出するCFの融液の総発生量は増大する。ある程度のCFの融液は結合組織として働き、他原料の結合に寄与するものの、結合組織として働かなかった余分なCFの融液は、焼結時に下向き通風の影響で焼結原料層の下部に移動するが、焼結原料層内の途中(例えば、中下層部の付近)で固化してしまい、ブロアを阻害する可能性がある。即ち、下向き通風によって移動するCFの融液が過剰である場合、焼結原料層を通過するガスが偏流し、所謂、焼けムラと呼ばれる不均一な焼結組織の生成割合が増大し、歩留が低下する虞がある。
【0031】
図7及び8に示すように、他原料に対する第1混合物の配合量と歩留の状態を見てみると、他原料に対する第1混合物の配合量が2質量%を超えて30質量%未満では、歩留が向上するものの、第1混合物の配合量が30質量%を超えてしまうと、歩留が低下した。
以上まとめると、本発明では、Fe・nHOのnが1.0を超え4.0以下の水酸化鉄と、CaO源とをCaO/Feのモル比が0.5を超え2.0未満となるように混合して第1混合物を形成する。そして、第1混合物に粒度が1000μm以下の粉コークスを混合することにより第2混合物を形成することとしている。そして、第2混合物と他の焼結原料とを焼結することにより、焼結鉱を製造することとしている。
【0032】
なお、第2混合物に対する粉コークスの質量比率を2〜20%であり、第1混合物と他の原料の配合割合は、第1混合物を他の焼結原料に対して2質量%以上30質量%未満となるように装入することとしている。
ここで、水酸化鉄と、CaO源、粉コークスとを混合するにあたっては、水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを混合しながら粉砕する(混合粉砕方法ということがある)を行うことが望ましい。水酸化鉄、CaO源及び粉コークスを混合する際に、混合と粉砕とを同時に行うことにより、水酸化鉄とCaO源とがメカノケミカル効果によって近接し反応し易くなる。
【0033】
即ち、混合粉砕方法では、水酸化鉄とCaO源とを粉砕後に、粉コークスを混合する方法(粉砕後混合方法)に比べて、水酸化鉄とCaO源との混合が均一化すると共に両者が近接する。
さて、上述したように、焼結を行うにあたっては、水酸化鉄、CaO源及び粉コークスを含む第2混合物、他原料等を焼結機のパレットに装入するが、この第2混合物は予めペレットなどの造粒物としておくことが望ましい。即ち、第2混合物を造粒して造粒物としたうえで造粒物と他の焼結原料とを装入して焼結を行うことが望ましい。第2混合物などをペレット状などの造粒物としておくことによって、構成粒子である水酸化鉄とCaO源
とが近接し、これらの反応効率が向上し、低温でより多くのCFが生成することが可能となる。
【0034】
ここで、全焼結原料に対して、粒度が1mm以下の造粒物は10質量%以下、粒度が10mm以上の造粒物は、10質量%以下としている。粒度が1mm以下の造粒物を、焼結原料層に装入すると充填密度が上昇する(空隙率は下がる)。1mm以下の造粒物が多すぎると通気性を阻害してしまい、圧損が上昇するため、1mm以下の造粒物は10質量%以下としている。一方、10mm以上の造粒物では、造粒物内の昇温が遅くなったり、当該焼結原料層の偏流を助長することから、10質量%以下としている。
【0035】
さて、混合物を造粒して造粒物にする際には、SWR(Slaking Water Ratio)=0.3〜0.8となるようにすることが好ましい。SWRとは、造粒物時の造粒水分量(消化水量)と呼ばれるもので、CaO源を生石灰とすると、「SWR=水の質量÷生石灰の質量」で求めることができる。
SWR<0.3の場合、消化反応[CaO+HO→Ca(OH)]は緩やかであり、長時間の反応によって気孔が粗大化してしまい、比表面積は比較的低位となり、不活性な消石灰となってしまう。一方、SWR>0.8の場合、反応は急速に進みピーク温度は高くなるものの、過剰な水によって直ちに冷却されるため反応時間は短く、気孔の成長が不十分であるため、比表面積は低位となり、不活性な消石灰となる。
【0036】
一方、SWRが0.3以上0.8以下となるように造粒した場合、造粒物(ペレット)中の消石灰は活性なものであるため、水酸化鉄(鉄鉱石)と反応して、低温でCFの生成を促進することができる。
混合物を造粒して造粒物にする際には、高速攪拌ミキサーを用いて、水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを造粒することが望ましい。高速撹拌ミキサーとは、造粒する原料を入れる容器(パン)ごと回転させると共に、容器に挿入したアジテータ(混合器)を容器とは反対に回転させて造粒するものである。なお、容器(パン)は傾斜しており、アジテータの回転中心と、容器の中心とは偏心して、アジテータは配置されている。また、容器内には、容器の内壁に付着した原料を引きはがすスクレーパが設けられている。
【0037】
高速撹拌ミキサーを用いて造粒物を製造することにより、原料(混合物の原料)へ高い剪断力を発生させると共に、緻密かつ均一に混合することができる。
表1〜16は、本発明の製鉄用焼結鉱の製造方法で焼結した実施例と、本発明とは異なる方法によって焼結を行った比較例とをまとめたものである。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
【表8】
【0046】
【表9】
【0047】
【表10】
【0048】
【表11】
【0049】
【表12】
【0050】
【表13】
【0051】
【表14】
【0052】
【表15】
【0053】
【表16】
【0054】
実施例及び比較例では、試験用焼結機を用いて焼結を行った。この試験用焼結機は、直径が300mm、高さ350mmの焼結鍋であって、この焼結鍋は、鋼製で底面はグレーディング状であって、下方へ空気を吸引できるものである。焼結原料の成分目標は、SiO:7.0質量%、CaO:18.0質量%、Al:1.8質量%とし、擬似粒子平均粒度は約3mmとした。焼結原料である鉱石Aは、ハマスレーで採掘されたもの(
ハマスレ−製)、鉱石Bは、リオドセ製である。焼結試験では、水酸化鉄、CaO源(生石灰、消石灰、石灰石)及び粉コークスを含む第2混合物と、鉱石A、鉱石B、石灰石及びドロマイド等の原料とを、試験用焼結機に装入して、表面を点火バーナーにより着火し、空気を下方から吸引して、焼成した。また、火炎が試験用焼結機(焼結鍋)の底部まで到達すれば、終了し冷却した。焼結後、焼結ケーキを高さ2mから鉄板上に4回落下させて、4回落下させた後の5mm以上の焼結鉱の質量比率を歩留とした。即ち、粒径が5mm以上の焼結鉱の質量/焼結ケーキの質量によって歩留を求めた。また、生産率を、「生産率=粒径が5mm以上の焼結鉱の質量/焼結機の有効面積/焼結時間」により求めた。焼結時間は、試験用焼結機で火炎が着火から最下層に到達するまでの時間とした。
【0055】
なお、表中におけるコークスブリーズは、焼結を行うための熱源となるものであって−3mmの粉コークスを用いるが、このコークスブリーズは、上述した水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを混合して生成した第2混合物(水酸化鉄+CaO源+粉コークス)内の粉コークスとは区別している。焼結時のコークス粉の割合は、コークスブリーズ(−3mm)+粉コークスの合計で焼結原料の外数である。
【0056】
実施例及び比較例において、第2混合物を製造(形成)するに際しては、上述した混合粉砕方法、粉砕後混合方法のいずれかを用いた(粉砕後に混合or混合粉砕の欄)。また、第2混合物を造粒する場合と混合物を造粒しない場合とに分け(混合物の状態の欄)、造粒した場合には粒度を測定すると共に、SWR値も求めた。さらに、造粒するにあたっては、従来通りパンペレタイザーによって造粒した場合と、高速撹拌ミキサーによって造粒した場合とに分けた。パンペレタイザーでは、直径400mmの容器(パン)を45rpmの回転速度で回転させながら造粒した。高速撹拌ミキサーでは、直径240mm及び高さ250mmの容器(パン)を87rpmで回転させると共に、アジテータの回転速度を850rpmとした。
【0057】
実施例1〜144では、Fe・nHOのnが1.0を超え4.0以下の水酸化鉄と、CaO源とをCaO/Feのモル比が0.5を超え2.0未満となるように混合して第1混合物を形成すると共に、この第1混合物に粒度が1000μm以下の粉コークスを混合して第2混合物としている。第2混合物に対する粉コークスの質量比率を2〜20%とした。また、第1混合物を他の焼結原料に対して2質量%以上30質量%未満を装入することとしている。
【0058】
さらに、実施例1〜10及び73〜82では、粉砕後混合方法によって水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを混合し、第2混合物の造粒は行わなかった(ミニペレット状にしなかった)。実施例11〜20及び83〜92では、混合粉砕方法によって水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを混合し、第2混合物の造粒は行わなかった(ミニペレット状にしなかった)。実施例21〜40及び93〜112では、粉砕後混合方法又は混合粉砕方法によって、水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを混合し、第2混合物の造粒を行った。実施例41〜56及び113〜128では、粉砕後混合方法又は混合粉砕方法によって、水酸化鉄とCaO源と粉コークスとを混合し、SWRが0.3〜0.8の範囲に入るように造粒を行った。
【0059】
実施例57〜72及び129〜144では、高速撹拌ミキサーを用いて第2混合物の造粒を行った。
一方、比較例1〜89及び111〜199は、水酸化鉄(Fe・nHO)の価数n、CaO/Feのモル比、第1混合物の他の焼結原料に対する配合量の少なくとも1つが、本発明で規定するものとは異なるものである。比較例90〜110及び200〜220は、第1混合物に対する粉コークスの配合、粉コークスの粒度、第2混合物を造粒後した後の造粒物の粒度、第2混合物を造粒するときのSWRの値のいずれかが本発明に規定するものとは異なるものである。
【0060】
以上、本発明において、Fe・nHOのn価数が「1.0<n≦4.0」、水酸化鉄及びCaO源の混合におけるモル比が「0.5<CaO/Fe<2.0」、粉コークスの粒度が「1000μm以下」、第2混合物に対する粉コークスの質量比率が「2〜20%」、他の焼結原料に対する第1混合物が「2質量%以上30質量%未満」で
ある条件Aとき、生産率が2.3〜2.5t/m/h(高生産率)の場合では、歩留を59%前後(±0.2)、生産率が1.7〜1.9t/m/h(低生産率)の場合では、歩留を76%前後(±0.2)にすることができた。
【0061】
また、条件Aに加え、混合粉砕方法によって混合した条件Bのとき、高生産率では、歩留を60%前後、低生産率では、歩留を77%前後にすることができた。さらに、第2混合物を造粒すると共に、造粒後の造粒物に関し、1mm以下は10質量%以下、10mm以上は10質量%以下とする条件Cを、条件Aに加えて焼結を行った場合、高生産率では歩留を61%前後、低生産率では歩留を78%前後にすることができた。条件Cを、条件A及び条件Bに加えて焼結を行った場合、高生産率では歩留を62%前後、低生産率では歩留を79%前後にすることができた。
【0062】
また、CaO源を生石灰としたうえでSWR=0.3〜0.8となるように、第2混合物を造粒した場合は、条件Cでの結果に対して、歩留を1%程度高くすることができた。また、高速撹拌ミキサーで造粒を行った場合は、条件A、条件B、条件C、SWR=0.3〜0.8を加えて焼結行った場合に比べて、歩留を1%程度高くすることができた。
即ち、本発明によれば、上述したように従来使用することができないと考えられてきた劣質の鉄鉱石(価数nが1.0を超える水酸化鉄、言い換えれば超高結晶水含有鉱石)を用いて、歩留を向上させることができた。
【0063】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する領域を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0064】
1 第2混合物
2 他原料
3 結合組織
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8