特許第6021764号(P6021764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021764
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】検査装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/04 20060101AFI20161027BHJP
   G01B 15/06 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   G01B15/04 K
   G01B15/06
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-180138(P2013-180138)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-49105(P2015-49105A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100108785
【弁理士】
【氏名又は名称】箱崎 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】池 田 隆 洋
【審査官】 梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−097509(JP,A)
【文献】 特開2003−202217(JP,A)
【文献】 特開平04−051441(JP,A)
【文献】 特開平02−061953(JP,A)
【文献】 特開昭62−082314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00 − 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物体に第1の電子線を照射して被検査物体に線状の照射痕を付与する第1の電子光学系と、
前記被検査物体に第2の電子線を照射する第2の電子光学系と、
前記第2の電子線の照射により前記被検査物体から発生する二次電子を検出し、前記照射痕を観察するための第1の信号を出力する第1の検出器と、
前記第1の信号を処理して前記被検査物体の三次元形状を算出する形状算出部と、を備え、
前記形状算出部は、前記第1の電子線の照射方向と前記第2の電子線による観察方向との幾何学的関係から前記被検査物体を構成する表面の面方位を算出することにより前記三次元形状を算出する、
検査装置。
【請求項2】
前記被検査物体の前記表面で反射した前記第2の電子線がフォーカスする位置に設けられ、格子パターンが形成された実質的に平坦な部材と、
前記反射した電子線が前記部材に入射することにより発生する二次電子を検出して第2の信号を出力する第2の検出器と、
形状情報照合部と、
をさらに備え、
前記形状算出部は、前記第2の信号を処理して第1の格子像を取得し、前記第1の格子像における歪み量を算出し、得られた歪み量から前記三次元形状を算出し、
前記形状情報照合部は、前記幾何学的関係から得られた前記三次元形状の情報と、前記歪み量から得られた前記三次元形状の情報とを照合する、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記形状算出部は、シミュレーションによる軌道計算から予め準備した複数の第2の格子像と前記第1の格子像との間でフィッティングを行い、前記第1の格子像に最も近似する第2の格子像のシミュレーションに用いた電位分布を前記二次電子が発生する反射面における電位分布と推定し、推定された電位分布から前記第1の格子像における歪み量を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
被検査物体に第1の電子線を照射して前記被検査物体に線状の照射痕を付与する工程と、
前記被検査物体に第2の電子線を照射する工程と、
前記第2の電子線の照射により前記被検査物体から発生する二次電子を検出し、前記照射痕を観察するための第1の信号を出力する工程と、
前記第1の信号を処理して前記第1の電子線の照射方向と前記第2の電子線による観察方向との幾何学的関係から前記被検査物体を構成する表面の面方位を算出することにより前記被検査物体の前記三次元形状を算出する工程と、
を備える検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の集積度を向上するためには、微細でかつ複雑なパターン形状の出来映えを検査する必要がある。
【0003】
しかし、透過電子顕微鏡(TEM:ransparent lectron icroscope)等を用いた断面観察で三次元形状を取得しようとすると、サンプル加工と観察の両面において非常にコストが掛かかってしまう。
【0004】
また、光を用いた三次元計測では、光の波長の限界などから観察対象のサイズに限界があり、例えばナノメートルオーダーの形状を観察することは困難である。
【0005】
一方、走査型電子顕微鏡で得られる画像には形状コントラストという三次元形状に関する情報が含まれているので、これを活用して三次元形状を再構築する方法が既に提案されている。
【0006】
しかしながら、二次元情報として得られる濃度分布には形状コントラスト以外にも濃度変化を及ぼす原因が含まれているために、結果の不確かさが付きまとうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−085376号広報
【特許文献2】特開2003−100828号広報
【特許文献3】特開2005−321278号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、空間分解能および信頼性のいずれにおいても高い形状検査が可能な検査装置および検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の検査装置は、第1および第2の電子光学系と、第1の検出器と、形状算出部とを持つ。前記第1の電子光学系は、被検査物体に第1の電子線を照射して被検査物体に線状の照射痕を付与する。前記第2の電子光学系は、前記被検査物体に第2の電子線を照射する。前記第1の検出器は、前記第2の電子線の照射により前記被検査物体から発生する二次電子を検出し、前記照射痕を観察するための第1の信号を出力する。前記形状算出部は、前記第1の信号を処理して前記第1の電子線の照射方向と前記第2の電子線による観察方向との幾何学的関係から前記被検査物体を構成する表面の面方位を算出することにより前記被検査物体の前記三次元形状を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1による検査装置の概略構成を示すブロック図。
図2図1に示す検査装置による検査において照射痕が移動する様子の一例を示す図。
図3】実施形態2による検査装置の概略構成を示すブロック図。
図4図3に示す検査装置による検査においてビームスキャンと格子像との関係を説明するための図。
図5図3に示す検査装置の一変形例を示す図。
図6】実施形態3による検査装置の概略構成を示すブロック図。
図7図5に示す検査装置の要部を示す上面図。
図8】実施形態1による検査方法の概略工程を示すフローチャート。
図9】実施形態2による検査方法の概略工程を示すフローチャート。
図10図1に示す検査装置により被検査物体表面の面方位を算出する方法を説明する図。
図11図1に示す検査装置により被検査物体表面の面方位を算出する方法を説明する図。
図12図1に示す検査装置により被検査物体表面の面方位を算出する方法を説明する図。
図13図1に示す検査装置により被検査物体表面の面方位を算出する方法を説明する図。
図14図1に示す検査装置により被検査物体表面の面方位を算出する方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態のいくつかについて図面を参照しながら説明する。図面において、同一の部分には同一の参照番号を付し、その重複説明は適宜省略する。
【0012】
(A)検査装置
(1)実施形態1
(i)装置構成
図1は、実施形態1による検査装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の検査装置は、ステージ6と、電子光学系EO1と、電子光学系EO2と、二次電子検出器12と、制御ユニット31と、形状算出ユニット33と、モニタ13と、を含む。
【0013】
ステージ6は、被検査物体9が設けられた基体Sを保持し、図示しないアクチュエータなどの駆動機構により駆動されてX,Y,Z方向および回転方向に移動可能である。
制御ユニット31は、電子光学系EO1,EO2および形状算出ユニット33に接続され、各種の制御信号を生成してこれらの構成要素を制御する。電子光学系EO1,EO2、ステージ6および二次電子検出器12は、図示しない真空チャンバ(図5参照)に収納される。この真空チャンバは、図示しない真空ポンプに接続されて真空引きされ、高真空の状態で検査が行われる。
【0014】
電子光学系EO1,EO2は、いずれも電子銃1、偏向器コイル7a,7b、電磁レンズ8a,8bおよび対物レンズ17を含む。電子銃1は、制御ユニット31から制御信号を与えられて電子線EB1,EB2を生成し、被検査物体9に向けて照射する。電磁レンズ8a,8bは電子銃1からの各電子線EB1,EB2のビーム束を調整する。対物レンズ17は、各電子線EB1,EB2の焦点位置を調整し、被検査物体9にジャストフォーカスで入射させる。偏向コイル7a,7bは、制御ユニット31に接続され、制御ユニット31から制御信号を与えられて電子ビームEB1,EB2を偏向することにより、被検査物体9の所望の領域を電子ビームEB1,EB2で走査する。本実施形態において、電子光学系EO1,EO2は例えば第1および第2の電子光学系にそれぞれ対応し、電子ビームEB1,EB2は例えば第1および第2の電子線にそれぞれ対応する。
【0015】
二次電子検出器12は、電子線EB2の照射により被検査物体9から放出する二次電子SEを検出し、信号を形状算出ユニット33に出力する。形状算出ユニット33は、二次電子検出器12から送られた信号を処理して被検査物体9のSEM像を取得してモニタ13に表示させる他、二次電子検出器12からの信号を処理して被検査物体9の三次元形状を算出する。算出結果は、メモリMR1に格納される。本実施形態において、二次電子検出器12は例えば第1の検出器に対応する。
【0016】
(ii)動作
図1に示す検査装置の動作について図2を参照しながら説明する。
【0017】
制御ユニット31から制御信号が送られて電子光学系EO1の電子銃1が電子ビームEB1を被検査物体9に向けて照射する。このとき、基体Sの表面に水平な方向(以下、単に「水平方向」という)での照射位置を固定し、基体Sの表面に垂直な方向(以下、単に「垂直方向」という)に往復のスキャンが行われるよう制御信号が制御ユニット31から偏向コイル7a,7bに与えられる。このような線状ビームスキャン(以下、「ラインスキャン」という)により、電子ビームEB1が照射された被検査物体9の部位には、電子ビームを照射した痕跡(以下、「照射痕」という)が生じる。電子ビームEB1の照射後遅滞なく、またはこれとほぼ同時に、電子光学系EO2が制御ユニット31からの制御信号に従って電子ビームEB2を照射し、電子ビームEB1が照射された被検査物体9の部位を面スキャンすることにより、電子ビームEB1により生じた照射痕を観察する。
【0018】
このような照射痕は、電子ビームEB1が照射された部位に選択的にコンタミネーションが生じることや、電子ビームEB1の入射電圧によって被検査物体9の照射部と未照射部との間に帯電状態の差が生じ、これが電子光学系EO2で観察される帯電コントラストとして現れることにより、または、電子ビームEB1の照射で発生した二次電子が二次電子検出器12に混入することにより当該部位にだけ他の部位よりも明るい輝線が生じるものがSEM像Img1中に観察された結果として発生する。
【0019】
取り込まれた上記照射痕は、図1に示すように、SEM像Img1において、二次元平面上で被検査物体9を構成する面要素の法線方向と電子光学系EO2の観察方向とのなす角によってその傾きを変える折れ線PL1となる。形状算出ユニット33は、この折れ線を解析することにより、上記面要素が観察方向に対してどのような方位を向いているかを算出する。
【0020】
次いで、制御ユニット31の制御により、電子ビームEB1の往復スキャンの位置を水平方向にシフトしながら、電子光学系EB2、二次電子検出器12および形状算出ユニット33により、上述の照射痕の観察と折れ線の解析を繰り返し実施する。例えば図2に示すように、電子ビームEB1の水平方向へのシフトにより、照射痕PL1が付与された面要素FM1から被検査物体9の稜線ELを越え、面要素FM1に隣接する面要素FM2に電子ビームEB1が移行すると、照射痕PL1とは折れ線の向きを逆にする照射痕PL2がSEM像Img1に取り込まれ、面要素FM2が観察方向に対してどのような方位を向いているかが形状算出ユニット33により算出される。ステージ6を回転方向などに移動させながら上記手順を繰り返すことにより、被検査物体9の三次元形状を再構築することが可能になる。
【0021】
実施形態1において、電子線EB1の照射方向と電子線EB2による観察方向と、被検査物体表面の照射痕の観察結果から、被検査物体表面の面方位を形状算出ユニット33により算出する方法を以下に述べる。
【0022】
まず、最も簡単な場合として、図10(a)のように、被検査物体9が直方体である場合を考える。図10(a)においてベクトルUは電子線EB1の照射方向のなす平面に直交する(法線)ベクトルを表す。電子線EB1の照射方向が決まればベクトルUが一義的に決まる。また、ベクトルUは電子線EB2による観察方向に一致するベクトルであり、ベクトルnは被検査物体9の上面Pの法線ベクトル、ベクトルnは被検査物体9の正面Pの法線ベクトルである。
【0023】
図10(b)に示すように、ラインスキャンにて電子線EB1を物体に照射した場合、照射痕(帯電痕)PL1が生成され、これを電子光学系EO2で撮像すると、図11(a)に示す画像Img11のように2次元濃淡画像状の折れ線状のパターンが現れる。この画像Img11から照射痕PL1に起因する濃淡信号のみを取り出すと図11(b)のようになる。図11(b)に示す画像から、画像中の水平線を基準として被検査物体9の上面P上にあった照射痕PL1の部分の方位角φと、正面P上にあった照射痕PL1の部分の方位角φとを読み取ることが可能である。この2つの角度φ、φとベクトルn、nが与えられることによって、上面Pと正面Pのなす角、言い換えると上面Pを基準とした正面Pの面方位を幾何学的に決定することができる。
【0024】
次に、より一般的な形状に対する面方位算出方法について図12および図13を参照しながら説明する。ここでは非検査物体9の上面をQ、それに隣接する面をQとして、図12(a)に示すようにラインスキャンを行なった時の帯電痕を照射痕PL2(図12(b))とした。図13(a)に示すように、本例においては、面Qと面Qとの間の角が鈍角をなしているために、図11(a)および(b)と同様の手続きによって得られた照射痕PL2の面Q,面Q上の方位角φ、φを求めると、図13(b)に示すように、φ>φとなっている。方位角φと方位角φとの差が、PとPのなす角と、QとQとのなす角との差に起因すること、または図11(a)の上面P図12(a)の上面Qとをそろえた場合の正面P(11(a))と正面Q図12(a))との面方位の差に起因することは明らかである。
【0025】
図14は同様の説明をさらに複雑な形状に対して適用した場合を示している。図14(a)および(b)の破線は、スキャン位置を横方向に移動していった場合に次々と生成される照射痕(帯電痕)PLであり、この操作を被検査物体9の3か所に施した例が図14(a)、等間隔に被検査物体9の全体にわたって施した例が図14(b)である。これを電子光学系EO2で観察して二次元濃淡画像に変換し、照射痕(帯電痕)PLに起因する部分だけを抽出すると図14(c)のようになる。図14(c)における照射痕(帯電痕)の一部dP1の方位をφとする(図14(d))。これは、曲線状の照射痕(帯電痕)の接線方向として求められる。このdP1を面方位の基準とみなせば、あとは図10から図11で示した手順と同様の手順で、任意の場所dP2における面方位を求めることができる。
【0026】
本実施形態の検査装置によれば、照射痕と電子光学系EO2の観察方向との間の幾何学的関係だけで被検査物体9の面方位を特定することができるので、空間分解能および信頼性のいずれにおいても高い形状検査を行うことができる。
【0027】
(2)実施形態2
(i)装置構成
図3は、実施形態2による検査装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態の検査装置は、前述した実施形態1と同様のステージ6および電子光学系EO2の他、制御ユニット41と、二次電子検出器22と、形状算出ユニット43と、モニタ14と、本実施形態において特徴的な二次電子生成部材10を含む。本実施形態において、電子光学系EO2は例えば第1の電子光学系に対応する。
【0028】
制御ユニット41は、電子光学系EO2および形状算出ユニット33に接続され、各種の制御信号を生成してこれらの構成要素を制御する。電子光学系EO2、ステージ6および二次電子検出器22は、図示しない真空チャンバ(図5参照)に収納される。この真空チャンバは、図示しない真空ポンプに接続されて真空引きされ、高真空の状態で検査が行われる。
【0029】
二次電子生成部材10は、本実施形態において規則的な格子パターンで形成され、電子光学系EO2により照射された電子ビームEB2が被検査物体9の面要素で反射した電子(以下、「反射電子」という)の入射を受けて二次電子SEを放出させる。なお、電子光学系EO2の対物レンズ17は、被検査物体9からの反射電子REが二次電子生成部材10の検出面でジャストフォーカスするようにその焦点位置が調整されている。本実施形態において、電子ビームEB2は例えば第1の電子線に対応する。
【0030】
二次電子検出器22は、形状算出ユニット43に接続され、二次電子生成部材10からの二次電子SEを検出し、信号を出力して形状算出ユニット43へ送る。二次電子検出器22からの信号は、本実施形態において例えば第1の信号に対応する。
【0031】
形状算出ユニット43は、二次電子検出器22から送られる信号を処理して格子像Img3を取得し、格子像Img3における歪み量を算出することにより被検査物体9の三次元形状を算出する。算出結果は、モニタ14により表示されるとともにメモリMR3に格納される。
【0032】
(ii)動作
図3に示す検査装置の動作は以下の通りである。
【0033】
制御ユニット41からの制御信号に従って電子銃1で生成され被検査物体9に向けて出射した電子ビームEB2は、偏向コイル7a,8bによって走査され、これにより、被検査物体9の各面要素に対する面スキャンが行われる。電子ビームEB2は、被検査物体9の面要素で鏡面反射して反射電子REとして二次電子生成部材10の検出面に入射し、この検出面から二次電子SEが放出する。放出した二次電子SEは二次電子検出器22に検出されて電気信号に変換され、形状算出ユニット43に送られる。形状算出ユニット43は、二次電子検出器22から送られた信号を処理して像を形成し、偏向コイル7a,7bに同期させてモニタ14に表示させる。これにより、通常の走査型電子顕微鏡によるSEM像形成原理と同様の原理によって二次電子生成部材10の検出面に作られた格子像Img3が表示される。例えば図4(a)に示すように、面スキャンの進行により面要素FM1から被検査物体9の稜線ELを越え、面要素FM1に隣接する面要素FM2に電子ビームEB2が移行すると、図4(b)に示すように、面要素FM1からの反射電子REによる歪みの方向とは向きを逆にする歪みが格子像Img3に取り込まれる。本実施形態において、格子像Img3は例えば第1の格子像に対応する。
【0034】
被検査物体9の面要素が平坦であってかつ異物などによる欠陥が存在しない場合には、歪みのない格子像が形成される。しかしながら、図3図4(a)に示すように、被検査物体9の三次元形状に依存して電子ビームEB2が入射する面要素の表面が勾配を有する場合、勾配を有する箇所から放出される反射電子REは、平坦な箇所で反射した場合と比較してその放出方向がずれ、得られる格子像は図3の格子像Img3中符号Ldのように本来の格子像Lpから歪んだものになる。
【0035】
形状算出ユニット43は、面要素の勾配に起因して放出方向がずれた反射電子REの二次電子生成部材10検出面上での着地位置のズレを光てこの原理を用いて算出し、算出結果を逆算することにより格子像Img3の歪み量を算出する。得られた歪み量の情報から入射電子の方向に対する面要素の面方位を再構築すれば、被検査物体9の立体形状を再構築することが可能になる。
【0036】
(iii)二次電子生成部材
二次電子生成部材10の作成方法としては、フォトリソグラフィを用いて平坦な基体上に格子形状のフォトマスクを形成し、エッチングにより基体を選択的に除去することにより格子パターンを形成すればよい。基体としては例えば結晶シリコンの平坦基板を用いることができる。フォトマスクとしては例えば約0.1mm刻みの正方格子を印刷した透明シートを用い、簡便な投影露光装置を用いて感光体上に縮小投影を施せばよい。エッチングとしては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を含む水溶液、またはフッ酸および硝酸を含む水溶液などを用いたウェットエッチングが使用できる。これにより、例えば縦横の格子間隔が約0.1mmの規則格子パターンが平坦基体上に形成される。
【0037】
二次電子生成部材10を作成するための基体の材料としては実質的に平坦なものであれば検出面を加工することができ、二次電子が多く得られる原子番号の大きい金属またはその化合物を適時用いることが可能である。また、より微細な、または凹凸の少ない異物を検出するためには、さらに微細な格子パターンを形成することが望ましく、必要な分解能に応じてドライエッチング、ケガキなどの種々の加工方法を用いることが可能である。なお、本明細書において「実質的に平坦」とは二次電子生成部材10から発生して二次電子検出器22に向かう二次電子の軌道に影響を及ぼさない程度の微細な凹凸を含むという趣旨である。
【0038】
上述の説明では、二次電子生成部材10上に規則格子構造が配置されている場合について説明したが、格子構造はこれに限ることなく、不規則な格子構造でも良く、さらには格子サイズが広い分布を持っている構造が望ましい。このような構造には、複雑な形状の面を有するさまざまな被検査物体の検出に対してフレキシビリティを持たせることができるという利点がある。
【0039】
このような構造を持つ不規則格子としては、平坦基板上にスパッタリングなどで成膜した粒径分布の大きい金粒子などの金属膜の粒界や、シリコン多結晶の粒界などが簡便に利用できる。
【0040】
また、非常に広い格子サイズ分布を実現するのには、非晶質物質の結晶粒界または熱的もしくは機械的に破砕した薄膜の破砕面を用いると好適である。破砕面としては、例えば半導体プロセスなどで用いられるシリコン酸化膜を適当な膜厚で平坦基板上に製膜した後、急速な温度変化や機械的衝撃を付与して意図的にクラックを発生させ、そのクラックを利用する方法が一例として使用できる。この場合、その破壊した膜が剥離しないように、粘性率のきわめて高いイオン液体でコーティングして二次電子生成部材10の検出面として利用すれば、反射電子REを照射しても二次電子生成部材10の表面が帯電しないので好適に用いることができる。不規則格子を用いる場合であっても、画像の重ね合わせによって対応位置を特定することは容易である。
【0041】
二次電子生成部材としては、図3に示すような単一のもののみを検査装置中に組み込む必要はなく、複数種類の格子パターンを組み合わせ、被検査物体の形状やサイズに応じて適宜選択するようにしてもよい。
【0042】
図5は、図3に示す検査装置の一変形例を示す。図5に示す検査装置は、複数種類の格子パターンが選択可能に組み合わされた二次電子生成部材19を含む。二次電子生成部材19は、各面に異なる間隔の格子パターンが形成された多角柱で構成され、その中心軸に挿入された回転軸225で支えられる。回転軸225の二次電子生成部材19側と反対側の端部は、真空チャンバ223の対応する壁面を貫通してモータ221の回転軸に連結される。モータ221は、駆動電源222に接続されて電源の供給を受けるとともに、制御ユニット41に接続されて制御ユニット31から送られる制御信号に従って駆動され、鏡面反射からの反射電子REが所望の面の格子パターンに入射するように二次電子生成部材19を回転させる。
【0043】
なお、回転軸225が挿入される壁面の貫通孔は、真空チャンバ223内の高真空を保持するため磁性流体シール220により封止される。
【0044】
例えばこのような多角柱の二次電子生成部材19を回転させるだけで所望の格子パターンが形成された側面を容易に選択することができるので、被検査物体9の材質や形状、サイズ等に応じて所望の検出分解能の格子像を得ることができる。
【0045】
図5に示す検査装置において、上述した二次電子生成部材19、回転軸225、モータ221、駆動電源222、および磁性流体シール220以外の構成は、図3に示す検査装置と実質的に同一である。
【0046】
二次電子生成部材の構造についての以上の説明は、本実施形態に限ることなく、次記する第3の実施形態についても同様に適用される。
【0047】
(iv)フィッティングによる歪み量算出
被検査物体9は、さまざまな形状や材質でできているため、必ずしも光てこの原理にもとづく解析が一義的に解を持たないほど極端な格子歪みが生じる場合がある。
【0048】
本実施形態の検査装置が含む形状算出ユニット43は、実際に得られた格子像とシミュレーションにより予め得られた格子像とのフィッティングにより被検査物体9の面要素での電位分布を算出し、得られた電位分布から、実際に得られた格子像の歪み量を算出する。
【0049】
より具体的には、被検査物体9の面要素での様々な電位分布をコンピューター上に生じさせ、そこに電子ビームを照射した場合の軌道計算を行なうことにより様々な歪みパターンを含むシミュレーション上の格子像(以下、「シミュレーション格子像」という)を取得し、メモリMR2に格納しておく。本実施形態において、シミュレーション格子像は例えば第2の格子像に対応する。被検査物体9の面要素での電位分布の算出方法は、鏡像法や帯電シミュレーションなどの既存の方法を利用することができる。
【0050】
次いで、電子光学系EO2を用いて実際に被検査物体9を電子ビームEB2で面スキャンして格子像Img3を取得すると、形状算出ユニット43は、メモリMR2中の様々なシミュレーション格子像中で実際の格子像Img3に最も近似するシミュレーション格子像を特定し、特定された格子像に対応する電位分布を実際の格子像Img3の電位分布として推定する。これにより、実際の格子像Img3の電位分布を帰納的に算出することができる。形状算出ユニット43はさらに、得られた電位分布から実際の格子像Img3のひずみ量を算出する。このような形状算出ユニット43のフィッティング機能は、次記する実施形態3についても必要に応じて作動する。
【0051】
本実施形態の検査装置によれば、被検査物体9の面要素からの反射電子REの着地位置のズレから面要素の面方位を求めるので、空間分解能および信頼性のいずれにおいても高い形状検査を行うことができる。
【0052】
(3)実施形態3
図6は、実施形態3による検査装置の概略構成を示すブロック図であり、図7は、図6に示す検査装置のうち、電子光学系EO1,EO2、被検査物体9および二次電子生成部材10の位置関係を説明するための上面図である。なお、図7において、各電子光学系EO1,EO2の電磁レンズ8a,8bおよび対物レンズ17は省略されている。
【0053】
本実施形態の検査装置の特徴点の一つは、図1に示す検査装置と図3に示す検査装置とを組み合わせた上で、形状算出ユニット33から出力された三次元形状の情報と、形状算出ユニット43から出力された三次元形状の情報とを比較して整合性を確認する形状情報照合部50を含む点にある。
【0054】
図3に示す検査装置では、被検査物体9の全体が電子ビームEB2で帯電してしまうと、これにより電子ビームEB2自身の軌道が変化してしまう。この場合は、図3の検査装置単独で用いると格子歪みが形状の変化に起因するものなのか、それとも帯電の効果に起因するものかを分離することができなくなってしまう。
【0055】
そこで、本実施形態の検査装置では、電子ビームEB1で照射した被検査物体9の部位を選択的に電子ビームEB2で観察することによってより高分解能の解析を実現するとともに、被検査物体9の面要素からの反射電子REの着地位置のズレから面要素の面方位を求めることができる上、形状情報照合部50により、異なる原理で別々に得られた形状情報を比較して整合性を確認するので、単独でそれぞれの検査手法を用いた場合よりもより正確な形状情報を得ることができる。
【0056】
本実施形態の検査装置によれば、原理が異なる2つの検査手法による形状情報を突き合わせて整合性を確認するので、空間分解能および信頼性のいずれにおいても高い形状検査を行うことができる。なお、本実施形態において、電子光学系EO1,EO2は例えば第1および第2の電子光学系にそれぞれ対応し、電子ビームEB1,EB2は例えば第1および第2の電子線にそれぞれ対応する。
【0057】
(B)検査方法
(1)実施形態1
図8は、実施形態1による検査方法の概略工程を示すフローチャートである。
【0058】
まず、基体上の被検査物体に第1の電子線を照射し、水平方向での位置を固定して垂直方向に往復スキャンを行い、これにより被検査物体の面要素に線状の照射痕を付与する(ステップS1)。
【0059】
次いで、第1の電子線の照射後遅滞なく、またはこれとほぼ同時に、第2の電子線を被検査物体に照射して第1の電子線による照射痕を観察する(ステップS2)。
【0060】
続いて、第1の電子線を水平方向へシフトする(ステップS3)。そして、所望のシフト回数に至るまで、上述した、第1の電子線による線状照射痕の付与と第2の電子線による照射痕の観察とを繰り返す(ステップS4、S1乃至S3)。
【0061】
最後に、第1の電子線の照射方向と前記第2の電子線による観察方向との幾何学的関係から被検査物体表面の面方位を算出する(ステップS5)。
【0062】
本実施形態の検査方法によれば、照射痕と観察方向との間の幾何学的関係だけで被検査物体の面方位を特定することができるので、空間分解能および信頼性のいずれにおいても高い形状検査を行うことができる。
【0063】
(2)実施形態2
図9は、実施形態2による検査方法の概略工程を示すフローチャートである。
【0064】
まず、基体上の被検査物体に第1の電子線を照射する(ステップS11)。
【0065】
次いで、格子パターンを含み、被検査物体の表面で反射した電子がフォーカスする位置に設置された二次電子生成部材に、被検査物体の面要素で反射した反射電子を入射させ、発生した二次電子を検出して格子像を取得する(ステップS12)。得られた格子像は、本実施形態において例えば第1の格子像に対応する。
【0066】
最後に、得られた格子像における歪み量を算出し、得られた歪み量から被検査物体の三次元形状を算出する(ステップS13)。
【0067】
被検査物体面要素に勾配が存在する場合、この勾配に起因して反射電子REの放出方向は、平坦な面要素からの放出方向との間でズレが生じ、これにより二次電子生成部材の検出面上での着地位置がズレる。この着地位置でのズレを光てこの原理を用いて算出し、算出結果を逆算すれば、格子像における歪み量が算出される。
【0068】
また、被検査物体の形状や材質に応じて、光てこの原理にもとづく解析が一義的に解を持たないほど極端な格子歪みが生じる場合がある。このような場合は、予め取得した、様々な歪みパターンを含むシミュレーション格子像と実際に得られた格子像とのフィッティングにより被検査物体の面要素での電位分布を算出し、得られた電位分布から、実際に得られた格子像の歪み量を算出すればよい。
【0069】
シミュレーション格子像は、被検査物体の面要素での様々な電位分布をコンピューター上に生じさせ、そこに電子ビームを照射した場合の軌道計算を行なうことにより求めることができる。
【0070】
本実施形態の検査方法によれば、被検査物体の面要素からの反射電子の着地位置のズレから面要素の面方位を求めるので、空間分解能および信頼性のいずれにおいても高い形状検査を行うことができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1…電子銃、9…被検査物体、10,19…二次電子生成部材、12,22…二次電子検出器、33,43…形状算出ユニット、50…形状情報照合部、EB1,EB2…電子ビーム、EO1,EO2…電子光学系、FM1,FM2…面要素、Img1…SEM像、Img3…格子像、P…被検査物体の上面、P…被検査物体の正面、PL1,PL2…照射痕。
図1
図2
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