(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記欠陥判定部は、前記画像探傷部で得られる基材の表面温度に関する情報を用いて、前記渦流探傷部で検出された欠陥の信号から、前記誤検出の信号を除去する構成とされることを特徴とする請求項1に記載の表面欠陥検査装置。
【背景技術】
【0002】
従来より、線材、棒鋼、鋼管などの金属の基材は熱間圧延により工業的に製造されている。この熱間圧延は、他の加工に比べて基材の通材速度が5〜100m/secと速い場合も多く、目視による欠陥検査は困難なことが多い。そのため、非破壊式の検査方法を用いて表面欠陥を自動的に検出し、表面欠陥が検出された部分を除去したり、表面欠陥の発生を抑制できるように工程条件を修正するなどの対策が採られている。このような非破壊式の検査方法としては、渦流探傷方法や漏洩磁束探傷方法などの電磁気的な手法が広く用いられている。
【0003】
この渦流探傷方法は、通材方向に連続して基材の透磁率や導電率など被検査材の電磁気特性を検出し、検出された電磁気特性が閾値以上に変化した際に、表面欠陥が発生したと判定する構成となっている。しかし、渦流探傷方法では、検査中に基材が振動してリフトオフ変動が起こったり、基材の表面で電磁気特性に局部的なムラがあったりすると、ノイズが多くなる。そして、実際の欠陥よりも多数の表面欠陥信号が誤検出されるという問題があり、欠陥の検出精度が低くなる可能性がある。
【0004】
また、渦流探傷方法で実際に検出されるのは振幅や位相といった電気信号であり、そこにある程度の大きさと深さの表面欠陥があるという情報のみである。つまり、渦流探傷方法では、表面欠陥の形状などのような他の情報は検出されず、検出された表面欠陥がどのようなものであるかについては同定が難しい。
さらに、渦流探傷方法では、連続して計測されている電磁気特性に大きな変化があったときに、表面欠陥が発生したと判断する構成となっている。そのため、例えば通材方向にある程度以上の長さがある欠陥のように電磁気特性の変化が少ない場合には欠陥中間部での電磁気特性の変化は観測されず、このような表面欠陥に対しては、先後端以外は原理的に検出が困難となる場合がある。
【0005】
以上のような渦流探傷方法の短所を補うため、高速カメラを利用した光学的な手法、つまり画像探傷方法が用いられることがある。このような光学的な手法を用いれば、検出した表面欠陥の画像から表面欠陥の類別が可能になるといったメリットが得られるが、その反面で基材表面の模様や光学的反射率のムラなどを表面欠陥と誤検出する可能性があり、渦流探傷方法と同様に誤検出が起こる可能性を有している。
【0006】
そこで、以下の特許文献1や特許文献2に示すように、渦流探傷方法と画像探傷方法とを組み合わせた方法が採用されるようになっている。
例えば、特許文献1には、通材方向に沿って渦流探傷部の下流側に画像探傷部を備えた表面欠陥の検査技術であって、渦流探傷装置で検出された検出信号をトリガとして、後段の画像探傷装置のストロボ照明を点灯させて渦流探傷装置で検出した表面欠陥に対応する部位の画像を撮像する技術が開示されている。このように発生した表面欠陥に対して、電磁気特性透磁率のデータと画像のデータとを双方用意すれば、表面欠陥の発生を2つの検出結果に基づいて判断することができ、渦流探傷装置だけの場合に比べて表面欠陥の検出精度を向上させることが可能になる。
【0007】
また、特許文献2には、基材である金属棒に対して画像検査装置を用いた連続検査を行って得られた情報に対して、渦流探傷装置で得られる欠陥深さに関する情報を付加し、両者の情報を相互に参照して欠陥の判定精度を高める技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した渦流探傷方法も画像探傷方法も表面欠陥を検出する方法としては完璧なものではない。
例えば、渦流探傷方法では、さまざまな要因により発生するノイズを表面欠陥と誤って検出する可能性があり、信頼性はそれ程高いものではない。特に、基材の温度がキュリー温度を下回るまで低下すると基材の透磁率が大きくなるので、キュリー点近傍で温度ムラがある熱間圧延材では透磁率にもムラが出やすく、表面欠陥の誤検出も起こりやすくなる。また、渦流探傷方法には、前述のように基材の通材方向に長さのある表面欠陥については十分な検出ができないといった欠点もある。
【0010】
一方、画像探傷方法では、渦流探傷方法に比して欠陥の深さに関する検出能がない。そのため、基材の表面に模様があったり、反射率に局部的なムラがあったりすると、欠陥でない部分も欠陥と誤検出してしまう可能性がある。
つまり、上述した2つの検出方法は検出された結果に対する信頼性がいずれも低いものであり、2つの検出結果のうちどちらを採用すればよいかについては特許文献1や特許文献2でも不明となっている。2つの検出方法で検出された結果の論理和(OR)や論理積(AND)を利用して、表面欠陥が発生したかどうかを調査することもできるが、いずれのデータが信頼できるかの判断がつかないため、誤検出の発生を効果的に減らずことはできないし、検査装置の検出能力を高めることもできない場合も多い。
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、画像探傷部で得られた画像以外の情報を用いて、渦流探傷部で発生した誤検出をマスキングすることにより、表面欠陥の検出精度を向上させることができる表面欠陥検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の表面欠陥検査装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の表面欠陥検査装置は、通材中の熱間圧延された基材に対してこの基材の表面に発生する表面欠陥を検査する表面欠陥検査装置であって、前記通材中の基材の電磁気特性を連続的に検出し、検出された電磁気特性の不連続的な変化から前記表面欠陥を検出する渦流探傷部と、前記基材の通材方向に沿って前記渦流探傷部に隣接するように配置され、前記通材中の基材の表面を撮像し、撮像された画像から前記表面欠陥を検出する画像探傷部と、前記渦流探傷部で検出された前記表面欠陥の信号に対して、前記画像探傷部で得られた情報に基づく補正を行うことにより、誤検出の信号を除去しつつ欠陥判定を行う欠陥判定部と、を有していることを特徴とする。
【0013】
なお、好ましくは、前記欠陥判定部は、前記画像探傷部で得られる基材の振動に関する情報を用いて、前記渦流探傷部で検出された欠陥の信号から、前記誤検出の信号を除去する構成とされるとよい。
なお、好ましくは、前記欠陥判定部は、前記画像探傷部で得られる基材の表面温度に関する情報を用いて、前記渦流探傷部で検出された欠陥の信号から、前記誤検出の信号を除去する構成とされるとよい。
【0014】
なお、好ましくは、前記画像探傷部は、前記基材の自発光画像を撮像する構成とされているとよい。
本発明にかかる表面欠陥検査装置の最も好ましい形態は、通材中の熱間圧延された基材に対してこの基材の表面に発生する表面欠陥を検査する表面欠陥検査装置であって、前記通材中の基材の電磁気特性を連続的に検出し、検出された電磁気特性の不連続的な変化から前記表面欠陥を検出する渦流探傷部と、前記基材の通材方向に沿って前記渦流探傷部に隣接するように配置され、前記通材中の基材の表面を撮像し、撮像された画像から前記表面欠陥を検出する画像探傷部と、前記渦流探傷部で検出された前記表面欠陥の信号に対して、前記画像探傷部で得られた情報に基づく補正を行うことにより、誤検出の信号を除去しつつ欠陥判定を行う欠陥判定部と、を有しており、前記欠陥判定部は、前記画像探傷部で得られる基材の振動に関する情報を用いて、前記渦流探傷部で検出された欠陥の信号から、前記誤検出の信号を除去する構成とされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表面欠陥検査装置によれば、画像探傷部で得られた画像以外の情報を用いて、渦流探傷部で発生した誤検出をマスキングすることにより、渦流探傷の検出精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、本発明の表面欠陥検査装置1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1に示すように、第1実施形態の表面欠陥検査装置1は、熱間圧延設備で熱間圧延され移動している基材Wに対して、この基材Wの表面に発生する表面欠陥を検査する構成となっている。
【0018】
この表面欠陥検査装置1で検査される基材Wには、線材、棒鋼、鋼管などといった円形の断面を備えた長尺な圧延材であって、熱間加工されたものなどが挙げられる。しかし、この検査対象の基材Wには、鋳塊や圧延板などの材料を対象としても良い。
なお、以降では、棒鋼の圧延材(熱鋼)を900℃〜1100℃程度の温度に加熱しつつ5m/sec〜100m/secの速度で熱間圧延する熱間圧延設備に設けられた検査装置の例を挙げて、本発明の表面欠陥検査装置1を説明する。
【0019】
具体的には、上述した表面欠陥検査装置1は、通材中の基材W(熱間圧延材)の電磁気特性を連続的に検出し、検出された電磁気特性の過渡的な変化から表面欠陥を検出する渦流探傷部2と、基材Wの通材方向に沿って渦流探傷部2に隣接するように配置され、通材中の基材Wの表面を撮像し、撮像された画像から表面欠陥を検出する画像探傷部3と、を有している。また、表面欠陥検査装置1は、渦流探傷部2で検出された表面欠陥の信号に対して、画像探傷部3で得られた情報に基づく補正を行うことにより、誤検出の信号を除去しつつ欠陥判定を行う欠陥判定部4を有している。
【0020】
次に、表面欠陥検査装置1を構成する渦流探傷部2及び画像探傷部3について説明する。
図2に示すように、渦流探傷部2は、貫通型であり、通過する基材Wの電磁気特性を連続して計測し、計測された電磁気特性に予め定められた変化があったときに、表面欠陥が発生したと判断する構成とされている。具体的には、渦流探傷部2は、基材Wが後述するコイル部7の内側を通過する際にコイル部7で発生する渦電流による交流誘導起電力を直流電気信号に変えて出力する渦流探傷回路5と、渦流探傷回路5から送られてきた電気信号に基づいて表面欠陥の有無や性状を判断する渦流欠陥検出手段6とを有している。
【0021】
渦流探傷回路5は、1本の導線を互いに逆の巻方向に向かって同じ巻回数だけ巻き回して形成された2つの貫通型のコイル部7を備えたブリッジ回路である。渦流探傷回路5は、2つのコイル部7の巻き中心を基材Wが連続して貫通するようになっており、基材Wがそれぞれのコイル部7の巻き中心を通過すると基材に渦電流が発生しそれによってコイル部7に誘導起電力が発生するようになっている。そのため、コイル部7に電流が流れたことが確認できれば、表面欠陥が発生したと判断することができる。
【0022】
具体的には、これら2つのコイル部7は導線の巻き方向が逆となっているので、正常な基材部では一方のコイル部7で発生する誘導起電力と、他方のコイル部7で発生する誘導起電力とは、互いに等しい大きさで電流の向きのみが異なっている。そのため、傷が無く、ほぼ同質な基材Wを通過させている場合には、渦流探傷回路5のブリッジ回路はバランスして電位差が生じることはない。しかし、傷などの表面欠陥がある基材Wがいずれかのコイル部7を通過すると、渦流探傷回路5、いいかえれば2つのコイル部7の間で誘導起電力に差が生じ、2つのコイル部7の間に電位差が発生することになる。この2つのコイル部7の間で発生する電位差は、表面欠陥を有する基材Wが一方のコイル部7を通過する際に一方に向かって大きく、この基材Wが他方のコイル部7を通過する際には逆方向に向かって大きくなる。
【0023】
そのため、渦流探傷回路5には、2つのコイル部7の間に発生する電圧を計測するベクトル電圧計8(ロックインアンプとも呼ばれる)が設けられている。この渦流探傷回路5のベクトル電圧計8で計測された電圧の変化は、電気信号として渦流欠陥検出手段6に送られる。
渦流欠陥検出手段6は、渦流探傷回路5のベクトル電圧計8から出力される電気信号(上述した2つのコイル部7の間ブリッジに発生する電圧)に基づいて、表面欠陥の有無や性状を判断している。すなわち、表面欠陥がある基材Wが渦流探傷回路5を通過していない場合には、ベクトル電圧計8から出力される電圧はゼロとなるが、欠陥がある基材Wが渦流探傷回路5を通過すると、誘導起電力の差から2つのコイル部7の間に電圧が発生する。このときの電圧の振幅は、表面欠陥のサイズが大きい場合には振幅が大きくなるので、振幅の大きさから欠陥のサイズを判断することが可能となる。このようにして渦流欠陥検出手段6で検出された電圧の振幅と位相とは、欠陥判定部4に電気信号(後述する渦流探傷信号)として送られる。
【0024】
図3及び
図4に示すように、画像探傷部3は、基材Wの表面の画像をカメラ9(自発光画像取得手段)を用いて撮像し、撮像された画像に基づいて表面欠陥の発生を検知するものである。この画像探傷部3は、基材Wの通材方向に沿って渦流探傷部2の上流側または下流側に配備されており、渦流探傷部2と同様に移動する基材Wの表面欠陥を検出できるようになっている。具体的には、この画像探傷部3は、渦流探傷部2との距離Lが2m以下となるように近接して配備されているのが好ましく、また両者の間にロールなどのように基材Wを拘束する部材が配備されていないのが好ましい。このように画像探傷部3と渦流探傷部2とを2m以下まで近接させれば、渦流探傷部2で検出された表面欠陥のデータと画像探傷部3で検出された表面欠陥のデータとの対応が良好となり、画像探傷部3での表面欠陥の検出能力を高めることが可能となる。
【0025】
また、画像探傷部3は、移動する基材Wの周囲に配備された複数のカメラ9と、これらのカメラ9で撮像された画像から欠陥を検出する欠陥画像検出手段10とを有している。
上述したカメラ9は、基材Wの外周面を漏れなく撮像できるように、基材Wの外周面に沿って周方向に等間隔をあけて設けられている。なお、
図3及び
図4に例示するカメラ9は基材Wの周囲に等間隔をあけて4基配備されているが、カメラ9の配備数は3基でも良いし、5基以上であっても良い。
【0026】
また、画像探傷部3に用いられるカメラ9には、自発光画像(自発光赤熱画像)を撮像可能な光学フィルタを有するものであって、1ラインごとに連続撮影するラインカメラなどが用いられる。つまり、熱間圧延された圧延材のような基材Wは、冷間圧延材等に比べて高温となっており、自ら赤外線などを放射(自発光)している。そこで、これらのカメラ9で自発光する基材Wの画像を撮像すれば、画像を撮像するための光源を別途用意することが不要となり、装置の構成をコンパクトなものとすることが可能となる。
【0027】
欠陥画像検出手段10は、4基のカメラ9で撮像された表面の画像を合成して1つの画像データとし、合成した画像に対して画像解析を行い、表面欠陥が含まれた画像のみを抽出する構成となっている。この欠陥画像検出手段10では、まず撮像された画像を予め定められた閾値に基づいて二値化するなどしている。このようにすれば、一般に表面欠陥がある部分は無い部分に対してコントラストの差があるため、表面欠陥と考えられる部分と表面欠陥がないと考えられる部分とを画面上で分離することができる。このようにして得られた表面欠陥と考えられる部分の面積が、所定のサイズを満足する場合に撮像された画像に表面欠陥が存在すると判断される。このようにして抽出された「表面欠陥が含まれた画像」も欠陥判定部4に送られる。
【0028】
ところで、本発明の表面欠陥検査装置1は、渦流探傷部2で検出された表面欠陥の信号に対して、画像探傷部3で得られた情報に基づく補正を行うことにより、誤検出の信号を除去しつつ欠陥判定を行う欠陥判定部4を備えることを特徴としている。具体的には、この表面欠陥検査装置1は、画像探傷部3のカメラ9で撮像された画像から基材Wの振動を検出する振動検出手段11と、画像探傷部3のカメラ9で撮像された画像から基材Wの温度を検出する温度検出手段12とを有している。そして、欠陥判定部4は、振動検出手段
11で検出された基材Wの振動に関する情報、及び/又は温度検出手段12で検出された基材Wの温度に関する情報を用いて、渦流探傷部2で検出された欠陥の信号から誤検出の信号を除去する構成とされている。
【0029】
次に、本発明の特徴である振動検出手段11、温度検出手段12、及び欠陥判定部4について説明する。
振動検出手段11は、カメラ9で撮像された画像内に写っている基材Wの撮像位置が、画像上でどの程度振動しているかを検出することにより、基材Wの振動を検出するものである。具体的には、振動検出手段11は、画像内での基材Wの端縁の位置を上述した二値化処理などを用いて特定し、連続して撮像が行われるに連れて基材Wの端縁の位置がどのように変化するかを経時的に検出している。このようにして検出された基材Wの端縁の経時変化は、位置振動検出手段11で検出された「基材Wの振動」に関する情報として欠陥判定部4に送られる。
【0030】
温度検出手段12は、カメラ9で撮像された画像内における基材Wの輝度を検出することにより、基材Wの温度を検出する構成となっている。このような温度検出手段12を用いるのは、次のような理由からである。
つまり、渦流探傷における誤検出の原因として、基材Wの温度低下による透磁率のムラがある。鋼材のような磁性体の基材Wの場合は、キュリー点(鋼材の場合、約780℃)以上の温度では、基材Wの磁性は失われ透磁率は1となるが、キュリー点温度を超えてさらに温度が低下すると透磁率は急激に大きくなる傾向がある。そのため、キュリー点近傍で温度ムラがあるような基材Wを渦流探傷で検査すると、透磁率の大きなムラから渦流探傷信号にも大きな変動が生じる。つまり、このようなキュリー点近傍の温度域の基材Wを渦流探傷する際には誤検出が多い。そこで、上述した温度検出手段12で基材Wの温度を計測する。
【0031】
具体的には、温度検出手段12は、撮像した画像上の基材Wの平均輝度から温度を検出する構成となっている。つまり、放射温度計と同様の原理から、上述したカメラ9で撮像された画像においては、高温物体ほど自発光輝度は高く、低温ほど自発光輝度は低い。そのため、温度検出手段12では、全長画像の巾方向の平均輝度の変動を計測し、平均輝度の変動が予め設定した閾値を超えた場合に、誤検出が発生した可能性があるとの電気信号が出力される。温度検出手段12で検出された電気信号も、振動検出手段11から出力される電気信号と同様に欠陥判定部4送られる。
【0032】
図1に示すように、欠陥判定部4は、渦流探傷部2から出力される電気信号、画像探傷部3から出力される電気信号、振動検出手段11から出力される電気信号、温度検出手段12から出力される電気信号の4つの信号に基づいて、最終的な表面欠陥の判定を行うものである。この欠陥判定部4に入力される4つの入力信号のうち、渦流探傷部2及び画像探傷部3から入力される入力信号は、表面欠陥に関するものであるが、振動検出手段11及び温度検出手段12から入力される入力信号は、誤検出の信号を除去するために用いられるものである。
【0033】
具体的には、欠陥判定部4では、画像探傷部3で得られる基材Wの振動に関する情報、言い換えれば振動検出手段11で検出された「基材Wの端縁の経時的な位置変動」に関する情報を用いて、渦流探傷部2で検出された欠陥の信号から、基材Wの振動に起因する誤検出の信号を除去する構成とされている。つまり、渦流探傷部2で表面欠陥が存在するという信号が得られても、上述した振動検出手段11で「基材Wの振動」が確認された場合には、この信号を削除するなどして誤検出を低減している。
【0034】
また、欠陥判定部4では、画像探傷部3で得られる基材Wの温度に関する情報、言い換えれば温度検出手段12で検出された「基材Wの温度」に関する情報を用いて、渦流探傷部2で検出された欠陥の信号から、基材Wの温度に起因する誤検出の信号を除去する構成とされている。つまり、渦流探傷部2で表面欠陥が存在するという信号が得られても、上述した温度検出手段12で「基材Wの温度」が所定の温度以下まで低下していることが確認された場合には、この信号を削除するなどして誤検出を低減している。
【0035】
上述した基材Wの振動に基づく誤検出の信号除去及び基材Wの温度に基づく誤検出の信
号除去は、いずれか一方のみを行っても良いし、両方とも行っても良い。
次に、本発明の表面欠陥検査装置1で行われる表面欠陥の検出方法、言い換えれば本発明の表面欠陥の検査方法について説明する。
図1に示すように、表面欠陥がある基材Wを表面欠陥検査装置1に通材させると、まず渦流探傷部2の渦流探傷回路5において2つのコイル部7間の誘導起電圧の差異がブリッジ回路およびベクトル電圧計によって渦流欠陥検出手段6に出力される。そして、渦流欠陥検出手段6では、入力された電圧の振幅と位相信号から、位相調整の後、適切な周波数成分のみを抽出するフィルタリングを行い、渦流探傷信号として欠陥判定部4に出力される。
【0036】
この渦流探傷信号を縦軸とし横軸を基材Wの先頭からの通材時間軸として示すと、
図5に示すような経時変化として示すことができる。なお、
図5の横軸である通材時間は、基材Wの通材速度が約10m/secで等速となっているため、基材Wの長手方向の位置として見ることもできる。
図5に示す例では、この通材時間6sec付近までの先端部分に複数のピーク状の電圧変化が観測される。このピーク状の電圧変化は、いずれも表面欠陥である可能性が高いものと考えることができる。
【0037】
ここで、電圧変化のピークの高さは表面欠陥のサイズを示していると考えることができる。この例では、基材に設けたφ2mm、深さ0.2mmの人工欠陥による渦流探傷信号が100%になるようにあらかじめ調整されている。つまり、φ2mm欠陥を100%とする相対電圧(ECTレベル)で示した場合に、相対電圧が25%までの渦流探傷信号はサイズが小さな表面欠陥(Sサイズ)、相対電圧が25%〜50%の渦流探傷信号はサイズが標準的な表面欠陥(Mサイズ)、相対電圧が50%〜100%の渦流探傷信号はサイズが大きな表面欠陥(Lサイズ)、相対電圧が100%〜250%の渦流探傷信号はサイズが最も大きな表面欠陥(LLサイズ)と4段階にレベル分けすることもできる。
【0038】
上述した渦流探傷部2を通過した基材Wは、渦流探傷部2の下流側に位置する画像探傷部3に送られ、画像探傷部3で画像が撮像される。つまり、画像探傷部3に設けられた4基のカメラ9で撮像された画像(自発光画像)を欠陥画像検出手段10に送り、欠陥画像検出手段10においてこれら4つの画像を組み合わせることで、基材Wの外周面を全周に亘って撮像した画像が得られる。次に、この画像に対して二値化処理などの画像処理を行い、表面欠陥を抽出する。抽出された表面欠陥の存在を示す電気信号(以降、画像探傷信号という)は欠陥判定部4に出力される。この画像探傷信号を、
図5のグラフ上に重ねて示すと、図中に「*」で示すような位置で画像探傷信号が確認され、渦流探傷部2からの渦流探傷信号と画像探傷部3からの画像探傷信号とがよく一致していることがわかる。
【0039】
なお、画像探傷部3で実際に撮像される画像は、
図6の上側に示すようなものであり、基材Wは温度の高低に応じてコントラストを変えて示される。つまり、画像の中で高温な部分は赤熱し、高輝度に撮像されるので、画像上では明るく表示される。これに対し、
図6の下側に示すように、折れ込みなどの表面欠陥が存在すると、この表面欠陥がある場所だけが局部的に冷却され、低温となって黒く撮像され、画像上でも表面欠陥の発生を認識することができる。なお、画像上には他の要因で局部的に黒く撮像される場合があり、画像上で輝度が低い部分をすべて欠陥と判断することはできないが、画像上で約10mm以上の長さを有し且つ輝度が急激に変化する場所は表面欠陥である可能性が高いと判断することができる。
【0040】
ところで、渦流探傷部2で表面欠陥とされた部分に、画像探傷部3で実際に表面欠陥が確認されない場合がある。
例えば、
図5に「A」で示した位置(基材Wの先頭であって、通材時間が約0.1secの位置)には、大きな渦流探傷信号が得られているが、画像上は欠陥を確認できずに実際の鋼材からも表面欠陥を見つけることできなかった。このように渦流探傷信号に誤検出が起こったのは、次のような理由からであると考えられる。
【0041】
つまり、上述した2つのコイル部7を有する渦流探傷部2(貫通型の差動コイル方式の渦流探傷部2)では、基材Wが急激に振動すると、渦流探傷回路5を貫通する基材Wに傾
きが生じる。そうすると、コイル部7とこのコイル部7を貫通する基材Wとの距離に2つのコイル部7間で差が生じ、表面欠陥がない部分でも大きな渦流探傷信号を発生させることになる。
【0042】
実際、
図5中に「A」で示す渦流探傷信号は、基材Wの先頭部が大きく振動しており、この基材Wの振動により渦流探傷部2の誤検出が生じた可能性が高いと判断される。このような誤検出が生じると、渦流探傷信号を検出する際の閾値を高めに設定して、振動に起因する渦流探傷信号をマスクせざるを得ず、結果として検出精度を低下させなくてはならなくなる。
【0043】
そこで、本発明の表面欠陥探傷装置では、上述した振動検出手段11で検出された基材Wの振動に関する信号を用いて、渦流探傷部2からの渦流探傷信号に発生した誤検出を除去している。
具体的には、欠陥画像検出手段10に入力された基材Wの全長画像から二値化処理などのような簡易な画像処理手法を用いて端縁(エッジ)を検出し、通材時間に対する端縁の画像内での位置の変化を基材Wの振動曲線としている。このようにして検出された基材Wの振動曲線に対して、渦電流探傷装置と同等の周波数フィルタ(バンドパスフィルタ)を適用し、フィルタリングを行っても大きな振動が残る場合には、振動が残った時刻に発生した渦流探傷信号は誤検出であると判断する。
【0044】
このように基材Wの振動を利用して渦流探傷信号をマスクすれば、渦流探傷信号に含まれる基材Wの振動に起因する誤検出を低減した上で、表面欠陥のみを抽出することが可能となり、渦流探傷部2の検出精度を向上させることができる。例えば、
図7は、基材Wの振動に起因する誤検出をマスクした渦流探傷信号の結果を示している。この
図7でも、通材時間が1.9sec付近で大きな振動が観測されており、この位置の渦流探傷信号に振動に起因する誤検出が発生していることが判断される。
【0045】
一般に基材Wの長手方向の先頭部や後尾部といったごく一部のみで振動がひどく発生する場合には、すべてにおいてマスクして不感帯としてしまうことが多い。しかし本発明のようにすれば、渦流探傷信号から表面欠陥を抽出する際の閾値を変動させることなく、振動の有無にかかわらず不感帯を設けることもなく誤検出を低減することが可能となり、検出精度を損なうことを防止することができる。
【0046】
また、渦流探傷信号に対するマスクを行った部分に対しては、画像探傷や渦流探傷だけでなく目視検査などを適用することが望ましい。
一方、渦流探傷における誤検出要因には、上述した基材Wの局部的な温度低下による透磁率のムラも挙げられる。そこで、本発明の表面欠陥検査装置1では、上述した温度検出手段12で検出された基材Wの温度を用いて、渦流探傷部2からの渦流探傷信号に発生した誤検出を除去している。
【0047】
具体的には、
図8に示すように、欠陥画像検出手段10に入力された基材Wの画像に対して画面の輝度を画像全面に亘って平均して平均輝度を算出し、この平均輝度を経時的に計測する。例えば、
図8の通材時間=約12secの位置に着目すると、この位置の画面の平均輝度のみが低下しており、基材Wの温度が低下していることが判断される。それゆえ、この温度低下が確認された位置と同じ位置に、表面欠陥を示す渦流探傷信号が検出されれば、その渦流探傷信号は誤検出を示すものと判断される。それゆえ、欠陥判定部4においてこの渦流探傷信号をマスクすれば、渦流探傷部2の誤検出を低減することが可能となる。
【0048】
上述した表面欠陥検査装置1によれば、画像探傷部3で得られた画像以外の情報、つまり基材Wの振動や温度に関する情報を用いて、渦流探傷部2で発生した誤検出をマスキングすることにより、渦流探傷の検出精度を向上させることができる。
具体的には、上述した表面欠陥検査装置1を用いれば、熱間圧延工程において、渦流探傷での誤検出要因を抽出し、低減し、かつ渦流探傷の欠点を補完する信頼性のある表面欠陥検査装置1を提供することができる。それゆえ、結果として表面欠陥の誤検出による製品の大量廃棄を抑制し、歩留まり向上に寄与することができる。
【0049】
上述のようにして渦流探傷部2の誤検出を低減した上で、画像探傷部3からの結果を組
み合わせて表面欠陥の判定を行えば、表面欠陥の種類などを分類することも可能となる。
なお、上述した渦流探傷部2と画像探傷部3との配置順番は、振動や温度状況がほぼ同一と判断できるような近接した場所に設置されるのであれば、任意に変更することができる。
【0050】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。