特許第6021974号(P6021974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6021974インクジェット用インクセットおよびインクジェットプリント物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6021974
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】インクジェット用インクセットおよびインクジェットプリント物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20161027BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20161027BHJP
   D06P 1/16 20060101ALI20161027BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20161027BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20161027BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20161027BHJP
   C09B 1/54 20060101ALN20161027BHJP
   C09B 5/24 20060101ALN20161027BHJP
   C09B 5/10 20060101ALN20161027BHJP
   C09B 57/00 20060101ALN20161027BHJP
   C09B 67/44 20060101ALN20161027BHJP
【FI】
   C09D11/328
   C09D11/40
   D06P1/16 Z
   D06P5/00 111A
   B41J2/01 501
   B41M5/00 E
   !C09B1/54
   !C09B5/24
   !C09B5/10
   !C09B57/00 Z
   !C09B67/44 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-51325(P2015-51325)
(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公開番号】特開2016-169342(P2016-169342A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2016年8月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】龍田 治樹
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/129323(WO,A1)
【文献】 特開平04−173874(JP,A)
【文献】 特開平07−026478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00〜11/54
B41J 2/01〜 2/21
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.Disperse Yellow 65を含むイエローインクと、
C.I.Disperse Red 362を含むマゼンタインクと、
C.I.Disperse Blue 60を含むシアンインクとを含む、インクジェット用インクセット。
【請求項2】
前記マゼンタインクは、C.I.Disperse Red 86をさらに含む、請求項1記載のインクジェット用インクセット。
【請求項3】
前記マゼンタインクにおいて、前記C.I.Disperse Red 86の含有量(W1)に対する、前記C.I.Disperse Red 362の含有量(W2)の割合(W2/W1)は、0.1以上0.5以下である、請求項2記載のインクジェット用インクセット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用インクセットを用いてインクジェット記録方式で布帛にインクを付与し、さらに熱処理して、画像を形成する、インクジェットプリント物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクセットおよびインクジェットプリント物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、分散染料を含むインクからなるインクセットであり、たとえば布帛等にインクジェット捺染を行うためのインクジェット用インクセットおよびそのインクジェット用インクセットを用いてインクジェットプリント物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリント技術は、様々な分野に用いられている。たとえば、インクジェットプリント技術は、テキスタイル分野においても広く利用されている。インクジェットプリント技術を利用した捺染(以下、インクジェット捺染ともいう)は、従来のスクリーンプリント等の手法で必須となる版の作成が不要である。そのため、インクジェット捺染は、工程短縮化、短納期化、グラデーションや多色表現等の表現力の向上等の利点がある。
【0003】
ところで、従来のスクリーン捺染では、商材の色、要求される堅牢性に合わせて、染料を適宜選択し得る。たとえばベージュなどの中間色を表現する際には堅牢性が良く、鮮明性の劣る染料が採用されればよい。一方、インクジェット捺染は、4〜12色程度の固定のインクで多色表現が可能であり、インクを変更せずに容易に色、柄を変更できることが最大の特徴である。しかしその一方でインクジェット捺染は、ピンク等の鮮明色だけでなく、ベージュ等の中間色まで同様の染料を用いて表現する。その結果、従来のインクジェット捺染は、要求される堅牢性の異なる商材において、充分な堅牢性を満たすことが困難である。特に、アウトドアウェア、水着などの耐光性が特に求められる商品にインクジェット捺染を行う場合において、鮮明色から中間色まで広範囲の色域を表現可能で、かつ、要求される堅牢性を満たすインクセットは知られていない。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1には、C.I.Disperse Red 86を含むマゼンタインクと、C.I.Disperse Yellow 114を含むイエローインクと、C.I.Disperse Blue 60またはC.I.Disperse Blue 77を含むシアンインクとを含むインクセットが開示されている。また、特許文献2には、C.I.Disperse Red 302を含むマゼンタインクと、C.I.Disperse Yellow 149を含むイエローインクと、C.I.Disperse Blue 60を含むシアンインクとを含むインクセットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5216585号公報
【特許文献2】特許第3918347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載のインクセットは、いずれも得られるインクジェットプリント物の堅牢性(特に耐光堅牢度や、塩素処理水に対する堅牢度)が充分でない。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、広範囲の色域を表現でき、かつ、得られるインクジェットプリント物に優れた堅牢性を付与することのできるインクジェット用インクセットおよびインクジェットプリント物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明のインクジェット用インクセットおよびインクジェットプリント物の製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0009】
(1)C.I.Disperse Yellow 65を含むイエローインクと、C.I.Disperse Red 362を含むマゼンタインクと、C.I.Disperse Blue 60を含むシアンインクとを含む、インクジェット用インクセット。
【0010】
このような構成によれば、インクジェット用インクセットは、色域の広いインクジェットプリント物を形成し得る。また、得られるインクジェットプリント物は、優れた堅牢性を示す。
【0011】
(2)前記マゼンタインクは、C.I.Disperse Red 86をさらに含む、(1)記載のインクジェット用インクセット。
【0012】
このような構成によれば、得られるインクジェットプリント物は、堅牢性(特に耐光堅牢度や、塩素処理水に対する堅牢度)がさらに向上する。
【0013】
(3)前記マゼンタインクにおいて、前記C.I.Disperse Red 86の含有量(W1)に対する、前記C.I.Disperse Red 362の含有量(W2)の割合(W2/W1)は、0.1以上0.5以下である、(2)記載のインクジェット用インクセット。
【0014】
このような構成によれば、インクジェット用インクセットは、色域のさらに広いインクジェットプリント物を形成し得る。また、得られるインクジェットプリント物は、堅牢性(特に耐光堅牢度や、塩素処理水に対する堅牢度)がより一層向上する。
【0015】
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のインクジェット用インクセットを用いてインクジェット記録方式で布帛にインクを付与し、さらに熱処理して、画像を形成する、インクジェットプリント物の製造方法。
【0016】
このような構成によれば、上記インクジェット用インクセットのインクが布帛に付与され、色域の広いインクジェットプリント物が製造される。得られるインクジェットプリント物は、優れた堅牢性を示す。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、広範囲の色域を表現でき、かつ、得られるインクジェットプリント物に優れた堅牢性を付与することのできるインクジェット用インクセットおよびインクジェットプリント物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<インクジェット用インクセット>
本発明の一実施形態のインクジェット用インクセット(以下、単にインクセットともいう)は、イエローインクと、マゼンタインクと、シアンインクとを含む。イエローインクは、分散染料としてC.I.Disperse Yellow 65(以下、単にDY65ともいう)を含む。マゼンタインクは、分散染料としてC.I.Disperse Red 362(以下、単にDR362ともいう)を含む。シアンインクは、分散染料としてC.I.Disperse Blue 60(以下、単にDB60ともいう)を含む。本実施形態のインクセットは、少なくともこれら特定の分散染料を含むイエローインク、マゼンタインクおよびシアンインクを含み、これらインクを適宜組み合わせて用いることにより、色域の広いインクジェットプリント物を形成することができる。また、得られるインクジェットプリント物は、優れた堅牢性を示す。なお、インクセットは、ブラックインク、グレーインク等の各種特定色インクを含んでもよい。また、インクセットは、たとえば薄い色を再現するために、淡インク(フォトインク)を含んでもよい。
【0019】
イエローインクは、分散染料としてDY65を含んでいればよく、他の分散染料を含んでいてもよい。このような他の分散染料としては、C.I.Disperse Yellow 54、64、114、149、163、231、232、235等が例示される。
【0020】
マゼンタインクは、分散染料としてDR362を含んでいればよく、他の分散染料を含んでいてもよい。このような他の分散染料としては、C.I.Disperse Red 86(以下、単にDR86ともいう)、60、92、127、152、154、167、167:1、177、191、343等が例示される。これらの中でも、インクセットは、得られるインクジェットプリント物の堅牢性(特に耐光堅牢度や、塩素処理水に対する堅牢度)がさらに向上する観点から、マゼンタインクの分散染料としてDR86がさらに含まれることが好ましい。
【0021】
マゼンタインクにおいて、DR362とDR86との配合割合は特に限定されない。DR86の含有量(W1)に対する、DR362の含有量(W2)の割合(W2/W1)は、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。また、割合W2/W1は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。割合W2/W1が0.1以上0.5以下である場合、インクセットは、色域のさらに広いインクジェットプリント物を形成し得る。また、得られるインクジェットプリント物は、堅牢性(特に耐光堅牢度や、塩素処理水に対する堅牢度)がより一層向上する。
【0022】
シアンインクは、分散染料としてDB60を含んでいればよく、他の分散染料を含んでいてもよい。このような他の分散染料としては、C.I.Disperse Blue 56、73、77、79、79:1、165、165:1、183、183:1、214、257、284、354、366等が例示される。
【0023】
イエローインク中のDY65の含有量、マゼンタインク中のDR362の含有量、シアンインク中のDB60の含有量は、それぞれのインク全量に対して、0.05〜20質量%であることが好ましい。含有量が0.05質量%未満の場合、得られるインクジェットプリント物は、充分な着色が得られにくい。一方、含有量が20質量%を超える場合、インクセットは、高コストになりやすい。
【0024】
それぞれのインク中における分散染料の平均粒子径は、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、分散染料の平均粒子径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。平均粒子径が50〜400nmである場合、分散染料は、インクジェットノズルからの吐出安定性が優れる。なお、分散染料を上記平均粒子径となるよう微細化する方法は特に限定されない。たとえば、分散染料は、従来公知のボールミル、サンドミル、ロールミル、ラインミル、サンドグラインダー等の各種分散機を用いて微細化することができる。
【0025】
次に、本実施形態のインクセットに含まれる他の成分について説明する。本実施形態のインクセットは、分散染料として、イエローインクがDY65を含み、マゼンタインクがDR362を含み、シアンインクがDB60を含んでいればよい。そのため、以下に示される他の成分は例示であり、本実施形態のインクセットは、以下に示される他の成分のほか、インクジェット用インクセットの分野で汎用される成分が適宜配合されてもよい。
【0026】
インクセットは、分散染料を分散させるための分散剤を含む。分散剤としては、アニオン系界面活性剤を含むアニオン系化合物、ノニオン系界面活性剤を含むノニオン系化合物が例示される。アニオン系化合物としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩およびこれらの置換誘導体等が例示される。ノニオン系化合物としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマーおよびこれらの置換誘導体等が例示される。これら分散剤は、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
本実施形態において、それぞれのインク中における分散剤の配合割合(質量比)は、分散染料を1とすると、0.2〜1であることが好ましい。分散剤の配合割合が0.2未満である場合、分散剤は、分散染料の粒子全体に吸着しにくい。そのため、分散染料は、粒子同士が凝集しやすく、粗大化して沈降しやすい。その結果、インクは、吐出安定性が低下しやすい。一方、分散剤の配合割合が1を超える場合、一部の分散剤は、分散染料の粒子に吸着せずに存在する。このような分散剤は、析出しやすい。その結果、インクは、吐出安定性が低下しやすい。
【0028】
インクセットは、分散染料を分散させるための溶媒として、水と、水溶性有機溶媒とを含む。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル類;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の水酸基を持つアミン類;グリセリン、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等が例示される。これら有機溶媒は、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
本実施形態において、それぞれのインク中における溶媒の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。それぞれのインク中における溶媒の含有量が40質量%以上である場合、インクジェットノズルの目詰まりが防止されやすい。また、インクの乾燥時間が調整されやすく、布帛に対するインク滲みが防止されやすい。
【0030】
本実施形態のそれぞれのインクは、防腐剤および消泡剤等が含有されてもよい。防腐剤としては、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル等のイミダゾール系化合物、1,2−ベンゾチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−イソチアゾリン−3−オン等のチアゾール系化合物、また、ヨード系、ニトリル系、フェノール系、ハロアルキルチオ系、ピリジン系、トリアジン系、ブロム系等の各化合物等が例示される。消泡剤としては、低級アルコール、オレイン酸、ポリプロピレングリコール等の有機極性化合物、およびシリコーン樹脂等が例示される。
【0031】
ほかにも、本実施形態のそれぞれのインクは、防かび剤、pH調整剤、染料溶解助剤、消泡剤、導電率調整剤、濃染剤、均染剤、浸透剤等が適宜含有されてもよい。
【0032】
以上、本実施形態のインクセットは、C.I.Disperse Yellow 65を含むイエローインクと、C.I.Disperse Red 362を含むマゼンタインクと、C.I.Disperse Blue 60を含むシアンインクとを含む。このようなインクセットは、たとえば布帛等の基材に対してインクジェット捺染することにより、色域の広いインクジェットプリント物を形成し得る。また、得られるインクジェットプリント物は、優れた堅牢性を示す。
【0033】
<インクジェットプリント物の製造方法>
本発明の一実施形態のインクジェットプリント物の製造方法は、上記したインクセットを用いてインクジェット記録方式で布帛にインクを付与する工程と、熱処理する工程とを主に含む。熱処理の結果、画像が形成されたインクジェットプリント物が作製される。
【0034】
インクジェット記録方式によりインクを布帛に付与する方式は特に限定されない。このような方式としては、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式等の連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式等のオン・デマンド方式等が例示される。
【0035】
インクが付与される布帛は特に限定されない。このような布帛としては、カチオン可染ポリエステル(CDP)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリ乳酸繊維等のポリエステル系繊維やアセテート繊維、トリアセテート繊維、ポリウレタン繊維、ナイロン繊維等またはこれらの複合繊維からなる布帛等が例示される。
【0036】
布帛は、インクジェット捺染される前に、前処理剤により処理されることが好ましい。前処理剤としては、水溶性ポリマー、非水溶性不活性有機化合物、難燃剤、紫外線吸収剤、還元防止剤、酸化防止剤、pH調整剤、ヒドロトロープ剤、消泡剤、浸透剤、ミクロポーラス形成剤等が例示される。これらの中でも、非水溶性不活性有機化合物が好適に使用される。非水溶性不活性有機化合物により前処理を行うことにより、布帛の表面は、平滑となり、繊維の表面を均一に疎水性化される。これにより、インクは、布帛表面に均一に付与されやすい。
【0037】
水溶性ポリマーとしては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、デンプン、ポリアクリル酸ソーダ、ポリスチレンスルホン酸ソーダ、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子が例示される。
【0038】
非水溶性不活性有機化合物としては、融点が40〜150℃である有機モノマー、オリゴマーまたは低分子量ポリマーが例示される。これら非水溶性不活性有機化合物の数平均分子量は、通常10000以下であり、好ましくは5000以下であり、より好ましくは100〜2000である。
【0039】
より具体的には、非水溶性不活性有機化合物としては、低分子量合成樹脂類、炭化水素系ワックス化合物、天然系ワックス化合物、高級脂肪酸アミド系化合物、高級アルコール系化合物、多価アルコール高級脂肪酸エステル系化合物等が例示される。これらの中でも、ポリエチレン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の低級アルキレンポリマー系化合物、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャー・トロプシュワックスなどの石油化学系合成ワックス類等の炭化水素系ワックス化合物、エチレンビスステアリンアミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、メチロールステアリンアミド、12−ヒドロキシステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド系化合物、および、グリセリンオレイン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、プロピレングリコールステアリン酸エステル、エチレングリコールステアリン酸エステル、12−ヒドロキシステアリン酸エステル等の多価アルコ−ル高級脂肪酸エステル系化合物が好ましく例示される。特に、非水溶性不活性有機化合物は、炭化水素系ワックスとそのほかの1種類との混合物が、乳化分散性に優れる点等により好ましい。
【0040】
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤等が例示される。
【0041】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等が例示される。
【0042】
還元防止剤としては、ニトロベンゼンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸誘導体等が挙げられる。
【0043】
酸化防止剤としては、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール等が例示される。
【0044】
pH調整剤としては、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、クエン酸アンモニウム、リン酸二水素カリウム等の酸性調整剤や、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム等のアルカリ性調整剤が例示される。インクは、pH調整剤が添加されることによりpHが微調整される。これにより、インクは、布帛を構成する繊維に対する染着性が細かく制御される。
【0045】
ヒドロトロープ剤としては、尿素、ポリエチレングリコール、チオ尿素等が例示される。
【0046】
消泡剤としては、低級アルコール、オレイン酸、ポリプロピレングリコール等の有機極性化合物およびシリコーン樹脂が例示される。
【0047】
浸透剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸エステルナトリウム、オレイン酸ブチルエステル等のアニオン性界面活性剤、およびノニルフェノール、ラウリルアルコール等のノニオン性界面活性剤等が例示される。
【0048】
ミクロポーラス形成剤としては、水不溶性または難溶性であって沸点が105〜200℃の低沸点液体を、微粒子状態で水中に均一に乳化分散させたものが例示される。低沸点液体としては、炭化水素系のトルエン、キシレン、ハロゲン化炭化水素系のパークロルエチレン、モノクロルベンゼン、ジクロルペンタン、酢酸ブチル、アクリル酸ブチル等が例示される。
【0049】
これら前処理剤を布帛に付与する方法としては、パッド法、スプレー法、浸漬法、コーティング法、ラミネート法、グラビア法、インクジェット法等が例示される。
【0050】
インクジェットプリント物の製造方法の説明に戻り、インクが付与された布帛は、次いで、分散染料の染着および発色を目的として、熱処理される。
【0051】
熱処理の温度は、150〜190℃程度である。温度が150℃未満の場合、分散染料が発色不良となるおそれがある。一方、温度が190℃を超える場合、布帛が黄変したり、劣化したりするおそれがある。また、熱処理の時間は、0.5〜60分程度である。熱処理時間が0.5分未満の場合、発色ムラが生じるおそれがある。一方、熱処理時間が60分を超える場合、分散染料が退色するおそれがある。好適な熱処理条件としては、160〜180℃で5〜20分間が例示される。
【0052】
熱処理後、布帛を適宜一般的な方法により洗浄し、乾燥させることにより、インクジェットプリント物が得られる。得られたインクジェットプリント物は、上記インクセットのインクが用いられているため、広範囲の色域を有し、鮮明かつ高濃度の画像が形成されている。
【0053】
また、インクジェットプリント物は、優れた堅牢性を示す。たとえば、インクジェットプリント物は、光による退色に対する耐性(耐光堅牢度)、摩擦による汚染に対する耐性(摩擦堅牢度)、塩素殺菌処理された水による変退色に対する耐性(塩素堅牢度)が優れる。そのため、インクジェットプリント物は、堅牢性の要求される用途であっても、各種テキスタイル(たとえば自動車内装材、衣服(洋服、水着、各種アウトドアウェア等)、屋外広告等)に使用され得る。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0055】
<分散染料分散体の調製>
以下の表1に記載のそれぞれの分散染料を20質量%、分散剤(リグニンスルホン酸塩、アニオン系界面活性剤)を5質量%、防腐剤(サンアイバックIT20、三愛石油(株)製)を0.1質量%、消泡剤(信越シリコーンKM−70、日信化学工業(株)製)を0.05質量%、および純水73.85質量%を混合した。混合物を、ガラスビーズの存在下、サンドミルで10時間湿式粉砕して微粒子化した。その後、吸引濾過により混合物からガラスビーズを取り除き、表1に記載のそれぞれの分散体(y1〜y2、m1〜m2、c1)を調製した。微粒子化されたそれぞれの分散染料の平均粒子径は、150nmであった。
【0056】
【表1】
【0057】
<インクの調製>
(イエローインクY1の調製)
分散染料分散体y1を20質量部、エチレングリコールを20質量部、グリセリンを20質量部、純水を40質量部を混合し、吸引濾過を行いイエローインクY1を調製した。
(イエローインクY2の調製)
分散染料分散体y2を20質量部、エチレングリコールを20質量部、グリセリンを20質量部、純水を40質量部を混合し、吸引濾過を行いイエローインクY2を調製した。
(マゼンタインクM1の調製)
分散染料分散体m1を20質量部、エチレングリコールを20質量部、グリセリンを20質量部、純水を40質量部を混合し、吸引濾過を行いマゼンタインクM1を調製した。
(マゼンタインクM2の調製)
分散染料分散体m1を10質量部、分散染料分散体m2を10質量部、エチレングリコールを20質量部、グリセリンを20質量部、純水を40質量部を混合し、吸引濾過を行いマゼンタインクM2を調製した。
(マゼンタインクM3の調製)
分散染料分散体m1を4質量部、分散染料分散体m2を18質量部、エチレングリコールを20質量部、グリセリンを20質量部、純水を38質量部を混合し、吸引濾過を行いマゼンタインクM3を調製した。
(マゼンタインクM4の調製)
分散染料分散体m2を20質量部、エチレングリコールを20質量部、グリセリンを20質量部、純水を40質量部を混合し、吸引濾過を行いマゼンタインクM4を調製した。
(シアンインクC1の調製)
分散染料分散体c1を25質量部、エチレングリコールを20質量部、グリセリンを20質量部、純水を35質量部を混合し、吸引濾過を行いシアンインクC1を調製した。
【0058】
<布帛の前処理>
まず、カルボキシメチルセルロース(糊剤、ファインガムHE、第一工業製薬(株)製)を5.0質量部、リンゴ酸(pH調整剤、扶桑化学工業(株)製)を0.3質量部、MS−リキッド(抗還元剤、明成化学工業(株)製)を2.0質量部、および純水92.7質量部を混合し、前処理剤を調製した。次いで、ポリエステル繊維布帛に対して、得られた前処理剤をディップニップ法により付与した。ディップニップ処理後、布帛をテンター方式の乾燥機により、120℃で90秒間乾燥した。
【0059】
(実施例1)
以下の表2に示されるインクの組み合わせからなるインクセットを用いて、以下のインクジェット条件にてJISの高精細カラーデジタル標準画像(JIS X 9204:2004 S6 カラーチャート)を印刷した。その後、印刷後の布帛に対し、175℃で10分間の湿熱処理を行った。その後、布帛を適宜洗浄、乾燥し実施例1のインクジェットプリント物を作製した。
【0060】
【表2】
*括弧内はそれぞれのインク中の分散染料の種類および配合割合を示している。
【0061】
<インクジェット条件>
インクジェット捺染装置:オンデマンド方式シリアル型
ノズル径:50μm
駆動電圧:100V
周波数:10kHz
解像度:600dpi
【0062】
(実施例2〜3、比較例1)
インクの組み合わせを表2に示される組み合わせに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2〜3および比較例1のインクジェットプリント物をそれぞれ作製した。実施例2において、マゼンタインクに含まれるDR86の含有量(W1)に対する、DR362の含有量(W2)の割合(W2/W1)は、1.0であった。また、実施例3において、マゼンタインクに含まれるDR86の含有量(W1)に対する、DR362の含有量(W2)の割合(W2/W1)は、0.22であった。
【0063】
実施例1〜3および比較例1により得られたそれぞれのインクジェットプリント物について、以下の評価方法および評価基準に基づいて評価した。
【0064】
[発色性評価]
インクジェットプリント物を目視で観察し、以下の評価基準に沿って発色性を評価した。結果を表6に示す。
(評価基準)
◎:充分に鮮明であり、充分な濃度の画像が形成された。
〇:鮮明であり、充分な濃度の画像が形成されたか、または、充分に鮮明であり、適度な濃度の画像が形成された。
△:鮮明さが明らかに低かったものの充分な濃度であったか、または、濃度が明らかに低かったものの充分に鮮明な画像が形成された。
×:鮮明さが明らかに低く、濃度も低い画像が形成された。
【0065】
[堅牢性評価]
インクジェットプリント物に形成された上記高精細カラーデジタル標準画像のうち、ブルー色、グリーン色、オレンジ色、ピンク色、グレー色およびベージュ色のそれぞれの部分における堅牢性を評価した。具体的には、耐光堅牢度、摩擦堅牢度および塩素堅牢度をそれぞれ評価した。
【0066】
<耐光堅牢度>
耐光堅牢度は、JIS L 0843(第3露光法)に準じて評価した(1級〜8級)。耐光堅牢度は、8級が最も優れている。結果を表3に示す。また、以下の判定基準にしたがって、得られた評価結果から耐光堅牢度を総合評価した。結果を表6に示す。
(判定基準)
◎:6色すべて7級または8級であった。
○:少なくとも1色が6級であり、他は6級〜8級のいずれかであった。
△:少なくとも1色が5級であり、他は5級〜8級のいずれかであった。
×:少なくとも1色が1級〜4級であった。
【0067】
【表3】
【0068】
<摩擦堅牢度>
摩擦堅牢度は、JIS L 0849(学振形)に準じて評価した(1級〜5級)。摩擦堅牢度は、5級が最も優れている。結果を表4に示す。また、以下の判定基準にしたがって、得られた評価結果から摩擦堅牢度を総合評価した。結果を表6に示す。
(判定基準)
◎:6色すべて5級であった。
○:少なくとも1色が4級であり、他は4級または5級であった。
△:少なくとも1色が3級であり、他は3級〜5級のいずれかであった。
×:少なくとも1色が1級または2級であった。
【0069】
【表4】
【0070】
<塩素堅牢度>
塩素堅牢度は、JIS L 0884(B法)に準じて評価した(1級〜5級)。塩素堅牢度は、5級が最も優れている。結果を表5に示す。また、以下の判定基準にしたがって、得られた評価結果から塩素堅牢度を総合評価した。結果を表6に示す。
(判定基準)
◎:6色すべて5級であった。
○:少なくとも1色が4級であり、他は4級または5級であった。
△:少なくとも1色が3級であり、他は3級〜5級のいずれかであった。
×:少なくとも1色が1級または2級であった。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
表6に示されるように、DY65を含むイエローインクと、DR362を含むマゼンタインクと、DB60を含むシアンインクとを含むインクセットを用いて作製された実施例1〜3のインクジェットプリント物は、比較例1である従来のインクセットを用いて作製されたプリント物と比べて、各色における発色性が同等以上であり、広範囲の色域を表現できることがわかった。また、実施例1〜3のインクジェットプリント物は、比較例1のプリント物と比較して、各種堅牢性も優れていた。特に、マゼンタインクの分散染料としてDR362とDR86とを併用したインクセットを用いて作製された実施例2および実施例3のインクジェットプリント物は、耐光堅牢度、塩素堅牢度がより優れていた。中でも実施例3のインクジェットプリント物は、特に耐光堅牢度、塩素堅牢度が優れており、かつ、発色性もより一層優れていた。