特許第6022054号(P6022054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6022054有機樹脂無捲縮ステープルファイバー及びその製造方法
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  • 特許6022054-有機樹脂無捲縮ステープルファイバー及びその製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6022054
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】有機樹脂無捲縮ステープルファイバー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/00 20060101AFI20161027BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20161027BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20161027BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20161027BHJP
   D21H 13/10 20060101ALI20161027BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   D01F6/00 A
   D01F6/62 301E
   D01F6/60 301D
   D01F6/04 B
   D21H13/10
   D21H15/02
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-519869(P2015-519869)
(86)(22)【出願日】2014年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2014063980
(87)【国際公開番号】WO2014192746
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2015年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-114241(P2013-114241)
(32)【優先日】2013年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-198500(P2013-198500)
(32)【優先日】2013年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伴 紀孝
(72)【発明者】
【氏名】合田 裕憲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真一
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第1999/004069(WO,A1)
【文献】 特開2007−092235(JP,A)
【文献】 特開2005−248346(JP,A)
【文献】 特開2005−299007(JP,A)
【文献】 特開2003−138424(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/080679(WO,A1)
【文献】 特開2006−200075(JP,A)
【文献】 特開平07−292533(JP,A)
【文献】 特開平11−241223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00− 6/96, 9/00− 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が0.0001〜0.6デシテックス、繊維長が1.0〜5.0ミリメートル、水分率が10〜100重量%であり、下記に定義するカット端係数が1.00〜1.07、繊維長相対変動係数(CV%)が0.0〜15.0%である湿式不織布用の有機樹脂無捲縮ステープルファイバー。
[ここで、カット端係数、繊維長相対変動係数は下式で定義する。
(1)カット端係数=b/a
(無捲縮ステープルファイバーの単糸の繊維径をa、カット端の最大径をbとする。)
(2)繊維長相対変動係数(CV%)=(繊維長の標準偏差)/(繊維長の平均値)×100(%)
(1)、(2)とも、単糸測定数は50本である。]
【請求項2】
無捲縮ステープルファイバーが、ポリエステル無捲縮ステープルファイバー、全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーまたはポリオレフィン無捲縮ステープルファイバーである、請求項1に記載の有機樹脂無捲縮ステープルファイバー。
【請求項3】
無捲縮ステープルファイバーが、ポリエチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリトリメチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリテトラメチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリエチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリトリメチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリテトラメチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、メタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバー、パラ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバー、ポリエチレン無捲縮ステープルファイバーまたはポリプロピレン無捲縮ステープルファイバーである、請求項1〜2のいずれか1項に記載の有機樹脂無捲縮ステープルファイバー。
【請求項4】
無捲縮ステープルファイバーが2種または3種以上の有機樹脂から構成される複合繊維である請求項1に記載の有機樹脂無捲縮ステープルファイバー。
【請求項5】
繊度が0.0001〜0.6デシテックスであって、水分率を10〜200重量%とした繊維をロータリーカッターに供給して、繊維長1.0〜5.0ミリメートルに切断し、ロータリーカッターとフィードローラー間のドラフト比が1.01〜1.05である有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体中での分散性が均一である有機樹脂無捲縮ステープルファイバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械的特性、電気的特性、耐熱性、難燃性、寸法安定性等に優れた特性を有する全芳香族ポリアミド、または、更に価格優位性の高いポリエステルから得られるステープルファイバー(短繊維ということもある。)を原料の一部または全部に使用した湿式不織布が、電気絶縁紙、複写機のクリーニングウェブ等の湿式不織布で活用されている(例えば、特許文献1参照。)。また同様の湿式不織布が樹脂成形品の補強材用などの産業資材分野用途、生活資材分野用途で広く活用されている。これらの湿式不織布に用いられる有機樹脂からなる短繊維は、不織布に対する柔軟性、薄葉化・緻密化の要求の高まりに伴い、更なる細繊度化が求められている。また同時に不織布の薄葉化・緻密化を達成するには、湿式不織布を成形する際に短繊維の分散媒体への分散性の向上が必要となり、この観点から短繊維の繊維長を更に短くする事が求められている。
【0003】
しかしながら、繊維の細繊度化に伴い、繊維のアスペクト比(繊維長と繊維直径の比)が大きくなると、繊維同士の絡み合いが発生しやすくなり、不織布とした場合に、毛玉状の欠点を形成しやすくなる。その欠点を回避するため、繊維長を短くし、アスペクト比を小さく抑えることで、繊維同士の絡み合いによる毛玉状の欠点は減少するが、今度は繊維端のカット端不良による短繊維同士の引っ掛かりにより凝集が生じ、不織布等の製品に欠陥が発生しやすい課題があった。特に0.6デシテックス以下の極細繊維において、公知のギロチンカッターを使用すれば、1ミリメートル未満を含むほぼ任意の繊維長に切断すること、すなわちアスペクト比を小さくすることが可能である。しかし、切断設備の機構上、切断時の繊維の把持が十分ではないため、カット端不良は極めて生じやすかった(例えば、特許文献2参照。)。また、短繊維のカット端が不良であると、短繊維同士が引っ掛りにより凝集し、不織布や補強材に欠点を生じ、最終製品への欠陥となる課題があった。特に繊維強度が大きい有機樹脂を用いた場合は、繊維を切断する際の樹脂と金属間の摩擦が非常に高いために、カッター刃の切れ味が短時間で悪くなることがある。また、細繊度の短繊維であっても、先端に突起を有していたり、切断面が繊維軸に対して直角ではなく斜め切りとなったカット端不良が生じやすく、技術的に分散不良の少ない有機樹脂全般について、無捲縮短繊維は上市されていないのが現状である。一方、繊維直径長と繊維長の分布が少ない均一な繊維や、突起部を有する形状に特徴を有する繊維を用いた繊維紙に関する発明についても知られている(特許文献3,4,5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−232509号公報
【特許文献2】特開2009−221611号公報
【特許文献3】特開2007−092235号公報
【特許文献4】特開2000−119989号公報
【特許文献5】特開2001−295191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記背景に基づきなされたものであり、媒体中で凝集欠点を生じずに均一に分散する有機樹脂無捲縮ステープルファイバー(短繊維)に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、前記課題を解決するために以下の構成を採用する。
1.繊度が0.0001〜0.6デシテックス、繊維長が0.01〜5.0ミリメートル、水分率が10〜200重量%であり、下記に定義するカット端係数が1.00〜1.40、繊維長相対変動係数(CV%)が0.0〜15.0%である、有機樹脂無捲縮ステープルファイバーにより、欠点を抑制できることを見出し、本発明に到達した。なおカット端係数、繊維長相対変動係数は下式で定義するものである。
(1)カット端係数=b/a
(無捲縮ステープルファイバーの単糸の繊維径をa、カット端の最大径をbとする。)
(2)繊維長相対変動係数(CV%)=(繊維長の標準偏差)/(繊維長の平均値)×100(%)
(1)、(2)とも、単糸測定数は50本である。
また好ましくは、本発明は以下の構成を採用する。
2.無捲縮ステープルファイバーが、ポリエステル無捲縮ステープルファイバー、全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーまたはポリオレフィン無捲縮ステープルファイバーである、上記1に記載の有機樹脂無捲縮ステープルファイバー。
3.無捲縮ステープルファイバーが、ポリエチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリトリメチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリテトラメチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリエチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリトリメチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリテトラメチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、メタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバー、パラ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバー、ポリエチレン無捲縮ステープルファイバーまたはポリプロピレン無捲縮ステープルファイバーである、上記1〜2のいずれかに記載の有機樹脂無捲縮ステープルファイバー。
4.無捲縮ステープルファイバーが2種または3種以上の有機樹脂から構成される複合繊維であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の有機樹脂無捲縮ステープルファイバー。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機樹脂からなる無捲縮ステープルファイバーにおいて、湿式不織布やステープルファイバー補強樹脂での使用の際、分散用の媒体中で均一に分散し、かつ凝集塊の発生を抑制することができる。その結果、その無捲縮ステープルファイバーを材料として用いて得られる不織布等は、ステープルファイバーが均一に分散している不織布となる。その結果、ミクロなステープルファイバーの分散斑、目付・厚みのバラツキといった欠陥がなく、通気性、通液性等が均一な良好な不織布を得ることができる。更にその不織布等を加工して得られる最終製品の欠陥が少なく、最終製品の物性の信頼性(品質保証に関する信頼)を向上できると共に、中間製品(不織布、樹脂成型体等)の歩留りを向上することができる。故に本発明は、省資源・経済的な観点からもメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの切断端部の模式図である。
【図面の符号】
【0009】
a 単糸の繊維の直径
b 繊維カット端の最大幅(カット端の形状が円形もしくは略円形の場合には最大径)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(有機樹脂組成)
(ポリエステル)
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。まず、本発明の有機樹脂の具体的な一例としてポリエステルを用いる場合を説明する。そのポリエステルとは、一例としてポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、もしくはポリブチレンテレフタレート(ポリテトラメチレンテレフタレート)等のポリアルキレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、もしくはポリブチレンナフタレート(ポリテトラメチレンナフタレート)等のポリアルキレンナフタレートといった芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールのポリエステルを例示することができる。また、ポリアルキレンシクロヘキサンジカルボキシレート等の脂環族ジカルボン酸と脂肪族ジオールから得られるポリエステル、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸と脂環族ジオールから得られるポリエステル、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、もしくはポリエチレンアジペート等の脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールから得られるポリエステル、またはポリ乳酸やポリヒドロキシ安息香酸等のポリヒドロキシカルボン酸等から得られるポリエステルを例示することもできる。
【0011】
またはこれらのポリエステル成分の任意の割合による共重合体やブレンド体が例示される。また目的に応じて、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、フタル酸、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩、5−スルホイソフタル酸の4級アンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸の4級ホスホニウム塩、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、α、β―(4−カルボキシフェノキシ)エタン、4、4−ジカルボキシフェニル、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1、3−シクロヘキサンジカルボン酸もしくは1、4−シクロヘキサンジカルボン酸またはこれらの炭素数1〜10個の有機基からなるジエステル化合物等を1成分または2成分以上共重合させても良い。また目的に応じて、ジオール成分としてジエチレングリコール、1、2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエチルフェニル)プロパン、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレン)グリコール、ポリ(トリメチレン)グリコールもしくはポリ(テトラメチレン)グリコール等を1成分または2成分以上共重合させてもよい。さらに、ω−ヒドロキシアルキルカルボン酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、またはトリメシン酸等のヒドロキシカルボン酸、または、3個以上のカルボン酸成分もしくは水酸基をもつ化合物を1成分または2成分以上共重合して分岐をもたせてもよい。また、上記に例示されるような組成の異なるポリエステルの混合物も含まれる。
【0012】
(全芳香族ポリアミド:メタ型全芳香族ポリアミド)
次に、本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーを構成する有機樹脂の具体的な一例として、全芳香族ポリアミドを用いる場合を説明する。更に全芳香族ポリアミドステープルファイバーの実施形態として、メタ型全芳香族ポリアミドステープルファイバーを例に説明する。本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーに用いられるメタ型全芳香族ポリアミドステープルファイバーの原料となるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0013】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上含まれていることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%含まれていることである。
【0014】
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、もしくは3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、または、これらの芳香族ジアミン化合物の1つまたは2つの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体である。具体的には、例えば、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、2,4−ジアミノクロルベンゼン、2,6−ジアミノクロルベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタ型芳香族ジアミン成分としてメタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する全芳香族ジアミン成分であることが好ましい。
【0015】
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ジハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ジハライドとしては、イソフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ブロマイドまたはイソフタル酸ジアイオダイド等のイソフタル酸ジハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロルイソフタル酸ジクロライド、3−メトキシイソフタル酸ジクロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸ジクロライドのみ、または、イソフタル酸ジクロライドを70モル%以上含有する全芳香族ジカルボン酸ジハライドであることが好ましい。
【0016】
(全芳香族ポリアミド:メタ型全芳香族ポリアミドの共重合成分)
上記のメタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分以外で使用しうる共重合成分としては、例えば、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5−ジアミノクロルベンゼン、2,5−ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジン(2−アミノ−4−メトキシアニリン)等のベンゼン誘導体、1,5−ナフチレンジアミン、1,6−ナフチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。一方、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸ジクロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいため、メタ型全芳香族ポリアミドの全ジカルボン酸成分を基準として20モル%以下とすることが好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、上記した通り、全繰返し単位の90モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好ましい。
【0017】
(全芳香族ポリアミド:パラ型全芳香族ポリアミド)
次にその全芳香族ポリアミドからなるステープルファイバーの実施形態として、パラ型全芳香族ポリアミドステープルファイバーを用いる場合を説明する。本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの1例として用いられるパラ型全芳香族ポリアミドステープルファイバーの原料となるパラ型全芳香族ポリアミドは、ポリパラフェニレンテレフタルアミドや、ポリパラフェニレンテレフタルアミドに3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、または4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを共重合させたパラ型全芳香族ポリアミドや、イソフタル酸、メタフェニレンジアミンを少量共重合したパラ型全芳香族ポリアミドを例示することができる。好ましくは、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、またはポリパラフェニレンテレフタルアミドである。より好ましくは、テレフタル酸を酸成分とし、パラフェニレンジアミンを40モル%以上および3,4’−ジアミノジフェニルエーテル40モル%以上を含有する混合ジアミン成分からなるコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである全芳香族ポリアミドであることが好ましい。
【0018】
パラ型全芳香族ポリアミドに用い得る芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、または、これらの芳香族ジアミン化合物の1つまたは2つの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体である。具体的には、例えば、2,5−トリレンジアミン、2,5−ジアミノクロルベンゼン、2,5−ジアミノブロモベンゼン等を例示することができる。なかでも、パラ型芳香族ジアミン成分としてパラフェニレンジアミンのみ、または、パラフェニレンジアミンを70モル%以上含有する全芳香族ジアミン成分であることが好ましい。
【0019】
パラ型全芳香族ポリアミドの原料となるパラ型芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、パラ型芳香族ジカルボン酸ジハライドを挙げることができる。パラ型芳香族ジカルボン酸ジハライドとしては、テレフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ブロマイドまたはテレフタル酸ジアイオダイド等のテレフタル酸ジハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロルテレフタル酸ジクロライド、3−メトキシテレフタル酸ジクロライド等を例示することができる。なかでも、テレフタル酸ジクロライドのみ、または、テレフタル酸ジクロライドを70モル%以上含有する全芳香族ジカルボン酸ジハライドであることが好ましい。
【0020】
(全芳香族ポリアミド:パラ型全芳香族ポリアミドの共重合成分)
上記のパラ型芳香族ジアミン成分とパラ型芳香族ジカルボン酸成分以外で使用しうる共重合成分としては、例えば、芳香族ジアミンとして、メタフェニレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン、2,4−ジアミノブロムベンゼン、2,6−ジアミノブロムベンゼン、2−アミノ−4−メトキシアニリン、3−アミノ−4−メトキシアニリン等のベンゼン誘導体、1,3−ナフチレンジアミン、1,4−ナフチレンジアミン、1,5−ナフチレンジアミン、1,6−ナフチレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルアミン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。一方、芳香族ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸ジクロライド、1,3−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、2,7−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、3,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、3,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとパラ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいため、パラ型全芳香族ポリアミドの全ジカルボン酸成分を基準として20モル%以下とすることが好ましい。更に、上記のパラ型全芳香族ポリアミドの無捲縮ステープルファイバーの場合の、メタ型およびメタ型の類を表す表記を、適宜パラ型またはパラ型の類に置き換えた全芳香族ポリアミドを用いた場合であっても、本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの発明の範疇に属するのは言うまでもない。
【0021】
(ポリオレフィン)
更に本発明の無捲縮ステープルファイバーを構成する有機樹脂の具体的な一例として、ポリオレフィンを用いる場合を説明する。本発明の有機樹脂として使用されるポリオレフィンとしては、アイソタククチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン・プロピレンランダム共重合ポリオレフィン、または第三成分をブロック共重合もしくはグラフト共重合させたポリエチレンもしくはポリプロピレンであることが好ましい。この場合における第三成分とは酢酸ビニル、塩化ビニル、スチレン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、イソプロピルメタアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、またはアクリルアミド等を挙げることができる。これらのなかでも、特に、高密度ポリエチレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、無水マレイン酸をブロック共重合またはグラフト共重合させたポリエチレン、および無水マレイン酸をブロック共重合されたポリプロピレンよりなる群から選択された少なくとも1種のポリオレフィンであることが好ましい。また、上述のポリオレフィンから複数種類のポリオレフィンを選択して、混合して用いても差し支えない。
【0022】
上記以外の有機樹脂として、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアリレート等の有機樹脂を用いる事もできる。なお、以上にあげた各種の有機樹脂には、公知の添加剤、例えば、顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、抗菌剤、消臭剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、または滑剤等を含むポリエステル組成物であってもよい。本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーにおいては、以上の観点から、無捲縮ステープルファイバーが、ポリエステル無捲縮ステープルファイバー、全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーまたはポリオレフィン無捲縮ステープルファイバーのいずれか1種の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーであることが好ましい。また本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーにおいては、無捲縮ステープルファイバーが、ポリエチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリトリメチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリテトラメチレンテレフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリエチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリトリメチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、ポリテトラメチレンナフタレート無捲縮ステープルファイバー、メタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバー、パラ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバー、ポリエチレン無捲縮ステープルファイバーまたはポリプロピレン無捲縮ステープルファイバーのいずれか1種の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーであることも好ましい。
【0023】
(無捲縮ステープルファイバーの断面形状と構成)
本発明における有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの横断面形状の一例は、繊維軸方向に対して直角方向の横断面外周が丸断面であれば、中実繊維であっても中空繊維であっても、複合繊維であってもよい。また繊維横断面形状も丸断面に限定されることはなく、楕円断面、3〜8葉断面等の多葉断面、三角〜八角の多角形断面など異型断面でもよい。ここで、繊維横断面とは繊維軸に対して直角方向の繊維断面を表す。また繊維の構成としても、単一成分の有機樹脂からなる繊維に限定されることはない。本発明の無捲縮ステープルファイバーが2種または3種以上の有機樹脂から構成される複合繊維であってもよい。その複合繊維の複合の形態としては、同芯芯鞘型複合繊維、偏芯芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、海島型複合繊維、セグメントパイ型複合繊維等が例示される。
これらの複合繊維の構成を採用することで、本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーを、例えば0.01dtex以下の細繊度の繊維としたり、熱と圧力によって他の繊維と接着させるバインダー繊維とすることができる。
【0024】
具体的には、ポリエステルを含む複合繊維としては、芯成分としてポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレートもしくはポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレートが配置され、鞘成分として共重合ポリエステルまたはポリオレフィンが配置された芯鞘型複合繊維を挙げることができる。また、上記芯成分の有機樹脂が島成分に配置され、上記鞘成分の有機樹脂が海成分に配置された海島型複合繊維を挙げることができる。更に、上記芯成分の有機樹脂が一方の成分に配置され、上記鞘成分の有機樹脂が他方の成分に配置されたサイドバイサイド型複合繊維またはセグメントパイ型複合繊維を挙げることができる。その共重合ポリエステルの共重合成分としては、イソフタル酸、ポリエチレングリコール等、上述したポリエステル成分に共重合することができる化合物の1種または2種以上を挙げることができる。
【0025】
ポリオレフィンを含む複合繊維としては、芯成分としてポリプロピレン(上記のいずれの種類のポリプロピレンであっても良い。)が配置され、鞘成分としてポリエチレン(上記のいずれの種類のポリエチレンであっても良い。)、エチレン・プロピレンランダム共重合ポリオレフィン、または第三成分をブロック共重合もしくはグラフト共重合させたポリエチレンもしくはポリプロピレン共重合ポリエチレンが配置された芯鞘型複合繊維を挙げることができる。また、上記芯成分の有機樹脂が島成分に配置され、上記鞘成分の有機樹脂が海成分に配置された海島型複合繊維を挙げることができる。更に、上記芯成分の有機樹脂が一方の成分に配置され、上記鞘成分の有機樹脂が他方の成分に配置されたサイドバイサイド型複合繊維またはセグメントパイ型複合繊維を挙げることができる。
【0026】
本発明の無捲縮ステープルファイバーは、また、未延伸状態のステープルファイバーでも延伸されたステープルファイバーであってもよい。未延伸状態のステープルファイバーは、カレンダーローラー等を用いて、熱と圧力によって他の繊維と接着させる、バインダー繊維として使用する場合に好適に用いられる。
【0027】
(無捲縮ステープルファイバーの繊度、繊維長および捲縮)
上記のような本発明の有機樹脂無捲縮極細ステープルファイバーの単糸繊度は0.0001〜0.6デシテックス、好ましくは、0.007〜0.55デシテックス、より好ましくは0.01〜0.53デシテックスである。単糸繊度が0.0001デシテックス未満であると、ステープルファイバー同士の絡み合いが著しくなることにより、本発明の無捲縮ステープルファイバーからなる不織布の地合が不良となる傾向がある。また単糸繊度が小さいと、製糸技術の面で困難な点が多い。より具体的には、製糸工程において断糸や毛羽が発生して良好な品質の繊維を安定に生産することが困難になるだけでなく、ステープルファイバーのコストも高くなるため好ましくない。また、単糸繊度が小さい場合は、繊維を切断する際に、カッターと繊維の接触面積が大きいため、繊維−金属摩擦による排出抵抗が高くなり、刃折れや刃先の摩耗が大きくなる点で不利である場合がある。しかし単糸繊度小さくても、0.0002〜0.006デシテックスといった極細の繊度を有する無捲縮ステープルファイバーの場合には、透湿防水性、臭気吸着性、微小物の捕集効率に優れており、磁気ディスク用などの研磨布用途、電池用セパレータ用またはコンデンサ用ペーパー用途に好適であるといった、上記の繊度のステープルファイバーとは異なった効果を有する場合もあり、本発明の好ましい態様の1つとなりうる。一方、単糸繊度が0.6デシテックスを超えると、極細繊維の特色を出せる低目付け領域での不織布強力や紙強力や不織布等の緻密性が得難くなる。
【0028】
さらに本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの繊維長は0.01〜5.0ミリメートル、好ましくは0.015〜4.0ミリメートル、より好ましくは0.02〜3.5ミリメートル、更により好ましくは1.0〜3.3ミリメートルである。一方、繊維長が5.0ミリメートルより長い場合は、繊維同士の絡み合いにより欠点が発生しやすくなる。また、繊維長が0.01ミリメートル未満の場合は、繊維長/繊維横断面の幅ないしは長円の直径で表されるアスペクト比が小さくなり過ぎ、不織布を構成する繊維間の結合の観点、不織布の強度の観点で好ましくない。繊維長は用途の目的や加工性等に応じて任意に選択される。上記の極細の繊度を有し、繊維長0.015〜0.06mmの範囲のステープルファイバーならば、繊維長が短くても、極細の繊度を有するステープルファイバーと同様な効果を有し、本発明の好ましい態様の1つとなり得る。
本発明のステープルファイバーは、積極的に捲縮を付与することなく、無捲縮であることが必要である。ステープルファイバーに捲縮が付与されていると、分散媒体中に分散させた場合に均一に分散することが困難な場合があり、またステープルファイバーから不織布を製造する場合に不織布を低目付化することも困難となる場合がある。
【0029】
(無捲縮ステープルファイバーのカット端係数)
本発明における有機樹脂の無捲縮ステープルファイバーは、カット端不良の度合いを表すために本発明で定義したカット端係数が1.00〜1.40である必要がある。ここで、カット端係数の詳細な説明のために、本発明の無捲縮ステープルファイバーの端部の模式図を図1に示した。図1において、光学顕微鏡で拡大した無捲縮ステープルファイバーの切断端部側面において、切断端部分の繊維軸と直角方向における最大幅(切断端部の形状が円形もしくは略円形の場合には最大径で代用する。)をb、単糸の太さ(もしくは単糸の繊維径、繊維幅)をaとしたとき、bをaで除した数値でカット端係数が表される。カット端係数はステープルファイバーの切断端部分の形状が、正常な単糸太さに対して、どれだけ広がっているかを意味し、切断端部分の形状の良否を示す指標とすることができる。該指標が1.00より大きいステープルファイバーは、繊維を切断する際に、繊維軸と直角方向に加えられる圧力によって、繊維が潰れ、ステープルファイバーの端が大きく広がった形状となっている。この広がった形状は単に繊維横断面の形状を拡大した形状ではなく、非点対称形状とも言える形状である。すなわち繊維の横断面とは異なる形状となる場合が多く、繊維横断面が丸断面の場合は、前記の大きく広がった形状は丸断面とはならない場合が多い。また、繊維横断面が異型断面の場合は、前記の大きく広がった形状はその異型断面とはならない場合が多い。該指標であるカット端係数が1.00〜1.40の場合には、カット端が単糸繊維の繊維横断面そのものとは異なる形状であっても、分散媒体中で均一に分散し、かつ凝集塊の発生を抑制することができ、本発明の効果を奏することができる。しかし、該指標が1.40を超えるような場合には、前記の大きく広がった形状の最大幅bが大きくなりすぎるような不良な形状となる。このようなカット端形状の不良なステープルファイバーは、分散媒体中で分散する際に、ステープルファイバーの末端の突起部によって、分散媒体中に分散されようとしている他のステープルファイバーと引っ掛かりを生じる。その引っ掛かり部分が核となって他の正常なカット端のステープルファイバーを更に巻き込み、分散媒体中でステープルファイバーの未分散塊を生じやすい。このような未分散塊は、本発明の無捲縮ステープルファイバーを用いて不織布等の製品を製造した場合に、その製品中の外観や性能の欠点に繋がる。よってこのような欠点の発生を少なくするため、不良なカット端を含む繊維を一定程度以下に抑制する必要がある。我々は鋭意検討の結果、前記カット端係数が1.00以上、1.40以下とすることで、欠点の発生を抑制することができ、1.40を超えると、カット端に有する突起、引っ掛かりの原因となるような形状を有することを見出し、本発明を完成するに至った。なお、このカット端係数が1.00の場合とは、全ての無捲縮ステープルファイバーにおいて、ステープルファイバーの切断端部分の形状と繊維横断面の形状が一致していることを表す。このカット端係数は、通常実施可能な切断方法では、1.0未満の数値を取りえない。ここで、カット端係数は、ランダムに採取した無捲縮ステープルファイバー50本のカット端側面を光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察して、それらの顕微鏡に備えられている測長機能を用いて測定し、その平均値を計算して評価した。カット端係数が1.00〜1.40、好ましくは1.001〜1.35、更に好ましくは1.01〜1.30であれば、凝集塊の無い、良好な媒体分散性を示す。ちなみに、1.00は上述のように最良の状態である。
【0030】
(無捲縮ステープルファイバーの繊維長のばらつき)
本発明の無捲縮ステープルファイバーにおいては、繊維長のばらつきを抑制することが必要であり、50本の無捲縮ステープルファイバーをランダムに抜き出して、その繊維長を測定したとき、繊維長相対変動係数(標準偏差を平均値で除した百分率)が0.0%〜15.0%、好ましくは0.01%〜14.0%、より好ましくは0.1%〜13.0%であることが望ましい。繊維長のばらつきが大きいと、アスペクト比(繊維長/繊維径)の大きな繊維が発生し、分散媒体中で攪拌した際に、繊維同士が接触し絡まる確率が増大する。特に、繊度(繊維径)が小さくなるほど、この影響が顕著となるため、繊維長のばらつきを抑制することが重要である。ここで繊維長相対変動係数は、ステープルファイバー試料50本をランダムに取り出し、カバーグラスを乗せ、そのカバーグラスの自重がかかった状態で光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で拡大する。その拡大映像を、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡の測長機能により、繊維の長さを測定し、その平均値と標準偏差を計算した上で、標準偏差/平均値により繊維長相対変動係数を算出した。また、本発明の無捲縮ステープルファイバーにおいては、延伸糸であることが好ましい。延伸糸にすることで、本発明の無捲縮ステープルファイバーから湿式不織布等を製造した場合に、十分な引張強度など不織布として必要な強度を達成することができる。
【0031】
(無捲縮ステープルファイバーの水分率)
本発明の無捲縮ステープルファイバーにおいては、水分率が10〜200重量%とする必要が有る。水分率が10重量%未満の場合には、ステープルファイバー同士が集束しにくく、カット端係数や繊維長変動係数が大きな数値となり易く、好ましくない。一方、水分率が200重量%を超える場合には、繊維トウからの水の脱落が大きく、切断工程での繊維束の取扱い性が悪化することがあり、好ましくない。水分はステープルファイバーを製造する工程において、切断工程より前の工程で付与することがこのましい。所望する水分率が上記範囲内であって少なめの場合にはオイリングローラーにより、上記範囲内であって多めの場合には、水中に浸漬してニップローラーで保持して絞る等の方法により水を付与する事で調節することができる。水分率が、より少なめの場合にはスプレーにより水を付与する方法も採用することができる。スプレーで水を付与する場合には、切断工程の後の工程で行うことも可能である。水分率は好ましくは12〜150重量%、より好ましくは13〜120重量%、更により好ましくは16〜100重量%である。
【0032】
(有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの製造方法)
以上に述べた本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーは、例えば次の方法により製造することができる。
【0033】
(ポリエステル無捲縮ステープルファイバーの製造方法)
まず、ポリエステル無捲縮ステープルファイバーの場合について説明する。まず、ポリエステルポリマーを溶融し、公知の紡糸設備を用いて口金より吐出して、冷却風で空冷しながら速度100〜2000m/分で引き取り、未延伸糸を得る。引き続いて得られた未延伸糸の延伸操作を70〜100℃の温水中あるいは100〜125℃のスチーム中で行い、油剤を付与し、延伸糸を得る。更に延伸糸に対して、乾燥処理および必要に応じて弛緩熱処理を行い、繊維束を得た後、これを0.01〜5.0ミリメートルの繊維長に切断し、無捲縮ステープルファイバーを得ることができる。
【0034】
上述のように、繊維束を切断する前に、繊維束に水を付与する工程を採用することが好ましい。繊維束に水を付与する方法は、特に限定されないが、弛緩熱処理後、カッターに供給する前に、スプレー方式、オイリングローラー方式、浸漬方式で水付与する方法が例示される。中でも、オイリングローラー方式は、上記の範囲の水分率を均一に付与する上で、好ましい。また、スプレー方式やオイリングローラー方式で付与する場合、繊維束に均一に水を付与するため、繊維束の表裏両面から水付与することが適切である。
【0035】
次に繊維束から繊維を所定の長さに切断する方法は、特に限定されるものではない。しかし、いわゆるギロチンカッター式繊維束切断装置は、特に単糸繊度の小さな繊維を切断する場合は、繊維が湾曲したり、座屈したりして、繊維が切断刃に直角に当接しなくなるため、斜め切りや繊維長の不揃いなどが発生しやすいことがある。このギロチンカッター式繊維束切断装置とは、固定刃と移動刃を剪断刃として設け、これら剪断刃に対して所定の切断長だけ繊維束を押し出して切断する方式を採用しているから、上記の不揃いなどが発生すると考えられる。したがって、本発明におけるカット端係数や、繊維長相対変動係数(繊維長のばらつき)が大きくなるため、適当でない場合がある。
【0036】
故に、ギロチンカッター式繊維束切断装置を使用する場合、切断する際に、繊維束が、自重やカッター刃の押圧によって、湾曲したり、座屈したりすることがないように繊維束の動きを拘束することが適切である。繊維束を拘束する方法としては、繊維束をシート状物で包摂する方法が一般的に行われている。しかし、紙で包摂するなどの方法では十分に繊維束の動きを拘束できない場合がある。一方、繊維束を水中に浸漬し、脱泡した上で凍結させることによって氷柱を作成して繊維束を固定し、次いでギロチンカッター式切断装置にて氷柱ごと繊維束を切断し、切断後に氷(水)を除去する切断方法は、好ましい。この方法においては、繊維間のずれが少ないため、繊維長相対変動係数(繊維長のばらつき)が良好で、カット端不良を生じにくくなるからである。この場合、氷柱の代わりにドライアイス柱を使用することもできる。
【0037】
また繊維束を所定の長さに切断する他の方法として、多数のカッター刃が外側に向いて放射状に等間隔で設けられたイーストマン式等のロータリーカッターを用いる方法がある。この方法は、繊維束をロータリーカッター刃上に巻き付け、カッター刃上に巻き付けられた繊維を切断刃に押圧しながら連続的に所定の長さに切断する方法である。この切断方法は、切断後の無捲縮ステープルファイバーが排出可能なカッター刃の間隔に限界がある。しかし、ロータリーカッター装置の前段階で、繊維束を構成する各単糸が均一に弛み無く引き揃えられた状態で適度のテンションを繊維束にかけることで、単糸間のずれによって発生するカット端形状の不良や繊維長のばらつきは生じにくいというメリットがあり、好適である。但し装置の構造上、切断後の繊維の排出抵抗が大きいという問題や、カッター刃が折れるという問題が発生することがある。これらの問題に対して、排出抵抗を下げるために繊維の切断後の空間を拡大した装置構造の構成とすることや、カッター刃が折れることを防止するためにカッター刃の表面にダイヤモンドライクコーティングを行い、繊維−金属摩擦を下げる加工をすることにより、目的とする5.0ミリメートル以下の繊維長の繊維や、より短い3.0ミリメートル以下の繊維長の繊維を安定して得ることができる。
【0038】
このようなロータリーカッター装置は、一般的に、カッター刃と、カッター刃に繊維束を供給するフィードローラーとを具備するが、このとき、ロータリーカッターとフィードローラーとの間のドラフト比[(ロータリーカッターの周速度)/(フィードローラーの周速度の比)]を1.01〜1.05に設定することが、望ましい。ドラフト比が1.01より小さいと、長繊維が切断される際に繊維束中の各単糸繊維の緊張状態にばらつきが生じ、得られるステープルファイバーの繊維長がばらつきやすい。また、ドラフト比が1.05より大きいと、繊維自体が機械的に引き伸ばされて繊維の物性を変動させる可能性があるため、好ましくない。すなわちロータリーカッター装置を使用する場合には、上記の様にドラフト比率を設定することで、繊維長相対変動係数が0.0〜15.0%となるステープルファイバーを得ることができる。また、繊維束は、ロータリーカッターのカッター刃先に対して、一定間隔で設置されたプレッシャーロールで押し付けて、切断することが望ましい。プレッシャーロールによって繊維に徐々に押圧して切断することで、切断後の繊維がカッター刃間を通過する際の抵抗を低減し、カット端形状が変形することを抑制することができる。また、カッター刃先に対して、一定間隔で押圧することにより、連続運転時に、ロータリーカッターに捲き付けられる繊維束の捲き量を一定にすることができる。最外周に捲き付けられた繊維束は、ローター中心に進むにつれて繊維方向に緩和された後、カッター刃に接して切断されるが、このとき繊維束の捲き量が変動すると、緩和の程度がばらつき、繊維長の変動に繋がるからである。
【0039】
(メタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの製造方法)
次に、全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの場合について説明する。以下、本発明における全芳香族ポリアミドステープルファイバーは、メタ型全芳香族ポリアミドステープルファイバーを具体例に挙げてその製造方法について、メタ型全芳香族ポリアミド製造工程、紡糸液調整工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、飽和水蒸気処理工程、乾熱処理工程、切断工程に分けて説明する。
【0040】
〔メタ型全芳香族ポリアミド製造工程〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。例えば、メタフェニレンジアミンとイソフタル酸ジクロライドとを原料として採用することができる。メタ型全芳香族ポリアミドの重合度としては、30℃の濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)として、1.3〜3.0dL/gの範囲が適当である。
【0041】
[紡糸液調製工程]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの一般的な製造方法の例を以下に示す。以下に説明する工程を経て、まずは長繊維を製造する。その後、得られた長繊維を切断工程に付すことにより、メタ型全芳香族ポリアミドステープルファイバーを得る。
【0042】
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用いて紡糸液を調製する。使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。紡糸液の濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度およびメタ型全芳香族ポリアミドの溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、メタ型全芳香族ポリアミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0043】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記工程で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させ、多孔質繊維状物を得る。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500〜30,000個、紡糸孔径が0.05〜0.2ミリメートルのステープルファイバー用(短繊維用)の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10〜90℃の範囲が適当である。凝固浴は、実質的にアミド系溶媒と水との2成分からなる水溶液で構成される。この凝固浴組成におけるアミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば特に限定されるものではないが、特に、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン他)等を好適に用いることができる。アミド系溶媒と水との混合率(重量比)は、10/90〜90/10であることが好ましく、より好ましくは30/70〜70/30である。
また、凝固浴中には必要に応じて無機のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、またはカルシウム塩を0.1〜8.0重量%溶解させていても良い。
【0044】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた多孔質繊維状物(糸条体)からなる繊維束が可塑状態にあるうちに、該繊維束を可塑延伸浴中にて延伸処理する。本発明で使用する繊維を得るための可塑延伸浴は、アミド系溶媒の水溶液からなり、塩類は実質的に含まれない。このアミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを膨潤させ、かつ、水と良好に混和するものであれば、特に限定されるものではない。かかるアミド系溶媒しては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を挙げることができる。
【0045】
可塑延伸浴の温度と組成とはそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の質量濃度が20〜70質量%、かつ、温度が20〜70℃の範囲であれば、好適に用いることができる。この範囲より、アミド系溶媒の質量濃度が低い場合または温度が低い場合は、多孔質繊維状物の可塑化が十分に進まず、可塑延伸において十分な延伸倍率をとることが困難となる。一方、この範囲より、アミド系溶媒の質量濃度が高い場合または温度が高い場合は、多孔質繊維の表面が溶解して融着するため、良好な製糸が困難となる。
【0046】
本発明に用いられる繊維を得るにあたっては、可塑延伸浴中の延伸倍率を、1.5〜10倍の範囲とすることが好ましく、より好ましくは2.0〜6.0倍の延伸倍率の範囲とする。延伸倍率が1.5倍未満の場合には、得られる繊維の強度、弾性率等の力学特性が低くなり、本発明の繊維を用いて不織布等を製造した場合に、必要な破断強度を達成することが困難となる場合がある。また、多孔質繊維状物からの脱溶剤を十分に促進することが困難となり、最終的に得られる繊維中の残存溶媒量を1.0質量%以下とすることが困難となる。
【0047】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、上記可塑延伸浴延伸工程を経た繊維を、十分に水で洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行なうことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0048】
[飽和水蒸気処理工程]
飽和水蒸気処理工程においては、洗浄工程において洗浄された繊維を、飽和水蒸気中で熱処理する。飽和水蒸気処理をおこなうことにより、繊維の結晶化を抑制しつつ配向を高めることが可能となる。飽和水蒸気雰囲気での熱処理は、乾熱処理と比較して繊維束内部まで均一に熱処理することが可能となり、均質な繊維を得ることができる。飽和水蒸気処理工程における延伸倍率は、繊維の強度の発現にも密接な関係を持っている。延伸倍率は、製品に求められる物性を考慮して必要な倍率を任意に選択すればよい。本発明においては0.7〜5.0倍の範囲であり、好ましくは1.1〜2.0倍の範囲とすることが好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、飽和水蒸気雰囲気中での繊維束(糸条)の収束性が低下するので好ましくない。一方で、延伸倍率が5.0倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生するため好ましくない。なお、飽和水蒸気処理の時間は、0.5〜5.0秒の範囲とすることが好ましい。走行する繊維束を連続的に処理する場合には、水蒸気処理槽中の繊維束の走行距離と走行速度とによって処理時間が決まるため、これらを適宜調整して最も効果のある処理時間を選択すればよい。
【0049】
[乾熱処理工程]
乾熱処理工程においては、飽和水蒸気処理工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱板、熱ローラ等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、メタ型全芳香族ポリアミドの長繊維を得ることができる。乾熱処理工程における熱処理温度は、250〜400℃の範囲とすることが好ましく、より好ましくは300〜380℃の範囲である。乾熱処理温度が250℃未満である場合には、多孔質の繊維を十分に緻密化させることが出来ないため、得られる繊維の力学特性が不十分となる。一方で、乾熱処理温度が400℃を超える高温では、繊維の表面が熱劣化し、品位が低下するため好ましくない。
【0050】
乾熱処理工程における延伸倍率は、得られる繊維の強度の発現に密接な関係を持っている。延伸倍率は、繊維に要求される強度等に応じて任意の倍率を選ぶことができる。その中でも、乾熱処理工程における延伸倍率が、0.7〜4.0倍の範囲とすることが好ましく、1.5〜3.0倍の範囲とすることがさらに好ましい。延伸倍率が0.7倍未満の場合には、工程張力が低くなるために繊維の力学特性が低下し、一方で、延伸倍率が4.0倍を超える場合には、延伸時の単糸切れが増大し、毛羽や工程断糸が発生する。なお、ここでいう延伸倍率とは、上記飽和水蒸気処理工程で説明したのと同様に、延伸処理前の繊維長に対する処理後の繊維長の比で表される。例えば、延伸倍率0.7倍とは、乾熱処理工程により繊維が原長の70%に制限収縮処理されることを意味し、延伸倍率1.0倍とは定長熱処理を意味する。乾熱処理工程における処理時間は、1.0〜45秒の範囲とすることが好ましい。処理時間は、繊維束の走行速度と熱板、熱ローラ等との接触長とによって調整することができる。
【0051】
〔切断工程〕
本発明の全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーにおいては、乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド長繊維は切断工程において、所定の長さに切断される。ここで繊維を所定の長さに切断する方法は、特に限定されるものではない。しかし、固定刃と移動刃を剪断刃として設け、これら剪断刃に対して所定の切断長だけ繊維束を押し出して切断する方式を採用している、いわゆるギロチンカッター式繊維束切断装置は、特に単糸繊度の小さな繊維を切断する場合は、繊維が湾曲したり、座屈したりして、繊維が切断刃に直角に当接しなくなるため、斜め切りや繊維長の不揃いなどが発生しやすいことがある。したがって、本発明におけるカット端係数や、繊維長相対変動係数(繊維長のばらつき)が大きくなるため、適当でない場合がある。以下、上述のポリエステル無捲縮ステープルファイバーと同様の事項に留意して、同様の切断操作を行うことによって、メタ型全芳香族ポリアミド無捲縮繊維の場合においても所定の物性を有するステープルファイバーを得ることができる。
【0052】
上述のようなメタ型全芳香族ポリアミド製造工程から切断工程までの工程において、メタ型およびメタ型の類を表す表記を、適宜パラ型またはパラ型の類に適宜置き換えた場合に、対応するパラ型全芳香族ポリアミドからなる本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの製造方法を表すこととなるのは言うまでもない。
【0053】
(ポリオレフィン無捲縮ステープルファイバーの製造方法)
ポリオレフィンの場合の製造方法について説明する。ポリオレフィン無捲縮ステープルファイバーの製造方法においては、まず、上述したポリエステル無捲縮ステープルファイバーの製造方法において、用いる有機樹脂をポリエステルから所望の種類のポリオレフィンに置き換える。更に、その採用したポリオレフィンについて溶融紡糸を行う際に通常採用する条件の少なくとも一部または全部の条件を、上記のポリエステル無捲縮ステープルファイバーの製造方法に置き換えることにより、所望のポリオレフィン無捲縮ステープルファイバーを製造することができる。
【0054】
(切断工程における水分率と発明の効果)
上述のように、ポリエステル、全芳香族ポリアミド、ポリオレフィン、その他のいずれの有機樹脂からなる無捲縮ステープルファイバーにおいても、ロータリーカッターに供給する繊維束の水分率は、10〜200%の範囲であることが望ましい。繊維束の水分率を10%以上とすることで、繊維同士が集束し、切断される際に、カッター刃に直角かつ一様に接するようになるため、繊維が切断される際に、カッター刃に対して押圧が一様になる様に繊維と接するようになる。その結果、カット端係数および繊維長相対変動係数が向上する。その結果、得られたカット端係数および繊維長相対変動係数の良好なステープルファイバーは、アスペクト比の大きな繊維が発生しにくい。その結果、他の繊維との引っ掛かりが抑制されるので、媒体中で凝集欠点を生じずに均一に分散することができる。一方、水分率が200%を超えるとトウや、繊維束の状態からの水の脱落が大きく、工程での取り扱い性が悪化するため、水分率は200%までとすることが適切である。また、繊維を切断する工程の繊維束の水分率を上記の数値範囲に保つことによって、得られる有機樹脂無捲縮ステープルファイバーの水分率も上述の数値範囲とすることができる。なお、本発明の効果を損なわない範囲において、有機樹脂からなる無捲縮ステープルファイバーの表面は、分散剤、耐光剤、平滑剤、接着剤、およびそれらを複合させた剤などの表面処理剤で処理されていてもよい。それらの中でも、ポリエステル無捲縮ステープルファイバー、ポリオレフィン無捲縮ステープルファイバーの場合には、有機樹脂と分散媒体の双方に親和性のあるポリエステル・ポリエーテル共重合体を付与することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の有機樹脂無捲縮ステープルファイバーは、湿式不織布やステープルファイバー補強樹脂用途での使用の際、分散媒体中で均一に分散し、かつ凝集塊の発生を抑制することができる。その結果、その無捲縮ステープルファイバーを材料として用いて得られる不織布等は、ステープルファイバーが均一に分散している不織布となる。その結果、ミクロなステープルファイバーの分散斑、目付・厚みのバラツキといった欠陥がなく、通気性、通液性等が均一な良好な不織布を得ることができる。更にその不織布等を加工して得られる最終製品の欠陥が少なく、最終製品の物性の信頼性(品質保証に関する信頼)を向上できると共に、中間製品(不織布、樹脂成型体等)の歩留りを向上することができる。故に本発明は、省資源・経済的な観点からもメリットが大きい。
【0056】
実施例
以下に本発明の構成および効果を具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明は、これら実施例になんら限定を受けるものではない。なお、部とは特段断らない限りは重量部を表すものとし、実施例および比較例中の各物性値は、以下の方法に従って測定した。
【0057】
(1)固有粘度:[η]
ポリエステル繊維の場合には、繊維(ポリマー)サンプル0.12gを10mLのテトラクロロエタン/フェノール混合溶媒(容量比1/1)に溶解し、35℃における固有粘度(dL/g)を測定した。また、全芳香族ポリアミド繊維の場合には、繊維(ポリマー)を97質量%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0058】
(2)メルトフローレイト:MFR
メルトフローレイトは日本工業規格JIS K 7210の条件4(測定温度190℃、荷重21.18N)に準じて測定した。なお、メルトフローレイトは溶融紡糸直前のポリマーペレットを試料として測定した値である。
【0059】
(3)融点:Tm
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。測定は、ポリマー試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温し、結晶融解吸熱ピークのピークトップ温度を融点と定義した。
【0060】
(4)単糸繊度
日本工業規格JIS L 1015:2005 8.5.1 A法に記載の方法により測定した。すなわち、以下の手法によって測定した。繊維試料の若干量を金ぐしで平行に引きそろえ、これを切断台上に置いたラシャ紙の上に載せる。適度の力でまっすぐ繊維試料を張ったままゲージ板を圧着し、安全かみそりなどの刃で30mmの長さに切断する。繊維を数えて300本を一組とし、その質量を量り、見掛繊度を求める。この見掛繊度と別に測定した平衡水分率とから、下式によって正量繊度を算出する。正量繊度の5回の平均値を算出する。
F=[(100+R0)/(100+Rc)]×D
F:正量繊度
D:見掛繊度
R0:公定水分率(%)(日本工業規格JIS L 0105 4.1に規定する値)
Rc:平衡水分率(%)
【0061】
(5)カット端係数
無捲縮ステープルファイバー50本をランダムに取り出し、カバーグラスを乗せ、そのカバーグラスの自重がかかった状態で光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で拡大し、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡の測長機能により、添付の図1に示したようにカット端の最大の径b、単糸の繊維径aをそれぞれ測定し、以下の式からカット端係数を計算した。
カット端係数=b/a
カット端係数の評価は各繊維について得られた数値の平均値で行った。
【0062】
(6)繊維長相対変動係数
無捲縮ステープルファイバー50本をランダムに取り出し、カバーグラスを乗せ、そのカバーグラスの自重がかかった状態で光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で拡大し、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡の測長機能により、繊維の長さを測定し、その平均値と標準偏差を計算した上で、下式により繊維長相対変動係数(CV%)を算出した。
繊維長相対変動係数(CV%)=(繊維長の標準偏差)/(繊維長の平均値)×100(%)
【0063】
(7)水分率
水分を含んだ約100gの繊維を120℃の熱風循環式の乾燥機中で絶乾になるまで乾燥する。乾燥前の資料の重量W0と乾燥後の試料の重量W1から、次式によって求めた。
水分率(%)=[(W0−W1)/W1]×100
【0064】
(8)水中分散性
カット端や繊維長による繊維の凝集欠点の有無を判定するため、得られた繊維の水中分散性を評価した。1000ccビーカーに500ccの軟化水を入れ、この中に所定の繊維長に切断した繊維を0.5g入れ、マグネットスターラー(撹拌子)で常温下20分撹拌した。これを0.15ミリメートル角の網目を有する金網で濾過し、その金網上に残った1平方ミリメートル以上の大きさをもつ繊維塊の数を数え、繊維塊が3個以下の場合を○印、3〜5個認められる場合を△印、5個以上認められる場合を×印で示した。
【0065】
実施例1
二酸化チタンを0.3重量%含有し、固有粘度が0.64dL/gのポリエチレンテレフタレート(PET)チップを290℃で溶融し、3000個の丸孔を有する紡糸口金から吐出量450g/分で吐出し、これを1320m/分の速度で引き取り、単糸繊度が1.14デシテックスのポリエチレンテレフタレート未延伸糸を得た。この未延伸糸を引き揃えて、14万デシテックスのトウとして、温水中において全延伸倍率2.51倍となるように2段延伸した後、ポリエステル・ポリエーテル共重合体をポリエステル繊維重量に対して0.3重量%付与した。ポリエステル・ポリエーテル共重合体を付与した後、120℃で弛緩状態において乾燥、熱セットを行い、単糸繊度0.51デシテックスの捲縮のない延伸ポリエチレンテレフタレート繊維束を得た。得られた延伸ポリエチレンテレフタレート繊維束を水分率15%となるようオイリングローラーで水を付与し、ステープルファイバーの繊維長が3.0ミリメートルとなるように刃間隔3.0ミリメートルのイーストマン式ロータリーカッター型繊維切断装置を用いて、繊維を切断した。この切断の際には、ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比を1.02に設定して、プレッシャーロールで繊維束をカッター刃に押圧しながら繊維を切断した。得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの繊度、水分率、カット端係数、繊維長相対変動係数、水中分散性等の評価結果を表1に示した。
【0066】
実施例2
ステープルファイバーの繊維長が1.5ミリメートルとなるように切断した以外は実施例1と同様の操作を行い、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表1に示した。
【0067】
実施例3
実施例1で得た捲縮のない延伸ポリエチレンテレフタレート繊維束を水中に浸漬してニップローラーで把持して絞り、水分率30%とした上で、これを4本並列に配置した繊維束を作成した。この繊維束を円筒状の容器内に充填された煮沸処理水中に浸漬した状態で、−12℃の雰囲気温度で15時間かけて氷結させ、氷で包摂された繊維束を得た。氷で包摂された繊維束を繊維長1.5ミリメートルになるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)で切断した。氷を溶解した後に得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表1に示した。以下、この実施例3〜実施例5で行った氷で包摂された繊維束を形成させ、ギロチンカッターでカットするカット方式を表1、表3中では「氷柱化+ギロチン」と表した。
【0068】
実施例4
以下の操作にて海島型複合繊維から極細長繊維束を製造した。島成分として285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレートを選択し、海成分として数平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した、285℃での溶融粘度が135Pa・secである改質共重合ポリエチレンテレフタレートを選択した。次に、海成分:島成分の重量比率が30:70で島数400の複合繊維用紡糸口金を用いて、紡糸速度1500m/minで溶融紡糸し、3.9倍で延伸した超極細繊維前駆体繊維(海島型複合繊維)を得た。延伸後の超極細繊維前駆体繊維を束ねて50万デシテックスの繊維束を得た後、得られた繊維束を75℃下、4重量%の水酸化ナトリウム水溶液中、浸漬時間15分になるように速度を調整して、浸漬し、通過させた。その結果、超極細繊維前駆体繊維の繊維束から、27.6重量%が減量された超極細長繊維束(単糸の繊維直径750ナノメートル、0.0056デシテックス)を得た。
【0069】
この超極細長繊維束を水中に浸漬してニップローラーで保持して絞り、水分率を100%とした後に、これを4本並列に配置した繊維束を作成した。この繊維束を円筒状の容器内に充填された煮沸処理水中に浸漬した状態で−12℃の雰囲気温度で15時間かけて氷結させ、氷で包摂された繊維束を得た。氷で包摂された繊維束を繊維長0.05ミリメートルになるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)を用いて切断した。氷を溶解した後に得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表1に示した。
【0070】
実施例5
実施例4において、島数1500の口金を用いて、単糸繊度0.0004デシテックス(繊維直径200ナノメートル)、繊維長が0.02ミリメートルとなるように紡糸、延伸、切断する以外は実施例4と同様の操作を行った。得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表1に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
比較例1
実施例1で得た捲縮のない延伸ポリエチレンテレフタレート繊維束を10本束ねて140万デシテックスとした後に紙で包摂した。次に、包摂した繊維束を繊維長が3.0ミリメートルとなるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)で切断し、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表2に示した。
【0073】
比較例2
ステープルファイバーの繊維長を1.5ミリメートルとなるように切断した以外は比較例1と同様の操作を行い、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表2に示した。
【0074】
比較例3
ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比を0.98に設定して切断した以外は、実施例1と同様の操作を行い、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表2に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例6
[紡糸液調製工程]
温度計、攪拌装置および原料投入口を備えた反応容器に、モレキュラーシーブスで脱水したN−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と略称する。)815部を入れ、このNMP中にメタフェニレンジアミン108部を溶解した後、0℃に冷却した。この冷却したメタフェニレンジアミン溶液に、蒸留精製し窒素雰囲気中で粉砕したイソフタル酸クロライド203部を、攪拌下に添加して反応させた。反応温度は約50℃に上昇し、この温度で60分間攪拌を継続し、さらに60℃に加温して60分間反応させた。
【0077】
反応終了後、水酸化カルシウム70部を微粉末状で重合溶液中に添加して、60分かけて中和溶解した(1次中和)。残りの水酸化カルシウム4部をNMP83部に分散させたスラリー液を調製し、調製したスラリー液(中和剤)を、上記の1次中和した重合溶液に攪拌しながら添加した(2次中和)。2次中和は、40〜60℃で約60分間攪拌して実施し、水酸化カルシウムを完全に溶解させた重合体溶液(紡糸液)を調製した。
重合体溶液(紡糸液)の重合体濃度(すなわち重合体とNMPの合計100重量部に対する重合体の重量部数)は14であり、生成したポリメタフェニレンイソフタルアミド重合体の固有粘度(IV)は2.37dL/gであった。また、この重合体溶液(紡糸液)の塩化カルシウム濃度および水の濃度は、重合体100部に対し、塩化カルシウム46.6部、水15.1部であった。
【0078】
[紡糸・凝固工程]
上記紡糸液調製工程で調製した紡糸液を、孔径0.07ミリメートル、孔数500の口金から、浴温度40℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水、NMP、塩化カルシウムの質量比率が48:48:4の液体であり、凝固浴中に浸漬長(有効凝固浴長)70cmにて、糸速5m/分で通過させた。凝固浴上がりの多孔質繊維状物の密度は、0.71g/cmであった。
【0079】
[可塑延伸浴延伸工程]
引き続き、可塑延伸浴中にて3.0倍の延伸倍率で延伸を行った。このときに用いた可塑延伸浴の組成は、水、NMP、塩化カルシウムの質量比率が44:54:2の液体であり、温度は40℃であった。
【0080】
[洗浄工程]
可塑延伸した繊維束を、30℃の冷水で十分に水洗を行った後、さらに60℃の温水で十分に洗浄した。洗浄後の冷水および温水中のアミド系溶媒の濃度が充分に低下していることを確認した。
【0081】
[飽和水蒸気処理工程]
引き続き、飽和水蒸気圧力0.05MPaに保たれた容器中にて、延伸倍率1.1倍で、飽和水蒸気による熱処理を行った。熱処理は、繊維束が飽和水蒸気により約1.0秒間処理されるよう繊維束の走行距離、繊維束の走行速度等の条件を調整した。
【0082】
[乾熱処理工程]
続いて、表面温度360℃の熱板上で、延伸倍率1.0倍(定長)にて乾熱処理を行った後に、得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を巻き取った。
【0083】
[長繊維の物性]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド延伸繊維は、十分に緻密化しており、繊度0.8デシテックス、密度1.33g/cm、引張強度3.68cN/dtex、伸度42%であり、良好な力学特性を示し、品質もバラツキが無く、異常糸の発生は全く見られなかった。
【0084】
[切断工程]
上記で得た乾熱処理を行った後に巻き取ったポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維から繊維束を作成した。得られた繊維束を、水分率15%となるよう水を付与した。次に、ステープルファイバーの繊維長が3.0ミリメートルとなるように刃間隔3.0ミリメートルのイーストマン式ロータリーカッター型繊維切断装置を用い、ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比を1.02に設定して、プレッシャーロールで繊維束をカッター刃に押圧しながら、繊維束を切断した。得られたメタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの繊度、水分率、カット端係数、繊維長相対変動係数、水中分散性等の評価結果を表3に示した。
【0085】
実施例7
実施例6で得た、乾熱処理を行った後に巻き取り、水を付与したポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維から作成した繊維束を4本並列に配置し、繊維束を作成した。この4本並列に配置した繊維束を円筒状の容器内に充填された煮沸処理水中に浸漬した状態で、−12℃の雰囲気温度で15時間かけて氷結させ、氷で包摂された繊維束を得た。氷で包摂された繊維束を繊維長1.0ミリメートルになるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)で切断した。氷を溶解した後に得られたメタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表に示した。
【0086】
実施例8
ステープルファイバーの繊維長が0.02ミリメートルとなるように切断した以外は、実施例7と同様の操作を行った。氷を溶解後に得られたメタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表3に示した。
【0087】
【表3】
【0088】
比較例4
実施例6で得た、乾熱処理を行った後に巻き取り、水を付与したポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維から作成した繊維束を、繊維長が3.0ミリメートルとなるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)を用いて切断し、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたメタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表4に示した。
【0089】
比較例5
実施例6で得た、乾熱処理を行った後に巻き取り、水を付与したポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維から作成した繊維束を、繊維長が1.0ミリメートルとなるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)を用いて切断し、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたメタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表4に示した。
【0090】
比較例6
ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比を0.98に設定して切断した以外は、実施例6と同様の操作を行い、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたメタ型全芳香族ポリアミド無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表4に示した。
【0091】
【表4】
【0092】
実施例9
低融点熱接着成分として、MFRが20g/10min、融点Tmが131℃の高密度ポリエチレン(HDPE)を選択し、繊維形成性成分として、MFRが39g/10min、Tmが160℃のアイソタクチックポリプロピレン(PP)を選択した。これらのポリオレフィンを各々別のエクストルーダーで溶融し、各々245℃の溶融ポリマーとして、HDPEを鞘成分、PPを芯成分とし、複合比率を鞘:芯=50:50(重量比)として、円形の吐出孔を1336孔有する同心芯鞘型複合紡糸口金を用いて、複合化して溶融吐出させた。この溶融吐出の際、口金温度は260℃、吐出量は190g/分であった。さらに、吐出ポリマーを口金下31mmの位置で27℃の冷却風で空冷し、糸条に対して、ポリエーテル・ポリエステル共重合体エマルジョンをオイリングローラーにて付与した後、1300m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を束ねて、95℃の温水中において、4.10倍で延伸し、延伸油剤として、ポリエーテル・ポリエステル共重合体を付与した後、105℃で60分間乾燥し、単糸繊度0.32デシテックス、トータル繊度7万デニールのポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維束を得た。得られた複合繊維束を水分率15%となるようオイリングローラーで水を付与し、ステープルファイバーの繊維長が3.0ミリメートルとなるように刃間隔3.0ミリメートルのイーストマン式ロータリーカッター型繊維切断装置で、繊維を切断した。この切断の際には、ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比は1.02に設定して、プレッシャーロールで繊維束をカッター刃に押圧しながら、繊維を切断した。得られたポリオレフィン無捲縮複合ステープルファイバーの繊度、水分率、カット端係数、繊維長相対変動係数、水中分散性等の評価結果を表3に示した。
【0093】
実施例10
ステープルファイバーを構成する有機樹脂として、MFRが39g/10min、融点Tmが160℃のアイソタクチックポリプロピレン(PP)を選択した。次に、このPPをエクストルーダーで溶融し、255℃の溶融ポリマーとして、円形の吐出孔を3000孔有する紡糸口金を用いて、溶融吐出させた。この際、口金温度は260℃、吐出量は190g/分であった。さらに、吐出ポリマーを口金下25mmの位置で27℃の冷却風で空冷し、1300m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を束ねて、95℃の温水中において、2.70倍で延伸した後、延伸油剤として、ポリエーテル・ポリエステル共重合体を付与した。その後、延伸糸を110℃で60分間乾燥し、単糸繊度0.30デシテックス、トータル繊度7万デニールのポリプロピレン繊維束を得た。得られたポリプロピレン繊維束を水分率15%となるようオイリングローラーで水を付与し、ステープルファイバーの繊維長が3.0ミリメートルとなるように刃間隔3.0ミリメートルのイーストマン式ロータリーカッター型繊維切断装置で繊維を切断した。この切断の際には、ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比は1.02に設定して、プレッシャーロールで繊維束をカッター刃に押圧しながら繊維を切断した。得られたポリプロピレン無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表5に示した。
【0094】
実施例11
ステープルファイバーを構成する有機樹脂として、MFRが20g/10min、融点Tmが131℃の高密度ポリエチレン(HDPE)を選択した。次に、このHDPEをエクストルーダーで溶融し、210℃の溶融ポリマーとして、円形の吐出孔を144孔有する紡糸口金を用いて、溶融吐出させた。この際、口金温度は210℃、吐出量は15g/分であった。さらに、吐出ポリマーを口金下25mmの位置で27℃の冷却風で空冷し、1000m/分で巻き取り、未延伸糸を得た。この未延伸糸を束ねて、95℃の温水中において、3.60倍で延伸した後、延伸油剤として、ポリエーテル・ポリエステル共重合体を付与した。その後、延伸糸を105℃で60分間乾燥し、単糸繊度0.32デシテックス、トータル繊度7万デニールのポリエチレン繊維束を得た。得られたポリエチレン繊維束を水分率15%となるようオイリングローラーで水を付与し、ステープルファイバーの繊維長が3.0ミリメートルとなるように刃間隔3.0ミリメートルのイーストマン式ロータリーカッター型繊維切断装置で繊維を切断した。この切断の際には、ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比を1.02に設定して、プレッシャーロールで繊維束をカッター刃に押圧しながら繊維を切断した。得られたポリエチレン無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表5に示した。
【0095】
【表5】
【0096】
比較例7
実施例9で得た水を付与した後の捲縮のないポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘型複合繊維束を20本束ねて140万デシテックスとした後に紙で包摂した。次に、包摂した芯鞘型複合繊維束を繊維長が3.0ミリメートルとなるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)で切断し、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘型複合ステープルファイバーの評価結果を表6に示した。
【0097】
比較例8
実施例10で得た水を付与した後のポリプロピレン繊維束を20本束ねて140万デシテックスとした後に紙で包摂した。次に、包摂したポリプロピレン繊維束を繊維長が3.0ミリメートルとなるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)で切断し、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリプロピレン無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表6に示した。
【0098】
比較例9
実施例11で得た水を付与した後のポリエチレン繊維束を20本束ねて140万デシテックスとした後に紙で包摂した。次に、包摂したポリエチレン繊維束を繊維長が3.0ミリメートルとなるよう調整した公知のギロチンカッター式繊維束切断装置(小野打製作所、型式:D100)で切断し、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリエチレン無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表6に示した。
【0099】
【表6】
【0100】
比較例10
ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比を0.98に設定して切断した以外は、実施例9と同様の操作を行い、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリエチレン/ポリプロピレン芯鞘型複合無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表7に示した。
【0101】
比較例11
ロータリーカッターとフィードローラーの間のドラフト比を0.98に設定して切断した以外は、実施例10と同様の操作を行い、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリプロピレン無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表7に示した。
【0102】
比較例12
水分率1.0%となるようスプレーで水付与した後、ロータリーカッターに供給し切断した以外は、実施例1と同様の操作を行い、無捲縮ステープルファイバーを得た。得られたポリエステル無捲縮ステープルファイバーの評価結果を表7に示した。
【0103】
【表7】
図1