(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラス組成を有するガラス粉末に対してフィラーが、ガラス粉末/フィラーの重量比で50/50〜99/1の範囲で配合されてなる請求項1〜4の何れかに記載の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材。
対向するガラス基板の周辺部間に前記請求項1〜5のいずれかに記載の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材を介在させ、このガラス材をレーザー光の照射によって加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することを特徴とするフラットディスプレイの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットディスプレイとして、ジアミン類等の有機物発光体を用いる自発光型の有機ELディスプレイが脚光を浴びている。この有機ELディスプレイは、例えば
図1に示すように、ガラス製のEL素子基板1の片面(内面)側に、下層側から順次、平行ストライプ状の下部電極2、有機発光層3、下部電極2に対して直交方向に沿う平行ストライプ状の上部電極4が形成され、このEL素子基板1と対向配置する封止ガラス板5との周辺部間をシール層6によって封着した構造を有している。
【0003】
このような有機ELディスプレイは、明るく高いコンストラクトで表示認識性に優れる上、極めて薄型に構成でき、例えばケイタイ(携帯電話)やデジタルカメラ等の小型デバイス用として総厚1mm以下といった超薄型ディスプレイにも適用可能であり、また全体を固体材料で構成できると共に、直流駆動で駆動回路も簡単になるといった多くの利点がある。その反面、水分との接触で有機EL素子の発光特性が著しく劣化するという難点があることから、該有機EL素子を外気から厳密に遮断する必要がある。
【0004】
現在、有機ELディスプレイの封止手段として、ガラスフリットとレーザーを用いた封止方法が有力視されている。すなわち、ガラスフリットは、金属酸化物を主とする構成成分の粉末混合物を加熱溶融してガラス化し、これを微粉砕したものであり、その粉末をペースト化して封着部位に塗着し、加熱によって再溶融させて封着ガラス層を形成する。しかるに、一般的なガラスフリットの封止温度は400℃以上であるが、有機ELディスプレイの場合、炉内加熱による封止では有機EL素子が高温の影響で損傷したり熱劣化することから、ガラスフリットを介在させたパネル周辺部にレーザービームを照射し、封止部分のみを局所的に加熱してガラスフリットを溶融させる方法が適している。
【0005】
このレーザー封着では、良好な封止品質を得る上で、ガラスフリットとしてレーザー光の吸収性が高いものを用いることが望ましく、この点から茶褐色ないし濃褐色の色調を持つバナジウム系のガラスフリットが有望視される。しかして、バナジウム系のガラスフリットとして、従来より種々のガラス組成が提案されている。例えば、特許文献1には、V
2O
5−P
2O
5−Bi
2O
3系で、Zn,Te,アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を任意選択成分とするものが開示されている。特許文献2には、V
2O
5−P
2O
5系で、Sb,Fe,K,Ti,Al,B,W及びBiの酸化物を任意選択成分とするものが開示されている。特許文献3には、V
2O
5−TeO
2−BaO−WO
3系ならびにV
2O
5−TeO
2−BaO−ZnO−Sb
2O
3系で、P,Sr,Ge,La,Cr,Nb,Y,Mg,Ce,Er等の酸化物を任意選択成分とするものが開示されている。特許文献4には、V
2O
5−TeO
2−P
2O
5系で、ZnO及びBaOを任意選択成分とするものが開示されている。特許文献5には、V
2O
5−TeO
2−Ag
2O系で、P,Ba,Zn,K,W,Fe,Mn,Sb等の酸化物を任意選択成分とするものが開示されている。また、本出願人は先に特許文献6として、V
2O
5−ZnO−BaO−TeO
2系で、Nb,Al,Si,Mg,Sb,Cu,Snの酸化物を任意選択成分とし、且つNb
2O
5+Al
2O
3を特定範囲で含む有機EL封着用無鉛ガラス材を提案している。
【0006】
しかるに、特許文献1〜5に開示されるバナジウム系ガラスフリットは、必須成分もしくは特に好ましい選択成分としてP
2O
5を含む組成であるため、再溶融した封止ガラス部の耐水性が不充分であり、経時的に水分が内部に浸入して有機EL素子の発光特性の低下を将来するという難点があった。また、ガラスフリットは、レーザー封着の場合でも有機EL素子への熱的悪影響を少なくする上で軟化温度がより低いこと、封止を確実にして且つ封着強度を高めるために熱膨張係数が封着対象のガラス基板の熱膨張係数により近いこと、封止を連続的に行う際の条件を緩和してエラー発生を抑制するために安定性が高く溶融時に結晶析出を生じにくいこと、が望ましい。しかるに、従来のガラスフリットでは、これら低温軟化性、熱膨張係数、安定性等の面で満足な性能を発揮できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、本出願人の提案に係る特許文献6(以下、先願特許と称する)に記載の無鉛ガラス材は、P
2O
5を含まない組成であって耐水性に優れると共に、低い軟化温度で熱膨張係数が小さく、溶融時の安定性も高く、レーザー封着によって有機EL素子の熱的悪影響を抑制しつつ、高歩留りで高い封止性及び大きな封着強度を達成できるものである。しかるに、この無鉛ガラス材は上述のように有機ELディスプレイの封着用として高い適性を備えるが、レーザー封止性、耐水性、熱膨張係数、材料コスト等の面で更なる改善の余地があった。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ等のフラットディスプレイにおけるガラス部材同士の接合部を、レーザー加熱の如き局所加熱方式によって封着するのに用いるバナジウム系ガラス材として、前記本出願人の提案に係る無鉛ガラス材に比して、レーザー封止性及び耐水性により優れると共に、熱膨張係数がより小さく、しかも材料コストを大きく低減できるものを提供することを目的としている。また、本発明の他の目的は、上記の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材を用いることにより、優れた品質で長期信頼性の高いフラットディスプレイと、該ディスプレイを効率よく確実に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る局所加熱封着用バナジウム系ガラス材は、モル%表示で、V
2O
5:30.0〜60.0%、ZnO:20.1〜30.0%、TeO
2:10.0〜25.0%、Al
2O
3:1.0〜5.0%、Nb
2O
3:0.5〜5.0%、BaO:0〜10.0%、Fe
2O
3:0〜5.0%、MnO:0〜5.0%、CuO:0〜5.0%、SiO
2:0〜5.0%、CaO:0〜8.0%を含み、実質的にPb及びPを含有しないガラス組成を有することを特徴としている。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材において、前記ガラス組成におけるFe
2O
3が1.0〜5.0モル%である構成としている。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材において、前記ガラス組成におけるMnO
2が1.0〜5.0モル%である構成としている。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材において、前記ガラス組成におけるCuOが1.0〜5.0モル%である構成としている。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの局所加熱封着用バナジウム系ガラス材において、前記ガラス組成を有するガラス粉末に対してフィラーが、ガラス粉末/フィラーの重量比で50/50〜99/1の範囲で配合されてなるものとしている。
【0015】
請求項6の発明に係るフラットディスプレイは、請求項1〜5のいずれかに記載の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材によって対向するガラス基板の周辺部間が封着されてなるものとしている。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6のフラットディスプレイにおいて、前記ガラス基板の熱膨張係数が35×10
-7/℃〜50×10
-7/℃であるものとしている。
【0017】
請求項8 の発明に係るフラットディスプレイの製造方法は、対向するガラス基板の周辺部間に前記請求項1〜5のいずれかに記載の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材を介在させ、このガラス材をレーザー光の照射によって加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、局所加熱封着用バナジウム系ガラス材として、V
2O
5,ZnO,TeO
2,Al
2O
3及びNb
2O
5を必須成分として各々特定比率で含むことから、ガラス転移点及び軟化点が低く低温加工性に優れることに加え、熱膨張係数が極めて小さく、溶融時の流動性及び安定性が良好であり、しかもレーザー光の吸収性がよく、少ない入熱量でのレーザー封着によってフラットディスプレイにおける有機EL素子等の内部機能要素への熱衝撃を抑制して良好な表示性能を確保しつつ、封止条件の厳密な管理制御を要することなく高歩留りで高い封止性及び大きな封着強度を達成できる。加えて、このバナジウム系ガラス材は、Pを含まないために封止部の耐水性に極めて優れており、特に有機ELディスプレイの封着に用いた場合に、長期にわたって有機EL素子の高い発光特性を確保できる。更に、このバナジウム系ガラス材では、極めて高価なTeO
2の比率を少なくできるため、従来のバナジウム系ガラス材に比較して材料コストを大幅に低減でき、またPbを含まないことで毒性の問題もない。
【0019】
請求項2の発明によれば、上記のV
2O
5,ZnO,TeO
2,Al
2O
3及びNb
2O
5の5成分に加え、Fe
2O
3を必須成分として特定範囲で含むことから、封着ガラスの強度が増すと共に封着ガラス層の熱膨張係数も小さくなり、フラットディスプレイの長期信頼性を高めることができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、上記のV
2O
5,ZnO,TeO
2,Al
2O
3及びNb
2O
5の5成分に加え、MnO
2を必須成分として特定範囲で含むことから、光の吸収特性が向上し、それだけ低出力でのレーザー封着が可能となる。
【0021】
請求項4の発明によれば、上記のV
2O
5,ZnO,TeO
2,Al
2O
3及びNb
2O
5の5成分に加え、CuOを必須成分として特定範囲で含むことで封着ガラス層の熱膨張係数がより小さくなり、封着対象のガラス基板の熱膨張係数に近付くため、温度変化に伴って封着部に生じる応力が緩和され、それだけフラットディスプレイの長期信頼性が向上する。
【0022】
請求項5の発明によれば、上記ガラス組成のガラス粉末に対してフィラーが特定量配合されていることから、封着ガラス層の熱膨張係数を封着対象のガラス基板の熱膨張性に確実に近付けて封止性を高めることができると共に、該封止ガラス層の強度が向上する。
【0023】
請求項6の発明によれば、フラットディスプレイとして、対向するガラス基板の周辺部間が上記の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材にて封着されていることから、内部の有機EL素子等の機能要素が外気から完全に遮断されて且つ封止部の封止強度に優れ、もって良好な表示性能を長期にわたって安定的に発揮できるものが提供される。
【0024】
請求項7の発明によれば、ガラス基板の熱膨張係数が特定範囲にある上記のフラットディスプレイとして、該ガラス基板と封止ガラス層との熱膨張性が適合し易く、もって高い封止品質を備えて耐久性により優れるものが提供される。
【0025】
請求項8の発明に係るフラットディスプレイの製造方法によれば、対向するガラス基板の周辺部間に上記の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材を介在させ、このガラス材をレーザー光の照射によって加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着することから、封止に伴う入熱量を少なくして有機EL素子等の内部機能要素への熱衝撃を抑制しつつ、また封止条件の厳密な管理制御を要することなく、良好な封止品質を備えて耐久性に優れたフラットディスプレイを高能率で且つ高歩留りで量産できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材は、次のガラス組成を有して且つ実質的にPb及びPを含有しないものである。
V
2O
5 :30.0〜60.0モル%
ZnO :20.1〜30.0モル%
TeO
2 :10.0〜25.0モル%
Al
2O
3: 1.0〜 5.0モル%
Nb
2O
3: 0.5〜 5.0モル%
BaO : 0 〜 10.0モル%
Fe
2O
3: 0 〜 5.0モル%
MnO : 0 〜 5.0モル%
CuO : 0 〜 5.0モル%
SiO
2 : 0 〜 5.0モル%
CaO : 0 〜 8.0モル%
【0028】
すなわち、このバナジウム系ガラス材は、基本的には、V
2O
5,ZnO,TeO
2の3成分が主体であって、且つ少量のNb
2O
5及びAl
2O
3を必須須成分として含むものであるが、先願特許に係るV
2O
5−ZnO−BaO−TeO
2系の封着用ガラス材に比較して、概してTeO
2及びBaOの比率が低く(BaOはゼロ%でもよい)、代わりにZnOの比率が高くなっている。なお、先願特許を含めて、従来におけるレーザー封着用のバナジウム系ガラスフリットとしては、有色のV
2O
5及びTeO
2の含有比率を高くすることでレーザー封着性を確保したものが一般的であるが、特にTeは埋蔵量が非常に少ない希少金属であって極めて高価であるため、当然にTeO
2の比率を高めたバナジウム系ガラスフリットも材料コストが高く付き、この点がレーザー封着用としてのバナジウム系ガラスフリットの普及を妨げる要因となっていた。
【0029】
しかしながら、本発明のバナジウム系ガラス材では、後述する実施例にて示すように、TeO
2の比率を10モル%近くまで低くしても、他の構成成分との組合せによって優れたレーザー封着性が得られるから、従来に比較して材料コストを大幅に低減することが可能である。また、このバナジウム系ガラス材では、先願特許のV
2O
5−ZnO−BaO−TeO
2系の封着用ガラス材に比して、TeO
2とBaOの合計比率(BaOなしを含む)を低く設定して、且つZnOの比率を高めていることで、封着ガラス層の熱膨張係数がより小さくなっており、これによってフラットディスプレイのガラス基板と封着ガラス層との熱膨張性を適合させ易くなり、もって非常に優れた封止性及び大きな封着強度を付与できる。
【0030】
更に、このバナジウム系ガラス材は、Pを実質的に含有しないことで、封着ガラス層が極めて優れた耐水性を備えるものとなり、特に有機ELディスプレイの封着に用いた場合に、長期にわたって有機EL素子の高い発光特性を確保できる。またPbを含まないことで毒性の問題もない。
【0031】
上記ガラス組成において、V
2O
5の割合は、多過ぎてはレーザー封着時に失透する懸念があり、逆に少な過ぎてはガラス転移点〔Tg〕及び軟化点〔Tf〕の上昇によって低温加工性が悪化すると共に封着ガラス層の熱膨張性が大きくなる。なお、V
2O
5のより好適な比率は、30.0〜50.0モル%である。
【0032】
ZnOの割合は、少な過ぎては封着ガラス層の熱膨張係数を充分に小さくできず、逆に多過ぎてはガラス化が阻害されて溶融不能や溶け残りを生じ易くなる。
【0033】
TeO
2の割合は、既述のように材料コストを低減する観点から少なくすることが望ましいが、少な過ぎてはレーザー封着時に失透する懸念があるため10.0モル%以上とする。また、多過ぎる場合は、材料コストが嵩むだけでなく、封着ガラス層の熱膨張係数が大きくなるという問題がある。なお、TeO
2のより好適な比率は、10.0〜22.5モル%である。
【0034】
Nb
2O
5とAl
2O
3については、上記規定範囲内での配合により、低温加工性が大きく向上すると共に封着ガラス層の熱膨張係数も大幅に低減し、またガラスの安定性が増し、耐水性や耐薬品性も上昇する。しかるに、それぞれの割合が多過ぎると、熱膨張係数が更に下がっても低温加工性は却って悪化する。なお、割合が少な過ぎては充分な配合効果が得られず、特にAl
2O
3は2.0モル%以上の配合が推奨される。
【0035】
更に、本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材では、V
2O
5,ZnO,TeO
2,Nb
2O
5,Al
2O
3の5種の必須成分の他に、必要に応じて他の種々の酸化物成分を配合できる。このような任意の配合成分として好適なものは、上記のガラス組成で示すBaO、Fe
2O
3、MnO
2、CuO、SiO
2、CaOの6種であり、これらの中でも特にFe
2O
3、MnO
2、CuOの3種が有用である。
【0036】
上記の好適な任意成分の内、BaOは、ZnO及びTeO
2と共に網目修飾酸化物として機能する成分であるが、本発明のバナジウム系ガラス材においては配合割合が多過ぎると封着ガラス層の熱膨張係数が大きくなることから、上記ガラス組成で示すように10.0モル%以下とするが、より好ましくは4.0モル%以下とするのがよい。
【0037】
同様の任意成分の内、Fe
2O
3は、封着ガラスの強度を向上させる効果が大きく、また封着ガラス層の熱膨張係数を小さくする作用もあるため、1.0モル%以上を配合することが推奨される。ただし、その割合が多過ぎてはガラスの溶融段階での粘性が増加して回収率を低下させるため、上限を5.0モル%とする。
【0038】
同様の任意成分の内、MnO
2は、ガラス成分中に溶け込むことでレーザー封着に有効な光の吸収性を向上させる作用があり、低出力でのレーザー封着に有用であるため、1.0モル%以上を配合することが推奨される。ただし、その割合が多過ぎてはFe
2O
3と同様にガラスの溶融段階での粘性を増加させるため、上限を5.0モル%とする。
【0039】
同様の任意成分の内、CuO及びSiO
2は、上記ガラス組成に追加配合することによって熱膨張係数を低減する効果がある。特に、CuOは、熱膨張係数の低減効果が大きいため、1.0モル%以上を配合することが推奨される。ただし、CuOが多過ぎては結晶化し易くなると共に溶融状態での流動性が悪化し、またSiO
2が多過ぎては低温加工性を阻害するため、各々の上限は5.0モル%とする。
【0040】
同様の任意成分の内、CaOは、封着ガラスの安定性を向上させる作用があるが、配合量が多すぎては結晶化現象を生じる要因となるため、上限を8.0モル%とする。
【0041】
本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材を製造するには、原料の粉末混合物を白金るつぼ等の容器に入れ、これを電気炉等の加熱炉内で所定時間焼成して溶融させてガラス化し、この溶融物をアルミナボート等の適当な型枠に流し込んで冷却し、得られたガラスブロックを粉砕機によって適当な粒度まで粉砕してガラスフリットとすればよい。そのガラスフリットの粒度は、0.05〜100μmの範囲が好適であり、上記粉砕による粗粒分は分級して除去すればよい。ただし、小型デバイス用の超薄型ディスプレイのシール材に用いるガラスフリットでは、前記粒度を10μm以下、より好適には6μm以下とすることが推奨される。
【0042】
上記の粉砕には、従来よりガラスフリット製造に汎用されているジェットミル等の各種粉砕機を使用できるが、特に3μm以下といった細かい粒度にするには湿式粉砕を利用するのがよい。この湿式粉砕は、水やアルコール水溶液の如き水性溶媒中で、5mm径以下のアルミナやジルコニアからなるメディア(ボール)もしくはビーズミルを用いて粉砕するものであり、ジェットミル粉砕よりも更に細かく粉砕することが可能であるが、水性溶媒を用いた微粉砕であるため、被粉砕物であるガラス組成物が高い耐水性を備えている必要があり、この点でも本発明のガラス材が適合する。
【0043】
なお、本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材は、前記ガラス組成を有するガラス粉末(ガラスフリット)を単独で使用する以外に、そのガラス粉末に充填材や骨材の如きフィラーを混合した混合物形態としてもよい。このようなフィラーは、その配合によって封着ガラス層の熱膨張係数を更に低下させるから、その配合量の調整によって該封着ガラス層の熱膨張性をフラットディスプレイのガラス基板の熱膨張性に容易に適合させることができる。また、この混合物形態では、加熱溶融時にガラス成分がフィラーの粒子同士を結着するバインダーとして機能するから、得られる封止ガラス層が高強度で緻密なセラミック形態の焼結体になる。
【0044】
上記のフィラーとしては、ガラス成分よりも高融点で、加工時の焼成温度では溶融しないものであればよく、特に種類は制約されないが、例えばリン酸ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、コジェライト、β・ユークリプタート、β・スポジュメン、ジルコン、アルミナ、ムライト、シリカ、β−石英固溶体、ケイ酸亜鉛、チタン酸アルミニウム等の粉末が好適である。しかして、これらフィラーの配合量は、ガラス粉末/フィラーの重量比で50/50〜99/1の範囲とするのがよい。この配合量が多過ぎては、溶融時の流動性が悪化すると共に、ガラス組成物による結着力が不足して強固な焼結体を形成できない。
【0045】
なお、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ等のフラットディスプレイのガラス基板には一般的に無アルカリガラスが採用されるが、その熱膨張係数は通常35×10
-7/℃〜50×10
-7/℃程度である。これに対し、本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材では、ガラス粉末自体の熱膨張係数が低いことから、フィラーの配合による調整で、溶融状態での流動性を充分に確保しつつ、後述するフィラー配合の実施例で示すように、封着ガラス層の熱膨張係数を上記ガラス基板の熱膨張係数と略同等程度まで低下させることができる。
【0046】
本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材のガラス粉末(ガラスフリット)、ならびに該ガラス粉末に前記フィラーを混合した混合粉末は、一般的には有機バインダー溶液に高濃度分散させたペーストとし、これをフラットディスプレイの対向配置させる少なくとも一方のガラス基板の周辺部にスクリーン印刷等で塗工することになるから、予めペースト形態として製品化してもよい。
【0047】
上記ペーストに用いる有機バインダー溶液としては、特に制約はないが、例えばニトロセルロースやエチルセルロースの如きセルロース類のバインダーを、ブチルカルビトールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ターピネオール、パインオイル、芳香族炭化水素系溶剤、シンナーの如き混合溶剤等の溶剤に溶解させたもの、アクリル系樹脂バインダーをケトン類、エステル類、低沸点芳香族等の溶剤に溶解させたものがある。しかして、ペーストの粘度は、塗工作業性面より、30〜3000dPa・sの範囲とするのがよい。
【0048】
本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材を用いた封着加工では、フラットディスプレイの対向するガラス基板の周辺部間に該ガラス材を介在させ、このガラス材を加熱溶融させて両ガラス基板の周辺部間を封着する。このとき、該ガラス材は粉末形態や薄板状形態で両ガラス基板間に介在させることも不可能ではないが、極薄の封着ガラス層とする上で前記ペーストとして少なくとも一方のガラス基板に塗着する方法が推奨される。また、該ガラス材を溶融させるための局所加熱手段としては、レーザー加熱方式に限らず、高周波等による加熱方式もあるが、現状で実用化しているのはレーザー加熱方式である。しかして、本発明のバナジウム系ガラス材の粉末はレーザー光の吸収性がよい褐色から濃褐色を呈するから、優れたレーザー封着性を具備する。
【0049】
しかして、この封着加工の熱処理は、一回で行うことも可能であるが、封着品質を高める上では2段階で行うのがよい。すなわち、まず仮焼成としてガラス材の軟化点〔Tf〕付近まで加熱することにより、ペーストのビークル成分(バインダーと溶媒)を揮散・熱分解させてフリット成分のみが残る状態とし、次いで本焼成としてレーザー光の照射による局部加熱でガラス成分が完全に溶融一体化した封着ガラス層を形成する。
【0050】
このような2段階の熱処理によれば、一段目の仮焼成でビークル成分が揮散除去され、2段目の本焼成ではレーザー加熱によってガラス成分同士が融着することになるから、封着ガラス層中に気泡や脱気によるピンホールが生じるのを防止でき、もって封止の信頼性及び封止部の強度を高めることができる。また、特に有機ELディスプレイでは、内部に熱劣化し易い有機EL素子を配置させると共に、封着部分に電極やリード線、排気管等を挟んで封着固定することから、組立前のペーストを塗着したガラス基板のみで1段目の熱処理を行ったのち、このガラス基板と他の所要部材を用いて製品形態に組み立て、この組立状態で2段目の熱処理を行うことで有機EL素子への熱的悪影響をより軽減できる。
【0051】
本発明のフラットディスプレイは、有機ELディスプレイの場合、既述した
図1で示す概略構成において、シール層6が上記した本発明の局所加熱封着用バナジウム系ガラス材を用いた封着ガラス層からなるものである。そして、このシール層6は、ガラスフリットの溶融固化物として高い気密保持力を持つと共に、対向配置する両ガラス基板つまりEL素子基板1及び封止ガラス板5の表面に対する密着性及び被着強度に優れ、もって高い封止性と大きな封着強度を付与する上、良好な耐水性及び耐薬品性を示す。従って、この有機ELディスプレイでは、封止部の耐久性に優れ、良好な表示性能を長期にわたって安定的に発揮できる上、パッケージ内部に捕水剤や乾燥剤を配設する必要がなく、それだけ内部構成が簡素になって組立製作を容易に低コストで行える。また、耐水性に優れた該ガラス材には水分が吸着しにくいため、封着加工の際にガラスフリットからアウトガスとして水蒸気が発生することがなく、該水蒸気がパッケージ内に入り込んで有機EL素子を劣化させる懸念もない。なお、このような利点は、液晶ディスプレイ等の他のフラットディスプレイにおいても同様である。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、以下において使用した原料酸化物はいずれも和光純薬社製の特級試薬であり、その他の分析試薬等についても同様に特級試薬を用いた。
【0053】
製造例1
原料酸化物としてV
2O
5、BaO、TeO
2、Nb
2O
5、Al
2O
3、ZnO、MnO
2、CuO、Fe
2O
3、SiO
2、CaO、P
2O
5の各粉末を後記表1及び表2に記載の比率(モル%)で混合したもの(全量10g)を白金るつぼに収容し、電気炉内で約1000℃にて60分間加熱して溶融させたのち、その溶融物をアルミナポートに流し込んでガラスバーを作成し、大気中で冷却後に該ガラスバーを自動乳鉢にて粉砕し、この粉砕物を分級して粒径100μm以下のものを採取し、粉末状のバナジウム系ガラス材No.1〜22を製造した。
【0054】
上記方法で製造したバナジウム系ガラス材No.1〜22について、ガラス転移点〔Tg〕、軟化点〔Tf〕、熱膨張係数、溶融状態での流動性及びガラス光沢、レーザー封着性、色合いを調べた。その結果を後記表1及び表2に示す。各項目の測定方法は次の通りである。
【0055】
〔ガラス転移点、軟化点〕
示差熱分析装置(リガク社製TG−8120)により、リファレンス(標準サンプル)としてα−アルミナを用い、加熱速度10℃/分、温度範囲25℃(室温)〜400℃の測定条件でサンプルのガラス転移点〔Tg〕及び軟化点〔Tf〕を測定した。
【0056】
〔熱膨張係数〕
熱機械分析装置(リガク社製TMA8310)により、熱膨張係数を測定した。この測定は、バナジウム系ガラス材粉末を再度溶融し、これを5×5×20mm(縦×横×高さ)の四角柱に成形し、上底面が平行に成形されたものを測定試料として用い、常温〜250℃まで10℃/分で昇温させ、平均熱膨張係数αを求めた。また、標準サンプルには石英ガラスを用いた。
【0057】
〔流動性/ガラス光沢〕
各バナジウム系ガラス材を型内で溶融・硬化させて径8.8mm、厚さ2.0mmのボタン状の成形試料を作製し、この成形試料をガラス基板上に載置した状態で、電気炉内で加熱速度10℃/分で加熱して昇温させてゆき、420℃、450℃、500℃の各温度で10分間保持後に室温まで冷却し、成形試料の状態変化を観察し、次の4段階で評価した。
◎・・・420℃で良好な流動性及びガラス光沢を示す。
○・・・450℃で良好な流動性及びガラス光沢を示す。
△・・・500℃で良好な流動性及びガラス光沢を示す。
×・・・500℃以下では良好な流動性及びガラス光沢を示さない。
【0058】
〔レーザー封着性〕
各バナジウム系ガラス材の各100gに対し、エチルセルロース/ブチルカルビトールアセテート/ターピネオールからなるビークル20gを添加混合してフリットペーストを調製し、矩形の無アルカリガラス基板(長さ40mm、幅30mm、厚さ0.7mm、熱膨張係数40×10
-7/℃)の片面に、該フリットペーストを線幅0.6mm、厚さ約10μmで30×20mmの矩形を描くように塗着した。そして、このガラス基板を電気炉中で300℃にて60分間仮焼成したのち、該ガラス基板のフリット塗着面側に同寸法の無アルカリガラス基板を長手方向に位置ずれした状態に重ねてクリップで固定し、その仮焼成側のガラス基板を上面として前記フリットペーストの塗着ラインに沿い、半導体レーザー(波長808nm)のレーザー光を照射速度2mm/秒で照射する方法において、レーザー出力を7W〜16Wの範囲で段階的に上げてゆく手法により、封着状況を観察し、次の3段階で評価した。
◎・・・出力10W未満で良好な封着状態になった。
○・・・出力10W以上〜15W未満で良好な封着状態になった。
×・・・出力15W以上でも封着できなかった。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1の結果から、各々適正比率のV
2O
5,ZnO,TeO
2の3成分からなる基本配合に、更にNb
2O
5及びAl
2O
3を適正範囲で追加配合したガラス組成を有する本発明のバナジウム系ガラス材(No.1〜11)は、ガラス転移点〔Tg〕が335℃未満、軟化点〔Tf〕が360℃未満と低く、且つ450℃以下の低温で良好な流動性及びガラス光沢を示すことから、低温加工性に優れることに加え、低出力でのレーザー封着が可能であり、またガラスの熱膨張係数も95×10
-7/℃以下と小さく、有機ELディスプレイのレーザー封着用として高い適性を具備することが明らかである。特に、MnO
2、CuO、Fe
2O
3を各々1.0モル%以上含み、且つBaOが4.0モル以下であるバナジウム系ガラス材(No.7〜11)は、低温加工性及びレーザー封着性に非常に優れると共に、熱膨張係数が80×10
-7/℃未満と極めて小さく、有機ELディスプレイのレーザー封着用として最適であることが判る。
【0062】
一方、表2の結果から判るように、V
2O
5,ZnO,TeO
2の3成分からなるガラス材(No.11〜13)では、低温加工性に劣る上、レーザー封着が困難である。また、上記3成分に加え、BaOを過多に配合したガラス材(No.14)、ならびに過多のBaOと適正量のNb
2O
5及びAl
2O
3を配合したガラス材(No.15)では、低温加工性に優れてレーザー封着も可能であるが、熱膨張係数が大きいため、封着対象となる一般的な無アルカリガラスからなるガラス基板との熱膨張性の差を少なくすることが難しく、封着部の長期信頼性を確保できない。そして、V
2O
5,ZnO,TeO
2の3成分からなる基本配合に、Nb
2O
5,Al
2O
3,BaO,MnO
2,CuOを適正範囲で追加したガラス組成であっても、V
2O
5の比率が少な過ぎるガラス材(No.16)では、低温加工性に劣り、レーザー封着も困難になっている。なお、TeO
2の配合量が多いガラス材(No.12〜16)では、上記難点に加えて、既述のように材料コストが非常に嵩むという問題がある。
【0063】
更に表2の結果から、本発明のガラス組成に対し、Al
2O
3を含まない点で異なるガラス材(No.17)、ならびにZnOの割合が少な過ぎるガラス材(No.18)では、低温加工性が不充分である。また、本発明のガラス組成に対し、ZnOの割合が少ない代わりにBaOを加えたガラス材(No.19)では、低温加工性は改善されるが、熱膨張係数が増大している。加えて、本発明のガラス組成に対し、Nb
2O
5の配合量が過多であるガラス材(No.20)では、熱膨張係数は大きく低減するが、低温加工性は悪化している。なお、CaOの配合量が過多のガラス材(No.22)は、結晶化を生じた。
【0064】
製造例2
前記製造例1におけるバナジウム系ガラス材No.7及びNo.16の粉末に対し、それぞれフィラーとしてリン酸ジルコニウム(最大粒子径5.5μm、平均粒子径約1.0μm)を後記表3に記載の比率で混合し、フィラー入りガラス材No.F1〜F4を製造した。そして、これらフィラー入りガラス材No.F1〜F4について、熱膨張係数、レーザー封着性、封着強度、色合いを調べ、これらの結果を表3に示す。なお、熱膨張係数、レーザー封着性、色合いの測定方法と評価は製造例1と同様である。封着強度の測定は以下のとおりである。
【0065】
〔封着強度試験〕
前記製造例2で得られたフィラー入りガラス材No.F1〜F4の各100gに対し、エチルセルロース/ブチルカルビトールアセテート/ターピネオールからなるビークル20gを添加混合してフリットペーストを調製し、矩形の無アルカリガラス基板(長さ40mm、幅30mm、厚さ0.7mm、熱膨張係数40×10
-7/℃)の片面に、該フリットペーストを線幅0.6mm、厚さ約10μmで30×20mmの矩形を描くように塗着した。そして、このガラス基板を電気炉中で300℃にて60分間仮焼成したのち、該ガラス基板のフリット塗着面側に同寸法の無アルカリガラス基板を長手方向に位置ずれした状態に重ねてクリップで固定し、その仮焼成側のガラス基板を上面として前記フリットペーストの塗着ラインに沿い、半導体レーザー(波長808nm)のレーザー光を照射速度2mm/秒で照射することにより、フリットのガラス成分を溶融させて封着を行った。この封着した一対のガラス基板を垂直に固定し、上記位置ずれで上位になったガラス基板の上端に1000N/分以下で下向きに圧力を加えてゆき、封着面が剥離したときのピーク圧から単位面積当たりの封着力(圧縮剪断強度)を算出し、封着強度として表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示すように、本発明に係るバナジウム系ガラス材をNo.7を用いたフィラー入りガラス材No.F1〜F3では、比較例であるフィラー入りガラス材No.F4に比べ、熱膨張係数がフラットディスプレイの一般的なガラス基板である無アルカリガラスの熱膨張係数に近く、封着強度も大きくなっており、それだけ高い封着性が得られると共に、封止部の長期信頼性に優れることが判る。
【0068】
〔耐水性試験〕
前記製造例1で得られたバナジウム系ガラス材No.2,3,7,15,16と、ガラス材No.3のガラス組成にP
2O
5を5モル%追加配合したガラス材No.23とについて、型内で溶融・硬化させて約1gの角柱状試料(長さ約6.3mm)を作製し、この角柱状試料を各々500mLの水中に浸漬し、この各容器を約90℃の恒温槽に収容し、48時間後に試料を取り出して100℃,1時間の乾燥を行い、自然冷却後の試料の重量を測定し、初期重量からの重量減少率を次式で算出した。その結果と評価を表4に示す。
重量減少率(%)=〔1−測定重量(g)/初期重量(g)〕×100
【0069】
【表4】
【0070】
表4に示すように、本発明に係るバナジウム系ガラス材No.2,3,7の耐水性は、48時間後の重量減が0.1%以下、特にガラス材No.2,7では0.082%、0.068%と優秀であり、本発明のガラス組成に対してZnOを減じてBaOを増やした組成のガラス材No.14,15と遜色がない。一方、ガラス材No.3の組成に5.0モル%のP
2O
5を追加したガラス材No.22は、耐水性が大幅に低下している。