【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
本実施形態では、金属(蒸着材料)としてチタン、反応性ガスとして酸素を使用する。
図1に示す透明フィルム10は、透明基材11の少なくとも一方の面に形成された透明な酸化チタン層12を有する。
透明基材11の材料としては、用途に応じて種々の材料が適用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、などのポリエステル系樹脂、ナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、又はポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリノルボネンなどの環状ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セロファン、セルローストリアセテートなどのセルロース系フィルム、ポリカーボネート系樹脂、などがある。また、これら樹脂を主成分とする共重合樹脂、または、混合体、若しくは複数層からなる積層体であっても良く、延伸フィルムでも未延伸フィルムでも良いが、強度を向上させる目的で、一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムが好ましい。通常は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系のフィルムが、機械的強度やコスト面から好ましく、ポリエチレンテレフタレートが最適である。
透明基材11の厚さは、2.5〜800μm程度であるが、15〜40μmの範囲内にて設定することが好ましい。
酸化チタン層12は、透明基材11の少なくとも一方の表面に、
図2の電子ビーム加熱式真空蒸着装置50にて得られた酸化チタン薄膜であり、例えば、層厚が80〜120nmであり、平均粒径が10〜17nmであり、輝度が42〜56cd/m
2であり、反射率が17〜27%である。
【0016】
図3に示すように、酸素ボンベPから派生する酸素ガス導入本管Mは、蒸着材料保持部56の近傍に設置したノズル71から酸素ガスを噴出する。また、酸素ガス導入バイパス管Nに接続されたノズル70が蒸着材料保持部56と透明基材11との蒸着材料保持部56の近傍を除く空間部に配置され、そのノズル70から酸素ガスを噴出する。これらのノズル70,71は、透明基材11の蒸着幅程度の幅を有する帯状にガスを噴出するものであってもよいし、或いは、透明基材11の幅方向一列に並んだ複数の噴出口を有し、これら噴出口からガスを一斉に噴出するものであってもよい。
そして、真空容器51への適正な反応酸素量の導入は、絶対ガス圧センサー72にて真空容器51の絶対ガス圧(酸素分圧)を測定し、ガス導入本管Mにて、基準量の20〜70%の一定量の酸素を装置50の蒸着材料保持部56の近傍に導入しながら、マスフローコントローラRにて調節された量の酸素をガス導入バイパス管Nにて装置50へ導入することによりなされる。
マスフローコントローラRでの変動する酸素量の調整は、酸素ガス量演算器Qにて、測定絶対ガス圧信号と目標絶対ガス圧指令信号との差と、基準ガス流量指令信号(一定導入の酸素量)との関係から必要な酸素ガス供給量を算出し、それを供給量信号としてマスフローコントローラRに出力することによりなされる。
この適正な酸素量導入方法により、蒸発するチタン蒸気Eの量が大幅に変化した場合、特に、蒸発するチタン蒸気Eの量が大幅に低下した場合でも、酸素導入を停止せずに一定量の酸素を導入し続けるので、蒸着材料保持部56のチタン蒸発界面59の安定性が良くなり、更に、変動する酸素量の自動制御のハンチングが小さくなって安定した蒸着運転に復帰する迄の時間が短くなり、製造効率を低下させず、得られる酸化チタン層12の膜厚及び平均粒径の公差も小さくなる。
一定量の酸素が基準量の20%未満では、効果が乏しくなり、70%を超えると、効果が乏しくなると共に、通常の安定した蒸着時の蒸発するチタン蒸気Eの量の小さな変動に対応出来に難くなる。
本発明での蒸発する金属量の大幅な変動とは、目的とする厚み、平均粒径、薄膜性能を有する金属化合物薄膜を得るために必要な通常の安定した蒸着時に蒸発する金属量を基準値として、蒸発する金属量が基準値の75%以上増加或いは減少した状態を意味する。
本発明にて、蒸着材料容器の近傍とは、
図2に示すように、装置内の蒸着材料容器とフィルム基体との空間部の直線距離をLとした場合、蒸着材料容器からL/10以内の距離で、蒸着材料容器のほぼ直上の位置を意味する。
本発明での基準量の反応性ガスとは、目的とする厚み、平均粒径、薄膜性能を有する金属化合物薄膜を得るために必要となる基準の反応性ガスの量であり、適正量の反応性ガスとは、基準の反応性ガスの量をもとに、装置の絶対圧力の検出値が設定値と等しくなるように制御されて装置内へ導入される反応性ガスの量を意味する。
【実施例】
【0017】
図2に示す真空電子ビーム加熱式蒸着装置にて、下記の運件条件にて、酸化チタン蒸着膜を作製した。
フィルム:厚さ25μm、幅500mm、PET製
蒸着材料:チタン
蒸着膜厚:100nm
蒸着膜平均粒径:15nm
真空度:700mPa
水分分圧:20mPa
酸素導入圧力:1× 10
−1mPa
電子ビーム発生機構:電子衝撃陰極式自己加速型電子銃(90゜偏向)
加速電圧:30kV
エミッション電流:2A
電子銃のスキャン幅:500mm
蒸着材料保持部とフィルム間の距離:250mm
冷却ドラムの外径:400mm
フィルムの走行速度:10m/分
ここで、装置の絶対圧力を1×10
−1mPaに設定し、基準となる酸素流量を0.7slm(1気圧、0℃における1分間当たりの流量をリットルで表示)として、絶対圧力の測定値が設定値と一致する様に、導入酸素量を自動的に調整し、60分間装置を稼働した。
【0018】
[実施例1]
基準となる酸素流量の40%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が3回見られたが、自動的に正常運転に復帰するまでの時間は平均で5秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±8nmであり、平均粒径は15nm±1nmであった。
[実施例2]
基準となる酸素流量の20%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が4回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で6秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±6nmであり、平均粒径は15nm±1nmであった。
[実施例3]
基準となる酸素流量の70%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が5回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で3秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±7nmであり、平均粒径は15nm±1nmであった。
[実施例4]
基準となる酸素流量の40%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より装置空間部に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が6回見られたが、自動的に正常運転に復帰するまでの時間は平均で5秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±15nmであり、平均粒径は15nm±3nmであった。
【0019】
[比較例1]
本管より酸素を供給せずに、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき変動する装置空間部に供給する全酸素量を自動的に調整した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に基づき、一時的にチタン蒸発量が激減し、
絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が3回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で40秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±30nmであり、平均粒径は15nm±10nmであった。
[比較例2]
基準となる酸素流量の90%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が4回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で10秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±20nmであり、平均粒径は15nm±8nmであった。
これらの結果をまとめると表1のようになる。
【0020】
【表1】
【0021】
これらの結果より、本発明の真空蒸着装置内への適正な反応性ガス量の導入方法により、蒸発する金属量が大幅に低下した場合でも、製造効率を著しく低下させることなく、安定した性状の金属化合物薄膜が基体フィルムに得られることがわかる。
【0022】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。