特許第6022265号(P6022265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6022265真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6022265
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
   C23C14/24 U
   C23C14/24 M
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-193606(P2012-193606)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-47418(P2014-47418A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】古内 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】小綿 明
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−046323(JP,A)
【文献】 特開2005−339439(JP,A)
【文献】 特開平11−080952(JP,A)
【文献】 特開2009−007600(JP,A)
【文献】 特開2009−263740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料容器から蒸発する金属の量に応じて適正量の酸素ガスを導入し、金属化合物薄膜をフィルム基体上に蒸着する真空蒸着装置において、前記装置内の酸素ガス分圧を検出し、基準量の20〜70%の一定量の酸素ガスを前記装置内へ導入しながら、前記酸素ガス分圧の検出値が設定値と等しくなるように前記装置内への酸素ガスの導入量を制御することを特徴とする真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法。
【請求項2】
前記装置内への適正な量の酸素ガスの導入をガス導入本管とそのバイパス管とで実施し、前記本管にて一定量の酸素ガスを前記装置内の蒸着材料容器の近傍部に導入し、前記バイパス管にて変動する量の酸素ガスを、前記近傍部を除く前記蒸着材料容器と前記フィルム基体との空間部に導入することを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法。
【請求項3】
前記金属は、Ti、Si、Al、Zr、In、Y、Zn、Cu、Ag、Au 、Sn、Niからなるグループから選択された1種であることを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載の真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物薄膜をフィルム基体上に蒸着する真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムの耐食性や機能性等を向上する目的で、フィルム基体上にTiO、SiO、ZrO、In、SnO、Y等の金属酸化物や、金属窒化物、金属フッ化物を蒸着することが実施されており、このような金属化合物をフィルム基体上に蒸着するには、蒸着材料として金属化合物を構成する金属を使用すると共に、真空容器内に金属と結合させるべき反応性ガスを一定の圧力で導入し、蒸着材料から放射された金属蒸気がその反応性ガスに触れて結合した後に、フィルム基体に蒸着する方法が多用されている。
この場合、蒸着材料自身の変動、或いは、真空容器内の各所での吸着または離脱する反応性ガス量に起因し、蒸着中の反応性ガス量が変動して真空容器内の反応性ガス分圧が変動することが多々あり、注意していないと、安定した金属化合物蒸着膜を得ることが難しくなる。また、真空容器内への反応性ガスの導入の方法や分散に留意し、蒸着材料蒸気の流れの乱れを抑制しないと、安定した高品質の金属化合物蒸着膜が得難くなる。
【0003】
これらの欠点を改良する為に、特許文献1では、圧力勾配型プラズマガンを使用して、基板に酸化薄膜を形成する活性化反応蒸着法において、処理室内の真空度を検出し、この検出値が設定値と等しくなるように処理室からの排気速度を制御し、処理室内の酸素分圧を検出し、この検出値が設定値と等しくなるように処理室内への酸素導入量を制御することを特徴とする、長時間にわたって安定した薄膜を得る酸化物薄膜の活性化反応蒸着法が開示されている。
特許文献2では、被蒸着物質の幅方向において反応物質吹出し量をより高度に均一にする真空蒸着装置として、第1ないし第4酸素吹出し管に合成樹脂フィルムの幅方向に分割して設け、これらの第1ないし第4酸素吹出し管を通して酸素をアルミの蒸気中に吹き出すようにし、各酸素吹出し管の各酸素吹出し孔からの酸素吹出し量が均一となり、合成樹脂フィルムの幅方向におけるアルミと酸素との反応のばらつきが解消され、また、第1および第4マノメータでそれぞれ第1および第4酸素給送管の流量を測定し、その測定結果に基づいて、第1ないし第4酸素吹出し管からの吹出し量が均一となるように、第1ないし第4流量調整バルブを制御することが開示されている。
特許文献3では、被蒸着フィルムの幅方向における反応物質の吹出し量を均一にすると共に蒸着材料蒸気の流れの乱れを抑制して、高品質の蒸着を可能にする真空蒸着装置として、蒸着材料蒸気の流れの中に酸素を吹き込むための吹出し孔を多数備えた酸素吹出し管の内部を複数の仕切りによって複数の吹出し領域に分割し、各吹出し領域の長さを短くすることで、各吹出し孔からの酸素吹出し量の均一化を図り、しかも各吹出し領域には、管端に配置した酸素給送具及び管内に挿入した酸素給送用内管を介して酸素を給送する構成とすることで、酸素給送用の配管を有効蒸着領域の外に配置し、蒸発した蒸着材料の流れを乱さないようにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−80952号公報
【特許文献2】特開平11−335819号公報
【特許文献3】特開2009−79245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
真空蒸着装置を使用したフィルム基体上への金属化合物膜の蒸着方法では、真空蒸着装置内の絶対圧力(酸素ガス分圧)を連続的に測定し、蒸着材料容器から蒸発する金属量に応じて、その測定値が予め定められた設定値となるように、装置外部からガス供給配管を介して適正量の反応性ガスを自動的に導入し、所望する金属化合物薄膜をフィルム基体上に蒸着する方法が多用されている。反応性ガス導入量が適正でなく変動が大きいと、フィルム基体上に蒸着される金属化合物膜の品質が安定せず、製造効率が低下することに繋がる。
例えば、特許文献1では、反応性ガスとして適正量の酸素を自動導入する方法では、質量分析計により装置内の絶対圧力(酸素ガス分圧)を常時計測して、その酸素ガス分圧信号を酸素ガス流量演算器に送り、酸素ガス流量演算器では、それに予め設定されている目標酸素ガス分圧指令と質量分析計からの酸素ガス分圧信号との差を演算して、酸素ガス供給量を算出し、それを酸素ガス供給量信号としてマスフローコントローラに出力し、マスフローコントローラでは、これに基づく量の酸素を装置内に導入しノズルから噴出すことにより、適正な酸素量の供給が安定してなされる。
【0006】
この酸素の自動導入方法にて、通常の安定した蒸着運転時(酸素導入量が大幅に変化しない場合)には、大きな問題は起きないが、運転の立ち上げ時や停止時、或いは、蒸着材料容器内の金属の物性の大きな変動(例えば、金属塊中の空隙や濃度変動等)に起因して、蒸着材料容器から蒸発する金属量が大幅に変動した場合、特に、蒸発する金属量が大幅に低下した場合は、蒸発する金属量に対して反応する酸素量が過剰となり、真空蒸着装置内の絶対圧力が急激に上昇するため、マスフローコントローラでの制御により、一時的に酸素の導入が停止される場面が生じる。
酸素の導入が一時的にせよ停止すると、蒸着材料容器の金属蒸発界面の安定性に悪影響を及ぼし、更に、その後のマスフローコントローラによる自動復帰にても、導入酸素量の制御のハンチングがどうしても大きくなり、安定した蒸着運転に復帰するのに時間を費やし、その間の不安定な蒸着運転での金属化合物蒸着膜は不良品となり、製造効率を大きく低下させる要因となる。
また、蒸着材料容器から蒸発する金属量が大幅に変動した場合にのみ、自動操作でなく、手動操作に切替えて適正量の酸素を導入することも実施されているが、操作員が必要であり、安定した蒸着運転に復帰する迄の時間は若干短縮できるが、確実に製造効率の低下を防ぐまでには至っていないのが現状である。
【0007】
本発明では、上述の欠点を改良し、蒸発する金属量が大幅に変動した場合、特に、蒸発する金属量が大幅に低下した場合でも、製造効率を著しく低下させることのない真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、蒸発する金属量が大幅に変動した場合、特に、蒸発する金属量が大幅に低下した場合でも、酸素ガスの導入を停止せずに、一定量の酸素ガスを導入し続けることにより、更に、装置内への適正な量の酸素ガスの導入を本管とそのバイパス管とで実施し、本管にて一定量の酸素ガスを装置内の蒸着材料容器の近傍に導入し、バイパス管にて変動する量の酸素ガスを蒸着材料容器と前記フィルム基体との蒸着材料容器の近傍を除く空間部に導入することにより、安定した金属化合物薄膜がフィルム基体上に効率良く蒸着できることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法は、蒸着材料容器から蒸発する金属の量に応じて適正量の酸素ガスを導入し、金属化合物薄膜をフィルム基体上に蒸着する真空蒸着装置において、前記装置内の酸素ガス分圧を検出し、基準量の20〜70%の一定量の酸素ガスを前記装置内へ導入しながら、前記酸素ガス分圧の検出値が設定値と等しくなるように前記装置内への酸素ガスの導入量を制御することを特徴とする。
本発明での基準量の酸素ガスとは、目的とする厚み、平均粒径、薄膜性能を有する金属化合物薄膜を得るために必要となる基準の酸素ガスの量であり、適正量の酸素ガスとは、基準の酸素ガスの量をもとに、装置の酸素ガス分圧の検出値が設定値と等しくなるように制御されて装置内へ導入される酸素ガスの量を意味する。
本発明では、好ましくは、酸素ガス導入管を本管とそれから分岐するバイパス管とに別け、通常の安定した蒸着時には、基準量の20〜70%である一定量の酸素ガスを本管で装置内に導入し、バイパス管で変動量の酸素ガスを酸素ガス分圧の検出値が設定値と等しくなるようにマスフローコントローラなどで制御して装置内へ導入することにより、適正な量で酸素ガスを問題なく導入することができる。
この場合、装置内或いは外で本管とバイパス管が合流して装置内に酸素ガスが導入されても良いが、本管とバイパス管が合流せずに、それぞれ別個に酸素ガスを装置内に導入することが好ましい。
そして、蒸発する金属量が大幅に変動した場合は、特に、蒸発する金属量が大幅に低下した場合でも、酸素ガスの導入を停止せずに一定量の酸素ガスを本管にて導入し続けることにより、蒸着材料容器の金属蒸発界面の安定性が良くなり、更に、変動する酸素ガス量の自動制御のハンチングが小さくなり、安定した蒸着運転に復帰する迄の時間が短縮され、製造効率を低下させないですむ。
また、蒸着の立上げ時の蒸発する金属量が大幅に変動する場合も、手動調整と本発明の方法を併用することにより、早期の安定運転が可能となる。
本発明での蒸発する金属量の大幅な変動とは、目的とする厚み、平均粒径、薄膜性能を有する金属化合物薄膜を得るために必要な通常の安定した蒸着時に蒸発する金属量を基準値として、蒸発する金属量が基準値の75%以上増加或いは減少した状態を意味する。
一定量の酸素ガスが基準量の20%未満では、効果が乏しくなり、70%を超えると、効果が乏しくなると共に、通常の安定した蒸着時の蒸発する金属量の小さな変動に対応出来難くなる。
【0010】
また、本発明の真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法は、前記装置内への適正な量の酸素ガスの導入をガス導入本管とそのバイパス管とで実施し、前記本管にて一定量の酸素ガスを前記装置内の蒸着材料容器の近傍部に導入し、前記バイパス管にて変動する量の酸素ガスを、前記近傍部を除く前記蒸着材料容器と前記フィルム基体との空間部に導入することを特徴とする。
本管にて一定量の酸素ガスを装置内の蒸着材料容器の近傍に導入し続けることにより、蒸着材料容器の金属蒸発界面の安定性が更に良くなり、得られる金属酸化物蒸着膜の膜厚及び平均粒径の公差も小さくなる。
本発明にて、蒸着材料容器の近傍とは、図2に示すように、装置内の蒸着材料容器とフィルム基体との空間部の直線距離をLとした場合、蒸着材料容器からL/10以内の距離で、蒸着材料容器のほぼ直上の位置を意味する。
【0011】
また、本発明の真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法において、前記金属は、Ti、Si、Al、Zr、In、Y、Zn、Cu、Ag、Au 、Sn、Niからなるグループから選択された1種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、蒸発する金属量が大幅に変動した場合、特に、蒸発する金属量が大幅に低下した場合でも、製造効率を著しく低下させることのない真空蒸着装置内への適正な量の酸素ガス導入方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態により製造された透明フィルムの横断面図である。
図2】本発明の一実施形態に使用する電子ビーム加熱式真空蒸着装置の概略図である。
図3図2の蒸着装置に適用される反応性ガスの導入配管系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
本実施形態では、金属(蒸着材料)としてチタン、反応性ガスとして酸素を使用する。
図1に示す透明フィルム10は、透明基材11の少なくとも一方の面に形成された透明な酸化チタン層12を有する。
透明基材11の材料としては、用途に応じて種々の材料が適用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、などのポリエステル系樹脂、ナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、又はポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリノルボネンなどの環状ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セロファン、セルローストリアセテートなどのセルロース系フィルム、ポリカーボネート系樹脂、などがある。また、これら樹脂を主成分とする共重合樹脂、または、混合体、若しくは複数層からなる積層体であっても良く、延伸フィルムでも未延伸フィルムでも良いが、強度を向上させる目的で、一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムが好ましい。通常は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系のフィルムが、機械的強度やコスト面から好ましく、ポリエチレンテレフタレートが最適である。
透明基材11の厚さは、2.5〜800μm程度であるが、15〜40μmの範囲内にて設定することが好ましい。
酸化チタン層12は、透明基材11の少なくとも一方の表面に、図2の電子ビーム加熱式真空蒸着装置50にて得られた酸化チタン薄膜であり、例えば、層厚が80〜120nmであり、平均粒径が10〜17nmであり、輝度が42〜56cd/mであり、反射率が17〜27%である。
【0015】
図2に示す電子ビーム加熱式真空蒸着装置50において、真空容器51は、図示しない真空ポンプにより内部が減圧され、内部中央には、金属等からなる円筒状の冷却ドラム52が配置され、図示しない駆動装置により回転駆動される。冷却ドラム52の外周面の一部には、長尺の透明基材11がドラム周方向に向けて巻回され、アンコイラ53およびリコイラ54の間で連続走行されるようになっている。冷却ドラム52のフィルム巻回部と対向して蒸着材料保持部56が配置され、その内部には、蒸着されるチタン化合物を構成するチタン蒸着材料58が収容されている。蒸着材料保持部56の側方には、電子銃等の電子ビーム発生機構(図示略)が配置され、この電子ビーム発生機構から電子ビームBが発生される。この電子ビームBは、蒸着材料保持部56の反対側に設置された磁界発生機構60が発生する磁界により曲げられてチタン蒸着材料58に照射され、電子ビームBにより蒸着材料58が加熱され、そのチタン蒸気Eが冷却ドラム52に向けて放射される。チタン蒸気Eは、酸素ガス導入本管Mに接続されたノズル71及び酸素ガス導入バイパス管Nに接続されたノズル70により供給される適正量の酸素と反応して酸化チタンとなり、酸化チタン層12として透明基材11に蒸着され、所望とする透明フィルム10が製造される。
冷却ドラム52と蒸着材料保持部56との間には、蒸着範囲を規制するための隔壁66が設けられていることが好ましい。この隔壁66は、冷却ドラム52を収容する半円筒状部分66Aを有し、この半円筒状部分66Aの内周面と、冷却ドラム52のフィルム巻回部の外周面との間には一定の間隙が形成されている。半円筒状部分66Aには、蒸着材料保持部56と対向する位置に、長方形状の蒸気通過口68が冷却ドラム52の軸線方向に沿って形成されている。この蒸気通過口68は透明フィルム10の蒸着幅と同じ全長を有する。
【0016】
図3に示すように、酸素ボンベPから派生する酸素ガス導入本管Mは、蒸着材料保持部56の近傍に設置したノズル71から酸素ガスを噴出する。また、酸素ガス導入バイパス管Nに接続されたノズル70が蒸着材料保持部56と透明基材11との蒸着材料保持部56の近傍を除く空間部に配置され、そのノズル70から酸素ガスを噴出する。これらのノズル70,71は、透明基材11の蒸着幅程度の幅を有する帯状にガスを噴出するものであってもよいし、或いは、透明基材11の幅方向一列に並んだ複数の噴出口を有し、これら噴出口からガスを一斉に噴出するものであってもよい。
そして、真空容器51への適正な反応酸素量の導入は、絶対ガス圧センサー72にて真空容器51の絶対ガス圧(酸素分圧)を測定し、ガス導入本管Mにて、基準量の20〜70%の一定量の酸素を装置50の蒸着材料保持部56の近傍に導入しながら、マスフローコントローラRにて調節された量の酸素をガス導入バイパス管Nにて装置50へ導入することによりなされる。
マスフローコントローラRでの変動する酸素量の調整は、酸素ガス量演算器Qにて、測定絶対ガス圧信号と目標絶対ガス圧指令信号との差と、基準ガス流量指令信号(一定導入の酸素量)との関係から必要な酸素ガス供給量を算出し、それを供給量信号としてマスフローコントローラRに出力することによりなされる。
この適正な酸素量導入方法により、蒸発するチタン蒸気Eの量が大幅に変化した場合、特に、蒸発するチタン蒸気Eの量が大幅に低下した場合でも、酸素導入を停止せずに一定量の酸素を導入し続けるので、蒸着材料保持部56のチタン蒸発界面59の安定性が良くなり、更に、変動する酸素量の自動制御のハンチングが小さくなって安定した蒸着運転に復帰する迄の時間が短くなり、製造効率を低下させず、得られる酸化チタン層12の膜厚及び平均粒径の公差も小さくなる。
一定量の酸素が基準量の20%未満では、効果が乏しくなり、70%を超えると、効果が乏しくなると共に、通常の安定した蒸着時の蒸発するチタン蒸気Eの量の小さな変動に対応出来に難くなる。
本発明での蒸発する金属量の大幅な変動とは、目的とする厚み、平均粒径、薄膜性能を有する金属化合物薄膜を得るために必要な通常の安定した蒸着時に蒸発する金属量を基準値として、蒸発する金属量が基準値の75%以上増加或いは減少した状態を意味する。
本発明にて、蒸着材料容器の近傍とは、図2に示すように、装置内の蒸着材料容器とフィルム基体との空間部の直線距離をLとした場合、蒸着材料容器からL/10以内の距離で、蒸着材料容器のほぼ直上の位置を意味する。
本発明での基準量の反応性ガスとは、目的とする厚み、平均粒径、薄膜性能を有する金属化合物薄膜を得るために必要となる基準の反応性ガスの量であり、適正量の反応性ガスとは、基準の反応性ガスの量をもとに、装置の絶対圧力の検出値が設定値と等しくなるように制御されて装置内へ導入される反応性ガスの量を意味する。
【実施例】
【0017】
図2に示す真空電子ビーム加熱式蒸着装置にて、下記の運件条件にて、酸化チタン蒸着膜を作製した。
フィルム:厚さ25μm、幅500mm、PET製
蒸着材料:チタン
蒸着膜厚:100nm
蒸着膜平均粒径:15nm
真空度:700mPa
水分分圧:20mPa
酸素導入圧力:1× 10−1mPa
電子ビーム発生機構:電子衝撃陰極式自己加速型電子銃(90゜偏向)
加速電圧:30kV
エミッション電流:2A
電子銃のスキャン幅:500mm
蒸着材料保持部とフィルム間の距離:250mm
冷却ドラムの外径:400mm
フィルムの走行速度:10m/分
ここで、装置の絶対圧力を1×10−1mPaに設定し、基準となる酸素流量を0.7slm(1気圧、0℃における1分間当たりの流量をリットルで表示)として、絶対圧力の測定値が設定値と一致する様に、導入酸素量を自動的に調整し、60分間装置を稼働した。
【0018】
[実施例1]
基準となる酸素流量の40%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が3回見られたが、自動的に正常運転に復帰するまでの時間は平均で5秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±8nmであり、平均粒径は15nm±1nmであった。
[実施例2]
基準となる酸素流量の20%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が4回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で6秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±6nmであり、平均粒径は15nm±1nmであった。
[実施例3]
基準となる酸素流量の70%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が5回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で3秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±7nmであり、平均粒径は15nm±1nmであった。
[実施例4]
基準となる酸素流量の40%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より装置空間部に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が6回見られたが、自動的に正常運転に復帰するまでの時間は平均で5秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±15nmであり、平均粒径は15nm±3nmであった。
【0019】
[比較例1]
本管より酸素を供給せずに、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき変動する装置空間部に供給する全酸素量を自動的に調整した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に基づき、一時的にチタン蒸発量が激減し、
絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が3回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で40秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±30nmであり、平均粒径は15nm±10nmであった。
[比較例2]
基準となる酸素流量の90%を絶対圧力に拘わらず一定量として、本管より蒸着材料容器の近傍に導入し、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき、バイパス管に取付けた調整バルブにて、絶対圧力の測定値と設定値との差の電気信号に基づき自動的に変動する酸素量を装置空間部に導入した。
この運転時に、蒸着材料のチタン塊中の巣に起因して、一時的にチタン蒸発量が激減し、絶対圧力の測定値が急激に上昇する現象が4回見られたが、本供給方法では、正常運転に復帰するまでの時間は平均で10秒であった。
得られた酸化チタン蒸着膜の膜厚は100nm±20nmであり、平均粒径は15nm±8nmであった。
これらの結果をまとめると表1のようになる。
【0020】
【表1】
【0021】
これらの結果より、本発明の真空蒸着装置内への適正な反応性ガス量の導入方法により、蒸発する金属量が大幅に低下した場合でも、製造効率を著しく低下させることなく、安定した性状の金属化合物薄膜が基体フィルムに得られることがわかる。
【0022】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0023】
10 透明フィルム
11 透明基材
12 酸化チタン層
50 電子ビーム加熱式真空蒸着装置
51 真空容器
56 蒸着材料保持部
58 チタン蒸着材料
70、71 ノズル
72 絶対ガス圧センサー
M ガス導入本管
N ガス導入バイパス管
R マスフローコントローラ
Q 演算器
図1
図2
図3