特許第6022295号(P6022295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6022295
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】切削ビット
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/14 20060101AFI20161027BHJP
   E21B 10/26 20060101ALI20161027BHJP
   E21B 10/00 20060101ALI20161027BHJP
   B28D 1/18 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   B28D1/14
   E21B10/26
   E21B10/00 Z
   B28D1/18
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-227641(P2012-227641)
(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-79904(P2014-79904A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304059971
【氏名又は名称】エービーイーダイヤモンド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
(72)【発明者】
【氏名】武田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大
(72)【発明者】
【氏名】谷村 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】奥西 淳一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雅宙
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05252009(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第02196277(GB,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0061552(US,A1)
【文献】 特開平06−122116(JP,A)
【文献】 特開2010−229722(JP,A)
【文献】 特開昭50−117602(JP,A)
【文献】 特開2001−342786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/14
B28D 1/18
B23B 51/02
E21B 10/00
E21B 10/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル本体に装着されるシャンクと該シャンクの先端近傍に配置された切削チップとで構成した切削ビットにおいて、
前記切削チップを、前記シャンクの回転軸線上に位置決めされたセンターチップと、切削面が前記センターチップの切削面よりも前記シャンク側に後退した位置となるようにかつ前記シャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように構成してなる放射状チップとで構成するとともに、前記放射状チップを、その切削面が前記シャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように配置したことを特徴とする切削ビット。
【請求項2】
前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部平板を取り付け該端部平板の中央近傍に台座を突設して該台座に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記台座上に載置され外側端部が前記端部平板の周縁近傍に載置されるように該放射状チップを配置した請求項記載の切削ビット。
【請求項3】
前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部湾曲板を取り付け該端部湾曲板の中央近傍に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記端部湾曲板の中央近傍に位置し外側端部が前記端部湾曲板の周縁近傍に位置するように該放射状チップを配置した請求項記載の切削ビット。
【請求項4】
前記シャンクの先端側周縁に外周チップを取り付けて該外周チップを前記センターチップ及び前記放射状チップとともに前記切削チップとするとともに、前記外周チップの切削面が前記一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように該外周チップを構成した請求項乃至請求項のいずれか一記載の切削ビット。
【請求項5】
前記シャンクの外径を前記切削チップによる切削径よりも大きくした請求項1乃至請求項のいずれか一記載の切削ビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてコンクリート、特に耐震補強の対象となる鉄筋コンクリートに凹部を形成するための切削ビットに関する。
【背景技術】
【0002】
RC巻立て工法は、鉄筋コンクリート構造物の耐震性能が十分でない場合、その周囲にあらたな鉄筋コンクリートを巻き立てることで鉄筋コンクリート断面を増厚し、それによって曲げ耐力やせん断耐力あるいは靭性を高める耐震補強工法であり、鋼板を巻き立てたり炭素繊維シートを巻回したりといった他の工法よりも低コストでの施工が可能であることから、従来から広く採用されている。
【0003】
RC巻立て工法においては、あらたに巻き立てられる鉄筋コンクリートを鉄筋コンクリート構造物である既存RC部材に一体化させることが重要であり、特に、既存RC部材の曲げ耐力を高める上では、新旧コンクリートにおける曲げ変形時のズレせん断に対して十分な抵抗力を持たせることが不可欠となる。
【0004】
新旧コンクリートのズレせん断に対する抵抗力を高めるには、チッピングやウォータージェットによって既存RC部材の表面を予め目荒らししておく方法が知られているが、騒音振動が大きい、施工可能な場所に制約がある、施工に時間を要する、廃棄物が生じるために環境への負荷が大きいなどの問題があるほか、作業員の熟練の程度によってばらつきが生じるため、品質管理が難しいという問題がある。
【0005】
一方、ジベル筋あるいはアンカージベル鉄筋とも称されるアンカー筋を既存RC部材に予め立設しておく方法が知られており、かかる方法によれば、アンカー筋がズレせん断に対する抵抗要素として新旧コンクリートの一体化に寄与するため、既存RC部材の曲げ耐力を確実に向上させることができるが、新旧コンクリートのズレせん断に伴ってアンカー筋に引抜き力が作用するため、該引抜き力に抵抗できるよう、アンカー筋を長く形成したり基端側に拡幅部を設けたりしなければならず、施工に時間を要するほか、既存RC部材の鉄筋を損傷する懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−97884号公報
【特許文献2】特開2001−342786号公報
【特許文献3】特開2001−342785号公報
【特許文献4】特開平8−174537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、既存RC部材に予め凹部を形成した上でその周囲にあらたな鉄筋コンクリートを打設形成し、硬化後、該あらたな鉄筋コンクリートを載荷手段によって既存RC部材に押圧する耐震補強工法が検討されている。
【0008】
かかる耐震補強工法においては、既存RC部材の凹部に嵌合する凸部があらたな鉄筋コンクリートに形成されるが、該凸部は、既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとの界面に沿って相対変形、いうなればズレせん断が生じようとしたときでも、載荷手段による押圧作用によって、既存RC部材の凹部からの抜出しが防止される。
【0009】
そのため、あらたな鉄筋コンクリートの凸部及び既存RC部材の凹部からなる嵌合は、シヤキーとしての本来の機能が十分に発揮されることとなり、既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとが強固に一体化される。
【0010】
しかしながら、既存RC部材に形成すべき凹部は、地震時にシヤキーとして機能させる関係上、深さに対する径の相対寸法が比較的大きくなることに加え、径や深さあるいは底面形状の仕上げに精度が要求されるところ、従来の切削ビットは、配管類を挿通するための貫通孔を形成するための切削ビットであって、そもそも凹部形成が想定されていないコアビットであったり、ノンコアビットであっても、アンカーボルトやアンカー筋を挿入するために細長い穴を形成する程度のものがほとんどであって、耐震補強のシヤキーに適した凹部を形成するには本来的に適さないという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、耐震補強のシヤキー形成に適した凹部をコンクリートに形成することが可能な切削ビットを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る切削ビットは請求項1に記載したように、ドリル本体に装着されるシャンクと該シャンクの先端近傍に配置された切削チップとで構成した切削ビットにおいて、
前記切削チップを、前記シャンクの回転軸線上に位置決めされたセンターチップと、切削面が前記センターチップの切削面よりも前記シャンク側に後退した位置となるようにかつ前記シャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように構成してなる放射状チップとで構成するとともに、前記放射状チップを、その切削面が前記シャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように配置したものである。
【0014】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部平板を取り付け該端部平板の中央近傍に台座を突設して該台座に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記台座上に載置され外側端部が前記端部平板の周縁近傍に載置されるように該放射状チップを配置したものである。
【0015】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部湾曲板を取り付け該端部湾曲板の中央近傍に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記端部湾曲板の中央近傍に位置し外側端部が前記端部湾曲板の周縁近傍に位置するように該放射状チップを配置したものである。
【0016】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクの先端側周縁に外周チップを取り付けて該外周チップを前記センターチップ及び前記放射状チップとともに前記切削チップとするとともに、前記外周チップの切削面が前記一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように該外周チップを構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクの外径を前記切削チップによる切削径よりも大きくしたものである。
【0018】
本発明に係る切削ビットは、シャンクの回転軸線上に位置決めされたセンターチップと、該センターチップの切削面よりも切削面がシャンク側に後退した位置となるように配置された放射状チップとで切削チップを構成してある。
【0019】
このようにすると、センターチップは、放射状チップよりも先に切削対象物に当接して該切削対象物に先行穴を切削形成し、引き続き、かかる先行穴にセンターチップが嵌合された状態で放射状チップによる切削が行われる。
【0020】
そのため、放射状チップによる切削は、先行穴がガイドの役割を果たしながら行われることとなり、かくして回転中心がぶれることなく、切削対象物に円形の凹部が正確に形成される。
【0021】
また、放射状チップは、切削面がシャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように構成してあるため、内面が滑らかな凹部を切削対象物の表面に効率よくかつ正確に形成することができるとともに、切削時においては、回転による遠心力により切削屑を放射方向に容易に移動排出させることが可能となる。
【0022】
ドリル本体への装着は、アダプターやチューブを介した間接的な装着が主として想定されるが、直接的な装着でもかまわない。また、切削方法は、湿式か乾式かを問わない。
【0023】
センターチップは、放射状チップによる切削対象物の切削に先行して該切削対象物に先行穴を形成することができる限り、任意に構成することが可能であって、例えば平面視がL字状(山形状)のチップで構成することができる。
【0026】
放射状チップは、切削面、すなわち砥粒を配置した面がシャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように構成されるものであって、例えば真直又は湾曲状に形成され一側面に切削面が設けられた角棒部材を放射状に複数配置する構成や、平板状又は湾曲状に形成され一方の面に切削面が設けられた扇状部材を放射状に複数配置する構成、あるいは結合剤を介して砥粒が結合されてなる焼結体を球体の一部で構成された湾曲材の凸面側に放射状に取り付ける構成を採用することが可能であるし、切削対象物に形成される凹部が、例えば平底の凹部、すなわち側面が円筒状で底面が平坦となる凹部の場合には、放射状チップの切削面がシャンクの回転軸線に直交する一つの平面上に位置決めされるように該放射状チップを構成、テーパ底の凹部、すなわち側面が円筒状で底面が中心方向に下り勾配を持つ凹部とする場合には、放射状チップの切削面がシャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つのテーパ面上に位置決めされるように該放射状チップを構成することができるが、本発明においては、放射状チップを、その切削面がシャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つの湾曲面上に位置決めされるように配置する。このように構成したならば、耐震補強のためのシアキーとして望ましい湾曲底を持つ凹部を切削対象物の表面に形成することができる。
【0027】
すなわち、既存RC部材を切削対象物とし、凹部形成後に既存RC部材の周囲にあらたな鉄筋コンクリートを巻き立てるとともに、既存RC部材の凹部とそれに嵌合するあらたな鉄筋コンクリートの凸部とをシアキーとして機能させる場合、地震時における既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとの間のズレせん断に対し、あらたな鉄筋コンクリートの凸部が既存RC部材の凹部から抜け出そうとする際にあらたな鉄筋コンクリートが外方にスムーズに膨らみ、その膨らみ変形に対する反力が押圧力の一部としてあらたな鉄筋コンクリートを既存RC部材に向けて押し戻すため、既存RC部材の凹部と該凹部に嵌合されるあらたな鉄筋コンクリートの凸部とからなるシヤキーの機能がいっそう向上するとともに、その結果、既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとのズレせん断がさらに確実に防止される。
【0028】
なお、湾曲底を持つ凹部には、湾曲底の周縁から側面が立ち上がっている場合と、側面がなく湾曲底の周縁が凹部開口を形成している場合とが包摂されるとともに、湾曲底には、球面の一部、すなわち同一曲率からなる曲面で底面が構成される場合と、非球面の一部、すなわち相異なる曲率からなる曲面で底面が構成される場合とが包摂される。
【0029】
放射状チップの切削面がシャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように該放射状チップを構成する具体的な構成としては、例えば、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部平板を取り付け該端部平板の中央近傍に台座を突設して該台座に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記台座上に載置され外側端部が前記端部平板の周縁近傍に載置されるように該放射状チップを配置した構成や、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部湾曲板を取り付け該端部湾曲板の中央近傍に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記端部湾曲板の中央近傍に位置し外側端部が前記端部湾曲板の周縁近傍に位置するように該放射状チップを配置した構成を挙げることができる。
【0030】
切削チップは、上述したようにセンターチップ及び放射状チップで構成することができるが、シャンクの先端側周縁に取り付けられ切削面が上述した一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように構成されてなる外周チップを上記構成に加えるようにすれば、回転時の周速が大きいことによる早期の砥粒脱落を防止することができるとともに、テーパ底又は湾曲底の周縁から側面が立ち上がってなる凹部を効率よく形成することができる。
【0031】
シャンクは、その外径を切削チップによる切削径よりも小さくする構成が可能であって、かかる構成により、切削対象物の凹部開口と円筒体との間に形成される隙間を介して切削屑を容易に排出することができるが、シャンクの外径を切削チップによる切削径よりも大きくするようにすれば、シャンクの先端周縁が切削対象物に形成される凹部の周囲に当接して前進が停止するため、凹部の深さを精度よく管理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本実施形態に係る切削ビット1の全体斜視図。
図2】切削ビット1の図であり、(a)は正面図、(b)はA−A線方向から見た矢視図。
図3】切削ビット1のA−A線方向から見た詳細矢視図。
図4】切削ビット1を用いて既存RC部材41の表面に凹部45を形成する様子を示した説明図。
図5】既存RC部材41に形成された凹部45と該凹部にあらたな鉄筋コンクリートの凸部53が嵌合することによるシアキーの作用を説明した図。
図6】変形例に係る切削ビット1aの全体斜視図。
図7】別の変形例に係る切削ビット1b,1cの側面図。
図8】別の変形例に係る切削ビット1dの正面図。
図9】別の変形例に係る切削ビット1fの全体斜視図。
図10】別の変形例に係る切削ビット1eの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る切削ビットの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0034】
図1及び図2は、本実施形態に係る切削ビットを示した図である。本実施形態に係る切削ビット1は、鉄筋コンクリートからなる橋脚等の既存RC部材を切削対象物としたものであり、これらの図でわかるように、ドリル本体(図示せず)に装着されるシャンク2と、該シャンクの先端近傍に配置された切削チップ3とで構成してある。
【0035】
シャンク2は、円筒体7とその先端開口に取り付けられ3つの通水孔11が形成された円形の端部平板8とで構成してあり、円筒体7の基端側は、例えばコンクリートコアドリルのドリル本体にチューブやアダプターを介して連結できるように構成してある。
【0036】
切削チップ3は、センターチップ4、放射状チップ5及び外周チップ6で構成してあり、いずれもダイヤモンド砥粒を結合剤で結合しつつ基材表面に配置して構成してある。
【0037】
センターチップ4は、シャンク2の回転軸線方向から見たときにL字状となるように構成してあるとともに、該シャンクの回転軸線上に位置決めされるように、端部平板8の中央近傍に突設された台座9に取り付けてある。
【0038】
放射状チップ5は、それぞれが湾曲状に形成された角棒部材である3本の湾曲チップ10で構成してあり、該湾曲チップは、それらの切削面(砥粒を配置した面)がシャンク2の回転軸線を中心として該中心近傍から120゜ごとにそれぞれ延設されるように、中心側端部を台座9上に、外側端部を端部平板8の周縁近傍に載置してある。
【0039】
ここで、湾曲チップ10は図2(b)でよくわかるように、それらの切削面がセンターチップ4の切削面よりもシャンク2側にΔLだけ後退した位置となるように配置してある。
【0040】
外周チップ6は、円筒体7の先端側周縁に取り付けてある。
【0041】
ここで、図3に示すように、シャンク2の回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる球面の一部であって、端部平板8からH2の高さ位置で直径がφ2(>円筒体7の外径φ1)となり、端部平板8の中心で高さがH1となる仮想湾曲面を湾曲面21としたとき、放射状チップ5を構成する湾曲チップ10及び外周チップ6の切削面が湾曲面21の上に位置決めされるように、湾曲チップ10及び外周チップ6並びに台座9をそれぞれ構成してある。
【0042】
なお、外周チップ6は、シャンク2が切削対象物である既存RC部材に接触しないよう、かつそれらの隙間から切削屑が容易に排出されるよう、シャンク2を構成する円筒体7の周面から(φ2−φ1)/2(以下、Δφ)だけ突出させてある。
【0043】
本実施形態に係る切削ビット1を用いて図4に示す既存RC部材41を切削するには、まず、同図(a)に示すようにドリル本体(図示せず)に切削ビット1を装着し、次いで、該切削ビットのセンターチップ4が既存RC部材41の所定位置に当接されるようにドリル本体を把持する。
【0044】
次に、ドリル本体を駆動して切削ビット1をシャンク2の回転軸線廻りに回転させることにより、センターチップ4による先行穴42を既存RC部材41の表面に形成する。
【0045】
次に、引き続き切削ビット1を前進させつつ回転させるが、同図(b)に示すようにセンターチップ4が先行穴42に嵌合された状態となるので、切削ビット1の回転中心は当初のまま保持され、3本の湾曲チップ10は、湾曲面21に対応する湾曲底43を既存RC部材41に正確に形成していく。
【0046】
外周チップ6が既存RC部材41に当接した後は、湾曲底43が掘り下げられる形で内径φ2の切削が進行し、所定深さでドリル本体を停止すれば、凹部45の形成が完了する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る切削ビット1によれば、シャンク2の回転軸線上に位置決めされたセンターチップ4及び該センターチップの切削面よりも切削面がシャンク2の側に後退した位置となるように配置された放射状チップ5を切削チップ3に備えるようにしたので、センターチップ4は、放射状チップ5よりも先に既存RC部材41に当接して該既存RC部材に先行穴42を切削形成し、引き続き、かかる先行穴42にセンターチップ4が嵌合された状態で放射状チップ5による切削が行われる。
【0048】
そのため、放射状チップ5による切削は、先行穴42がガイドの役割を果たしながら行われることとなり、かくして回転中心がぶれることなく、既存RC部材41に円形の凹部45を正確に形成することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態に係る切削ビット1によれば、放射状チップ5を、その切削面がシャンク2の回転軸線を中心として該中心近傍から120゜ごとの方向にそれぞれ延設されるように構成したので、内面が滑らかな凹部45を既存RC部材41の表面に正確に形成することができるとともに、切削時においては、回転による遠心力により切削屑を放射方向に容易に移動排出させることが可能となる。
【0050】
また、本実施形態に係る切削ビット1によれば、放射状チップ5を、その切削面がシャンク2の回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つの湾曲面21上に位置決めされるように構成したので、既存RC部材41の表面には湾曲底を持つ凹部45が形成される。
【0051】
そのため、凹部45が形成された後、図5(a)に示すように既存RC部材41の周囲にあらたな鉄筋コンクリート51を巻き立てるとともに、該あらたな鉄筋コンクリートを既存RC部材41に向けて鋼板52で押圧できるように構成した場合、地震時においては、同図(b)に示したようにあらたな鉄筋コンクリート51と既存RC部材41との間にズレせん断が生じるが、このとき、あらたな鉄筋コンクリート51の凸部53が既存RC部材41の凹部45の開口縁部に乗り上げるようにしてあらたな鉄筋コンクリート51が外側に膨らみ、その膨らみ変形の反力が鋼板52に生じてその反力が鋼板52からの押圧力の一部となってあらたな鉄筋コンクリート51を既存RC部材41に向けて押し戻すため、凸部53及び凹部45によるシヤキーとしての機能が確実に保持されるとともに、それによって既存RC部材41とあらたな鉄筋コンクリート51とのズレせん断もより確実に抑制される。
【0052】
また、本実施形態に係る切削ビット1によれば、円筒体7の先端側周縁に取り付けてなる外周チップ6を切削チップ3の一部としたので、回転時の周速が大きいことによる早期の砥粒脱落が防止されるとともに、湾曲底43の周縁から側面が立ち上がってなる凹部45を正確かつ効率的に形成することができる。
【0053】
本実施形態では、湾曲チップ10を120゜おきに計3本配置して放射状チップ5を構成し、あるいは外周チップ6を3つで構成したが、放射状チップや外周チップの個数あるいは角度はこれらの値に限定されるものではない。
【0054】
また、外周チップ6は、上述したように回転時の周速が大きいことによる早期の砥流脱落を防止すべく、切削面が周方向にも延設された形で円筒体7の先端周縁に設けるようにしたが、上記の懸念がないのであれば、外周チップ6を省略してもかまわない。
【0055】
図6は、センターチップ4及び放射状チップ5aで切削チップ3aを構成した切削ビット1aを示したものであり、放射状チップ5aは、3本の湾曲チップ10と同様に構成された3本の湾曲チップ10aをそれらの外側端部が円筒体7の周面からΔφだけ突出するように台座9と端部平板8の周縁近傍との間に跨設して構成してある。
【0056】
かかる構成においては、湾曲チップ10aの外側端部近傍が外周チップ6に代わるものとなる以外、上述の実施形態と概ね同様であるので、説明を省略するとともに、以下の変形例の説明では外周チップ6の説明を省略するが、必要に応じて適宜採用することができる。
【0057】
また、本実施形態では、湾曲底43を持つ凹部45を形成すべく、湾曲状に形成してなる湾曲チップ10で放射状チップ5を構成したが、湾曲底43に代えてテーパ底43bの凹部45bを形成したいのであれば、図7(a)に示すように、センターチップ4及び放射状チップ5bで切削チップ3bを構成するとともに、真直に形成された3本のチップ10bをそれらの外側端部が円筒体7の周面からΔφだけ突出するように台座9と端部平板8の周縁近傍との間に放射状に跨設することで放射状チップ5bを構成すればよいし、湾曲底43に代えて平底43cの凹部45cを形成したいのであれば、図7(b)に示すようにセンターチップ4及び放射状チップ5cで切削チップ3cを構成するとともに、台座9を省略した上、真直に形成された3本のチップ10cをそれらの外側端部が円筒体7の周面からΔφだけ突出するように端部平板8の上に放射状に配置して放射状チップ5cを構成すればよい。
【0058】
また、本実施形態では、湾曲チップ10を放射状に複数配置して放射状チップ5を構成したが、本発明の放射状チップは、シャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向に切削面がそれぞれ延設される構成であれば足りるものであり、図8に示すようにセンターチップ4及び放射状チップ5dで切削チップ3dを構成するとともに、湾曲面21に一致するように形成された3つの扇状部材81をそれらの外側縁部が円筒体7の周面からΔφだけ突出するように台座9と端部平板8の周縁近傍との間に放射状に跨設することで放射状チップ5dを構成してもかまわない。
【0059】
また、本実施形態では、湾曲チップ10及び外周チップ6の切削面が、シャンク2の回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる湾曲面21の上に位置決めされるように、湾曲チップ10及び外周チップ6並びに台座9をそれぞれ構成するようにしたが、放射状チップの切削面がシャンクと反対の側で凸となる一つの湾曲面上に位置決めされるように該放射状チップを配置する構成は、台座9を用いた構成に限られるものではなく、例えば図9に示したように、円筒体7の先端開口に球体の一部を構成する端部湾曲板8fを取り付けてシャンク2fとし、円筒体7の回転軸線上に位置決めされるように端部湾曲板8fの中央近傍にセンターチップ4fを突設するとともに、結合剤を介して砥粒が結合されてなる焼結体10fが、センターチップ4fの切削面よりもシャンク2fの側に後退した位置となるようにかつシャンク2fの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように該焼結体を端部湾曲板8fの凸面に配置することで放射状チップ5fを構成するようにしてもよい。
【0060】
かかる構成の場合も、上述した実施形態と作用効果は概ね同様であるので、その説明は省略するが、図9記載の例の場合、既存RC部材41に形成される凹部は、側面がなく湾曲底の周縁が凹部開口を形成している凹部となる。
【0061】
なお、図9で説明した変形例において、端部湾曲板8fを円錐状あるいは平板状に形成されてなる端板に置換すれば、テーパ底の凹部や平底の凹部を形成することが可能である。
【0062】
また、本実施形態及び変形例では、外周チップ6の外側端部や、放射状チップを構成する湾曲チップ10a、扇状部材81あるいは焼結体10fの外側端部を円筒体7の周面からΔφだけ突出させることで、既存RC部材41に形成される凹部45の開口と円筒体7との間に形成される隙間を介して切削屑が容易に排出されるように構成したが、これとは逆に、外周チップを用いる場合は外周チップを、外周チップを省略する場合は放射状チップを、円筒体の周面からそれぞれ後退させる構成が可能であり、例えば、図9に示すように、3本の湾曲チップ10をそれらの外側端部が円筒体7の周面から後退するように、換言すれば、円筒体7の外径が湾曲チップ10による切削径よりも大きくなるように、台座9と端部平板8の周縁近傍との間に放射状に跨設して放射状チップ5eを構成することができる。
【0063】
かかる構成の場合、円筒体7が既存RC部材41に形成された凹部45の開口周縁に当接した時点でドリル本体の前進が停止するため、同一深さの凹部45を多数形成したいのであれば、深さに関する精度管理に煩わされることなく、多数の凹部45を短時間に形成することが可能となる。なお、かかる変形例は、上述した他の変形例にも適用可能であるが、ここではその説明を省略する。
【符号の説明】
【0064】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f
切削ビット
2,2f シャンク
3,3a,3b,3c,3d
切削チップ
4 センターチップ
5,5a,5b,5c,5d,5e,5f
放射状チップ
6 外周チップ
7 円筒体
8 端部平板
8f 端部湾曲板
9 台座
10,10a 湾曲チップ(放射状チップ)
10b,10c チップ(放射状チップ)
10f 焼結体(放射状チップ)
41 既存RC部材(切削対象物)
81 扇状部材(放射状チップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10