【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、既存RC部材に予め凹部を形成した上でその周囲にあらたな鉄筋コンクリートを打設形成し、硬化後、該あらたな鉄筋コンクリートを載荷手段によって既存RC部材に押圧する耐震補強工法が検討されている。
【0008】
かかる耐震補強工法においては、既存RC部材の凹部に嵌合する凸部があらたな鉄筋コンクリートに形成されるが、該凸部は、既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとの界面に沿って相対変形、いうなればズレせん断が生じようとしたときでも、載荷手段による押圧作用によって、既存RC部材の凹部からの抜出しが防止される。
【0009】
そのため、あらたな鉄筋コンクリートの凸部及び既存RC部材の凹部からなる嵌合は、シヤキーとしての本来の機能が十分に発揮されることとなり、既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとが強固に一体化される。
【0010】
しかしながら、既存RC部材に形成すべき凹部は、地震時にシヤキーとして機能させる関係上、深さに対する径の相対寸法が比較的大きくなることに加え、径や深さあるいは底面形状の仕上げに精度が要求されるところ、従来の切削ビットは、配管類を挿通するための貫通孔を形成するための切削ビットであって、そもそも凹部形成が想定されていないコアビットであったり、ノンコアビットであっても、アンカーボルトやアンカー筋を挿入するために細長い穴を形成する程度のものがほとんどであって、耐震補強のシヤキーに適した凹部を形成するには本来的に適さないという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、耐震補強のシヤキー形成に適した凹部をコンクリートに形成することが可能な切削ビットを提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る切削ビットは請求項1に記載したように、ドリル本体に装着されるシャンクと該シャンクの先端近傍に配置された切削チップとで構成した切削ビットにおいて、
前記切削チップを、前記シャンクの回転軸線上に位置決めされたセンターチップと、切削面が前記センターチップの切削面よりも前記シャンク側に後退した位置となるようにかつ前記シャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように構成してなる放射状チップとで構成
するとともに、前記放射状チップを、その切削面が前記シャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように配置したものである。
【0014】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部平板を取り付け該端部平板の中央近傍に台座を突設して該台座に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記台座上に載置され外側端部が前記端部平板の周縁近傍に載置されるように該放射状チップを配置したものである。
【0015】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部湾曲板を取り付け該端部湾曲板の中央近傍に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記端部湾曲板の中央近傍に位置し外側端部が前記端部湾曲板の周縁近傍に位置するように該放射状チップを配置したものである。
【0016】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクの先端側周縁に外周チップを取り付けて該外周チップを前記センターチップ及び前記放射状チップとともに前記切削チップとするとともに、前記外周チップの切削面が前記一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように該外周チップを構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る切削ビットは、前記シャンクの外径を前記切削チップによる切削径よりも大きくしたものである。
【0018】
本発明に係る切削ビットは、シャンクの回転軸線上に位置決めされたセンターチップと、該センターチップの切削面よりも切削面がシャンク側に後退した位置となるように配置された放射状チップとで切削チップを構成してある。
【0019】
このようにすると、センターチップは、放射状チップよりも先に切削対象物に当接して該切削対象物に先行穴を切削形成し、引き続き、かかる先行穴にセンターチップが嵌合された状態で放射状チップによる切削が行われる。
【0020】
そのため、放射状チップによる切削は、先行穴がガイドの役割を果たしながら行われることとなり、かくして回転中心がぶれることなく、切削対象物に円形の凹部が正確に形成される。
【0021】
また、放射状チップは、切削面がシャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように構成してあるため、内面が滑らかな凹部を切削対象物の表面に効率よくかつ正確に形成することができるとともに、切削時においては、回転による遠心力により切削屑を放射方向に容易に移動排出させることが可能となる。
【0022】
ドリル本体への装着は、アダプターやチューブを介した間接的な装着が主として想定されるが、直接的な装着でもかまわない。また、切削方法は、湿式か乾式かを問わない。
【0023】
センターチップは、放射状チップによる切削対象物の切削に先行して該切削対象物に先行穴を形成することができる限り、任意に構成することが可能であって、例えば平面視がL字状(山形状)のチップで構成することができる。
【0026】
放射状チップは、切削面、すなわち砥粒を配置した面がシャンクの回転軸線を中心として該中心近傍から複数の角度方向にそれぞれ延設されるように構成される
ものであって、例えば真直又は湾曲状に形成され一側面に切削面が設けられた角棒部材を放射状に複数配置する構成や、平板状又は湾曲状に形成され一方の面に切削面が設けられた扇状部材を放射状に複数配置する構成、あるいは結合剤を介して砥粒が結合されてなる焼結体を球体の一部で構成された湾曲材の凸面側に放射状に取り付ける構成を採用することが可能である
し、切削対象物に形成される凹部が、例えば平底の凹部、すなわち側面が円筒状で底面が平坦となる凹部の場合には、放射状チップの切削面がシャンクの回転軸線に直交する一つの平面上に位置決めされるように該放射状チップを構成
し、テーパ底の凹部、すなわち側面が円筒状で底面が中心方向に下り勾配を持つ凹部とする場合には、放射状チップの切削面がシャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つのテーパ面上に位置決めされるように該放射状チップを構成
することができるが、本発明においては、放射状チップを、その切削面がシャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つの湾曲面上に位置決めされるように配置
する。このように構成したならば、耐震補強のためのシアキーとして望ましい湾曲底を持つ凹部を切削対象物の表面に形成することができる。
【0027】
すなわち、既存RC部材を切削対象物とし、凹部形成後に既存RC部材の周囲にあらたな鉄筋コンクリートを巻き立てるとともに、既存RC部材の凹部とそれに嵌合するあらたな鉄筋コンクリートの凸部とをシアキーとして機能させる場合、地震時における既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとの間のズレせん断に対し、あらたな鉄筋コンクリートの凸部が既存RC部材の凹部から抜け出そうとする際にあらたな鉄筋コンクリートが外方にスムーズに膨らみ、その膨らみ変形に対する反力が押圧力の一部としてあらたな鉄筋コンクリートを既存RC部材に向けて押し戻すため、既存RC部材の凹部と該凹部に嵌合されるあらたな鉄筋コンクリートの凸部とからなるシヤキーの機能がいっそう向上するとともに、その結果、既存RC部材とあらたな鉄筋コンクリートとのズレせん断がさらに確実に防止される。
【0028】
なお、湾曲底を持つ凹部には、湾曲底の周縁から側面が立ち上がっている場合と、側面がなく湾曲底の周縁が凹部開口を形成している場合とが包摂されるとともに、湾曲底には、球面の一部、すなわち同一曲率からなる曲面で底面が構成される場合と、非球面の一部、すなわち相異なる曲率からなる曲面で底面が構成される場合とが包摂される。
【0029】
放射状チップの切削面がシャンクの回転軸線に直交しかつ該シャンクと反対の側で凸となる一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように該放射状チップを構成する具体的な構成としては、例えば、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部平板を取り付け該端部平板の中央近傍に台座を突設して該台座に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記台座上に載置され外側端部が前記端部平板の周縁近傍に載置されるように該放射状チップを配置した構成や、前記シャンクを構成する円筒体の先端開口に端部湾曲板を取り付け該端部湾曲板の中央近傍に前記センターチップを配置するとともに、前記放射状チップの中心側端部が前記端部湾曲板の中央近傍に位置し外側端部が前記端部湾曲板の周縁近傍に位置するように該放射状チップを配置した構成を挙げることができる。
【0030】
切削チップは、上述したようにセンターチップ及び放射状チップで構成することができるが、シャンクの先端側周縁に取り付けられ切削面が上述した一つのテーパ面又は湾曲面上に位置決めされるように構成されてなる外周チップを上記構成に加えるようにすれば、回転時の周速が大きいことによる早期の砥粒脱落を防止することができるとともに、テーパ底又は湾曲底の周縁から側面が立ち上がってなる凹部を効率よく形成することができる。
【0031】
シャンクは、その外径を切削チップによる切削径よりも小さくする構成が可能であって、かかる構成により、切削対象物の凹部開口と円筒体との間に形成される隙間を介して切削屑を容易に排出することができるが、シャンクの外径を切削チップによる切削径よりも大きくするようにすれば、シャンクの先端周縁が切削対象物に形成される凹部の周囲に当接して前進が停止するため、凹部の深さを精度よく管理することが可能となる。