【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「チタン革新製造プロセスの開発」に関するイノベーション実用化助成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チタン合金素材が、下記式(1)で規定されるMo当量が1.5以上10.0以下であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のチタン合金ビレットの製造方法。
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5
+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
・・・・・・(1)
ここで、
[Mo]eq:Mo当量
[Mo],[Ta],[Nb],[W],[V],[Cr],[Ni],[Mn],[Co],[Fe]は、それぞれ、元素Mo,Ta,Nb,W,V,Cr,Ni,Mn,Co,Feの含有量(質量%)
【背景技術】
【0002】
Ti−6Al−4V合金に代表されるα+β型チタン合金は、軽量、高強度、高耐食性に加え、溶接性、超塑性、拡散接合性などの諸特性を有することから、航空機産業を中心に多用されてきた。これらの特性を更に活用すべく、近年では、ゴルフ用品をはじめとしたスポーツ用品にも使用されるようになってきている。そして、自動車部品、土木建築用素材、各種工具類などの民生品分野や、深海やエネルギー開発用途などへの適用拡大も進んでいる。
【0003】
α+β型のチタン合金製品は、まず、原材料を溶解後、例えば、β域鍛造→α+β鍛造→β熱処理→α+β鍛造という鍛造工程を経てチタン合金ビレットを製造する。そして、α+β型のチタン合金製品は、そのチタン合金ビレットに対し、荒地鍛造工程と仕上げ鍛造工程で成る型鍛造、熱処理、機械加工を施すことによって製造される。このような工程の製造によればチタン合金中のα相は粒状となる(以下に説明する
図7(b)参照)。
【0004】
このα+β型チタン合金の金属組織はα相とβ相で構成されている。これら金属組織のうち、β相は体心立方晶であり等方的な特性を有しているが、α相は稠密六方晶であり、結晶セルの方向、特にc軸方向(
図6参照)とc軸に垂直な方向とで特性が大きく異なっている。そのため、α+β型のチタン合金製品は、α相の結晶セルの配向状態(集合組織)によって、機械的特性を始め種々の特性に異方性を生じることがある。
【0005】
α+β型チタン合金は、主相である稠密六方晶(六方最密充填構造(HCP構造))のα相と体心立方晶(体心立方格子構造(BCC構造))のβ相とが室温で安定に共存し、β変態点(T
β)以上の温度域でβ相単相となる。α+β型チタン合金の鍛造材には、T
β以上の温度に到達しないようにT
β未満の温度域(α+β二相域)に加熱してこの温度域で鍛造するα+β鍛造によるものと、T
β以上の温度域(β単相域)に加熱して鍛造するβ鍛造によるものとがあり、形成される材料組織は全く異なり、それに伴い材料特性が異なることが知られている。
【0006】
チタン合金鍛造材は、β鍛造によれば、針状α相組織となる。具体的には、次のように組織が形成される。まず、T
β以上の温度域でβ相単相となり、等軸状のβ相(β粒)が鍛造加工により扁平に潰れた後、T
β未満の温度域まで冷却されてこの温度域で保持されると、β粒の結晶粒界に沿ってα相が膜状に析出し、引き続き、β粒の結晶粒内にα相が針状に析出する(
図7(a)で白く示されているのがα相)。なお、β鍛造には、β単相域で鍛造を完了させるもの、β単相域外(α+β二相域)に温度降下後も鍛造が継続されるもの、およびα+β二相域に温度が降下してから鍛造を開始するものがある。さらにβ鍛造材は、鍛造条件やその後の冷却条件によって、旧β粒の結晶粒界上のα相の形態や厚さ、また粒内の針状α相の長さや厚さが変化し、さらには粒界上の膜状のα相が存在しないものもあり得る。一方、チタン合金鍛造材は、α+β鍛造によれば、粒状α組織となる(
図7(b)参照)。一般的に、α+β型チタン合金鍛造材において、破壊靭性はβ鍛造をされた鍛造材の方がα+β鍛造をされた鍛造材よりも優れ、逆に疲労強度特性はα+β鍛造をされた鍛造材の方がβ鍛造をされた鍛造材よりも優れることが知られている。
【0007】
チタン合金製品において、特に高い品質を求められる場合、内部欠陥の有無を判断するために非破壊検査が実施される。代表的な非破壊検査が超音波探傷検査(UT(Ultrasonic Testing)検査)であり、被検査素材の表面から指定の周波数の超音波を入射し内部欠陥を検出する方法である。超音波は音響インピーダンスの異なる物体の界面で反射し、割れや介在物などの欠陥が存在する場合、素材とこれら欠陥との界面で反射が生じるため検査できる。
この超音波探傷検査は製品のみならず半製品のビレット段階でも実施され、ビレットの大径化に伴い中心部の探傷が難しくなる。さらに、超音波探傷検査では、被検査体内の材料組織に起因するノイズが発生し欠陥検出性を阻害することがある。
【0008】
チタン合金をβ単相温度域から冷却した際に、β相からα相が析出し、一般的にラメラ組織を呈する。α相はβ相と固有の結晶方位関係を有して析出するため、個々のα相がβ相で分離されていても複数の近接するα相は同一結晶方位を有し、それらの集合体はコロニーと呼ばれ、一つの結晶粒の様に振る舞い超音波を反射させる。その後の熱間加工によりラメラ状のα相は粒状に変化するが、そのような組織形態であってもコロニーを形成している場合があるため、チタン合金は材料組織に起因した超音波ノイズが大きく、超音波探傷検査が難しい。
【0009】
このような材料組織に起因するノイズが発生すると次の問題を生じる。(1)内部欠陥起因のノイズが材料組織からのノイズに覆い隠されてしまうため、小さな欠陥を検出できなくなる。(2)本来欠陥の無い健全な素材であっても、超音波信号を欠陥起因と見間違え、製品として使用されない。
【0010】
また、機械的特性に関しては次の事項がある。(1)絶対的な強度特性の向上が求められている。(2)強度向上により、使用する素材を削減でき経済的である。もしくは、強度向上により、設計許容度を上げ信頼性を向上できる。
【0011】
UT検査が求められるチタン合金ビレットを使用して製造される最終製品の代表的なものに航空機エンジンの回転部品がある。これらの一般的な製造工程では、ビレットを長手方向に対して垂直方向に切断し、α+βの2相域の所定温度に加熱した後、長手方向に対して平行方向に金型で押す型打鍛造や押出鍛造が施される。
【0012】
このような鍛造による変形により、α相のc軸は変形方向に対して垂直の方向に配向する傾向がある。ビレット段階で各α粒のc軸の配向がランダムであると、その後の型打鍛造や押出鍛造時にビレット長手方向に垂直な方向にc軸が配向することになり、機械的特性に異方性が生じる。
【0013】
そこで、超音波探傷検査性や機械的特性に優れたチタン合金ビレットに関する技術として、例えば特許文献1には、超音波ノイズの低いα+β型チタン合金圧延板の製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1には、まず、α+β型チタン合金スラブをβ単相域より0.5℃/s以上の冷却速度で冷却した後、所定条件で熱間鍛造を施すことによって圧延用素材を調整する。それからα+β温度域での熱間圧延と、α+β温度域での熱処理を順次施す製造方法が提案されている。
【0014】
また、例えば特許文献2には、超音波探傷試験における欠陥検出能力に優れたチタン合金ビレットが開示されている。具体的には、特許文献2には、チタン合金ビレットの中心部の軸方向に平行な任意の断面の所定領域において、全組織中に占める、アスペクト比が2.0以下の一次α相の面積率が、10%以上であるチタン合金ビレットが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来の技術では、以下に示す問題がある。
特許文献1に記載の製造方法では、組織を崩壊しやすくするため、β域から急冷(0.5℃/s)して組織微細化し、熱間圧延により伸長α相を崩壊する。この方法に因れば、素材に加えられるひずみ量は板厚減少量で制限され、コロニーを微細化させるに十分なひずみを加えることが出来ないと考えられる。形成される組織形態は必ずしも明確では無いが、そのために、コロニーが残存し圧延方向に平行に配列していると考えられる。特許文献2に記載のチタン合金ビレットについては、α相のアスペクト比のみではコロニーの形状は規定できない。つまりアスペクト比が小さくてもコロニーが存在することがある。
よって、従来の技術において、コロニーの存在による超音波ノイズの低減には、改善の余地がある。また機械的特性のさらなる向上が望まれている。
【0017】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、超音波探傷検査性と機械的特性に優れたチタン合金ビレット、チタン合金ビレットの製造方法、チタン合金鍛造材、チタン合金鍛造材の製造方法、ならびに航空機部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、鋭意研究した結果、超音波探傷検査性と機械的特性を向上させるためには、以下の3つの観点から、これら3つの事項を兼ね備える組織を得ることが重要であることを見出した。そして、それを達成する方法を見出した。
(1)粒状αチタンの集合体であるコロニーを微細化し、超音波探傷時のノイズを低減する。(2)α粒の粒子を15μm以下とすることで、強度特性が大きく向上する。(3)α相のc軸をビレット長手方向に配向させることにより、鍛造後の最終製品において機械的特性の異方性を抑制する。
【0019】
すなわち、本発明に係るチタン合金ビレット(以下、適宜、ビレットという)は、HCP構造のαチタンとBCC構造のβチタンとから成
り、粒状α組織を有するチタン合金ビレットであって、粒状αチタンの平均粒径が6μm以上15μm以下、且つ、前記粒状αチタンの集合体であるコロニーの最大サイズが120μm以下であり、前記チタン合金ビレットの長手方向から±40°以下の範囲にαチタン相のc軸の集積が存在し、その集積度が長手方向に垂直な断面の中心部において1.5以上であることを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、粒状αチタンの平均粒径を規定することで、ビレットの強度特性が向上し、コロニーの最大サイズを規定することで、超音波探傷時のノイズが低減される。また、αチタン相のc軸の集積度を規定することで、ビレットを鍛造して得られる最終製品の機械的特性の異方性を軽減できる。
【0021】
また、本発明に係るチタン合金ビレットは、外径を200mm以上とすることもできる。
このようにビレット径を大きくしても、前記したような所望の組織とすることができる。
【0022】
本発明に係るチタン合金ビレットは、下記式(1)で規定されるMo当量が1.5以上10.0以下のチタン合金であることが好ましい。より好ましくは7.0以下である。さらに好ましくは、1.5以上5.0以下である。
[Mo]
eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5
+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
・・・・・・(1)
ここで、
[Mo]
eq:Mo当量
[Mo],[Ta],[Nb],[W],[V],[Cr],[Ni],[Mn],[Co],[Fe]は、それぞれ、元素Mo,Ta,Nb,W,V,Cr,Ni,Mn,Co,Feの含有量(質量%)
【0023】
このような構成によれば、チタン合金のα相、β相の割合が適切に制御され、本発明の効果がより発揮されやすくなる。
【0024】
本発明に係るチタン合金ビレットの製造方法は、β熱処理後にヒート数が1回以上のα+β鍛造を施す
、前記記載のチタン合金ビレットの製造方法において、前記β熱処理を施したチタン合金素材に、α+β鍛造にて、下記式(2)を満たす一軸方向の鍛造加工を2回以上繰り返し、2回目の鍛造加工の圧下方向は1回目の鍛造からビレット長手方向を軸に90°回転させた方向であることを特徴とするチタン合金ビレットの製造方法。
1.25X−Y>0.15・・・式(2)
ここで、
X=(m
b−m
a)/m
b
Y=(A
b−A
a)/A
b
ただし、
m
b:鍛造加工前の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した、圧下方向と平行な方向の最大長さ
m
a:鍛造加工後の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した、圧下方向と平行な方向の最大長さ
A
b:鍛造加工前の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状の断面積
A
a:鍛造加工後の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状の断面積
【0025】
このような製造方法によれば、β熱処理後のα+β鍛造加工時の断面形状変化について規定することで、鍛造加工時にチタン合金素材が長手方向へ変形することが抑制され、幅方向(断面方向)に変形するようになる。これにより、チタン合金素材に十分なひずみが加えられ、コロニーサイズが微細化される。更には、1回目の鍛造にてラメラ状α相が鍛造材の幅方向に配向し、荷重軸方向が1回目の鍛造方向に対して90°回転した2回目の鍛造にてラメラ状α相の配向と平行に鍛造されることにより、効率的にコロニーが微細化される。
【0026】
前記β熱処理前のチタン合金素材の断面形状について、m
0とn
0の比(m
0/n
0)が1.1以上であることが好ましい。
ここで、
m
0:β熱処理前のチタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した長径または長辺
n
0:β熱処理前のチタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した短径または短辺
【0027】
β熱処理前のチタン合金素材の断面形状を矩形形状((m
0/n
0)≧1.1)とすることで、β域に所定時間加熱し室温まで水冷処理する際の冷却速度が早くなる。そのため、より微細なβ熱処理組織となり、コロニーが微細化しやすくなる。
【0028】
前記チタン合金素材は、下記式(1)で規定されるMo当量が1.5以上10.0以下のチタン合金であることが好ましい。より好ましくは7.0以下である。さらに好ましくは、1.5以上5.0以下である。
[Mo]
eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5
+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
・・・・・・(1)
ここで、
[Mo]
eq:Mo当量
[Mo],[Ta],[Nb],[W],[V],[Cr],[Ni],[Mn],[Co],[Fe]は、それぞれ、元素Mo,Ta,Nb,W,V,Cr,Ni,Mn,Co,Feの含有量(質量%)
【0029】
このような製造方法によれば、チタン合金のα相、β相の割合が適切に制御され、本発明の効果がより発揮されやすくなる。
【0030】
本発明に係るチタン合金鍛造材は、HCP構造のαチタンとBCC構造のβチタンとから成
り、粒状α組織を有するチタン合金鍛造材であって、粒状αチタンの平均粒径が6μm以上15μm以下、且つ、前記粒状αチタンの集合体であるコロニーの最大サイズが120μm以下であり、鍛造方向から70°以上90°以下の範囲でのαチタン相のc軸の集積度が0.45以上0.65以下であることを特徴とする。
【0031】
このような構成によれば、粒状αチタンの平均粒径を規定することで、チタン合金鍛造材の強度特性が向上し、コロニーの最大サイズを規定することで、超音波探傷時のノイズが低減される。また、αチタン相のc軸の集積度を規定することで、機械的特性の異方性を軽減できる。
【0032】
本発明に係るチタン合金鍛造材の製造方法は、前記記載のチタン合金ビレットを用いたチタン合金鍛造材の製造方法であって、前記チタン合金ビレットを加熱した後に、前記チタン合金ビレットの長手方向が荷重方向となるように鍛造加工を行うことを特徴とする。
このような製造方法によれば、超音波探傷検査性と機械的強度に優れ、さらに、機械的特性の異方性が軽減されたチタン合金鍛造材が得られる。
【0033】
本発明に係る航空機部品の製造方法は、前記記載のチタン合金ビレットを用いた航空機部品の製造方法であって、前記チタン合金ビレットを超音波探傷して選別し、このチタン合金ビレットを加熱した後に、前記チタン合金ビレットの長手方向が荷重方向となるように鍛造加工を行い、その後、航空機部品の形状に機械加工を行うことを特徴とする。
このような製造方法によれば、内部欠陥のない高品質の航空機部品が得られる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のチタン合金ビレットによれば、より小さな欠陥を高精度で検出可能となり、より精度の高い超音波探傷検査を実施できる。そのため、製品の信頼性が向上する。また、高強度な材料が得られ、使用する材料費を削減できる。さらに、長手方向にα相のc軸が配向しているため、最終製品であるチタン合金鍛造材の機械的特性の異方性が軽減される。
本発明のチタン合金ビレットの製造方法によれば、前記した効果を奏するチタン合金ビレットを製造することができる。
【0035】
本発明のチタン合金鍛造材によれば、より小さな欠陥を高精度で検出可能となり、より精度の高い超音波探傷検査を実施できる。そのため、製品の信頼性が向上する。また、高強度な材料が得られ、使用する材料費を削減できる。さらに、α相のc軸が配向しているため、機械的特性の異方性が軽減される。
【0036】
本発明のチタン合金鍛造材の製造方法によれば、生産性(生産速度)を阻害することなく、機械的特性の異方性が軽減されたチタン合金鍛造材を得ることができる。また、小さすぎない製品サイズとすることができる。さらに、高価な設備が不要である。
本発明の航空機部品の製造方法によれば、生産性(生産速度)を阻害することなく、内部欠陥のない高品質の航空機部品を得ることができる。また、小さすぎない製品サイズとすることができる。さらに、高価な設備が不要である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の実施の形態ついて詳細に説明する。
≪チタン合金ビレット≫
本発明のチタン合金ビレットは、HCP構造のαチタンとBCC構造のβチタンとから成るα+β域で鍛造されたものである。
【0039】
HCP構造(六方最密充填構造:Hexagonal Close-Packed structure)とは、結晶構造の一種である。HCP構造は、一般に正六角柱で表し、この正六角柱の上面および底面の各角および中心と、六角柱の内部で高さ1/2のところに3つの原子が存在する。
BCC構造(体心立方格子構造:Body-Centered Cubicstructure)とは、結晶構造の一種である。BCC構造は、立方体形の単位格子の各頂点と中心に原子が位置する。
【0040】
そして、チタン合金ビレットは、粒状αチタンの平均粒径を6μm以上15μm以下、且つ、粒状αチタンの集合体であるコロニーの最大サイズを120μm以下に規定したものである。
さらに、チタン合金ビレットの長手方向から±40°以下の範囲にαチタン相のc軸の集積が存在し、その集積度を長手方向に垂直な断面の中心部において1.5以上としたものである。
以下、各構成について説明する。
【0041】
[粒状αチタンの平均粒径:6μm以上15μm以下]
粒状αチタンとは、HCP構造のαチタンが粒状に形成されたものである。粒状αチタンの平均粒径は、5.5μm以上の粒径を有する結晶粒の粒径を測定し、平均したものとする。
【0042】
粒状αチタンの平均粒径が15μmを超えると、優れた強度特性が得られない。したがって、平均粒径は15μm以下とする。好ましくは13μm以下である。一方、粒状αチタンを微細化し過ぎると、クリープ特性を劣化させる虞が生じる。したがって、平均粒径は6μm以上とする。好ましくは、7μm以上、より好ましくは8μm以上である。
【0043】
なお、αチタンの粒径を微細化するためには、後記するβ熱処理後のラス組織を微細にすることが重要である。そのため、β熱処理後の冷却速度が早くなるように、β熱処理時のチタン合金素材の長径(四角形の場合は長辺)と短径(四角形の場合は短辺)の比(アスペクト比)を1.1以上にすることが好ましい。すなわち、β熱処理前のチタン合金素材の断面形状における長径(長辺)と短径(短辺)の比(アスペクト比)により、β熱処理後の組織を微細化し、その後のビレット鍛造工程でコロニーを微細化させ易くする。
【0044】
[コロニーの最大サイズ:120μm以下]
コロニーは、隣合うαチタン粒との結晶方位差が15°未満である領域を指す。すなわち、隣合う粒状αチタンの結晶方位差が15°未満である、粒状αチタンの集合体をいう。コロニーサイズは、コロニーの円相当直径で規定する。
コロニーサイズが小さくなるに従い超音波のノイズが低減される。コロニーの最大サイズが120μmを超えると、超音波のノイズが大きくなり、種々の問題を生じる。したがって、コロニーの最大サイズは120μm以下とする。好ましくは、100μm以下である。
【0045】
下限は特に規定は無いが、極限は一つのα粒のサイズである。後記するチタン合金ビレットの製造方法によれば、原理的にコロニーサイズを一つのα粒サイズまで微細化することが可能である。しかし、生産工程が増える割にはノイズ低減効果が少ないため非効率となる。したがって、コロニーの最小サイズは20μm以上が好ましい。
なお、コロニーを微細化するためには、ビレット鍛造時(すなわち、β熱処理後のα+β鍛造時)のひずみの大きさと付加方向の制御が重要である。すなわち、β熱処理後のα+β鍛造の条件により、コロニーの最大サイズを制御する。
【0046】
次に、粒状αチタンの平均粒径およびコロニーの最大サイズの測定の一例について説明する。
まず、チタン合金ビレットの長手方向に垂直な断面(断面D:
図1参照)の中心部を、長手方向に垂直な方向からEBSP(電子後方散乱解析像法)を用いて観察する。測定サイズを1.8mm×1.2mmとし、1.0μm間隔で測定し、コロニーサイズ及びα粒のサイズを算出する。隣合うαチタン粒との結晶方位差が15°未満である領域をコロニーとし、その円相当直径をコロニーサイズとする。また、β相に囲まれている、もしくは隣合うαチタン粒との結晶方位差が3°以上である領域をα粒とし、測定ノイズの影響を除くために円相当直径が5.5μm以上のα粒について平均値を求め、平均α粒径とする。
【0047】
なお、「垂直な断面の中心部」とは、例えば、中心軸(中心軸2:
図1参照)から、φ20mmの範囲をいう。また、「長手方向に垂直な方向から観察する」とは、長手方向に垂直な断面を、断面側からではなく、ビレットの側面方向から観察するということである。例えば、
図4に示すm
b,n
bの方向であるが、観察方向は側面における円周上のどの角度方向でもよい。
【0048】
ここで、EBSPによる従来技術の組織観察像および本発明の組織観察像を
図2に示す。
図2において、粒状のものがαチタンである。
図2から、本発明の組織は、従来技術の組織に比べて、粒状αチタンの粒径およびコロニーが微細であるといえる。
【0049】
[チタン合金ビレットの長手方向から±40°以下の範囲にαチタン相のc軸の集積が存在]
チタン合金ビレットの長手方向から±40°以下の範囲とは、
図1に示すように、例えば、ビレット10の長手方向の軸(円周方向の中心を通る中心軸)2を基準とした場合、c軸3の方向がこの中心軸2から±40°以下となる範囲をいう。すなわち、この範囲にc軸3が配向している。なお、ビレット10の長手方向とは、
図1に示す中心軸2に平行な方向である。
【0050】
α粒のc軸の配向に関して、ビレットの長手方向に予めc軸を配向させておいた場合、その後のチタン合金鍛造材の製造における型打鍛造や押出鍛造時に、ビレット長手方向に対して垂直な方向に向かってc軸が配向する程度が軽微となる。これにより、最終鍛造製品の機械的特性の異方性が軽微となる。
【0051】
[長手方向に垂直な断面の中心部の集積度が1.5以上]
集積度とは、ランダムな(配向のない)結晶方位を有する標準化サンプルを用いて測定した方位密度分布を1.0として、各試験体の方位密度分布を標準化した規格値を称す。(集合組織に関する文献:U. F. Kocks, C. N. Tome and H.R. Wenk: Texture and Anisotropy, Cambridge University Press. (例えば57ページを参照。))
なお、「垂直な断面の中心部」とは、例えば、中心軸(中心軸2:
図1参照)から、φ20mmの範囲をいう。
【0052】
集積度が1.5未満では、製品を製造する最終鍛造にてビレットの長手方向に平行に加工する場合、加工条件によって最終鍛造材の異方性が強く生じる虞があり、最終鍛造材の機械的特性の異方性が大きくなる虞がある。したがって、集積度は1.5以上とする。好ましくは2.0以上である。なお、集積度を高めすぎると、最終鍛造時の変形抵抗が高くなりすぎる虞があるため、10以下が好ましく、8以下がより好ましい。
α粒のc軸の配向および集積度は、β熱処理後のα+β鍛造の条件により制御する。
所望の集積を得るために、ビレット鍛造時に動的再結晶が起こらないように、ビレット鍛造では、ひずみ速度が10
−2(1/s)より速い速度で加工するのが好ましい。
【0053】
次に、α粒のc軸の配向および集積度の測定の一例について説明する。
チタン合金ビレットから、長手方向と直交する断面をエメリー紙(♯2400)で研磨した後、鏡面研磨を実施する。この断面の集合組織について、X線正極点図測定を実施する。具体的には、リガク製X線回析装置(RINT−5000)を用い、まず、Cuターゲットで、ターゲット出力40kV−200mAの条件で反射法により、α相の(0002)面方位の集合組織測定を行う。なお、測定については、観察位置は長手方向に垂直な断面の中心部であり、観察方向は、断面に対して垂直な向き、すなわち、長手方向に平行な向きである。またX線の照射面積はφ20mmとすればよい。次に、標準化処理した後、測定結果を出力する。そして、集積度を0.5ピッチで出力し、長手方向から40°以下の位置の集積度を算出する。
【0054】
また、本発明のチタン合金ビレットの形状は特に規定されるものではないが、長手方向に直交する断面形状が円形状(略円形状)の円柱に仕上るのが一般的であり、外径を200mm以上とすることができる。なお、円柱形状に仕上げるには、曲率を持った金型で鍛造する。断面形状が多角形になるように鍛造加工し、その後、機械加工により円形に仕上げても良い。その場合、金型形状に因らず、多角形断面の内接円をφ200mm以上とすれば良い。
本発明においては、外径を200mm以上と径を大きくする場合でも、前記したような所望の組織とすることができる。なお、外径が200mm以上とは、1つのビレットの全ての位置で、200mm以上であることを意味する。
その他の形状としては、例えば、長手方向に直交する断面形状が楕円形状の円柱、長手方向に直交する断面形状が四角形状の四角柱等が挙げられる。なお、断面形状には、真円、楕円、正方形、長方形等を含む。さらには、四角や円以外に八角形や十六角形でもよい。また、これらの形状は、数学上の厳密なものでなくてもよい。すなわち幾何学的に完全な形状である必要はなく、例えば、加工上の理由等から角が丸みを帯びていてもよく、正方形の場合、角が厳密に90°でなくてもよい。また、辺が厳密な直線でなくてもよい。
【0055】
[その他]
本発明は、α+β型チタン合金であれば適用することができるが、下記式(1)で規定されるMo当量が1.5以上10.0以下のチタン合金であることが好ましい。より好ましくは7.0以下である。さらに好ましくは、1.5以上5.0以下である。
[Mo]
eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5
+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
・・・・・・(1)
ここで、
[Mo]
eq:Mo当量
[Mo],[Ta],[Nb],[W],[V],[Cr],[Ni],[Mn],[Co],[Fe]は、それぞれ、元素Mo,Ta,Nb,W,V,Cr,Ni,Mn,Co,Feの含有量(質量%)
【0056】
具体的には、特に、AMS4928で規定される成分で形成されていることが好ましい。つまり、Al:5.50〜6.75質量%、V:3.50〜4.50質量%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物であるチタン合金で形成されていることが好ましい。不可避的不純物としては、おおよそN:0.05質量%、C:0.08質量%、H:0.015質量%、Fe:0.30質量%、O:0.20質量%を含有する。平均組成を用いて算出したMo当量は2.7である。
【0057】
また、AMS4981で規定されるチタン合金で形成されても良い。AMS4981で規定されるチタン合金は、主添加元素として、Al、Sn、ZrおよびMoを含有し、その含有量は、Al:5.50〜6.50質量%、Sn:1.75〜2.25質量%、Zr:3.50〜4.50質量%、Mo:5.50〜6.50質量%であって、残部はTiおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、おおよそN:0.04質量%、C:0.08質量%、H:0.015質量%、Fe:0.15質量%、O:0.15質量%を含有する。平均組成を用いて算出したMo当量は6.0である。
【0058】
さらに、チタン合金ビレットは、AMS4995で規定されるチタン合金で形成されていても良い。AMS4995で規定されるチタン合金は、主添加元素として、Al、Zr、Sn、MoおよびCrを含有し、その含有量は、Al:4.50〜5.50質量%、Zr:1.50〜2.50質量%、Sn:1.50〜2.50質量%、Mo:3.50〜4.50質量%、Cr:3.50〜4.50質量%であって、残部はTiおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、おおよそN:0.04質量%、C:0.05質量%、H:0.0125質量%、Fe:0.3質量%、O:0.08〜0.12質量%を含有する。平均組成を用いて算出したMo当量は9.0である。
【0059】
≪チタン合金ビレットの製造方法≫
本発明のチタン合金ビレットの製造方法は、β熱処理後にヒート数が1回以上のα+β鍛造を施すものである。その後、表面の機械加工を施してもよい。また、応力除去焼鈍や、機械加工し易くするための焼鈍を施してもよい。
なお、通常、β熱処理の前に、β鍛造およびα+β鍛造(以下、これらを適宜、前工程の鍛造という)を行なうため、本実施形態では、前工程の鍛造を行なうものとして説明する。なお、前工程は必須ではなく、あっても無くても良い。また、β鍛造およびα+β鍛造のいずれか一方のみ実施しても良い。
【0060】
すなわちチタン合金ビレットの製造方法は、(a)前工程のβ鍛造工程と、(b)前工程のα+β鍛造と、(c)β熱処理工程と、(d)応力除去焼鈍工程と、(e)β熱処理後のα+β鍛造工程と、(f)焼鈍工程と、(g)機械加工工程と、をこの順に行なう。
以下、各工程について説明する。
【0061】
[(a)前工程のβ鍛造工程および(b)前工程のα+β鍛造工程]
前工程のβ鍛造工程は、インゴットにβ域で鍛造を施す工程である。β鍛造は従来公知の方法で行えばよい。例えばβ変態点よりも100℃程度高い温度に素材を加熱し、所定の鍛錬比(例えば1.5)の鍛造を行い、室温に冷却する。
前工程のα+β鍛造は、β鍛造されたインゴットにα+β域で鍛造を施す工程である。α+β鍛造は従来公知の方法で行えばよい。例えばβ変態点よりも10〜100℃程度低い温度に素材を加熱し、所定の鍛錬比(例えば1.5)の鍛造を行い、室温に冷却する。
【0062】
この前工程の鍛造により、中間素材であるチタン合金素材が作製される。このチタン合金素材は、長手方向に直交する断面形状が楕円形状の円柱、あるいは、長手方向に直交する断面形状が四角形状の四角柱である。なお、断面形状には、真円、楕円、正方形、長方形等を含む。さらには、四角や円以外に八角形や十六角形でもよい。また、これらの形状は、数学上の厳密なものでなくてもよい。すなわち幾何学的に完全な形状である必要はなく、例えば、加工上の理由等から角が丸みを帯びていてもよく、正方形の場合、角が厳密に90°でなくてもよい。また、辺が厳密な直線でなくてもよい。
【0063】
チタン合金素材は、前記チタン合金ビレットで述べたように、下記式(1)で規定されるMo当量が1.5以上10.0以下のチタン合金であることが好ましい。より好ましくは7.0以下である。さらに好ましくは、1.5以上5.0以下である。
[Mo]
eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.6+[W]/2.5+[V]/1.5
+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
・・・・・・(1)
ここで、
[Mo]
eq:Mo当量
[Mo],[Ta],[Nb],[W],[V],[Cr],[Ni],[Mn],[Co],[Fe]は、それぞれ、元素Mo,Ta,Nb,W,V,Cr,Ni,Mn,Co,Feの含有量(質量%)
【0064】
つまり、Al:5.50〜6.75質量%、V:3.50〜4.50質量%を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物であるチタン合金で形成されていることが好ましい。
また、Al、Sn、ZrおよびMoを含有し、その含有量は、Al:5.50〜6.50質量%、Sn:1.75〜2.25質量%、Zr:3.50〜4.50質量%、Mo:5.50〜6.50質量%であって、残部はTiおよび不可避的不純物であるチタン合金で形成されていてもよい。
さらには、Al、Zr、Sn、MoおよびCrを含有し、その含有量は、Al:4.50〜5.50質量%、Zr:1.50〜2.50質量%、Sn:1.50〜2.50質量%、Mo:3.50〜4.50質量%、Cr:3.50〜4.50質量%であって、残部はTiおよび不可避的不純物であるチタン合金でも良い。
【0065】
[(c)β熱処理工程]
β熱処理工程は、チタン合金素材にβ熱処理を施す工程である。
β熱処理は、従来公知の方法および条件で行えばよい。例えば、β変態点よりも20〜100℃高い温度に加熱保持後、水冷却という条件で行なう。
【0066】
[(d)応力除去焼鈍工程]
残留除去焼鈍工程は、β熱処理が施されたチタン合金素材に残留応力を除去する応力除去焼鈍を施す工程である。応力除去焼鈍は必須ではないが、β熱処理工程における冷却後、例えば、650〜800℃で1〜8時間の条件で残留応力除去を行ってもよい。
【0067】
[(e)β熱処理後のα+β鍛造工程]
β熱処理後のα+β鍛造工程は、β熱処理後にヒート数が複数回のα+β鍛造を施す工程である。
α+β鍛造は、加熱と鍛造を繰返して行い、加熱後、鍛造し、再加熱するまでの1サイクルの工程を1ヒートと呼ぶ。ヒート数とは、加熱と鍛造との繰返し数のことである。鍛造前の加熱はβ変態温度よりも10〜100℃低い温度に加熱し、0.5〜8h保持すれば良い。
【0068】
β熱処理後のα+β鍛造工程では、β熱処理を施したチタン合金素材に、α+β鍛造にて、下記式(2)を満たす一軸方向の鍛造加工を2回以上繰り返し、2回目の鍛造加工の圧下方向を1回目の鍛造からビレット長手方向を軸に90°回転させた方向とする。
なお、一軸方向の鍛造加工とは、鍛造の際の方向を同一方向に行なうことであり、例えば、
図4における金敷の駆動方向を同一にすることである。
【0069】
1.25X−Y>0.15・・・式(2)
【0070】
ここで、
X=(m
b−m
a)/m
b
Y=(A
b−A
a)/A
b
【0071】
ただし、
m
b:鍛造加工前の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した、圧下方向と平行な方向の最大長さ
m
a:鍛造加工後の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した、圧下方向と平行な方向の最大長さ
A
b:鍛造加工前の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状の断面積
A
a:鍛造加工後の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状の断面積
である(
図4参照)。
なお、鍛造加工前および鍛造加工後とは、2回以上の鍛造のうちの所定の鍛造における、この鍛造の前後のことである。
【0072】
ここで、β熱処理後のα+β鍛造の条件を規定した経緯について説明する。
【0073】
ビレット鍛造は、上下一対の金型の間に例えば円柱状素材を配置し、素材側面を長手方向に垂直方向から上下一対の金型で鍛造することで行なう。つまり、素材長手方向と金型の駆動方向は垂直方向である。なお、上下の金型が同時に駆動する場合と、下金型が固定され、上金型のみが駆動する場合などがある。
【0074】
鍛造の手順は、大きく次の2種類ある。ここでは、円柱状のチタン合金素材(以下、適宜、素材という)の場合について説明する。
(1)素材を軸方向に回転させずに素材を先端から長手方向に逐次移動させ同一の鍛造を繰り返す。その次に、長手方向を軸に素材を所定角度回転させ、同様に素材先端から上下一対の金型で逐次鍛造を繰り返す。これを繰り返し、素材長手方向全体の断面積を減少させ、長手方向に素材を鍛伸する。
(2)素材を軸方向に回転させながら素材円周方向の断面積を減少させた後、素材を先端から長手方向に平行に逐次移動させ、再度、未鍛造部を、素材を軸方向に回転させながら鍛造を行う(一部鍛造済み部も重ねるように鍛造する)。これを繰り返し、素材長手方向全体の断面積を減少させ、長手方向に素材を鍛伸する。
【0075】
1回の鍛造での変形量が大きいと変形荷重が高くなり、また、表面に割れが発生する。そのため、必要に応じて、複数回に分けて段階を踏んで、上記鍛造を繰り返す。これにより、所望の断面積形状に仕上げる。上記鍛造工程の間に素材温度が低下した場合も変形荷重が増加し、表面割れが発生し易くなる。そのため、所定温度に保持された炉に再度挿入して素材を加熱した後、鍛造加工を繰り返す。再加熱の回数は鍛造方案によって異なるが、通常、1回以上再加熱が行われる。
【0076】
ここで、ビレットのコロニーを微細化するためには、ビレット鍛造時に大きなひずみを加えることが重要である。
従来の方法によると、インゴットの径を一定とした場合、製造するビレット径が大きくなるほど、材料に加えられるひずみ量が減る。その制限を回避するために、アップセット鍛造(長手方向に鍛造)して素材の径を大きくすることが一般に実施される。しかしその方法では、初期素材が長い場合は鍛造時に座屈するなどの問題があり、大きな素材を処理することが出来ないという問題がある。
本発明者らは、各鍛造加工時の断面形状変化を工夫することで、効率的に素材にひずみを加える方法を見出し、大径ビレットにおいても所望の組織を得ることを達成した。
【0077】
鍛造加工時において長手方向に素材が伸びることは、断面積(
図1のD面の面積)が減少することを意味する。そこで、鍛造加工時にチタン合金素材が長手方向へ変形することを抑制し、幅方向(断面方向)に変形するように工夫することで、ビレット径が大きくなってもチタン合金素材に十分なひずみを加え、コロニーサイズを微細化できることを見出した。
【0078】
更に、コロニーを構成するラメラ状α相に対して、ラメラに垂直方向よりも平行方向に鍛造した場合に、コロニーが分断され易いことを見出した。すなわち、1回目の鍛造での鍛造材幅方向の変形に伴いラメラ状α相を幅方向に配向させ、2回目の鍛造時には1回目の鍛造と荷重軸方向を90°回転させることで、ラメラ状α相の配向と平行に変形を加えることができ、同じひずみ量であってもコロニーを効率的に微細化できることを見出した。
【0079】
以上に基づき、大径ビレットにおいても所望の組織を得ることを達成した。
すなわち、β熱処理後のα+β鍛造において、前記の条件を規定した。
次に、各条件について説明する。
【0080】
[1.25X−Y>0.15]
Xは圧下方向の変形度合、Yはビレットの長手方向の変形度合を示す。
圧下方向の変形度合い(X)が小さい程、幅方向への変形を活用し、断面積変化を抑える必要がある。逆に幅方向への変形度合い(Y)が同じであっても圧下量(圧下方向の変形度合い(X))が大きい程、素材に導入できるひずみ量が増加できる。また、1回目と2回目の鍛造が一軸方向の鍛造であり、2回目の鍛造加工の圧下方向を1回目の鍛造からビレット長手方向を軸に90°回転させた方向とすることで、1.5以上のひずみを加えることができ、所望のコロニーサイズが得られることを実験により見出した。なお、加えるひずみ量は高い程好ましく、1.55以上加えることが好ましい。
【0081】
上記鍛造方法で、1.5以上のひずみを加えることができる条件を検討した結果を
図3に示す。ここで、ひずみは素材の断面形状の変化から幾何学的に計算した。そして、
図3から式(2)を得た。よって、1.25X−Yは0.15を超えるものとする。また、1.25X−Yは0.20以上が好ましい。なお、理論上の上限値は1.0に漸近するが、0.6超を狙うと生産性を落とし効率的ではない。よって、1.25X−Yは0.6以下とするのが好ましい。
【0082】
[繰り返し数:2回以上で2回目の圧下方向を90°回転させる]
式(2)を満たす鍛造加工を2回以上繰り返す目的は、第1に、素材に加わるひずみ量の増加であり、第2に1回目の鍛造での鍛造材幅方向に配向したラメラ状α相を、その配向の平行方向に変形を加えるためである。こうすることで、コロニーを効率的に微細化する効果を得ることができる。
なお、鍛造加工を3回以上行なう場合は、圧下方向は特に限定されるものではないが、前記と同様に、直前の鍛造加工の圧下方向から90°回転させるのが好ましい。
【0083】
β熱処理後のα+β鍛造加工後、焼鈍を行っても良い。焼鈍条件はチタン合金種や所望の機械的特性によって変えるべきものであるが、例えば、700℃で2h後空冷する、などの条件がある。
【0084】
また、β熱処理前のチタン合金素材の断面形状について、m
0とn
0の比(m
0/n
0)が1.1以上であることが好ましい。
ここで、
m
0:β熱処理前のチタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した長径または長辺
n
0:β熱処理前のチタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した短径または短辺
である。
なお、断面形状が楕円形状の場合は、長径あるいは短径であり、断面形状が四角形状の場合は、長辺あるいは短辺である。
【0085】
β熱処理前に矩形形状((m
0/n
0)≧1.1)とすることで、β域に所定時間加熱し室温まで水冷処理する際の冷却速度が早くなる。そのため、より微細なβ熱処理組織を得ることができ、効果的にコロニーを微細化できる。なお、α+β鍛造時に座屈が生じる虞があるため、アスペクト比は4.0以下が好ましい。より好ましくは3.5以下である。
【0086】
次に、このようなビレット鍛造と金型(金敷)との関係について、
図4を参照して説明する。
図4に示すように、鍛造に使用する金敷(上金敷21,下金敷22)の形状について、素材長手方向の長さ(T
u、T
l)を、チタン合金素材20の半径方向の長さ(n
b)よりも長くすると良い。長さの比は大きければ大きい程、効果的であり、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上である。
金敷(上金敷21,下金敷22)の素材幅方向の長さ(S
u、S
l)は鍛造後の素材幅方向の長さ(n
a)よりも小さいことが好ましい。その場合、チタン合金素材20を長手方向に垂直で、かつ金型駆動方向に垂直な方向(S
u、S
lの矢印と平行の方向)に移動させ、鍛造を行う。この際、下金敷22の素材幅方向の長さ(S
l)は素材径よりも大きくても良い。素材径よりも大きい方が作業性に優れる。
【0087】
なお、前記した諸条件は、コロニー微細化に直接関係しているβ熱処理後のα+β鍛造工程に着目して規定したものである。ただし、同じ方法を前工程のα+β鍛造に適用し、β熱処理後のα+β鍛造工程を開始する際の素材断面積を大きくしてもよい。このようにすることで、その後のビレット工程で、さらに大きなひずみを加えるようにしても良い。
【0088】
ここで、β熱処理後のα+β鍛造においては、鍛造加工時のひずみ速度は通常の方法と同じで良く、動的再結晶を誘発するように、ひずみ速度を10
−2(1/s)以下のように極端に遅くすることが無いため、生産性(生産速度)を阻害することはない。また、衝撃加工のように10(1/s)以上とする必要もない。さらには、高価な設備は不要で、製品サイズが小さすぎるということもない。
【0089】
[(f)焼鈍工程]
焼鈍工程は、β熱処理後にα+β鍛造が施されたチタン合金素材に焼鈍を施す工程である。焼鈍は必須でないが、実施することで機械加工し易くなる。焼鈍は、従来公知の方法および条件で行えばよい。例えば、β変態点よりも20〜400℃低い温度に加熱し、1〜8時間保持して室温に冷却すれば良い。
[(g)機械加工工程]
機械加工工程は、β熱処理後にα+β鍛造が施された(あるいは焼鈍が施された)チタン合金素材の表面を機械加工する工程である。機械加工は従来公知の方法で行えばよい。例えば、切削加工、施盤加工等が挙げられる。
チタン合金素材を機械加工することで、表面の酸化皮膜層やシワやバリを除去することができ、表面粗度を整えることができる。これにより内部欠陥有無を検査するための超音波探傷検査を実施しやすくなる。また、チタン合金鍛造材の製造の際に、鍛造がしやすくなる。
【0090】
≪チタン合金鍛造材≫
本発明のチタン合金鍛造材は、HCP構造のαチタンとBCC構造のβチタンとから成るα+β域で鍛造されたものである。
そして、チタン合金鍛造材は、粒状αチタンの平均粒径を6μm以上15μm以下、且つ、粒状αチタンの集合体であるコロニーの最大サイズを120μm以下に規定したものである。
さらに、鍛造方向から70°以上90°以下の範囲でのαチタン相のc軸の集積度を0.45以上0.65以下としたものである。
以下、各構成について説明する。
【0091】
[粒状αチタンの平均粒径:6μm以上15μm以下]
粒状αチタンとは、HCP構造のαチタンが粒状に形成されたものである。粒状αチタンの平均粒径は、5.5μm以上の粒径を有する結晶粒の粒径を測定し、平均したものとする。
【0092】
粒状αチタンの平均粒径が15μmを超えると、優れた強度特性が得られない。したがって、平均粒径は15μm以下とする。好ましくは13μm以下である。一方、粒状αチタンを微細化し過ぎると、クリープ特性を劣化させる虞が生じる。したがって、平均粒径は6μm以上とする。好ましくは、7μm以上、より好ましくは8μm以上である。
【0093】
仕上げ鍛造後はT
β未満の温度域であれば、焼鈍、溶体化過時効処理など、任意の熱処理を施して良い。
【0094】
[コロニーの最大サイズ:120μm以下]
コロニーは、隣合うαチタン粒との結晶方位差が15°未満である領域を指す。すなわち、隣合う粒状αチタンの結晶方位差が15°未満である、粒状αチタンの集合体をいう。コロニーサイズは、コロニーの円相当直径で規定する。
コロニーサイズが小さくなるに従い超音波のノイズが低減される。コロニーの最大サイズが120μmを超えると、超音波のノイズが大きくなり、種々の問題を生じる。したがって、コロニーの最大サイズは120μm以下とする。好ましくは、100μm以下である。
【0095】
下限の規定は特に無いが、極限は一つのα粒のサイズである。後記するチタン合金鍛造材の製造方法によれば、原理的にコロニーサイズを一つのα粒サイズまで微細化することが可能である。しかし、生産工程が増える割にはノイズ低減効果が少ないため非効率となる。したがって、コロニーの最小サイズは20μm以上が好ましい。
【0096】
[鍛造方向から70°以上90°以下の範囲でのαチタン相のc軸の集積度が0.45以上0.65以下]
六方晶構造の粒状αチタンは、c軸に平行な方向とそれに垂直な方向とで強度特性が異なる。ビレットを鍛造して鍛造材を製造する際の鍛造方向に対して70°以上90°以下の領域へのc軸の集積度が0.65を超えると鍛造方向とそれに垂直な方向での強度異方性が強くなり過ぎる。また、鍛造方向に対して70°以上90°以下の範囲のc軸の集積度が0.45未満の場合も同様に強度異方性が強くなる。したがって、鍛造後の最終製品であるチタン合金鍛造材において、鍛造方向から70°以上90°以下の範囲でのαチタン相のc軸の集積度は、0.45以上0.60以下とする。好ましくは0.50以上0.60以下である。(強度異方性に関しては、「J.C. Williams and A. Starke:Deformation, Processing and Structure (George F. Krauss, ed.) ASM, Metals Park, OH,1984, pp.279.」参照)
【0097】
なお、「鍛造方向から70°以上90°以下の範囲でのαチタン相のc軸の集積度が0.45以上0.65以下」の定義については、チタン合金ビレットでの説明と同様である。すなわち、「チタン合金鍛造材の鍛造方向から70°以上90°以下の範囲」とは、例えば、チタン合金鍛造材の鍛造方向の軸(円周方向の中心を通る中心軸)を基準とした場合、c軸の方向がこの中心軸から70°以上90°以下となる範囲をいう。すなわち、この範囲にc軸が配向している。なお、チタン合金鍛造材の鍛造方向とは、
図5に示すようにチタン合金ビレットの長手方向である。
また、その他の事項についても、チタン合金ビレットでの説明と同様である。
【0098】
次に、集積度の測定の一例について説明する。
チタン合金鍛造材から、鍛造方向と半径方向とに平行な面となる断面を切り出し、チタン合金鍛造材中央部の組織を観察することにより行う。具体的には、前記断面に対して、エメリー紙で機械研磨を行い、ダイヤモンド砥粒による仕上げ研磨の後、電解研磨仕上げし、SEM/EBSD法により断面組織の集合組織を測定する。測定する視野のサイズは鍛造方向に1800μm、それに垂直な方向に1200μmとし、3視野に対して測定を行なう。
それぞれの測定視野について、鍛造方向を中心とする正極点図を作成し、中心から60°以上90°以下の範囲に含まれる測定点数を求める。その後、この測定点数を各視野の全測定点数で除した値を求め、3視野の平均値を求めこれを“鍛造方向から70°以上90°以下のc軸の集積度”とする。
【0099】
≪チタン合金鍛造材の製造方法≫
本発明のチタン合金鍛造材の製造方法は、前記記載のチタン合金ビレットを用いたチタン合金鍛造材の製造方法であって、前記チタン合金ビレットを加熱した後に、前記チタン合金ビレットの長手方向が荷重方向となるように鍛造加工を行うものである。
【0100】
チタン合金鍛造材は一般的に次の工程を経て製造される。
インゴット→「β鍛造→α+β鍛造→β熱処理→応力除去焼鈍→α+β鍛造→焼鈍→機械加工」→ビレット→「超音波探傷検査→切断→α+β荒地鍛造→α+β仕上げ鍛造→熱処理→機械加工→超音波探傷検査→機械加工」(矢印(→)の方向の順に工程が進む)。ここでは、インゴットからビレットが製造されるまでは、ビレット鍛造工程、ビレットから機械加工を経てチタン合金鍛造材とするまでは、チタン合金鍛造工程という。
チタン合金鍛造工程における鍛造としては、型打鍛造や押出鍛造、型打鍛造と押出鍛造の組み合わせ等がある。
なお、鍛造温度域は要求特性によって変化させるべきもので、上記工程に限定されるものではない。例えば、ビレット鍛造工程の応力除去焼鈍や焼鈍、チタン合金鍛造工程の焼鈍、その他、切断や機械加工等は、施さなくてもよい。
【0101】
ビレット工程については前記したチタン合金ビレットの製造方法で説明したとおりであるので、ここでは、チタン合金鍛造工程について説明する。
【0102】
チタン合金鍛造工程は、(h)超音波探傷検査工程と、(i)切断工程と、(j)α+β荒地鍛造工程と、(k)α+β仕上げ鍛造工程と、(l)熱処理工程と、(m)機械加工工程と、(n)超音波探傷検査工程と、(o)機械加工工程と、をこの順に施すことによりチタン合金鍛造材を製造する。なお、(h)超音波探傷検査工程については、「(h)超音波探傷検査工程」の後にビレットを出荷する場合があるが、この場合も、ビレット鍛造工程後に超音波探傷検査でビレットを選定してチタン合金鍛造工程に供することとなるため、ここでは、チタン合金鍛造工程に含めて記載している。
以下、各工程について説明する。
【0103】
[(h)超音波探傷検査工程]
超音波探傷検査工程は、ビレットの内部欠陥の有無を判断するために非破壊検査を行う工程である。そして、内部欠陥のないビレットを選別し、次の工程の処理を施す。超音波探傷検査の方法は特に規定されるものではなく、従来公知の方法で行えばよい。すなわち、チタン合金関連について従来から用いられている装置や方法であれば、どのようなものでもよい。超音波探傷検査方法の一例を以下に述べる。
【0104】
超音波探傷検査は、プローブ径が5〜30mm、好ましくは10〜30mmのサイズの探触子を用い、周波数が1〜20MHz、好ましくは1〜10MHzの超音波で探傷することで行うことができる。この超音波探傷検査を行う際には、ビレット外周の各位置から探傷するのが好ましい。
【0105】
[(i)切断工程]
切断工程は、ビレットを輪切りにする工程である。切断は従来公知の方法で行えばよい。例えば、丸鋸切断機等により切断すればよい。
【0106】
[(j)α+β荒地鍛造工程]
α+β荒地鍛造工程は、ビレットにα+β域で鍛造を施す工程である。
α+β荒地鍛造工程では、
図5に示すように、まず、ビレット10を長手方向に対して垂直方向に切断し、所定長さの複数のビレット10aとする。次に、この切断後のビレット10aを、α+β域の温度である、β変態温度よりも20〜100℃低い温度に加熱する。その後、ビレット10aの長手方向が荷重方向となるように荒地鍛造を行なう。
【0107】
[(k)α+β仕上げ鍛造工程]
α+β仕上げ鍛造工程は、α+β荒地鍛造されたビレットに、α+β域で仕上げ鍛造を施す工程である。
すなわち、
図5に示すように、α+β荒地鍛造されたビレット10aに、α+β域の温度である、β変態温度よりも20〜100℃低い温度に加熱した後、ビレット10aの長手方向が荷重方向となるように仕上げ鍛造を行なう。
【0108】
荒地鍛造および仕上げ鍛造におけるその他については、従来公知のα+β荒地鍛造およびα+β仕上げ鍛造と同様である。なお、荒地鍛造は必須でないが、製品形状が複雑な場合もしくはニアネットシェイプを達成する場合には1回以上の荒地鍛造を行っても良い。
【0109】
各ヒートの鍛造において、素材に対する金型の駆動方向は同一が好ましく、荒地鍛造と仕上げ鍛造での合計歪範囲は0.36〜0.92(一軸圧縮で圧下率30%から60%に相当)とすることで所望の集積度が得られる。
鍛造加工時のひずみ速度は通常の方法と同じで良く、動的再結晶を誘発するように、ひずみ速度を10
−2(1/s)以下のように極端に遅くすることが無いため、生産性(生産速度)を阻害することはない。
【0110】
なお、α粒c軸は加工に伴い、加工方向に垂直な方向に配向する傾向がある。荒地鍛造と仕上げ鍛造での加工量が大きすぎれば、たとえビレットの長手方向にc軸を集積させておいても、仕上げ鍛造後には鍛造方向に垂直な方向へのc軸の集積度が強くなり、強度異方性が強くなる。
【0111】
[(l)熱処理工程]
熱処理工程は、仕上げ鍛造後のチタン鍛造素材に熱処理を施す工程である。熱処理は溶体化処理+時効処理、溶体化処理+過時効処理、2段溶体化処理+時効処理、時効処理、焼鈍処理などがあり、所望の機械的特性に応じて選択すれば良い。具体的な温度条件は合金組成によっても変わるが、例えばAMS 4928、AMS 4911、AMS 4981、AMS 4995に記載の公知の方法で行えば良い。
例えば、溶体化過時効処理の場合、T
βよりも10℃〜80℃低い温度にて、素材サイズにも因るが2時間程度保持し、室温まで水冷した後、670℃〜710℃の温度域にて2時間程度保持し空冷を行なえば良い。また、焼鈍処理の場合は、700℃から790℃の範囲にて、素材サイズにも因るが2時間程度保持し、室温まで空冷を行えば良い。
【0112】
[(m)機械加工工程]
機械加工工程は、焼鈍後のチタン合金鍛造素材に機械加工を施し、チタン合金鍛造材とする工程である。機械加工は従来公知の方法で行えばよい。例えば、切削加工、フライス加工、施盤加工等が挙げられる。
チタン合金鍛造素材を機械加工することで、表面の酸化皮膜やシワや異物を除去することができ、表面形状を整えることができる。超音波探傷検査が必要な場合は、機械加工後に実施しやすくなる。なお、焼鈍後に超音波探傷検査を行わない場合は、焼鈍後の機械加工で部品形状に加工する。
【0113】
[(n)超音波探傷検査工程]
超音波探傷検査工程は、焼鈍後の機械加工後におけるチタン合金鍛造材の内部欠陥の有無を判断するために非破壊検査を行う工程である。そして、内部欠陥のないチタン合金鍛造素材を選別し、次の工程の処理を施す。前記したとおり、超音波探傷検査は従来公知の方法で行えばよい。超音波探傷検査方法の一例として、前記した「(h)超音波探傷検査工程」での方法が挙げられる。この場合、超音波探傷検査を行う際には、チタン合金鍛造材の外周の各位置から探傷するのが好ましい。
【0114】
[(o)機械加工工程]
機械加工工程は、超音波探傷検査後のチタン合金鍛造材に機械加工を施し、部品形状に加工する工程である。機械加工は従来公知の方法で行えばよい。例えば、切削加工、フライス加工、施盤加工等が挙げられる。
【0115】
≪航空機部品の製造方法≫
本発明の航空機部品の製造方法は、前記記載のチタン合金ビレットを用いた航空機部品の製造方法であって、前記チタン合金ビレットを超音波探傷して選別し、このチタン合金ビレットを加熱した後に、前記チタン合金ビレットの長手方向が荷重方向となるように鍛造加工を行い、その後、航空機部品の形状に機械加工を行うものである。
【0116】
具体的には、航空機部品の製造方法は、前記チタン合金鍛造材の製造方法と同様に、ビレット鍛造工程、チタン合金鍛造工程を経て製造される。その際、「(m)機械加工工程」あるいは、最後の「(o)機械加工工程」により、航空機部品の形状に機械加工を施す。その他については、チタン合金鍛造材の製造方法で説明したとおりである。
航空機部品としては、例えば、航空機エンジンの回転部品が挙げられる。前記従来技術で説明したとおり、半製品であるビレットに超音波探傷検査が求められる最終製品の代表的なものに航空機エンジンの回転部品がある。
【0117】
以上、チタン合金ビレットの製造方法、チタン合金鍛造材の製造方法ならびに航空機部品の製造方法について、各工程について説明したが、これらの方法においては、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、適宜、変更してもよい。例えば、本発明の範囲を満たすものであれば、各工程の有無や順序、工程ごとの諸条件などは、厳密に規定されるものではない。
また、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において他の工程を含めてもよい。他の工程としては、例えば、ごみ等の不要物を除去する除去工程や、製造途中の中間素材を一時保管する保管工程等が挙げられる。
【0118】
このように、本発明は、優れた機械的特性が求められる用途に使用され、特に超音波探傷による欠陥検査が実施されるチタン合金ビレットおよびその製造方法ならびにこれを用いたチタン合金鍛造材およびその製造方法、さらには、航空機部品の製造方法に関するものである。
【0119】
そして、本発明によれば、生産性を阻害することなく、次のことを達成する。
超音波探傷性が向上するため、より小さな欠陥を高精度で検出可能となり、製品の信頼性が向上する。また、検査時間の短縮につながる。さらに、検査ミスによる素材の廃却がなくなる。
高い強度特性を有し、また材料の使用量を削減でき、経済的である。
チタン合金ビレットにおいて長手方向にα相のc軸の集積を形成するため、型打鍛造後(すなわち、製品段階で)の機械的特性の異方性を低減することができる。これにより、最終製品の機械的特性の異方性を軽減することができる。また、チタン合金鍛造材において鍛造方向にα相のc軸の集積を形成するため、機械的特性の異方性が軽減されたものとなる。
航空機部品においては内部欠陥のない高品質なものとなる。
【実施例】
【0120】
以下実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0121】
[第1実施例]
本実施例の試験では、まず、φ840mmのTi−6.25質量%Al−4.3質量%V鋳塊(β変態温度は995℃)を用いて、(a)β鍛造→(b)α+β鍛造→(c)β熱処理→(d)→応力除去焼鈍工程→(e)α+β鍛造という各工程を経てチタン合金ビレットを得た。
【0122】
具体的には、まず、(a)β鍛造の後、(b)α+β鍛造工程で、表1に示す種々の断面形状0に仕上げて中間素材とした。続いて(c)β熱処理を、1050℃に1.5時間保持後、水冷却という条件で施し、(d)700℃で2.5時間の条件で残留応力除去を行った。その後、β熱処理後の素材を加熱炉で950℃に加熱し、3時間保持した後に加熱炉から取り出した。そして表1に示す断面形状1となるように(e)α+β鍛造を施し、その後、再度、950℃に加熱して3時間保持した。次に、表1に示す断面形状2となるように(e)α+β鍛造を施した。その後、再度、950℃に加熱して3時間保持した後、断面形状がφ270mmになるように鍛造加工してチタン合金ビレット(試験体)を得た。
【0123】
(組織評価)
作製した試験体(熱処理なし)に対してEBSPを用いて組織観察を行った。
具体的には、素材の長手方向に垂直な断面の中心部を、長手方向に垂直な方向から観察した。測定サイズを1.8mm×1.2mmとし、1.0μm間隔で測定し、コロニーサイズ及びα粒のサイズを算出した。隣合うαチタン粒との結晶方位差が15°未満である領域をコロニーとし、その円相当直径をコロニーサイズとした。また、β相に囲まれている、もしくは隣合うαチタン粒との結晶方位差が3°以上である領域をα粒とし、測定ノイズの影響を除くために円相当直径が5.5μm以上のα粒について平均値を求め、平均α粒径とした。
【0124】
(集合組織評価)
円柱形状の各試験体の長手方向と直交する断面を評価面とした。評価面をエメリー紙(♯2400)で研磨した後、鏡面研磨を実施し、測定に供した。
集合組織評価は、X線正極点図測定により実施した。具体的には、リガク製X線回析装置(RINT−5000)を用い、まず、Cuターゲットで、ターゲット出力40kV−200mAの条件で反射法により、α相の(0002)面方位の集合組織測定を行った。X線の照射面積はφ20mmとした。次に、標準化処理した後、測定結果を出力した。そして、集積度を0.5ピッチで出力し、長手方向から40°以下の位置の集積度を評価した。評価は、1.5以上を合格とした。なお、(0002)はα相のc軸方向に直交する面である。
【0125】
(超音波探傷試験)
表面を機械加工し外径254mmとした試験体(熱処理なし)について超音波探傷試験を実施した。
まず、表面から(1/20)D(12.7mm)、(1/4)D(63.5mm)、(3/8)D(95mm)、(1/2)D(127mm)(Dはビレットの直径を示す。)の深さ位置にφ3/64インチの人工欠陥(Flat Bottom Hole:FBH)を加工した対比試験片を作製した。次に、φ3/64インチFBHからの反射エコーの高さが80%となるよう探傷器の感度を調整した。その後、探傷が難しい試験体中央部(表面から63.5〜133mmの範囲)について探傷を行い、超音波ノイズを測定した。ここで、プローブ径19.05mm、周波数を5MHzの探触子を用い、水距離を35mmとし、水中で試験体の軸方向と周方向に沿って探触子を走査させてCスコープを得て、超音波ノイズを測定した。Cスコープとは、水距離一定の下、被検査物体の表面に沿って探触子を移動走査させて検出した探傷深さ範囲の中での最大ノイズ強度値を表面走査点毎に抽出し、二次元表示した被検査物体の表面領域に最大ノイズ強度値を対応させて表示することである。ノイズ50%以下を合格とした。
【0126】
(引張強度)
作製した試験体に705℃で3h間保持の焼鈍を施し、引張強度を評価した。
半径方向位置で、2本の荷重軸が90°となる位置から、半径方向が荷重軸となるように試験片を採取した。室温で引張試験を実施し、引張強度(TS)を測定した。表1には最小値を示す。試験はASTM E8に準拠した。TSが920MPa以上の場合を合格とした。
これらの結果を表1に示す。なお、本発明の範囲を満たさないものおよび評価基準を満たさないものには数値に下線を引いて示す。また、表1において、a0、b0は断面形状における長径あるいは長辺、または、短径あるいは短辺(長径と短径が同じ場合は直径、長辺と短辺が同じ場合は一辺の長さ)であり、a1〜a2、b1〜b2は各添え字に記載の回数の鍛造後の断面形状を示し、a0とb0と同じ空間座標系で、それぞれa0とb0と同一方向の断面の切片長さを示す。なお、A3は、断面積である。また、a0〜a2、b0〜b2の単位はmm、A3の単位はmm
2である。
【0127】
ここで、
図4を参照する。
図4に示すnb、naにおいて、nbは鍛造加工前の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した、圧下方向と垂直な方向の最大長さ、naは鍛造加工後の、チタン合金素材の長手方向に直交する断面形状について計測した、圧下方向と垂直な方向の最大長さを示す。
今回の実施例の1回目の鍛造において、mbとnbはそれぞれa0とb0と一致する方向とし、2回目の鍛造におけるmbとnbはb1とa1と一致する方向とした。また、X1、Y1は、断面形状1にする際のα+β鍛造でのX、Yを示し、X2、Y2は、断面形状2にする際のα+β鍛造でのX、Yを示す。また、断面形状が丸から丸に変化する試験体No.4については、等方的に変形され単一の圧下方向が存在しないため、mb、ma、nb、naはそれぞれ鍛造変形前後の直径を用いて、XとYを算出した。
【0128】
【表1】
【0129】
表1に示すように、試験体No.1及びNo.2は規定の条件を満足するため、c軸の集積が認められ、且つ高い引張強度特性及び低い超音波ノイズを兼備している。
【0130】
一方、試験体No.3は、式(2)を満足する鍛造加工が1回であることから、コロニーの微細化が不十分であり、超音波のノイズが高い結果となった。
また、試験体No.4は、1度も式(2)を満足しておらず、コロニーの微細化が不十分であることから超音波ノイズが高い。また、α粒のサイズが大きく引張強度が低い。なお、
図2の従来技術の画像、本発明の画像は、それぞれ、試験体No.4、試験体No.1の画像である。
【0131】
また、No.3、4の供試材は、従来のチタン合金ビレットにおいて、β熱処理後のα+β鍛造を本発明の条件に規定しない場合を想定したものである。本実施例で示すように、従来のチタン合金ビレットは、本発明の構成を満たさず、また、前記の評価について一定の水準を満たさないものである。従って、本実施例によって、本発明に係るチタン合金ビレットが従来のチタン合金ビレットと比較して、優れていることが客観的に明らかとなった。
【0132】
[第2実施例]
次に試験体No.1のビレットから試験素材を切り出し、ビレット長手方向を鍛造方向とする鍛造加工を実施した。
試験素材サイズをφ22mm×33mm(φ22mmの面が金型に接する面)とし、950℃に加熱した後、低周波加熱装置で予め鍛造温度に加熱した金型を用いて鍛造した。鍛造は、平坦な面形状の一対の金型を用い、圧下率50%の鍛造加工を行なった。鍛造完了後、直ちに室温まで冷却を行なった。
比較として、ビレット状態でのc軸の集積度が1.5未満の素材(試験体No.5)を用いて同様の鍛造を行い評価した。
【0133】
試験体No.5のチタン合金ビレットは、φ840mmのTi−6.25質量%Al−4.3質量%V鋳塊(β変態温度は995℃)を用いて、(a)β鍛造→(b)α+β鍛造→(c)β熱処理→(d)→応力除去焼鈍工程→(e)α+β鍛造という各工程を経て作製した。
【0134】
具体的には、まず、(a)β鍛造の後、(b)α+β鍛造工程で、サイズを160mm(l)×120mm(w)×120mm(h)に仕上げて中間素材とした。続いて(c)β熱処理を、1050℃に1.5時間保持後、水冷却という条件で施し、(d)700℃で2.5時間の条件で残留応力除去を行った。その後、β熱処理後の素材を加熱炉で800℃に加熱し、3時間保持した後に加熱炉から取り出し(e)α+β鍛造にて、70mm(l)×181mm(w)×181mm(h)とした。その後、再度、800℃に加熱し、3時間保持した後、加熱炉から取り出し101mm(l)×70mm(w)×247mm(h)とした後、800℃に加熱し、3時間保持した後、加熱炉から取り出し157mm(l)×101mm(w)×70mm(h)とした。
なお、(e)α+β鍛造では、平金敷を1.2mm/minの速度で駆動させることで鍛造を行なった。
【0135】
このようにして作製した試験体No.5のチタン合金ビレットを組織観察したところ、最大コロニーサイズは40μm、α粒サイズは15μm、集積度は1.3であった。
チタン合金ビレットのコロニーサイズ、α粒サイズおよび集積度の測定方法は、第1実施例の場合と同様である。チタン合金鍛造材のコロニーサイズおよびα粒サイズの測定方法は、第1実施例の場合と同様である。チタン合金鍛造材のc軸の集積度については、以下のようにして測定した。
【0136】
試験体について試験体の鍛造方向と半径方向とに平行な面となる断面を切り出し、試験体中央部の組織を観察した。前記断面に対して、エメリー紙で機械研磨を行い、ダイヤモンド砥粒による仕上げ研磨の後、電解研磨仕上げし、SEM/EBSD法により断面組織の集合組織を測定した。測定した視野のサイズは鍛造方向に1800μm、それに垂直な方向に1200μmであり、3視野に対して測定を行なった。
それぞれの測定視野について、鍛造方向を中心とする正極点図を作成し、中心から60°以上90°以下の範囲に含まれる測定点数を求めた。その後、この測定点数を各視野の全測定点数で除した値を求め、3視野の平均値を求めこれを“鍛造方向から70°以上90°以下のc軸の集積度”とした。
測定結果を表2に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
表2に示すように、試験体No.1はビレット段階で所望の集合組織を形成したため、仕上げ鍛造後に強度異方性の小さい素材が得られた。一方、ビレット段階でc軸の集積を小さくした試験体No.5では仕上げ鍛造後に、強度異方性が大きくなった。
以上のことから、予めビレットの長手方向にc軸を集積させることで、鍛造後の強度異方性を低減できることを確認した。
なお、試験体No.1は鍛造前にコロニーを十分微細化し、鍛造後においてもコロニーは微細化された状態を保っている。したがって、ビレットに対する超音波探傷試験の結果から分かるように、鍛造後においても優れた超音波探傷性を保持していると考えられる。
【0139】
以上、本発明について、実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。