【実施例1】
【0014】
本発明のスクロール圧縮機の実施例1を
図1〜
図6を用いて説明する。
図1は本発明のスクロール圧縮機の実施例1を示す縦断面図で、スクロール圧縮機の全体構造を示している。本実施例のスクロール圧縮機1は、上部に配置された圧縮部2と下部に配置され前記圧縮部を駆動する駆動部3とが密閉容器4内に収納して構成されている。
【0015】
前記圧縮部2は、台板5aに渦巻き状のラップ5bを直立して形成した固定スクロール5と、台板6aに渦巻き状のラップ6bを直立して形成した旋回スクロール6とを互いに噛み合わせて構成されている。これにより、前記両スクロール5,6間には旋回スクロールラップ6bの外線側圧縮室2aと内線側圧縮室2bが形成され、前記旋回スクロール6を前記駆動部3により旋回運動させることにより、作動流体(例えばガス冷媒)は吸入管7aから吸入空間8を経由して前記圧縮室2a,2bに吸込まれ、前記圧縮室2a,2bの容積が減少されていくことにより前記作動ガスは圧縮されて、中央の吐出ポート9から吐出空間10に吐出される。この吐出空間10に吐出された作動ガスは、前記圧縮部2の固定スクロール5を取り付けているフレーム11と、このフレーム11を固設している前記密閉容器4との間に形成された通路(図示せず)を介して、前記駆動部3が配置されている空間に流入し、密閉容器4に設けられた吐出管7bを経由して密閉容器4外に吐出される。
【0016】
前記旋回スクロール6の台板6aと前記フレーム11との間、即ち前記旋回スクロール6の台板背面には、前記吸入空間8の圧力よりも高く、前記吐出空間10の圧力よりは低い圧力となる背圧室12が形成されている。
【0017】
前記駆動部3は、固定子13aと回転子13bで構成された電動機13、前記回転子13bの中心に一体に結合されたクランク軸14、前記フレーム11に設けられると共に前記クランク軸14の上部側の主軸部14aを回転支持する主軸受15、前記クランク軸14の下部側の副軸部14bを支持する副軸受16、この副軸受16を設けている副軸受ハウジング17、この副軸受ハウジング17を取り付けると共に前記密閉容器4に固設された副フレーム18などを基本要素として構成されている。
【0018】
前記電動機13は、電気端子19を経由して供給されるインバータ(図示せず)などからの電気入力により駆動され、前記クランク軸14を回転させる。このクランク軸14の上端側には偏心軸部14cが設けられており、この偏心軸部14cは前記旋回スクロール6の背面中央に設けられている旋回ボス部6cに挿入され、前記旋回スクロール6を旋回運動させる。また、本実施例では、前記電動機の回転子にフェライト磁石を使用している。
【0019】
前記密閉容器4内の下部には、潤滑油(単に油ともいう)を溜める油溜り20が形成されており、この油溜り20の油には吐出圧力が作用しており、圧縮機吸入側との圧力差を利用して、前記クランク軸14内に形成されている給油路(図示せず)を介して、前記油溜り20内の油は、前記旋回スクロール6の旋回ボス部6cと前記偏心軸部14cとの間の旋回ボス部6c内の空間(旋回ボス部空間)に供給される。この旋回ボス部空間に供給された油は、前記旋回ボス部6cに設けられている旋回軸受21を潤滑後、前記主軸受15に流れ、主軸受15を潤滑後の油は排油パイプ22を通って、再び前記油溜り20に戻される。
【0020】
前記旋回ボス部空間の油の一部は、前記旋回ボス部6cの下端面と前記フレーム11との間に設けられたシールと圧力差を利用した差圧給油などの油運搬機構23を介して前記背圧室12に供給される。この背圧室12に供給された油は、前記固定スクロール5の台板5aと前記旋回スクロール6の台板6aに形成された背圧室流体流出機構部30を介して、前記圧縮室2a,2bに供給されるように構成されている。
【0021】
スクロール圧縮機1の圧縮動作では、旋回スクロール6を固定スクロール5へ押付けて前記圧縮室2a,2bの密閉性を保つ必要があり、このため前記背圧室12の圧力(背圧)は吐出圧力と吸込圧力との間の圧力(即ち、吐出圧力よりも低く吸込圧力よりも高い中間圧力)となるようにする。これにより、前記旋回スクロール6の台板6a背面に前記中間圧力を作用させることができ、適切な圧力で旋回スクロール6を固定スクロール5に押し付けることが可能となる。
【0022】
本実施例では、前記背圧室12の圧力が適切になるように、前記背圧室流体流出機構部30を介して、前記圧縮室2a,2b内の圧力状態が狙いの圧力範囲となる際に、その狙いの圧力範囲にある圧縮室2a,2bと前記背圧室12とを連通させようにしている。これによって、前記背圧室12を狙いの適切な圧力に保つことができ、旋回スクロール6の固定スクロール5への押付力不足による作動ガスの逆流(高圧側から低圧側への逆流)を防止してエネルギー損失を低減することができる。また、前記押付力が過剰になることによる摺動損失(エネルギー損失)の増大も回避することが可能になる。更に、前記外線側圧縮室2aと前記内線側圧縮室2bの双方に確実に油を供給できるから、固定スクロール5と旋回スクロール6との摺動部の潤滑も確実に行うことができ、給油不足となることを防止できる。従って、スクロール圧縮機の信頼性を確保することができる。
【0023】
上記のように、前記油溜り20内の油は、各軸受部15,16,21へ供給されてそれらの潤滑をするだけでなく、前記圧縮室2a,2bへも供給されることにより、固定スクロール5と旋回スクロール6との摺動部等の潤滑も行い、更に固定スクロール5と旋回スクロール6の摺動部のシール作用も行う。このシール作用により、前記各圧縮室2a,2b内の作動流体が低圧側の圧縮室へ漏れて、低圧側の圧縮室内の作動ガスを加熱したり、作動ガスが再圧縮されるのを抑制でき、これらによるエネルギー損失の発生を低減できる。
なお、24は容積形の給油ポンプで、油溜り20内の油を前記旋回ボス部空間に供給するために不足分を加圧したり、前記副軸受16に供給するために設けられている。
【0024】
また、本実施例のスクロール圧縮機1においては、前記固定スクロール5及び旋回スクロール6のラップ形状が、旋回スクロールラップ6bの外線側に形成される外線側圧縮室2aとその内線側に形成される内線側圧縮室2bの吸入完了時の旋回角の異なる非対称歯型に構成されているものである。この非対称歯型をもつスクロール圧縮機においては、旋回スクロールラップ6bの外線側圧縮室2aの閉じ込み容積がその内線側圧縮室2bの閉じ込み容積より大きくなる。このため、背圧室12の圧力を狙いの圧力とするために連通させる圧縮室(狙いの圧力状態にある圧縮室)2a,2bは、旋回スクロールラップ6bの外線側圧縮室2aと内線側圧縮室2bとでは旋回角が異なるものである。
【0025】
図2〜
図4により前記背圧室流体流出機構部30の構成を詳細に説明する。
図2は
図1に示す背圧室流体流出機構部付近を拡大して示す要部断面図、
図3及び
図4は
図1に示すスクロール圧縮機の固定スクロールと旋回スクロールとが噛み合った状態を示す断面図で、
図3は背圧室と外線側圧縮室が連通している状態を示す図、
図4は背圧室と内線側圧縮室が連通している状態を示す図である。
【0026】
図2〜
図4に示すように、前記旋回スクロール6の台板6aには、前記旋回スクロールラップ6bの前記外線側圧縮室2aに連通する外線側圧縮室用の流体流出路41aと、前記旋回スクロールラップ6bの前記内線側圧縮室2bに連通する内線側圧縮室用の流体流出路41b(
図3、
図4参照)とが形成されている。前記各流体流出路41a,41bにはそれぞれ入口側開口41aa,41baと出口側開口41ab,41bbが形成されている。なお、
図2に示す44は閉止部材で、前記流体流出路41a(41bも同様)を形成した時に生じる外径側の開口端を塞ぎ、前記流体流出路41aが常時背圧室12と連通するのを阻止するものである。
【0027】
前記外線側圧縮室用の流体流出路41aの前記出口側開口41abは前記外線側圧縮室2aを形成する前記旋回スクロール6のラップ歯底に形成され、また前記内線側圧縮室用の流体流出路41bの前記出口側開口41bbは前記内線側圧縮室2bを形成する前記旋回スクロール6のラップ歯底に形成されている。
前記各流体流出路41a,41bの入口側開口41aa,41baは、前記固定スクロール5の台板5aの摺動面と接して摺動する前記旋回スクロール6の台板6a面に開口するように形成されている。
【0028】
一方、前記固定スクロール5の台板5aには、前記旋回スクロール6の台板6aと接触する面(台板面)に、連通区間制御溝51が形成されている。この連通区間制御溝51は、前記外線側圧縮室2a用の流体流出路41a及び前記内線側圧縮室2b用の流体流出路41bのそれぞれの前記入口側開口41aa,41baと前記背圧室12とを、前記旋回スクロール6の旋回運動に伴って間歇的に連通させるものである。
【0029】
即ち、前記連通区間制御溝51は、前記外線側圧縮室用の流体流出路41aの入口側開口41aaと前記背圧室12とを、前記旋回スクロールの旋回運動に伴って間歇的に連通させる位置に形成され(
図3参照)、また、前記連通区間制御溝51は、前記内線側圧縮室用の流体流出路41bの入口側開口41baと前記背圧室12とを、前記旋回スクロールの旋回運動に伴って間歇的に連通させる位置にも形成されている(
図4参照)。これによって、前記背圧室12と、前記外線側圧縮室2a及び前記外線側圧縮室2bとを、それぞれ間歇的に連通させることができる。
【0030】
なお、本実施例では、共通の一つの連通区間制御溝51により、前記背圧室12と前記外線側圧縮室2aとを間歇的に連通させる連通区間制御溝と、前記背圧室12と前記内線側圧縮室2bとを間歇的に連通させる連通区間制御溝を形成するようにしている例について説明したが、前記背圧室12と前記外線側圧縮室2aとを間歇的に連通させる連通区間制御溝と、前記背圧室12と前記内線側圧縮室2bとを間歇的に連通させる連通区間制御溝とは互いに連通しない別個の二つの溝で形成するようにしても良い。
【0031】
上記のように構成することにより、前記流体流出路41a,41bの前記入口側開口41aa,41baは、旋回スクロール6の旋回運動に伴い、ある区間では、固定スクロール5の台板5aにより前記入口側開口41aaまたは41baが塞がれて、背圧室12と圧縮室2aまたは2bとの連通は阻止される。また、他のある区間では、前記入口側開口41aaまたは41baが、固定スクロール5の台板5aに形成されている前記連通区間制御溝51の位置に存在することで、背圧室12と圧縮室2aまたは2bとを連通させることができる。
【0032】
また、前記連通区間制御溝51は、前記背圧室12と、前記外線側圧縮室2a及び前記内線側圧縮室2bとが、前記各圧縮室2a,2bの圧力が狙いの圧力状態となる旋回角の範囲で間歇的に連通するように形成されている。
【0033】
即ち、前記連通区間制御溝51は、前記外線側圧縮室2aまたは前記内線側圧縮室2bの圧力状態がそれぞれ狙いの圧力と同等となる区間でのみ、当該狙いの圧力と同等の圧力状態になっている前記圧縮室2aまたは2bと、前記背圧室12とが、前記流体流出路41aまたは41bを介して連通するように、その形成位置及び形状が決められている(
図3、
図4参照)。
【0034】
前記背圧室12へは、旋回スクロール6に設けた差圧給油等の油運搬機構23により、吐出圧力と同等の圧力の油溜り20の油が流入する(
図1参照)ため、背圧室12は吐出圧力と同等の圧力になろうとする。しかし、前記流体流出路41a,41b及び前記連通区間制御溝51を介して、前記背圧室12と前記圧縮室2a,2bとが間歇的に連通することにより、前記背圧室12内の油や作動ガス等の作動流体が、背圧室12内の圧力と、前記連通状態にある圧縮室2a,2b内圧力との圧力差により、前記圧縮室2a,2b内に給油される。これにより、前記背圧室12の圧力は前記圧縮室2a,2b内の圧力とほぼ同等の圧力に保たれる。
【0035】
また、前述した非対称歯型のスクロール圧縮機においては、前記外線側圧縮室2aと前記内線側圧縮室2bの吸込み完了時の旋回角が異なるので、ある旋回角における前記外線側圧縮室2aと内線側圧縮室内2bの圧力が異なる。このため、背圧室12とそれぞれの前記圧縮室2a,2bを同時に連通させた場合、低圧側の圧縮室2aまたは2bの何れかにしか給油できず、高圧側の圧縮室2aまたは2bでは、圧縮室内の作動流体が前記背圧室21側に逆流し、給油不足や圧縮不足となってしまう。
【0036】
そこで、本実施例では、前記外線側圧縮室2aと前記内線側圧縮室2bを異なるタイミングで独立して前記背圧室12に連通させることができるように、前記連通区間制御溝51を形成している。
【0037】
また、それぞれの圧縮室2a,2bがそれぞれ狙いの圧力になる際にのみ、前記流体流出路41a,41bと前記連通区間制御溝51が連通して、前記旋回外線側圧縮室2aと前記旋回内線側圧縮室2bのそれぞれに給油することができるように、前記旋回外線側圧縮室2aと前記旋回内線側圧縮室2bのそれぞれの連通区間を適正に設定する必要がある。更に、前記それぞれの連通区間は、安定した背圧室圧力を確保でき、しかも前記各圧縮室2a,2bに適正な給油量で給油できるようにしなければならない。
【0038】
これを実現するため、本実施例では、前記連通区間を
図5に示すように構成している。即ち、外線側圧縮室2aの背圧室12への連通区間と、内線側圧縮室2bの背圧室12への連通区間が
図5に示す連通区間となるように、前記連通区間制御溝51が形成されている。
【0039】
以下、この構成を
図5及び
図6を用いて詳しく説明する。
図5は本実施例のスクロール圧縮機における旋回角と圧縮室内圧力との関係を説明する線図で、背圧室流体流出路の連通区間について説明する図、
図6は本発明のスクロール圧縮機における旋回角と背圧室内圧力との関係を説明する線図である。
【0040】
図5において、実線は旋回スクロール6の旋回角に対する外線側圧縮室2a内の圧力変化を、破線は同じく内線側圧縮室2b内の圧力変化を示し、また太い一点鎖線は背圧室12の設計圧力(設計背圧)を示し、一点鎖線は外線側圧縮室2aが背圧室12と連通開始する時の圧縮室内圧力を、二点鎖線は前記外線側圧縮室2aが背圧室12と連通完了する時の圧縮室内圧力を示している。更に、Psは吸込圧力、Pdは吐出圧力(図中の点線参照)を示している。
【0041】
本実施例では、前記外線側圧縮室2aは狙いの圧力範囲(前記設計背圧と同等の圧力となる範囲)となるAの区間(本実施例では連通区間が略150°)で背圧室12と連通するように構成されている。一方、前記内線側圧縮室2bもその狙いの圧力範囲は前記外線側圧縮室2a側と同じになるように、Bの区間(本実施例では連通区間が略90°)で背圧室12と連通するように、前記連通区間制御溝51の形成位置や形状が決められている。
【0042】
即ち、本実施例においては、前記外線側圧縮室2aと前記背圧室12との連通開始時及び連通完了時の外線側圧縮室内圧力と、前記内線側圧縮室2bと前記背圧室12との連通開始時及び連通完了時の内線側圧縮室内圧力とがほぼ同じ圧力になるように、前記各流体流出路41a,41bのそれぞれの前記入口側開口41aa,41baと前記背圧室12との連通区間(前述した連通区間A,B)が、前記連通区間制御溝51により制御されるように構成されている。
【0043】
なお、前記両圧縮室2a,2bにおける連通開始時及び連通完了時の各圧縮室2a,2b内圧力は同じにすることが好ましいが、同じにする場合の他に、予め定めた許容値内となるように構成しても良い。
【0044】
上述したように、前記背圧室12は、前記外線側圧縮室2aに連通区間Aで、前記内線側圧縮室2bには連通区間Bで連通する。このように、前記連通区間A,Bを制御することにより、
図6に示すように、それぞれの圧縮室2a,2bの連通時の圧力変動を同一にすることができ、背圧室12内の圧力変動を小さくして安定した背圧に保つことができる。
【0045】
この
図6において、実線が背圧室12の実際の圧力(実背圧)を示し、旋回スクロール6の旋回角に対して前記背圧室12内の圧力は実線のように変化する。なお、この
図6において、太い一点鎖線は背圧室12の設計圧力(設計背圧)、一点鎖線は外線側圧縮室2a及び内線側圧縮室2bが背圧室12と連通開始する時の圧縮室内圧力を、二点鎖線は外線側圧縮室2a及び内線側圧縮室2bが背圧室12と連通完了する時の圧縮室内圧力を示している。
【0046】
この
図6に示すように、本実施例によれば、設計背圧に近い圧力に維持することができ、また背圧が安定することにより、旋回スクロール6の押上げ力が安定し、旋回スクロール6と固定スクロール5の摺動面の面圧を均一化できるから、適正な大きさの面圧とすることができ、摺動損失低減及び摺動面の信頼性向上を図ることが可能となる。
【0047】
なお、固定スクロール5の台板5a面に設けた前記連通区間制御溝51の形状を変更することにより、前記連通区間A,Bを制御することができ、前記連通区間制御溝51と、前記外線室用流体流出路41aとの連通区間A、及び前記内線室用流体流出路41bとの連通区間Bを調整することができる。
【0048】
特に、スクロール圧縮機の低速運転時においては、1回の圧縮工程にかかる時間が長くかかることから、前記連通区間における連通時間が長くなり、背圧室12の圧力が変動し易い。しかし、本実施例を用いることにより、背圧室12の圧力変動を小さくできるから、旋回スクロール6と固定スクロール5の摺動面の面圧を均一化して適正な面圧にでき、摺動損失を低減した高いエネルギー効率を実現できる。このため、低速運転時のモータ効率の低いフェライト磁石仕様のモータ(回転子にフェライト磁石を使用したモータ)を搭載したスクロール圧縮機とすることができる。このフェライト磁石仕様モータを搭載したスクロール圧縮機とすることにより、次の効果も得られる。
【0049】
最近、冷凍、空調用の冷媒として地球温暖化係数(GWP)の低いR32冷媒(単一冷媒)の採用が検討されている。圧縮機の冷媒としてR32冷媒を使用した場合、R22やR410Aなどの冷媒と比較して、圧縮機吐出ガス温度が20℃〜30℃程度高くなる。吐出温度が高くなると、密閉容器内のモータの周囲温度が上昇し、モータの回転子にネオジ磁石を用いた場合、モータの周囲温度がネオジ磁石の減磁耐熱温度を超えるため、不可逆減磁が生じ易い。不可逆減磁が起きると、電動機巻線の電流増加による効率低下や、更なる温度上昇を引き起こす課題が生じる。
【0050】
しかし、モータの回転子にフェライト磁石を用いた場合、高温になっても不可逆減磁し難い性質を持っているため、R32冷媒を使用することで高温になったとしても、減磁の心配が無い。従って、冷媒としてR32を使用するスクロール圧縮機でも、圧縮機の性能を維持することが可能となる。
【0051】
なお、前記流体流出路41a,41bの連通区間は、これら2つの流体流出路41a及び41bの同時連通を防止する必要があり、また圧縮室内圧力が背圧室内圧力よりも高くなると圧縮室から背圧室への油の逆流が生じるので、この逆流を低減させる必要がある。このため、本実施例では、前記2つの流体流出路41a,41bの連通区間は、それぞれ45°以上180°未満とすることが好ましく、より好ましくは90°以上180°未満にすると良い。また、上記
図5、
図6で説明した外線側圧縮室の連通区間Aは150°、内線側圧縮室の連通区間Bは90°とした例を説明したが、これらの連通区間の長さに限られるものではない。
【0052】
ここで、
図7及び
図8により、当初検討されたスクロール圧縮機での背圧室流体流出路の連通区間について説明する。
図7は当初検討されたスクロール圧縮機における旋回角と圧縮室内圧力との関係を説明する線図で、背圧室流体流出路の連通区間について説明する図、
図8は当初検討されたスクロール圧縮機における旋回角と背圧室内圧力との関係を説明する線図である。
図7、
図8において、各線や符号などは
図5、
図6と同様である。
【0053】
図7に示すように、当初検討された案は、外線側圧縮室の連通区間Aと、内線側圧縮室の連通区間Bを共に150°としたものである。しかし、前記連通区間Bを前記連通区間Aと同じにした場合、
図8に示すように、内線側圧縮室の連通区間Bにおける背圧室内の圧力変動が大きくなってしまう。即ち、内線側圧縮室での圧力変化は外線側圧縮室での圧力変化よりも急であるため、前記連通区間A,Bの長さが同じだと、内線側圧縮室の方が圧力変化が大きい分、背圧室の圧力変動も大きくなってしまうものである。
【0054】
そこで、本実施例では、上記
図5、
図6で説明したように、外線側圧縮室2aの連通区間Aよりも、内線側圧縮室2bの連通区間Bを短くすることで、前記何れの連通区間A,Bにおいても背圧室12の圧力変動を小さく抑えることができるようにしているものである。
【0055】
以上説明したように、本実施例によれば、連通区間制御溝51が、外線側圧縮室2aと背圧室12との連通開始時及び連通終了時の外線側圧縮室内圧力と、内線側圧縮室2bと背圧室12との連通開始時及び連通終了時の内線側圧縮室内圧力とが同一または予め定めた許容値内となるように、各流体流出路41a,41bのそれぞれの前記入口側開口41aa,41baと前記背圧室12との連通区間A,Bを設定するように形成されているので、旋回スクロールラップ6bの外線側圧縮室2a及び内線側圧縮室2bへの給油量の適正化を図ることができる。
【0056】
また、旋回スクロール6の外線側圧縮室2aと内線側圧縮室2bの両圧縮室への給油を確実且つ適正に行うことが可能となるから、給油不足となるのを回避でき、両スクロール間のシール性も向上して、圧縮動作時における作動流体の漏れ損失を抑制できる。更に、背圧室12の圧力変動を小さく抑えて安定した適正な背圧にできるから、旋回スクロール6を固定スクロール5に適切な押付け力で押圧でき、摺動性を向上できる。従って、本実施例によれば、高いエネルギー効率を実現できる。
【0057】
また、本実施例では、上記特許文献1に記載のように、スクロールラップの内部に背圧室の流体を流出させるための給油路を設けたり、該ラップの上面に給油孔を設ける必要がないため、ラップの強度が損なわれず、ラップ歯先における漏れ損失も低減できる。
従って、本実施例によれば、高い信頼性を確保できると共に、高いエネルギー効率も実現できるスクロール圧縮機を得ることができる。
【実施例2】
【0058】
本発明のスクロール圧縮機の実施例2を
図9及び
図10により説明する。
図9は本発明のスクロール圧縮機の実施例2を説明する図で、旋回スクロールをラップ側から見た平面図、
図10は本発明の実施例2における旋回角と圧縮室内圧力との関係を説明する線図で、背圧室流体流出路の連通区間について説明する図である。
【0059】
なお、本実施例2の説明においては、上述した実施例1と異なる点を中心に説明し、他の部分は上記実施例1と同様であるので、説明を省略する。また、実施例2の説明にあたっては、上記実施例1で使用した符号なども引用して説明し、実施例1と同一符号を使用した部分は実施例1と同一部分或いは相当する部分である。
【0060】
上述した実施例1では、旋回スクロール6の外線側圧縮室2aと背圧室12の連通開始時及び連通完了時の圧力が、内線側圧縮室2bと背圧室12の連通開始時及び連通完了時の圧力と同じか予め定めた許容値内となるように前記連通区間A,Bを制御することで、背圧室12の圧力の安定化を図るようにした。
【0061】
これに対し、本実施例2では、実施例1における前記連通区間制御溝51は、外線側圧縮室2aが背圧室12と連通する時間(連通区間の長さ)と、内線側圧縮室2bが背圧室12と連通する時間(連通区間の長さ)との比が、前記各圧縮室2a,2bを形成する旋回スクロール6のラップ6bの外線長さと内線長さのとの比と同じか予め定めた許容値内となるように、各流体流出路41a,41bのそれぞれの入口側開口41aa,41baと前記背圧室12との連通区間A,Bを制御するように形成されているものである。
【0062】
以下、図面を用いて具体的に説明する。
本実施例2においては、
図10に示すように、旋回スクロール6の外線側圧縮室2aと背圧室12の連通区間Aの平均圧力と、内線側圧縮室2bと背圧室12の連通区間Bの平均圧力が狙いの圧力になるように設定している。
【0063】
また、
図10に示す前記外線側圧縮室2aと背圧室12の連通区間Aと、内線側圧縮室2bと背圧室12の連通区間Bとの比が、
図9に示す旋回スクロール6のラップ6b外線の長さL1(破線矢印の範囲)と、前記旋回スクロールラップ6b内線の長さL2(実線矢印の範囲)との比と同じか予め定めた許容値内となるように設定している。
【0064】
例えば、
図9に示す旋回スクロールラップ6b外線の長さ(外線側圧縮室2aを形成する部分のラップ長さ)L1と、旋回スクロールラップ6b内線の長さ(内線側圧縮室2bを形成する部分のラップ長さ)L2との比「L1/L2」が1.08の場合、前記外線側圧縮室2aと前記背圧室12の連通区間Aが150°であれば、前記内線側圧縮室2bと前記背圧室12の連通区間Bは
150°/1.08=139°
になるように構成しているものである。
【0065】
各圧縮室2a,2bへの給油は、圧縮室間の作動流体漏れ防止のためのシールとして行うものであるため、適正な給油量は圧縮工程の長さで決まる。また過剰な給油は、油圧縮によるスクロール圧縮機への負荷増加や、高温の油を圧縮室内へ給油することによる過熱損失につながるため、適正な給油量とする必要がある。
【0066】
圧縮工程の長さは、それぞれの圧縮室を形成する旋回スクロール6のラップ(渦部)6bの長さによって決まる。そこで、本実施例2では、それぞれの圧縮室を形成する旋回スクロールのラップ長さに合わせて給油量を調整、即ち前記連通区間A,Bを調整するように構成しているものである。
【0067】
なお、上記実施例1と同様に、固定スクロール5の台板5a面に設けた前記連通区間制御溝51の形状を変更することにより、前記連通区間A,Bを制御することができ、前記連通区間制御溝51と、前記外線室用流体流出路41aとの連通区間A、及び前記内線室用流体流出路41bとの連通区間Bを調整することができる。
【0068】
また、各圧縮室2a,2bへの給油量を調整する方法としては、前記外線室用流体流出路41a及び前記内線室用流体流出路41bの通路直径を調整する手段もあるが、それぞれの圧力損失が異なってしまうことから、背圧が不安定になり易く、好ましくない。
【0069】
本実施例2によれば、前記外線側圧縮室2aへの給油量と、前記内線側圧縮室2bへの給油量を、圧縮室を形成する旋回スクロールラップ6bの外線長さL1と内線長さL2の比によって配分しているので、各圧縮室2a,2bを形成するラップの長さに応じた適正な給油量にすることが可能となる。これにより、両スクロール間のシール性が向上し、作動流体の漏れ損失を抑制して加熱損失を低減することができる。また、背圧室12の圧力変動を小さく抑えて安定した適正な背圧にでき、旋回スクロール6を固定スクロール5に適切な押付け力で押圧でき、摺動性も向上できる。
【0070】
特に、本実施例2は、R32などの低密度の冷媒を使用する冷凍、空調用のスクロール圧縮機に有効である。即ち、低密度の冷媒は漏れ易いが、本実施例の採用により、シール性を上記実施例1の場合よりも更に向上できるからR32冷媒使用時の効率を更に向上できる。
【0071】
また、上記実施例1と同様の効果も得られる。
従って、本実施例2においても、ラップの強度を損なうことなく、旋回スクロールラップの外線側圧縮室及び内線側圧縮室への給油量の適正化を図ることができ、高い信頼性を確保できると共に、高いエネルギー効率も実現できるスクロール圧縮機を得ることができる。
【0072】
以上説明したように、本発明の各実施例によれば、安定した背圧を確保でき、適正な旋回スクロール押上げ力と、各圧縮室への給油量の適正化を図ることができる。従って、特に低速運転での性能向上が必要となるスクロール圧縮機や、R32などの低密度冷媒を用いたスクロール圧縮機に本発明の上記本実施例を採用することで、高いエネルギー効率、高い信頼性のスクロール圧縮機を実現できる。
このように、本発明の各実施例によれば、ラップの強度を損なうことなく、旋回スクロールラップの外線側圧縮室及び内線側圧縮室への給油量の適正化を図れるスクロール圧縮機を得ることができる。