(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ケーソンは、コンクリート製又は鋼製で全体が略筒状をなし、例えば、立坑等の地下構造物や橋梁基礎等の水中構造物に用いられる。ケーソンは、地下構造物として用いる場合には、地盤を掘削しながら、自重や圧入力により地中に沈設される。
【0003】
ケーソンを地中に沈設する工法には、大きくオープンケーソン工法とニューマチックケーソン工法の二つに分けられる。オープンケーソン工法は、両端に蓋のない筒として掘削する工法であるのに対して、ニューマチックケーソン工法は、ケーソンの下部に気密にした作業室を設け、そこに圧縮空気を送り込んで地下水の浸入を防ぎ、地上と同じ状態で掘削を行う工法である。
【0004】
ニューマチックケーソン工法の作業室の気圧は、原則として地盤の間隙水圧に見合った気圧にするため、一般的に周辺地盤の地下水位を下げることがなく、周辺地盤の地盤沈下や井戸涸れなどの心配がなく優れた工法と言われる。
【0005】
しかしながら、ケーソンの地下深度が深くなるとそれに応じて作業室の気圧が高くなる。この作業室の気圧が高くなると、作業室の中にいる作業員が潜函病等の高気圧障害を起こすおそれがある。この作業室は、機械のメンテナンス等も含めて必ず作業員が入る場合がある。このため、作業員が高気圧障害を起こさずに作業ができる作業室の環境を考慮に入れた場合には、現在の技術では、ケーソンの深度は70m程度が限界であると言われる。
【0006】
今後、道路トンネルや鉄道トンネルの構築等で、深度100m規模の立坑の技術が必要とも言われる。こうした大深度の立坑を構築する場合には、ディープウェル工法でケーソンの周囲近傍に井戸を掘り、透水層の地下水を汲み上げ地下水位を下げることで、当該箇所の間隙水圧を下げてケーソンの作業室の気圧を低下させる。これにより、ケーソンの深度100m規模の場合の作業室の気圧をケーソンの深度が70m以下の場合の作業室の気圧と同程度の気圧にすることができる。
【0007】
ところで、一般的にケーソンには、ケーソンにおける最下端のロットの外側面にフリクションカットと呼ばれる切り欠きがある。この切り欠きにより、ケーソンの外側面と地山との間に間隙を作り、ケーソンを沈下し易くしている。しかし、この間隙は、石等の硬いものが入るとかえってケーソンを沈下させるときの抵抗にもなる。従って、この間隙に砂やベントナイトのような滑材を充填してケーソンを沈下し易くしている。
【0008】
しかしながら、上述のディープウェル工法で地下水を汲み上げる際、特に透水層の地盤の間に不透水層の地盤がある場合等により、透水層における地下水を汲み上げた箇所の水圧が、理論水圧よりも低い水圧となり、同箇所の水頭が低くなることがある。この場合は、不透水層を挟んだ透水層の地盤の水頭に不均衡が生まれ、このフリクションカットにより生じたケーソンの外側面と地山との間隙を地下水が流動する可能性がある。それでも、ケーソンが通常通り鉛直方向に沈設できていれば、当該間隙には、上述の滑材が充填されているため、ほとんど地下水は流動しない。
【0009】
ただし、施工中にケーソンが大きく傾いたときには、ケーソンには、フリクションカットにより生じる間隙よりも大きな間隙ができる可能性がある。こうした大きな間隙が急激に生じて、不透水層を挟んだ透水層の地盤の水頭に不均衡があると、理論水圧通りの間隙水圧の透水層地盤から理論水圧よりも低い間隙水圧の透水層地盤に向かって地下水が流動する。この場合、間隙に対する止水対策としては、流水を一度仮止めすることができれば、その仮止めした箇所に止水材を注入して止水を行うのは容易である。しかし、もしこの間隙に地下水が流れている状態であれば、止水材を注入しても止水材は地下水と共に流れてしまい、間隙に対する止水が困難となる。このため、ケーソンの沈設時の迅速な止水方法が求められていた。
【0010】
一方、富士山近傍のような山岳地帯では、元々地下水脈が高地にあるため、立坑構築時に地盤を掘削すると地下水が逆に地上へ噴出する場合もある。この場合は、上述のとおり、ケーソンが施工中に大きく傾き、フリクションカット等で生じた間隙が大きくなれば、地下水が上方へ流動するおそれがある。ケーソンの構築では、こうした地下水の吹き上げ防止のための止水方法も求められていた。
【0011】
かかる地下構造物の止水構造及び止水方法として、従来において鋭意検討された結果、例えば、特許文献1及び特許文献2の開示技術が提案されている。例えば、特許文献1の開示技術では、防波堤として設置済みのケーソンの目地部に波浪や地震等で間隙が生じた場合に、当該目地部に気体注入弁から圧縮気体を注入して膨張された止水チューブを取り付けて、当該目地部を止水する止水方法が提案されている。これは、ケーソンを設置後にケーソンの目地部に間隙が生じた場合のメンテナンスの方法である。しかし、ケーソンを沈下させながら施工する際の止水構造や止水方法は、開示されていない。
【0012】
また、施工中という観点では、特許文献2の開示技術では、ケーソンとは異なるもののトンネル建設のシールド工法における止水方法として、シールド工法の掘進機の外周をシールするシール用バッグが提案されている。しかし、トンネル建設のシールド工法と違って、ケーソンは、地盤を掘削して沈下させる必要があるため、ただケーソンの外周部に止水部材を設けるだけでは、かえって沈下する際の妨げとなるおそれもある。その意味では、ケーソンを沈下する際にも沈下の妨げとならずに止水できる止水構造及び止水方法は、開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態に係るケーソンの地下水流動抑止構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
以下、本発明を実施するための形態として、ケーソンの地下水流動抑止構造5において、ケーソン本体2の断面が略円弧状である場合に、平面視で膨張バッグ7が略円弧状に配置され、1つの膨張バッグ7につき1本の吐出管と1本の注入管が取り付けられた第1実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5aの構成について
図1〜6を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明を適用した第1実施形態のケーソンの一部縦断正面図である。
図2は、本発明を適用した第1実施形態における膨張バッグを収縮させた場合のケーソンの2段のロットについて
図1の一部S1を拡大した斜視図である。但し、吐出管と注入管は、複数本あるうちS1にある2段のロットに取り付けられているもののみを描いている。
図3は、本発明を適用した第1実施形態における膨張バッグを膨張させた場合のケーソンの2段のロットについて
図1の一部S2を拡大した斜視図である。但し、吐出管と注入管は、複数本あるうちS2にある2段のロットに取り付けられているもののみを描いている。
図4は、本発明を適用した第1実施形態の
図1のA−A´線断面図である。但し、吐出管と注入管は、複数本あるうち
図1の一部S2にある下段のロットに取り付けられているもののみを描いている。
図5(a)は、本発明を適用した第1実施形態の1つの膨張バッグを収縮させた場合の側断面図で、
図5(b)は、当該膨張バッグを膨張させた場合の側断面図である。
図6(a)は、本発明を適用した第1実施形態の1つの膨張バッグを収縮させた場合の側断面図で、
図6(b)は、当該膨張バッグを膨張させた場合の側断面図である。
【0030】
本発明を適用したケーソン1は、ケーソン本体2と、ケーソン本体2に設置されたケーソンの地下水流動抑止構造5aとにより構成されている。
【0031】
ケーソン本体2は、平面視で略円弧状で、側面視で略矩形であり、コンクリート製、鋼製又はその複合材料で形成される。ケーソン本体2は、1階層部分であるロット3がケーソン沈設方向に一体化されて構成されている。
【0032】
ロット3は、ケーソン本体2の一部であるため、形状と素材はケーソン本体2と同様である。このロット3は、施工現場でケーソン沈設方向に1ロットごとにコンクリートを打設して組み立てながら地盤に沈設していく。
【0033】
ロット3のうち最下端のロット3aは、その下端にある地盤を下方に掘削するための刃口部35と、最下端のロット3aの内底部に形成される作業室32と、その外側面に設けられたフリクションカット33とを備える。
【0034】
刃口部35は、下方に向かって内径を漸次拡大させたテーパを有する。刃口部35の先端は、地盤を掘削するための強度を高めるために、図示しない刃口金物等が取り付けられている。
【0035】
作業室32は、掘削面Gを掘削するための図示しない掘削機等をその内部に有している。この作業室32は、気密であり、図示しない配管等を通じて地上から地下水圧に見合う圧縮空気を送り込むことにより地下水の浸入を排除し、常にドライな環境で掘削できるようになっている。
【0036】
フリクションカット33は、最下端のロット3aの半径が、ロット3aより上方にある他のロット3の半径よりも例えば5cm程度大きく形成されることにより設けられた切り欠きのことである。上述のとおり、このフリクションカット33があることにより、ケーソン本体2の外側面21と地山9との間には、間隙34が生じる。この間隙34があることにより、ケーソンの沈設時にケーソン本体2の外側面21と地山9との密着を防ぎ、ケーソン本体2を沈下し易くする。間隙34は、フリクションカット33と同様の大きさであり、この間隙34は、通常、砂やベントナイト等の滑材が注入されることにより、ケーソン本体2の外側面21と地山9との摩擦が低減されて、ケーソン本体2の沈下が容易となる。
【0037】
地下水流動抑止構造5aは、
図5、
図6に示すとおり、ロット3b、3の外側面31の上端に一部切り欠かれた切欠部6と、切欠部6に設けられた膨張バッグ7と、膨張バッグ7に充填材78を充填させる吐出管81aと、間隙34に止水材89を注入させる注入管82aとを備える。
【0038】
図6に示す切欠部6は、平面視でロット3と同様な円弧形状をしており、その縦断面は略L字形状をしている。切欠部6は、水平面61と水平面61と略直交方向の側面62から形成される。側面62は、図示しない貫通孔があり吐出管81aと連通されている。
【0039】
また、切欠部6は、例えば断面[の字形状の鋼製の鋼材63が取り付けられていてもよい。この鋼材63は、ウェブ部63aの両端にウェブ部63aと略直交方向に一対のフランジ部63b、63cが連接されている。ウェブ部63aと切欠部6の側面62とがボルト等で固着されている。また、フランジ部63bと切欠部6の水平面61とがボルト等で固着されている。また、フランジ部61cは、その上端がロット3bの上端と同一平面上にあり、ロット3bと、ロット3bの上部にあるロット3cとが上下に連結されることで、ロット3cの下端とボルト等で固着されている。これにより、鋼材63は、切欠部6と固定される。この鋼材63は、ウェブ部63aに図示しない貫通孔があり、側面62の図示しない貫通孔及び吐出管81aと連通されている。しかし、これに限定されることなく、当該ウェブ部63a、側面62それぞれの貫通孔は、吐出管81aを介して充填材78を充填して膨張バッグ7を膨張でき、かつ膨張バッグ7を収縮させて切欠部6に収納できれば、切欠部6の何れの位置にあってもよい。
【0040】
なお、切欠部6は、鋼材63が取り付けられていなくてもよく、この場合であっても、ロット3bの上端にロット3cの下端が上下に一体化されることで、断面[の字形状となる。
【0041】
図6(a)に示す膨張バッグ7は、断面[の字形状の鋼材63に当接して、例えば、断面が略楕円形状で収納されている。膨張バッグ7は、その材料が樹脂等であり、例えば、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーン、ポリ塩化ビニル等が想定される。
【0042】
図6(b)に示す膨張バッグ7は、膨張バッグ7の内部71に充填材78が充填されて膨張されている。これにより、鋼材63に収納されていた膨張バッグ7は、鋼材63からはみだして、地山9の不透水層92と密着する。このため、間隙34が膨張バッグ7により塞がれ、間隙34を流れる地下水を止水することができる。
【0043】
この充填材78は、例えば、空気、水、油を想定している。この中でも、水は、膨張バッグ7を膨張させるためにこの水を内部71に充填して内圧をかける場合にも、膨張バッグ7を収縮させるためにこの水を内部71から吸引して取り去る場合でも取り扱いやすく望ましい。しかし、これに限定されることなく、充填材78は、充填して膨張バッグ7を膨張させると同時に吸引して収縮させることができるものであれば、如何なる素材であってもよい。
【0044】
なお、膨張バッグ7は、上述した材料に限定されることなく、充填材78が充填されることにより膨張されて地山9の不透水層92と密着することができ、かつ、充填材78が吸引されることにより収縮されて当該密着が解放されると共に切欠部6に収納できるものであれば、如何なる形状、素材であってもよい。また、当接する隣り合う膨張バッグ7は、必要に応じて接着剤等で接着してもよい。
【0045】
吐出管81aは、鋼材63と連通されている接合部811と、接合部811からケーソン半径方向に延長された横吐出管812と、横吐出管812を鉛直方向に導く接合部813と、接合部813を地上へと導く縦吐出管814とを備える。
【0046】
横吐出管812、縦吐出管814、接合部811、813は、例えば、断面略円形状をしている管体である。また、横吐出管812、縦吐出管814、接合部811、813は、地上から膨張バッグ7に充填材78を導くための管であり、膨張バッグ7を膨張させる場合にも、収縮させる場合にも内圧がかかるため、例えば、鋼管が望ましい。しかし、これに限定されることなく、横吐出管812、縦吐出管814、接合部811、813は、上述の内圧がかかっても破壊されない強度があれば、如何なる形状、素材であってもよい。
【0047】
止水材89は、薬剤でありある程度は固まっているものの固結しないものを想定している。止水材89は、通常のケーソンの沈設を阻害しない渇材の役割も果たすものであれば、如何なる素材であってもよい。
【0048】
注入管82aは、切欠部6の周囲近傍でロット3の外側面31に設けられた図示しない貫通孔と連通された接合部821と、接合部821からケーソン半径方向に延長された横注入管822と、横注入管822を鉛直方向に導く接合部823と、接合部823を地上へと導く縦注入管824とを備える。
【0049】
横注入管822、縦注入管824、接合部821、823は、例えば、断面略円形状をしている管体である。また、横注入管822、縦注入管824、接合部821、823は、地上から間隙34に止水材89を導くための管であり、例えば、ポリ塩化ビニル等の樹脂素材が望ましい。しかし、これに限定されることなく、横注入管822、縦注入管824、接合部821、823は、止水材89を間隙34に注入ができる強度を確保できるものであれば、如何なる形状、素材であってもよい。
【0050】
なお、第1実施形態のケーソン1aのケーソンの地下水流動抑止構造5aは、各ロットにおいてケーソン周方向約5m間隔ごとに1つの膨張バッグ7が取り付けられて、その1つの膨張バッグ7につき1本の吐出管81aと1本の注入管82aとが取り付けられている。また、このケーソンの地下水流動抑止構造5aは、当該ロット以外の他のロットの吐出管81a及び注入管82aには、ケーソン沈設方向には接続されることなく地上まで延長されている。しかし、これに限定されることなく、例えば、ケーソン沈設方向の上下に連結された2つのロット3それぞれに設けられた吐出管81a及び注入管82aが、それぞれ接続されていてもよい。これにより、上下の2つのロットに設けられた2つの膨張バッグ7が同時に充填されて膨張される構成となり、1つの膨張バッグ7で止水するよりもより高い止水効果が生まれる。また、3つ以上の膨張バッグ7を同時に膨張できるように、ケーソン沈設方向に3つ以上のロットにおける各吐出管81及び各注入管82がそれぞれ接続されていてもよい。
【0051】
次に、本発明を適用したケーソン1の地下水流動抑止方法について
図7、
図8を参照しながら詳細に説明する。
【0052】
図7は、本発明を適用した第1実施形態のケーソンの膨張バッグを収縮させた場合で地下流動水が上から下に流動している場合の側断面図である。
図8は、本発明を適用した第1実施形態のケーソンの膨張バッグを膨張させて、ケーソン躯体側面の間隙に止水材を注入した場合の側断面図である。
【0053】
図7に示す地下水の流動抑止構造は、不透水層92e、92fを挟んで上下にある透水層91e、91fの地盤の水頭に不均衡がある場合で、上方にある透水層91eから下方にある透水層91fへと矢印の方向に地下水が流れている。このとき、膨張バッグ7e、7fは、それぞれ切欠部6e、6fにある鋼材63e、63fの内部に収縮されて収納されている。
【0054】
まず、
図8に示すように吐出管81eを通じて地上から矢印の方向に充填材78を流して、充填材78を吐出管81eを介して膨張バッグ7eの内部71eに充填して、膨張バッグ7eを膨張させる。そして、膨張させた膨張バッグ7eを地山9の不透水層92eに密着させる。これにより、透水層91eから不透水層92eへ間隙34を流れる地下水は、膨張させた膨張バッグ7eにより一時的に仮止めして流動を抑止する。このとき、
図8に示すように下方にある膨張バッグ7fを上方にある膨張バッグ7eと同様に、膨張バッグ7eと同時に膨張させることで、膨張バッグ7fを地山9の不透水層92fに密着させる。これにより、上下に膨張バッグ7eと膨張バッグ7fを膨張させることで間隙34を塞ぐことができ、ケーソン本体2の外側面21と膨張バッグ7eと地山9の不透水層92e、92fと膨張バッグ7fとにより囲まれ閉塞された空間Sが生じる。更に、この空間Sに対して、膨張バッグ7eの下方にあるケーソン本体2の外側面21に連通された注入管82eを介して地上から矢印の方向に止水材89を空間Sに注入する。これにより、間隙34の空間Sは、より高い止水効果を生むことができ、地下水の流動を抑止することができる。
【0055】
更に、止水材89の注入が完了した後、膨張バッグ7eと膨張バッグ7f内の充填材78をそれぞれ吐出管81e、吐出管81fを介して吸引して地上へ放出することで、膨張バッグ7eと膨張バッグ7fを収縮させる。これにより、膨張バッグ7e、7fが、それぞれ切欠部6e、6fに収納されて、膨張バッグ7e、7fと地山9の不透水層92との密着が解放される。このため、ケーソン本体2の外側面21にある膨張バッグ7e、7fと地山9との摩擦を減少させて、ケーソン本体2を再び地盤に沈下させることができる。このように、ケーソン本体2を地盤に沈下させながら、必要に応じて膨張バッグを膨張させて地下水の流動を抑止していく。
【0056】
次に第1実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5aの設置方法について
図1〜8を参照しながら詳細に説明する。
【0057】
最下端に刃口部35を設けて作業室32の空間を確保したロット3aの形状に図示しない型枠を組み立てる。この型枠の中には必要に応じて鉄筋を配設してもよい。この組み立てられた型枠の中にコンクリートを打設してロット3aを構築する。その後、図示しない圧入装置によりロット3aを地盤9に沈設する。次に、組み立てるロットの上端に切欠部6を設けると共に予め工場で製作した膨張バッグ7を取り付けた鋼材63を当該切欠部6に取り付けて略円柱状に型枠を組み立てる。更に膨張バッグ7に鋼材63を介して吐出管81aを取り付けて、切欠部6の下方近傍の外側面31に注入管82aを取り付ける。このとき、ロット3aの上部にあるロット3の半径をロット3aの半径よりも約5cm程度短くして、ロット3aの上端にフリクションカット33を設ける。この型枠の中にコンクリートを打設してロット3をロット3aと一体化させて構築する。その後、図示しない圧入装置によりロット3aとロット3が一体化されたケーソンを地盤9に沈設する。このロット3のケーソン沈設方向の高さは、地盤9の設計条件に併せて随時変更してもよい。上述のように膨張バッグ7、吐出管81a、注入管82aを有するロット3を既に組み立てられ沈設されたケーソンと一体化するケーソンの構築と、当該ケーソンの沈設を繰り返すことにより、ケーソン1aを構築していく。また、上述のとおり、仮にこのケーソン1aの沈設時にケーソン1aが傾き地下水が間隙34に流動しても、随時膨張バッグ7を吐出管81aを介して充填材78を充填することにより膨張させて地下水の流動を一時的に仮止めした後に、上下の膨張バッグ7に挟まれた間隙34に止水材89を注入管89を介して注入して地下水の流動を抑止する。その後、吐出管81aを介して充填材78を吸引して膨張バッグ7を収縮させて、再びケーソンの構築と沈設を繰り返していく。なお、ケーソン1aの沈設が完了した際には、各膨張バッグ7の内部71にセメントミルクやモルタル等を充填して膨張させ固結させて、ケーソン1aと共に地盤9中に埋めてもよい。
【0059】
次に、ケーソンの地下水流動抑止構造5において、ケーソン本体2の断面が略円弧状である場合に、平面視で膨張バッグ7が略円弧状に配置され、1つの膨張バッグ7につき1本の吐出管と1本の注入管が取り付けられると共に3つの膨張バッグごとに3本の吐出管と3本の注入管がケーソン周方向にそれぞれ接続されてそれぞれ1本の縦吐出管と縦注入管で地上まで導かれた第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5a´の構成について
図9を参照しながら詳細に説明する。
【0060】
図9は、本発明を適用した第2実施形態のケーソンの断面図である。
【0061】
本発明を適用したケーソン1a´は、ケーソン本体2と、ケーソン本体2に設置されたケーソンの地下水流動抑止構造5a´とにより構成されている。
【0062】
ケーソンの地下水流動抑止構造5a´は、ロット3の外側面31の上端に一部切り欠かれた切欠部6と、切欠部6に設けられた膨張バッグ7と、膨張バッグ7に充填材78を充填させる吐出管81a´と、間隙34に止水材89を注入させる注入管82a´とを備える。
【0063】
第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5a´において、ケーソン本体2、ロット3、切欠部6、膨張バッグ7、吐出管81a´、注入管82a´の形状、大きさ、素材及び充填剤78、止水材89の素材は、第1実施形態と同じ構成である。そのため、ケーソンの地下水流動抑止構造5a´における上述の各構成の説明は、第1実施形態の構成を引用することにより省略する。
【0064】
吐出管81a´は、図示しない鋼材と連通されている図示しない接合部と、当該接合部からケーソン半径方向に延長された横吐出管812と、横吐出管812をケーソン周方向に導く図示しない接合部と、3つの膨張バッグ7に対する3つの当該接合部をケーソン周方向に接続する連結管815と、連結管815を地上へと導く縦吐出管814とを備える。
【0065】
注入管82a´は、切欠部6の周囲近傍でロット3の外側面31に設けられた図示しない貫通孔と連通された図示しない接合部と、当該接合部からケーソン半径方向に延長された横吐出管822と、横吐出管822をケーソン周方向に導く図示しない接合部と、3つの膨張バッグ7に対する3つの当該接合部をケーソン周方向に接続する連結管825と、連結管825を地上へと導く縦吐出管824とを備える。
【0066】
第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5a´は、3本の横吐出管812が連結管815で連結されて、その連結管815に対して1本の縦吐出管814が地上まで延長され、3本の横注入管822が連結管825で連結されて、その連結管825に対して1本の縦注入管824が地上まで延長される配置が第1実施形態と相違する。
【0067】
次に、第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止方法は、上述の構成により1本の縦吐出管814により3つの膨張バッグ7を同時に膨張させることができ、第1実施形態に比較してより迅速にロット3のケーソン周方向に膨張バッグ7を膨張させて、地下水の流動を一時的に仮止めして抑止することができる。また、同様に、第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止方法は、1本の縦注入管824により、ケーソン周方向の3つの膨張バッグ分の間隙34に止水材89を同時に注入することができ、第1実施形態に比較してより迅速に止水材を注入して流動水を抑止することができる。
【0068】
次に第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5a´の設置方法は、第1実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5aの設置方法と比較して、3本の横吐出管812を連結管815で連結して、その連結管815に対して1本の縦吐出管814を地上まで延長し、3本の横注入管822を連結管825で連結して、その連結管825に対して1本の縦注入管824を地上まで延長している点のみが相違する。このため、このケーソン1a´の構築とケーソン1a´の沈設を繰り返していくという設置方法は、第1実施形態と同様であり、ケーソンの地下水流動抑止構造5aの設置方法の説明を引用することにより省略する。
【0070】
次に、本発明を実施するための形態として、ケーソンの地下水流動抑止構造50において、ケーソン本体20の断面が略矩形である場合に、平面視で膨張バッグ70が略矩形に配置され、原則1つの膨張バッグ70につき1本の吐出管と1本の注入管が取り付けられると共に3つの膨張バッグごとに複数本の吐出管と複数本の注入管がケーソン周方向にそれぞれ接続されてそれぞれ1本の縦吐出管と1本の縦注入管で地上まで導かれた第3実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造50の構成について
図10を参照しながら詳細に説明する。
【0071】
図10は、本発明を適用した第3実施形態のケーソンの断面図である。
【0072】
本発明を適用したケーソン10は、ケーソン本体20と、ケーソン本体20に設置されたケーソンの地下水流動抑止構造50とにより構成されている。
【0073】
ケーソンの地下水流動抑止構造50は、ロット30の外側面の上端に一部切り欠かれた切欠部60と、切欠部60に設けられた膨張バッグ70と、膨張バッグ70に充填材78を充填させる吐出管81bと、間隙34に止水材89を注入させる注入管82bとを備える。ここで、ケーソンの地下水流動抑止構造50は、ロット3で3つの膨張バッグが直線的に配置されたケーソンの地下水流動抑止構造50aと、ロット3で3つの膨張バッグ70が略L字に配置されたケーソンの地下水流動抑止構造50bとを有する。特に、ケーソンの地下水流動抑止構造50bでは、ロット3の四隅にある膨張バッグ70bは、断面略L字形状として他の膨張バッグ70と共に事前に工場で形成される。
【0074】
第3実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造50において、ケーソン本体20、ロット30、切欠部60、膨張バッグ70、吐出管81b、注入管82bの形状、大きさ、素材及び充填剤78、止水材89の素材は、第1実施形態と同じ構成である。そのため、ケーソンの地下水流動抑止構造50における上述の各構成の説明は、第1実施形態の構成を引用することにより説明は省略する。
【0075】
吐出管81bは、図示しない鋼材と連通されている図示しない接合部と、当該接合部から外側面311と平面視で略直交方向に延長された横吐出管812と、横吐出管812をケーソン周方向に導く図示しない接合部と、3つの膨張バッグ70に対する3つの当該接合部をケーソン周方向に接続する連結管816、817と、連結管816、817を地上へと導く縦吐出管814とを備える。ここで、膨張バッグ70bに取り付けられた吐出管81bは、切欠部60に2つ取り付けられている。
【0076】
注入管82bは、切欠部60の周囲近傍でロット30の外側面311に設けられた図示しない貫通孔と連通された図示しない接合部と、当該接合部から平面視で略直交方向に延長された横吐出管822と、横吐出管822をケーソン周方向に導く図示しない接合部と、3つの膨張バッグ70に対する3つの当該接合部をケーソン周方向に接続する連結管826、827と、連結管826、827を地上へと導く縦吐出管824とを備える。ここで、膨張バッグ70bに取り付けられた注入管82bは、切欠部60の周囲近傍でロット3の外側面311に2つ取り付けられている。
【0077】
第3実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造50は、ケーソンの地下水流動抑止構造50aにおいては、3本の横吐出管812が連結管816で連結されて、その連結管816に対して1本の縦吐出管814が地上まで延長され、3本の横注入管822が連結管826で連結されて、その連結管826に対して1本の縦注入管824が地上まで延長される配置が第1実施形態と相違する。
【0078】
また、ケーソンの地下水流動抑止構造50bにおいては、4本の横吐出管812が連結管817で連結されて、その連結管817に対して1本の縦吐出管814が地上まで延長され、4本の横注入管822が連結管827で連結されて、その連結管827に対して1本の縦注入管824が地上まで延長される配置が第1実施形態と相違する。
【0079】
次に、第3実施形態のケーソンの地下水流動抑止方法は、上述の構成により、1本の縦吐出管814により3つの膨張バッグ70を同時に膨張させることができ、第1実施形態に比較してより迅速に膨張バッグを膨張させて、地下水の流動を一時的に仮止めして抑止することができる。また、同様に、第3実施形態のケーソンの地下水流動抑止方法は、1本の縦注入管824により、ケーソン周方向の3つの膨張バッグ分の間隙34に止水材89を同時に注入することができ、第1実施形態に比較してより迅速に止水材を注入して流動水を抑止することができる。
【0080】
次に第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造50の設置方法は、第2実施形態のケーソンの地下水流動抑止構造5a´の設置方法と比較して、断面形状が略円弧状から略矩形の形状に変更した点と四隅で3つの膨張バッグ70に対して取り付けられる横吐出管812及び横注入管822が4本である点が相違する。このため、このケーソン10の構築とケーソン10の沈設を繰り返していくという設置方法は、第2実施形態と同様であり、ケーソンの地下水流動抑止構造5a´の設置方法の説明を引用することにより省略する。
【0081】
なお、本発明は、主にケーソンを地中構造物として構築する場合について説明してきたが、ケーソンを水中構造物として構築する場合に本発明を適用してもよいことは勿論である。
【0082】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたって具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。