特許第6022408号(P6022408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6022408
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20161027BHJP
   G21K 5/00 20060101ALI20161027BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
   A61N5/10 H
   G21K5/00 S
   G21K5/02 N
   A61N5/10 S
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-121787(P2013-121787)
(22)【出願日】2013年6月10日
(65)【公開番号】特開2014-236913(P2014-236913A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】菊地 雄司
(72)【発明者】
【氏名】楠岡 新也
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−019692(JP,A)
【文献】 特開2012−050698(JP,A)
【文献】 特開2001−349990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G21K 5/00
G21K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子線を被照射体に照射する中性子捕捉療法システムであって、
荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線が照射されることで前記中性子線を発生させるターゲットと、
前記加速器に接続される第1のダクトと、前記第1のダクトと前記ターゲットとに接続される第2のダクトと、を有し、接続された前記第1のダクト及び前記第2のダクトによって、前記加速器から出射され前記ターゲットに照射される前記荷電粒子線の経路を形成するダクト部と、
前記第1のダクトと前記第2のダクトとが配置されるダクト配置室と、
前記ダクト配置室とは異なる別室と前記ダクト配置室とを連通し、前記ターゲット及び前記第2のダクトを通過させることが可能な孔部と、
前記ターゲット及び前記第2のダクトを、前記孔部を通過する移動経路で移動させる移動手段と、
前記第2のダクトの少なくとも一部を覆う位置と、前記移動手段による前記ターゲット及び前記第2のダクトの移動を可能にするように前記第2のダクトを露出させる位置と、の間を移動可能な放射線遮蔽体と、を備えたことを特徴とする中性子捕捉療法システム。
【請求項2】
前記移動手段は、前記第2のダクトを支持するダクト支持部を備え、前記ダクト支持部が前記第2のダクトを支持した状態で前記ダクト配置室と前記別室との間を移動可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項3】
前記移動手段は、レール部と、前記レール部に沿って移動するテーブル部と、を備え、
前記テーブル部は、前記第2のダクトの長手方向に移動可能となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項4】
前記レール部は、前記ダクト配置室と前記別室との間で移動可能となっていることを特徴とする請求項3に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項5】
前記第2のダクトは、外方に突出する突出部を有しており、
前記放射線遮蔽体は、前記突出部を引っ掛けて前記第2のダクトを保持するための爪部を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の中性子捕捉療法システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線を被照射体に照射するための中性子捕捉療法システムに関する。
【背景技術】
【0002】
中性子線の照射によってがん細胞を死滅させる中性子線捕捉療法として、硼素化合物を用いた硼素中性子線捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)が知られている。このような硼素中性子線捕捉療法で用いられる中性子捕捉療法システムとして、特許文献1には、荷電粒子線を出射するサイクロトロンと、荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させるターゲットと、中性子線を減速させるモデレータと、を備えた中性子線照射装置が記載されている。
【0003】
特許文献1の中性子線照射装置において、サイクロトロンとターゲットとは真空ダクトによって接続されている。また、この中性子線照射装置の照射室には、引き戸のように開閉される放射線遮蔽体が設けられている。放射線遮蔽体は、中性子線の照射時には真空ダクトの左右に分かれた開状態となり、メンテナンス時にはターゲットがモデレータから離間されサイクロトロン側に引き出された後に閉状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−19692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、中性子線の照射時においてターゲットは常に荷電粒子線に曝されているので、ターゲット周辺の放射化レベルは高い状態となっている。そして、荷電粒子線のターゲットへの照射を停止した後でも、長時間放置しなければ、ターゲット周辺の放射化レベルは高いままの状態となる。ここで、上述したような中性子線照射装置では、メンテナンス時にターゲットと真空ダクトがダクト配置室内に配置されているので、ダクト配置室の室内に多量の放射線が放出されてしまうという問題がある。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、ダクト配置室の室内に放射される放射線量を低減させることができる中性子捕捉療法システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の中性子捕捉療法システムは、中性子線を被照射体に照射する中性子捕捉療法システムであって、荷電粒子線を出射する加速器と、荷電粒子線が照射されることで中性子線を発生させるターゲットと、加速器に接続される第1のダクトと、第1のダクトとターゲットとに接続される第2のダクトと、を有し、接続された第1のダクト及び第2のダクトによって、加速器から出射されターゲットに照射される荷電粒子線の経路を形成するダクト部と、第1のダクトと第2のダクトとが配置されるダクト配置室と、ダクト配置室とは異なる別室とダクト配置室とを連通し、ターゲット及び第2のダクトを通過させることが可能な孔部と、ターゲット及び第2のダクトを、孔部を通過する移動経路で移動させる移動手段と、第2のダクトの少なくとも一部を覆う位置と、移動手段によるターゲット及び第2のダクトの移動を可能にするように第2のダクトを露出させる位置と、の間を移動可能な放射線遮蔽体と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の中性子捕捉療法システムでは、中性子線の照射後において、ターゲットと、ターゲットに接続された第2のダクトの放射化レベルが比較的高くなっている。よって、本発明の中性子捕捉療法システムは、ターゲットと第2のダクトとを移動させる移動手段を備えており、メンテナンス時には、移動手段によってターゲットと第2のダクトとを孔部に通して別室に移動させることが可能となっている。このように、放射化レベルが比較的高いターゲットと第2のダクトとを別室に移動させることができるので、ダクト配置室の室内に放射される放射線量を低減させることができる。また、予め別室に新しいターゲットと第2のダクトとを用意しておけば、移動手段が新しいターゲットと第2のダクトとを孔部を通してダクト配置室に移動させることもできる。
【0009】
また、移動手段は、第2のダクトを支持するダクト支持部を備え、ダクト支持部が第2のダクトを支持した状態でダクト配置室と別室との間を移動可能となっていてもよい。このように、移動手段が第2のダクトを支持するダクト支持部を備えると共に、移動手段そのものがダクト配置室と別室との間を移動可能となっている。よって、第2のダクトを安定させた状態で移動させることが可能となる。
【0010】
また、移動手段は、レール部と、レール部に沿って移動するテーブル部と、を備え、テーブル部は、第2のダクトの長手方向に移動可能となっていてもよい。この場合、テーブル部をレール部に沿う方向と第2のダクトの長手方向に移動させることができる。
【0011】
また、レール部は、ダクト配置室と別室との間で移動可能となっていてもよい。この場合、ダクト配置室でレール部が必要な場合には、レール部を別室からダクト配置室に移動させ、ダクト配置室でレール部が不要な場合には、レール部をダクト配置室から別室に移動させることができる。
【0012】
また、第2のダクトは、外方に突出する突出部を有しており、放射線遮蔽体は、突出部を引っ掛けて第2のダクトを保持するための爪部を有していてもよい。この場合、第2のダクトの突出部を爪部に引っ掛けるだけで第2のダクトを放射線遮蔽体に保持させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダクト配置室の室内に放射される放射線量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る中性子捕捉療法システムの配置を示す図である。
図2】放射線遮蔽体周辺を拡大した斜視図である。
図3図2中のダクト構造を拡大した斜視図である。
図4図3中の配管要素を外した状態を示す斜視図である。
図5図4中の配管要素を外した状態を示す斜視図である。
図6】放射線遮蔽体に対する第2のダクトの保持構造を示す斜視図である。
図7】放射線遮蔽体を開状態としたときの図2に対応する斜視図である。
図8】ダクト支持部が上昇したときの図7に対応する斜視図である。
図9】ターゲットを遮蔽材から外すときの図8に対応する斜視図である。
図10】ターゲット及び第2のダクトを移動させるときの図9に対応する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係る中性子捕捉療法装置の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1に示されるように、硼素中性子捕捉療法を用いてがん治療を行うための中性子捕捉療法システム1は、硼素(10B)が投与された患者P(被照射体)の硼素が集積した部位に中性子線Nを照射してがん治療を行う装置である。中性子捕捉療法システム1は、治療台2に固定された患者Pに中性子線Nを照射して患者Pのがん治療を行う照射室3を有している。また、中性子捕捉療法システム1は、荷電粒子線Lを作り出すサイクロトロン(加速器)4と、荷電粒子線Lを受けて中性子線Nを発生させるターゲット5と、サイクロトロン4からターゲット5に荷電粒子線Lを導くためのダクト構造10と、ターゲット5とダクト構造10の一部とを収容する放射線遮蔽体20と、を備えている。
【0017】
サイクロトロン4は、水素イオン等の荷電粒子を加速して陽子線等の荷電粒子線Lを生成する加速器である。このサイクロトロン4は、例えば、ビーム半径が40mmであり、60kW(=30MeV×2mA)の荷電粒子線Lを生成する能力を有している。なお、サイクロトロン4に代えて、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン又はライナック等の他の加速器を用いてもよい。
【0018】
ターゲット5は、サイクロトロン4が出射させた荷電粒子線Lが照射されることで中性子線Nを発生させる。ターゲット5は、例えば、ベリリウム(Be)で構成されており直径160mmの円板状を成している。ターゲット5が発生させた中性子線Nは、コリメータ6で照射野が規定されて照射室3内における患者Pの患部に照射される。なお、ベリリウムで構成されたターゲット5に代えて、リチウム(Li)、タンタル(Ta)又はタングステン(W)で構成されたターゲットを用いてもよく、ターゲットの大きさも適宜変更可能である。
【0019】
図1図2及び図9に示されるように、ダクト構造10は、サイクロトロン4に接続される第1のダクト11と、ターゲット5に接続される第2のダクト12と、第1のダクト11におけるサイクロトロン4の反対側に接続される第3のダクト13と、第2のダクト12と第3のダクト13とを接続する第4のダクト14と、を備えている。第2のダクト12の一端はターゲット5に接続されており、第2のダクト12の他端は、第4のダクト14及び第3のダクト13を介して、第1のダクト11に接続されている。第1〜第4のダクト11〜14は、平面視で略長方形状を成すダクト配置室30の室内に配置されており、このダクト配置室30は、コンクリート製の遮蔽壁Wで覆われた閉鎖空間である。
【0020】
なお、ダクト配置室30は、平面視で略長方形状でなくてもよく、例えばL字形等、他の形状であってもよい。また、サイクロトロン4は、ダクト配置室30内に配置しなくてもよく、ダクト配置室30以外の他の部屋に配置してもよい。
【0021】
第1のダクト11の一端は、サイクロトロン4に接続されている。第1のダクト11は、荷電粒子線Lの調整を行うビーム調整部(不図示)を備えている。このビーム調整部は、荷電粒子線Lの軸を調整する水平型ステアリング及び水平垂直型ステアリングと、荷電粒子線Lの発散を抑制する四重極電磁石と、荷電粒子線Lを整形する四方向スリット等を有している。なお、第1のダクト11は、荷電粒子線Lを輸送する機能を有していればよく、上記のビーム調整部は無くてもよい。
【0022】
第1のダクト11の放射線遮蔽体20側に位置する第3のダクト13は、ダクト配置室30内に配置された台部31の上面31aから上方に突出する柱部32の上端で固定されている。第4のダクト14は、第3のダクト13の放射線遮蔽体20側に固定されており、第4のダクト14の更に放射線遮蔽体20側には第2のダクト12が固定されている。また、台部31の上面31aからは、ターゲット5を冷却させるターゲット冷却板50(図9参照)に冷却水を供給するための第1の冷却パイプ51と、ターゲット冷却板50から排出された冷却水が通る第2の冷却パイプ52と、が上方に突出している。第1及び第2の冷却パイプ51,52は、台部31の上面31aの下方で、冷却水を冷却させるための冷却機に接続されている。
【0023】
放射線遮蔽体20は、台部31の上面31aで固定された固定部21と、固定部21に対して移動自在に設けられた移動部22と、固定部21と移動部22の間に位置する略円柱状の遮蔽材23と、照射室3とダクト配置室30とを隔てる壁部24と、を備えている。固定部21、移動部22及び壁部24は、例えばコンクリートで構成されている。固定部21及び移動部22の照射室3側に位置する壁部24は、照射室3とダクト配置室30とを隔てる壁W1(図1参照)に少なくともその一部が埋め込まれている。そして、壁部24の照射室3側には、中性子線Nの出力口となるコリメータ6が固定されている。
【0024】
遮蔽材23は、中性子線N及びガンマ線等の放射線が外部に放出されないように遮蔽する機能を有している。遮蔽材23の内部にはターゲット5が設けられており、遮蔽材23の奥側(照射室3側)には減速体28が設けられている。ターゲット5が発生させた中性子線Nは、減速体28によって減速されて照射室3内における患者Pの患部に照射される。減速体28は例えば異なる複数の材料から成る積層構造とされており、減速体28の材料は荷電粒子線Lのエネルギー等の諸条件によって適宜選択される。
【0025】
具体的には、例えばサイクロトロン4からの出力が30MeVの陽子線でありターゲット5としてベリリウムターゲットを用いる場合には、減速体28の材料は鉛、鉄、アルミニウム又はフッ化カルシウムとすることができる。また、サイクロトロン4からの出力が11MeVの陽子線でありターゲット5としてベリリウムターゲットを用いる場合には、減速体28の材料は重水(D2O)又はフッ化鉛とすることができる。
【0026】
また、移動部22の下部には、水平方向であって且つ第2のダクト12の長手方向に対して垂直な方向に延在するレール(不図示)が設置されており、移動部22における固定部21の反対側には移動部22をレール上で移動させるためのピストン(不図示)が設置されている。移動部22は、ピストンの駆動によってレール上で移動するので、固定部21に接近する方向及び固定部21から離れる方向に移動可能となっている。このように、移動部22が固定部21に接近することによって放射線遮蔽体20が閉じ、移動部22が固定部21から離れることによって放射線遮蔽体20が開くので、放射線遮蔽体20は開閉自在となっている。
【0027】
なお、レールとピストン以外の手段によって移動部22を移動させてもよい。また、移動部22における固定部21の反対側にミラーを設置して、移動部22の移動先に人や物が存在せず移動部22を安全に移動できるか否かを確認可能としてもよい。
【0028】
また、固定部21は、上側で移動部22に向かって張り出す段差部21aを備え、移動部22は、下側で固定部21側に向かって張り出す段差部22aを備えている。固定部21における段差部21aの下方には、第2のダクト12と第3の冷却パイプ53と第4の冷却パイプ54とが略水平方向に延在するダクト配置空間S(図2及び図6参照)が形成される。よって、移動部22が固定部21から離れる方向に移動すると第2のダクト12が露出し、移動部22が固定部21に接近する方向に移動すると少なくとも第2のダクト12の一部が覆われる。
【0029】
図6に示されるように、固定部21におけるサイクロトロン4側の表面21cには、第2のダクト12を保持するための第1のダクト保持部25と第2のダクト保持部26とが設けられている。第1及び第2のダクト保持部25,26は、それぞれダクト配置空間S側に突出する第1及び第2の突出部25a,26aを有している。また、各突出部25a,26aの上面には、第2のダクト12に溶接された一対の突出部12a,12bを引っ掛けるための第1及び第2の爪部25b,26bが設けられている。
【0030】
第1の爪部25bは、突出部25aの上面から上方に突出する突出部25cと、突出部25cの上端から内側に延びる延在部25dとを備えており、第2の爪部26bも、上記同様の突出部26cと延在部26dとを備えている。第2のダクト12が放射線遮蔽体20に保持される際には、第2のダクト12の突出部12aは、突出部25aの上面と延在部25dの下面との間に形成された空間に入り込む。そして、第2のダクト12の突出部12bは、突出部26aの上面と延在部26dの下面との間に形成された空間に入り込む。
【0031】
一方、第2のダクト12が放射線遮蔽体20から外されるときには、第2のダクト12の各突出部12a,12bが、各爪部25b,26bに対して第2のダクト12の長手方向に移動する。このような第1及び第2のダクト保持部25,26と第2のダクト12における各突出部12a,12bは、第2のダクト12の奥側における遮蔽材23の近傍にも配置されている(図10参照)。
【0032】
また、第2のダクト12の上部には第3の冷却パイプ53が固定されており、第2のダクト12の下部には第4の冷却パイプ54が固定されている。図2及び図9に示されるように、第3の冷却パイプ53の一端側は第5の冷却パイプ55を介して第1の冷却パイプ51に接続されており、第3の冷却パイプ53の他端側はターゲット冷却板50に接続されている。第4の冷却パイプ54の一端側は第6の冷却パイプ56を介して第2の冷却パイプ52に接続されており、第4の冷却パイプ54の他端側はターゲット冷却板50に接続されている。
【0033】
よって、冷却水は、台部31の上面31aの下方に位置する冷却機から、第1の冷却パイプ51、第5の冷却パイプ55及び第3の冷却パイプ53を経てターゲット冷却板50に到達し、ターゲット冷却板50から排出された冷却水は、第4の冷却パイプ54、第6の冷却パイプ56及び第2の冷却パイプ52を経て冷却機に戻される。
【0034】
また、図9に示されるように、中性子捕捉療法システム1は、ターゲット5と、ターゲット冷却板50と、冷却パイプ53,54と、第2のダクト12とを放射線遮蔽体20から外して移動させる移動手段60を備えている。放射線遮蔽体20における固定部21の表面21cには、移動手段60の各動作を操作するための各種スイッチを備えたスイッチユニット90が設けられている。以下では、移動手段60について説明する。なお、以下では、放射線遮蔽体20に対して着脱可能なターゲット5、ターゲット冷却板50、冷却パイプ53,54及び第2のダクト12を纏めて交換ユニット100と称することもある。
【0035】
移動手段60は、ダクト配置室30の階下に位置する別室とダクト配置室30とを連通する孔部70内を上下に移動可能となっており、交換ユニット100が一体となって孔部70を通過可能となっている。移動手段60は、孔部70内で上下に延在し鉛直方向に移動可能な鉛直レール部(レール部)61と、鉛直レール部61に沿って上下に移動するダクト支持部80と、を備えている。
【0036】
ダクト支持部80は、鉛直レール部61から放射線遮蔽体20の固定部21側に突出する支持部本体83と、支持部本体83の上面で第2のダクト12の長手方向に延在する2本の水平レール部81と、各水平レール部81の上部で水平レール部81に対して第2のダクト12の長手方向にスライド移動するテーブル部82とを備えている。テーブル部82は、略水平方向に延在する底板部82aと、底板部82aの両脇から上方に延在する2枚の側板部82bとを有している。よって、各側板部82bの間に交換ユニット100を配置するので、テーブル部82は交換ユニット100を支持しやすい形状となっている。
【0037】
次に、放射線遮蔽体20から交換ユニット100を外して、移動手段60によって交換ユニット100をダクト配置室30とは異なる別室に移動させる方法について説明する。
【0038】
まず、図2及び図3に示されるように、交換ユニット100の取り外し作業を行う作業者Mが台部31の上面31aに立って、第3のダクト13から第1のダクト11を外す。そして、図3及び図4に示されるように、第5の冷却パイプ55を第1及び第3の冷却パイプ51,53から外すと共に、第6の冷却パイプ56を第2及び第4の冷却パイプ52,54から外す。その後は、図5及び図6に示されるように、第4のダクト14を第2及び第3のダクト12,13から外す。図7に示されるように、作業者Mが移動部22を移動させるスイッチをオンにすると、移動部22が固定部21に対して矢印Dの方向に向かって移動し交換ユニット100が露出する。
【0039】
次に、作業者Mが第2のダクト12の係合を解除するスイッチをオンにすると、図6及び図7に示されるように、第2のダクト12が第3のダクト13側に移動する。このとき、ダクト保持部25,26の爪部25b,26bに対して第2のダクト12の突出部12a,12bが共に第3のダクト13側に移動する。そして、突出部12a,12bは、ダクト保持部25,26の突出部25a,26aの上面に載置されただけの状態になる。その後、作業者Mが鉛直レール部61を上昇させるスイッチをオンにすると、鉛直レール部61が孔部70から上方に移動し交換ユニット100の高さ位置よりも若干低い高さにまで上昇する。
【0040】
図8に示されるように、作業者Mがダクト支持部80を上昇させるスイッチをオンにすると、ダクト支持部80は、鉛直レール部61に沿って孔部70から上方に移動し、テーブル部82で交換ユニット100を支持可能な位置にまで上昇する。
【0041】
そして、図9に示されるように、作業者Mがターゲット5を引き出すスイッチをオンにすると、テーブル部82で交換ユニット100を支持すると共に、テーブル部82が交換ユニット100を第3のダクト13側に移動させる。このとき、テーブル部82を移動させることで、テーブル部82上に載置された第2のダクト12が移動し、第2のダクト12の各突出部12a,12bがダクト保持部25,26の各突出部25a,26aに対して第3のダクト13側に移動する。よって、交換ユニット100が完全に放射線遮蔽体20から外れ移動手段60で交換ユニット100を移動可能な状態となる。
【0042】
なお、放射線遮蔽体20から交換ユニット100を外す場合において、テーブル部82上に載置された第2のダクト12を移動させる代わりに、突出部12a,12bを第2のダクト12と独立して移動させてもよく、また、ダクト保持部25,26を移動させるようにしてもよい。
【0043】
図10に示されるように、作業者Mが交換ユニット100を移動させるスイッチをオンにすると、テーブル部82のスライド移動によって交換ユニット100が孔部70の直上に位置するように交換ユニット100の位置合わせを行う。そして、ダクト支持部80が鉛直レール部61に沿って下方に移動することで、交換ユニット100及びダクト支持部80が孔部70を通って階下の別室に移動する。その後は、鉛直レール部61が孔部70を通って別室に移動し、移動部22が固定部21に接近して放射線遮蔽体20が閉じることで、放射線遮蔽体20に対する交換ユニット100の取り外し作業が完了する。
【0044】
以上のように作業者Mがスイッチユニット90の各スイッチをオンにしていくことで、交換ユニット100を放射線遮蔽体20から外して別室に移動させることができる。また、孔部70の下方における階下の別室に予め新しい交換ユニット100を用意しておき上記と逆の動作を行わせることによって、新しい交換ユニット100を放射線遮蔽体20に取り付けることもできる。そして、図5及び図6に示される状態から、作業者Mが第4のダクト14を第2及び第3のダクト12,13に接続させると共に、第5及び第6の冷却パイプ55,56を接続させて、更に第1のダクト11を第3のダクト13に接続させれば、図1に示されるように中性子線Nを照射可能な状態にすることができる。
【0045】
以上のように、中性子捕捉療法システム1は、交換ユニット100をダクト配置室30の別室に移動させる移動手段60を備えており、メンテナンス時には、交換ユニット100を孔部70に通して別室に移動させることが可能となっている。このように、放射化レベルが比較的高い交換ユニット100を別室に移動させることができるので、ダクト配置室30の室内に放射される放射線量を低減させることができる。
【0046】
また、移動手段60は、第2のダクト12を支持するダクト支持部80を備え、ダクト支持部80が第2のダクト12を支持した状態でダクト配置室30と別室との間を移動可能となっている。このように、移動手段60がダクト支持部80を備えると共に、移動手段60そのものがダクト配置室30と別室との間を移動可能となっている。よって、第2のダクト12を安定させた状態で移動させることが可能となる。
【0047】
また、移動手段60は、鉛直レール部61と鉛直レール部61に沿って移動するテーブル部82とを備え、テーブル部82は第2のダクト12の長手方向に移動可能となっている。よって、テーブル部82を鉛直レール部61に沿う鉛直方向と、第2のダクト12の長手方向に移動させることができる。
【0048】
また、鉛直レール部61は、ダクト配置室30と別室との間で移動可能となっている。よって、ダクト配置室30で鉛直レール部61が必要な場合には鉛直レール部61を別室からダクト配置室30に移動させ、ダクト配置室30で鉛直レール部61が不要な場合には、鉛直レール部61をダクト配置室30から別室に移動させることができる。
【0049】
また、第2のダクト12は、外方に突出する突出部12a,12bを有しており、放射線遮蔽体20は、突出部12a,12bを引っ掛けて第2のダクト12を保持するための爪部25b,26bを有している。よって、第2のダクト12の突出部12a,12bを爪部25b,26bに引っ掛けるだけで第2のダクト12を放射線遮蔽体20に保持させることができる。
【0050】
更に、放射線遮蔽体20において、固定部21は上側で移動部22に向かって張り出す段差部21aを備え、移動部22は下側で固定部21側に向かって張り出す段差部22aを備え、固定部21の段差部21aと移動部22の段差部22aとの両方で第2のダクト12を保持することが可能となっている。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0052】
上記実施形態では、ターゲット5を冷却する冷却構造として、ターゲット冷却板50と第1〜第6の冷却パイプ51〜56とを備えていたが、例えば冷却パイプの本数や形状を変える等、ターゲット5を冷却させるための構造は適宜変更可能である。
【0053】
上記実施形態では、ダクト構造10が第1〜第4のダクト11〜14を備えていたが、ダクト構造も適宜変更可能である。例えば、第3のダクト13及び第4のダクト14を省略して、第1のダクト11と第2のダクト12とを直接接続させてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、固定部21に対して移動部22が移動することで開閉する放射線遮蔽体20を備えていたが、この放射線遮蔽体20に代えて、観音開きの放射線遮蔽体を用いてもよい。すなわち、放射線遮蔽体は、第2のダクト12の少なくとも一部を覆う位置と、第2のダクト12を露出させる位置との間を移動可能な構造であればよい。
【0055】
上記実施形態では、鉛直レール部61とダクト支持部80とを備えた移動手段60を用いたが、移動手段の構成は適宜変更可能である。
【0056】
また、上記実施形態では、第2のダクト12の各突出部12a,12bが放射線遮蔽体20の爪部25b,26bに引っ掛かることによって、第2のダクト12が放射線遮蔽体20に保持された。しかし、第2のダクト12の保持構造は上記に限定されず、例えばフックを有するワイヤで吊り下げることによって第2のダクト12を保持してもよい。
【0057】
上記実施形態では、交換ユニット100を階下の別室に移動させたが、交換ユニット100の移動先は階下の別室でなくてもよい。例えば、交換ユニット100をダクト配置室30の隣室や上階の別室に移動させてもよい。
【0058】
上記実施形態では、作業者Mが放射線遮蔽体20の表面21cに設けられたスイッチユニット90のスイッチをオンにすることで移動手段60を操作したが、放射線遮蔽体20からより離れた位置で遠隔操作によって移動手段60を操作してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…中性子捕捉療法システム、4…サイクロトロン(加速器)、5…ターゲット、11…第1のダクト、12…第2のダクト、12a,12b…突出部、20…放射線遮蔽体、25b,26b…爪部、28…減速体、30…ダクト配置室、60…移動手段、61…鉛直レール部(レール部)、70…孔部、80…ダクト支持部、82…テーブル部、L…荷電粒子線、N…中性子線、P…患者(被照射体)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10