(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6022620
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】骨切り工具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/16 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
A61B17/16
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-27033(P2015-27033)
(22)【出願日】2015年2月14日
(65)【公開番号】特開2016-147029(P2016-147029A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2015年3月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第34回日本生体医工学会 甲信越支部大会にて発表(開催日 平成26年10月18日 〔刊行物等〕 掲載年月日 平成26年10月30日 掲載アドレス http://jsmbe.eng.niigata−u.ac.jp/
(73)【特許権者】
【識別番号】515042616
【氏名又は名称】中村 祐敬
(74)【代理人】
【識別番号】100128071
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐敬
【審査官】
西尾 元宏
(56)【参考文献】
【文献】
関谷達彦 ほか4名,寛骨臼回転骨切り術支援用振動型骨切りデバイスの開発,精密工学会大会学術講演会講演論文集,日本,社団法人精密工学会,2004年 9月 1日,Vol.2004 秋季,Page.M68
【文献】
鄭常賢 ほか3名,振動型骨切デバイスを用いた寛骨臼回転骨切り支援システム,第14回日本コンピュータ外科学会大会特集号,日本,社団法人日本コンピュータ外科学会,2005年11月19日,Vol.7 No.3,Page.317-318
【文献】
長谷川寛臼球状骨切ノミ添付文書,日本,ミズホ株式会社,2015年 1月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/14−17/17
17/56−17/92
A61F 2/34
2/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面の一部の形状を備え、前記球面に沿って移動する薄板状の刃と、
前記刃を保持する保持部材と、
前記刃を振動させる振動機構と、
前記保持部材が装着されるガイド部材と、
を有する骨切り工具であって、
前記ガイド部材は、前記球面の中心を通る軸で回転するとともに、前記保持部材が前記軸と前記球面の交点を含む大円方向に直線状に移動できるように構成され、
前記ガイド部材の前記回転と前記保持部材の前記移動によって、前記刃が前記球面に沿って移動する骨切り工具。
【請求項2】
請求項1において、
前記振動機構が、前記刃の面方向に沿って前記刃を振動させる骨切り工具。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記保持部材の両端が前記ガイド部材にはめ込まれている骨切り工具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記刃の長手方向の長さが前記球面の大円の周の長さの1/4以上1/2以下である骨切り工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寛骨臼回転骨切り術に使用される骨切り工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寛骨臼回転骨切り術は、臼蓋形成不全患者に施され、骨盤の臼蓋のまわりをドーム状に切り、寛骨臼を患者の前外方に回転させて固定し、大腿骨頭の被覆を増加させる手術である。この手術は1984年に二ノ宮らによって発表されており(非特許文献1)、現在では広く認知されている。寛骨臼回転骨切り術では、寛骨臼の切り離し面が球状であることが好ましい。しかしながら、従来の寛骨臼回転骨切り術では、専用の湾曲したノミ数本を用いて寛骨臼を切り離すため、切り離し面が球状になるかどうかは、術者の技量によるところが大きい。このため、寛骨臼を球状に切り離せる骨切り工具の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ninomiya S, Tagawa H、Rotational acetabular osteotomy for the dysplastic hip.、J Bone Joint Surg Am.、1984年、第66巻、p.430-436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、寛骨臼をほぼ球状に容易に切り離すことができる骨切り工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の骨切り工具は、球面の一部の形状を備え、球面に沿って移動する薄板状の刃と、刃を保持する保持部材と、刃を振動させる振動機構とを有する。本発明の骨切り工具において、振動機構が刃の面方向に沿って刃を振動させることが好ましい。また、本発明の骨切り工具において、保持部材が装着されるガイド部材をさらに有し、ガイド部材は、球面の中心を通る軸で回転するとともに、保持部材が軸と球面の交点を含む大円方向に直線状に移動できるように構成され、ガイド部材の回転と保持部材の移動によって、刃が球面に沿って移動することが好ましい。
【0006】
本発明の骨切り工具において、保持部材の両端がガイド部材にはめ込まれていてもよい。また、本発明の骨切り工具において、刃の長手方向の長さが球面の大円の周の長さの1/4以上1/2以下であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、寛骨臼をほぼ球状に容易に切り離すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る骨切り工具の斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る骨切り工具のガイド部材を取り除いたときの斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る骨切り工具の上面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る骨切り工具の底面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る骨切り工具の正面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る骨切り工具で、(a)は右側面図、(b)はガイド部材を取り除いたときの右側面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る骨切り工具の下方からの正面図で、保持部材とガイド部の関係を説明するための図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る骨切り工具のガイド部材を取り除いたときの右側面図で、骨切り工具の動きを説明するための図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る骨切り工具を用いて、直方体の硬質ポリウレタンから半球を切り取ったときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1から
図6は、本発明の実施形態に係る骨切り工具10を模式的に示している。
図1は骨切り工具10の斜視図である。
図2は後述するガイド部材を取り除いたときの骨切り工具10の斜視図である。
図3は骨切り工具10の上面図である。
図4は骨切り工具10の底面図である。
図5は骨切り工具10の正面図である。
図6(a)は骨切り工具10の右側面図で、
図6(b)はガイド部材を取り除いたときの骨切り工具10の右側面図である。骨切り工具10は、寛骨臼回転骨切り術に適用した場合、寛骨臼をほぼ球状に切り離すこと、すなわち球冠状の切断面によって寛骨臼を本体と一部分とに二分割することができる。
【0010】
骨切り工具10は、
図1から
図6に示すように、刃12と、保持部材14と、振動機構16と、ガイド部材18と、取付棒Bとを備えている。刃12は細長い薄板状の金属製部材で、球面の一部の形状を備えている。本実施形態の骨切り工具10では、刃12の表面が球面の一部となっている。すなわち、刃12の表面の形状をそのまま拡張していけば球面となる。なお、刃12の表面の主な部分が球面の一部となっていればよく、必ずしも刃12の表面の全体が球面の一部を構成していなくてもよい。骨切り工具10は、この球面に沿って刃12が移動できるように構成されている。
【0011】
保持部材14は、刃12の長手方向の中心より端側で刃12を保持している。保持部材14の材質や形状等には特に制限がない。本実施形態では、保持部材14に握り部20が設けられている。また、本実施形態では、振動機構16が、握り部20に内蔵されたモーターMと、モーターMによって回転する偏心部材Rとを備えている。そして、偏心部材Rの回転と連動して、偏心部材Rとつながっている刃12が振動する。寛骨臼回転骨切り術において、術者が握り部20を握り、振動機構16によって刃12を振動させながら、寛骨臼の中で球面に沿って刃12を動かすことによって、寛骨臼の一部分を球冠状に切り取ることができる。この切り取った寛骨臼の一部分は、前外方に回転させて寛骨臼の本体に固定する。こうして、大腿骨頭の被覆領域が増加する。
【0012】
振動機構16は、刃12の面方向に沿って刃12を振動させることが好ましい。刃12の面方向に沿って刃12が振動すると、寛骨臼の本体の切断面形状と、切り取られた寛骨臼の一部分の切断面形状が一致しやすい。このため、寛骨臼回転骨切り術の過程で、この寛骨臼の一部分を患者の前外方に回転させたときに、寛骨臼の本体とこの寛骨臼の一部との間に生じる隙間を小さくできる。
【0013】
図4に示すように、ガイド部材18は、手術台や基台など(不図示)から延伸された取付棒Bに、回転軸BLで回転できるように固定されている。この固定位置は調整でき、患者の寛骨臼に合わせた最適な位置で骨切り工具10が使用できるように構成されている。
図7は、正面下方から見たときの骨切り工具10を模式的に示している。保持部材14は、ガイド部材18に装着されている。本実施形態では、保持部材14の両端の凸部14aがガイド部材18の凹部18aにはめ込まれている。
【0014】
図8は、骨切り工具10の動きを説明するための図で、ガイド部材18を取り除いたときの骨切り工具10の右側面を表している。なお、ガイド部材18は、刃12が移動する球面の中心Oを通る中心軸Lで回転する。すなわち骨切り工具10は、取付棒Bの回転軸BLが球面の中心Oを通る中心軸Lと重なるように構成されている。また、ガイド部材18によって、保持部材14が中心軸Lと球面の交点Pを含む大円C方向に直線状Sに移動できる。なお、この「直線状」は、刃12の表側(大円Cの外側)から見たときの軌道を示している。本実施形態では、保持部材14の凸部14aがガイド部材18の凹部18a内でスライドすることによって大円C方向に移動する(
図7参照)。
【0015】
なお、保持部材14の凸部14aがガイド部材18の凹部18aから脱落しないように、ストッパー等(不図示)が保持部材14に設けられている。そして、ガイド部材18の中心軸Lでの回転と保持部材14の大円方向の直線状Sの移動とを組み合わせることにより、刃12が球面に沿って、すなわち、刃12が球面全体に渡って移動できる。このため、骨切り工具10を用いると骨を球冠状に切り取りやすい。したがって、骨切り工具10は、寛骨臼回転骨切り術用の工具として適している。骨切り工具10の操作をしやすくするため、刃12の長手方向の長さは、球面の大円の長さの1/4以上1/2以下であることが好ましい。
【実施例】
【0016】
実施例の骨切り工具は、3D−CAD(SolidWorks2013)で設計し、振動機構の偏心部材、保持部材、およびガイド部材等をパーソナル3Dプリンター(RapMan3.2、Bits from Bytes社製)を用いて作製した。なお、これらの材料にはポリ乳酸(polylactic acid:PLA)を用いた。また、ステンレスが射出可能な3Dプリンターを用いて刃を作製した。7.2V駆動のモーター(RS−380PH、マブチモーター社製)を用いて偏心部材を回転させた。実際の寛骨臼回転骨切り術を想定して、刃の中心を通る長手線が一部を構成する大円形状の外径を81.4mm、内径を78.6mm、刃の厚さを1.4mmとした。
【0017】
この骨切り工具を用いて、縦100mm×横100mm×高さ50mmの直方体形状の硬質ポリウレタンから、半球の切り取りを試みた。
図9は、この硬質ポリウレタンの切り取り断面を模式的に示している。その結果、目標通り半球形状に切り取ることができた。なお、切り取った半球の直径は75.9mmで、硬質ポリウレタンに残された半球状の窪みの直径は81.5mmであった。すなわち、切断部分に2.8mmの間隙が形成された。
【符号の説明】
【0018】
10 骨切り工具
12 刃
14 保持部材
14a 凸部
16 振動機構
18 ガイド部材
18a 凹部
20 握り部
M モーター
R 偏心部材
O 球面の中心
L 球面の中心軸
P 球面と中心軸との交点
C 大円
B 取付棒
BL 回転軸