特許第6022689号(P6022689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6022689
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】エレベーターのかご室
(51)【国際特許分類】
   B66B 13/30 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
   B66B13/30 D
   B66B13/30 R
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-526117(P2015-526117)
(86)(22)【出願日】2013年7月12日
(86)【国際出願番号】JP2013069147
(87)【国際公開番号】WO2015004799
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】河村 陽右
(72)【発明者】
【氏名】高原 悠
(72)【発明者】
【氏名】三好 寛
【審査官】 井上 信
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/066587(WO,A1)
【文献】 特開平1−139492(JP,A)
【文献】 実開昭58−72364(JP,U)
【文献】 実開昭51−105778(JP,U)
【文献】 実開平3−15874(JP,U)
【文献】 特開2005−179028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアが全閉した場合に前記ドアの上部表面と天枠に設けられた可動式密封材とが密接し、かつ、前記ドアの戸当たり部分に設けられた戸当たりゴム同士が密接するように構成されたエレベーターのかご室において、
前記戸当たりゴムは、
前記ドアの上部表面と前記可動式密封材とが密接する戸当たり部分上部に配置される第1の戸当たりゴム及び前記戸当たり部分上部以外に配置される第2の戸当たりゴムから構成され、かつ、前記第1の戸当たりゴムの長さと剛性との積と、前記第2の戸当たりゴムの長さと剛性との積とが略同一となるように構成され、
前記第1の戸当たりゴムは、
断面が長方形状であり、2つの長辺のうちの一方を含む面が前記ドアの戸当たり部分の面と接合され、他方を含む面が前記ドアの全閉時に互いに密接し、2つの短辺のうちの一方を含む面が前記可動式密封材と対向し、かつ、前記ドアの全閉時には前記可動式密封材と密接し、
前記第2の戸当たりゴムは、
断面が中空断面であり、一部が前記ドアの戸当たり部分と接合され、他方の部分が前記ドアの全閉時に互いに密接する
ことを特徴とするエレベーターのかご室。
【請求項2】
前記第2の戸当たりゴムは、
断面が円形の中空断面である
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベーターのかご室。
【請求項3】
前記第2の戸当たりゴムは、
断面が長方形の中空断面である
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベーターのかご室。
【請求項5】
前記ドアが全閉した場合に前記ドアの下部表面と密接する下部可動式密封材を備え、
前記第2の戸当たりゴムの下部に第3の戸当たりゴムを備え、
前記第3の戸当たりゴムは、前記ドアの下部表面と前記下部可動式密封材とが密接する部分において、
断面が長方形状であり、2つの長辺のうちの一方を含む面が前記ドアの戸当たり部分の面と接合され、他方を含む面が前記ドアの全閉時に互いに密接し、2つの短辺のうちの一方を含む面が前記下部可動式密封材と対向し、かつ、前記ドアの全閉時には前記下部可動式密封材と密接する
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベーターのかご室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのかご室に関し、特に超高速かつ長行程のエレベーターのかご室に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の高層化に伴い、超高速かつ長行程のエレベーターの需要が高まっている。超高速かつ長行程のエレベーターは、昇降時にかご室内の圧力が大きく変化するため、乗客に耳詰まりを生じさせて不快感を与える場合がある。よって通常、この不快感を緩和させるために、かご室内の圧力を制御する圧力制御装置が設置される。圧力制御装置は、例えばかご室の内に空気を送る送風機がある。
【0003】
圧力制御装置が制御可能なかご室内の圧力制御量Δp(Pa)を下記式(1)に示す。圧力制御量Δpは、かご室内への送風量Q(m/s)と、かご室の隙間面積A(m)とから算出される。なおρ(kg/m)はかご室内の空気の密度である。下記式(1)に示すように、圧力制御量Δpは、かご室内への送風量Q及びかご室の隙間面積Aに大きく影響される。よって圧力制御装置の小型化を図りつつ、すなわち送風量Qに上限を設けつつ、圧力制御量Δpを増大させようとする場合、かご室の隙間面積Aを小さくする気密構造が必要となる。
【0004】
【数1】
【0005】
特許文献1には、かご室の隙間面積を小さくする気密構造のかご室が開示されている。具体的には、出入口周辺の隙間を低減するため、ドア周囲に弾性材を設けるとともに、ドアをかご室側に吸引する電磁石装置を備えたかご室が開示されている。
【0006】
また特許文献2にも、気密構造のかご室が開示されている。具体的には、ドアマシンの戸閉方向の力をローラ及びカム機構を利用してドア表面に対して垂直方向の力に変換し、天枠に固定されている密封材をドア表面に押し当てるようにしたかご室が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−218931号公報
【特許文献2】国際公開2012/066587号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで一般にかご室は、駆動機構のある出入口周辺の隙間面積が大きくなる傾向にある。よってかご室を気密構造とするためには、この出入口周辺の隙間面積を可能な限り小さくすることが重要となる。例えばドアが2枚で中央開きのタイプのかご室にあっては、出入口周囲及び戸当たり部分を確実に気密化する必要がある。
【0009】
しかし、特許文献1に記載のかご室では、出入口周囲について一定の気密化は可能であるものの、戸当り部分上部には依然として隙間が生じることになるため、確実に気密化することはできない。また出入口周囲の隙間を塞ぐための電磁石装置及びこの電磁石装置を制御するための制御装置が必要となる。従ってかご室の構造が複雑化し、十分に気密化することはできない。
【0010】
また特許文献2に記載のかご室についても同様に、戸当たり部分上部には依然として隙間が生じることになるため、かご室を十分に気密化することはできない。
【0011】
本発明は以上の点を考慮してなされたものであり、簡易な構造で十分に気密化し得るエレベーターのかご室を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するために、本発明におけるエレベーターのかご室は、ドアが全閉した場合にドアの上部表面と天枠に設けられた可動式密封材とが密接し、かつ、ドアの戸当たり部分に設けられた戸当たりゴム同士が密接するように構成されたエレベーターのかご室において、戸当たりゴムは、ドアの上部表面と可動式密封材とが密接する戸当たり部分上部に配置される第1の戸当たりゴム及び戸当たり部分上部以外に配置される第2の戸当たりゴムから構成され、第1の戸当たりゴムは、断面が長方形状であり、2つの長辺のうちの一方を含む面が前記ドアの戸当たり部分の面と接合され、他方を含む面がドアの全閉時に互いに密接し、2つの短辺のうちの一方を含む面が可動式密封材と対向し、かつ、ドアの全閉時には可動式密封材と密接し、第2の戸当たりゴムは、断面が中空断面であり、ドアの全閉時には一部が互いに密接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構造でかご室を十分に気密化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態におけるエレベーターのかご室の全体構成図である。
図2】かご室の出入口周辺の断面構成図である。
図3】ドアの正面構成図である。
図4】戸当たり部分上部の断面構成図である。
図5】戸当たり部分上部以外の断面構成図である。
図6】戸当たりゴムの側面構成図である。
図7】従来の戸当たり部分上部の断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0016】
図1は、本実施の形態におけるエレベーターのかご室1の全体構成を示す。かご室1は、送風機2、ドアマシン3、ドア4、天枠5(図2)、可動式密封材6(図2)及び戸当たりゴム7から構成される。
【0017】
送風機2は、かご室1内の加減圧を行う圧力制御装置である。ここでは2台の送風機2がかご室1の天井上面に設置されており、例えば一方の送風機2がかご室1の中に空気を送り込み、他方の送風機2がかご室1の外に空気を排出するように動作する。ドア4の全閉時において、送風機2がかご室1に対して空気を流入出することにより、かご室1内の気圧を制御することができる。
【0018】
ドアマシン3は、ドア4の開閉動作を行うための駆動機構を備えて構成される。ドアマシン3の駆動機構が動作することにより、ドア4を開閉することができる。
【0019】
ドア4は、出入口に設けられた開閉可能なドアであり、かご室1が図示しない昇降路内を移動又は停止することにともなって開閉動作する。
【0020】
天枠5は、図示しないローラ及びカム機構を備えて構成される。このローラ及びカム機構により、ドア4の戸閉方向の力をドア4の表面に対して垂直方向の力(ドア4をかご室1側に押し付ける力)に変換することができる。よってドア4が全閉した場合、ドア4の上部表面を天枠5に設けられた可動式密封材6に押し当てることができる。
【0021】
図2は、かご室1の出入口周辺の断面構成を示す。ドア4が全閉した状態においてドア4の天枠5側の上部表面は、天枠5に設けられた可動式密封材6と密接する。なお従来のかご室の場合、ドア4の上部表面と可動式密封材6とがたとえ密接していても、戸当たり部分上部(戸当たりゴムと可動式密封材6との間)で隙間が生じてしまうため(図7)、かご室1内への空気の流入F1及びかご室1外への空気の流出F2を遮断することができない。よってかご室を十分に気密化することはできない。
【0022】
本実施の形態においては、戸当たり部分上部で隙間を生じさせない戸当たりゴム7の構造を採用することにより、図2に示すように流入F1及び流出F2を遮断することができるようになる。よってかご室を十分に気密化することができる。
【0023】
図3は、乗場側から見たドア4の正面構成を示す。ドア4は、戸当たり部分に戸当たりゴム7を設けて構成される。戸当たりゴム7を設けることによって、ドア4が閉まる際にドア4同士の衝突によって生じる衝撃を緩和させることができるとともに、ドア4間に生じる隙間を遮断してかご室1の気密化を図ることができる。
【0024】
なお従来のかご室においても、戸当たりゴムを設けることにより、ドア4表面に対して垂直方向の空気の流入及び流出を遮断して、かご室1の気密化を一定量図ることはできる。しかし図2において上述したように、戸当たり部分上部(戸当たりゴムと可動式密封材6との間)で隙間が生じるため、十分に気密化を図ることができない。
【0025】
図4は、戸当たり部分上部の断面構成を示す。図4に示す戸当たり部分上部の断面構成は、図3に示すS1−S2部分の断面構成である。戸当たり部分上部における戸当たりゴム7をここでは特に第1の戸当たりゴム71として説明する。
【0026】
第1の戸当たりゴム71は、断面が長方形状であり、長辺を含む面のうち一方の面は一方のドア4の戸当たり部分の面と接合され、他方の面はドア4の全閉時に他方のドア4の戸当たり部分の面と接触し、互いに密接するように配置される。また第1の戸当たりゴム71の短辺を含む面のうち一方の面は、可動式密封材6と対向し、ドア4の全閉時に可動式密封材6と密接するように配置される。
【0027】
本実施の形態においては、このように構成した第1の戸当たりゴム71を採用したことにより、ドア4が全閉した状態において第1の戸当たりゴム71が互いに密接し、かつ、可動式密封材6とも密接するため、戸当たり部分上部G1で隙間を生じさせることがない。よって十分に気密化を図ることができる。
【0028】
図5は、戸当たり部分上部以外の断面構成を示す。図5に示す戸当たり部分上部以外の断面構成は、図3に示すS3−S4部分の断面構成である。戸当たり部分上部以外の戸当たりゴム7をここでは特に第2の戸当たりゴム72として説明する。
【0029】
第2の戸当たりゴム72は、断面が中空断面を有する円形状であり、一部の面は台座と接合され、他の面はドア4の全閉時に互いに密接するように配置される。また台座は、第2の戸当たりゴム72と接合する接合面を有するとともに、ドア4に掛止するためのツメを有して構成される。
【0030】
ここで、戸当たりゴム7の上部を第1の戸当たりゴム71とし、上部以外を第2の戸当たりゴム72とする理由は、戸当たりゴム7全体の剛性を低減するためである。ドア4は、据付誤差により鉛直方向で傾きが生じ、傾きによって隙間が生じる場合がある。しかしこの場合であっても、戸当たりゴム7が十分に柔らかければ(剛性が十分に小さければ)、据付誤差の許容以上に戸当たりゴム7が圧縮し、ドア4の傾きによって生じる隙間を塞ぐことができる。
【0031】
そこで本実施の形態における戸当たりゴム7は、図4に示すように戸当たり部分上部に剛性の大きい第1の戸当たりゴム71を設けたことに対し、図5に示すように戸当たり部分上部以外には剛性の小さい第2の戸当たりゴム72を設けるようにした。よって戸当たりゴム7全体としては剛性を十分小さくして、ゴム圧縮量を十分に確保している。
【0032】
図6は、戸当たりゴム7の正面構成を示す。この図6に示す戸当たりゴム7の正面構成図は、例えば図3に示すドアの正面構成のうち、戸当たりゴム7だけを抽出及び拡大した図である。戸当たりゴム7は、上述してきたように上部が第1の戸当たりゴム71で構成され、上部以外が第2の戸当たりゴム72で構成される。
【0033】
第1の戸当たりゴム71の長さをL1及び剛性をK1とし、第2の戸当たりゴム72の長さをL2及び剛性をK2とした場合、本実施の形態における戸当たりゴム7は、K1×L1≒K2×L2、の関係を満たすように構成される。
【0034】
この関係を満たすように戸当たりゴム7を構成したことにより、たとえ上部の第1の戸当たりゴム71の剛性が大きくとも、上部以外には剛性の小さい第2の戸当たりゴム72が設けられるため、戸当たりゴム7全体としては剛性を小さくすることができる。またこの構成により、ドアマシン3の戸閉力が作用した場合、2種類の剛性の戸当たりゴム71及び72の変形量を同等にすることができるため、ドア4が閉じたときにドア4が傾くことを抑制することができる。
【0035】
図7は、従来の戸当たり部分上部の断面構成を示す。図7に示す従来の戸当たり部分上部の断面構成は、図3に示すS1−S2部分の断面構成に対応する断面構成であり、図4に示す本実施の形態における戸当たり部分上部の断面構成に対応する断面構成である。本実施の形態における部材と同様の部材については同一の符号を付し、また戸当たり部分上部における戸当たりゴムは、ここでは特に戸当たりゴム71Aとして説明する。
【0036】
戸当たりゴム71Aは、断面が略長方形状であり、一部がドア4に埋め込まれ、他の部分はドア4の全閉時に互いに密接するように配置される。この場合、ドア4の全閉時には可動式密封材6と、ドア4と、戸当たりゴム71Aとにより囲まれた空間G2に隙間が生じることになる。よって従来の戸当たりゴム71Aでは、空気の流入F1及び流出F2を遮断することができず、かご室を十分に気密化することはできない。
【0037】
以上のように本実施の形態においては、戸当たりゴム7の上部を第1の戸当たりゴム71のように構成したので、ドア4が全閉した状態において戸当たり部分上部で隙間が生じることを防止することができる。よってかご室1に対する空気の流入F1及び流出F2を遮断することができるため、かご室1を十分に気密化することができる。
【0038】
また戸当たりゴム7の上部以外は第2の戸当たりゴム72のように構成したので、戸当たりゴム7全体の剛性を小さくすることができる。よってドア4の傾きによって生じる隙間を塞ぐことができるため、かご室1を十分に気密化することができる。
【0039】
またかご室1の十分な気密化を実現することにより、圧力制御に必要な送風量を低減することも可能となる。よって送風機2の小型化、電気容量、質量及び騒音の低減を実現することができる。更にはエレベーター走行中の風切音を主とする昇降路からの漏洩音を低減し、かご室1内の騒音の低減を実現することができる。
【0040】
なお本実施の形態において、第2の戸当たりゴム72は、断面が円形の中空断面であるとして説明したが、必ずしもこれに限らず、断面が長方形の中空断面であってもよい。
【0041】
また本実施の形態において、可動式密封材6は、天枠5に設けられ、ドア4の全閉時にドア4の上部表面と密接するとして説明したが、必ずしもこれに限らず、ドア4の全閉時にドア4の下部表面と密接する位置に例えば下部可動式密封材を設けるとしてもよい。この場合、戸当たりゴム7の上部に第1の戸当たりゴム71を設けるとともに、下部に第1の戸当たりゴム71と同様の構成を持つ第3の戸当たりゴムを設け、上部及び下部以外を第2の戸当たりゴム72のように構成するとしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 乗りかご
2 送風機
3 ドアマシン
4 ドア
5 天枠
6 可動式密封材
7 戸当たりゴム
71 戸当たり部分上部の戸当たりゴム
72 戸当たり部分上部以外の戸当たりゴム
71A 従来の戸当たり部分上部の戸当たりゴム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7