(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、高炉から出銑される
溶鉄は、予備処理工程、転炉工程、2次精錬工程などの製鋼工程を経て鎔鋼として製造され、このような鎔鋼は、連続鋳造工程を経てスラブ、ブルーム、ビレット、ビームブランクなどの鋳片として製造される。高炉から出銑される
溶鉄は、鉄鉱石を焼結させた焼結鉱とコークスなどを高炉に投入して加熱する製銑工程によって製造される。すなわち、高炉から出銑される
溶鉄は、鉄源として鉄鉱石を用いる。しかしながら、韓国および外国の製鋼市場において鉄鉱石のコストが高騰し、鉄鉱石の円滑な需給が図れないため、鉄鉱石以外の鉄源を確保するための方策が講じられてきている。
【0003】
最近は、鉄源を確保するための方策として、古鉄などの鉄屑を
溶鉄として再活用する方策が活発に適用されている。すなわち、鉄屑を電気炉に投入して溶解させて
溶鉄を製造し、高炉から出銑される
溶鉄と併用する、又は、高炉から出銑される
溶鉄の代替として鋳片を製造するのに使用される。鉄屑は、鉄鉱石(または、焼結鉱)とは異なり、使用用途に応じて様々な成分が含まれており、これにより、鉄屑を鉄源とする
溶鉄には様々な成分が含有される。
溶鉄に含有される様々な成分のうち銅成分は、連続鋳造工程に際して鋳片に表面ひび割れなどの欠陥を発生させ、熱間加工に際して高温脆性などの熱間脆性を引き起こして鋳片の品質を低下させる原因となる。
【0004】
従来は、銅コーティングのように鉄屑の表面に銅成分が露出している場合には、シュレッダー加工および磁石分離を行って鉄屑を選別して使用した。ところが、鉄屑の内部に銅成分が含まれている場合には選別を通じて分離することができないため
溶鉄に銅成分が含まれてしまう。
溶鉄に含有される銅成分は、鉄成分よりも酸化力が弱いため、従来の製鋼工程では、
溶鉄に含有される銅成分を容易に酸化させて除去することができないという問題を有していた。このため、鉄屑などの低級原料を
溶鉄の鉄源として用いる場合には、鋳片の品質が大幅に低下する虞があるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、
溶鉄中の銅を安定的に除去することのできる
溶鉄処理装置およびその処理方法を提供する。本発明は、鎔鋼の品質を向上させることのできる
溶鉄処理装置およびその処理方法を提供する。本発明は、資源を再活用して製造コストを節減することのできる
溶鉄処理装置およびその処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発
明による
溶鉄処理装置は、鉄源を溶融させて
溶鉄を製造する溶解炉と、溶解炉において製造された
溶鉄を液滴状態で噴射して
溶鉄中に含有されている銅成分を除去する脱銅装置と、を備えることを特徴とする。
【0007】
溶解炉は、電気炉、埋没アーク炉(SAF)および、とりべ炉(LF)のうちの少なくともいずれか一種であってもよい。脱銅装置は、
溶鉄が収容される第1の容器と、内部にフラックスが収容され、第1の容器の下部に配備される第2の容器と、を備え、第1の容器は、
溶鉄を第2の容器に液滴として噴射するように形成されてもよい。第2の容器の下部に
溶鉄を排出させる流出口が形成され、第2の容器から排出される
溶鉄を収容する第3の容器をさらに備えてもよい。
【0008】
第1の容器は、下部に
溶鉄を液滴状態で噴射する噴射部が形成されてもよい。噴射部は、複数の噴射孔または多孔性部材により形成されてもよい。噴射孔は、2〜5mmの大きさに形成されてもよい。
溶鉄処理装置は、噴射部を開閉する開閉手段を備えてもよい。
【0009】
本発
明による
溶鉄処理方法は、
溶鉄の内部に含有されている不純物を処理する方法であって、銅を含有する鉄源を溶融させて
溶鉄を製造する過程と、
溶鉄を第1の容器に投入する過程と、第1の容器の下部に配備される第2の容器にフラックスを設ける過程と、第1の容器に設けられた
溶鉄を第2の容器に液滴状態で噴射してフラックスと反応させて
溶鉄中に含有されている銅を除去する過程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
溶鉄を製造する過程において、鉄クズ、鉄筋、FINEX汚泥、銅鉱滓、廃タイヤ(タイヤコード)及び砂鉄のうちの少なくとも一種を鉄源として用いてもよい。フラックスは、少なくともNa
2CO
3を含有する物質と、Sを含有する物質と、を含んでいてもよい。Na
2CO
3を含有する物質とSを含有する物質との組成比は、20〜60wt%:40〜80wt%であってもよい。
【0011】
Na
2CO
3を含有する物質は、Na
2CO
3またはトロナ(Na
2CO
3・NaHCO
3・2H
2O)であり、Sを含有する物質は、Na
2S、FeSおよびNa
2SO
4のうちの少なくともいずれか一種であってもよい。フラックスは、
溶鉄1トン当たりに150kg〜4000kg設けられてもよい。フラックスは、
溶鉄よりも比重が小さく、
溶鉄は、フラックスを通過してフラックスの下部に沈降してもよい。
【0012】
第1の容器に設けられた
溶鉄を第2の容器に液滴状態で噴射するとき、第2の容器の内部に真空を形成して第1の容器から流入する
溶鉄を拡散させてもよい。第1の容器に設けられた
溶鉄を第2の容器に液滴状態で噴射するとき、第1の容器の内部に圧力を加えて第1の容器内の
溶鉄を第2の容器に液滴状態で噴射してもよい。
溶鉄中に含有されている銅を除去する過程後に脱硫処理を行ってもよい。
【0013】
脱硫処理は、第2の容器の下部に第3の容器を設ける過程と、第3の容器に脱硫フラックスを設ける過程と、第2の容器に収容されている
溶鉄を第3の容器に
溶鉄流を形成して供給してフラックスと反応させて
溶鉄中に含有されている硫黄を除去する過程と、を含み、銅を除去する過程と連続して行ってもよい。脱硫フラックスは、トロナを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発
明による
溶鉄処理装置およびその処理方法によれば、
溶鉄中に含有されている銅成分を容易に除去することができる。すなわち、
溶鉄を液滴状態にしてフラックスとの反応効率を向上させて
溶鉄内に含有されている銅成分を効果的に除去することができる。これにより、廃鉄屑、タイヤコード、鉄筋、FINEX汚泥、銅鉱滓などのように銅を含有する安価な鉄源を活用することができる。このため、廃棄される資源を再活用することができるので、環境汚染を抑えることができ、
溶鉄を製造するのにかかるコストを節減することができる。また、
溶鉄中の銅成分および硫黄成分を連続して除去することができて
溶鉄の精錬にかかる時間を短縮することができる。また、
溶鉄中への硫黄成分のピックアップが抑えられるフラックスを用いて脱硫操業に負荷が発生することも抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態を詳述する。しかしながら、本発明は、後述する実施形態に何ら限定されるものではなく、互いに異なる種々の形態で実現される。単に、これらの実施形態は、本発明の開示を完全たるものにし、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者に発明の範囲を完全に知らせるために提供されるものである。本発明は、鉄屑、鉄筋、FINEX汚泥、銅鉱滓、廃タイヤ、砂鉄など様々な安価な鉄源を用いて
溶鉄を製造する過程において
溶鉄中に含有されている不純物、特に、銅(Cu)を除去するのに適用される技術である。ここで、FINEX汚泥には鉄成分(T.Fe)が約50wt%以上含有されており、銅鉱滓には鉄成分が約40wt%含有されているため、
溶鉄を製造する上で鉄源として好適に使用可能である。
【0017】
図1は、
本実施形態による
溶鉄処理装置の構成を概略的に示す図であり、
図2は、噴射部の構造を示す図である。鉄屑、鉄筋、FINEX汚泥、銅鉱滓、廃タイヤ、砂鉄などの安価な鉄源を電気炉、埋没アーク炉(Submerged Arc Furnace:SAF)および、とりべ炉(Ladle Furnace:LF)などの溶解炉において溶融させて製造された
溶鉄には、リン(P)、硫黄(S)、銅(Cu)など種々の不純物が多量含有されている。このような不純物のうち銅(Cu)を除去する技術はあまり開発されていない。このため、
本実施形態においては、
溶鉄中に含有されている銅(Cu)を除去する脱銅装置を備えて、
溶鉄を液滴状態にしてフラックスP1と接触させることにより、
溶鉄中の銅の除去効率を向上させることができる。
【0018】
図1を基にすると、
溶鉄処理装置、すなわち、脱銅装置は、
溶鉄Mが投入される第1の容器210と、第1の容器210の下部に配備されて第1の容器210から噴射される
溶鉄Mの精錬を行う第2の容器220と、を備える。第1の容器210は、内部に
溶鉄Mが収容可能な取鍋などの容器であってもよく、内部を真空引きするように上部を開閉できるように形成してもよい。また、第1の容器210の下部には、内部に収容された
溶鉄Mを第2の容器220に噴射するための噴射部214が形成されてもよい。噴射部214は、第1の容器210に収容された
溶鉄Mを第2の容器220に液滴状態で噴射可能であれば、様々な形状に形成可能である。
【0019】
例えば、噴射部214は、第1の容器210の底面に複数の噴射部214aとして形成されてもよい。このとき、噴射部214aは、約2〜5mmの大きさに形成されてもよく、噴射部214aの大きさが上記の範囲よりも小さな場合には
溶鉄Mが噴射し難く、上記の範囲よりも大きな場合には液滴が大きいためフラックスP1との反応効率が低下する虞がある。噴射部214aは、第1の容器210の底面の全体に亘って形成されてもよく、第1の容器210の中心部の所定の領域にのみ形成されてもよい。後者の場合には、液滴が第2の容器220内において放射状に拡散されながら噴射できるように噴射部214aが勾配をもって形成されてもよい。また、噴射部214は、上部容器の底面に配設される多孔性部材214bであってもよい。第1の容器210内に収容された
溶鉄Mは、多孔性部材214bに形成された孔を介して第2の容器220に液滴を形成しながら噴射される。
【0020】
第1の容器210内に収容された
溶鉄Mの噴射を開始または停止するために、噴射部214を開閉する開閉手段215が配備されてもよい。開閉手段215は、第1の容器210の内部において上下方向に移動するように設けられるストッパーであってもよく、第1の容器210の下部において左右方向に移動するように設けられる摺動プレートであってもよい。第2の容器220は、
溶鉄Mの精錬が行われる精錬炉であり、内部に第2の容器220から噴射される
溶鉄Mを収容し、
溶鉄M中に含有されている不純物、例えば、銅を除去するためのフラックスP1が収容される空間が形成される。
【0021】
また、第2の容器220には、内部に真空を形成するための排気口、内部に所定の雰囲気を形成するためにガスを取り入れるための注入口、
溶鉄MとフラックスP1が反応しながら発生する反応ガスを排出するための排出口などが形成されてもよい。さらに、第2の容器220の上部には、第1の容器210の噴射部214と連通する開口部221が形成されてもよい。開口部221は、第1の容器210の底面に形成された噴射部214に対応する大きさに形成されるか、あるいは、噴射部214よりも大きく形成されて
溶鉄Mの円滑な噴射を促すことが好ましい。このような構成により
溶鉄Mを液滴状態で噴射してフラックスP1と速やかに反応させることにより、
溶鉄M中に含有されている銅を効果的に除去することができる。
【0022】
一方、
溶鉄M中に含有されている銅を除去する過程においてフラックスP1に含有されている他の不純物、例えば、硫黄(S)成分が
溶鉄M1中にピックアップされる虞がある。すなわち、
溶鉄M1中に含有されている銅は、硫黄(S)との反応効率が高いため、銅を除去するのに用いられるフラックスP1には硫黄(S)成分が多量含有されている。このため、
溶鉄M1中の銅を除去する脱銅処理過程において銅と反応できなかった硫黄が
溶鉄中にピックアップされる現象が発生する虞がある。このため、第2の容器220の下部に脱銅処理された
溶鉄M1を投入して脱硫処理を施し得る第3の容器230を備えてもよい。第3の容器230は、内部に
溶鉄M2およびフラックスP2などを収容可能な空間が形成される取鍋、精錬炉などの容器であってもよい。第3の容器230は、第2の容器220の下部に配備されて第2の容器220から排出される
溶鉄M1、すなわち、脱銅処理された
溶鉄M1を供給されて脱硫処理を施して目標とする成分の
溶鉄M2を得る。
【0023】
このため、第2の容器220には、
溶鉄M1を第3の容器230に供給するための流出口223が形成されてもよい。流出口223は、第2の容器220の底面や下部側壁に形成されてもよい。流出口223は、
溶鉄M1を液滴状態で第3の容器230に供給できるように第1の容器210に形成された噴射部214と略同じ形状に形成してもよい。または、
溶鉄M1を液滴状態で噴射せずに脱銅処理された
溶鉄M1を
溶鉄流を形成しながら第3の容器230に供給してもよい。このような構成により
溶鉄中に含有されている銅および硫黄を効果的に除去することができ、必要に応じて、脱銅処理と脱硫処理を連続して行って工程効率を向上させることができる。
【0024】
以下、
溶鉄処理装置を用いて
溶鉄中に含有されている銅成分を除去する方法について説明する。
図3は、
本実施形態により製鉄工程が行われる過程を示す図である。まず、
溶鉄M、例えば、
溶鉄を設ける。
溶鉄Mは、鉄屑、鉄筋、FINEX汚泥、銅鉱滓、廃タイヤタイヤコード、砂鉄など様々な安価な鉄源を溶解炉100において溶融および還元させて製造することができる。溶解炉100は、電気炉、埋没アーク炉(SAF)または、とりべ炉(LF)であってもよく、
溶鉄Mを製造する過程においてコークスまたは石炭、生石灰、SiO
2などを投入して還元させることができ、リン(P)成分を除去することもできる。このように安価な鉄源により製造された
溶鉄Mには銅が多量含有されている。製造された
溶鉄Mは、溶解炉から取鍋110に出湯されて脱銅処理のための場所に搬送される。
【0025】
取鍋110内に収容された
溶鉄Mは、第1の容器210に投入される。このとき、取鍋110が第1の容器210として使用可能である。また、
溶鉄Mの脱銅処理が行われる第2の容器220の内部に銅を除去するためのフラックスP1を設ける。フラックスP1は、
溶鉄Mを第2の容器220内に噴射する前に第2の容器220内に投入することが好ましい。フラックスP1は、
溶鉄M1よりも比重が小さな物質であり、銅との反応が活発に行われる硫黄(S)成分を含む物質が使用可能である。例えば、フラックスP1は、Na
2CO
3を含有する物質と、硫黄(S)を含有する物質と、を含んでいてもよい。このとき、Na
2CO
3を含有する物質は、Na
2CO
3またはトロナ(Na
2CO
3・NaHCO
32H
2O)であってもよく、硫黄を含有する物質は、FeS、Na
2S、およびNa
2SO
4のうちの少なくともいずれか一種であってもよい。トロナは、約30wt%のナトリウム(Na)を含んでおり、原産地によるが、硫黄(S)を含んでおり、硫黄は、Na
2SO
4、Na
2CO
3・2Na
2SO
4などの酸化物の形で存在する。ここで、硫黄を含有する物質としては、FeS、Na
2SまたはNa
2SO
4が使用可能であるが、FeSおよびNa
2SO
4の場合、脱銅処理後に
溶鉄M1中に硫黄成分が多量ピックアップされ、Na
2Sの場合には
溶鉄M1中に硫黄成分のピックアップがほとんど発生しないためNa
2Sを使用することがさらに好ましい。これは、フラックスP1に含有されているナトリウム(Na)成分が銅と硫黄の反応物を安定相にするためであると認められ、これは、後述する実験結果に基づいて再び説明する。
【0026】
フラックスP1のうちNa
2CO
3を含有する物質と、硫黄(S)を含有する物質との比率は、約20〜60wt%:40〜80wt%であることが好ましい。フラックスP1内にNa
2CO
3を含有する物質よりも硫黄(S)を含有する物質の比率がさらに高い理由は、脱銅効率をさらに高めることができるためであり、これらの比率が上述した範囲から逸脱する場合に目標とする脱銅効率が得られないため、上述した範囲内において適切に調節して用いることが好ましい。第1の容器210に投入された
溶鉄Mは、第1の容器210の底面に形成された噴射部214を介して第2の容器220内に液滴を形成しながら噴射される。
溶鉄Mは、様々な方法を用いて液滴状態で噴射することができる。
【0027】
第1の容器210に投入された
溶鉄Mは、第1の容器210の底面に形成された噴射部214を介して第2の容器220に噴射されるが、第1の容器210に形成された噴射部214が噴射部214aや多孔性部材214bにより形成されるため、
溶鉄Mの自重により噴射部214を介して第2の容器220に噴射可能である。このとき、第1の容器210の内部にアルゴンガスなどの不活性ガスを供給して第1の容器210に収容された
溶鉄Mに圧力を加えると、
溶鉄Mは第2の容器220に液滴を形成しながら速やかに噴射される。このように
溶鉄Mが液滴状態で第2の容器220に噴射されるとき、第2の容器220の内部に真空を形成すれば、圧力差により第2の容器220に噴射される
溶鉄Mを第2の容器220内に均一に拡散させることができる。第2の容器220に液滴状態で噴射される
溶鉄Mは、フラックスP1を通過しながら激しく反応し、このとき、
溶鉄M中の銅、およびフラックスP1と反応して副産物を生成し生成された副産物は、フラックスP1中に残留し、銅の除去された
溶鉄M1はフラックスP1との比重差によりフラックスP1の下部に落下する。
【0028】
第1の容器210内に投入されたほとんどの
溶鉄Mが第2の容器220に噴射されて第2の容器220内のフラックスP1との反応により脱銅処理が施されれば、第2の容器220内に収容された
溶鉄M1、すなわち、脱銅処理された
溶鉄M1をサンプリングして成分を分析する。分析の結果、
溶鉄M1が目標とする成分により製造された場合、第2の容器220内の
溶鉄M1を取鍋などの容器に出湯して後続する製鋼工程、例えば、脱リン処理工程を行う。一方、第2の容器220内の
溶鉄M1が目標とする成分により製造されていない場合、例えば、脱銅処理過程においてフラックスP1内の硫黄成分が
溶鉄M1中にピックアップされて硫黄の濃度が増加した場合には
溶鉄M1の脱硫処理を行ってもよい。
【0029】
脱硫処理は、第2の容器220に設けられた開閉手段222を作動させて第2の容器220に形成された流出口223を開放して第2の容器220内の
溶鉄M1を第3の容器230に排出する。
溶鉄M1は
溶鉄流を形成し、第3の容器230に排出されて第3の容器230内に投入されている脱硫フラックスP2に落下する。
溶鉄中の硫黄は、脱硫フラックスP2と反応して副産物を生成し、副産物は脱硫フラックスP2中に残留し、
溶鉄M2は脱硫フラックスP2の下部に落下する。このとき、脱硫フラックスP2としては、トロナを含む物質が使用可能である。次いで、脱硫処理が終わると、第3の容器230内の脱硫フラックスP2(副産物を含む)を除去し、
溶鉄M1を取鍋などの容器に出湯して後続する製鋼工程300を行う。ここで、脱硫処理過程において
溶鉄中の硫黄はトロナと反応してNa
2Sを含む副産物を生成するが、脱硫処理後に除去される脱硫フラックスP2(副産物を含む)は、今後の脱銅処理工程においてフラックスとして再活用可能である。
【0030】
図4は、
本実施形態による
溶鉄処理方法を用いて
溶鉄を実験するための実験装置を示す図であり、
図5および
図6は、
本実施形態により
溶鉄を処理した実験結果を示すグラフである。下記表1は、脱銅効率を調べるために脱銅処理時に用いられたフラックスの組成と脱銅処理時の
溶鉄の温度を示す。
【表1】
ここで、実施例1〜実施例7と比較例1〜比較例3においては、
図4に示した実験装置を用いて
溶鉄を液滴状態で噴射してフラックスを通過させて脱銅処理を施す実験をした。
【0031】
図4に示す実験装置400は、密閉されたチャンバー(ここでは、誘導加熱コイル付き高周波誘導溶解炉が用いられる)410の内部に下部坩堝420が設けられ、上部には
溶鉄Mが収容される上部坩堝430が設けられる。上部坩堝430には直径3mmの2つの噴射孔432が形成されて上部坩堝430内に収容される
溶鉄Mが液滴を形成しながら下部坩堝420に落下するようにした。このとき、上部坩堝430に収容された
溶鉄Mは60gであり、上部坩堝430に約30gの
溶鉄Mが残留するまで実験を行った。なお、下部坩堝420にはフラックスPの組成を変更しながら投入して実験を繰り返し行った。
【0032】
実験がほとんど終わる時点において上部坩堝430に残留する
溶鉄Mを採取し、下部坩堝420内のフラックスPおよび
溶鉄M1を採取してそれぞれの試片を製作した後、それぞれの試片を分析して下記表2および下記表3に示す結果を得た。ここで、表2は、フラックスにNa
2Sを含有させて
溶鉄を脱銅処理した結果を示し、表3は、フラックスにFeSを含有させて
溶鉄を脱銅処理した結果を示す。また、
図5および
図6は、表2および表3に示す脱銅効率を図式化したグラフである。
【表2】
【表3】
【0033】
まず、表2を基にすると、実施例1〜実施例7の全体に亘って脱銅処理後の銅の含量が減少していることが分かる。ところが、15gのNa
2Sを用いた実施例1においては脱銅効率が約1.7%と非常に低いのに対し、実施例1よりもNa
2Sの量を増やした残りの実施例における脱銅効率は約60%以上と非常に高いことが確認可能である。このため、Na
2Sの量を増やせば増やすほど脱銅効率が増加することが分かる。また、実施例2および実施例3〜実施例7の脱銅効率を調べると、トロナよりもNa
2Sの含量が高い場合に脱銅効率が増加することが分かる。これにより、トロナ(または、Na
2CO
3)とNa
2Sの比率を上述した範囲内において適切に混合して用いることにより目標とする脱銅効率が得られる。比較例1〜比較例3においては、フラックスとしてNa
2Sの代わりにFeSを用いて
溶鉄を脱銅処理した。表3および
図6を基にすると、比較例1〜比較例3においては、約2580%の高い脱銅効率を示している。ところが、このような脱銅効率は、上述した実施例(実施例1を除く)による脱銅効率内に収まれて比較的に高い脱銅効率を示しているが、脱銅処理後に溶湯中に約4〜50wt%の硫黄(S)が多量ピックアップされていることが分かる。特に、FeSの量が多いほど硫黄のピックアップ量が増加することも分かる。これに対し、実施例1〜実施例7においては、1wt%未満の硫黄が溶湯内に存在することが分かる。特に、FeSの量が多いほど硫黄のピックアップ量が増加することが分かる。これに対し、実施例1〜実施例7においては、反応後に
溶鉄内に硫黄がほとんどピックアップされていないことも確認可能である。このため、
溶鉄中の銅成分を除去するための脱銅フラックスとしてNa
2Sを用いる場合に脱銅効果はもちろん、硫黄のピックアップを抑える効果が高いということが分かる。
【0034】
また、
溶鉄を液滴状態で噴射することにより得られる脱銅効率を確認するために平衡反応実験を行った。平衡反応実験は、密閉されたチャンバー内に坩堝を設け、坩堝内に銅を含有する
溶鉄120gを入れてアルゴン雰囲気下で1550℃まで昇温させて
溶鉄を溶解させて
溶鉄を得た後に1400℃まで温度を下げた。このとき、坩堝内から
溶鉄を採取して初期試片を製作した。その後、Na
2CO
3−FeS系フラックス30g(比較例4)またはNa
2CO
3−Na
2S系フラックス30g(比較例5)を
溶鉄に投入して30分間維持した後に再び
溶鉄を採取して反応後試片を製造して成分を分析した(平衡反応)。
【0035】
図5を基にすると、試片の成分を分析した結果、比較例4および比較例5の脱銅効率は約90%と略同じ値を示すことが分かる。しかしながら、Na
2CO
3−FeS系フラックスを用いた比較例4の場合にNa
2CO
3−Na
2S系フラックスを用いた比較例5に比べて反応後
溶鉄中の硫黄成分が非常に高く、比較例5は硫黄のピックアップ現象がほとんど現れないことが分かる。また、この実験により得られた結果は、液滴状態で噴射した場合の実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例3において得られた脱銅効率および硫黄のピックアップ現象と略同様であるが、この実験においては、溶湯にフラックスを投入して約5分が経過した後に溶湯とフラックスとの間の反応が本格的に行われた。しかしながら、
溶鉄を液滴状態にして脱銅処理を施す場合(実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例3)、
溶鉄の液滴がフラックスと遭遇してから数秒、例えば、3秒以内に
溶鉄とフラックスとの間の反応が激しく起きた。
【0036】
このような実験結果によれば、本発明でのように
溶鉄を液滴状態にして脱銅処理を施せば、
溶鉄中の銅を速やかに除去することができ、Na
2SなどのS含有フラックスを適用すれば、フラックスに含有されている硫黄が溶湯中にピックアップされる現象を同時に抑えることができて、所望の成分の溶湯を製造することができるということが確認された。このように、本発明の詳細な説明においては具体的な実施形態について説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において種々に変形可能であるということは言うまでもない。よって、本発明の範囲は、上述した実施形態に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけではなく、この請求範囲との均等物によって定められるべきである。