特許第6022742号(P6022742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6022742
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】閾値演算システム、及び、閾値演算方法
(51)【国際特許分類】
   F16T 1/48 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
   F16T1/48 Z
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-536265(P2016-536265)
(86)(22)【出願日】2016年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2016054902
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-78440(P2015-78440)
(32)【優先日】2015年4月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良康
(72)【発明者】
【氏名】小田 和則
(72)【発明者】
【氏名】宮前 嘉夫
(72)【発明者】
【氏名】河原 弘宜
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−343794(JP,A)
【文献】 特開2000−20866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16T 1/48
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気トラップの1又は複数の物理量を検出する検出器と、
検出信号に基づく状態値が当該状態値に対する不良範囲に至ったか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常か不良かを判定する不良判定を行う判定部と、
前記状態値と前記不良判定の判定結果とを蓄積的に保存する記憶部と、
前記記憶部に保存された一定期間分の前記状態値のうち、少なくとも前記判定結果が正常であった前記状態値に基づいて、前記蒸気トラップの状態が正常であるときにとる値の範囲である正常範囲を所定の演算基準を用いて演算する閾値演算部と、を備え
前記判定部は、前記状態値が前記正常範囲内にあるか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常であるか不良に至る蓋然性が高い状態である不良化傾向にあるかを判定する予測判定を実行可能であり、
前記閾値演算部は、前記記憶部に保存された前記状態値についての前記予測判定の結果に基づいて前記予測判定の精度を判定する精度判定を行い、その精度判定の結果に基づいて前記演算基準を調節する閾値演算システム。
【請求項2】
前記閾値演算部は、前記精度判定を、各前記状態値についての前記予測判定の結果と、その前記予測判定を行った前記状態値の検出後の一定期間分の前記状態値についての前記不良判定の結果とを比較して前記予測判定の正誤を判定することにより行う請求項1記載の閾値演算システム。
【請求項3】
前記閾値演算部は、前記精度判定を、前記予測判定の正誤判定の全結果に対する、前記予測判定の結果が正常であって、その後の一定期間分の前記状態値についての前記不良判定の結果に不良と判定されたものがあるときの割合である第1指標、前記予測判定の結果が不良化傾向であって、その後の一定期間分の前記状態値についての前記不良判定の結果で不良と判定されたものがないときの割合である第2指標、又は、前記第1指標と前記第2指標とを組み合わせた第3指標に基づいて行う請求項2記載の閾値演算システム。
【請求項4】
指示入力部を備え、
前記閾値演算部は、前記指示入力部からの指示に基づいて、各前記蒸気トラップについて、前記精度判定を前記第1指標、前記第2指標、及び、前記第3指標のいずれに基づいて行うかを切り換える請求項3記載の閾値演算システム。
【請求項5】
蒸気トラップの1又は複数の物理量を検出し、
検出信号に基づく状態値が当該状態値に対する不良範囲に至ったか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常か不良かを判定する不良判定を行い、
前記状態値と前記不良判定の判定結果とを蓄積的に保存し、
存された一定期間分の前記状態値のうち、少なくとも前記判定結果が正常であった前記状態値に基づいて、前記蒸気トラップの状態が正常であるときにとる値の範囲である正常範囲を所定の演算基準を用いて演算し、
存された前記状態値について、前記状態値が前記正常範囲内にあるか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常であるか不良に至る蓋然性が高い状態である不良化傾向にあるかを判定する予測判定を行い、
前記予測判定の結果に基づいて前記予測判定の精度を判定する精度判定を行い、その精度判定の結果に基づいて前記演算基準を調節する閾値演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気トラップの状態を判定するための閾値を演算する閾値演算システム及び閾値演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒸気トラップの状態の判定では、その判定対象の物理量(例えば温度や超音波など)について、上限値若しくは下限値又はその両方が設定され、判定対象の物理量がその上限値を超えた場合、又は、下限値を下回った場合に不良と判定される(上限値を超える範囲、又は、下限値を下回る範囲を例えば不良範囲と称する)。ただし、蒸気トラップは、その状態が正常であっても、判定対象とする物理量は一定の値を示すのではなく時間変動する。そして、蒸気トラップが正常であるときにとり得る値の範囲(例えば、正常範囲と称する)はある程度決まっており、判定対象の物理量が正常範囲に収まっているときは問題ないが、判定対象の物理量が不良範囲まで至らなくとも正常範囲を超えた場合には、その蒸気トラップの状態がやがて不良に至る蓋然性は高いといえる。
【0003】
これに基づけば、正常範囲の上限及び/又は下限を閾値として設定し、判定対象の物理量が正常範囲内にあるかどうかを判定する(例えば予測判定と称する)ことにより、蒸気トラップが不良に至ることをいち早く察知できる可能性がある。ただし、この正常範囲は、蒸気トラップの用途(トラップが関連して設置されている装置や設備の種類や、プラントで用いられる蒸気の圧力や温度など)に応じて、蒸気トラップごとに異なる。このような正常範囲としての閾値を設定する方法として、例えば、特許文献1には、蒸気トラップについての初期運転期間に各蒸気トラップのデータを収集して、収集したデータに基づいて蒸気トラップごとに正常範囲の上限値及び下限値を閾値として設定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/153068号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の方法では、正常範囲を設定するためにデータを収集する初期運転期間において、蒸気トラップが不良に至ったり、そもそも蒸気トラップに欠陥が存在していたり、正常な動作ができない環境にある場合には、適切な正常範囲を設定することができない。また、正常範囲は収集されたデータから何らかの演算基準に基づいて演算することが考えられるが、正常範囲は蒸気トラップの用途に応じて、蒸気トラップごとに異なる。このため、各蒸気トラップについて一律の演算基準に基づいて正常範囲を演算すると、各蒸気トラップについての予測判定の精度にばらつきが生じ、予測判定の精度が不十分な蒸気トラップが生じる虞がある。そうすると、精度良い判定を行うためには、正常範囲を演算するための演算基準を蒸気トラップごとに適切に設定することが好ましいが、上記特許文献1の方法はそこまで考慮されたものではなかった。
【0006】
そこで、正常範囲を演算する演算基準を適切に設定し、各蒸気トラップについて予測判定を精度高く行うことができる閾値演算システム、及び、閾値演算方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る閾値演算システムの特徴構成は、
蒸気トラップの1又は複数の物理量を検出する検出器と、
検出信号に基づく状態値が当該状態値に対する不良範囲に至ったか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常か不良かを判定する不良判定を行う判定部と、
前記状態値と前記不良判定の判定結果とを蓄積的に保存する記憶部と、
前記記憶部に保存された一定期間分の前記状態値のうち、少なくとも前記判定結果が正常であった前記状態値に基づいて、前記蒸気トラップの状態が正常であるときにとる値の範囲である正常範囲を所定の演算基準を用いて演算する閾値演算部と、を備え
前記判定部は、前記状態値が前記正常範囲内にあるか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常であるか不良に至る蓋然性が高い状態である不良化傾向にあるかを判定する予測判定を実行可能であり、
前記閾値演算部は、前記記憶部に保存された前記状態値についての前記予測判定の結果に基づいて前記予測判定の精度を判定する精度判定を行い、その精度判定の結果に基づいて前記演算基準を調節する点にある。
【0008】
この構成によれば、判定対象とする状態値について正常範囲を設定するにあたり、状態値を蓄積保存して収集するだけでなく、その状態値に基づく蒸気トラップの状態の判定結果も蓄積保存しておき、蒸気トラップの状態が正常と判定された状態値のみを用いて所定の演算基準に基づいて正常範囲を演算する。これにより、適切に正常範囲を設定することができる。さらに、所定の演算基準に基づいて正常範囲を演算した後は、その精度を判定するために、正常範囲の演算に用いていない状態値も含めて(例えば、正常範囲を設定するために用いた状態値よりも過去の状態値)、演算した正常範囲に基づく予測判定を行い、閾値演算部は、その予測判定の結果に基づいて予測判定の精度を判定する精度判定を行う。そして、この精度判定に基づいて演算基準を調節するから、予測判定の精度が不十分である蒸気トラップについてその精度が十分となるように演算基準を調整できる。これにより、正常範囲を適切に設定できて、各蒸気トラップについて予測判定を精度高く行うことができる。
【0009】
ここで、状態値とは、検出器から検出された任意の物理量の値だけでなく、検出された複数の物理量を組み合わせた値(例えば、複数の物理量をそれぞれ重み付けして足し合わせた値など)をも含む概念である。また、判定対象とする状態値は1つに限らず、複数の状態値について判定を行うようにしてもよく、また、状態値の値と傾きとを合わせて判定するものであってもよい。
【0010】
本開示に係る閾値演算システムの更なる特徴構成は、前記閾値演算部は、前記精度判定を、各前記状態値についての前記予測判定の結果と、その前記予測判定を行った前記状態値の検出後の一定期間分の前記状態値についての前記不良判定の結果とを比較して前記予測判定の正誤を判定することにより行う点にある。
【0011】
予測判定が正しく行われるならば、予測判定の結果が正常であるときは、その蒸気トラップの状態はその後も正常で維持されるはずであり、予測判定の結果が不良化傾向であるときは、その蒸気トラップの状態はその後不良に至ることが考えられる。そこで、この構成によれば、精度判定として、各蒸気トラップについて、ある時点における状態値の予測判定の結果と、記憶部に保存された不良判定の結果のうち、予測判定を行った状態値を検出した後の一定期間分の不良判定の結果とを比較して、予測判定の正誤を判定する。即ち、予測判定の結果から予測されるその後の蒸気トラップの状態と、実際に検出された蒸気トラップの状態とが一致するかを判定することで、予測判定の精度を判定する精度判定を的確に行うことができる。これにより、正常範囲を一層適切に設定できて、各蒸気トラップについて予測判定を一層精度高く行うことができる。
【0012】
本開示に係る閾値演算システムの更なる特徴構成は、前記閾値演算部は、前記精度判定を、前記予測判定の正誤判定の全結果に対する、前記予測判定の結果が正常であって、その後の一定期間分の前記状態値についての前記不良判定の結果に不良と判定されたものがあるときの割合である第1指標、前記予測判定の結果が不良化傾向であって、その後の一定期間分の前記状態値についての前記不良判定の結果で不良と判定されたものがないときの割合である第2指標、又は、前記第1指標と前記第2指標とを組み合わせた第3指標に基づいて行う点にある。
【0013】
つまり、予測判定における誤判定としては、不良を予測できなかった場合(即ち、予測判定の結果が正常であるのにその後の前記不良判定の結果で不良と判定されたものがある場合、第1指標に関係)と、無駄に不良化傾向と判定して不要な対応を生じさせる場合(即ち、予測判定の結果が不良化傾向であるのにその後の不良判定の結果で不良と判定されたものがない場合、第2指標に関係)がある。また、不良を予測できなかった場合と不要な対応を生じさせる場合との和が誤判定全体の割合(第3指標に関係)となる。そうすると、精度判定の基準は、蒸気トラップの保守方針に応じて次のものが考えられる。即ち、(1)不良を予測できなかった場合を減らすことを目的に、上記第1指標を基準とすること、(2)不要な対応を生じさせる場合を減らすことを目的に、上記第2指標を基準とすること、又は(3)誤判定の数そのものを減らすことを目的に、上記第3指標を基準とすることが考えられる。
【0014】
そして、上記構成によれば、精度判定を第1指標、第2指標、又は第3指標のいずれかで行うことにより、正常範囲を演算するための演算基準を上記したいずれかの保守方針に合った演算基準に適切に調節することができるから、蒸気トラップの保守方針に沿った適切な正常範囲を設定することが可能となる。これにより、正常範囲を一層適切に設定できて、各蒸気トラップについて予測判定を一層精度高く行うことができる。
【0015】
ここで、第1指標と前記第2指標とを組み合わせるとは、両者を単に合算するのみならず、一方、又は両者を重み付けして足し合わせた値などをも含む概念である。
【0016】
本開示に係る閾値演算システムの更なる特徴構成は、指示入力部を備え、前記閾値演算部は、前記指示入力部からの指示に基づいて、各前記蒸気トラップについて、前記精度判定を前記第1指標、前記第2指標、及び、前記第3指標のいずれに基づいて行うかを切り換える点にある。
【0017】
つまり、この構成によれば、精度判定の基準とする第1指標、第2指標、及び第3指標を切り換え可能であるため、その蒸気トラップの重要性や用途など必要に応じて精度判定の基準を切り換えて、その蒸気トラップの保守方針に沿った正常範囲を柔軟に設定することが可能となる。これにより、正常範囲を一層適切に設定できて、各蒸気トラップについて予測判定を一層精度高く行うことができる。
【0018】
本開示に係る閾値演算方法の特徴構成は、
蒸気トラップの1又は複数の物理量を検出し、
検出信号に基づく状態値が当該状態値に対する不良範囲に至ったか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常か不良かを判定する不良判定を行い、
前記状態値と前記不良判定の判定結果とを蓄積的に保存し、
前記記憶部に保存された一定期間分の前記状態値のうち、少なくとも前記判定結果が正常であった前記状態値に基づいて、前記蒸気トラップの状態が正常であるときにとる値の範囲である正常範囲を所定の演算基準を用いて演算し、
前記記憶部に保存された前記状態値について、前記状態値が前記正常範囲内にあるか否かにより前記蒸気トラップの状態が正常であるか不良に至る蓋然性が高い状態である不良化傾向にあるかを判定する予測判定を行い、
前記予測判定の結果に基づいて前記予測判定の精度を判定する精度判定を行い、その精度判定の結果に基づいて前記演算基準を調節する点にある。
【0019】
つまり、上記構成によれば、本開示に係る閾値演算システムを好適に実施することができて、これにより、本開示に係る閾値演算システムで得られる前述の作用効果を効果的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る保守支援システムの概要説明図
図2】本実施形態に係る保守支援システムのブロック図
図3】保守情報の一例を示す図
図4】予測情報の一例を示す図
図5】蒸気トラップの状態の時間変動の一例を示す図
図6】正常範囲を決定する手順の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示に係る閾値演算システム及び閾値演算方法について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る閾値演算システムは、蒸気トラップの1又は複数の物理量を検出する検出器と、検出信号に基づく状態値が当該状態値に対する不良範囲に至ったか否かにより蒸気トラップの状態が正常か不良かを判定する不良判定を行う判定部と、状態値と不良判定の判定結果とを蓄積的に保存する記憶部と、記憶部に保存された一定期間分の状態値のうち、少なくとも判定結果が正常であった状態値に基づいて、蒸気トラップの状態が正常であるときにとる値の範囲である正常範囲を所定の演算基準を用いて演算する閾値演算部と、を備える。そして、本実施形態に係る閾値演算システムにおいて、判定部は、状態値が正常範囲内にあるか否かにより蒸気トラップの状態が正常であるか不良に至る蓋然性が高い状態である不良化傾向にあるかを判定する予測判定を実行可能であり、閾値演算部は、記憶部に保存された状態値について、予測判定の精度を判定する精度判定を行い、その精度判定の結果に基づいて演算基準を調節する。これにより、各蒸気トラップについて、精度良く判定を行うことが可能な正常範囲を確度高く設定できる。以下、本実施形態に係る閾値演算システムを組み込んだ保守支援システムを例に、本実施形態に係る閾値演算システム(閾値演算方法)について詳細に説明する。
【0022】
まず、図1を例に、保守支援システム(及び、保守支援方法)の概要を説明する。この保守支援システムは、プラントにおける複数の保守対象機器の保守に関するものであり、基本的には、定期的に行われる保守対象機器への保守作業のために、各保守対象機器の作動状況(どの機器の状態が不良であるかなどの状況)を示す保守情報Imを定期的に配信することにより、その保守作業を支援するものである。
【0023】
この保守支援システムでは、保守情報Imを設定時間Tごとに配信する構成となっている。そして、各保守対象機器にはその状態を検出する検出器が設けられており、その検出器により間欠的に保守対象機器の状態が検出される。なお、その状態検出は、設定時間Tの間で複数回行われるようになっている(例えば、図1では10回)。そして、その検出信号に基づいて保守対象機器の状態を判定した判定結果dn(例えば、図1ではd1〜d10)が検出信号ごとに生成される。つまり、設定時間Tごとに検出器の検出回数分の数(例えば、図1では10個ずつ)の判定結果が生成される。
【0024】
そして、保守支援システムでは、設定時間Tが経過し、保守情報Imの配信時刻Tmに達すると、設定時間Tの間における判定結果(例えば、図1では10個分の判定結果)の統計に基づいて各保守対象機器の作動状況を示す保守情報Imを生成して、それを保守担当者に配信する。保守担当者はこの保守情報に基づいて保守作業の内容を確定する。
【0025】
さらに、この保守支援システムでは、直前の保守情報の配信から次回の保守情報の配信までの間の指定時刻Tfに、次回の保守情報の配信における各保守対象機器の作動状況を予測した予測情報Ifを保守担当者に配信するようにしてある。
【0026】
具体的には、指定時刻Tfに達すると、直前の保守情報の配信からこの指定時刻Tfまでの間における判定結果(例えば、図1では6個分の判定結果)の統計に基づいて各保守対象機器の状態を示す予測情報Ifを生成して、それを保守担当者に配信する。保守担当者はこの予測情報Ifに基づいて次回の保守作業の準備を行うことができる。
【0027】
このように、この保守支援システムでは、保守作業の内容は、直前の判定結果まで加味した保守情報Imにより確定させて、これにより的確な保守作業を行い、また、人員の手配や交換用部材の用意などである程度時間を要する保守作業の準備については、保守情報Imより前に配信される予測情報Ifに基づいて、人員や交換用部材などの無駄を少なくしながら効率的に前もって行うことができる。
【0028】
以下、保守支援システムの一例として、蒸気プラントを対象に、その蒸気プラントの各部に設置された多数の蒸気トラップを保守対象機器として、一日ごとに、不備のある蒸気トラップについての保守作業を行う例について説明する。
【0029】
保守支援システムは、図2に示すように、保守対象とする各蒸気トラップ1に設置されて蒸気トラップ1の状態(温度及び超音波)を検出する検出器2と、検出器2からの検出信号に基づいて、設定時間(本実施例では一日)ごとに、各保守対象機器の作動状況を示す保守情報を保守担当者に配信するデータ管理装置3とから構成される。
【0030】
検出器2は、設定時間(一日)の間で、間欠的に複数回、蒸気トラップ1の状態を検出するように構成されている。例えば、本実施形態では、検出器2は、蒸気トラップ1の状態を1時間に1回検出するように設定されている。そして、各回の検出後、検出器2は、検出信号を図示しない通信手段によりデータ管理装置3に送信する。このようにして、蒸気トラップ1の状態の検出を間欠的に行うことにより、検出器2では消費電力を抑えコストを低減してある。なお、各検出器2は、検出信号とともに、その検出器2を設置した蒸気トラップ1の識別情報もデータ管理装置3に送信する構成となっている。なお、検出器2が検出するのは蒸気トラップの温度及び超音波を検出するものに限らず、蒸気トラップ1の1又は複数の物理量を検出するものであればよい。
【0031】
データ管理装置3は、各検出器2からの検出信号が入力される入力部4と、入力された検出信号に基づいて蒸気トラップ1の状態を判定した判定結果を生成する判定部5と、判定部5の判定結果を蓄積的に保存する記憶部6と、設定時間ごとに記憶部6に蓄積的に保存された判定結果に基づいて保守情報を生成し、保守担当者に保守情報を配信する保守情報配信部7と、後述する正常範囲を所定の演算基準を用いて演算する閾値演算部8と、を備える。
【0032】
判定部5は、入力された検出信号に基づいて蒸気トラップ1の状態を判定する。より具体的には、検出信号に基づく状態値(本実施形態では蒸気トラップ1の温度及び超音波)から、その蒸気トラップ1の状態が、正常であるか、不良であるか、不良化傾向(即ち、不良ではないものの不良に至る蓋然性が高い状態)のいずれであるかを判定する。また、不良と診断された場合には、さらに、例えば蒸気トラップと関連する蒸気機器が運転しているかなど、蒸気トラップ1の状態が不良なのか、その蒸気トラップ1が不良ではなく休止状態等(休止状態等その他不良以外の原因によるもの)にあるかどうかも診断する。そして、判定部5による判定は、入力された検出信号ごとに各蒸気トラップ1の状態の判定結果を生成する。
【0033】
ここで、状態値とは、検出器2から検出された任意の物理量(例えば温度、超音波、圧力など)の値だけでなく、検出された複数の物理量を組み合わせた値(例えば、複数の物理量をそれぞれ重み付けして足し合わせた値など)をも含む概念である。また、判定対象とする状態値は1つに限らず、複数の状態値について判定を行うようにしてもよく、また、状態値の値と傾きとを合わせて判定するものであってもよい。
【0034】
判定部5の各判定結果は、対応する蒸気トラップ1の識別情報と関連付けた状態で記憶部6に保存される。そして、蒸気トラップ1についての検出信号が検出器2から新たに入力されるたびに、その検出信号に基づく判定結果が蓄積的に記憶部6に保存される。その結果、記憶部6には保守対象の全蒸気トラップ1についての判定結果が、時系列的に蓄積保存された状態となる。
【0035】
保守情報配信部7は、上記したように、設定時間ごとに、各蒸気トラップ1の作動状況を示す保守情報を保守担当者に配信する。その保守情報は、設定時間の間に検出された検出信号に基づく判定結果から生成され、より詳しくは、設定時間の間における判定結果の統計に基づいて生成される。そして、このように生成された保守情報が保守担当者のもとに配信される。
【0036】
保守情報の生成について具体的に説明する。まず、本実施形態では、設定時間を一日(24時間)として、毎日AM8:00に保守情報を生成して保守担当者に配信するように設定されている。この場合、保守情報配信部7は、毎日AM8:00に達すると、保守情報を生成する。
【0037】
保守情報の生成は、記憶部6に蓄積的に保存された判定結果に基づいて行うが、詳しくは、まず、各蒸気トラップ1について、直前の保守情報配信時から現時点までの間(即ち24時間の間)に検出器2において検出された検出信号についての24点の判定結果を抽出する。そして、この24点の判定結果のうち、正常、不良、不良化傾向、又は休止状態等の4つの状態の中で最も多かった状態を、その蒸気トラップ1の状態と決定する。これを各蒸気トラップ1について行い、保守対象の全蒸気トラップ1の状態を決定する。
【0038】
そして、全蒸気トラップ1の状態に基づき、図3に示すような、保守対象数、不良数、休止数の内訳を示すまとめ欄と、不良箇所の詳細や不良化傾向箇所の詳細等を示す詳細欄とを内容とする保守情報を作成する。まとめ欄には、そのカッコ内に直前の保守情報における値を示し、前日との比較を可能としてある。また、判定結果は検出器2の検出信号に基づくものであり、目視で確認されたものではないため、それが目視で確認したかどうかも示すようになっている。そして、詳細欄には、不良箇所及び不良化傾向箇所のそれぞれの蒸気トラップ1の型式及び位置情報、並びに、行うべき保守作業の内容としてトラップ交換準備が必要な箇所が示される。なお、詳細欄には、トラップ交換準備が必要な箇所だけでなく、蒸気トラップ1のクリーニング、検出器2の交換、検出器2のバッテリーの交換、検出器2とデータ管理装置3との通信の復旧など、種々の保守作業の内容を示してもよい。このように、保守情報は、保守対象の蒸気トラップ1における不良(及び不良化傾向や休止)の数、不良(及び不良化傾向)である蒸気トラップ1の型式や位置情報、保守対象の蒸気トラップ1に対して行うべき保守作業の内容を含むものとしてある。
【0039】
作成された保守情報は、メールにより保守担当者のパソコンなどの端末に配信される。そして、この保守情報に基づき、保守担当者は不良と判定された蒸気トラップ1については交換し、不良化傾向と判定された蒸気トラップ1については、修理可能なものについては修理を行う。
【0040】
そして、この保守支援システムでは、保守情報配信部7は、保守情報の配信に加えて、次の前記保守情報の配信における前記各保守対象機器の作動状況を予測した予測情報を前記保守担当者に配信する構成にしてある。そして、この予測情報の配信は、直前の保守情報の配信から次の保守情報の配信までの間の指定時刻に行う。また、この予測情報は、直前の保守情報の配信から指定時刻までの間に検出された検出信号に基づく判定結果から生成され、より詳しくは、直前の保守情報の配信から指定時刻までの間における判定結果の統計に基づいて生成される。
【0041】
予測情報の配信について具体的に説明する。まず、本実施形態では、毎日AM8:00に保守情報を生成して保守担当者に配信するように設定されているが、予測情報の配信を行う指定時刻としてはPM16:00が設定されている。この場合、保守情報配信部7は、毎日PM16:00に達すると、予測情報を生成する。
【0042】
予測情報の生成も、保守情報の生成と基本的には同様にして行われる。即ち、記憶部6に蓄積的に保存された判定結果に基づいて行われ、詳しくは、各蒸気トラップ1について、直前の保守情報配信時から現時点(PM16:00)までの間(即ち8時間の間)に検出器2において検出された検出信号についての8点の判定結果を抽出する。そして、この判定結果のうち、正常、不良、不良化傾向、又は休止状態等の4つの状態の中で最も多かった状態を、その蒸気トラップ1の状態と予測する。これを各蒸気トラップ1について行い、保守対象の全蒸気トラップ1の状態を予測する。
【0043】
そして、全蒸気トラップ1の状態に基づき、図4に示すような、保守対象数、不良数、休止数の内訳を示すまとめ欄と、不良箇所の詳細を示す詳細欄とを内容とする予測情報Ifを作成する(なお、詳細欄には不良化傾向箇所の詳細も示すようにしてもよい)。まとめ欄には、そのカッコ内に直前の保守情報における値を示し、前日との比較を可能としてある。また、判定結果は検出器2の検出信号に基づくものであり、目視で確認されたものではないため、それが目視で確認したかどうかも示すようになっている。そして、詳細欄には、不良箇所の蒸気トラップ1の型式、位置情報が示される。なお、予測情報についても、保守情報と同様に、保守対象の蒸気トラップ1に対して行うべき保守作業の内容を含むものとしてもよい。
【0044】
作成された予測情報は、メールにより保守担当者のパソコンなどの端末に配信される。そして、この予測情報に基づき、保守担当者は次の保守作業において必要となる作業工数や人員、交換用のトラップの数や種類、工具などを見積もり、その準備を行う。
【0045】
このようにすることにより、保守作業のための保守情報の配信を行いながらも、これに先立って、保守対象機器の作動状況を予測した予測情報を保守担当者に配信するから、次回の保守作業において必要となる作業工数や人員、交換用のトラップの数や種類、工具などを前もって見積もることができる。これにより不必要な人員や交換用トラップを用意することなく、人員やトラップなどの無駄の少ない効率的な準備を行うことができる。したがって、保守情報の配信により的確な保守作業は確保しつつも、予測情報の配信により保守作業の準備も効率的に行うことができる。
【0046】
次に、上述した判定部5における判定について、より詳しく説明する。上述したように、判定部5は、蒸気トラップ1の温度及び超音波から、その状態が、正常、不良、不良化傾向のいずれであるか(ここでは省略するがさらに休止状態等にあるかどうか)を判定するものである。より詳しくは、温度及び超音波についてそれぞれ閾値を定めておき、その閾値に基づいて正常、不良化傾向、不良のいずれにあるかを判定する。以下に、本実施形態に係る閾値設定システムとその閾値設定方法について説明する。
【0047】
〈閾値の設定方法〉
一般に、蒸気トラップ1の状態の判定では、蒸気トラップ1の用途(上記トラップ1が関連して設置されている装置や設備の種類や、プラントで用いられる蒸気の圧力や温度など)にかかわらず、その判定対象の状態値(例えば温度や超音波等の物理量など蒸気トラップ1の状態を表す値)について、上限値若しくは下限値又はその両方が設定され、判定対象の状態値がその上限値を超えた場合、又は、下限値を下回った場合に不良と判定される。ここで、この上限値及び下限値をそれぞれ許容上限値tu、許容下限値tlと称し、許容上限値tuを超える範囲及び許容下限値tlを下回る範囲を不良範囲と称する。
【0048】
ただし、蒸気トラップ1は、その状態が正常であっても、判定対象とする状態値は一定の値を示すのではなく時間変動する。そして、蒸気トラップ1が正常であるときにとり得る値の範囲を正常範囲と称すると、その上限値及び下限値(正常上限値nu及び正常下限値nlと称する)は、許容上限値tu及び許容下限値tlとは別個のものであり、許容上限値tuと許容下限値tlとの内側にある。そして、判定対象の状態値が正常範囲に収まっているときは問題ないが、判定対象の状態値が不良範囲まで至らなくとも正常範囲を超えた場合には、その蒸気トラップ1の状態がやがて不良に至る蓋然性は高いといえる。
【0049】
つまり、正常範囲と不良範囲との間(例えば図5における許容上限値tuと正常上限値nuとの間、及び、正常下限値nlと許容下限値tlとの間)を注意範囲とすれば、判定対象の状態値には、蒸気トラップ1が正常である場合の正常範囲、蒸気トラップ1が不良と判定される不良範囲のほかに注意範囲が存在し、この判定対象の状態値が注意範囲に存在するときは、やがて状態値が不良範囲に達する蓋然性が高い、即ち、蒸気トラップ1が不良に至る蓋然性が高い状態にあるといえる。
【0050】
このような考えに基づき、判定部5では、温度・超音波の値についてそれぞれ許容上限値tu及び許容下限値tlと正常上限値nu及び正常下限値nlを設定し、蒸気トラップ1の状態を、温度・超音波の値が正常範囲にある場合に正常と判定し、注意範囲にある場合に不良化傾向と判定し、不良範囲にある場合に不良と判定するようにしている。
【0051】
ただし、上記したように許容上限値tu及び許容下限値tlについては蒸気トラップ1の用途に関わらず一律な値であるのに対し、正常上限値nu及び正常下限値nlについては蒸気トラップ1の用途に応じて異なる問題がある。このため、正常上限値nu及び正常下限値nl、即ち、正常範囲については対象の蒸気トラップ1ごとに設定する必要がある。
【0052】
そこで、本実施形態では、正常範囲を設定するための閾値演算システムとして、この保守支援システムは次のような構成を備えたものとなっている。即ち、判定部5は、検出器2による検出信号に基づき、蒸気トラップ1の状態が正常か不良かを判定する不良判定を行う。ここで、不良判定は、検出器2による検出信号に基づく状態値が当該状態値に対する不良範囲に至ったか否か(許容上限値tuを超えたか又は許容下限値tlを下回ったか)により行われる。記憶部6は、この判定対象の状態値と不良判定の判定結果とを記憶部6が蓄積的に保存する。そして、閾値演算部8は、記憶部6に保存された一定期間分の状態値のうち、少なくとも判定結果が正常であった状態値に基づいて、正常範囲(即ち、正常上限値nu及び正常下限値nl)を所定の演算基準を用いて演算する。
【0053】
つまり、この保守支援システムでは、まず、正常範囲を求めるため、判定部5に検出器2による検出信号に基づき不良判定を行わせて、記憶部6が、この判定対象の状態値と不良判定の判定結果とを蓄積的に保存する。これにより、記憶部6に、過去からの各蒸気トラップ1についての判定対象の状態値とその状態値についての不良判定の判定結果が蓄積的に保存された状態となる。そして、閾値演算部8は、その蓄積保存された一定期間分の検出値のうち、不良判定の判定結果が正常であるものに基づいて、所定の演算基準を用いて正常範囲として正常上限値nu及び/又は正常下限値nlを演算する。例えば、正常範囲の演算は、一定期間分の状態値の平均値μと標準偏差σを用いて求めることとし、その演算基準として正の実数である係数rを設定し、μ±r・σを正常範囲の正常上限値nu及び/又は正常下限値nlとして演算する。
【0054】
そして、この保守支援システムでは、閾値演算部8で求めた正常範囲について、これを用いた判定(予測判定)の精度を判定し、その精度が不十分であったときには上記演算基準を調節して、適切な正常範囲を再設定する構成としてある。
【0055】
具体的には、この保守支援システムでは、判定部5を、状態値が正常範囲内にあるか否かにより蒸気トラップ1の状態が正常であるか不良化傾向にあるかを判定する予測判定を実行可能とし、判定部5は、正常範囲の演算に用いていない検出値も含めて、記憶部6に保存された状態値について予測判定を行う。そして、閾値演算部8が、その予測判定の結果に基づいて予測判定の精度を判定する精度判定を行い、その精度判定の結果に基づいて上記演算基準を調節する。
【0056】
具体的には、精度判定は、各状態値についての予測判定の結果と、その予測判定を行った状態値の検出後の一定期間分の状態値についての不良判定の結果とを比較して予測判定の正誤を判定することにより行う。予測判定の正誤は、以下の表1のように判定する。
【0057】
【表1】
【0058】
つまり、表1に示すように、予測判定結果が正常であるときに、その後の一定期間分の不良判定結果が正常で維持されているとき(ケースA)、予測判定は正しいとし、その後の一定期間分の不良判定結果が不良に転じたとき(ケースB)には、予測判定は誤りとする。また、予測判定結果が不良化傾向であるときに、その後の一定期間分の不良判定結果が正常で維持されているとき(ケースC)、予測判定は誤りとし、その後の一定期間分の不良判定結果が不良に転じたとき(ケースD)には、予測判定は正しいとする。
【0059】
そして、閾値演算部8は、記憶部6に保存された状態値についての上記予測判定の正誤判定の全結果を集計し、この集計結果に対する予測判定が誤りであった場合の割合を求めて、その割合が予め定めた値を上回るか下回るかを判定することにより精度が十分か否かを判定する。閾値演算部8は、精度が十分と判定した場合(予め定めた値を下回っていた場合)には、演算した正常上限値nu及び/又は正常下限値nlを判定部における予測判定の閾値として確定する。これに対し、閾値演算部8は、精度が不十分と判定した場合(予め定めた値を上回っていた場合)には、係数rを調節して新たな正常範囲(正常上限値nu及び正常下限値nl)を演算し、新たな正常範囲により再度精度判定を行い、精度が十分と判定されるまで、係数rを調節する。
【0060】
ここで、上記したように、予測判定における誤判定としては、不良を予測できなかった場合(ケースB)と、無駄に不良化傾向と判定して不要な対応を生じさせる場合(ケースC)がある。ここで、ケースBとケースCの両者が同時に最少となるように係数rを調整させるのが望ましいが、ケースBが少なくなるように係数rを調節すると、不良を予測できない場合が少なくなるものの、正常である蒸気トラップを不良化傾向と判定する蓋然性が高まり、ケースCは大きくなる。反対に、ケースCが少なくなるように係数rを調節すると、正常である蒸気トラップを不良化傾向と判定する場合が少なくなるものの、不良を予測できない蓋然性が高まり、ケースBは大きくなる。このように、ケースBとケースCの両者を同時に最少とすることはできず、ケースBとケースCとのいずれを重視するかなどの観点から係数rを調節することとなる。
【0061】
そこで、閾値演算部8は、精度判定を、予測判定の正誤判定の全結果に対する、予測判定の結果が正常であって、その後の一定期間分の状態値についての不良判定の結果に不良と判定されたものがあるとき(ケースB)の割合である第1指標α、予測判定の結果が不良化傾向であって、その後の一定期間分の状態値についての不良判定の結果で不良と判定されたものがないとき(ケースC)の割合である第2指標β、又は、第1指標αと第2指標βとを組み合わせた第3指標γ(例えばα+βとする)に基づいて行う構成としてある。
【0062】
第1指標αは、不良を予測できなかった場合の割合であり、第2指標βは、正常である蒸気トラップを不良化傾向と判定し、不要な対応を生じさせる場合の割合である。また、第3指標γは、誤判定全体の割合となる。つまり、精度判定は、(1)不良を予測できなかった場合を減らすことを目的に行うか(第1指標αに基づいて行う)、(2)不要な対応を生じさせる場合を減らすことを目的に行うか(第2指標βに基づいて行う)、又は(3)誤判定の数そのものを減らすことを目的に行うか(第3指標γに基づいて行う)、のいずれかにより行われる。
【0063】
さらに、この保守支援システムでは、各蒸気トラップ1について、入力部(指示入力部に相当)3に対し上記(1)〜(3)のいずれの目的に基づいて精度判定を行うかを入力指示することにより、閾値演算部8は、入力部3からの指示に基づいて、各蒸気トラップ1について、精度判定を第1指標α、第2指標β、及び、第3指標γのいずれに基づいて行うかを切り換え可能にしてある。
【0064】
そして、精度判定を上記(1)の目的(不良を予測できなかった場合を減らすこと)に基づいて行う場合は、閾値演算部8は、精度判定において、第1指標αのみに着目し、第1指標αがある値以下になるときに精度が十分と判定するようにして、精度が十分と判定されるまで、係数rを調節する。精度判定を上記(2)の目的(不要な対応を生じさせる場合を減らすこと)に基づいて行う場合は、閾値演算部8は、精度判定において、第2指標βのみに着目し、第2指標βがある値以下になるときに精度が十分と判定するようにして、精度が十分と判定されるまで、係数rを調節する。精度判定を上記(3)の目的(誤判定の数そのものを減らすこと)に基づいて行う場合は、閾値演算部8は、精度判定において、第3指標γのみに着目し、第3指標γがある値以下になるときに精度が十分と判定するようにして、精度が十分と判定されるまで、係数rを調節する。
【0065】
なお、第3指標γは、単に第1指標αと第2指標βとを足し合わせるだけでなく、第1指標αと第2指標βとのいずれか一方を重み付けした上で両者の和を求め、その和に基づいて精度を判定することも可能である。この場合、誤判定全体の数を考慮しながら、不良を予測できなかった場合を減らすか、不要な対応を生じさせる場合を減らすかの観点を加味して柔軟な精度判定を行うことが可能となる。
【0066】
正常範囲の設定は、具体的には、例えば図6に示すようにして行う。ここで、記憶部6には、各蒸気トラップ1についての過去のデータ、即ち、過去のプラントの運転に伴い検出器2から検出された各蒸気トラップ1の状態値とその不良判定の結果が蓄積保存されているものとする。
【0067】
まず、各蒸気トラップ1について、一定期間、検出器2からの検出信号を収集し、判定対象とする状態値とその不良判定の結果を記憶部6に蓄積的に保存する(ステップS1)。一定期間が経過すると、蓄積保存した状態値のうちその判定結果が正常であるものに基づいて、閾値演算部8が正常範囲を設定する(ステップS2)。
【0068】
そして、設定された正常範囲に基づいて、判定部5が、過去のプラントの運転に検出器2から検出された各蒸気トラップ1の各状態値について予測判定を行い、閾値演算部8が、その予測判定の判定結果とその予測判定を行った状態値の検出後の一定期間分の状態値についての不良判定の結果とを比較して予測判定の正誤を判定する(ステップS3)。閾値演算部8は、この予測判定の正誤の判定結果を集計し、各蒸気トラップ1について設定されている上記(1)〜(3)のいずれかの目的(即ち、第1〜第3指標α〜γのいずれか)に基づいて精度判定を行う(ステップS4)。
【0069】
この精度判定で精度が不十分と判定された場合は(ステップS5:No)、正常範囲を設定するための演算基準(係数r)を調節し(ステップS6)、ステップS2に戻り正常範囲を再設定して、ステップS3,S4を繰り返す。この精度判定で精度が十分と判定された場合は(ステップS5:Yes)、設定された正常範囲(正常上限値nu及び正常下限値nl)を予測判定における閾値に決定する(ステップS7)。
【0070】
このように、一度正常範囲を設定(演算)した後、この正常範囲に基づく予測判定の精度を判定する精度判定を行い、精度判定に基づいて演算基準を調節するから、予測判定の精度が不十分である蒸気トラップ1についてその精度が十分となるように演算基準(係数r)を調整できる。また、精度判定の基準とする第1指標、第2指標、及び第3指標を切り換え可能であるため、その蒸気トラップの重要性や用途など必要に応じて精度判定の基準を切り換えて、その蒸気トラップの保守方針に沿った正常範囲を柔軟に設定することが可能となる。これにより、正常範囲を適切に設定できて、各蒸気トラップ1について予測判定を精度高く行うことができる。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る保守支援システムでは、上記したように正常上限値nu及び正常下限値nlを演算し、閾値として決定して、正常上限値nu及び正常下限値nlと許容上限値tu及び許容下限値tlとを閾値として判定部5が蒸気トラップ1の状態が正常、不良化傾向、不良のいずれにあるかを判定する(つまり、不良判定と予測判定とを行う)。そして、この判定部5による判定結果に基づいて、上記した保守情報Im及び予測情報Ifを生成してその配信を行い、蒸気トラップ1へのその保守作業を支援する。
【0072】
〔別実施形態〕
最後に、本実施形態に係る閾値演算システム及び閾値演算方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0073】
(i)上述の実施形態では、演算した正常範囲に基づく予測判定の結果と、その後の不良判定の結果とを比較して予測判定の正誤を判定することにより精度判定を行うとともに、このような精度判定を、第1指標αと第2指標βと第3指標γとのいずれかに基づいて行う構成を例に説明した。しかし、本開示の実施形態はこれに限定されず、予測判定の精度を判定できるものであればどのような手法を用いてもよい。
【0074】
(ii)上述の実施形態では、閾値演算部8に正常上限値nu及び正常下限値nlの両方を演算させて両方を判定部5における閾値として決定し、判定部5が、正常上限値nu及び正常下限値nlと許容上限値tu及び許容下限値tlとを閾値として判定を行う構成を例に説明した。しかし、本開示の実施形態はこれに限定されない。閾値演算部8に正常上限値nu又は正常下限値nlのいずれかのみを演算させて一方のみを判定部5における閾値として決定し、許容下限値tl及び正常下限値nlのみ、又は、許容上限値tu及び正常上限値nlのみを閾値として採用してもよい。
【0075】
(iii)上述の実施形態では、一定期間、各蒸気トラップ1について判定対象とする状態値とその不良判定の結果を記憶部6に蓄積的に保存して、この一定期間分の状態値から閾値演算部8が正常範囲を設定し、記憶部6に保存した過去のデータを用いて予測判定を行いその正誤を集計し、その集計結果から予測判定の精度を判定する構成を例に説明したが、本開示の実施形態はこれに限定されない。例えば、記憶部6に既に保存されている過去のデータから閾値演算部8が正常範囲を設定してもよい。また、記憶部6が各蒸気トラップ1についての過去のデータを記憶してなくてもよく、新たに各蒸気トラップ1について収集する状態値を用いて予測判定を行いその正誤を集計し、その集計結果から予測判定の精度を判定するものであってもよい。
【0076】
(iv)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示の閾値演算システム及び閾値演算方法は蒸気トラップの状態を判定する閾値を演算するのに適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 蒸気トラップ
2 検出器
4 入力部(指示入力部)
5 判定部
6 記憶部
8 閾値演算部
【要約】
記憶部に保存された一定期間分の状態値のうち、少なくとも判定結果が正常であった状態値に基づいて、蒸気トラップの状態が正常であるときにとる値の範囲である正常範囲を所定の演算基準を用いて演算する閾値演算部を備え、判定部は、状態値が正常範囲内にあるか否かにより蒸気トラップの状態が正常であるか不良に至る蓋然性が高い状態である不良化傾向にあるかを判定する予測判定を実行可能であり、閾値演算部は、記憶部に保存された状態値についての予測判定の結果に基づいて予測判定の精度を判定する精度判定を行い、その精度判定の結果に基づいて演算基準を調節する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6