(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硬質脆性材料の板材上で,該板材より切り出す複数の基板をブラストによる切削に必要な間隔を介して割り付けを行うと共に,各基板の割り付け位置における前記板材の表裏面にそれぞれ耐ブラスト性を有する第一保護膜を形成し,
前記基板の外縁に対しブラストによる切削に必要な間隔を介して耐ブラスト性の第二保護膜を形成し,該第二保護膜によって,前記板材の周縁部における露出幅が5mm以下となるように,前記板材の余白を被覆し,
前記第一保護膜間,及び前記第一保護膜と第二保護膜間に形成された,前記第一保護膜及び第二保護膜の非形成部分を切削領域とし,
前記板材の表面を吸着して前記板材を浮かせた状態で前記板材の裏面よりブラスト加工を行って,前記切削領域を,前記板材の厚みの略半分の深さ迄切削した後,
前記板材の裏面における前記各第一保護膜が形成された部分を,それぞれ前記基板に対応した平面形状を有する基板吸着ベース上に載置吸着させると共に,前記第二保護膜を形成した前記余白を,余白ベース上に載置して,前記板材の表面よりブラスト加工を行って前記切削領域を前記裏面からの切削位置と連通する迄切削することを特徴とする硬質脆性基板の切り出し方法。
前記ブラストにより噴射される,炭化ケイ素,アルミナ,ジルコン,ジルコニア,ダイヤモンド,酸化セリウム,ステンレス,鋳鋼,合金鋼,ハイス,炭化タングステン又はFeCrBの中から選択された研磨材の硬度がHv700〜Hv9000,真比重が3.0〜15.3,メディアン径が20μm〜100μmであって,略球形の該研磨材を噴射速度100m/s〜250m/s,又は噴射圧力0.2MPa〜0.5MPaで噴射することを特徴とする請求項1又は2記載の硬質脆性基板の切り出し方法。
硬質脆性材料の板材上で,該板材より切り出す複数の基板をブラストによる切削に必要な間隔を介して割り付けを行うと共に,各基板の割り付け位置における前記板材の表裏面にそれぞれ耐ブラスト性を有する第一保護膜を形成し,更に,前記基板の外縁に対しブラストによる切削に必要な間隔を介して耐ブラスト性の第二保護膜を形成し,該第二保護膜によって前記板材の周縁部における露出幅が5mm以下となるように,前記板材の余白を被覆した前記板材を加工対象とし,
前記板材の表面を吸着する吸着板を備え,該吸着板に吸着した前記板材を空中に浮かせた状態に保持する板材吊下治具と,
前記板材吊下治具によって吊り下げられた前記板材の裏面に対し,研磨材を噴射する裏面加工用の噴射ノズルと,
前記板材の裏面の前記第一保護膜に覆われた部分をそれぞれ吸着すると共に載置する,切り出す基板に対応した平面形状を有する複数の基板吸着ベースと,前記複数の基板吸着ベースの群の外周位置に配置されて,前記板材の前記第二保護膜で覆われた部分を載置する余白ベースを備え,裏面よりブラスト加工がされた後の前記板材を載置する板材載置治具と,
前記板材載置治具に載置された板材の表面に対し研磨材を噴射する表面加工用の噴射ノズルを備えたことを特徴とする硬質脆性基板の切り出し装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したレーザースクライブによって基板の切り出しを行うためには,高価なレーザースクライビング装置を導入する必要があり,多大な初期投資が必要となるものの,この方法による切り出しでは,切り出し後の基板端面にマイクロクラックが発生せず,かつ,端面が鏡面となることから,切り出し後の基板端面に対する機械的な研磨作業が不要になるというメリットがあると一般に言われている。
【0010】
しかし,切り出された基板の端面が鏡面であったとしても,脆性を有するガラス基板において周縁に形成されたエッジや角部といった,先鋭な形状を有する部分は極めて容易に破損する。
【0011】
そのため,搬送時や加工時における基板同士の接触や加工器具等との接触により,エッジや角部には「ハマ欠け」ないしは「ピリ欠け」と呼ばれる貝殻形状の欠けに代表される欠け(以下,このような欠けの発生を総称して「チッピング」という。)が生じ易く,このようなチッピングが発生すると,基板は僅かに曲げ方向の力を加えただけでチッピングの発生位置を起点として破断してしまう。
【0012】
また,先鋭なエッジや角部が残っている基板は危険であり,組み付け作業時等において取り扱いに注意が必要であると共に,例えば得られた基板を液晶画面等のカバーガラスとして使用する場合のように,最終製品に組み付けた状態でエッジや角部がユーザーの手や指に触れ得る状態で取り付けられるものであれば怪我の危険性もある。
【0013】
そのため,レーザースクライブによって切り出した基板であっても,切り出し後の基板の周縁部に機械研磨を施す等してエッジや角部を除去する,所謂「糸面取り」や「面取り」等の作業が必要となる場合が殆どであり,レーザースクライブに関し一般に言われているメリットのうち,端面の研磨が不要であるというメリットが享受できる場面はむしろ限定的である。
【0014】
これに対し,ガラス等の脆性材料基板の切り出しをブラスト加工によって行う場合には,比較的構造が簡単なブラスト加工装置を使用して切り出しを行うことができるために,レーザースクライビング装置のような高価な機器の導入は不要となり,初期投資を低く抑えることができるものと期待される。
【0015】
しかし,ガラス加工に対する適用例として,前述したようにブラスト加工をプラズマディスプレイパネル用のガラス基板に隔壁(リブ)を形成する際に使用した従来技術は存在するが(特許文献2参照),ガラス基板の「切り出し」にブラスト加工を適用することは,一般に行われていない。
【0016】
このように,ブラスト加工がガラス基板の切り出しに用いられない理由は,ブラストによるエッチングを,スクライブに転用できないことが原因であると考えられる。
【0017】
すなわち,ブラスト加工によって切り出す基板の形状に従ってマザーガラスの表面に溝を形成し,この溝に沿ってブレイクを行おうとしても,ブラスト加工によって形成された溝はダイヤモンドチップやダイヤモンドローラ等で形成するV字状の切れ目とは異なり,丸みを帯びた溝底を有するため,マザーガラスに曲げ方向の力を加えても容易には割断せず,また,割断が生じても,必ずしもブラストで形成した溝に沿って正確に割断を行うことができないため,ブラスト加工を既知のスクライブに代えて行うことはできない。
【0018】
そのため,ブラスト加工によってガラス基板の切り出しを行おうとすれば,マザーガラスの表面付近に溝を形成するだけでは無く,マザーガラスの肉厚を貫通する迄,切削を行うことが必要となる。
【0019】
以上の前提の下,本発明の発明者は,更にブラスト加工によるガラス基板の切り出しの可能性を検証するために,
図8に示すようにマザーガラス100上に基板120の切り出し位置を割り付けると共に,各基板120の割り付け位置のマザーガラス片面のみ又は表裏に,耐ブラスト性を有する保護膜104を貼着してマスキングし,噴射ノズルより圧縮空気と共に砥粒を噴射することで,前記保護膜104の非貼着部のマザーガラス100を切削除去することで,基板の切り出しを行うことを試みた。
【0020】
しかし,このような切削を行うために,ブラスト加工を継続的に行うと,基板の割り付け位置の外周に形成された余白(一般に「耳」と呼ばれる部分)130に,
図8に示すように亀裂131が生じ,切り出しを行うことができなかった。
【0021】
しかも,ブラスト加工による切削を,マザーガラス100の表裏面から行おうとした場合,加工途中でマザーガラス100を裏返す等の処理が必要となり,仮にブラスト加工の途中で余白130に亀裂が入ることを防止できたとしても,マザーガラス100を反転させる際に曲げ方向の力が加わり,薄くなった部分からマザーガラス100が割れてしまう。
【0022】
このように,ブラスト加工による切削は,レーザースクライビング装置等に比較して簡易な装置構成で行うことができ,初期投資を抑えて硬質脆性材料の基板の切り出しを可能と成すことが期待できるものの,ブラスト加工を単純にガラス基板の切り出しに適用しようとしてもマザーガラスを破損させる結果を招くに過ぎなかった。
【0023】
なお,上記の説明では,脆性材料基板の一例として,ガラス基板の切り出しを行う場合を例に挙げて説明したが,ガラスと同様に硬質で且つ脆性を有する石英,サファイア,セラミックス,シリコンウェハー等の板材についても,同様の問題が生じ,単純にブラスト加工を適用しても基板の切り出しを行うことはできない。
【0024】
そこで,本発明は,携帯用情報端末やフラットディスプレイパネル用のガラス基板の切り出し等,脆性材料基板の切り出し方法として従来使用されていなかったブラスト加工によって,作業中に硬質脆性材料の板材を破損させることなく脆性材料基板の切り出しを行うことのできる切り出し方法,及び前記方法による切り出しに使用するに適した切り出し装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0026】
上記目的を達成するために,本発明の脆性材料基板の切り出し方法は,
硬質脆性材料の板材1上で,該板材1より切り出す複数の基板2をブラストによる切削に必要な間隔を介して割り付けを行うと共に,各基板2の割り付け位置における前記板材1の表裏面にそれぞれ耐ブラスト性を有する第一保護膜4を形成し,
前記基板2の外縁に対しブラストによる切削に必要な間隔を介して耐ブラスト性の第二保護膜5を形成し,該第二保護膜5によって前記板材1の周縁部における露出幅Wが5mm以下となるように,前記板材1の余白(耳)3を被覆し,前記第一保護膜4,4間,及び前記第一保護膜4と第二保護膜5間に形成された,前記第一保護膜4及び第二保護膜5の非形成部分を切削領域6とし,
前記板材2の表面を吸着して前記板材2を浮かせた状態で前記板材1の
裏面より
ブラスト加工を行って,前記切削領域6を,前記板材1の厚みの略半分の深さ迄切削
した後,
前記板材の裏面における前記各第一保護膜が形成された部分を,それぞれ前記基板に対応した平面形状を有する基板吸着ベース上に載置吸着させると共に,前記第二保護膜を形成した前記余白を,余白ベース上に載置して,前記板材の表面より
ブラスト加工を行って前記切削領域6を前記
裏面からの切削位置と連通する迄切削することを特徴とする(請求項1)。
【0027】
上記構成の硬質脆性材料基板の切り出し方法において,前記切削領域6の幅δ1,δ2を,5mm以下,好ましくは,3〜2mm,とすることが好ましい(請求項2)。
【0029】
また,本発明の発明者による試行錯誤の結果,炭化ケイ素,アルミナ,ジルコン,ジルコニア,ダイヤモンド,酸化セリウム,ステンレス,鋳鋼,合金鋼,ハイス,炭化タングステン又はFeCrBの中から選択される研磨材について,その硬度を700Hv〜9000Hv,真比重を3.0〜15.7,メディアン径を20μm〜100μm,好ましくは30μm〜60μmとし,また加工条件として,この研磨材を板材1に対して噴射速度100m/s〜250m/s,又は噴射圧力0.2MPa〜0.5MPaで噴射することにより,略球形の研磨材を使用する場合において加工精度(切り出し寸法精度)を維持しつつ基板2の切り出しスピードを速くすることができ,また,研磨材衝突時による保護膜に対するダメージを減らすことで,保護膜の厚みを薄くすることができるという知見を得た(請求項
3)。
【0030】
また,本発明の硬質脆性基板の切り出し装置10は,硬質脆性材料の板材1上で,該板材1より切り出す複数の基板2をブラストによる切削に必要な間隔を介して割り付けを行うと共に,各基板2の割り付け位置における前記板材1の表裏面にそれぞれ耐ブラスト性を有する第一保護膜4を形成し,更に,前記基板2の外縁に対しブラストによる切削に必要な間隔を介して耐ブラスト性の第二保護膜5を形成し,該第二保護膜5によって,前記板材1の周縁部における露出幅Wが5mm以下となるように前記板材1の余白(耳)3を被覆した前記板材1を加工対象とし,
前記板材1の表面を吸着する吸着板31を備え,該吸着板31に吸着した前記板材1を空中に浮かせた状態に保持する板材吊下治具30と,
前記板材吊下治具30によって吊り下げられた前記板材1の裏面に対し,研磨材を噴射する裏面加工用の噴射ノズル51と,
前記板材1の裏面の前記第一保護膜4に覆われた部分をそれぞれ吸着すると共に載置する,切り出す基板に対応した平面形状を有する複数の基板吸着ベース41と,前記複数の基板吸着ベース41の群の外周位置に配置されて,前記板材1の前記第二保護膜5で覆われた部分を載置する余白ベース42を備え,裏面よりブラスト加工がされた後の前記板材1を載置する板材載置治具40と,
前記板材載置治具40に載置された板材の表面に対し研磨材を噴射する表面加工用の噴射ノズル52を備えたことを特徴とする(請求項
4)。
【0031】
本発明の切り出し装置10は,更に,前記板材吊下治具30が前記吸着板31の昇降機構32と,水平移動機構33を有すると共に,
前記板材載置治具40が,走行手段(
図2において車台43)を備え,
始動位置(
図2中の位置12b)にある前記板材吊下治具30の前記吸着板31を下降させ,前記始動位置の下方に配置された前記板材1を前記吸着板31に吸着させた後,前記吸着板31を上昇させた状態で前記板材吊下治具30を水平移動させて,研磨材を噴射する前記裏面加工用の噴射ノズル51上を通過させた後,前記板材載置治具40上に移動させ,該位置において前記吸着板31を下降させて前記板材載置治具40上にワークを載置した後に前記吸着板31による吸着を解除すると共に前記板材載置治具40による吸着を開始し,該板材載置治具40を走行させて,研磨材を噴射する前記表面加工用の噴射ノズル52の下方を通過させる動作を,前記各部に行わせる制御装置(図示せず)を更に備えたことを特徴とする(請求項
5)。
【0032】
なお,上記略球形の研磨材を使用する場合において,研磨材の硬度が700Hvを下回ると,衝突により形状が変形してしまい,切り出し能力及び加工精度が低下する問題が生じる。また,真比重が前記3.0より小さくした場合,1点(狭い範囲)に高い衝突エネルギーを集中させることができず,略球形の研磨材ではガラス等の硬質脆性材料の切り出しを行えない問題が生じる。一方,研磨材の硬度が9000Hvを上回ると,脆性材料に対する破壊力が大きくなり過ぎて板材2を破損させる恐れがある上,硬度が9000Hvを上回る研磨材はコスト的に実用的でない。研磨材の真比重が15.3を上回る場合,発生する切り出し外周部のチッピングが大きくなることに加え,マスクが破損する。
【0033】
また,上記メディアン径について,100μmより大きくした場合,切り出し外周部のチッピングが大きくなることに加え研磨材衝突時の衝撃を保護膜が吸収しきれなくなり,保護膜下の被加工物を破損させる問題が生じる。これに対処するために保護膜の厚みを厚くした場合,加工精度の低下とコストが嵩む。一方,上記メディアン径について,20μmより下回る場合,切り出しスピードが低下し,生産性が低下する問題が生じる。
【0034】
また,研磨材のメディアン径20μm〜100μmとした場合において噴射速度が100m/s又は噴射圧力0.2MPaを下回ると,衝突エネルギーが低くなるため切り出し加工の能力が著しく低下し,さらには,全く切り出すことができなくなる問題が生じる。一方,噴射速度が250m/s又は噴射圧力0.5MPaを上回ると,衝突エネルギーが大きくなりすぎるため,加工精度(切り出し寸法精度)の低下を招く問題が生じる上,保護膜の耐久性を高めるために膜厚を厚くする必要が生じ,コストが嵩む。
【発明の効果】
【0035】
以上説明した本発明の構成により,本発明の硬質脆性基板の切り出し方法及び硬質脆性基板の切り出し装置10によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0036】
硬質脆性材料の板材1を,基板2の割り付け位置を第一保護膜4でマスキングするのみならず,余白(耳)3の部分についても第二保護膜5でマスキングしたこと,及び,板材1の周縁部のうち,保護膜(第二保護膜)によって覆われていない部分の幅(
図1中の拡大図における露出幅W参照)が5mm以下となるように前記第二保護膜5を形成して,第一保護膜4,4間,及び第一保護膜4と第二保護膜5間に形成された,保護膜によって覆われていない部分を切削領域6として,板材1の表裏よりそれぞれ切削を行うことで,硬質脆性材料の板材1を貫通する迄ブラストによる切削を継続して基板2の切り出しを行った場合であっても,板材1に亀裂を生じさせることなく切り出しを行うことができた。
【0037】
特に,切削領域6の幅δ1,δ2を広く取る場合には,ブラスト加工による切削の進展によって切削領域の肉厚が減じると,この切削領域6に亀裂が生じ易くなると共に,この亀裂が基板2の割り付け位置に及ぶ等して,基板2の切り出しが不可能となっていたが,切削領域6の幅δ1,δ2を5mm以下,好ましくは3〜2mmとした構成にあっては,このような切削領域5における亀裂の発生についても好適に防止することができた。
【0038】
板材吊下治具30の吸着板31で前記板材1の表面を吸着して前記板材1を浮かせた状態で板材1の底面側より前記ブラスト加工を行って,前記切削領域6を板厚の約半分の深さに迄切削した後,板材載置治具40に載置して,前記板材1の裏面の前記各第一保護膜4によってそれぞれ覆われた部分を基板吸着ベース41上に吸着載置すると共に,前記第二保護膜5で覆われた部分を余白ベース42上に載置して,前記板材1の表面側より前記切削領域6を切削する構成と成すと共に,制御装置(図示せず)により,板材吊下治具30,板材載置治具40,及び噴射ノズル51,52による研磨材の噴射の各動作に所定の制御を行うことで,硬質脆性材料の板材1であっても,破損することなく表裏面からの加工を比較的容易に行うことができると共に,加工途中において板材が割れてしまうことを更に確実に防止することができた。
【0039】
しかも,切り出された後の脆性材料基板2が,基板吸着ベース41上に吸着された状態で載置されていることから,切り出された基板2の位置固定を確実に行うことができ,切り出し後の基板2相互が衝突する等して破損するといった不都合が発生することも好適に防止することができた。
【0040】
また,前記ブラストにより噴射される,炭化ケイ素,アルミナ,ジルコン,ジルコニア,ダイヤモンド,酸化セリウム,ステンレス,鋳鋼,合金鋼,ハイス,炭化タングステン又はFeCrBの中から選択された研磨材の硬度がHv700〜Hv9000,真比重が3.0〜15.3,メディアン径が20μm〜100μmであって,略球形の該研磨材を硬質脆性材料の板材1に対して噴射速度100m/s〜250m/s,又は噴射圧力0.2MPa〜0.5MPaで噴射することで,加工精度(切り出し寸法精度)を維持しつつ基板2の切り出しスピードを速くすることができ,また,研磨材衝突時による保護膜に対するダメージを減らすことで,保護膜の厚みを薄くすることができた。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら以下説明する。
【0043】
〔被加工物〕
本発明で処理対象とする被加工物は,硬質である一方,靱性に欠ける等の脆性を有する結果,加工時の衝撃によって容易に亀裂等が生じて破断してしまう虞のある材質で形成された板材を対象とする。
【0044】
このような材質としては,一例としてガラス,石英,セラミックス,サファイア等が挙げられ,これらはいずれも本発明による切り出しの対象となるが,特に,携帯用情報端末、パネルディスプレイの基板,ハードディスクの基板等として工業的に大量に生産されているガラス基板に対する利用が期待できる。
【0045】
更に,このようなガラスとしては特に限定するものではないが,フラットパネルディスプレイの基板に使用されるソーダガラス,ソーダライムガラス,アルカリガラス,ノンアルカリガラス,青板ガラス,高歪点ガラスや,ハードディスクの基板に使用されるアルミノシリケートガラス,結晶化ガラスは勿論,ボロシリケートガラス(耐熱ガラス),カリガラス,クリスタルガラス,石英ガラス,強化ガラス等も本発明の方法による研磨の対象とすることができる。
【0046】
基板の切り出しは,一般にマザーガラスと呼ばれる大型のガラスを切らずにそのまま製造を進めるが,例えば,マザーガラスを所定数に分割して形成されたガラス板より更に個々の基板を切り出すものとしても良い。
【0047】
〔保護膜の形成〕
上記硬質脆性材料の板材1に対し板取りによって切り出しを行う基板2の割り付けを行うと共に,板取りによって決定した基板2の割り付け位置に従って,板材の表・裏面にそれぞれ第一,第二保護膜4,5を形成する。
【0048】
硬質脆性材料の板材1より切り出す基板2の形状としては,矩形のように直線のみによって形成された形状に限定されず,
図1に示すように長方形の長手方向両端を半円状とした楕円に近似した形状のように,曲線を含む形状に形成するものとしても良く,更には,より複雑な形状のものであっても良く,更には,基板2に開孔等が設けられていても良い。
【0049】
割り付けは,隣接する基板2,2間の間隔δ1が,ブラストによる切削に必要な間隔(ブラストによる削り代)を有することとなるように設定する。
【0050】
この削り代は使用する研磨材の粒径等によっても異なるが,およそ1mm程度が必要であり,基板2,2間の間隔を余り近付け過ぎると,ブラストによる加工の際に基板2として残す部分も浸食されて,所望の形状に基板2を切り出すことができなくなる。
【0051】
一方,この幅は余り広く取りすぎると切削時に亀裂が発生するおそれがあると共に,切削加工に長時間が必要となることから,これを5mm以下とし,好ましい間隔δ1は,2〜3mmである。
【0052】
このようにして板取りにより決定した基板2の割り付けに従い,各基板2の割り付け位置における板材1の表裏に,それぞれ耐ブラスト性を有する第一保護膜4を形成すると共に,このようにして割り付けられた基板2の外周に形成された余白3に,同様に耐ブラスト性を有する第二保護膜5を形成する。
【0053】
ここで,前述の第一保護膜4は,切り出すべき基板2に対しブラストによる切削が及ばないように保護する役割を有することから,第一保護膜4は,それぞれが切り出される基板2の形状に対応した形状に形成されている。
【0054】
これに対し,基板2を切り出した後に残る余白3の部分は,製品として使用されない部分であり,切り出しの際にブラストによる切削が及んでも製品の品質上何等の問題が無い部分であることから,本来であれば特に保護する必要の無い部分である。
【0055】
しかし,本発明の発明者による試行錯誤の結果,本来マスキングして保護する必要の無い余白3の部分に対しても,第一保護膜4の周縁部に切削に必要な間隔を介して保護膜(第二保護膜)5を形成し,板材1の周縁部における露出幅Wが5mm以下となるように第二保護膜5によって保護することで,発明が解決しようとする課題の欄で説明したような,余白3の部分における亀裂の発生を大幅に防止できることを見出した。
【0056】
従って,余白3の部分に形成する第二保護膜5は,前記第一保護膜4のように,余白3の形状に正確に対応した形状に形成する必要は無いが,少なくとも板材の周縁部における露出幅Wが5mm以下となるように,その外周形状を形成する。
【0057】
また,第二保護膜5と第一保護膜4との間隔δ2が,ブラストによる切削に必要な間隔(削り代として必要な間隔)以下に形成されると,ブラスト加工時に基板2として残す部分に対して迄切削が及んでしまい,基板2を正確に切り出すことができないことから,基板2,2間に設けた間隔δ1同様,間隔δ2についてもブラストによる切削に必要な間隔,一例として1〜5mm,好ましくは2〜3mmを設ける。
【0058】
このようにして,第一,第二保護膜4,5を形成した板材1のうち,第一保護膜4,4間に形成された間隔δ1,及び第一保護膜4と第二保護膜5間に形成された間隔δ2が,ブラスト加工によって切削除去される切削領域6となる。
【0059】
なお,
図1に示すように基板2が曲線部分を有する場合のように,第一保護膜4の曲線部間に比較的広い空間が形成される場合には,この部分に対しても第一保護膜4の周縁部より切削に必要な間隔を介して第二保護膜5を形成することで,切削領域6がいずれの部分においても1〜5mm,好ましくは2〜3mmの間隔となるようにする。
【0060】
前述の第一,第二保護膜4,5は,例えば耐ブラスト性を有する樹脂インキをスクリーン印刷等によって必要なパターンで印刷するものとしても良く,また,ステンレス(例えばSUS),アルミ(Al),銅(Cu),鉄(Fe)製のメタルマスクを板材の表面に貼着する等して形成しても良く,更には樹脂フィルムを貼着して第一,第二保護膜4,5を形成しても良い。
【0061】
上記第一,第二保護膜4,5の形成において,第一保護膜4と第二保護膜5は,異なる方法及び材質のものとして形成するものとしても良い。
【0062】
一例として,本実施形態にあっては,第一,第二保護膜4,5共に,スクリーン印刷用インキを使用したスクリーン印刷によって行った。
【0063】
なお,第一,第二保護膜4,5の膜厚は,材質等によっても異なるが一例として70〜100μm,好ましくは90〜100μmであり,板材1の厚みが増すとブラスト加工時間が長くなることから,第一,第二保護膜の厚みを増加させることが好ましい。
【0064】
〔研磨材〕
以上のようにして,第一,第二保護膜4,5が形成された硬質脆性材料の板材1の切削は,硬質脆性材料の切削に一般的に使用されているセラミックス系の砥粒(炭化ケイ素,アルミナ,ジルコン,ジルコニア,ダイヤモンド,酸化セリウム等)や金属系の砥粒(ステンレス,鋳鋼,合金鋼,ハイス,炭化タングステン等),またはFeCrB等の砥粒を研磨材として噴射することによって行うことができる。
【0065】
研磨材として使用する砥粒のサイズは,加工対象とする硬質脆性材料の材質や切り出す基板の形状,使用する砥粒の材質等の種々の条件に応じて適宜選択可能であるが一例としてメディアン径が20μm〜100μmの範囲のものを好適に使用することができる。
【0066】
〔噴射方法〕
前述した研磨材は,噴射ノズルより圧縮気体,本実施形態にあっては圧縮空気と共に,硬質脆性材料の板材中の少なくとも前述した切削領域に対して噴射する。
【0067】
研磨材の噴射に使用する圧縮空気の噴射圧力は,使用する研磨材の粒径や材質に応じて適宜変更可能であるが,好ましい噴射圧力の範囲は0.2MPa〜0.5MPa,より好ましくは,0.3〜0.5MPaである。
【0068】
噴射に使用する噴射ノズルは,噴射口が円形をした丸型ノズルを使用しても良いが,比較的広い面積を同時に加工する場合には,噴射口が長細い矩形状のスリット形状に形成されたスリット型ノズル(図示せず)を使用することが好ましく,このようなスリット型ノズルを使用する場合,丸型ノズルを使用する場合に比較して,スリットの長さ方向における研磨材の噴射速度のばらつきを抑えることができ,均一な加工を行うことができる。
【0069】
使用する噴射ノズルのノズル径は,丸型で直径3〜10mm(スリット型では前記直径に対応する開口面積)の範囲であり,好ましくは,直径6〜10mmである。
【0070】
加工対象とする板材の表面に対する噴射ノズルの傾き(噴射角度)は,45〜90°の範囲とすることができ,好ましくは60〜90°,より好ましくは板材1の表面に対し垂直(90°)に噴射する。
【0071】
研磨材の噴射は,例えば加工対象とする板材1の幅方向の全域をカバーできるように複数本の噴射ノズルを並べて配置(
図7参照)し,板材1及び/又は噴射ノズルとを板材1の長手方向に相対的に移動させて,板材1全体に対して研磨材を噴射することができるように構成しても良く,又は,噴射ノズルを板材1上で往復動させる等して板材1の全体に研磨材を噴射できるようにしても良く,その構成は限定されない。
【0072】
研磨材の噴射は,先ず,板材1の表裏面のいずれか一方の面より行い,板材1の厚みに対し約半分程度の深さに切削領域6を切削した後,板材1の他方の面より研磨材の噴射を行って,切削領域6を完全に除去して板材1を貫通することで,第一保護膜4によって保護された基板1の切り出しが完了する。
【0073】
〔切り出し装置〕
前述した硬質脆性基板2の切り出しを行うに適した切り出し装置10の構成例を,
図2を参照して説明する。
【0074】
(1)全体構成
切り出し装置10は,カバー11によって包囲された作業空間12内に,加工対象とする硬質脆性材料の板材1を吊り下げ状態で移動する板材吊下治具30,前記板材吊下治具30によって吊り下げられた板材1の裏面に対して研磨材を噴射する裏面加工用の噴射ノズル51,前記板材1を載置する板材載置治具40,及び前記板材載置治具40に載置された板材1の表面に対して研磨材を噴射する表面加工用の噴射ノズル52を備え,図示の実施形態にあっては,更に,カバー11の一端側に設けられた板材の投入位置12aに配置した板材1を,カバー11内部に搬送する搬送手段20が設けられていると共に,これらの各手段の動作を制御することにより,各手段間の連携した動作を可能とする,図示せざる制御装置が設けられている。
【0075】
(2)搬送手段
本発明の切り出し装置10を構成する構成機器のうち,前述の搬送手段20は,投入位置12aに配置された板材1を,作業空間12内の所定の位置に搬送するために設けられたもので,ローラコンベアやベルトコンベア等の既知の搬送手段(図示の例ではローラコンベア)20によって構成することができる。
【0076】
図示の例では,この搬送手段20は,板材の投入位置12aから,後述する板材吊下治具30の初期位置の下部に至り設けられており,加工対象とする板材1を,カバー11の一端側に設けられた投入位置12aに置くと,この板材1を,初期位置(
図2中の位置12b)にある板材吊下治具30の下部迄移動させることができるようになっている。
【0077】
もっとも,この搬送手段20は,例えば手作業によって板材1を作業空間12内の所定の位置(初期位置にある板材吊下治具30の下部)に配置できるように構成した場合にあっては必ずしも設ける必要は無く,省略しても良い。
【0078】
(3)板材吊下治具
板材吊下治具30は,加工対象とする板材1の表面を吸着して,板材1の裏面を浮かせた状態で吊り下げ可能としたものであり,このように板材1を吊り下げることにより,板材1の裏面側からのブラスト加工が可能となる。
【0079】
この板材吊下治具30は,図示の実施形態にあっては板材1の表面を吸着する吸着板31と,前記吸着板31を昇降させる昇降機構32,及び板材1を吸着板31に吸着させた状態で,後述する裏面加工用の噴射ノズル51上を水平方向に移動するための移動機構33を備えており,前述の移動機構33として,図示の実施形態にあってはレール33aと,このレール33aに沿って走行する車輪を備えた車台33bを備えていると共に,この車台33bに,前述の昇降機構32を介して吸着板31を昇降可能に取り付けている。
【0080】
板材吊下治具30に設けられた前述の吸着板31は,
図3に示すように底面に所定の配列で取り付けたカップ状の吸着パッド311を備え,吸着パッド311の開口部を板材1に当接させた状態で吸着パッド311に連通したホース(図示せず)を介して,図示せざる真空ポンプ等の吸引手段によって吸着パッド311内を吸引することで,加工対象とする板材1を吸着することができるように構成されている。
【0081】
この吸着板31の上面は,
図2に示すように連結機構34及び昇降機構32を介して前述の車台33bに連結されている。
【0082】
図示の実施形態にあっては,吸着板31の上面に取り付けた4本の支柱34aの上端に載置された中間連結板34b上に更に4本の支柱34cを立設し,この支柱34cの上端に更に上端連結板34dを載置して,櫓状の連結機構34を構成しているが,連結機構34の構成はこれに限定されず,昇降時に吸着板31を安定した姿勢に保持することができるものであれば,如何なる構造であっても良い。
【0083】
このようにして形成された連結機構34の上部,図示の実施形態にあっては,上端連結板34dには,車台33a上に装備された昇降機構32,図示の実施形態にあっては油圧シリンダのピストンロッドを連結することで,昇降機構32により吸着板31を昇降移動させることができるように構成されている。
【0084】
本実施形態にあっては,この昇降機構32として前述のように油圧シリンダを設けるものとしたが,このような昇降機構32としては,油圧シリンダに限定されず,空気圧シリンダを用いても良く,また,モータ等で発生した回転力によって吸着板31を昇降させる構造等,昇降機構32として採用されている既知の各種の構造を採用することが可能である。
【0085】
もっとも,吸着板31の昇降時に,吸着した板材1に対して大きな振動等の衝撃が加わると,板材1が破損するおそれがあることから,昇降動作を比較的緩やかに行うことができると共に,始動,停止動作をスムーズに行うことができるものを選択することが好ましい。
【0086】
なお,図示は省略しているが,板材吊下治具30には,レール33a上で車台33bを所定の速度で走行させるための駆動機構が設けられており,後述する裏面加工用の噴射ノズル51上を,一定速度で板材を通過させることができるように構成されている。
【0087】
この駆動機構は,例えば車台33bに設けた車輪を駆動するモータを前記車台33bに搭載するものとしても良く,又は,前記車台33bを牽引及び/又は押し出す機構を前記車台33bとは別に設けても良く,車台33bを設定された一定の速度で移動させることができるものであれば,各種構成の採用が可能である。
【0088】
板材吊下治具30による板材1の移動は,
図2中の位置12bから,裏面加工用の噴射ノズル51上(位置12c)を通過して,後述する板材載置治具40の始動位置の上部(位置12d)に至る迄,移動することができるようになっている。
【0089】
(4)板材載置治具
板材載置治具40は,前述した板材吊下治具30により吊り下げ状態で裏面の加工が行われた後の板材1を載置して,該板材1の表面をブラスト加工する際の治具として使用するもので,板材1のうち,第一保護膜4に覆われた部分をそれぞれ吸着すると共に載置する基板吸着ベース41と,基板吸着ベース41群の外周位置に配置されて,前記板材1の前記第二保護膜5で覆われた部分を載置する余白ベース42を備えている(
図4参照)。
【0090】
図4〜
図6に示す板材載置治具40にあっては,更に,この板材載置治具40に載置した板材1を,下向きに配置された表面加工用の噴射ノズル52の下方を通過させることができるように,前記カバー11内にレール60を敷設すると共に(
図2参照),板材載置治具40に,このレール60上を走行するための車輪を備えた車台43を設けている。
【0091】
図4に示すように,個々の基板吸着ベース41は平面視において切り出される基板2と同一形状に形成されており,個々の基板吸着ベース41は相互に独立して形成されていると共に,後述する余白ベース42とも独立して形成されており,これを板材1に割り付けた基板の数,割り付けパターンと同一の数及びパターンで,同一の高さとなるように設けられている。
【0092】
また,基板吸着ベース41を所定パターンで配置して形成された基板吸着ベース41群の外周位置には,第二保護膜で覆われた余白(耳)3の部分と平面視において同一形状に形成された余白ベース42が設けられている。
【0093】
そして,各基板吸着ベース41と,余白ベース42は,それぞれ軸足44を介して車台43上に所定の間隔を介して浮かせた状態で配置されており,従って,表面加工用の噴射ノズル52による研磨材の噴射によって,板材1に対する研磨材の噴射を行い,研磨材による切削によって板材1を貫通した場合であっても,板材1を貫通した研磨材流が,基板吸着ベース41,41間,又は基板吸着ベース41と余白ベース42間の隙間を通って下方に通過できるようになっていると共に,切り出された各基板2,及び余白3が,それぞれ独立して,基板吸着ベース41及び余白ベース42上に載置できるようになっている。
【0094】
各基板吸着ベース41,好ましくは,各基板吸着ベース41と共に余白ベース42は,載置された基板2及び余白3の各部分をそれぞれ吸着できるように構成されており,図示の実施形態にあっては,各基板吸着ベース41及び余白ベース42の表面に溝41a,42aを形成すると共に,この溝41a,42aに連通する貫通孔41b,42bを各基板吸着ベース41及び余白ベース42の肉厚を貫通して形成し,この貫通孔41b,42bを図示せざるホース等を介して図示せざる真空ポンプ等の吸引手段に連通して吸引することで,各基板吸着ベース41及び余白ベース42上に載置された基板2及び余白3を吸着することができるようになっており,各基板2,2間及び基板2と余白3間が切り離された場合においても,相互の位置に変化が生じないようになっている。
【0095】
カバー11内に敷設された前述のレール60と,このレール60上を走行する車台43により,板材載置治具40は,終点位置(
図2中の位置12d)にある板材吊下治具30の直下位置を始動位置とし,下向きに配置された表面加工用の噴射ノズルの下部を通過して(
図2中の位置12e),カバー11の他端側に設けられた取り出し位置12f迄,前述したレール60上を走行可能に構成されている。
【0096】
なお,前述の車台43は,前記位置間(12d,12f間)での走行を可能と成すと共に,少なくとも表面加工用の噴射ノズル52下部を通過する際に予め設定した一定速度で通過することができるように,車台43上に搭載された車輪駆動用のモータ(図示せず)や,前記車台43を牽引及び/又は押し出す駆動機構(図示せず)が設けられている。
【0097】
(5)噴射ノズル
前述の板材吊下治具30の移動経路の下方,及び板材載置治具40の移動経路の上方には,それぞれ噴射ノズル51,52が設けられている。
【0098】
板材吊下治具30の移動経路の下方に配置された噴射ノズル51は,噴射方向を上向きに配置されて,板材吊下治具30に取り付けた板材1の裏面を加工するために設けられた裏面加工用の噴射ノズルであり,一方,板材載置治具40の移動経路の上方に配置された噴射ノズル52は,噴射方向を下向きに配置されて,板材載置治具40に載置された板材1の表面を加工するために設けられた表面加工用の噴射ノズルである。
【0099】
各ノズル51,52とも,図示せざる研磨材供給源より圧縮気体,本実施形態にあっては圧縮空気との混合流体として導入された研磨材を噴射することができるようになっており,このような研磨材の供給方式としては,既知のブラスト加工装置の構成を採用することができる。
【0100】
図7に示す形状に形成された切削領域6が形成された板材1を加工対象とする本実施形態にあっては,板材1の幅方向における切削領域6が存在する領域(
図7中の領域X)の全範囲に対し研磨材を噴射することができるよう,噴射ノズル51,52を配置することが必要で,このような噴射範囲の確保を,一例として板材1の幅方向に複数の噴射ノズル51(52)を並べて配置することにより実現するものとしている。
【0101】
この場合,板材1が噴射ノズル51(52)の上方(又は下方)を通過する時,本実施形態では全てのノズル51(52)より研磨材を噴射するように構成しているが,この構成に代えて,例えば研磨材の使用量を減らす目的で,
図7において,板材1のAブロックが噴射ノズル51(52)の上方又は下方を通過する際には,1〜3番ノズル,Bブロックが通過する際には,1,3,4,5番ノズル,Cブロックが通過する際には1,2,3,5番ノズルより研磨材を噴射し,その他の噴射ノズルからの研磨材の噴射を停止するといった制御を行うことで,切削領域6が存在する部分に対して研磨材を噴射するようにしても良い。
【0102】
〔制御装置〕
以上のように構成された各部材は,これらを統合的に制御する制御装置(図示せず)によって動作が制御されている。
【0103】
この制御装置は,一例として所定のプログラムを記憶したマイクロコントローラ等によって構成されており,センサ等によって検出された板材や各手段の位置情報等に基づいて,各手段の動作を制御することにより,一例として以下に説明するような切り出し装置10の動作を実現する。
【0104】
予め所定のパターンで第一,第二保護膜4,5を形成しておいた板材1を所定の向きで切り出し装置10の投入位置12aにセットした後,例えばオペレータがスタートスイッチを押す等してスタート指令を入力することにより,又は,前記投入位置12aに設けたセンサが,板材1の配置を検出することにより,制御装置は,板材吊下治具30,板材載置治具40のいずれ共に,それぞれの移動経路の始動位置(板材吊下治具30は位置12b,板材載置治具40は位置12d)に移動させた原位置に復帰すると共に,搬送装置20を始動して,投入位置12aにセットされた板材1を,作業空間12内の所定位置迄移動させる。
【0105】
作業空間12内の所定位置(
図2の例では位置12b)に前述した板材1が移動すると,制御装置は搬送手段20を停止させる一方,板材吊下治具30に設けた昇降機構32を作動させ,吸着板31を板材1の表面と当接する迄下降させると共に,吸着パッド311内の吸引を開始して吸着板31に板材1を吸着させる。
【0106】
吸着板31による板材1の吸着が完了すると,制御装置は,板材吊下治具30の昇降機構32を操作して,吸着板31を上昇させる。
【0107】
吸着板31の上昇が完了すると,制御装置は,車台33bを走行させてレール33aに沿って板材吊下治具30の移動を開始すると共に,裏面加工用の噴射ノズル51に対し研磨材を圧縮気体と共に導入して,裏面加工用の噴射ノズル51上を通過する板材吊下治具30によって吊り下げられた板材1の裏面に対し研磨材を噴射する。
【0108】
この研磨材の噴射により,板材1の切削領域6は,板材1の裏面側から,板材の肉厚の約半分程度の深さ迄切削され,この状態で板材1の裏面側からの加工を終了する。
【0109】
板材吊下治具30は,裏面加工用の噴射ノズル51の上方を通過した後,更に
図2中の紙面右側に,位置12dに至る迄移動し,板材吊下治具30がこの位置に到達すると,制御装置は,板材吊下治具30の移動を終了すると共に,昇降機構32を操作して,吸着板31を下降させる。
【0110】
吸着板31の下降位置における板材の底面高さと,始動位置(
図2中の位置12d)にある板材載置治具40の載置面とは同一高さに設定されていると共に,板材1に対する基板2の割り付け位置と,板材載置治具40に設けた基板吸着ベース41の配置が正確に一致するよう,板材吊下治具30の終点位置と,板材載置治具40の始点位置とが高精度に位置合わせされていることから,前述した吸着板31の下降によって,板材1に割り付けられた基板2が,板材載置治具40の基板吸着ベース41上に,平面視において正確に重なるように載置される。
【0111】
このようにして,板材吊下治具30に設けた吸着板31の下降が完了すると,制御装置は,図示せざる真空ポンプ等の吸引手段に板材載置治具40の基板吸着ベース41及び余白ベース42に設けられた貫通孔41b,42bを介して溝41a,42a内の吸引を行わせ,板材1を板材載置治具40上に吸着させると共に,板材吊下治具30の吸着板31に設けた吸着パッド311による板材1の吸着を終了する。
【0112】
その後,制御装置は,板材載置治具40を,
図2中紙面右側に向かって走行させると共に,表面加工用の噴射ノズル52より研磨材を噴射して,該噴射ノズル52の下方を通過する板材載置治具40に載置された板材1を表面側より,板材1を貫通して切削領域6が完全に除去される迄,研磨材の噴射を行い,基板2の切り出しを完了する。
【0113】
切り出された各基板2と余白3の各部分を,それぞれ,基板吸着ベース41と余白ベース42上に載置,吸着した状態を維持しつつ,板材載置治具40は,取出位置12fまで走行を継続して,この位置で停止すると共に,基板吸着ベース41及び余白ベース42による基板2及び余白3の吸着を停止して,切り出し後の基板2及び余白3を回収することができるようになっている。
【実施例1】
【0114】
硬質脆性材料製の板材としてガラス板を使用し,基板として液晶画面保護用のカバーガラスの切り出しを行った例を以下に示す。
【0115】
〔切り出し条件〕
硬質脆性板材
使用したガラス板(マザーガラス)は,幅400mm,長さ500mm,厚さ0.7mmであり,このマザーガラス上に,
図1に示すように基板を割り付けした板取りを行い,ハッチング部分にそれぞれ第一保護膜,及び第二保護膜を形成した。
【0116】
なお,切り出し対象とする各基板の寸法は,長さ160mm,幅80mmであり,両端湾曲部の直径を40mmとした。
【0117】
また,切削領域の幅(間隔δ1,δ2:
図1中の拡大図参照)は,いずれも2mmとし,板材の周縁部における露出幅W(
図1中の拡大図参照)を2mmとした。
【0118】
保護膜
第一,第二保護膜共に,樹脂分をウレタンアクリレートとするスクリーン印刷用UV硬化型インキを,マザーガラスの表面にスクリーン印刷した後,UV照射によって硬化させ,膜厚が90μmの第一,第二保護膜を形成した。
【0119】
噴射条件
使用した研磨材は,♯320(平均粒子径60μm)の砥粒(材質:アルミナ)であり,この研磨材を,噴射量1.1kg/min,噴射圧力は0.5MPa,噴射距離80mmで,板材の表面に対する噴射角度を垂直(90°)として噴射した。
【0120】
研磨材の噴射は,前述した切り出し装置10に設けた板材吊下治具で吊り下げた状態の板材の底面側より,切削領域の肉厚が板材の厚みの略半分となる迄行った後,前述した板材載置治具に載置した状態の板材の表面側より,切削領域で板材が貫通されて基板同士及び基板と余白とが完全に切り離される迄行った。
【0121】
〔切り出しの結果〕
上記条件における基板の切り出しにおいて,板材1は,基板2の切り出し途中で割れることが無く,各基板2及び余白3を確実に切り離すことができた。
【0122】
ここで,
図8を参照して説明した方法では,板材の一方の面に対する研磨材の噴射時において板材1の余白3の部分で亀裂が発生し,基板2の切り出しが不可能なものとなっていたが,本実施例に記載の方法で基板の切り出しを行った場合には,板材1の余白3の部分,基板2の割り付け部分のいずれの部分からも亀裂が発生することがなく,基板2の切り出しを行うことができた。
【0123】
このことから,板材1に対するマスキングとして,基板2の割り付け部分のみならず,基板2群の外周に形成された余白(耳)3の部分に対するマスキング(第二保護膜5)の形成が,マザーガラスより基板2を切り出す際に板材1が破断してしまうことを防止する上で,極めて効果的であることが確認でき,このような第二保護膜5の形成によって,硬質脆性材料の板材1から基板2を切り出す際に従来使用されることがなかったブラスト加工を適用可能であることが確認できた。
【実施例2】
【0124】
次に,略球形の研磨材を使用して,硬質脆性材料製のガラス板から基板2として液晶画面保護用のカバーガラスの切り出しを行った例を,比較例と共に以下に示す。
【0125】
硬質脆性板材
使用したガラス板(マザーガラス)は,厚さ1.1mmであり,このマザーガラス上に,
図1に示すように基板を割り付けした板取りを行い,ハッチング部分にそれぞれ第一保護膜,及び第二保護膜を形成した。
【0126】
また,切削領域の幅(間隔δ1,δ2:
図1中の拡大図参照)は,いずれも1mmとし,板材の周縁部における露出幅W(
図1中の拡大図参照)を2mmとした。
【0127】
保護膜
第一,第二保護膜は共に,樹脂分をウレタンアクリレートとするスクリーン印刷用UV硬化型インキを,マザーガラスの表面にスクリーン印刷した後,UV照射によって硬化させ,第一,第二保護膜を形成した。
【0128】
加工条件
実施例の加工条件及び使用した研磨材の詳細と,加工後の被加工物に対する評価結果を,それぞれ下記の表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
また,比較例の加工条件及び使用した研磨材の詳細と,加工後の被加工物に対する評価結果を,それぞれ下記の表2に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
試験結果と考察
実施例及び比較例2では基板2を切り出すことができたが,比較例1では基板2の切り出しを行うことができなかった。比較例1で使用された研磨材は実施例の研磨材より硬度が小さい(Hv300〜Hv500)ため,比較例1の研磨材の比重(真比重)が実施例と同程度であってもガラスを切削することができなかった。
【0133】
また,実施例の研磨材は,比較例2の研磨材に比べて研磨材の消耗量が少ないことが確認された。
【0134】
また,実施例は,比較例2に比べてガラスの切り出しスピードが速い(基板2を切り出す所要時間が短い)ことが確認された。実施例1は比較例2に比べてガラスの切り出しスピードが約3倍であり,また,実施例2は比較例2に比べてガラスの切り出しスピードが約1.5倍である。
【0135】
また,実施例の研磨材は略球形のため,保護膜への突き刺さりが無い,あるいは少ないことから保護膜の消耗が少なく,多角形の研磨材を使用した比較例2に比べ保護膜の厚みを薄くできることが確認された。保護膜を薄くすることができれば,加工精度(切り出し寸法精度)を高くすることができ,更にコスト削減となる。
【0136】
ここで,実施例について考察すると,実施例の略球形の研磨材は硬度が高いために衝突時に変形が少なく衝突エネルギーが分散し難い上,比重も重いので1点(狭い範囲)に高い衝突エネルギーを集中させることができ,このことがガラス等の硬質脆性材料の切り出し(粉砕)に適していることが分かった。
【0137】
さらに,切り出しスピード及び加工精度の観点から考察すると,通常,粒度が大きければ大きいほど衝突エネルギーが大きくなり切り出しスピードは速くなるが,その分チッピングが大きくなり加工精度(切り出し寸法精度)が粗くなり,一方,加工精度を求め,粒度を小さくし過ぎるとエネルギーが減少するため必要以上のダメージを被加工物及び保護膜に与えないが,切り出しスピードは遅くなる。この加工精度を維持しつつ切り出しスピードを速くするには,比重が重くて硬く,かつ粒度が小さい実施例の研磨材が適している。
【0138】
この場合,FeCrBから成る研磨材が特に適している。