(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分散染料を含有するインク、特に当該インクが色の異なる分散染料を複数混合することによってブラック等を構成する場合において、分散染料が凝集することでノズルが詰まり、インクの吐出安定性が悪化するという問題がある。
【0005】
インクにおけるグリコール類の含有量を増加させることによって、ノズルでのインクの乾燥性を低下させることができるため、インクの吐出安定性が向上する。しかし、インクが吐出された印刷対象物の乾燥性が低下するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、印刷対象物の乾燥性を低下させることなく、吐出安定性を向上させることができるインク組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係るインク組成物は、水と、分散染料と、グリコール類と、アルコールアミンと、を含有することを特徴としている。
【0008】
上記インク組成物において、グリセリン等のグリコール類は、保湿剤として機能するため、インク組成物の乾燥を抑制する。そして、アルコールアミンは、上記インク組成物中の分散染料の凝集を抑制し、インク組成物の吐出安定性を向上させることができる。
【0009】
さらに、アルコールアミンを含有せずに、グリコール類だけを含有しているインクと比較して、グリコール類の含有量を低減することができる。そのため、インク組成物が吐出された印刷対象物の乾燥性を必要以上に低下させることがない。
【0010】
本発明に係るインク組成物は、複数の上記分散染料を配合することがより好ましい。
【0011】
複数の分散染料を組み合わせて使用する場合には、一種類の分散染料を使用する場合と比較して、分散染料がより凝集するおそれがある。一方、本発明に係るインク組成物は、アルコールアミンを含有しているため、分散染料の凝集を抑制することができ、吐出安定性を向上させることができる。
【0012】
本発明に係るインク組成物は、複数の上記分散染料を配合することによりブラックを構成することがより好ましい。
【0013】
複数の分散染料を組み合わせてブラックを構成する場合には、一種類の分散染料を使用する場合と比較して、分散染料がより凝集するおそれがある。一方、本発明に係るインク組成物は、アルコールアミンを含有しているため、分散染料の凝集を抑制することができ、吐出安定性を向上させることができる。
【0014】
本発明に係るインク組成物は、上記アルコールアミンは、メチル−ジエタノールアミンであることがより好ましい。
【0015】
メチル−ジエチルエタノールアミンによる分散染料の凝集抑制効果は、他のアルコールアミンよりも大きい。よって、より好適に分散染料の凝集を抑制することができる。
【0016】
本発明に係るインク組成物は、上記アルコールアミンの含有量は、0.01重量%以上、1重量%以下であることがより好ましい。
【0017】
アルコールアミンの含有量が、0.01重量%以上であることにより、分散染料の凝集を抑制することができる。また、アルコールアミンの含有量が、1重量%以下であることにより、インク組成物は特性を変えることなく、保存安定性を長期間維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るインク組成物は、印刷対象物の乾燥性を低下させることなく、吐出安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0020】
<インク組成物>
本発明に係るインク組成物は、水と、分散染料と、グリコール類と、アルコールアミンと、を含有する。インク組成物(インク)は、例えば、インクジェットプリンタのヘッドから印刷対象物に吐出され、画像を形成するために用いられる。
【0021】
〔水〕
本発明に係るインク組成物は、水を含んでいる。水の含有量は、インクの用途等に応じて適宜定めればよく、例えば、インク組成物の全量に対して20重量%以上であることがより好ましく、また、例えば、80重量%以下であることがより好ましい。
【0022】
〔分散染料〕
本発明に係るインク組成物は、分散染料を含んでいる。分散染料とは、加熱することにより昇華する染料である。また、分散染料は、水等の溶媒にほとんど溶解せず、分散している。
【0023】
分散染料としては、インク組成物の用途等に応じて、適宜定めればよく、例えば、C.I.ディスパースイエロー3:1、23、42、54、64、82、114、119、163、211等、C.I.ディスパースオレンジ13、25、29、30、31、42、44、44:1、45、61、61:1、62、73、76、288等、C.I.ディスパースレッド13、17、50、54、60、73、74、82、118、135、145、152、153、167、177、205、278、311、343等、C.I.ディスパースブルー60、73、102、148、149、165、165:1、183:1、257、281、284、291:1、301、321、354、359、366、367等、C.I.ディスパースブラウン1、1:1、19、19:1等、C.I.ディスパースグリーン9等が挙げられる。また、分散染料の調製に市販の分散液を用いてもよく、市販の分散液としては、例えば、御国色素株式会社製のハイミクロンKイエローA1013、ハイミクロンKレッドA1115、ハイミクロンKブルーA1119等が挙げられる。また、分散染料の調製に用いる分散液は、公知の技術に基づくものであってもよい。
【0024】
分散染料の含有量は、インク組成物の用途等に応じて適宜定めればよく、例えば、0.5重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、1重量%以上、8重量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
また、本発明に係るインク組成物において、複数の分散染料を配合してもよい。例えば、色の異なる分散染料を複数配合し、ブラックを構成してもよい。
【0026】
通常、複数の分散染料を組み合わせて使用する場合には、一種類の分散染料を使用する場合と比較して、分散染料が凝集するリスクが向上する。しかし、インク組成物は、後に記載するようにアルコールアミンを含有しているため、複数の分散染料の凝集を抑制することができる。よって、インクの吐出安定性を向上させることができる。
【0027】
〔グリコール類〕
本発明に係るインク組成物は、グリコール類を含んでいる。グリコール類は、インク組成物の保湿剤として機能し、乾燥を抑制するために添加される。
【0028】
本明細書において、グリコール類とは、2つ以上の水酸基が相異なる炭素原子に結合した脂肪族化合物を指す。グリコール類としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールのモノエーテル誘導体、ジエチレングリコールのモノエーテル誘導体、トリエチレングリコールのモノエーテル誘導体等のグリコールエーテル類、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2、4−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらは1種でもよく、複数種を混合してもよい。
【0029】
また、インク組成物中におけるグリコール類の含有量は、インク組成物の用途等に応じて適宜定めればよく、例えば、10重量%以上であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。グリコール類の含有量が、10重量%以上であることにより、インクの乾燥を抑制することができ、インクの吐出安定性を向上させることができる。さらに、グリコール類の含有量が、30重量%以下であることにより、印刷対象物におけるインクの乾燥性を必要以上に低下させることはない。
【0030】
〔アルコールアミン〕
本発明に係るインク組成物は、アルコールアミンを含んでいる。インク組成物がアルコールアミンを含むことにより、印刷対象物の乾燥性を低下させることなく、吐出安定性を向上させることができる。
【0031】
通常、分散染料を含むインク組成物に添加するグリコール類の量を調整することによって、インクの乾燥性を低下させつつ吐出安定性を向上させている。しかし、吐出安定性を確保するために、添加するグリコール類の量を増加させた場合、印刷対象物のインクの乾燥性が必要以上に低下するという問題が生じる。
【0032】
一方、本発明に係るインク組成物は、アルコールアミンを含んでいるため、分散染料の凝集を抑制することができる。その結果、分散染料の凝集によるノズルの目詰まりを長期間防止することができるため、添加するグリコール類の量を必要以上に増加することなく、インクの吐出安定性を向上させることができる。
【0033】
アルコールアミンとしては、インクの用途等に応じて適宜定めることができ、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン等のアルカノールアミン、芳香族アミノアルコール、また、1級、2級、3級アルコールなどは区別なく使用することができる。具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、メチルエタノールアミン、メチル−ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリメチルエタノールアミンなどである。中でも、メチル−ジエタノールアミン(以下、「MDA」という。)がさらに好ましい。
【0034】
アルコールアミンをインク組成物に添加することにより、分散染料の凝集を好適に抑制することができ、特に、MDAによる分散染料の凝集抑制効果は、他のアルコールアミンよりも大きい。よって、より好適に分散染料の凝集を抑制することができる。
【0035】
また、インク組成物中におけるアルコールアミンの含有量は、インク組成物の用途等に応じて適宜定めればよく、0.01重量%以上、1重量%以下であることが好ましく、0.05重量%以上、0.5重量%以下であることがよりに好ましく、0.1重量%以上、0.3重量%以下であることがさらに好ましい。アルコールアミンの含有量が、0.01重量%以上であることにより、分散染料の凝集を抑制することができる。また、アルコールアミンの含有量が、1重量%以下であることにより、インク組成物のpH値をヘッドに影響を与えない範囲に調整することができ、かつ、インク組成物は特性を変えることなく、保存安定性を長期間維持することができる。
【0036】
〔分散剤〕
本発明に係るインク組成物において、分散染料を分散させるための分散剤を添加してもよい。
【0037】
分散剤としては、インクの用途等に応じて適宜定めることができ、例えば、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、Disperbyk−190、Disperbyk−194、Disperbyk−2015号等が挙げられる。
【0038】
また、分散剤の含有量としては、インク組成物の用途及び分散染料の種類等に応じて適宜定めればよく、10重量%以上、25重量%以下であることが好ましい。
【0039】
〔その他の成分〕
本発明に係るインク組成物は、上述した構成以外に、他の成分を適宜含んでもよい。例えば、インク組成物の吐出安定性および保存安定性を阻害しない程度に、防腐剤、防カビ剤、表面張力調整剤等を含んでいてもよい。
【0040】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0041】
〔インク組成物の調製〕
実施例1として、インク組成物を次のように調製した。すなわち、インク全量を100重量%とし、水を22.11重量%、ハイミクロンKイエローA1013(御国色素株式会社製 昇華染料分散液)を9.44重量%、ハイミクロンKレッドA1115(御国色素株式会社製 昇華染料分散液)を9.30重量%およびハイミクロンKブルーA1119(御国色素株式会社製 昇華染料分散液)を37.60重量%、プロピレングリコールを14.90重量%、1,3−ブチレングリコールを5重量%、MDAを0.01重量%、サーフィノール465を1.50重量%、ならびに、プロキセルXL2を0.1重量%混合した。
【0042】
実施例2〜5に係るインク組成物の組成は、下記に示す表2に記載されているため、その記載を省略する。なお、サーフィノール465は界面活性剤、プロキセルXL2は防腐剤である。
【0043】
比較例として、まずインク組成物に添加する分散液を調製した。分散液全量を100重量%とし、Yellow54を22.5重量%、SOLSPERSE43000を10重量%、SOLSPERSE44000を10重量%、プロピレングリコールを4.5重量%およびプロキセルXL2を0.1重量%混合した。そして、上記混合物をビーズミルにて、24時間微粒子化して、分散液1を作成した(直径0.3mmのジルコニアビーズを使用)。
【0044】
また、分散液2〜4の組成は、下記に示す表1に記載されているため、その記載を省略する。なお、表1に記載のSOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000およびDisperbyk−190は、分散剤としてインク組成物に添加したものである。
【0045】
【表1】
【0046】
次に、上記分散液1〜4を用いて、比較例1及び2となるインク組成物を調製した。各比較例におけるインク組成物の組成は、表2に記載のとおりであるため、その記載を省略する。
【0047】
〔インク組成物の評価〕
各実施例及び比較例に係るインク組成物について、保存安定性、pH値及び吐出安定性(連続安定性)を評価した。
【0048】
保存安定性については、調製したときのインク組成物に対して、60℃で、24時間後のインク組成物の粘度及び粒径がどれだけ変化したか、によってそれぞれ評価した。初期値からの変化率が10%以下であれば丸、10%より大きく、15%以下であれば三角、15%より大きく、20%以下であればバツとした。
【0049】
pH値については、調製したときのインク組成物についてそれぞれ評価した。pH値が9未満であれば丸、9以上、10未満であれば三角、10以上であればバツとした。なお、pH値の値が小さいほど、インク組成物がノズルへ与える影響が小さいことを示す。
【0050】
吐出安定性については、調製したインク組成物をノズルから吐出する際に、吐出性が損なわれることなく、どの程度まで連続して吐出することが可能であるかをそれぞれ評価した。連続して吐出可能な量が10m
2以上であれば丸、5m
2以上、10m
2未満であれば三角、5m
2未満であればバツとした。
【0051】
〔結果〕
実施例及び比較例を含む実験結果について、インク組成物の評価の結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
〔結論〕
表2に示されるように、アルコールアミンを添加した実施例1〜5においては、いずれも吐出安定性に優れていることがわかった。また、MDAの含有量を調整することにより、保存安定性がより向上し、かつpH値の値が適切なインク組成物を調製することができた。