(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明にかかる検出装置の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する各図面において同じ構成部材には同じ符号を付すものとする。また、各部材の大きさや部材同士の間の距離などは模式的に図示しており、現実のものとは異なる場合がある。また、検出装置1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよい。
【0011】
図1は、検出装置1の概略を示す断面図である。検出装置1は、基板10と、基板上流路20と、検出部30と、入口流路40と、カバー部材50と、出口流路60とを有する。
【0012】
検体溶液は入口流路40から供給され、基板上流路20を介し出口流路60へと排出される。一般に、リファレンス溶液を流し、途中から検体を含む検体溶液を流すことにより、検体の検出を行なう。
【0013】
基板10は、その上に構成される構造物を支持するためのものであり、そのための強度を有するものであれば特に材料は限定されない。例えば、Si等の半導体基板、樹脂基板、セラミックス基板、単結晶基板、それらの複合基板等を用いることができる。
図1において、基板10は平板状としたが、一主面10aに沿って延びる後述の基板上流路20を配置することが可能であれば平板状に限定されることはない。この例では、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)単結晶、水晶などの圧電性を有する単結晶の基板からなる。基板10の平面形状及び各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、その厚みは、0.3mm〜1.0mmである。
【0014】
基板上流路20は、基板10の一主面10aに沿って延びるように配置される。言い換えると、基板10の一主面10aに平行に延びるように配置される。そして、基板上流路20は、一端20aと他端20bとを有する。この一端20aと他端20bとの間は一主面10aに沿っていれば、直線状に延びていても、屈曲部を有していてもよい。この例では、一端20aから他端20bまで直線状の流路としている。このような構成とすることにより、基板上流路20内における検体溶液の流れに乱れが生じることを抑制することができる。
【0015】
このような基板上流路20は、検体溶液が流動することが可能であれば自由な形状とすることができる。例えば、基板10の一部に凹部を設けて流路としてもよい。この例では、基板10の一主面10aと後述のカバー部材50とで囲われた空間を基板上流路20としている。この場合には、基板10の一主面10a及びカバー部材50のうち空間を臨む部位は、検体溶液に対して反応性を有さない化学的に安定したものであるとともに、難溶性であり、検体溶液を透過させない材料で構成されることが望ましい。
【0016】
このような基板上流路20の一部を構成するカバー部材50は、この例では基板10上に配置されているが、基板10の側面及び底面も保護するような構成よしてもよい。また、カバー部材50の材料は特に限定されない。樹脂材料やセラミック材料、金属材料及びそれらの複合材料等、自由に選択することができる。
【0017】
検出部30は、基板上流路20を流れる検体溶液に含まれる検体を検出するものである。例えば、検体溶液中に存在する検体の吸着またはこの検体との反応に応じて、重量が変化し、この変化を検知することにより検体を検出することができる。。この検出部30は、例えば検体溶液の導電率などの電気的性質の影響を受けないAuの膜に、検体に対して特異的に吸着させるような反応性を有する反応基を固定化させることで実現できる。なお、検体自体を吸着させなくてもよい。例えば、Auの膜に、検体に対して反応すると同時
に、検体溶液中に存在する検体以外の物質と反応するような特性を有する反応基を固定化させてもよい。また、検体との反応により、固定化された反応基の一部が分離し、放出するような構成としてもよい。なお、このAu膜は電気的に短絡していることが望ましい。
【0018】
なお、検出部30は検体との接触により検体を検出可能であれば、Au等の金属膜に限定されない。例えば、検体溶液が検出部30において検体量に応じて吸光度、導電性、粘度等が変わり、それを検出させるものであってもよい。
【0019】
この例では、平面視で検出部30を挟むように基板10上に不図示の櫛歯状電極(IDT電極)が2つ形成されている。これにより、一方のIDT電極から発生し他方のIDT電極で受信する弾性表面波の位相が、検体の検出により検出部30の重量変化に応じて変化する。この信号変化を不図示の計測部で算出することにより、検体の検出量を測定することができる。
【0020】
このような検出部30は、基板上流路20の内部に露出するように配置されている。具体的には、検出部30は基板10の一主面10a上に形成されており、基板10の一主面10aのうち検出部30が配置された領域が基板上流路20の一部を構成する。
【0021】
入口流路40は、外部から検出装置1に検体溶液を導くためのものであり、基板上流路20の一端20aに接続される。入口流路40が延びる方向は自由に設定できる。
図1に示す例では、基板10の一主面10aの法線方向に延びる例を示している。
【0022】
入口流路40を構成する材料は、検体溶液に対して化学的に安定している材料であれば特に限定されないが、樹脂材料を採用することができる。その硬度等にも特に限定はなく、
図1に示す例では、樹脂材料からなるチューブを用いている。
【0023】
一般に管の直径が大きい程、管内における速度分布の発生を抑制し、かつ速度分布が生じるまでに必要な管の長さが長くなる。このため、入口流路40の直径は大きいほうが好ましい。
【0024】
この例では入口流路40の内径は基板上流路の内径よりも大きくなっている。そして、検体溶液に毛細管現象が働かないように十分な太さを有するもとする。
【0025】
そして、この入口流路40の基板上流路20に接続される側が二重管構造となっている。具体的には、内側の管41と外側の管42とを有している。そして、内側の管41のみが基板上流路20に接続され、内側の管41内を通過する検体溶液のみが基板上流路20に供給され、基板上流路20の他端20bに接続された出口流路60より排出される。外側の管42と内側の管41との間を流れる検体溶液は基板上流路20外に排出される。この例では、外側の管42と内側の管41との間を流れる検体溶液は基板上流路20と隣接して配置された不図示の流路70を流れ、流路70から出口流路60に流れ排出される。
【0026】
内側の管41の管の直径をDとすると、内側の管41内において速度分布が形成されるまでに必要な距離は、層流であれば約140D、乱流であれば約80Dである。このことから、内側の管41内で新たな速度分布が生じる前に基板上流路20に接続することを目的として、入口流路40の内、二重管構造となっている部分の長さは、140D以下とすることが好ましい。より好ましくは80D以下とすることが好ましい。
【0027】
また、内側の管41の直径は外側の管42の直径の40%以上70%以下とすればよい。このような構成とすることにより、外側の管42の管壁近傍の速度分布の大きい検体溶液を除外しつつ、内側の管41内における新たな速度分布を生じることを抑制することが
できる。
【0028】
このような構成とすることにより、検出部30で検出する検出信号の立上り、立下りをシャープにすることができ、検出精度の高い検出装置1を提供することができる。これは、以下のようなメカニズムが推察される。
【0029】
すなわち、従来、チューブ等で形成される入口流路から検出部に向けて検体溶液を供給していた場合には、チューブ内において検体溶液の速度勾配が生じ、この速度勾配に応じて検出部に到着する速さにも分布が生じていた。言い換えると、チューブの中央を流れる検体溶液は速度が速いため検出部に早く到着し排出される。その一方で、チューブの壁側付近を流れる検体溶液は速度が遅いため、検出部に後で到着し排出される。この検出部への到着時間の差と、検出部からの排出時間の差とが、検出信号の立上り及び立下りをブロードにしていたものと推察される。
【0030】
これに対して、検出装置1は、基板上流路20に到達する直前に、速度分布の大きく異なる内側(中央部)と外側とを流れる検体溶液を分離して、比較的均一な速度分布を有する中央部を流れる検体溶液のみを内側の管41に導く。これにより、入口流路40の直径方向における断面でみたときに、速度分布もそれに伴う検体の濃度分布も少なくすることができ、その結果、検出信号の立上り及び立下りをシャープにすることができるものと推察する。
【0031】
以上のメカニズムを検証するために、入口流路内における検体溶液の速度分布及び濃度分布をシミュレーションした。具体的には、入口流路に水、NaCl溶液、水をこの順に連続的に注入したときのNaClの入口流路内における速度分布及び濃度分布をシミュレーションした。シミュレーション条件は、以下の通りとした。
入口流路の管の半径:0.127mm
入口流路の長さ:530mm
二重管構造となっている部位の内側の管41の半径:0.085mm
検体溶液の粘度:8.9×10
−4Pa/s
検体溶液の密度:997Kg/m
3
その結果を
図2に示す。
図2Aは従来の一重管の入口流路を用いた例であり、
図2Bは検出装置1の入口流路40を用いた例である。なお、いずれも入口流路において太さ方向(直径方向)と直交する方向の断面を示しており、左端が入口流路の中央部分を示している。
【0032】
図2からも明らかなように、入口流路40を用いた場合には速度分布及び濃度分布が大きく改善できていることが確認できた。これにより、
図3に示すように、検出信号の立上り及び立下りをシャープにすることができる。
【0033】
なお、入口流路40と基板上流路20との接合部において流路は屈曲することとなり、流路の断面積も変化するが、このような形状による流れの澱みの影響よりも入口流路40の二重管構造以外の部位における速度分布が検出信号の立上り及び立下りに影響を与えることも確認している。
【0034】
ここで、基板上流路20の管壁は入口流路40の管壁に比べ、検体溶液に対する濡れ性が高い材料で構成することが好ましい。このような構成とすることにより、入口流路40の内側の管41から基板上流路20の検出部30に到達するまでの間に、基板上流路20の管壁の影響により新たな濃度分布が生じることを抑制することができる。
【0035】
このように、本発明の検出装置1によれば、検体溶液が検出部30に到達する前にその
濃度分布を緩和する機構を追加することで、検出信号の立上り及び立下りをシャープにすることができる。
【0036】
このような、濃度分布の緩和機構は、上述のような入口流路40の二重管構造に限定されない。例えば、入口流路40の基板上流路20に接続される側の領域において、外側から振動を加え検体溶液が入口流路の管壁から離すようにしてもよい。このような振動は、超音波を印加してもよいし、流路の外側から圧電体で振動を印加してもよい。
【0037】
また、入口流路40と基板上流路20との接続部に弁を設け、基板上流路20へ検体溶液が流入する前に検体溶液をせき止め、一度濃度分布を均一にさせた後に弁を開くようにしてもよい。同様に弁で検体溶液をせき止めた後に、外部から強制的に圧力を加えた状態で弁を開放してもよい。
【0038】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。例えば、上述した検出装置1では、内側の管41と外側の管42との間を流れる検体溶液は流路70へと導かれたが、そのまま排出してもよい。