(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検査工程(C)が、前記エッチング工程(B)により形成したエッチピットの大きさを測定し、前記エッチピットの大きさに基づいて、転位の種類を判別することを含む、請求項9〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
前記検査工程(C)が、前記エッチング工程(B)により形成したエッチピットの形状を測定し、前記エッチピットの形状に基づいて転位の種類を判別することを含む、請求項9〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
前記検査工程(C)が、前記エッチング工程(B)により形成したエッチピットのファセット面の角度を測定し、前記エッチピットのファセット面の角度に基づいて、転位の種類を判別することを含む、請求項9〜15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、SiC結晶を反応性ガスでエッチングすることを含む、SiC結晶の検査方法である。
【0017】
本発明に係る検査方法によれば、SiC結晶が反応性ガス雰囲気によりエッチングされることで、SiC結晶が六方晶である場合は、(000−1)面(以下、C面という)に存在し得る転位に対応した位置に、多角錐状のエッチピットを形成することができる。なお、SiC結晶が立方晶である場合は、(−1−1−1)面に存在し得る転位に対応した位置に、多角錐状のエッチピットを形成することができる。
【0018】
本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。なお、SiC結晶の結晶成長面は{0001}面から0〜10°程度までの傾きを有することが好ましい。
【0019】
従来、SiC結晶については、(0001)面(以下、Si面という)においてはエッチピットの検出は可能であったが、一方で、C面ではエッチピットの検出が困難であった。研究レベルでは、上述のように、440℃のClF
3ガスを用いてエッチピットの検出はある程度できているが、
図7に示すように、エッチピットが丸く、らせん転位と刃状転位の区別が難しい等、高精度な転位の検出ができるものではなかった。このことの主な原因の1つとして、C面のエッチング速度が速すぎることが考えられた。また、従来、Si面でエッチピットの検出をすることが可能であっても、バーガースベクトルの方向を決めることはできなかった。
【0020】
本発明に係る検査方法によれば、SiC結晶のC面を反応性ガスでエッチングすることにより、C面に存在し得る転位の分布を反映する多角錐状のエッチピットを形成することが可能になり、SiC結晶に含まれ得る転位を高精度で検出することができる。
【0021】
明瞭な多角錐状の異方性エッチピットを形成することが可能になるため、高精度な転位の検出に加えて、好ましくは、転位種類の判別を行うことも可能となり、及び/または転位の密度を測定することが可能となる。
【0022】
本発明に係る検査方法によれば、また、転位の種類を判別しつつ、さらにバーガースベクトルの方向を決めることもできる。
【0023】
エッチングは、SiC結晶を、反応性ガス雰囲気下で加熱することで行われ得る。エッチングにより、SiC結晶のC面に存在し得る転位に対応した位置に多角錐状のエッチピットを形成することができる。
【0024】
反応性ガスは、SiC結晶のC面に存在し得る転位に対応した位置に多角錐状のエッチピットを形成することができる化学反応性ガスであり、好ましくは、KOH、NaOH、KCl、KNO
3、NaCl、及びNaNO
3からなる群から選択される少なくとも一種のガスである。反応性ガスとしては、あらかじめ調製されたガスを用いることができ、あるいは、固体もしくは液体を加熱して気化したものを用いてもよい。
【0025】
反応性ガスは、キャリアガスを用いてSiC結晶に送られてもよい。キャリアガスを用いて反応性ガスを送ることにより濃度の調節が容易になり、また、固体もしくは液体を加熱して気化させたガスを反応性ガスとして用いる場合、キャリアガスによりSiC結晶試料に反応性ガスを送ることが容易になる。キャリアガスは、反応性ガスを輸送することができるガスであり、好ましくは、N
2、Ar、O
2からなる群から選択される少なくとも一種のガスである。
【0026】
反応性ガス雰囲気下での加熱温度は、450℃〜1400℃であることが好ましい。前記温度範囲にて転位の検出をしやすくなる。また、加熱温度が高いほど、エッチピットの大きさ及び形状が明確になり転位種を判別しやすくなるが、加熱温度が高すぎると、エッチピット同士が重なることがある。エッチピット同士の重なりが多すぎると、エッチピットの大きさ及び形状が不明瞭になり、転位種を判別しにくくなるため、エッチピットの大きさを区別できる程度にエッチピット同士が重ならないようにすることが好ましく、エッチピットの形状を区別できる程度にエッチピット同士が重ならないようにすることがより好ましく、エッチピット同士の重なりが実質的にないことがさらにより好ましい。この観点において、反応性ガス雰囲気下での加熱温度は、700℃〜1100℃であることがより好ましい。また、エッチピットの大きさ及び形状を明確にするために、反応性ガス種類の選択、反応性ガス濃度、及び/またはエッチング時間の調節を行ってもよく、例えば、エッチング時間を、好ましくは1分〜60分程度、5分〜30分程度等にすることができる。
【0027】
反応性ガスによって、SiC結晶の面全体がエッチングされるが、エッチングされる面においてエッチピットが生成されない部分のエッチング量は5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。概して、研磨により生成し得るダメージ層の厚さは約5μm超、研磨品質が悪い場合、15〜20μm程度であることが多く、SiC結晶のエッチング面において、エッチピットが生成されない部分のエッチング量を上記範囲内にすることで、研磨等によりSiC結晶の表面に生成し得る転位をも検出しやすくなる。上記エッチング量は、反応性ガス種類、エッチング温度、エッチング時間、及び/または反応性ガス濃度により制御することができる。
【0028】
エッチング雰囲気の圧力は、大気圧〜真空(10
-8Pa)であることが好ましい。エッチング雰囲気を大気圧以下とすることにより、エッチング速度を制御しやすくなり、明瞭なエッチピットを形成しやすくなる。
【0029】
本発明に係る検査方法において行われるエッチングによりSiC結晶のC面に形成され得るエッチピットは、六角錐状、三角錐状等の形状を有し得る。これらの形成されたエッチピットの大きさ及び/または形状に基づいて、転位の種類の判別を行うことができる。例えば、六角錐状のエッチピットとして大きさが異なる2種類のエッチピットが形成され得るが、このうち大きい方が貫通らせん転位に対応し、小さい方が貫通刃状転位に対応する。また、三角錐状のエッチピットが形成され得るが、三角錐状のエッチピットは基底面転位に対応する。
【0030】
また、転位の種類の判別は、エッチピットのファセット面の角度に基づいて行うこともできる。反応性ガス種類によって転位の種類とファセット面の角度との関係は変動し得るが、例えば、KOHを用いた場合、六角錐状エッチピットのファセット面のC(000−1)just面となす角が5〜25°である場合、概して、15°〜25°の六角錐状エッチピットは貫通らせん転位に対応し、5°〜14°の六角錐状エッチピットは貫通刃状転位に対応する、といったように判別することができる。また、三角錐状エッチピットのファセット面は、C(000−1)just面となす角が概して5〜90°であり、基底面転位に対応する、といったように判別することができる。
【0031】
エッチピットの観察は、顕微鏡、特にレーザー顕微鏡を用いて行うことができる。また、エッチピットのファセット面の角度の測定は、例えばレーザー顕微鏡(キーエンス製、VK8500)を用いた形状解析により行うことができる。
【0032】
本発明に係る検査方法においては、SiC結晶の良否の判定を行ってもよい。SiC結晶の良否の判定は、検出した転位に基づいて行われ得る。例えば、転位の有無、転位密度、及び/または転位種類に基づいて、SiC結晶の良否を判定することができる。
【0033】
本発明はまた、(A)SiC結晶を成長させる成長工程、(B)SiC結晶を反応性ガスでエッチングするエッチング工程、及び(C)前記エッチングしたSiC結晶を検査する検査工程を含む、SiC結晶の製造方法に関係する。
【0034】
エッチング工程(B)では、SiC結晶を、反応性ガス雰囲気下で加熱することで、SiC結晶のC面に存在し得る転位に対応した位置に多角錐状のエッチピットを形成することができる。
【0035】
反応性ガス、反応性ガスのキャリアガス、反応性ガス雰囲気の温度、エッチング雰囲気の圧力等のエッチング条件については、上述の検査方法において記載した内容が適用される。
【0036】
検査工程(C)では、SiC結晶のC面に形成された多角錐状のエッチピットを検出して、転位を検出することができる。好ましくは、転位種類の判別を行うことができ、及びまたは、転位密度の測定を行うことができる。
【0037】
検査工程(C)において行われ得るエッチピットに基づいた転位種類の判別、エッチピットの観察、ファセット面の角度の測定、SiC結晶の良否の判定等については、上述の検査方法において記載した内容が適用される。
【0038】
成長工程(A)、エッチング工程(B)、及び検査工程(C)は、実施する順番及びそれぞれの実施回数に制限はない。例えば、工程(A)でSiC結晶を成長させてから、工程(B)及び(C)にて、工程(A)で成長させたSiC結晶をエッチングして、SiC結晶を検査することができる。これにより、得られたSiC結晶の品質を評価することができる。
【0039】
また、エッチング工程(B)及び検査工程(C)にて、種結晶としてのSiC結晶をエッチングして検査を行ってから、成長工程(A)でSiC結晶を成長させることができる。一般的に、SiC結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜等が存在していることがあるが、結晶成長前に種結晶についてエッチング処理を行って、種結晶の品質について良否判定をしてもよい。転位が検出された場合は、転位の密度や種類等に応じて、種結晶の交換や研磨等による転位の除去を行ってもよい。このようにして、転位の少ない種結晶を用いてSiC結晶を成長させることができるので、種結晶由来の転位を抑制して、転位密度の小さい高品質のSiC結晶を結晶成長させることができる。
【0040】
あるいは、成長工程(A)と、エッチング工程(B)及び検査工程(C)とを繰り返して実施することができる。これにより、SiC結晶の成長中に成長結晶に含まれ得る転位の有無を確認しつつ、継続してSiC結晶を成長させることができ、最終的に転位密度の小さい高品質のSiC結晶を結晶成長させることができる。工程(C)にて転位が検出された場合、例えば研磨、メルトバック、溶液処理等により転位を除去してから、工程(A)にて、継続してSiC結晶を成長させることができる。
【0041】
さらには、成長工程(A)において得られた結晶について、工程(B)におけるエッチングと工程(C)における検査とを繰り返して行ってもよい。
【0042】
エッチング工程(B)及び検査工程(C)を、同じ工程に組み込んで、エッチングしながら検査を行ってもよく、工程(B)及び工程(C)を別個の工程で行っても、同じ工程で行っても、本発明に係る製造方法によるエッチング及び検査を実質的に行う態様は、本発明の範囲に含まれる。
【0043】
なお、検査工程(C)において良否判定を行う場合、不合格判定がなされたSiC結晶については、SiC結晶の成長を終了してもよいし、あるいは研磨、メルトバック、アルカリ溶液処理等の既存の方法により転位を除去した後、成長工程(A)にて結晶成長を行ってもよい。
【0044】
成長工程(A)においてSiC結晶を成長させる方法としては、溶液法、昇華法等のSiC結晶の成長方法に一般的に用いられる方法を使用することができる。
【0045】
以下に、成長工程(A)におけるSiC結晶を成長方法の一例として、溶液法による成長方法の一つの例を示すが、成長方法は記載の形態に限られるものではない。
【0046】
溶液法においては、黒鉛坩堝中でSi融液またはSi融液に合金を融解し、その融液中に黒鉛坩堝からCを溶解させ、低温部に設置した種結晶基板上にSiC結晶層を析出させてSiC結晶を成長させることができる。
【0047】
図9に、本発明に係る製造方法を実施するのに用いられ得る溶液法において使用することができるSiC結晶製造装置の一例を示す断面模式図を示す。図示したSiC結晶製造装置100は、SiまたはSi/Xの融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液24の内部からSi−C溶液24の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC結晶を成長させることができる。
【0048】
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。Xは一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。例えば、坩堝内にSiに加えて、Cr、Ni等を投入し、Si−Cr溶液、Si−Cr−Ni溶液等を形成することができる。また、坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液が形成される。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
【0049】
Si−C溶液24は、その表面温度が、Si−C溶液へのCの溶解量の変動が少ない1800〜2200℃であることが好ましい。
【0050】
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
【0051】
種結晶保持軸12は、その端面に種結晶基板を保持する黒鉛の軸であり、円柱状、角柱状等の任意の形状の黒鉛軸を用いることができる。
【0052】
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われ得る。これらを一括して石英管26内に収容してもよい。断熱材18の周囲には、加熱装置が配置されている。加熱装置は、例えば高周波コイル22であることができる。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
【0053】
坩堝10、断熱材18、及び高周波コイル22等の加熱装置は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置され得る。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備えることができる。
【0054】
Si−C溶液24の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液24の内部よりも表面の温度が低くなる温度分布を形成しやすい。また、加熱装置が上段コイル22A及び下段コイル22Bを備えた高周波コイル22である場合は、上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力をそれぞれ調整することによって、Si−C溶液24の内部から表面の領域に所定の温度低下する温度勾配を形成することができる。温度勾配は、溶液表面からの深さがおよそ30mmまでの範囲で、1〜100℃/cmが好ましく、10〜50℃/cmがより好ましい。
【0055】
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、加熱装置の出力制御、Si−C溶液24の表面からの放熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成され得る。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC結晶を成長させることができる。
【0056】
次に、成長工程(A)におけるSiC結晶を成長方法の他の一例として、昇華法による成長方法の一つの例を示すが、成長方法は記載の形態に限られるものではない。
【0057】
昇華法により、SiC結晶を結晶成長させる結晶成長工程について説明する。昇華法によるSiC結晶の製造においては、種結晶基板を設置した坩堝の内部に原料となるSiC粉末を充填した後、この坩堝を結晶成長用装置の内部に設置する。次に、前記結晶成長用装置の内部を不活性ガス雰囲気とした後、減圧する。その後、前記結晶成長用装置を1800〜2400℃に昇温する。これにより、坩堝内部のSiC粉末が分解・昇華して昇華化学種(ガス)が発生し、それが結晶成長温度域に保持された種結晶の結晶成長面に到達してSiC結晶をエピタキシャル成長させることができる。
【0058】
図10は、本発明に係る製造方法を実施するのに用いられ得る昇華法において使用することができるSiC結晶製造装置の一例を示す断面模式図である。
図10に示すように、結晶成長装置500は、SiC結晶の結晶成長に十分な量のSiC原料粉末64が充填された坩堝50、及び坩堝50の側面および上下に配置された断熱材58を備えており、真空排気装置により真空排気でき且つ内部雰囲気をArなどの不活性気体で圧力制御できるガス導入口及びガス排出口を有する真空容器に入れられている。
【0059】
坩堝50の材料としては、たとえば、黒鉛などの炭素材料を用いることができる。真空容器は、石英またはステンレス等の高真空を保つ材料で作られ得る。断熱材58の材料としては、たとえば、炭素繊維などの炭素材料を用いることができる。
【0060】
坩堝50の上部の一部が円柱状に突出しており、SiC種結晶基板54を取り付ける台部62が構成され、種結晶基板54が保持される。種結晶基板54の取り付け台62への保持は、例えば黒鉛の接着剤を用いて接着され得る。
【0061】
真空容器の外部には、加熱装置が配置され、例えば真空容器の周囲に巻装した高周波コイル等により加熱を行うことができる。
【0062】
坩堝温度の計測は、例えば、坩堝下部を覆う断熱材58の中央部に直径2〜4mmの光路60を設け坩堝下部の光を取り出し、放射温度計を用いて行うことができる。この温度を原料温度とみなすことができる。坩堝上部を覆う断熱材58の中央部にも同様の光路60を設け、同様に坩堝50の温度を測定して測定することができる。これを種結晶の温度とみなすことができる。
【0063】
種結晶基板54を取り付け台62に保持させ、例えば下記のように結晶成長を行うことができる。
【0064】
真空容器内の雰囲気を高純度アルゴンガス等の不活性ガスに置換する。次に、真空容器の周囲に配置した高周波加熱コイル等の加熱装置により、真空容器及びその中に配置された坩堝50を加熱する。なお、加熱装置は高周波加熱コイルに限られるものではなく、抵抗加熱方式の装置でもよい。
【0065】
このとき、高周波加熱コイル等の加熱装置の位置等を調節して、坩堝50の上部を低温部、坩堝50の下部を高温部とするように設定する。これにより、坩堝50の下部で効率的にSiC粉末64から昇華ガスを発生させ、坩堝50の上部で前記昇華ガスを冷却して、種結晶基板54を基点としてSiC結晶を結晶成長させることができる。
【0066】
原料温度は、原料を気化しやすくして、且つ良質の結晶を成長しやすくするために、2100〜2500℃、より好ましくは2200〜2400℃に設定して成長を開始するのが望ましい。種結晶温度は原料温度に比べて40〜100℃、より好ましくは50〜70℃低く、温度勾配は5〜25℃/cm、より好ましくは10〜20℃/cmとなるように設定するのが望ましい。
【0067】
次に、坩堝50を上記設定温度とした状態で、不活性ガスをガス排出口より排出して、真空容器の内部を133.3〜13332.2Pa程度の減圧状態とすることにより、種結晶54上にSiC結晶の結晶成長を行う。一定時間、結晶成長を行うことにより、所定の大きさのSiC結晶を結晶成長させることができる。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
昇華法により作成した4H−SiC単結晶(市販n
+基板、3インチφ、300μm厚)を準備した。この4H−SiC単結晶は、{0001}面から8°のオフ角を有するC面及びSi面を有する結晶であり、これを13mm×9mm×300μmの短冊状に切断し、エッチングに用いた。
【0069】
図8に、内径45mm、長さ1000mmで、ガスの導入口及び排気口を有するセラッミックス製(HBチューブ、SiO
2:Al
2O
3=約2:3)の炉管1の断面模式図を示す。炉管1の炉内に、準備した短冊状4H−SiC単結晶及び約5mmの平均粒径を有するKOH粒(和光純薬製)1gを保持したアルミナ製ボート2(東京硝子器械製)を挿入し、キャリアガスとしてN
2ガスを毎分1リットルの流量で、炉管1の端部から炉内に導入及び他方の端部から排気しながら、炉管1の周囲に配置したタンタルヒータにより、炉内を1000℃に加熱した。1000℃にて5分間、SiC単結晶をエッチングした後、炉内を室温まで冷却し、SiC単結晶のC面について観察を行った。SiC単結晶のC面において、エッチピットが生成されない部分のエッチング量は約16.0μmであった。
【0070】
図1に、エッチングしたSiC単結晶のC面の顕微鏡写真を示す。
図1に示すように、SiC単結晶のC面に、大小2種類の六角錐状のエッチピット及び三角錐状のエッチピットがみられた。六角錐状のエッチピットのうち、大きい方が貫通らせん転位(TSD)に関連するエッチピットであり、小さい方が貫通刃状転位(TED)に関連するエッチピットであり、三角錐状のエッチピットは基底面転位(BPD)に関連するエッチピットであった。大小2種類の六角錐状のエッチピットについて、裏面のSi面のエッチングの結果と照らし合わせて、Si面の対応する位置に、同じ種類の転位が存在することが確認された。
【0071】
検出したエッチピットについて測定した密度、大きさ、及びファセット面の角度の結果を表1に示す。密度は、エッチピットの個数を計測して単位面積当たりの個数として算出し、エッチピットの大きさ及びファセット面の角度は、レーザー顕微鏡(キーエンス製、VK8500)を用いた形状解析により測定した。
【表1】
※六角錐状のエッチピットの大きさは、エッチピットの異方性六角形の対角線のうち最も長い対角線の直径であり、三角錐状のエッチピットの大きさは、エッチピットの二等辺三角形の頂点からの垂線のうち最も長い垂線の長さである。六角錐のファセット面の角度は、エッチピットの異方性六角形の対角線のうち最も長い対角線に沿った谷線のC(000−1)just面となす角度の平均である。三角錐のファセット面の角度は、エッチピットの二等辺三角形の頂点からひいた垂線のうち最も長い垂線に沿った谷線のC(000−1)just面となす角度である。
【0072】
(実施例2)
実施例1と同様の方法にて、4H−SiC単結晶及びKOHを保持したアルミナ製ボートを炉管に挿入した後、キャリアガスとしてN
2ガスを毎分0.3リットルの流量で炉管に導入及び排気しながら、炉内を950℃に加熱した。950℃にて5分間、SiC単結晶をエッチングした後、炉内を室温まで冷却し、SiC単結晶のC面について観察を行った。SiC単結晶のC面において、エッチピットが生成されない部分のエッチング量は約5.0μmであった。
【0073】
図2に、エッチングしたC面の顕微鏡写真を示す。
図2に示すように、SiC単結晶のC面に、大小2種類の六角錐状のエッチピット及び三角錐状のエッチピットがみられた。
図3に、レーザー顕微鏡(キーエンス製、VK8500)によるエッチピットの形状解析の結果を示す。大小の六角錐状エッチピットはそれぞれ貫通らせん転位及び貫通刃状転位に関連しており、ピットの大きさはそれぞれ約45um及び25umであった。三角錐状のエッチピットは基底面転位(BPD)に関連しており、ピットの大きさは約20umであった。
図3において、プロファイル1〜3として示したのは、エッチピットの断面解析の結果であり、それぞれ、貫通らせん転位に相当するピットの[11−20]、[−2110]、[1−100]と平行な方向の断面の解析結果を表しており、{0001}面から8°のオフ角を有するC面に対するファセット面の角度を示している。すなわち、プロファイル1は、27.6°及び7.0°であり、8°のオフ角があるため、C(000−1)just面とのなす角度は19.6°及び15°であり、その平均角度は17.3°である。プロファイル2は、C(000−1)just面となす角度は
図3に示した角度から若干ずれるが、その平均角度は17.2°である。プロファイル3は、プロファイル1と直交する方向なのでオフ角の影響がほとんど無く、C(000−1)just面となす角度は、19.1°及び18.1°であり、その平均角度は18.6°である。
【0074】
検出及び判別したエッチピットについて測定した密度、大きさ、及びファセット面の角度の結果を表2に示す。基底面転位のファセット面の角度は、エッチピットが小さいため測定できなかった。
【表2】
【0075】
(実施例3)
実施例1と同様の方法にて、KOH及び4H−SiC単結晶を保持したアルミナ製ボートを炉管に挿入した後、キャリアガスとしてN
2ガスを毎分1リットルの流量で炉管に導入及び排気しながら、タンタルヒータにより炉内を800℃に加熱した。800℃にて30分間、SiC単結晶をエッチングした後、炉内を室温まで冷却し、SiC単結晶のC面について観察を行った。SiC単結晶のC面において、エッチピットが生成されない部分のエッチング量は約1.8μmであった。
【0076】
図4に、エッチングしたC面の顕微鏡写真を示す。
図4に示すように、SiC単結晶のC面に、大小2種類の六角錐状のエッチピットが現れた。大きい方が貫通らせん転位に関連するエッチピットであり、小さい方が貫通刃状転位に関連するエッチピットであり、ピットの大きさはそれぞれ約6.2um及び3.7umであった。同試料をCMP研磨して同様のエッチングを行ったところ、これらの転位は検出されなかった。このことから、上記の転位検出は、SiC単結晶表面近傍の不適切な研磨により導入された欠陥を、観察することができたことを意味している。
【0077】
検出及び判別したエッチピットについて測定した密度、大きさ、及びファセット面の角度の結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
(実施例4)
昇華法により作成した4H−SiC単結晶(市販n
+基板、3インチφ、300μm厚)を準備した。この4H−SiC単結晶は、{0001}面から4°のオフ角を有するC面及びSi面を有する結晶であり、これを9mm×7mm×300μmの短冊状に切断し、エッチングに用いた。
【0080】
炉管1の炉内に、準備した短冊状4H−SiC単結晶及び約5mmの平均粒径を有するNaOH粒(和光純薬製)0.8gを保持したアルミナ製ボート2(東京硝子器械製)を挿入し、キャリアガスとしてN
2ガスを毎分1リットルの流量で、炉管1の端部から炉内に導入及び他方の端部から排気しながら、炉管1の周囲に配置したタンタルヒータにより、炉内を950℃に加熱した。950℃にて5分間、SiC単結晶をエッチングした後、炉内を室温まで冷却し、SiC単結晶のSi面について観察を行った。SiC単結晶のSi面において、エッチピットが生成されない部分のエッチング量は約5.2μmであった。
【0081】
図11に、エッチングしたSi面の顕微鏡写真及び一部を拡大した写真を示す。
図11に示すように、SiC単結晶のSi面に、深さの異なる2種類の六角錐状のエッチピットがみられた。コントラストの色が黒いものが深いエッチピットであり、色が白いものが浅いエッチピットである。六角錐状のエッチピットのうち、深い方が貫通らせん転位(TSD)に関連するエッチピットであり、浅い方が貫通刃状転位(TED)に関連するエッチピットであった。深さの異なる2種類の六角錐状のエッチピットについて、Si面のX線トポグラフの結果と照らし合わせて、対応する位置に、同じ種類の転位が存在することが確認された。基底面転位は検出されなかった。
【0082】
検出したエッチピットについて測定した密度、大きさ、及びファセット面の角度の結果を表4に示す。密度は、エッチピットの個数を計測して単位面積当たりの個数として算出し、エッチピットの大きさ及びファセット面の角度は、レーザー顕微鏡(キーエンス製、VK8500)を用いた形状解析により測定した。
【表4】
【0083】
深いエッチピット構造をレーザー顕微鏡(キーエンス製、VK9500)で観察すると、異なる転位芯構造がみられた。
図12及び13に示すように、芯近辺にみられる六角形の縞模様が対称な転位が、バーガースベクトルの方向が[0001]に平行なc転位であり、
図14に示すように、芯近辺にみられる六角形の縞模様が非対称な転位が、バーガースベクトルの方向が1/3<11−20>であるa転位と、c転位とを含むc+a混合転位である。六角形の縞模様が小さい側に余分な原子面(extra half plane)が挿入された向きを
図14中の⊥で示したように決めることができ、a転位のバーガースベクトルの方向を分類することができた。
【0084】
(実施例5)
昇華法により作成した4H−SiC単結晶(市販n
+基板、3インチφ、300μm厚)を準備した。この4H−SiC単結晶は、{0001}面のC面及びSi面(オフ角0°)を有する結晶であり、これを13mm×9mm×300μmの短冊状に切断し、エッチングに用いた。
【0085】
炉管1の炉内に、準備した短冊状4H−SiC単結晶及び約5mmの平均粒径を有するKOH粒(和光純薬製)1gを保持したアルミナ製ボート2(東京硝子器械製)を挿入し、キャリアガスとしてN
2ガスを毎分1リットルの流量で、炉管1の端部から炉内に導入及び他方の端部から排気しながら、炉管1の周囲に配置したタンタルヒータにより、炉内を1000℃に加熱した。1000℃にて5分間、SiC単結晶をエッチングした後、炉内を室温まで冷却し、SiC単結晶のSi面について観察を行った。SiC単結晶のSi面において、エッチピットが生成されない部分のエッチング量は約2.7μmであった。
【0086】
図15に、エッチングしたSi面の顕微鏡写真を示す。
図15に示すように、SiC単結晶のSi面に、六角錐状のエッチピットと浅い六角柱状のエッチピットがみられた。黒くみえる大きなエッチピットが六角錐状のエッチピットであり、矢印で示した小さなエッチピットが六角柱状のエッチピットである。コントラストの色が黒いものが深いエッチピットであり、色が白いものが浅いエッチピットである。六角錐状のエッチピットが貫通らせん転位(TSD)に関連するエッチピットであり、六角柱状のエッチピットがハーフループ転位等の浅い欠陥に関連するエッチピットであった。六角錐状のエッチピットについて、Si面のX線トポグラフの結果と照らし合わせて、対応する位置に、貫通らせん転位が存在することが確認された。貫通刃状転位と基底面転位は検出されなかった。
【0087】
(比較例1)
実施例1で使用したものと同じ4H−SiC単結晶を用いて、SiC単結晶のC面に、次のように溶融アルカリエッチングを施した。水酸化カリウム(KOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)とを1:1で混合し、330℃まで加熱し、溶融させて、融液を作成した。この融液に4H−SiC単結晶を浸漬させ、単結晶をエッチングした。
図5及び6に、エッチングしたC面の異なる2個所(位置A及び位置B)についての顕微鏡写真を示す。
図5及び6に示すように、SiC単結晶のC面には、非六角形のエッチピットがみられた。これらのエッチピットは、裏面のSi面に現れたエッチピット(転位に相当)の位置とは相関が無かったため、転位に関連しているものではないと考えられる。
【0088】
(比較例2)
実施例1と同様の構成で、440℃で30分間加熱したところ、KOHが溶解せず、試料表面に六角形のピットが形成されなかった。