(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量%で、Cr:12.5%ないし14.5%、C: 0.01%ないし0.05%、N:0.01%ないし0.05%、Si:1.0%ないし2.0%、Mn:0.1%ないし0.6%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、残りがFe、及び不純物からなり、下記の[式1]ないし[式3]を満足することを特徴とする耐食性、及び耐リッジング性が向上した低クロムフェライト系ステンレス鋼。
[式1]0.45≦10*Si/Cr≦1.7
[式2]0.03≦[C+N](wt%)≦0.07
[式3]25≦γmax(%)≦55
(ここで、γmax(%)=420C(wt%)+470N(wt%)+23Ni(wt%)+9Cu(wt%)+10Mn(wt%)+180-11.5Cr(wt%)-11.5Si(wt%)-12Mo(wt%)-52Al(wt%))。
重量%で、C:0.031%ないし0.039%、N:0.01%ないし0.025%であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性、及び耐リッジング性が向上した低クロムフェライト系ステンレス鋼。
重量%で、Ti:0.01%ないし0.20%、及びAl:0.01%ないし0.15%の中から1種または2種をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食性、及び耐リッジング性が向上した低クロムフェライト系ステンレス鋼。
前記フェライト系ステンレス鋼は、前記フェライト系ステンレス鋼の表面から深さ方向にCrの含量が、前記フェライト系ステンレス鋼に含まれた全体平均Cr含量の50%以下の不動態皮膜層を備え、
前記不動態皮膜層は、Cr原子、及びSi原子を含むが、前記Si原子がCr原子よりも多く備えられる原子層であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性、及び耐リッジング性が向上した低クロムフェライト系ステンレス鋼。
前記不動態皮膜層でSi/Cr原子パーセント比が4以上であることを特徴とする請求項4に記載の耐食性、及び耐リッジング性が向上した低クロムフェライト系ステンレス鋼。
2.85[Si]+76.4[C+N](wt%)が、8.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性、及び耐リッジング性が向上した低クロムフェライト系ステンレス鋼。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、その他の実施例の具体的な事項は、詳細な説明、及び図面に含まれている。本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は添付される図面と共に詳細に後述されている実施例を参照すれば明確になるだろう。しかし、本発明は、以下に開示される実施例に限定されるものではなく、異なる多様な形態で具現することができ、以下の説明ではある部分が他の部分と連結されているとしたとき、これは、直接連結されている場合のみならず、その中間に他の素子を間に置いて電気的に連結されている場合も含む。また、図面では、本発明と関係のない部分は、本発明の説明を明確にするために省略し、明細書全体を通じて類似した部分については同一の符号を付した。
【0018】
以下、添付した図面を参照して本発明について説明する。本発明の好適な実施例による耐食性、及び耐リッジング性の向上した低クロムフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Cr:10.0%ないし15.0%、C:0.01%ないし0.05%、N:0.01%ないし0.05%、Si:0.7%ないし2.0%、Mn:0.01%ないし2.0%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、残りのFe、及び不純物を含み、下記の式1ないし式3を満足する。
【0019】
[式1]0.45≦10*Si/Cr≦1.7
[式2]0.03≦[C+N](wt%)≦0.07
[式3]25≦γ
max(%)≦55
(ここで、γ
max(%)=420C(wt%)+470N(wt%)+23Ni(wt%)+9Cu(wt%)+10Mn(wt%)+180-11.5Cr(wt%)-11.5Si(wt%)-12Mo(wt%)-52Al(wt%))。
【0020】
また、前記低クロムフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、Ti:0.01%ないし0.20%、及びAl:0.01%ないし0.15%の中から1種または2種をさらに含むことができる。以下では、特に言及がなければ、含量は重量%を意味する。
【0021】
クロムCrの量は、10.0wt%ないし15.0wt%である。クロムは、鋼の耐食性を向上させるために添加する合金元素で、クロムの臨界量は10wt%である。前記クロムが10.0wt%未満で含まれる場合には、フェライト系ステンレス鋼の耐食性が低下して問題になる。
【0022】
一方、前記クロムが15.0wt%を超えて含まれる場合には、炭素、及び窒素が含有されたフェライト系ステンレス鋼は、粒堺腐食が起こりやすくて、製造コストの増加を不要に増加させるため、前記クロムは10.0wt%ないし15.0wt%に含有されることが望ましい。
【0023】
炭素Cの量は、0.01wt%ないし0.05wt%である。前記炭素は、鋼のオーステナイト安定化元素であるため、オーステナイトの分率を最大化する作用をしてローピング、及びリッジングを抑制する効果があるので、前記炭素は、0.01wt%以上で含まれることが望ましい。反面、前記炭素が過剰に含まれるようにすると、延伸率を低下させ、製品の加工性を著しく低下させるので、0.1wt%以下に含むことができる。
【0024】
前記延伸率は、フェライト系ステンレス鋼の冷延製品の加工性を示す品質特性の一つとして、広く通用する用語であり、前記フェライト系ステンレス鋼の冷延製品を1軸引張したとき、破断が起こる瞬間まで延伸された量を初期の長さで除した値から計算する。
【0025】
窒素Nの量は、0.01wt%ないし0.05wt%である。前記窒素は、オーステナイトの分率を増加させる役目をして熱間圧延時にオーステナイト相を析出させ、再結晶を促進させる役目をするので、0.01wt%以上で含まれるが、反面、前記窒素が多量に添加されると、加工性を阻害させるだけでなく、冷延製品のストレッチャーストレインの原因となるため、その含量を0.05wt%以下に制限する。
【0026】
シリコンSiの量は、0.7wt%ないし2.0wt%である。シリコンは、製鋼時に脱酸剤として添加される元素で、フェライト安定化元素であるため、0.7wt%以上で含有されることがよい。反面、前記シリコンが多量に含有されると、材料の硬化を起こして軟性を低下させるため、2.0wt%以下で含有されることが望ましい。本発明では、Crの含量を低下させたため、Siを前述した範囲内に管理しても優れた成形性の確保が可能である。
【0027】
マンガンMnの量は、0.01wt%ないし2.0wt%である。マンガンは、鋼中に不可避に含まれる不純物であるが、オーステナイト安定化元素であるため、ローピング、及びリッジングを抑える役目をする。反面、前記マンガンが多量に含まれる場合、溶接時にマンガン系ヒューム(Fume)が発生し、MnS相析出の原因となって、延伸率を低下させるため、その含量を前述した範囲に制限する。
【0028】
リンPの量は、0.035wt%以下である。リンは、鋼中に不可避に含まれる不純物で、前記リンが0.035wt%を超える場合には、酸洗時に粒界腐食を起こしたり、または熱間加工性を阻害させるため、その含量を前述した範囲に調節する。
【0029】
硫黄Sの量は、0.01wt%以下である。硫黄Sは、鋼中に含まれる不可避な不純物で、前記硫黄Sが0.01wt%を超える場合には、結晶粒界に偏析して熱間加工性を阻害させるため、その含量を前述した範囲に制限する。
【0030】
チタンTiの量は、0.01wt%ないし0.20wt%である。チタンは、鋳片組織の等軸晶粒度を微細化させる役目をする元素で、炭素、窒素などを固定して加工性を向上させる役目をするので、0.01wt%以上に添加されることが望ましい。反面、前記チタンが0.20wt%を超えて添加される場合には、ステンレス鋼の製造コストの増加、及び冷延製品のスリーブ(Sliver)欠陥の原因となるため、その含量を前述した範囲に制限する。
【0031】
アルミニウムAlの量は、0.01wt%ないし0.15wt%である。アルミニウムは、製鋼時に脱酸剤として0.01wt%以上に添加されることが望ましいが、前記アルミニウムが0.15wt%を超えて添加される場合には、非金属介在物として存在して冷間圧延ストリップのスリーブ欠陥の原因となり、溶接性の低下を起こすため、その含量を前述した範囲に制限する。前述した要素を除いたフェライト系ステンレス鋼の残りの部分は、鉄Fe、及びその他の不可避な不純物からなる。
【0032】
また、本実施例によるフェライト系ステンレス鋼で、シリコンSi、及びクロムCrは、下記式1を満足し、炭素C、及び窒素Nは、下記式2を満足し、γ
max%は、下記式3を満足することができる。
【0033】
[式1]0.45≦10*Si/Cr≦1.7
[式2]0.03≦[C+N](wt%)≦0.07
[式3]25≦γ
max(%)≦55
(ここで、γ
max(%)=420C(wt%)+470N(wt%)+23Ni(wt%)+9Cu(wt%)+10Mn(wt%)+180-11.5Cr(wt%)-11.5Si(wt%)-12Mo(wt%)-52Al(wt%))。
【0034】
本実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、シリコン、及びクロムの割合が[式1]の[10*Si/Cr]は、0.45以上ないし1.7以下でありえる。前記[10*Si/Cr]が0.45未満の場合には、前記フェライト系ステンレス鋼は、塩害腐食の影響を受けやすい。ここで、前記塩害腐食の程度は5wt%NaCl(aq)を用いた塩害腐食の評価によって確認することができる。
【0035】
前記塩害腐食の評価は、フェライト系ステンレス鋼を噴霧→乾燥→浸漬→乾燥を1サイクルで1日間進行する腐食サイクル腐食試験であり、フェライト系ステンレス鋼を前記腐食試験で50日連続で腐食サイクルを行った後、前記フェライト系ステンレス鋼の腐食深さを測定して確認することができる。ここで、1サイクル内で噴霧→乾燥→浸漬に割り当てられる時間の比は、略1:2:1程度である。この時、腐食の深さがフェライト系ステンレス鋼の板厚の1/3以上である場合には、塩害腐食の評価において不合格を意味する。前記[10*Si/Cr]が0.45未満で含まれるフェライト系ステンレス鋼は、前記塩害腐食の評価で腐食深さが板厚の1/3以上を示し、したがって、所定の塩害腐食に対する剛性を持つためにはフェライト系ステンレス鋼は、[10*Si/Cr]が0.45以上であることが望ましい。反面、前記[10*Si/Cr]が1.7を超えた場合には、フェライト系ステンレス鋼の延伸率が低下して問題になりうる。
【0036】
フェライト系ステンレス鋼は、炭素、及び窒素の合計が[C+N](wt%)が前記[式2]のように、0.03以上ないし0.07以下で含まれることができる。前記[C+N](wt%)が0.03未満の場合には、熱間圧延区間でオーステナイトの分率が低くなり、熱間圧延組織の微細化、及び鋳造組織の破壊が行われないため、最終製品のリッジングの劣化をもたらす。前記リッジングは、フェライト系ステンレス鋼を成形加工する時圧延方向に平行にシワの形態で発生する表面欠陥であることにより、前記リッジングは、製品の外観を悪くするだけでなく、成形性を低下させる。また、リッジングがひどく発生した場合、成形後に追加の研磨工程を必要とするので、最終製品の製造コストを上昇させる原因となる。一方、[C+N](wt%)が0.07を超える場合には、フェライト系ステンレス鋼の耐リッジング性は優れるが、高炭素、及び窒素の含量に起因して延伸率の劣化をもたらす。
【0037】
また、本実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、[式3]のようにγ
max(%)が25以上ないし55以下であることが望ましいが、前記γ
max(%)が25未満の場合には、オーステナイトの分率が低くなって熱間圧延組織の微細化、及び鋳造組織の破壊が行われないため、最終製品のリッジングの劣化をもたらす。γ
max%が55を超える場合には、耐リッジング性は優れるが、耐食性の劣化をもたらす。
【0038】
前記フェライト系ステンレス鋼は、前記フェライト系ステンレス鋼の表面から深さ方向にクロムの含量が、前記フェライト系ステンレス鋼に含まれた全体平均クロムの含量の50%以下の不動態皮膜層とを備え、前記不動態皮膜層は、Cr原子、及びSi原子を含むが、前記Si原子がCr原子よりも多く備えられる原子層を含むことができる。ここで、前記Cr原子は、例えば、Crを含む酸化物などの化合物に含まれるCrを含むことができ、また、前記Si原子は、例えば、Siを含む酸化物などの化合物に含まれるSiを含むことができる。この時、前記不動態皮膜層でSi/Cr原子比が4以上でありえる。また、前記不動態皮膜層は、例えば、フェライト系ステンレス鋼に含まれた全体平均クロムの含量が15wt%である場合には、前記全体平均クロムの含量の50%以下である略7.5wt%以下のクロムを含有する層を意味する。
【0039】
通常、フェライト系ステンレス鋼は、最終製品の耐食性の要求レベルを満足するために、一般的に高価なクロムCrなどの元素を添加して耐孔食性及び耐塩害腐食性を改善させる。このような鋼種としては、16wt%以上のクロムを含有した鋼である430鋼を挙げることができる。反面、前記クロムなどのような元素は、ステンレス鋼の単価を上昇させ、高合金化による成形性の低下を引き起こす。
【0040】
一方、本実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、低コストで前記430鋼を代替することができる特性を備えている。前記本実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、クロムの含量を低下させながら炭素C、窒素N、クロムCrの含量を調節して、430鋼の表面品質、及び成形特性を同等以上維持しながら、シリコンSiを添加して冷延製品の前記不動態皮膜層でのSi/Cr原子比を4以上に制御して430鋼に比べて低Cr含量でも430鋼と同等レベルの耐食性を確保することができる。
【0041】
例えば、前記不動態皮膜層は、フェライト系ステンレス鋼の表面から略3nmないし7nmの深さで備えられている。また、前記フェライト系ステンレス鋼は、不動態皮膜層でSi/Cr原子比が4以上であることが望ましいが、本実施例のようにクロムが10.0wt%ないし15.0wt%で含まれたフェライト系ステンレス鋼では、前記Si効果によりフェライト系ステンレス鋼の表面にSi-O層のナノ層(nano-layer)を形成させることにより、耐孔食性を向上させ、塩害腐食抵抗性を増加させることができる。
【0042】
図1Aは、本発明の望ましい実施例によるフェライト系ステンレス鋼の不動態皮膜層の成分を示した図、
図1Bは、本発明の望ましい実施例によるフェライト系ステンレス鋼の深さに応じた成分の濃度を示したグラフである。
図2は、通常のフェライト系ステンレス鋼の深さに応じた成分の濃度を示すグラフである。
図3Aは、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を示した図、
図3Bは、フェライト系ステンレス鋼の熱間圧延時のリッジング形成の有無を示す図である。
【0043】
図1A及び
図1Bを参照すると、本実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、前記フェライト系ステンレス鋼の表面である不動態皮膜層(Passive Film)にSi-O層のナノ層が形成されていることを確認することができる。
【0044】
図1Aは、本実施例によるフェライト系ステンレス鋼の冷延製品の不動態皮膜層を分析した結果で、前記不動態皮膜層は、3DAP-3Dimension Atomic Probe装置を活用して、試験片の原子スパッタリングによる質量分析、及び位置分析を通じて原子単位の3次元位置分析を行なった結果を示す。前記不動態皮膜層では、Si原子がCr原子よりも多く含まれている。反面、
図2の場合には、不動態皮膜層にSi原子、及びCr原子が概ね同じ量が含まれている。
【0045】
図1B及び
図2において、不動態皮膜層は、クロムの含量が全体平均クロムの含量である15wt%の50%以下の部分を意味するもので、例えば、フェライト系ステンレス鋼に含まれた全体平均クロムの含量は略15wt%である場合(グラフからクロムの含量が深さと関係なく概ね一定の部分)、この時の不動態皮膜層は、クロムの含量が7.5wt%以下の部分を意味することができる。
【0046】
図3Aは、
図1B、及び
図2によるフェライト系ステンレス鋼の耐食性を確認した結果で、
図3Bは、
図1B、及び
図2によるフェライト系ステンレス鋼の熱間圧延時にリッジング発生の程度を確認した図である。
【0047】
図3Aは、不動態皮膜層においてのSi原子、及びCr原子の含量に応じた耐食性を評価した結果である。
図3Aにおいて、(a)は、
図2による不動態皮膜層のSi原子、及びCr原子が概ね同じ量である場合のフェライト系ステンレス鋼に関するものであり、耐食性が劣位であることを確認することができた。
【0048】
反面、
図3Aにおいて、(b)は、
図1Bによる不動態皮膜層のSi原子がCr原子よりも多く備えられた場合を示した図であり、耐食性に優れていることが確認できた。すなわち、
図1Bのように、不動態皮膜層にSi原子が多く含まれた場合には、耐腐食性に有利に作用することが確認できた。
【0049】
また、
図3Bは、不動態皮膜層でのSi原子、及びCr原子の含量に応じたリッジング性を評価した結果である。
図3Bの(a)は、
図2に示した不動態皮膜層でのSi原子、及びCr原子が類似したフェライト系ステンレス鋼に関するもので、熱間圧延時にリッジングが発生する。これは、フゥリー・フェライト(Fully-Ferrite)単相の熱延で粗大結晶粒が発達して耐リッジング性が劣位であることを確認することができる。
【0050】
反面、
図3Bの(b)は、
図1Bのように不動態皮膜層にSi原子がCr原子よりも多く含まれたフェライト系ステンレス鋼に関するもので、熱間圧延時にリッジングが発生しないことを確認することができた。これは、不動態皮膜層に備えられた比較的に多いSi原子は、前記フェライト系ステンレス鋼の表面にSi-O層を形成するので、これによって、熱間圧延時に
図3Bの(b)に示したようにリッジングが発生せず、優れた表面品質を持つ。不動態皮膜層にSi原子がCr原子よりも多く含まれたフェライト系ステンレス鋼は、セミ-フェライト(Semi-Ferrite)相変態の存在で熱延時に結晶粒微細化により耐リッジング性が優秀であることを確認することができる。
【0051】
したがって、フェライト系ステンレス鋼は、不動態皮膜層にSi原子がCr原子よりも多く含まれることが望ましい。また、前記フェライト系ステンレス鋼で、 不動態皮膜層のSi/Cr原子比が4未満の場合には、Si-O層のナノ層が十分に形成されるのが難しくなりうるので、前記フェライト系ステンレス鋼の不動態皮膜層には、Si/Cr原子比が4以上であることがより望ましい。
【0052】
以下、本発明の実施例、
参考例、及び比較例を記載する。しかし、下記の実施例は、本発明の望ましい一実施例にすぎず、本発明の権利範囲が下記の実施例により限定されるものではない。
【0053】
下記表1では、フェライト系ステンレス鋼である実施例、
参考例、及び比較例の合金成分を示した。表1の実施例
、参考例、及び比較例では、炭素C、窒素N、シリコンSi、及びクロムCrの含量を制御したもので、下記実施例、
参考例、及び比較例では、真空溶解して成分を確認した。
【0054】
表1による実施例、
参考例、及び比較例は、粗圧延機と連続仕上げ圧延機によって熱延板のフェライト系ステンレス鋼に製造し、その後、熱間圧延相焼鈍(または連続焼鈍)をし、続いて冷間圧延、及び冷間圧延焼鈍を施した。表2では、表1による実施例、
参考例、及び比較例の[10*Si/Cr]、[C+N]wt%、及びγ
max%を示しており、表3では、表1による実施例、
参考例、及び比較例の最終冷延製品の代表的な品質である耐リッジングの等級、孔蝕電位の等級、平均延伸率(%)、平均r値、塩害腐食の評価(塩害腐食抵抗性)などを確認した結果を示した。また、前記実施例、
参考例、及び比較例の最終冷延製品での不動態皮膜層(Passive film layer)でのSi原子とCr原子との比
(原子%の比)を示した。
【0056】
表3を含む本実施例において耐リッジングの等級(Rt基準)で[1等級]は、10μm〜12μm、[2等級]は、12μm〜14μm、[3等級]は、14μm〜16μm、[4等級]は、16μm〜18μm、[5等級]は18μm〜20μmを表し、ここで1等級、及び2等級が本発明の目的とする範囲に該当する。
【0057】
また、孔蝕電位の等級(mV)で[1等級]は、150mV〜200mV、[2等級]は、150mV〜80mV、[3等級]は、80mV〜30mV、[4等級]は、30mV未満にしており、孔蝕電位は、(JIS G 0577)規格に基づいて表面を研磨した後、3.5%NaCl溶液中で(Icrit=100μA)で孔蝕が発生する電位値を基準にして確認した。延伸率または平均Elは、厚さが0.5mmの冷延焼鈍材に対する値を表し(平均El=(El
0+2El
45+El
90)/4)、具体的に延伸率は、ステンレス鋼冷延製品の加工性を示す品質特性の一つとして、広く通用される用語であり、ステンレス鋼冷延製品を1軸引っ張りしたとき、破断が起こる瞬間まで延伸された量を初期長さで割った値から計算する。
【0058】
平均r値は、厚さが0.5mmの冷延焼鈍材に対する平均値を示す(平均r値=(r
0+2r
45+r
90)/4)。このとき、前記平均r
aの値は、冷延製品の圧延方向と引っ張り方向の角度がaであるときのrの値を指す。塩害腐食抵抗性は、塩害環境での評価で5wt%NaCl溶液(50℃)を利用して、噴霧→乾燥→浸漬→乾燥の1サイクルを1日間とする腐食サイクル腐食試験で、50日連続実施し、腐食深さの測定時にその深さが板厚の1/3以下の場合を合格、1/3以上の場合を不合格と評価した。
【0059】
表1〜表3を検討すると、実施例1ないし
5、参考例6、実施例7ないし9、参考例10の場合には、[10*Si/Cr]が0.45ないし1.7以下であり、[C+N](wt%)は、0.03ないし0.07を満足する。また、実施例1ないし
5、参考例6、実施例7ないし9は、γ
max%においても25以上ないし55以下を満足する。反面、比較例1、2、及び6、7は、[C+N](wt%)がそれぞれ0.08、0.015、0.015、0.08で[式2]の範囲(0.03≦[C+N](wt%)≦0.07)を満足せず、比較例
3〜7では、[10*Si/Cr]が[式1]の範囲(0.45≦10*Si/Cr≦1.7)を満足しなかった。また、
参考例10、及び比較例2、5、6では、それぞれγ
max%は、
24.26、17.9、13.05、2.05で[式3]の範囲(25≦γ
max%≦55)を満足しなかったことを確認することができた。
【0060】
実施例1ないし
5、及び7ないし9のように、炭素C、クロムCr、シリコンSi、及び窒素Nを制御して、本発明の組成範囲を満足し、前記[式1]ないし[式3]をすべて満足する場合には、表3のように耐リッジングの等級2等級以上、孔蝕電位の等級2等級以上、平均El(%)29%以上、平均r値1.0以上、そして優れた塩害腐食抵抗性を持つことを知ることができ、したがって、実施例1ないし
5、及び7ないし9は、クロムの含量を減少させ、430鋼に比べて単価を下げると同時に、常用されている430鋼に相当する品質を持つことを確認できた。ここで、r値は、ステンレス鋼冷延製品の引っ張り時に幅方向の
変形率と厚さ方向の変形率の比で定義される値として、rの値が高い素材は、加工性が優れているものとしてよく知られている。
【0061】
反面、比較例1、7は、[C+N](wt%)が0.08wt%で高い値を持つことを確認することができ、したがって、それぞれの平均El(%)が26、23で延伸率が低いことを確認できた。また、平均r値もそれぞれ0.8、0.7を示しており、これは、成形性が良好でないことを確認できた。また、比較例2、6では、[C+N](wt%)が0.015wt%で低い値を持っており、耐リッジング性は、それぞれ5等級、及び4等級で劣位であることを確認することができた。
【0062】
比較例3、4では、それぞれクロムCrの含量が13.5wt%、13.7wt%であり、シリコンSiの含量が0.3wt%、0.5wt%である時、孔蝕電位の等級がすべて3等級で劣位であり、塩害腐食抵抗性においても不合格であることを確認することができた。これは、クロムの含量の低いフェライト系ステンレス鋼で、シリコンの含量をも同様に低い場合には、不動態皮膜層が十分に形成されにくく、孔蝕電位の等級、及び塩害腐食抵抗性の性能が低下するからである。
【0063】
比較例5ないし7では、クロムの含量がそれぞれ14wt%、13.5wt%、13.5wt%であり、シリコンの含量はそれぞれ2.5wt%、3wt%、3wt%であることを確認することができた。この時、前記比較例5ないし7のEl(%)は、それぞれ26、27、23で延伸率が低下することを確認することができた。これは、比較例5ないし7のフェライト系ステンレス鋼でクロムの含量に対するシリコンの含量が相対的に高いからである。したがって、フェライト系ステンレス鋼でクロムの含量に対するシリコンの含量を制御する必要があり、前記クロムの含量を減少させる場合には、シリコンの含量を適切に増加させる必要があることを確認することができる。
【0064】
以下、表4、及び表5は、本発明の組成範囲に該当する実施例11ないし15に関するもので、前記実施例11ないし15に対してフェライト系ステンレス鋼の耐リッジングの等級、孔蝕電位の等級、延伸率(平均E(l%))、平均r値、及び塩害腐食抵抗性を確認した。表4、及び表5の実施例11ないし15は、前記表1ないし表3による方法で製作したフェライト系ステンレス鋼を用いて、前述した方法と同様に評価した。
【0066】
表4、及び表5に記載された実施例11ないし15では、[式1](0.45≦10*Si/Cr≦1.7)、[式2](0.03≦[C+N]wt%≦0.07)、及び[式3](25≦γ
max%≦55)を満足するもので、実施例11ないし15は、重量%で、Cr:12.5%ないし14.5%、C:0.031%ないし0.039%、N:0.01%ないし0.025%、Si:1.0%ないし2.0%、Mn:0.1%ないし0.6%でありえる。
【0067】
実施例11ないし15は、耐リッジングの等級は1等級であり、孔蝕電位の等級はすべて1等級であることが確認できた。また、平均El(%)は、全て32以上であり、平均r値は1.3以上であり、塩害腐食抵抗性は、全て合格した。つまり、フェライト系ステンレス鋼で、Crを12.5%ないし14.5%に低減した場合には、Siを1.0%ないし2.0%に添加し、Nは0.01%ないし0.025%であり、Cは0.031%ないし0.039%であり、Mnは0.1%ないし0.6%で添加され、同時に[式1]ないし[式3]を満足する場合には、クロムの含量を削減しても耐食性、及び耐リッジング性などが非常に優れており、同時に生産コストを削減することができるフェライト系ステンレス鋼を提供することができることを確認できた。また、前記実施例11ないし15は、高い平均r値を持っており、そのために加工性にも優れることが確認できた。このように、前記実施例11ないし15は、従来の430鋼に比べて単価が削減されるだけでなく、430鋼よりも優れた品質を持つことを確認することができた。
【0068】
図4は、Si/Cr原子比に対する平均El(%)を確認したグラフである。Si/Cr原子比は、フェライト系ステンレス鋼の不動態皮膜層、例えば、略7nm程度で確認した結果として、前記Si/Cr原子比が4以上である場合には、塩害腐食抵抗性が優れていることが確認できた。つまり、Crが12.5%ないし14.5%である低クロム含有のフェライト系ステンレス鋼においてもSiの効果によって、フェライト系ステンレス鋼の表面にSi-O層のナノ層を形成させることにより、耐孔食性の向上、及び塩害腐食抵抗性を向上させることができる。
【0069】
反面、Si/Cr原子比が4未満の場合、例えば、略0ないし2の場合には、塩害腐食抵抗性が不合格であることを確認することができた。また、点線で表示した四角ボックスの中に本発明に該当する鋼として、重量%で、Cr:12.5%ないし14.5%、C:0.031%ないし0.039%、N:0.01%ないし0.025%、Si:1.0%ないし2.0%、Mn:0.1%ないし0.6%を満足するフェライト系ステンレス鋼がある。この時、Si/Cr原子比が4以上である場合には、塩害腐食抵抗性が優れている反面、本発明による[式1]ないし[式3]のうちいずれか一つ以上を満足しない場合には、点線で表示した四角のボックスの外側に存在し、平均El(%)が28未満を示すことを確認することができた。
【0070】
図5は、Si、C、及びNの関係に応じた平均El(%)を示したグラフである。
図5を参照すると、x軸2.85[Si]+76.4[C+N](wt%)とy軸の平均Elとの相関性を示す。本実施例では、2.85[Si]+76.4[C+N](wt%)の数値が8.5以下の場合、平均El(%)が28以上を示すことを確認することができた。つまり、平均El(%)は、延伸率を示すものであり、2.85[Si]+76.4[C+N](wt%)は、8.5以下を満足するフェライト系ステンレス鋼の場合、延伸率が向上することを確認することができた。
【0071】
前記加工性を示す品質特性の一つとして、前記2.85[Si]+76.4[C+N](wt%)が8.5以下の場合には、延伸率が向上し、フェライト系ステンレス鋼の加工性を向上させ、フェライト系ステンレス鋼の用途を多様化することができる。つまり、Siの含量が0.7%ないし2.0%であるフェライト系ステンレス鋼で[C+N]の関係を前記2.85[Si]+76.4[C+N](wt%)で制御することにより、延伸率、及び耐リッジング性が同時に優れたフェライト系ステンレス鋼を提供することができる。
【0072】
図6は、Si、C、及びNの関係に応じた平均r値を示したグラフである。
図6を参照すると、フェライト系ステンレス鋼の冷延製品の成分パラメータである0.13[Si]+8.68[C+N](wt%)と平均r値との相関性を確認することができる。
【0073】
本実施例において、0.13[Si]+8.68[C+N](wt%)が0.75以下で、平均r値が1.0以上であることを確認することができた。前記平均r値は、フェライト系ステンレス鋼の冷延製品の圧延方向と引っ張り方向との関係を示した値であり、前記平均r値が大きいほど、フェライト系ステンレス鋼の加工性が向上する。
【0074】
本実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、0.13[Si]+8.68[C+N](wt%)が0.75以下である場合、平均r値が1.0以上を満足することを確認することができた。つまり、Siの含量が0.7%ないし2.0%であるフェライト系ステンレス鋼で[Si]と[C+N]との関係を0.13[Si]+8.68[C+N](wt%)を0.75以下に制御することにより、r値、及び耐リッジング性が同時に優れたフェライト系ステンレス鋼の冷延製品を製造することができる。
【0075】
図7は、γ
maxによるリッジングを確認したグラフである。
図7を参照すると、フェライト系ステンレス鋼でγ
max(%)が25未満の場合には、オーステナイトの分率が低くなり、熱間圧延組織の微細化、及び鋳造組織の破壊が行われず、最終製品の耐リッジング性が劣化され、かつγ
max(%)が55を超える場合には、フェライト系ステンレス鋼の耐リッジング性は優れるが、耐食性の劣化をもたらす。図のように、本実施例によるフェライト系ステンレス鋼のγ
max(%)は、28ないし52であり得、この際、リッジングは15nm以下で非常に良好であることを確認することができた。
【0076】
以上のように、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須特徴を変更せずに他の具体的な形で実施することができることを理解できるだろう。したがって、上述した実施形態はすべての面から例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。さらに、本発明の範囲は、上記の詳細な説明よりは特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲そしてその均等概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものろ解釈されるべきである。