(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023489
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】非円形歯車
(51)【国際特許分類】
F16H 19/02 20060101AFI20161027BHJP
【FI】
F16H19/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-157027(P2012-157027)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-20397(P2014-20397A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】500010646
【氏名又は名称】株式会社ティー・エス・ジー
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 世緯二
(72)【発明者】
【氏名】田川 正美
【審査官】
高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−004550(JP,U)
【文献】
特開2008−240389(JP,A)
【文献】
米国特許第04112840(US,A)
【文献】
実開昭48−081273(JP,U)
【文献】
特開平10−002397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/06
F16H 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非円形の歯車基体からなり、
前記歯車基体の周面の少なくとも一部に形成され、複数の歯が直線状に配置される直線状の歯列部及びこれに連続して複数の歯が円弧形状に配置されている円弧状の歯列部と、
前記歯車基体の両面間に貫通して、前記円弧状の歯列部の円弧形状の中心を終端又は始端として前記直線状の歯列部と平行に形成され、歯車取付面に固定されるシャフトを通すためのシャフト挿通部と、
前記歯車基体の一方の面に前記シャフト挿通部と平行に形成され、歯車取付面に設けられる直動ガイドに係合させるためのガイド係合部と、
を備え、
前記ガイド係合部はシャフト挿通部の周縁部に突状に形成され、前記ガイド係合部と直動ガイドとの係合案内により、歯車基体は直線運動及び回転運動を行う、
ことを特徴とする非円形歯車。
【請求項2】
非円形の歯車基体は任意の角丸多角形に形成されている請求項1に記載の非円形歯車。
【請求項3】
シャフト挿通部は歯車基体に当該歯車基体の外形と略同じ形状に形成されている請求項1又は2に記載の非円形歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非円形歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転軸の回転運動を他の回転軸に加速して又は減速して伝達したり、回転軸の回転運動を直線運動に変換したりするために、歯車が用いられている。
例えば、回転軸の回転運動を他の回転軸に伝達する場合、駆動側の円形歯車と従動側の円形歯車が用いられる。この場合、駆動側の歯車に対して従動側の歯車が噛み合わされ、駆動側の歯車を回転駆動すると、この歯車からトルクを受けて従動側の歯車が回転される。この種の歯車が例えば特許文献1などに開示されている。
また、回転軸の回転運動を直線運動に変換する場合、円形歯車(ピニオンギヤ)と直線状に歯切りをしたラックが用いられる。この場合、円形歯車にラックが噛み合わせられ、円形歯車に回転力を加えると、ラックが歯すじが設定された末端まで直線的に動かされる。この種の歯車が例えば特許文献2などに開示されている。
【0003】
ところで、これらの歯車はいずれも円形の歯車であり、回転運動を一定の角速度で伝達し、通常、回転比の変換、回転方向の変換、及び動力の伝達などに利用されている。この円形歯車の場合、角速度の変換は不可能である。
これに対して、角速度を変化させながら回転運動を伝達できる歯車が従来において提案されており、略楕円形状の歯車などの非円形歯車が周知である。例えば、駆動側の歯車と従動側の歯車にそれぞれ略楕円形状の歯車を用い、駆動側の歯車に従動側の歯車を噛み合わせ、駆動側の歯車を一定角速度で回転させると、従動側の歯車の回転角速度を不定とすることができる。この種の歯車が例えば特許文献1などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−184852号公報
【特許文献2】特開2002−327822公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の歯車では、円形歯車の場合でも、非円形歯車の場合でも、回動軸を中心に回転運動するだけで、歯車それ自体が直線的な運動、回転方向の運動及びその組み合わせからなる複合的な運動を取り得るものではなく、かかる運動を動力伝達系に取り入れる必要がある場合に、他の手段を併せて使用する必要がある、という問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、直線的な運動、回転方向の運動及びその組み合わせからなる複合的な運動を取り得る新規な非円形歯車を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の非円形歯車は、非円形の歯車基体からなり、前記歯車基体の周面の少なくとも一部に形成され、複数の歯が直線状に配置される直線状の歯列部及びこれに連続して複数の歯が円弧形状に配置される円弧状の歯列部と、前記歯車基体の両面間に貫通して、前記円弧状の歯列部の円弧形状の中心を終端又は始端として前記直線状の歯列部と平行に形成され、歯車取付面に固定されるシャフトを通すためのシャフト挿通部と、前記歯車基体の一方の面に前記シャフト挿通部と平行に形成され、歯車取付面に設けられる直動ガイドに係合させるためのガイド係合部とを備えた、ことを要旨とする。
この場合、非円形歯車は各部に次のような構成が採用される。
(1)非円形の歯車基体は任意の角丸多角形に形成される。
(2)シャフト挿通部は歯車基体に当該歯車基体の外形と略同じ形状に形成される。
(3)ガイド係合部はシャフト挿通部の周縁部に突状に形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非円形歯車は、上記の構成により、歯車基体の周面に直線状の歯列部及び円弧状の歯列部を有しており、直線状の歯列部と円形歯車が噛み合わされて駆動されると、非円形歯車の直線状の歯列部と平行なシャフト挿通部と歯車取付面のシャフトとの係合により、非円形歯車の直線状の動きが許容され、非円形歯車のガイド係合部と歯車取付面の直動ガイドとの係合案内により、非円形歯車は全体が直動ガイドに沿って直動し、また、円弧状の歯列部と円形歯車が噛み合わされて駆動されると、シャフト挿通部の終端又は始端と歯車取付面のシャフトとの係合案内により、非円形歯車は全体が円弧状の歯列部の円弧形状の中心を回動中心として回動する。このようにして非円形歯車は直線的な運動、回転方向の運動、及びその組み合わせからなる複合的な運動を選択的に取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明による第1の実施の形態における非円形歯車の構成を示す図((a)は平面図(b)は一方の端部側から見た断面図)
【
図3】本発明による第2の実施の形態における非円形歯車の構成を示す図
【
図4】本発明による第3の実施の形態における非円形歯車の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。
図1に第1の実施の形態を示している。
図1に示すように、非円形歯車1は非円形の歯車基体11からなり、この歯車基体11の周面に複数の歯12からなる歯列部121、122が形成され、また、歯車基体11の両面111、112間にシャフトを通すためのシャフト挿通部13、一方の面111に直動ガイドに係合させるためのガイド係合部14がそれぞれ形成されて構成される。
【0011】
歯車基体11はプラスチック材料又は金属材料により全体が任意の角丸多角形などの非円形に形成される。この場合、歯車基体11は全体がプラスチック材料により角丸長方形に形成されて、周面が、平行で長さが等しい2つの直線部113、113と、その両側で同径の半円形をなす2つの円弧部114、114になっている。
【0012】
複数の歯12からなる歯列部121、122は歯車基体11の周面の全部又は一部に形成される。この場合、歯列部121、122は複数の歯12が歯車基体11の周面に全体に亘って同じピッチで一体に形成され、歯車本体11の周面の各直線部113、113に複数の歯12が直線状に配置されて直線状の歯列部121、121が設けられ、これに連続する各円弧部114、114に複数の歯12が円弧形状に配置されて円弧状の歯列部122、122が設けられる。
【0013】
シャフト挿通部13は歯車基体11の両面111、112間に貫通して、円弧状の歯列部122、122の円弧形状の中心を終端又は始端として直線状の歯列部121と平行に形成される。この場合、シャフト挿通部13は歯車基体11の両面111、112間に貫通して、一方の円弧状の歯列部122の円弧形状の中心を始端とし、他方の円弧状の歯列部122の円弧形状の中心を終端として直線状の歯列部121と平行に、全体として歯車基体11の外形と略同じ角丸長方形に形成される。なお、シャフト41は非円形歯車1を歯車取付面4に取り付けるためのもので、この非円形歯車1が取り付けられる歯車取付面4に固定される。
【0014】
ガイド係合部14はこの歯車基体11の一方の面111にシャフト挿通部13と平行に形成される。この場合、ガイド係合部14は、この非円形歯車1の歯車取付面4への取付状態で歯車取付面4に対向する側の面111で、シャフト挿通部13の周縁部に沿って平行に断面四角形の一連の凸状に、全体として角丸長方形の枠状に形成される。なお、直動ガイド42は歯車取付面4で非円形歯車1の移動方向を案内するためのもので、この非円形歯車1が取り付けられる歯車取付面4に設けられる。この場合、直動ガイド42は歯車取付面4に直線状に断面四角形の一連の凸状に形成される。
【0015】
このようにして非円形歯車1は歯車取付面4にシャフト41及び直動ガイド42を介して取り付けられ、歯車基体11周面の歯列部121又は122に駆動側の円形歯車40が噛み合わされて、この円形歯車40により駆動される。なお、この円形歯車40は図示されない動力源により回転駆動される。
【0016】
図2にこの非円形歯車1の動作を示している。
なお、この場合、非円形歯車1は、既述のとおり、歯車取付面4にシャフト41及び直動ガイド42を介して取り付けられて、シャフト41が非円形歯車1のシャフト挿通部13に挿通され、直動ガイド42の側面にガイド係合部14の側面が係合された状態(
図1(b)参照)になっている。この非円形歯車1に対して、駆動側の円形歯車40がシャフト41に近接する所定の位置に軸支されて並列に設置され、駆動側の円形歯車40の歯401が非円形歯車1の周面の歯12に噛み合わされる。この円形歯車40の回転により、非円形歯車1を駆動する。
【0017】
図2(1)はこの非円形歯車1の動作前の初期状態を示し、この場合、非円形歯車1のシャフト挿通部13の始端がシャフト41の位置にあり、円形歯車40の歯401が非円形歯車1の直線状の歯列部121の一端(始端)に噛合されている。この初期状態から、円形歯車40を正転方向(この場合、反時計回り)に回転駆動すると、円形歯車40の歯401が非円形歯車1の直線状の歯列部121の各歯12に順次噛み合わされて、非円形歯車1全体をこの非円形歯車1のガイド係合部14と直動ガイド42との係合案内により直線的に送り出す。この円形歯車40による非円形歯車1の送り動作により、
図2(1)、(2)に示すように、非円形歯車1は一方の円弧状の歯列部122を先頭にして直進する。
この直進を続け、
図2(3)に示すように、非円形歯車1のシャフト挿通部13の終端がシャフト41の位置まで移動すると、円形歯車40の歯401が非円形歯車1の直線状の歯列部121の他端(終端)に達し、この状態から引き続き、円形歯車40の歯401が直線状の歯列部121の他端からこれに連続する他方の円弧状の歯列部122の各歯12に順次噛み合わされていくと、非円形歯車1のシャフト挿通部13の終端とシャフト41との係合案内により、非円形歯車1全体を他方の円弧状の歯列部122の円弧形状の中心を回動中心として回転方向に送り出す。この円形歯車40による非円形歯車1の送り動作により、
図2(3)、(4)に示すように、非円形歯車1は全体が一方の円弧状の歯列部122を回動端として時計の針と同様に回動し、この場合、半円運動となる。非円形歯車1が回動開始地点から180度回動すると、この非円形歯車1は一方の円弧状の歯列部122と他方の円弧状の歯列部122が反転した状態で、初期状態と同様の状態となる。引き続き、円形歯車40を回転駆動すると、非円形歯車1は上記と同様の動作が繰り返される。また、反対に、円形歯車40を逆転方向に回転駆動すると、非円形歯車1の動作は上記とは反対の動作となる。さらに、円形歯車40を正逆反転方向に交互に切り替えて回転駆動すれば、非円形歯車1の動作は上記と同様の動作と上記とは反対の動作が往復して行われる。
【0018】
以上説明したように、この非円形歯車1では、非円形の歯車基体11からなり、歯車基体11の周面に形成され、複数の歯12が直線状に配置される直線状の歯列部121、121及びこれに連続して複数の歯12が円弧形状に配置される円弧状の歯列部122、122と、歯車基体11の両面111、112間に貫通して、円弧状の歯列部122、122の円弧形状の中心を終端又は始端として直線状の歯列部121と平行に形成され、歯車取付面4に固定されるシャフト41を通すためのシャフト挿通部13と、歯車基体11の一方の面111にシャフト挿通部13と平行に形成され、歯車取付面4に設けられる直動ガイド42に係合させるためのガイド係合部14とを備えているので、直線状の歯列部121と円形歯車40とを噛み合わせて駆動することにより、非円形歯車1の直線状の歯列部121と平行なシャフト挿通部13と歯車取付面4のシャフト41との係合により、非円形歯車1の直線的の動きを許容して、非円形歯車1のガイド係合部14と歯車取付面4の直動ガイド42との係合案内により、非円形歯車1全体を直動ガイド42に沿って直動させることができ、また、円弧状の歯列部122と円形歯車40とを噛み合わせて駆動することにより、シャフト挿通部13の終端又は始端と歯車取付面4のシャフト41との係合案内により、非円形歯車1全体を円弧状の歯列部122の円弧形状の中心を回動中心として回動させることができる。したがって、この非円形歯車1によれば、直線的な運動、回転方向の運動及びその組み合わせからなる複合的な運動を選択的に行うことができる。
【0019】
なお、この実施の形態では、複数の歯12が角丸長方形の歯車基体11の周面に全体に亘って形成され、歯車本体11の周面の各直線部113、113に複数の歯12が直線状に配置されて直線状の歯列部121、121が設けられ、これに連続する各円弧部114、114に複数の歯12が円弧形状に配置されて円弧状の歯列部122、122が設けられて、上記の非円形歯車1の動作を取るようにしたが、複数の歯12は歯車基体11の周面の一方又は両方の直線部113及び一方の円弧部114に略J字形又は略U字形に形成されるなど周面の一部に設けられて(この場合、シャフト挿通部13は一方の円弧状の歯列部122の円弧形状の中心を終端又は始端として直線状の歯列部121と平行に形成され)、上記の非円形歯車1の動作の一部を行うようにしてもよい。
また、この実施の形態では、歯車基体11をプラスチック材料で形成されているが、金属材料で形成されてもよい。また、この歯車基体11に歯列部121、122が一体に形成されているが、歯車基体11に対して歯列部121、122が別体に形成されて、歯車基体11の周面に後付けにより接合されてもよい。
さらに、この実施の形態では、ガイド係合部14を一連の凸状に形成したが、複数に分割されたものであってもよい。
【0020】
また、この実施の形態では、角丸長方形の歯車基体が用いられているが、角丸正方形、角丸三角形、角丸台形など種々の角丸多角形の歯車基体においても同様に適用可能である。
その一例として、
図3に第2の実施の形態を示し、
図4に第3の実施の形態を示している。
図3に示すように、第2の実施の形態の非円形歯車2では、角丸正方形の歯車基体21が採用され、第1の実施の形態と同様に、歯車基体21の周面に直線状の歯列部221及びこれに連続する円弧状の歯列部222が設けられ、シャフト挿通部23が歯車基体21の両面間に貫通して、相互に隣り合う円弧状の歯列部222のうち一方の円弧状の歯列部222の円弧形状の中心を始端とし、他方の円弧状の歯列部222の円弧形状の中心を終端として直線状の歯列部221と平行に、全体として歯車基体21の外形と略同じ角丸正方形に形成され、ガイド係合部が、この歯車基体21の一方の面にシャフト挿通部23の周縁部に沿って平行に一連の凸状に、全体として角丸正方形の枠状に形成される。
このようにしても第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
図4に示すように、第3の実施の形態の非円形歯車3では、角丸三角形の歯車基体31が採用され、第1の実施の形態と同様に、歯車基体31の周面に直線状の歯列部321及びこれに連続する円弧状の歯列部322が設けられ、シャフト挿通部33が歯車基体31の両面間に貫通して、相互に隣り合う円弧状の歯列部222のうち一方の円弧状の歯列部322の円弧形状の中心を始端とし、他方の円弧状の歯列部322の円弧形状の中心を終端として直線状の歯列部321と平行に、全体として歯車基体31の外形と略同じ角丸三角形に形成され、ガイド係合部が、この歯車基体31の一方の面にシャフト挿通部33の周縁部に沿って平行に一連の凸状に、全体として角丸三角形の枠状に形成される。
このようにしても第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、第2、第3の実施の形態のいずれの場合でも、歯車基体21、31周面の歯列部221、222、321、322、歯車基体21、31の材料、ガイド係合部24、34について、第1の実施の形態と同様の変更が可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 非円形歯車
11 歯車基体
111 面
112 面
113 直線部
114 円弧部
12 歯
121 直線状の歯列部
122 円弧状の歯列部
13 シャフト挿通部
14 ガイド係合部
2 非円形歯車
21 歯車基体
221 直線状の歯列部
222 円弧状の歯列部
23 シャフト挿通部
24 ガイド係合部
3 非円形歯車
31 歯車基体
321 直線状の歯列部
322 円弧状の歯列部
33 シャフト挿通部
34 ガイド係合部
4 歯車取付面
40 円形歯車
41 シャフト
42 直動ガイド