(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6023521
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】連続的な重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/01 20060101AFI20161027BHJP
C08F 10/10 20060101ALI20161027BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20161027BHJP
C08F 4/06 20060101ALI20161027BHJP
C08F 297/00 20060101ALI20161027BHJP
【FI】
C08F2/01
C08F10/10
C08F8/42
C08F4/06
C08F297/00
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-197567(P2012-197567)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-51619(P2014-51619A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 倶透
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 宣
(72)【発明者】
【氏名】山中 祥道
(72)【発明者】
【氏名】吉見 智之
(72)【発明者】
【氏名】野一色 公二
(72)【発明者】
【氏名】三輪 泰健
【審査官】
繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−180353(JP,A)
【文献】
特開2010−241908(JP,A)
【文献】
特開2001−055407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
B01J 19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤、重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、反応装置に連続的に供給することによって重合性単量体の重合を行なう重合体の製造方法において、反応装置が、表面に溝部が形成された反応液送液用プレートと、表面に溝部が形成された温調用媒体送液用プレートとを積層してなる構造を有する積層型反応器を含むことを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項2】
積層型反応器が、前記溶液(A)が導入される第1導入路と、前記溶液(B)が導入される第2導入路と、前記第1導入路の下流側と前記第2導入路の下流側に繋がり、前記第1導入路を通じて流れる前記溶液(A)と前記第2導入路を通じて流れる前記溶液(B)とを合流させるための合流路と、この合流路の下流側に繋がり、その合流路において合流された両溶液を流通させながら互いに反応させるための反応路とを有する流路を内部に持つ流路構造体を備え、前記流路構造体は、流路プレートと、その流路プレートの一方の面を覆った状態でその面に接合されている第1封止プレートと、前記流路プレートの他方の面を覆った状態でその面に接合されている第2封止プレートとを有し、前記流路プレートには、前記導入路を構成する導入溝が形成されているとともに、前記合流路を構成する合流溝が形成され、さらに、前記反応路を構成する反応溝が形成されている積層型反応器であることを特徴とする請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
積層型反応器における合流部の衝突角度が180°であることを特徴とする請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
反応装置が、積層型反応器の下流側に、さらに相当直径((断面積/浸辺長)×4)が1mm〜20mmの反応管が接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
重合性単量体がイソブチレンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項6】
溶液(A)に電子供与剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
電子供与剤が重合開始剤に対してモル比で0.2〜10倍量存在することを特徴とする請求項6に記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
ルイス酸触媒が重合開始剤に対してモル比で10〜300倍量存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項9】
重合開始剤が、(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、および1,3,5−トリス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項10】
反応装置を通過した反応液と、官能基導入物質とを連続的に第二の反応装置に供給し、重合体に官能基導入物質を反応させることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項11】
官能基導入物質がアリルトリメチルシランであることを特徴とする請求項10に記載の重合体の製造方法。
【請求項12】
重合開始剤、第一の重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、第一の反応装置に連続的に供給して第一の重合性単量体を重合させた後、第一の反応装置を通過した反応液(C)と、第二の重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(D)とを連続的に第二の反応装置に連続的に供給して第二の重合性単量体をブロック共重合させることを特徴とするブロック共重合体の製造方法において、第一の反応装置および/または第二の反応装置が、表面に溝部が形成された反応液送液用プレートと、表面に溝部が形成された温調用媒体送液用プレートとを積層してなる構造を有する積層型反応器を含むことを特徴とするブロック共重合体の製造方法。
【請求項13】
積層型反応器が、前記溶液(A)または前記反応液(C)が導入される第1導入路と、前記溶液(B)または前記溶液(D)が導入される第2導入路と、前記第1導入路の下流側と前記第2導入路の下流側に繋がり、前記第1導入路を通じて流れる前記溶液(A)または前記反応液(C)と、前記第2導入路を通じて流れる前記溶液(B)または前記溶液(D)とを合流させるための合流路と、この合流路の下流側に繋がり、その合流路において合流された両液を流通させながら互いに反応させるための反応路とを有する流路を内部に持つ流路構造体を備え、前記流路構造体は、流路プレートと、その流路プレートの一方の面を覆った状態でその面に接合されている第1封止プレートと、前記流路プレートの他方の面を覆った状態でその面に接合されている第2封止プレートとを有し、前記流路プレートには、前記導入路を構成する導入溝が形成されているとともに、前記合流路を構成する合流溝が形成され、さらに、前記反応路を構成する反応溝が形成されている積層型反応器であることを特徴とする請求項12に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項14】
第一の反応装置および/または第二の反応装置が、積層型反応器の下流側に、さらに相当直径((断面積/浸辺長)×4)が1mm〜20mmの反応管が接続されていることを特徴とする請求項12および13に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項15】
第一の重合性単量体と第二の重合性単量体の一方が、主としてイソブチレンを含む単量体であり、他の一方が主として芳香族ビニル系単量体を含む単量体であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項16】
第二の反応装置を通過した反応液と、官能基導入物質とを連続的に第三の反応装置に供給して、ブロック共重合体に官能基導入物質を反応させることを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項17】
官能基導入物質がアリルトリメチルシランであることを特徴とする請求項16に記載のブロック共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リビングカチオン重合による重合体の連続的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リビング重合とは、狭義においては重合成長末端が常に活性を保ち続けて分子鎖が成長していく重合のことを言うが、一般には重合成長末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にありながら分子鎖が成長していく擬リビング重合も含まれる。このようなリビング重合では、重合反応が同時に開始すれば分散度の小さい重合体が得られ、また、特定の官能基を重合体の活性末端に導入することや、2種以上のモノマーを用いることにより共重合体を合成することができる。
【0003】
工業的に実施されるリビング重合として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載のイソブチレンのリビングカチオン重合が挙げられる。リビングカチオン重合により得られるイソブチレン系重合体は、末端に官能基を導入するなどの構造制御が可能となるため産業的に有用である。また、イソブチレンと高Tg(ガラス転移点)の重合性単量体成分とを共重合したイソブチレン系ブロック共重合体は熱可塑性エラストマーとなり、これも産業的に有用である。
【0004】
特許文献1や特許文献2に記載されているように、リビングカチオン重合反応の操作形式は、撹拌槽型重合器を用い、反応原料を重合器に仕込んで回分式で行なわれる報告例が大多数を占める。しかしながら工業的な大量生産を踏まえると回分式には後述するような問題が多く存在する。
【0005】
回分式の重合方法では、生産性を向上させるためには重合器の大型化が必要となる。大型化すると、内部蛇管冷却方式、外部熱交換器循環方式、リフラックスコンデンサー方式などにより除熱面積を増大させる工夫が必要となり、この場合には、除熱設備の大型化、複雑化により設備コストが高騰してしまう。設備コストを抑えようとすると内温制御が困難になり、副反応が増加してリビング重合の特徴である分散度の小さい重合体が得られにくくなるといった問題が生じる。除熱設備の問題を回避するためにモノマーの逐次追加など半回分方式による重合方法も用いられることがあるが、初期モノマー濃度が回分式と比べると希薄なため副反応が生じやすい、生産性が悪いといった問題がある。
【0006】
一方、生産性の向上を目指して、原料を連続的に重合器に供給する連続式の重合方法についても検討がなされている。例えば、特許文献3は重合開始剤およびルイス酸触媒およびイソブチレンを1基の撹拌槽型重合器に連続的に供給することによりリビングカチオン重合を行なう方法を試みている。また、特許文献4ではシェルアンドチューブ型熱交換器を用いてイソブチレンの連続式のリビングカチオン重合を行なった後に、引き続き管型反応器内で重合体末端にビニル基を導入する方法を提案している。特許文献5、6、7ではイソブチレンのリビングカチオン重合を行うにあたり、連続的に流通式撹拌槽型重合器に原料を供給して重合を開始させ、引き続き、流通管型重合器に連続的に供給してリビングカチオン重合を進行させている。特許文献8では、原料を2流路から供給してスタティックミキサー(多数のミキシングエレメントからなる静止型混合器を1個以上組み込んだ管型混合器)と管型重合器とを直列に流通させてイソブチレンのリビングカチオン重合をおこなっている。また、特許文献9では原料を連続的に合流させて反応を開始させ引き続き細い流路に反応液を流通させることにより種々のリビングカチオン重合を行えると記載されている。
【0007】
しかしながら、連続式の重合を行なう際にもいくつかの問題が残されている。特許文献3では1基の撹拌槽型重合器で連続式の重合を行なった結果、得られた重合体の分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.4〜1.8となり、回分式の重合における分散度よりも大きくなっている。このような傾向は、1基の撹拌槽で連続式の重合を行なうと、反応液の滞留時間が広い分布を持つ(すなわち槽内での滞留時間が重合体の分子ごとに異なる)ので、リビング重合によって成長する分子の長さも揃わなくなることが影響していると考えられる。また、連続式の重合においては副反応が問題になる場合もあり、滞留時間分布を狭くするのみでは分散度が充分に小さくならない。特許文献4では、管型重合器を用いているので反応液の滞留時間の分布がきわめて狭いと考えられるにも関わらず、得られた重合体の分散度が3.1と大きい。特許文献5、6、7では、撹拌槽型重合器を1基通過後に管型重合器を通すことで分散度が1.2〜1.3と分散度の点では改善されているが、撹拌槽を用いているため、生産性を向上するためスケールアップすれば槽内混合条件の複雑化、副反応制御、除熱効率の観点で課題が残る。特許文献8においては、大規模な生産をするにはスタティックミキサーが大量に必要となるといった問題が残る。さらに、管型反応器を用いる場合、直管では装置長さの確保が難しく、螺旋型等の加工を加えた場合では冷媒を流すジャケット部の体積が膨大になる問題がある。また、特許文献9においては分子量が数千程度の重合体しか得られておらず、重合による粘度の上昇に伴う閉塞等の課題があると推測される。分子量が5000〜300000程度の重合体が工業的には有用であると考えられるので、大きな分子量の重合体が得られないのは問題である。
【0008】
除熱効率に優れたマイクロリアクターを重合反応に用いた事例が知られている。
特許文献10〜12では1mm以下の流路を用いており、流路の閉塞や、重合体が高分子量化するにつれて増加する圧力損失の著しい増加が懸念される。実施例においても10000〜20000程度の分子量の重合体についてしか記載がない。また、特許文献13ではラジカル重合体の製造に微小流路を持つ構造体を用いていて流通式で反応を実施しているが、滞留時間が長く、生産性や装置サイズの面で実用的とは言えない。また、特許文献14では分解可能な積層型のマイクロリアクターが示されているが、繰り返し使用によるプレートの反り等に起因した漏れの発生が懸念され、また、この漏れが検知しにくいという問題点がある。
【0009】
以上のように、攪拌槽型重合槽を用いる場合は滞留時間分布の広がりやスケールアップに懸念があり、管型重合器を用いる場合には、反応器サイズが実生産に適さない懸念がある。様々な重合反応のなかでもイソブチレン系重合体のリビングカチオン重合は触媒や添加剤についても特有の工夫を施して開始反応を制御していたり、低温でなければ重合活性が低下したり副反応を併発するので重合反応熱の除熱が重要となるなど、連続式の重合を適用するのが比較的困難であったと推察される。
【0010】
以上のように、リビング重合を連続的に行なう場合、滞留時間分布の広がりや副反応により、得られる重合体の分散度が大きくなるという問題がある。分散度が大きくなると重合体の粘度が増大することから、重合体の用途によっては大きな問題となり、その用途開発に支障が生じることになる。なかでも副反応の問題は重合体の分散度が大きくなるだけではなく、重合体の成長末端が制御されないことから、重合体末端への官能基の導入や、ブロック体の合成が本来の設計通りにならないという問題がある。これらはリビング重合体の連続式の重合方法において特に重要な問題である。
【0011】
以上のように、ラボスケールでのマイクロリアクターを用いた重合の従来技術は、工業生産に必要なポンプ等の付帯設備の能力やメンテナンスの容易さ、長期運転の可否、生産性を考慮した時に問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−292038号公報
【特許文献2】特開平8−53514号公報
【特許文献3】米国特許第4568732号公報
【特許文献4】特開平6−298843号公報
【特許文献5】特開2001−55407号公報
【特許文献6】特開2001−55408号公報
【特許文献7】特開2001−55415号公報
【特許文献8】特開2010−241908号公報
【特許文献9】特開2008−001771号公報
【特許文献10】特開2005−272804号公報
【特許文献11】特開2010−180353号公報
【特許文献12】特開2009−067999号公報
【特許文献13】特開2010−248498号公報
【特許文献14】特開2011−104554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記現状に鑑み、分散度が小さいリビング重合体を連続的に得ることができる製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明の目的は、重合器の内温を効果的に制御できるコンパクトな設備により実施可能な、リビング重合体の連続式の製造方法を提供することでもある。更に本発明の目的は、末端への官能基の導入や、ブロック共重合体の合成が本来の設計通りであるリビング重合体を得ることができる連続式の製造方法を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、重合開始剤、重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、反応装置に連続的に供給することによって重合性単量体の重合を行なう重合体の製造方法において、反応装置が、表面に溝部が形成されたプレートを積層してなる構造を有する積層型反応器を含むことを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0015】
好ましくは、積層型反応器が、前記溶液(A)が導入される第1導入路と、前記溶液(B)が導入される第2導入路と、前記第1導入路の下流側と前記第2導入路の下流側に繋がり、前記第1導入路を通じて流れる前記溶液(A)と前記第2導入路を通じて流れる前記溶液(B)とを合流前に目的の温度へ予熱や冷却するとともに伝熱部を有し合流させるための合流路と、この合流路の下流側に繋がり、その合流路において合流された両溶液を流通させながら互いに反応させるための反応路とを有する流路を内部に持つ流路構造体を備え、前記流路構造体は、流路プレートと、その流路プレートの一方の面を覆った状態でその面に接合されている第1封止プレートと、前記流路プレートの他方の面を覆った状態でその面に接合されている第2封止プレートとを有し、前記流路プレートには、前記導入路を構成する導入溝が形成されているとともに、前記合流路を構成する合流溝が形成され、さらに、前記反応路を構成する反応溝が形成されている積層型反応器である重合体の製造方法に関する。
【0016】
好ましくは、積層型反応器における合流部の衝突角度が180°であることを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0017】
好ましくは、反応装置が、積層型反応器の下流側に、さらに相当直径((断面積/浸辺長)×4)が1mm〜20mmの反応管が接続されていることを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0018】
好ましくは、重合性単量体がイソブチレンであることを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0019】
好ましくは、溶液(A)に電子供与剤を含有することを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0020】
好ましくは、電子供与剤が重合開始剤に対してモル比で0.2〜10倍量存在することを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0021】
好ましくは、ルイス酸触媒が重合開始剤に対してモル比で10〜300倍量存在することを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0022】
好ましくは、重合開始剤が、(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、および1,3,5−トリス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0023】
好ましくは、反応装置を通過した反応液と、官能基導入物質とを連続的に第二の反応装置に供給し、重合体に官能基導入物質を反応させることを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0024】
好ましくは、官能基導入物質がアリルトリメチルシランであることを特徴とする重合体の製造方法に関する。
【0025】
また、重合開始剤、第一の重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、第一の反応装置に連続的に供給して第一の重合性単量体を重合させた後、第一の反応装置を通過した反応液(C)と、第二の重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(D)とを連続的に第二の反応装置に連続的に供給して第二の重合性単量体をブロック共重合させることを特徴とするブロック共重合体の製造方法において、第一の反応装置および/または第二の反応装置が、表面に溝部が形成されたプレートを積層してなる構造を有する積層型反応器を含むことを特徴とするブロック共重合体の製造方法に関する。
【0026】
好ましくは、積層型反応器が、前記溶液(A)または前記反応液(C)が導入される第1導入路と、前記溶液(B)または前記溶液(D)が導入される第2導入路と、前記第1導入路の下流側と前記第2導入路の下流側に繋がり、前記第1導入路を通じて流れる前記溶液(A)または前記反応液(C)と、前記第2導入路を通じて流れる前記溶液(B)または前記溶液(D)とを合流させるための合流路と、この合流路の下流側に繋がり、その合流路において合流された両液を流通させながら互いに反応させるための反応路とを有する流路を内部に持つ流路構造体を備え、前記流路構造体は、流路プレートと、その流路プレートの一方の面を覆った状態でその面に接合されている第1封止プレートと、前記流路プレートの他方の面を覆った状態でその面に接合されている第2封止プレートとを有し、前記流路プレートには、前記導入路を構成する導入溝が形成されているとともに、前記合流路を構成する合流溝が形成され、さらに、前記反応路を構成する反応溝が形成されている積層型反応器であることを特徴とするブロック共重合体の製造方法に関する。
【0027】
好ましくは、第一の反応装置および/または第二の反応装置が、積層型反応器の下流側に、さらに相当直径((断面積/浸辺長)×4)が1mm〜20mmの反応管が接続されていることを特徴とするブロック共重合体の製造方法に関する。
【0028】
好ましくは、第一の重合性単量体と第二の重合性単量体の一方が、主としてイソブチレンを含む単量体であり、他の一方が主として芳香族ビニル系単量体を含む単量体であることを特徴とするブロック共重合体の製造方法に関する。
【0029】
好ましくは、第二の反応装置を通過した反応液と、官能基導入物質とを連続的に第三の反応装置に供給して、ブロック共重合体に官能基導入物質を反応させることを特徴とするブロック共重合体の製造方法に関する。
【0030】
好ましくは、官能基導入物質がアリルトリメチルシランであることを特徴とするブロック共重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の連続製造方法によって、滞留時間を一定とする(滞留時間分布を狭くする)ことができ、かつ、副反応を制御することができるため、得られるイソブチレン系重合体の分散度が小さく、反応器の省スペース性に優れている点で有効である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に使用される重合体の連続製造装置の一例を示す概略図
【
図2】本発明に使用されるブロック共重合体もしくは官能基を導入した重合体の連続製造装置の一例を示す概略図
【
図3】本発明に使用される積層型反応器の積層構造の一例を示す図
【
図4】本発明に使用される積層型反応器における流路の一例を示す図
【
図5】比較例であるコイル状の反応管においてナンバリングアップした際の装置形状の一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、重合開始剤、重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、反応装置に連続的に供給することによって重合性単量体の重合を行なう重合体の製造方法において、反応装置が、表面に溝部が形成されたプレートを積層してなる構造を有する積層型反応器を含むことを特徴とする重合体の製造方法、並びに、重合開始剤、第一の重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、第一の反応装置に連続的に供給して第一の重合性単量体を重合させた後、第一の反応装置を通過した反応液(C)と、第二の重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(D)とを連続的に第二の反応装置に連続的に供給して第二の重合性単量体をブロック共重合させることを特徴とするブロック共重合体の製造方法において、第一の反応装置および/または第二の反応装置が、表面に溝部が形成されたプレートを積層してなる構造を有する積層型反応器を含むことを特徴とするブロック共重合体の製造方法である。
【0034】
(反応装置)
本発明で使用する反応装置は、表面に溝部が形成されたプレートを積層してなる構造を有する積層型反応器を含む。
【0035】
図1に本発明で使用する反応装置の一例を示す。
図1(a)では、第一の重合性単量体用耐圧タンク1中の溶液(A)と、触媒用耐圧タンク2中の溶液(B)を連続的に積層型反応器4に供給し、その内部で両溶液を合流、反応させることで、第一の重合性単量体の重合を連続的に行う。
図1(b)では、
図1(a)の積層型反応器4の下流側に管型反応器5を接続しており、管型反応器5内で第一の重合性単量体の重合を引き続き行うように構成している。
【0036】
図2にブロック共重合体を重合するために使用する反応装置の1例を示す。
図2(a)は、積層型反応器4までは
図1(a)と同様であり、積層型反応器4を通過した第一の反応液(C)と第二の重合性単量体用耐圧タンク6中の溶液(D)をそれぞれ第二の積層型反応器7に連続的に供給し、その内部で両液を合流、反応させることで、重合体に第二の重合性単量体を連続的にブロック共重合させ、ブロック共重合体を得る。
図2(b)では、
図2(a)の第二の積層型反応器7の下流側に第二の管型反応器8を接続しており、第二の管型反応器8内で第二の重合性単量体の重合を引き続き行うように構成している。
【0037】
積層型反応器は、たとえば、
図3に示すように流路プレートと封止プレートを重ね合わせて接着することで積層した構造体である。流路プレートの片面又は両面にエッチング等の処理を施すことにより任意の形状の溝を作製する。この溝を有した面に平滑な封止プレートを重ね合わせて接着し、流路プレートと封止プレートのいずれかに流体の出入り口となるポートを設けることで構造体の内部に流路を形成することができる。流体の出入り口となるポートは用途に合わせて任意の数を設けることができる。流路プレートと封止プレートを多重に積層することで、積層型反応器を得ることができる。流路プレートの溝の無い面が平滑であれば、流路プレートを連続して積層することができる。さらに温調用流体を流通させる流路プレートを順序よく積層させることにより、積層型反応器の内部で熱交換を行うことも可能である。積層型反応器を直接温調用媒体と接触させることによる熱交換も可能である。
【0038】
積層型反応器としては、
図4(a)に示すような前記溶液(A)が導入される第1導入路と、前記溶液(B)が導入される第2導入路と、前記第1導入路の下流側と前記第2導入路の下流側に繋がり、前記第1導入路を通じて流れる前記溶液(A)と、前記第2導入路を通じて流れる前記溶液(B)とを合流前に目的の温度へ予熱や冷却するとともに合流させるための合流路と、この合流路の下流側に繋がり、その合流路において合流された両溶液を流通させながら互いに反応させるための反応路とを有する流路を内部に持つ流路構造体を備え、前記流路構造体は、流路プレートと、その流路プレートの一方の面を覆った状態でその面に接合されている第1封止プレートと、前記流路プレートの他方の面を覆った状態でその面に接合されている第2封止プレートとを有し、前記流路プレートには、前記導入路を構成する導入溝が形成されているとともに、前記合流路を構成する合流溝が形成され、さらに、前記反応路を構成する反応溝が形成されている積層型反応器を用いることが好ましい。また、
図4(a)において合流部は両流体の混合を促進するため垂直に衝突するように衝突角度180°、T字で混合しているが、合流部において混合を促進することでエマルション化などの問題がある場合は、衝突角度を90°以下などにしてY字のような混合も可能である。
【0039】
また、
図4(b)に示すような1つの積層型反応器で複数の反応を実施するような積層型反応器を用いることもできる。
図4(b)の積層型反応器は、
図4(a)の構成に加えて、さらに、溶液(D)が導入される第3導入路を有し、前記反応路を通じて流れる反応液(C)と、前記第3導入路を通じて流れる前記溶液(D)とを合流させるための合流路を有する流路を内部に持つ流路構造体を備えている。
【0040】
流路プレートには両面に溝を施し、両面で送液を実施することも可能である。さらに、流路プレートの両面に溝を作成し、表裏に溝のある箇所の一部を貫通させることで、分岐部や合流部を設けることも可能である。また、上記の流路プレートを多重に積層することが可能であり、管型反応器に比べ、空間を柔軟に活用することができ、特に実生産を行うような大規模スケールにおいて優位である。また、積層されるプレートは互いに接合されるため、プレート間からの漏れは発生せず、長期の利用に適している。
【0041】
本発明の反応装置は、積層型反応器の下流側にさらに相当直径((断面積/浸辺長)×4)が1mm〜20mmの反応管がさらに接続されていても良い。
【0042】
反応管としては、金属や樹脂製の管が代表的であるが、材質や断面形状は特に限定されない。
【0043】
重合体は工業的には分子量が数千〜数万程度の重合体が有用であるが、このような分子量の重合体を含む反応液は粘度が高い。したがい、反応部を流通させる際に反応部の相当直径が1mm未満であると、送液できるポンプが特殊である等の制約が生じたり、高粘性のために反応部の閉塞が生じたりするなどの問題が生じるため、低分子量体の重合しかできない。よって、反応部の相当直径を1mm以上とすることにより、分子量が数千〜数万程度の重合体を得ることが可能となる。ただし、このときの反応熱は、例えば100,000J/m
3/s以上と大きく、反応部の内径が大きくなると反応部の体積あたりの伝熱面積が小さくなり除熱性能が低下するため、反応部の相当直径Dが1mm〜20mmであることがより好ましい。D(mm)を小さくしすぎると閉塞の問題や特殊な送液ポンプが必要である等の制約が生じる。
【0044】
ブロック共重合体を得る場合、第二の重合性単量体を混合する際には第一の重合性単量体が実質的に消費されているのが好ましい。第二の反応部の相当直径は1mm以上とすることが好ましく、除熱性能の観点から20mm以下とすることが好ましい。
【0045】
第一の反応部の長さと相当直径の比(長さ/内径)、および第二の反応部の長さと内径の比が10以上であることが好ましい。比が小さすぎると除熱に必要な伝熱面積が不足する恐れがある。また、反応液の滞留時間が不十分となり重合が不完全となる可能性がある。
【0046】
混合部および反応部の除熱構造については、必要とされる除熱性能が発揮されるならば特に限定されるものではなく、混合部および反応部を冷却バスに直接浸漬してもよいし、混合部および反応部にジャケット構造を設け、ジャケットの中に冷媒を通すことにより熱交換しても良いし、反応流路と温調流路を積層することで熱交換をしても良い。
【0047】
得られた反応液は水やアルコール類などで含有される触媒を失活させた後、例えば、二相を分離し、必要により有機相を水で洗浄し、有機溶媒を留去することで重合体を得ることができる。
【0048】
(適用できる反応系)
本発明の製造方法はリビング重合反応に適しており、さらにリビングカチオン重合に有効である。以下、リビングカチオン重合についてその詳細を述べる。リビングカチオン重合としては、例えばJ.P.Kennedyらの著書(Carbocationic Polymerization, John Wiley & Sons, 1982)やK.Matyjaszewski らの著書(Cationic Polymerizations, Marcel Dekker, 1996)に記載されている合成などが適用され得る。
【0049】
本発明のリビングカチオン重合は、重合開始剤、重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、反応装置に連続的に供給することによって行なう。
【0050】
(重合開始剤)
リビングカチオン重合の開始反応を効率的に行う方法として、3級炭素に結合した塩素原子を有する化合物やα位に芳香環を有する塩素化合物などの化合物を重合開始剤として用いるイニファー法が開発されており(米国特許4276394号)、この方法を本発明に適用することができる。イニファー法に用いる重合開始剤としてはその機能を発揮するものであれば良く、代表例としては下記の構造を有するものを示すことができる。
【0051】
(X−CR
1R
2)
nR
3
(式中、Xはハロゲン原子を表す。R
1およびR
2は、同一または異なって、炭素数1〜20の1価の炭化水素基を表す。R
3は、炭素数1〜20のn価の炭化水素基を表す。nは1〜4の整数である。)
重合開始剤としては、(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン(以下p−DCC)、および1,3,5−トリス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン(以下TCC)が好ましい。これらを単独あるいは混合物として使用することができる。このように芳香環を含んだ開始剤はより好ましい。p−DCCのように二官能開始剤は二官能重合体を必要とするときに選定する事が出来る。その他に一官能、TCCなどの三官能、多官能の開始剤を必要に応じて用いる事が出来る。重合開始剤とモノマーとの仕込み比に応じて、重合体の分子量を自由に設定することができる。
【0052】
(ルイス酸触媒)
リビングカチオン重合に用いる触媒はルイス酸触媒であり、その具体例としては、TiCl
4、AlCl
4、BCl
3、ZnCl
2、SnCl
4、エチルアルミニウムジクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、SnBr
4などが挙げられる。ルイス酸触媒の使用量は、第一の反応部において重合開始剤に対してモル比で10〜300倍量とすることが好ましい。ルイス酸触媒の量が少なすぎると重合反応速度が著しく抑制され、カチオン重合反応に長時間を要することとなり生産性が低下する。逆にルイス酸触媒が多すぎると副反応が多くなる傾向があり、プロトン開始反応や連鎖移動反応が起こることによって分散度が大きくなる。
【0053】
(電子供与剤)
前述したイニファー法を用いる際、連鎖移動反応やプロトン開始反応などの副反応を抑制して良好な重合体を得るためには、電子供与剤を用いることが好ましい(特開平2−245004号公報、特開平1−318014号公報、特開平3−174403号公報)。電子供与剤としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または、金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。具体的には、ピリジン、2−メチルピリジン(ピコリンまたはα−ピコリンと略記)、トリメチルアミン、ジメチルアセトアミド(DMAcと略記)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸エチル(EtOAc)、Ti(OiPr)
4などが好適に使用される。
【0054】
電子供与剤は、第一の反応部において重合開始剤に対してモル比で0.2〜10倍量存在させるのが好ましい。電子供与剤の量が少なすぎると副反応が多くなる傾向があり、プロトン開始反応や連鎖移動反応が起こることによって分散度が大きくなる。逆に電子供与剤が多すぎると重合反応速度が著しく抑制され、カチオン重合反応に長時間を要することとなり生産性が低下する。本発明では、重合開始剤、第一の重合性単量体、および重合溶媒を含む溶液(A)と、ルイス酸触媒、および重合溶媒を含む溶液(B)とを、連続的に第一の混合部に供給し、引き続き第一の混合部に接続した第一の反応部に供給することにより重合性単量体の重合を行なうことを特徴とするが、触媒と電子供与剤とをあらかじめ混合すると析出する可能性があるため、電子供与剤は溶液(A)に含有されることが好ましい。
【0055】
(重合性単量体)
本発明で用いる重合性単量体成分は、重合開始剤とルイス酸触媒を用いることにより重合体を得ることのできるものであればいずれでも構わないが、主としてイソブチレンであることが好ましく、イソブチレンであることがより好ましい。主としてとは、イソブチレンを30%以上含んでいるものであり、好ましくは50%以上含んでいるものである。
【0056】
ブロック共重合体を得る場合、第一の重合性単量体成分または第二の重合性単量体成分の少なくとも一方が主としてイソブチレンを含む単量体であることが好ましい。なお、第一の重合性単量体と第二の重合性単量体の両方が、主としてイソブチレンを含む単量体である場合、第二の重合性単量体成分は、第一の重合性単量体成分とは異なる化合物および/または組成を有するものである。
【0057】
第一の重合性単量体成分および第二の重合性単量体成分のイソブチレン以外の単量体としては、以下に述べる各種重合系で適用しうる重合性単量体を特に制限無く使用することができる。
【0058】
カチオン重合に用いられる重合性単量体としては、炭素数3〜12のオレフィン系単量体、共役ジエン系単量体、ビニルエーテル系単量体、芳香族ビニル系単量体などが挙げられる。これらの中で、炭素数3〜12のオレフィン類および共役ジエン類が好ましい。具体例としては、例えば、イソブチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−2−ブテン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ヘキセン、5−エチリデンノルボルネン、ビニルシクロヘキサン等のオレフィン系単量体、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン等の共役ジエン系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等の芳香族ビニル系単量体、β−ピネン、インデン等が挙げられる。これらの中で、イソブチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、インデン、イソプレン、シクロペンタジエンなどが好適である。
【0059】
ブロック共重合体としては、第一の重合性単量体、第二の重合性単量体の少なくとも一方が主としてイソブチレンを含む単量体成分であり、他の一方が主として芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分であることが好ましい。主として芳香族ビニル系単量体を含む単量体成分とは、芳香族ビニル系単量体を30%以上含んでいるものであり、好ましくは50%以上含んでいるものである。
【0060】
(重合溶媒)
本発明の方法では、重合溶媒を用いてもよく、ハロゲン化炭化水素、脂肪族炭化水素、および芳香族炭化水素からなる群から選ばれる単独溶媒またはそれらの混合溶媒を用いることができる(特開平8−53514)。ハロゲン化炭化水素としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、1−クロロプロパン、1−クロロ−2−メチルプロパン、1−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルブタン、1−クロロ−3−メチルブタン、1−クロロ−2,2−ジメチルブタン、1−クロロ−3,3−ジメチルブタン、1−クロロ−2,3−ジメチルブタン、1−クロロペンタン、1−クロロ−2−メチルペンタン、1−クロロ−3−メチルペンタン、1−クロロ−4−メチルペンタン、1−クロロヘキサン、1−クロロ−2−メチルヘキサン、1−クロロ−3−メチルヘキサン、1−クロロ−4−メチルヘキサン、1−クロロ−5−メチルヘキサン、1−クロロヘプタン、1−クロロオクタン、2−クロロプロパン、2−クロロブタン、2−クロロペンタン、2−クロロヘキサン、2−クロロヘプタン、2−クロロオクタン、クロロベンゼン等が使用でき、これらの中から選ばれる溶剤は単独であっても、二種以上の成分からなるものであっても良い。
【0061】
脂肪族炭化水素としては、ブタン、ペンタン、ネオペンタン、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが好ましく、これらの中から選ばれる溶剤は単独であっても、二種以上の成分からなるものであっても良い。また、芳香族炭化水素としてはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましく、これらの中から選ばれる溶剤は単独であっても、二種以上の成分からなるものであっても良い。
【0062】
とりわけハロゲン化炭化水素と脂肪族炭化水素の混合溶媒、ハロゲン化炭化水素と芳香族炭化水素の混合溶媒は、反応制御および溶解度の観点からより好適に使用される。その中でも、炭素数3〜8の1級および/または2級のモノハロゲン化炭化水素と、脂肪族および/または芳香族系炭化水素を組み合わせた混合溶媒であることが好ましい。さらにn−ブチルクロライドとn−ヘキサンの混合溶媒であることが好ましい。
【0063】
(反応温度)
反応温度は−100〜0℃の範囲とすることができる。比較的高い温度条件では反応速度が遅く、連鎖移動反応などの副反応が起こるので、−10℃よりも低い温度を選定することが好ましい。しかし反応温度が−100℃より低いと反応に関与する物質(原料又は重合体)が析出する場合があり、また工業的に実施するには経済的でない。したがって、より好ましい反応温度は−80〜−10℃である。
【0064】
(重合体の分子量)
本発明の方法により製造される重合体の数平均分子量は特に限定されるものではないが、イソブチレン系重合体、イソブチレン系ブロック共重合体の場合には、分子量が短すぎるとゴム弾性や熱可塑性などの特性が発揮されないため、工業的に有益な材料との観点では通常5000〜500000、より好ましくは10000〜300000である。
【0065】
(官能基の導入)
本発明の製造方法では、第一の反応装置を通過した反応液と官能基導入物質とを連続的に第二の反応装置(上述した積層型反応器を含んでも含まなくてもよい)に供給し、重合体に官能基導入物質を反応させることによって官能基を有する重合体を得てもよく、ブロック共重合体の場合には、第ニの反応装置を通過した反応液と官能基導入物質とを連続的に第三の反応装置(上述した積層型反応器を含んでも含まなくてもよい)に供給し、ブロック共重合体に官能基導入物質を反応させることによって官能基を有するブロック共重合体を得てもよい。
【0066】
ここでいう官能基導入物質とは得られた重合末端に官能基を導入するためのものであり、反応性および得られる重合体の有用性の観点からアリルトリメチルシランを用いるのが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
本実施例に示す重合体は以下に示す方法で分析した。
【0069】
(ピーク分子量及び分散度の分析)
Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)。分子量はポリスチレン換算で表記した。
【0070】
(末端オレフィン率の分析)
末端オレフィン率は1H−NMR(400MHz)により末端オレフィンに帰属するプロトンの共鳴信号を測定比較することにより求めた。
【0071】
(実施例1)
容積3Lの耐圧タンクを2槽用意し、耐圧タンク2槽ならびに積層型反応器を窒素置換した後、一方のタンクには、重合溶媒(n−ブチルクロライド、n−ヘキサンを体積比にして9:1で混合)を1080ml、重合開始剤としてp−DCCを1.92g、電子供与体として2−メチルピリジンを反応部での重合開始剤に対するモル比が6となるように投入し、第一の重合性単量体としてイソブチレンを470ml投入した。もう一方の耐圧タンクには、重合溶媒(n−ブチルクロライド、n−ヘキサンを体積比にして9:1で混合)を1400ml、触媒としてTiCl
4を混合後の重合開始剤に対するモル比が200となるように投入した。耐圧タンク2槽ならびに積層型反応器を−50℃の冷却浴に浸すことで冷却を行った。
【0072】
反応器は神戸製鋼所社製の積層型反応器を用いた。合流部においては、衝突角度180°とし混合を促進するとともに、合流部から出口までの流路長を3m、流路断面は半径1.2mmの半円形、流路間隔は0.6mmとした。流路の溝のある厚さ1.5mmのSUSプレートの上下面に厚さ1cmのSUS板を接合してある。
【0073】
合流後の反応液流量を30mL/minとなるように制御し、重合を実施した。重合器の出口より採取した反応液中の触媒を失活して水洗除去した後に溶媒を除去して重合体を得た。
【0074】
得られた重合体のピーク分子量(Mp)、分散度(Mw/Mn)をGPC法により測定した。また、得られた重合体の末端オレフィン率をNMRにて測定した。末端オレフィン化は副反応により生じているため、完全なリビング重合であれば0であり、副反応が多ければこの値が大きくなる。表1に結果を示す。
【0075】
(実施例2)
実施例1のうち、流量を36mL/minとした以外は同じとした。表1に結果を示す。
【0076】
(実施例3)
実施例1のうち、流量を60mL/minとした以外は同じとした。表1に結果を示す。
【0077】
(実施例4)
タンク内の原料は実施例1と同様に調製した。反応器は以下の条件で積層型反応器と管型反応器を連結して用いた。積層型反応器は神戸製鋼所社製の積層型反応器を用いた。合流部においては、衝突角度180°とし混合を促進するとともに、合流部から出口までの流路長を1.5m、流路断面は直径2mmの半円形とした。流路の溝のあるSUSプレートの上下面に厚さ1cmのSUS板を接合してある。続いて、内径3mm、肉厚0.5mmで3mの長さを有したSUS製の反応管を接続した。合流後の反応液流量を15mL/minとなるように制御し、重合を実施した。表1に結果を示す。
【0078】
(実施例5)
実施例4のうち、流量を30mL/minとした以外は同じとした。表1に結果を示す。
【0079】
(比較例1)
2Lセパラブルフラスコの内部を窒素置換した後、重合溶媒(n−ブチルクロライド、n−ヘキサンを体積比にして9:1で混合)491mlを加えた。アルコール溶液をドライアイスにて冷却した冷媒浴槽中にセパラブルフラスコを設置し、−50℃になるまで冷却した。冷却後、重合開始剤としてp−DCCを0.49g、電子供与体として2−メチルピリジンを重合開始剤に対するモル比が1となるように投入し、重合性単量体としてイソブチレンを140ml加えた。最後に、触媒としてTiCl
4を重合開始剤に対するモル比が20となりように添加することによって重合反応を開始した。重合反応は回分式にて行い、重合反応中の撹拌回転数は500rpmとした。表1に結果を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
上記実施例および比較例より明らかなように、従来の回分式では分散度が1.5以上と大きいのに対し、本発明の連続的な製造方法では分散度が1.35未満と小さく制御できる点で優れている。また、実施例および比較例1より明らかなように、本発明の連続的な製造方法では副反応のオレフィン化を大幅に抑制できる点で優れている。
【0082】
(実施例1−2)
流路プレート10枚を積層した場合には10本の流路を有する積層型反応器を得ることができる。実施例1について、反応液の送液用の流路を持つ厚さ1.5mmの流路プレート(1)と温調用媒体の送液用の流路を持つ厚さ1.5mmの流路プレート(2)を交互に合計10層を積層することを考えた場合の反応器体積、流路体積、流路体積あたりの反応器体積を表2に示す。
【0083】
(実施例1−3)
実施例1−2のうち、合計積層枚数を30枚とした。結果を表2に示す。
【0084】
(実施例1−4)
実施例1−2のうち、合計積層枚数を100枚とした。結果を表2に示す。
【0085】
(比較例2−1)
コイル状の反応管を用いた場合の装置サイズを以下のように想定した。反応管は実施例1で用いた積層型反応器の相当直径と同じになるよう内径1.4mmとし、肉厚を0.5mmとした。反応管内の流路体積が実施例1と同じになるように反応管長さを決めた。反応管の巻き径は50mmとし、管の先端は接続を想定して100mmを直管形状で取った。並列させる代表的な方法として、
図5に示すように反応管を円周上に配置する場合(a)と、横一列に配置する場合(b)が考えられる。円周上に配置する場合はコイルの数が増えるにつれて中央の空間が増大し、装置サイズが非常に大きくなってしまう。
図5の(b)に示すような直線的に配置するのが現実的であると言えるため、直線状での並列について計算した。コイル同士の間隔およびコイルと壁面の間隔は反応管径と同じとし、10本のコイル状の反応管をナンバリングアップした時の装置サイズを算出した。
【0086】
(比較例2−2)
比較例2−1のうち、反応管の巻き径を30mmとした。
【0087】
(比較例2−3)
比較例2−2のうち、反応管数を30本とした。
【0088】
(比較例2−4)
比較例2−2のうち、反応管数を100本とした。
【0089】
【表2】
【0090】
上記実施例および比較例より明らかなように、積層型反応器を用いた場合には、温調流路体積を含めた反応器全体積を反応流路体積で除した「流路体積あたりの反応器体積」はより小さく、多流路の設計をした時に装置サイズを小さく抑えることができ、装置サイズを大幅に削減することができる。反応に必要な分の滞留時間を流路体積で確保する必要があるが、コイル状の反応管を用いた場合には余分な空間が広いため、流路体積あたりの反応器体積は大きくなってしまう。この余分な空間を減らすスペーサーの導入も考えられるが、装置形状が非常に複雑化してしまう点で現実的とは言えず、積層型反応器の優位性は非常に高い。
【符号の説明】
【0091】
1.第一の重合性単量体用耐圧タンク
2.触媒用耐圧タンク
3.送液ポンプ
4.第一の積層型反応器
5.第一の管型反応器
6.第二の重合性単量体用耐圧タンク
7.第二の積層型反応器
8.第二の管型反応器